第43話
石は万能兵器!
第43話 戦略が戦術に負けることはない。なんてことはなかったなぁ、オイ!
刻蝋値「もう一度作戦を通達する。アース星のセンター帝国上層部は真性のクズ集団だ。奴らは正面から潰してやると言いつつ他の都市や町、村に現れる可能性が高い。そこで、既に各都市や町に居るお前たちには奴等が現れた場合、その趣旨を俺に報告し、万一攻撃を仕掛けてきたらなるべく市民町民村人を守ってやってくれ。だけど1番はお前らの命だから、自衛も怠るな。以上だ!」
ライト「…………」
~回想~
ライト「あの…………少しよろしいですか?」
刻蝋値「有益なことを言わなかったら、殴るぜ?」
ライト「…………今回の僕達を侵略任務に当たらせた皇帝についてですが、なぜそうしたかについて、心当たりがあるんです」
罠か、或いは本当に有益な情報か…………
刻蝋値「…………家畜野郎に分かるとは思えねぇが…………聞くだけ聞こうか」
ライト「結論から言いますと、皇帝はアース出身の魔王に操られている可能性があります!」
刻蝋値「…………おぉ、マジかよ…………俺、家畜野郎と同じこと考えていたのかよ…………うわぁ」
俺と家畜の思考が同じとかゾッとするけど、単に俺と同じようなことを言いつつ、誘導尋問しようとしているだけなのかもしれねぇ、そう思ったら、そんなに変な事ではないと思った。
ライト「いえ、先程あなたが何故かアースの魔王を知っている趣旨を話したあと、よくよく思い出してみると、伝承で人に憑依して操り、自身の魔力を増幅させる能力があるという言い伝えを思い出したからです」
刻蝋値「…………お前にこんなことを話して何かになるのかはわからんが、可能性に信じよう。1年前にな、お前らが壊してくれたこの都市の王と、裏側にあるチキュウ1大きな都市の王が、魔王に憑依されていて、この星を侵略するための準備を行っていたんだ」
ライト「よろしければ、具体的に準備というものを教えていただけますか?」
刻蝋値「強い生き物の形質を人間の筋肉に移植し、超人的な身体能力を得られる手術や、サイボーグ手術だ。文明が発達しているアースだと、遺伝子工学や人間工学の初歩に近い部分と言えば分かるか?」
ライト「…………ですが、この星は飛行機が音速を超えたばかり…………僕らの星がそのレベルの頃は、電気も普及しきっておらず、車や列車、船は石炭がメインの動力源でしたよ」
要するに、俺の転生前の地球みたいなもんか。
刻蝋値「まぁ、そうだよな。発見できるはずの無い技術を、魔王に操られた王の部下どもは突然操るようになった」
ライト「まさか…………魔王が、僕らの星の技術を提供し、文明レベルに…………その、劣っているこの星を支配しようとした…………?」
刻蝋値「それ以外に考えられないな、いくらこの星に魔法の概念があろうと、圧倒的な身体能力の奴相手だと、守備に劣る魔法使いは一瞬で殺されちまう」
ダイアなんかはアメジストとの手合わせだと、反応される前に距離を摘めて、籠手を首筋にあてがっていたな。
ライト「もしかして魔王はこの星を支配した後、僕らの星の文明をことごとくこの星に広め、強力な物量を持ってアースを攻め滅ぼし、自身が2つの星の頂点に君臨するつもりだったのではないでしょうか。しかし、その作戦は上手く行かなかった」
刻蝋値「ああ、俺とラピスが魔王を憑依した王を殺したからな。
ラピスは王に魔王が憑依していたことをかねてより見抜いていたらしく、当時はひたすら力を蓄えていたそうだ。そして期が熟したところで不意打ちによる殺害を実行、もう一方の魔王の元に居る姉を救うべく、回りの人間を巻き込んでまで更に力を蓄え、この星の穏健な性格の魔王すら打ち倒した」
ライト「ま、魔王…………まで」
刻蝋値「そうだ。感情が殆ど無くなりつつあっても、大切な人を確実に救いたかったのだろう。まぁ、アイツは優しさも強かったから、破壊活動や致命傷を与えることがあっても、命はギリギリ奪わなかったがな。因みにこの星の魔王さんは、筋力のみで最大マッハ10以上の速度で動くぜ」
ライト「…………僕達の星の魔王が伝承通りの強さなら、肉体の強さはチキュウ出身の魔王の方が強いですね」
刻蝋値「ま、どれだけ憑依してるのか知らんけど、今だとその伝承は当てになら無いだろうな」
ライト「あ、その…………もう一方の王様は、貴方が殺したのですか?」
刻蝋値「おお、跡形もなく蒸発させた。こうしたら魔王の力も消えると思ったんだが、ダメだった」
肉体を消し飛ばしても残るという事は、幽霊的な存在なのだろうか?
ライト「なるほど…………と言うことは、作戦に失敗したから僕らの星に策の軸をおいた」
刻蝋値「うん? 掴めてきたな。ライト、お前の星の死亡事故データを見せろ」
ライト「…………はい、これです。脳だけきれいに切り取られて死んでいます」
刻蝋値「俺たちがこんなこと出来ないし、そもそも星を移動できないのは証明済みだ」
ライト「しかし僕らの星にもそんな高度な技術は存在しない」
刻蝋値「この点はまだ信じられないが、更に胡散臭い容疑者が居るじゃないか」
ライト「魔王・ダーク・ネビュラ…………」
刻蝋値「そうだ、全てあいつの自作自演なら全てが繋がる。人間の命を何とも思わず、脳を切り取り、支配者を支配することで、人々を暴走させる。奴は俺達にとっても敵なんだよ」
ライト「無理を承知で貴方にお願いがあります!」
刻蝋値「ああ?」
ライト「僕達の優しかった皇帝を奪った魔王の討伐に、僕達も協力させてください!!」
刻蝋値「おいおい、君を容易く切り捨てるような上層部すら恨めないような軟弱者を信用しろってか? 笑わせんなよ! あ、それと、魔王を人から追い出す方法が確立されてない以上、皇帝も殺すつもりだ」
ライト「彼らだって操られているだけだ!」
刻蝋値「だからといって放置していれば、君の家族もすぐに殺されるぞ。皇帝は優しかったんだろ? じゃあ、民のために死ぬなら本望なんじゃねぇの? 君にとってのグッドニュースはまだある。俺は今回の殺人事件を主導していない連中を殺す気はない。良かったな、死ぬのは皇帝と、上層部だけだ」
ライト「…………僕の希望なんてどうでもいいです。でも、魔王が許せない。だから協力させてください」
刻蝋値「なんだよ、意見コロコロ変えるやつも信用できねぇよ。今ここで殺そうかな」
ダイア「ろうち…………」
どうも、この1年で大分性格が丸くなった俺ばかり見てきたからか、ダイアは殺伐とした俺を受け付けない様子だ。
レフト「うぐぐ…………」
ん? ライトの奴、電磁タブレットに何を写してるんだ?
ライト「…………センター帝国軍の、座標です」
刻蝋値「なんだよ急に」
ライト「協力したい、いや…………します! まずは彼らの正確な動きを教え、貴方の信頼を勝ち得ます! 僕はやはり、魔王だろうが誰だろうが、こんな事をする犯人が許せない! 奴を懲らしめられるなら、誰の力でも借りたいのです!!」
…………まぁ、アイツらが攻めてくれば、情報の正誤は判明するよな。
刻蝋値「…………よーし、テストだ。まずは正確な情報を与えれたかどうかで、お前の意思を見るぞ。もちろん失敗したら、お前とバカダチを殺すこともあり得る。精々頑張りたまえ」
ライト「!…………是非期待にそぐう動きをお見せします!」
ラピス「刻蝋値殿! 基体のデータ解析が終わりました!」
刻蝋値「よっし、説明を頼む。ダイアはテストに取り組み中のライトも見張っていてくれ」
ダイア「…………わかったよ」
刻蝋値「俺が悪魔のような発言を繰り返していたのは分かるが、それだけの事をコイツらがしたってことだ。どうか納得してくれ」
ダイア「うん」
説明さえすれば、納得はしてくれた。これなら一先ず心配は無いだろう。
刻蝋値「で、マシンの情報は?」
ラピス「この動力源が…………」
刻蝋値「フムフム…………あ、もしかしたらこうしたら…………」
ラピス「少し物理エンジンで試してみましょう」
刻蝋値「頼んだ! ん? ラズリかもしもし。…………なるほど、でかした!」
~回想終了~
ライト「本当に、石だけで宇宙船を落とすのですか…………?」
刻蝋値「ああ、俺なら落とせる。お前も自殺願望が無いなら離れていろ。超音速運動を行う物体は衝撃波を発生させる。常識だろ?」
ライト「わかりました。最初のテストは必ずや合格を頂きます!」
そう言って去っていった。
刻蝋値「さーて…………」
俺は手持ち望遠鏡を覗いた。
刻蝋値「へぇ、普通にデマを流していると思ったら、来てるじゃん。合格発表位してやるか」
俺は無線連絡を行った。
刻蝋値「ライト君、最初の試験は合格だ。誉めてやるぜ」
ライト『ありがとうございます! 引き続き宇宙船の動きを追い、変わった動きをお教えします!』
刻蝋値「じゃ、第2のテストがそれだな。少しは期待してるぜ…………よし、まずは初球!イラプションストライク!!」
俺はマッハ25の初速を石に与え、上空の宇宙船に衝突させた。
~宇宙船内~
隊員1「見た目はアースと変わらないよな~」
隊員2「チキュウ、別名ネオアースとも呼ばれるこの星は、文明が低いと言われている。凄腕の工作兵とアサシンにだけ気を付ければまず負けないだろ」
隊員1「まさかこの機体に飛んできたりなんて」
隊員2「ハッ! しねぇだろ」
2人して笑っているその時、大きな音と共に緊急警報が鳴り響いた!
警報『動力源が破壊されました。これより、オールシステムダウン。オールシステムダウン』
隊員1「え……?」
隊員2「ぼさっとするな!窓から脱出ぅう!?」
機体が重力に引かれ、突然高い加速度で落ち始めたので窓を割るどころか、反転した天井に叩きつけられて動けない!
~グレイテストシティ~
刻蝋値「もういっちょ! にちょ! さんちょ!」
次々と投石していき、確実に動力源のみを貫通させていく。
~敵軍~
隊員3「隊長! 謎の質量弾攻撃で、既に7機撃墜されました!」
隊長「やむ終えん、裏側の大都市を破壊するぞ! うお!?」
隊長3「隊長!?」
隊長「構うな! 続行だ! センター帝国万歳!!」
隊員3「センター帝国万歳!!」
~グレイテストシティ~
刻蝋値「ん? あいつら……」
ライト「2機が西へ移動中!」
刻蝋値「わかってらぁ! オラァ!! ソラァ!!」
残り2機も撃墜成功した。
刻蝋値「戦略が戦術に負けることはない。なんてことはなかったなぁ、後は回収と尋問だ。お前は友達と一緒に殺されないように、縄で縛られて動けないふりでもしとれ」
俺はそう言って、乗組員のスペックをライトがパワードスーツを着ている状態と想定し、ギリギリスーツで耐えれる衝撃になるように10機の落下速度を調節した。
~暫くして~
刻蝋値「よし、総勢20名。捕虜を確保した!アメジスト、転送魔法で皆をグレイテストシティに集めろ」
10秒ほどで全員を転送し終え、魔法の使いすぎで疲れたアメジストが息を切らしていた。
刻蝋値「無理させてすまなかった、が、良くやった。ありがとう」
すぐに駆け寄り、労いの言葉をかける。精神だけでも安定させれば、肉体の回復速度も多少は上がるだろう。
アメジスト「はぁ…………はぁ…………蝋値様のためならこれくら…………い…………」
刻蝋値「どうした?」
俺の顔を見て、アメジストは怯えているように見える。
エメラルド「ねぇ、コック。事情は察せられるけど…………顔が凄く怖いよ…………」
パール「昨日ダイアから連絡を受けたから分かるが、思い詰めるのは良くないぞ」
刻蝋値「…………俺はまたしても大事なときに別の場所に居た。今回は10名近くの死者も出た。居る場所さえ間違えなければ、無犠牲かつ、今の10分の1の時間で解決できたのに、だ。ダイアとラピスが居なければ、更に死者は増えていただろう」
ガーネット「ストップ、今はそこまでで考えるのをやめとけ。被害をここまで抑えられたんだ。ふ」
刻蝋値「不幸中の幸い? 国語がドベだった俺でも使い方くらいわかるぞ? こう言うのは1年前にラピスが起こした事件が分かりやすい」
ラピス「…………」
刻蝋値「確かに建物は滅茶苦茶に壊され、地面に大きなヒビが入り、お前ら含めて何十人もの怪我人が出た。だが、誰も死ななかった。今回はどうだ? 人が死んだ。これを幸いだなんて言えるか? ええ?」
ガーネット「…………」
刻蝋値「だからこそ俺は今回の元凶を…………更には世界を蝕んでもいる魔王・ダーク・ネビュラを無惨な方法で殺す! これに乗じて悪さをする真性のクズどももだ! おい、ライト、レフト」
2人「は、はい…………」
刻蝋値「貴様らの同行は許可する。1番の理由は分かるか?」
ライト「…………僕らの目の前で悪い上官達を殺し、人殺しの被害者の苦痛を少しでも味会わせる…………ですか?」
刻蝋値「天才なだけあって、随分俺の考えを理解するようになったじゃないか。正解だ」
ダイア「なぁ、いくらなんでもそれはひどい」
刻蝋値「あのなぁ、コイツらは実際に殺しているんだぞ? 洗脳教育とか関係ねぇよ。やった分の償いは必要だろ。丁度ラピスがグレイテストシティの発展に協力しているようにな。まぁ、1年前だって、コイツが誰かを殺していたら、殺そうと思っていたがな」
ラピス「もしそうなら、俺はおっしゃる通りになるべき存在に堕ちていましたね」
ラズリ「…………」
刻蝋値「…………すまない、どうしても気が立ってしまう。暫く1人にしてくれ、後、寝るときもな」
俺はそう言って、遠くの高台まで足早に去っていった。
ガーネット「こんなときに、なにもしてやれないなんてな…………」
ルビー「こんなにも怒った刻蝋値様は初めて見ます」
シトリン「アタシ、彼が本当に大将本人なのか、今でも確信が持てないな」
トルマ「優しすぎるんだよ、ゴッキーは」
~高台~
刻蝋値「ここなら…………いいか」
俺は気持ち悪いもの全てを、見えにくい所に吐き出した。
刻蝋値「くっそ! なにも知らねぇとは言え、あの二人は立派な殺人犯だ! 俺の暴言で精神的に苦痛を味わうべき存在だ。…………けど、これじゃあまるで俺が俺の嫌いな奴等になった気分にしかならねぇ!
…………だったら尚更、尚更犯人を殺さねぇといけねぇな。立ち止まってられない。ガキの頃からの非現実的な夢、世界平和の実現を行うんだ! 偶然得た俺の尊敬するゴキブリの力を磨き! 俺自身の力に変え、悪いやつ全てを叩き潰してな! 組織に巣くう悪い上司も、皇帝も、魔王も! どこかの巨悪もな!!」
狂いと哀しみが混じった笑い声が辺りに響き渡った…………。
第44話 切り込み? 俺の仕事に決まってるだろ! に続く。




