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第70話

忙しくて大変遅れましたが、毎日投稿再開します!(出来ると良いな!)

第70話 決戦前夜は早寝に限るぜ!


アリアドネ「……あなたを信用できる(ゴキブリ)だと判断して、私のことを話そうと思うわ」


刻蝋値「……わかった」


アリアドネ「私が白かったのは……生まれたときからだったわね。親の顔は知らない。私はおそらく、集団交尾で生まれたんだと思う、この星ではよくあることよ。そして良くも悪くも、この白さは多くのゴキブリを寄せ付けたわ。当時は小さく弱かったから、害を加えてくる連中を食い殺すことも出来なかったし……」


~回想~


アリアドネ「キャッ!」


背が低い金髪蓮眼の少女が殴り倒され、ガラの悪い男子生徒3人に囲まれている。


生徒1「へへ、白いくせに学校なんかに来るからこんな目に合うんだよ」


生徒2「その赤い目も不吉だ。闇市で犯罪者の目と交換してもらったらどうなんだ?」


生徒3「どうせ女は将来引きこもりの飯炊きになるんだ。明日から家で料理の練習でもしながら引きこもって、2度と学校に来るなよな!」


嘲笑してくるコイツらに対し、力のない私は何も出来なかった……でも、そんなときいつも


???「おい、」


声の方を振り返ると、髪を逆立てた男子生徒が、私を囲む奴等の1人を殴り飛ばしている姿が見えた。


生徒1「痛っ!? 何するんだお前!」


生徒2「どうして俺たちの邪魔をするんだ! セネピード!!」


セネピード「お前らが俺の気に食わねぇ行動を起こすからだよ。さっさと散れよ、アリアドネが困ってるだろ」


生徒3「……お前はこないだも俺達の実験を邪魔したな」


セネピード「食用アシダカグモの脚を千切ろうとする、いじめを止めることの何が悪い? 俺達が他者に苦痛を与えて良いのは、そいつを食べるときと、仲間を害されたときだけだ。今回は後者だ!」


生徒1「ハッ! お前だって、本当はそいつの体が目…がはぁ!?」


甲皮にヒビが入るほどの中段蹴りで一人をダウンさせる。1日休めば治るとはいえ、これはかなり痛い。


生徒2「やったな!?」


生徒3「殺してやる!」


セネピード「やってみろ! オラオラ!! っなんのっ!」


片方を連続突きで仕止め、その間殴ってきたもう片方も後ろ回し蹴りで倒した。


セネピード「さ、これで嫌な奴はしばらく起き上がれないよ。安心して授業が受けられる!」


アリアドネ「うんっ!」


いつも助けてくれる(ゴキブリ)がいた。彼は私を……いや、何もかもを差別していなかった風に思えるわ。本当の正義を求めているような、普通の(ゴキブリ)が一笑に伏すような思想を平気で述べ、そして実行していく……。その主義が本能からなのか知らないけど、ことなかれ主義の女子達と当然仲良く出来なかった私は、次第に彼と親密になっていったわ。


アリアドネ「セネピード、どうして私達ゴキブリだけがこうして大きくなったの?」


私は貴重なタンパク源、ゲジゲジを食べながら聞いてみた。


セネピード「歴史の先生が言うには、俺達が生まれる少し前位に多くの凶暴な虫達がこの星に攻めてきて、当時弱かった俺達の祖先は大きくなることで死を免れたという説が一つ」


アリアドネ「もう一つは?」


セネピード「我ら巨大ゴキブリの始祖とされるエマ様が巨大化したことで、他のゴキブリ達も巨大化したとされる、集団進化説だ」


アリアドネ「じゃあ、さっきのムカデ達が攻めてきた話は関係ないの?」


セネピード「ああ、この説ではそれはその後に起こったとされていて、特に犠牲者は出ずに俺達のタンパク源になったとされているのさ。あ、でも確かあの……なんちゃらバッタ……」


ムカデを噛み砕きながら悩む。


アリアドネ「サバクトビバッタ」


セネピード「そう、それ! サバクトビバッタだけは草食なんだよね。何でだろうなぁ?」


アリアドネ「他の肉食昆虫のためを思って、神様が授けてくれたんじゃない?」


セネピード「あり得なくは無いよな~」


変わり者の男の子と他とは違う見た目の私……仲良くなるまでに時間はかからなかったわ。


アリアドネ「ねぇ!」


セネピード「ん、それは?」


アリアドネ「弁当作ってみた! 食べてみてよ!」


セネピード「おお、すげぇ見た目だが……ま、いいか。それじゃ、いただきます」


アリアドネ (ワクワク!)


セネピード「す、すげぇ甘いな……」


アリアドネ「あれ? 苔砂糖入れすぎちゃったかなぁ?」


セネピード「いやまて、なんか味が変わって……カレーーーーー!!」


目の前でセネピードが火を吹いた。


アリアドネ「ご、ごめん! 変なものいれちゃったかな……」


セネピード「ま、まぁそうなんだろう。何、放課後俺が教えてやる。心配無用だ!」


彼は本当に色々な事を教えてくれたわ。そして、全力で守ってくれた。


セネピード「ぐあっ!!」


大男に蹴り飛ばされ、全身の甲皮にヒビを入れながら大岩にめり込んだ。


大男「へっ、ガキの分際で大人に逆らうからこうなるんだよ。さ~ぁ嬢ちゃん、オジサンの元においで~」


アリアドネ「あ……あ……」


あの男の腕が迫った時、私は非道な実験やら奴隷やらにされて近いうちに死ぬのだと思った。


セネピード「させるかぁっ!!」


大男に「てめぇ! っちょっと待て!? それいじょうはぁっ! ぐわあっ!!」


大男の腕に飛び付いたセネピードが、そのまま関節を極めて大男の腕をへし折ったのだ。


セネピード「逃げよう!」


アリアドネ「うんっ!」


この日は何とか助かった。格上相手でも怯まず挑み、そして私を助け出す……こんなことがあったのは1度や2度じゃなかったから、私の中で彼は最も信頼でき、そして最も敬愛できる(ゴキブリ)になったわ。でも……そんな日々が続くはずもなく、"私達"は揃って黒ゴキにさらわれたわ。


セネピード「クソッ! あいつら無茶苦茶だ! 死んだ奴を食って強くなるなんてっ!!」


アリアドネ「……セネピード、私がいなきゃ捕まることは無かったよね…………ごめ…」


セネピード「ふざけるな!!」


アリアドネ「ひっ……」


セネピード「誰がいなきゃ良いだと!? お前がいなけりゃ俺の正義活動が報われることは無かった! ここまで強くもなれなかった! 誰かに料理や文系科目を教えたり、理系科目を教えられて、共に赤点を回避したり出来なかった! なにより……こんなに面白い日々を送れたのは、アリアドネが友達になってくれたからだよ!! だから、いなきゃ良かったなんて言うなよ!」


アリアドネ「セネピード……」


この時、涙が止まらなかった。だって、他とは違う自身を必要とし、支え合える存在が確かに居たのだから。


セネピード「俺らを餌にすることで有名な黒ゴキ共が、敢えて生かしているんだ。つまり、何かに使うつもりだろう」


アリアドネ「……人体実験?……対毒性テスト?」


セネピード「さて……な。だけど、殺すまでに間があるなら、必ず逃げるチャンスは来るはずだ。もし俺と引き離されても、生きる希望を捨てずにここぞというタイミングで逃げろ。約束だぞ」


アリアドネ「約束する!……けど、セネピードはどうするの?」


セネピード「決まってるだろ? お前同様逃げ延びるぜ!」


その後、セネピードの予想通り私達は引き離され、私の予想通りに人体実験……そう、バグ・イクスプレスオペレーションが実行されたわ。私のベースはかつて祖先の天敵だったアシダカグモ。そして、多くの虫を捕食する女郎蜘蛛。具体的にはアシダカグモの筋力と、女郎蜘蛛の糸生成能力を組み込まれたわ。名も知らぬ人々(ゴキブリたち)が数百人は死んでいく中、私だけが生き残った。天井と無機質な黒ゴキの顔しか見えない巨大試験管の中で、数日にもわたる激しい傷みとの戦い。死ななかった事が本当に奇跡だったわ。この時のストレスで、金色だった髪の色素は全て抜け落ち、銀のような色になったわ。


アリアドネ「はぁ、はぁ、生き残ったわ。セネピード……私、生き残ったよ…………」


今更髪色が変わったくらいで彼が幻滅しないことくらいはわかっていた。だが、変化はもうふたつあった。


アリアドネ「痛っ……まだ夜明け前? 少し間取りでも見て対策を……え? 視界が……広い」


目が蜘蛛と同じく8個に増えていた。そして……


アリアドネ「痛っ!……この部屋、低く……いや、私の背が伸びたの!?」


背が一晩でかなり伸びていた。様々なテストを機械的にされていく一月の日々で、130cmにも満たなかった背丈は脱皮が1度あったとはいえ、160cmを超えた。そして……


黒ゴキ「ギギッ……」


相変わらず無機質な奴から紙を1枚渡された。


アリアドネ「……!……え」


その紙には、"ムカデプロトタイプ・セネピードと戦闘実験を行う。午後12時に戦闘実験室に来い"と書かれていた。


アリアドネ「生きていたのね……!」


この時ほど嬉しかったことはなかっただろう。だが次の瞬間、黒ゴキのように正気を失ったセネピードの姿が脳裏をよぎった。


アリアドネ(行ってみるしかないわね)


私は戦闘実験室に足を早めた。そこには全身がムカデの鎧のような甲皮で固まった、セネピードがいたわ。


セネピード「……アリアドネ、聞こえるか?」


アリアドネ「!、セネピード! 良かった、意識はあるのね!」


セネピード「だけど奴等は俺達のどちらかが死ぬことを望んでいるらしい。一先ず全力で来い」


アリアドネ「え……そんな…………」


せっかく会えたのに……そんなことを考える間もなく試合のゴングは鳴り響いたわ。


セネピード「おおおっ!!」


彼は容赦なく殴りかかってきた。アシダカグモの体毛センサーのお陰で無意識に避けられたから良かったものの、頭に当たっていたら死んでいた。


アリアドネ「うわああっ!」


無我夢中で殴りかかったわ。移植された黒ゴキの両腕も、脱皮を経て完全に馴染み、圧倒的手数でセネピードを押している。


セネピード「強くなったな、アリアドネ!」


アリアドネ「そんなこと言われても嬉しくないっ!」


セネピード「だが……隙ありっ!」


死角からの前蹴りで距離を開けられた。そして、異常な速度を得た私と同等まで加速し、突進をしてきた。


アリアドネ「ッツ!!」


何とか避けたが、かすった部分から鮮血が飛び散った。


セネピード「これも避けるか。ならば攻めでも格闘技を解放しよう、今のお前なら拳でも語り合えそうだ!!」


腕4本対腕6本とは思えない展開になった。私の息が上がってきた事もあり、押されていく……好きな人に、殺される!


セネピード「……よく聞いてくれ」


アリアドネ「!?……今更っ」


何を言うつもり!? と、思ったが、彼は始めから彼のままだったとここで知ったわ。


セネピード「あの壁はさっきの突進すら食い止める。だが、もう少し破壊力があれば壊せそうだ」


アリアドネ「だったら尚更私じゃ…」


セネピード「俺がわざと雑な全力の一撃を放つから、隙だらけの俺をぶんまわして壁に叩きつけろ」


アリアドネ「……死ぬつもりなの?」


セネピード「いいや、壊れるのは壁だけだ。さて、もうしばらく芝居を打とう……」


アリアドネ「ハアッ……ハアッ……」


30秒ほど格闘の末、対にその時が来た。


セネピード「うおおおおおっっ!!!」


アリアドネ「ハアアアアアッッ!!!」


彼の直線的な拳に糸をかけ、6本の腕全てを用いて回す。そして十分な角速度を得た彼を壁にぶつけた。


セネピード「ぐおおっ!! おっしゃあ!! 今だぁ!!」


壁が粉々に砕け、無表情ながら黒ゴキ達も驚いている様子だ。


アリアドネ「うんっ!!」


私も全速力で壁に向かい、叩き付けられた衝撃で動きが鈍くなったセネピードも抱えて遠くまで走った。アシダカグモの走りの本能が目覚めたのか、セネピードを抱えているにも関わらず、最高速度を更新し、体が焼けつくように熱かったわ。


アリアドネ「ハアッ!……ハアッ!……やったわ……私達……逃げれ」


セネピード「まだそうとは限らない……が、希望が見えてきたぜ。これもひとえにお前が頑張ったからだ」


アリアドネ「そ、そんなこと……」


セネピード「それに……美しくなったな。背も俺とほとんど変わらない、後数日もすれば追い抜かれるかもな」


分かっていたことだが、彼が他者を容姿で差別することはない。腕が多かろうが、髪の色素が無かろうが、目が多かろうが……寧ろ、本心から言っているのが感じ取れるくらいだった。


アリアドネ「そ、そんな……美しいなんてっ……!……すごく、嬉しい」


セネピード「本当さ。これからお前は皆から注目されるぜ。だから、何としても脱出しよう。取り合えず外に出れる場所を探そう。抵抗はあるかもしれないが、黒ゴキに遭遇したら確実に息の根を止めるんだ。わかったな?」


アリアドネ「ええ」


外につながる場所まではすんなりと行けたわ。……でも、脱出は容易じゃなかった。


アリアドネ「囲まれてる……!」


サバクトビバッタ型とシオヤアブ型、そしてオオスズメバチ型の黒ゴキに囲まれたのよ。


セネピード「効くかぁ!!」


セネピードはオオスズメバチ型の針を通さず、容赦なく破壊していく。


セネピード「奴等の攻撃を食らったら終わりだと思え! っく!」


サバクトビバッタ型の脚力にはセネピードの甲皮も耐えきれないらしく、ヒビが入った。


アリアドネ「何してくれるのよ!!」


私も手数を活かしてバッタ型を倒していった。


セネピード「あぶねぇ! ぐあっ!!」


気配を消していたシオヤアブ型の口吻の一撃で、セネピードが大きなダメージを受けてしまった。


セネピード「クソッタレェ!!……何とかなったか? だけどこれじゃあ外でもハチも危険だな……」


ここまでケガをしたら、ムカデと言えどもハチの毒針の餌食となるのだ。


セネピード「アリアドネ、これを持って逃げろ」


砕けた自身の甲皮をわたしてきた。


アリアドネ「そんな……一緒に逃げようよ!」


セネピード「こうなったら俺は足手まといだ。盾としても剣としても移動手段としてもな」


アリアドネ「そんな言い方無いじゃない! 私をここまで守ってくれたあなたを物みたいに言うなんて!!」


セネピード「……悲しませて済まないな、だが!」


アリアドネ「痛っ!?」


セネピードは万力のような力で私を掴んだ。同時に様々な虫を組み込まれた黒ゴキ達がなだれ込んでくる。


セネピード「俺の悲願は! 唯一俺を理解してくれた! お前の命が! 輝くことだぁ!!!」


アリアドネ「セネピードーーーーーッッ!!!」


既に投げ飛ばされた後、糸を投げかけて手繰り寄せることも出来ない。


セネピード「振り返らず全力ダッシュだ! 俺はこんなところで死なねぇ!! 必ず会おう!!」


…………こうするしかなかった。地面に着地した私は、なりふり構わず一直線に走り抜いた。オオスズメバチ型もサバクトビバッタ型も追い付くことはなく、その日の夜は脚が動かなくて倒れるように寝た。それから数日間は町や村を襲いに来た別動隊の黒ゴキを殺し、捕食することで命を長引かせた。捕食はこの日以降、唯一の快楽となったわ。だって、町にいったら腕とか目とかが多いからって怪物扱いされるし、ムカつくから半殺しにしたらいつのまにか犯罪者扱いされるし、勝手に軍に登用されて死地へと追いやられるし……兎に角、(ゴキブリ)を信用するのはこれきりにしたわ。たまにセネピードのように尊敬できる(ゴキブリ)も居るのだろうけど、基本的には普通も黒ゴキも等しくクズよ。……まぁ、だからと言って一般人を殺しはしないけど、なんか不正行為に当たるらしいけど、死地へと追いやられる条件で立てられた一軒家に住み、ノコノコやってくる黒ゴキを殺して食べる生活を送ってきたわ。たまに来る可愛いザコ達をいたぶったりしながらね。……唯一、あなただけは圧倒的に強かったわ…………まるでセネピードのようにっ!


~回想終了~


アリアドネ「本当に……あなたに助けられる度にセネピードを思い出して、胸が苦しくなるっ…………!」


刻蝋値「理想の男だな"……!」


不覚にも、俺は涙が止まらねぇ……そして決めた。


刻蝋値「アリアドネ! そんなに強いやつなら絶対生きている! アジトで見つけて助け出すぞ! そして想いを伝え…」


アリアドネ「ううん、生きてはいるかもしれないけど、たぶん黒ゴキになってるわ」


刻蝋値「行ってみなきゃわかんねぇじゃねぇか、俺だってソイツに会いたいんだよ!ここまでいい意味で馬鹿見てぇに正義を貫くやつ、ダチになりたくてしょうがねぇ!……まぁ、正義のぶつかり合いで大喧嘩するかもだけど」


アリアドネ「フフ、それも見てみたいわね……でも、今の弱いもの虐めをしている私なんか、彼は振り向かないわ」


刻蝋値「俺の隊に来てから直したじゃねぇか。空を埋め尽くす黒ゴキにも果敢に攻めてくし、ファーストキスは俺かその前の誰かに不可抗力で与えちまっただろうが、まだチャンスは…」


アリアドネ「ある……かもしれないけど、今はどちらかというと……」


刻蝋値「……ん? うおっ…」


!?!?…マジか。全力で抱き締められた上、ディープキスだと……! やべぇ……軍で禁欲(というか今までが欲に振り回されてただけの)生活を送ってきたから、理性が飛ぶっ!!


アリアドネ「……ビックリした? これでもあなたのこと、尊敬してるのよ?」


刻蝋値「こ、これとそれは関係ないんじゃ無いですかい?」


驚きのあまり、言葉がおかしくなりやがる。


アリアドネ「だからそんなあなたに……」


刻蝋値「そ、それ以上は流石にまずっ…鼻血っ……!」


アリアドネ「私の初めて、あげるね。あなたからしたら、自分の女だから何も変なことは無いよね……」


刻蝋値「だからそんな軽々しくっ……え!? そんなこと言ってたの?」


アリアドネ「今日助けてくれたときにね。もう、口答えさせないわ」


流石に任務中にこんなことはマズイ! 俺のスピードで逃げ……れない!?


刻蝋値「あ、蜘蛛の糸が……うわあっ!!」


……すごかった。この一時間は凄かった。結構気になる点があったが、事情が事情だ。聞かないことにした。それくらいは俺だってわかるようになったつもりだ。


アリアドネ「……どうだった?」


刻蝋値「最高でした。でもなんでこんなこと……」


アリアドネ「……明後日死ぬかもしれないから……かな? その辺の男はごめんだけど、セネピードやあなたなら、ね」


刻蝋値「こんなことしといでなんだけどさ、それこそ俺を上手く利用すれば生き残れるわけだから、やっぱりセネピードを見つけるまで…」


アリアドネ「もうおしまい! お子さまは早く寝なさい!」


刻蝋値「……そりゃねぇだろ。(ゴキブリ)以外の経験なら俺の方が100倍あるんだぞ……」


アリアドネ「明後日、期待してるわ。私も最善を尽くすから」


刻蝋値「おう、無茶して死ぬなよ。セネピードを悲しませない為にもな」


~明日~


なんのへんてつもなく、学科が始まり、そして終わった。しかし、午後の訓練は任意となった。作戦関係者はベストコンディションを整えておけと言うことだろう。俺は表部隊と裏部隊を会わせ、共同で作戦や、軽いコンビネーションを作った。


刻蝋値「いい感じだ。特に表部隊、筋トレのお陰で随分と強くなったな! これなら不足なしだぜ!!」


ウォータ「ったりまえっすよ!」


ゴールド「肉体鍛練の極意……その一端を垣間見ることが出来ました。深く感謝をします」


刻蝋値「お前らが強くなってくれたことがなによりの恩返しだ!」


ソイル「裏部隊の方々も、とてもいい人ばかりで精神的にも心強いです!」


ホネット「ソイルさん、本番では便りにしてます!」


ソイル「ホネット君こそ便りにしています。お互い支え合いましょう!」


フレイ「お、お姉さん……その……睨まないでください…………」


アリアドネ「あら、ごめんね。あなたを見てると……食欲とアシダカグモの本能がうずいてしまって……」


ソルトイル「……俺の部屋の黒ゴキを半分くれてやる……人数を減らして刻蝋値を困らせないでくれ」


アリアドネ「フフ、冗談よ。でもいただくわ」


ホッパー「明日が楽しみだ。裏表関係なくゴキブリ達の悲願が達成され、平和が訪れるのだな」


ウッド「皆のために……負けられないでヤンス!」


バレット「はっはっは! 俺とファングも居るんだ! 刻蝋値だのみの策に幅が出来るな!」


ファング「切断は任せな!」


一郎「俺達も」


ニードル「俺らも」


ファー「俺らファミリーも忘れるなよ。集団戦とリンチは任せろ!」


ブラット「……正義の味方が言う言葉ですかね……? でも、戦力は十二分! 勝てる戦いです!」


刻蝋値「よし、明日に備えて……休むぞ! 夜更かしだけは厳禁な!」


こうして各々自由にくつろぎ始めた……のだが!


~男寮の1部屋~


刻蝋値「っざけんな! なんだこの地獄絵図は!!」


そう、殆どの奴等が俺の寝る部屋にやって来たのだ。


アルフィー「刻蝋値、お前の部隊のメンバー達は皆不良なのか!?」


アンドレイ「なんでアリアドネさんだけいないんだ…じゃなくて、部屋が満タンじゃないか!」


オリビア「ホネットく~ん、これ見てこれ見て~」


ホネット「は、はぁ……」


ソフィア「まぁ、ホッパーさんってサッカーも得意なんだ!」


ホッパー「ああ、足を使うスポーツは大体得意だな」


ソフィア「今度アタシに教えて欲しいなぁ~」


ホッパー「良いぞ。まずはルールとかを差し置いて、基礎的な技術と実践から取っ掛かろうか」


ソフィア「まぁ! ホッパー君分かってる!」


ソイル「へぇ、ホネット君の師匠だったんですか! それにしても僕たち名前が似ていますね」


ソルトイル「師匠……とは違うかもしれんが、まぁ……そんなところか……名前は似ていても、意味は天と地ほど違うことが多々ある。……俺とお前もそうなのかもしれんな」


刻蝋値「だーかーらー! 俺は自由に過ごせって言っただけだ! コイツらがこんなに厚かましいなんて、俺も予想外なんだよ!!」


バレット「はっはっはぁ!! 何だかんだで好かれてるって事じゃねぇか。ひとえにその強さが際立ってる証拠だ!」


ファング「いやー、俺達もまだまだだなぁ!」


バレット「ファング、1試合やろうぜ!」


ファング「乗った! やろう!」


刻蝋値「ここで暴れるなぁ! ソニックブームを起こすような速度以上のスピードで動くの禁止な!!」


逆ナンにデートの誘いに喧嘩に名前についての議論……最後のは良いけど、なんだよこれ! 俺のリラックスタイムが無くなっていきやがる!! アンドレイとアルフィーにすっげぇ睨まれて申し訳ないし……

ひどすぎる!


アリアドネ「あ、ここだったの。コクローチ、来たわよ」


……えぇ、なんでこんなところに来るんだよ。あ、やべ


アンドレイ「おお、解き放たれるは白銀のプレデター……他の全てを食らいつくし、周りを鮮血で彩る一輪の花……アリアドネさん、僕の名はア・ン・ド・レ・イ! 以後お見知りおき…」


女子二人が心底気持ち悪いものを見る目でアンドレイを眺めていたが、俺はアイツが食われないか心配でたまらなかった。仮に食われそうになったら、以前に助けねぇぞと誓ったことを思いだし、身がすくんで一歩行動が遅れかねないからだ。


アリアドネ「あっそよろしくね、隣いい?」


以外にも雑に聞き流しただけで、俺が寝てる二段ベッドに飛び乗ってきた。


刻蝋値「おう、良いぜ。アンドレイに乱暴しないでくれてありがとな」


アリアドネ「まぁ、掃除代の無駄だからね。私、流石にあの子を食べようとは思えないわ。……気持ち悪くて」


アンドレイ「そ、そんなぁ~」


アンドレイはガクッという効果音が似合うモーションで項垂れた。


アルフィー「まぁまぁ、今度刻蝋値も誘って、一緒に町に繰り出そうぜ」


刻蝋値「えー……そんな暇あるかなぁ……」


アリアドネ「コクローチ、あなた引き立て役にさせられてるわよ。そんなもの断ったら?」


刻蝋値「まぁ、なにか予定が入ったら断るわ。ってかお前もなんでこんなストレスたまりそうな部屋に来たんだ?」


アリアドネ「んー……たまには仕事と関係ないことでも話そうかと思ってね。例えばお互いの趣味とか」


刻蝋値「俺は筋トレと食事と技術修練だな。基本的にフィジカルを強くすることだ!」


バレット「おお! 大体同じだな! 俺は加えてポージングだ!」


刻蝋値「おいおい、この星にもボディービルの文化があるのか!?」


バレット「あるぜ! 毎回こいつに大差をつけて勝ってるぜ! はっはっは!」


ファング「テメー、得意分野で圧勝してることを自慢してんじゃねーよ! ちなみに俺の趣味は牙を研ぐことだ」


オリビア「アタイはねー!」


この話題はかなり盛り上がった。皆が仲良くなれたようで、俺としても明日の任務がはかどりそうで、実利・遊び両面で嬉しかった。


アリアドネ「この服も裁縫の技術で作った私だけの特注品よ。腕が6本、脚2本のお友達がいたら、紹介してくれれば服くらい作るわよ」


オリビア「う~ん……今のところ思い浮かばないけど……いつかお願いするかも!」


バレット「向こうで救出する連中の中にはいそうだな」


ブラット「僕のスパイ仲間に蜘蛛タイプの人が居ます。彼が生き残ったら僕からお願いして良いですか?」


アリアドネ「ええ、任せてちょうだい」


刻蝋値「確かスパイは鉄砲魚のスナイプとセアカゴケグモのポイズンだったか?」


ブラット「はい。とても心強い仲間です!」


刻蝋値「彼らにも期待してるぜ」


と、その時、忘れていたマジフォンが鳴り響いた。


ホッパー「刻蝋値、なんの音だ?」


刻蝋値「……別の星の仲間から着信だ。少しうるさいが、耐えてくれ」


出てみた。


アメジスト「あーーー!やっと出たーーー!!蝋値様ぁーーーー!!!」


刻蝋値「アメジスト、お前っ…少しは声を押さえてっ…」


アメジスト「うええーーーん!そんなこと出来るわけが無いじゃないの~~~~!! 無神経蝋値様の馬鹿ぁ~~…」


……切った。うるさすぎる。


刻蝋値「……皆ごめん。うるさかったよ…」


マジフォン『ピリリリリリ! ピリリリリリ!』


……今度はガーネット!これはおそらく


ガーネット「オラァ! バカローチ!! テメェ毎晩必ずしゃべる約束一週間も破ってんじゃねぇ!!」


怒ってる……これはそうとう怒ってるぞ…………


刻蝋値「す、すまねぇ……任務が忙しすぎて…………」


ガーネット「ああ!? 任務だぁ!? そうであっても隙間時間にかけれるだろ!! 折り返しくらいやってみたらどうだ!そしたら心意気くらいは組んだぞ!!」


……何の心意気だよ。そんなこんなで結局、傭兵団の女幹部全員から説教を食らった。


刻蝋値「皆マジでごめん。うるさかったよな……」


全員にボコられると思ったが、違った。


アリアドネ「……あなた、今の言語何?」


バレット「急に別の星の言語を喋りだしたからビビったぜ……」


アンドレイ「すごいね……こうなってくると、君が別の星からやって来たって噂も現実味を帯びてくるな」


アリアドネ「そうよ、今の言語がアースとか言う星のものなの?」


刻蝋値「……いや、アースとはヘリオス(太陽)を挟んで反対方向に位置するチキュウの言語だ。俺も厳密にはチキュウ出身なのさ」


ホッパー「差し支えなかったら、チキュウでのお前の思い出を聞かせてくれるか?」


アリアドネ「私も興味あるわ」


刻蝋値「良いぜ。あまりに荒唐無稽な話だから、理解できないかもしれないがな!」


俺は二時間ほどかけて、全てを話してやった。


~明日・黒ゴキのアジト前~


刻蝋値「さぁーて、作戦開始だ!」


第71話 オラァ!刻蝋値隊進撃だぁ!!に続く。

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