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風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜  作者: 緋影 あきら
8/12

ー草原の中の砦ー

地平線からゆっくりと朝陽が昇る。

見渡す限り(さえぎ)る物が何もないこの場所では、昇りゆく朝陽がそのまま草原全体を照らし出し、全てのものに等しく朝を告げていく。

昔から幾度となく見てきた光景ではあるが、久しく草原から離れていた身には、すべてが懐かしくもあり新しくもあった。

「…今日も旅日和(たびびより)になりそうですね…」

昇りゆく太陽を天幕の小窓から眺めつつ、ひどく穏やかにそう呟いたのは、かつてこの草原の支配者とまで呼ばれた男であった。

彼は寝台から半身を起こしただけの状態で、身につけている物も夜着(やぎ)のままであった。

そして彼の長い亜麻色(あまいろ)の髪が、窓から射し込む朝陽に透けて、美しく金色に輝いている。

しばらく無言で朝陽を眺めていた男は、ふいに視線を天幕の中へと戻し、そのままそっと自らの隣へと視線を落とした。

彼の隣にはまだ穏やかな寝息を立てながら、一人の黒髪の少女が眠っている。

男は射し込む朝陽で少女を起こさないよう、さり気なく自らの影で(かば)いながら、そっとその頭を優しく撫でた。

するとそれが気持ち良かったのか、少女は寝ぼけながらもその手を取り、実に幸せそうな顔でそれに自らの(ほお)を寄せる。

ふいに暖かく柔らかな肌が男の(てのひら)に押し付けられ、しかも逃さないようしっかりと両手で握り締められ、男は思わずくすりと笑った。

まさかこんな些細(ささい)な事で、ここまで自分の心が穏やかになるとは思いもしなかったが、不思議とその事に納得もしている自分も居た。


ずっと何の感情も持たずに生きてきて、それはこの先も永遠に変わらないだろうと思っていたのに、彼女はいとも容易(たやす)く自分の中に入り込み、そのまま世界を変えてしまった。

自分に生まれて初めて宿った、一つの想い。

執着(しゅうちゃく)とも取れるその感情は、それまで無機質(むきしつ)不変的(ふへんてき)であった自分の世界を打ち破り、(あざ)やかで激しく美しいものへと変貌(へんぼう)させた。

彼女と出逢(であ)うまで、自分はこんなにも美しい光景を見ても、何の感慨(かんがい)(いだ)かなかった。

物事のすべては、ただ目の前を通り過ぎていくだけで、そこにどんな感情や光景が含まれていたとしても、それは一切自分には関係のないものだと思っていた。

そんな彼…(ソウ) 璉瀏(レンリュウ)を変えたのは、今 彼の隣で眠る一人の少女の存在であった。

(つや)やかな黒髪に(なめ)らかな真珠色(しんじゅいろ)の肌、今は眠っているため閉じられているが、誰よりも意志の強さを感じさせる美しい金の瞳。

かつて絶世の美女と(たた)えられた母親譲り容貌(ようぼう)もあるが、それにもまして人々の心を捕らえて離さないのは、彼女の誰よりも純粋で真っ直ぐなその気性であった。

花胤(カイン)()の姫』と呼ばれ、各国にその名を(とどろ)かせてきたこの少女の存在が、それまでの自分のすべてを変えてしまった。

『戦場の鬼神』、『風嘉(フウカ)白龍(はくりゅう)』などと呼ばれ、常に周囲から怖れられ一目置かれてきた自分だったが、この少女の前だと何の変哲(へんてつ)も無い一人の男になってしまう。


「…まさかこの私が、誰にも渡せなくなるほど捕らわれようとはね…。想定外も良いところですよ」

誰に聞かせるでもなくそう呟くと、(レン)は自らの手を握り締め続ける少女、鴻夏(コウカ)へと優しい視線を落とす。

するとその呟きが聞こえたのか、それとも(レン)の視線を感じたのか、ふいに鴻夏(コウカ)の閉じられていた(まぶた)がぴくりと動いた。

そしてほどなくして、すうっと開かれた鴻夏(コウカ)の瞳がそのまま隣の(レン)の姿を映し出す。

まだ寝ぼけているのか、鴻夏(コウカ)はしばらくの間は何の反応も示さなかったが、ふいに瞳に理性が戻ると、突然ガバッと起き上がった。

「れ…(レン)っ⁉︎」

「おはようございます、鴻夏(コウカ)

「お、おはようございます…じゃ…なくてっ!え、あれ?ご、ごめんなさい!わ、私なんで(レン)の手を握ってんのっ⁉︎」

寝起きで混乱しているのか、真っ赤になって(あせ)りまくる鴻夏(コウカ)がひどく愛しい。

慌てて(レン)の手を離そうとする鴻夏(コウカ)の手を逆に握り締め、(レン)はそのまま鴻夏(コウカ)に口付けた。

そして思わず固まる鴻夏(コウカ)に対し、(レン)は安心させるかのように、鴻夏(コウカ)の髪を優しく撫でる。

すると思ったより何の抵抗もなく、鴻夏(コウカ)はそのまま大人しくされるがままになっていた。

そっと口唇を離すと、鴻夏(コウカ)は照れ臭そうにしながらも、(レン)の胸に()り寄ってくる。

そのいつもとまるで違う反応に、そっと抱き締め返しながら、(レン)はこう呟いていた。


「…珍しいですね。怒らないんですか?」

優しく髪を撫でつつ、冗談めかしてそう言うと、途端に(レン)の腕の中で鴻夏(コウカ)(ふく)れる。

「も…もう!私だっていつも怒るわけじゃないわよ!い、一応これでも(レン)の奥さんだし?その…嫌…じゃないし…」

ボソボソと最後の方は小さい声になっていたが、それでも鴻夏(コウカ)なりに精一杯、(レン)へと気持ちを伝えようとしているのがよくわかった。

それを受けて、(レン)がひどく優しく微笑む。

そして(レン)はそっと鴻夏(コウカ)(あご)(とら)えると、もう一度優しく彼女に口付けた。

今回も特に何の抵抗もなかったが、ゆっくりと口唇を離しがてら(レン)(ささや)いた一言で、途端に鴻夏(コウカ)が反応する。

「…惜しいですねぇ…。今ならこの先に進めそうな気がするんですが、残念ながら時間切れですね」

ニッコリ笑ってそう言うと、腕の中の鴻夏(コウカ)が一瞬で()でダコのようになる。

「な…っ!は⁉︎え…っ⁉︎」

「この続きは今夜また…」

ひどく(つや)っぽく鴻夏(コウカ)の耳元でそう(ささや)くと、(レン)はスッと寝台から立ち上がり、天幕の出入り口に向かって歩きながら、こう声を掛けた。

「…何事です、嘉魄(カハク)?」

その呼び掛けに対し、すぐ天幕の外から嘉魄(カハク)の声で(いら)えがある。

「朝早くから申し訳ありません、(あるじ)

いつの間に来ていたのか、どうやら天幕の外には嘉魄(カハク)(ひか)えているようだった。

鴻夏(コウカ)はまったく気配を感じ取れなかったが、(レン)はすでに気付いていたらしい。

そのまま天幕の外へと出て行った(レン)の後ろ姿を見送りながら、鴻夏(コウカ)は今更ながらに正気に戻って真っ赤になる。


『あ、危なかった…。嘉魄(カハク)が来なかったら、あのまま私…』

そう考えたところで、鴻夏(コウカ)ははたと気付く。

「あ、あれ…?さっき(レン)、『今夜また』とか言ってた…⁉︎え、嘘…どうしよう…⁉︎」

思いっきり動揺しながら、鴻夏(コウカ)は一人 寝台の上でわたわたとする。

何となくあの(つや)っぽい雰囲気に流され、あっさりとそのまま一線を越えてしまうような気がして、鴻夏(コウカ)心底(しんそこ)(あせ)っていた。

「ど、どうしよう…。わ、私は一体何をどうすればいいの…?」

まったく経験のない鴻夏(コウカ)に対し、相手は百戦錬磨(ひゃくせんれんま)色事(いろごと)のプロである。

多分、何も知らなくても手取り足取り上手くやってくれる気はするが、何をされるのかもわからないのは、やはり怖い。

「で…でもこんな事、他の誰かに相談も出来ないし…。そもそも男同士でって、一体何をどうするものなのかしら…?」

確か以前に上とか下とか言われたが、正直何の事だか鴻夏(コウカ)にはさっぱりわからなかった。

今更ながらだが、嫁入り前にもう少し閨事(ねやごと)の事も学んでおけば良かったと後悔する。

そして鴻夏(コウカ)は密かに思った。

色々な意味で、自分はかなり厄介(やっかい)な夫を持ってしまったと。

でもそう思いつつも、今となっては(レン)以外の夫など考えられもしないのだから、鴻夏(コウカ)はひどく複雑な思いで顔を伏せた。

こうして南方領への旅の三日目も、朝から波乱(はらん)(ぶく)みで始まったのである。





日が完全に昇りきった後、視察団と南方軍の迎えの一行は、砦に向けて旅立った。

相変わらず南方軍の兵士達は(レン)の周りを取り囲み、誰も近寄れないようにしていたが、今の鴻夏(コウカ)にとってそれは実に有難(ありがた)い事だった。

正直今朝の事を考えると、今でも顔から火が出そうなほど恥ずかしい。

毎回毎回 流れるように自然に(せま)られ、気が付いたら(レン)(いただ)かれる一歩手前になっているので、一体いつまで清い関係で居られるものかと鴻夏(コウカ)は不安に思っている。

しかも今朝、(レン)に予告めいた事まで言われてしまい、鴻夏(コウカ)は心底困り果てていた。

『もぉ〜、一体どうすればいいのよ〜⁉︎』

誰にも話せないものの、恥ずかしさのあまりに叫び出したい衝動(しょうどう)()られながら、鴻夏(コウカ)は一人 輿(こし)の中でジタバタしていた。

(レン)の事は多分 恋愛的な意味で好きだと思う。

だから手を出される事自体は、嫌だとは思わないのだが、何というかこの埋めきれない経験値の差をどうしたらいいのかわからない。

しかも皇女(おうじょ)として育てられたとは言え、自分も身体は男なわけで、そもそも同じ男性の(レン)と何をどうしたらいいのかもわからない。

『や、やっぱり私が、その…女役やるんだろうけど、い、痛いのかな…?女性でも初めては相当痛いみたいな事聞いたし…』

チラッとそう考え、鴻夏(コウカ)は自分で自分の身体を抱き締めながら身震(みぶる)いをする。

やっぱりある程度は覚悟していたとは言え、怖いものは怖い。

(レン)が自分に(ひど)い事をするはずもないが、それでもどう考えても痛そうな気しかしない。


『いっそ経験ある(レン)に聞きたいかも…。あ、でも経験あるからこそ、痛くならない方法も知ってるのかな…?』

自分でも訳が分からなくなってきていたところで、ふいに横の暁鴉(ギョウア)から声が掛かる。

鴻夏(コウカ)様?何か今日はエラく大人しいけど、どうしたんだい?また何か色々と悩んでんのかい?」

「…あ、いえ、その…今日には南方領の砦に着くんだなぁと思ってただけで…。ほらそこに着いたら、(レン)信奉者(しんぽうしゃ)がさらに沢山いる訳でしょ?」

「あぁ、まぁね。ああいうのがもっと沢山居ると思うと、ちょっと憂鬱(ゆううつ)だよね…」

珍しくもっともらしい言い訳が出来た事で、暁鴉(ギョウア)はすぐに納得したようだった。

確かに昨夜まではその事で悩んでいたが、今は別の事で頭が一杯だとはとても言えない。

それにそれは何だと突っ込まれても困るので、鴻夏(コウカ)はそのままそっと話題を変えた。

「ねぇ、暁鴉(ギョウア)。昨日 (レン)夜刃(ヤト)将軍との話でも出てたけど、南方領では未だに月鷲(ゲッシュウ)襲撃(しゅうげき)が続いているの?」

襲撃(しゅうげき)ってほどの規模でもないけど、多少の小競(こぜ)り合いはまだ続いてるみたいだね。(あるじ)に友好的な鴎悧(オウリ)帝が皇帝に立ってから、随分(ずいぶん)マシにはなってるけど、元々が好戦的な民族だからね。(すき)あらば…ってやつさ」

そう暁鴉(ギョウア)言うと、鴻夏(コウカ)は少し眉を(ひそ)める。


「じゃあ、南方領の人々は未だに不安な日々を過ごしているのね…」

「まぁ、でも慣れてるからね。昔に比べたら平和なもんだし。だから砦には兵士の家族も暮らしてるけど、女子供に至るまで慣れたもんで、ちゃんとヤバい時は砦から出ないよ」

「えっ!女性や子供も居るの⁉︎」

思わず鴻夏(コウカ)は驚いて声を上げた。

まさか月鷲(ゲッシュウ)との最前線とも言える場所に、女子供が居るとは思わなかったのだ。

だがそれが当たり前のように、暁鴉(ギョウア)は言う。

「そりゃ居るよ。むしろ砦の中に居てくれた方が安全さ。草原だと男達が留守の時に攻めて来られたら、身を守る(すべ)もないからね」

「で、でも危険なんじゃ…」

そう鴻夏(コウカ)が言うと、溜め息をつきつつ暁鴉(ギョウア)がこう答える。

鴻夏(コウカ)様…ここは南方領なんだよ?危険じゃない場所なんてないのさ。だから女達が砦で暮らすのも、それなりに考えての事さ。誰でも自分の子供達が生き残る確率が高い場所を選ぶだろう?それだけの事さ」

さらりとそう言われ、鴻夏(コウカ)はそれ以上、何も言えなかった。

自分が思っている以上に、ここは厳しい土地なのだと、さすがの鴻夏(コウカ)でも実感する。

おそらく長年に渡って戦い続け、もはや何の希望も持てなくなっていた頃に、(レン)がやってきたのだろう。

そしてもう死ぬしかないというドン底の状態から、あの月鷲(ゲッシュウ)を相手に連戦連勝(れんせんれんしょう)を重ね、故郷(こきょう)を取り戻しついには停戦にまで持ち込んだ(レン)は、まさに生ける伝説だったに違いない。


闇夜(やみよ)に浮かぶその白き姿に 敵は(おのの)

味方の士気(しき)鼓舞(こぶ)される

その闘う姿は まさに天に昇る龍の(ごと)

その場に居並ぶ者達を (いや)(おう)にも

平伏(ひれふ)させる”


そう叙事詩(じょじし)(うた)われたように、この地に真の平和をもたらしてくれた(レン)は、彼等にとっては神にも等しい存在で、だからこそ彼等は誰よりも(レン)の事を(した)(あが)めるのだと思った。

『そう考えたら、彼等の(レン)に対する過剰な態度も当たり前の事なのかもね…。あと突然やって来た、政略結婚の花嫁が気に入らないのも当然なのかも…』

何となく妙に納得出来てしまった鴻夏(コウカ)は、砦に居る間くらいは、彼等に(レン)を譲った方がいいような気がしてきた。

もちろん昨夜のように(さび)しく感じるのは間違いないが、いつでも(レン)と会える自分と違い、彼等は今しか(レン)と居られないのだ。

しかも次に会えるのは一年後だなんて、多分自分だったら耐えられない…。

もはや(レン)出逢(であ)う前、自分がどうやって日々を過ごしていたのかもわからないほど、(レン)の存在は鴻夏(コウカ)の中で大きなものとなっていた。

まるで最初からそうであったかのように、(レン)(そば)居心地(いごこち)が良くて安心出来るのだ。

『ま、まぁ…思ったより手が早かったのは、ちょっと…その、何だけど…。でも別にそれも嫌…ではないし、大事にしてもらってるし…』

そう考えると政略結婚ではあったが、自分にはかなり()ぎた相手と結婚出来たと思う。

(レン)が自分のどこに()かれたのかはわからないが、鴻夏(コウカ)にとっては理想を(はる)かに越えた相手と言っても過言(かごん)ではなかった。


ふと前を見ると、屈強(くっきょう)な男達の間から白馬を優雅(ゆうが)(あやつ)(レン)の姿が見えた。

たったそれだけの事で、鴻夏(コウカ)の心臓は無意味に大きく跳ね上がる。

初めて会った時は、人混みに(まぎ)れたらすぐに見失いそうなほど印象が薄い人だと思った。

各国の要人(ようじん)達のような威圧的(いあつてき)な雰囲気はまるでなく、むしろ野に咲く名もない花のように、ひっそりとした印象だった。

でもそれはそう見せかけていただけで、実際の(レン)は誰よりも輝かしい存在であった。

今となっては、どうやって正体を隠していたのかと思うほど、圧倒的な存在感である。

そしてその時ふと鴻夏(コウカ)は気付いてしまった。

長年この南方領を治め、老若男女(ろうにゃくなんにょ)を問わずモテる(レン)に、恋人が居なかったはずはないと。

しかもこれから行く南方領の砦には、女子供もかなり居るという。

もしかしたらその中に、(レン)の昔の恋人も居るかもしれないと思った途端、鴻夏(コウカ)()(よう)のない不安と怒りに()られた。

もちろん実際に居たとしても、それは自分と出逢(であ)う前の話なのだから、正直仕方のない事なのはわかっている。わかってはいるが、それでも面白くないものは面白くない。


「こ…鴻夏(コウカ)様?どうしたんだい、急に…?」

ふいに鴻夏(コウカ)から抑えようのない怒りの気配を感じ、暁鴉(ギョウア)が恐る恐る問いかける。

するとゆらりと不気味な気配を発しながら、鴻夏(コウカ)が低い声でこう問いかけてきた。

「…ねぇ、暁鴉(ギョウア)。砦には女性も沢山いらっしゃるのよね?中には、(レン)と良い仲だった方もいらっしゃるのかしら…?」

「あー…うん、まぁ(あるじ)も男だし、それなりに居た事は居た…かな…」

普段にはない妙な迫力に負けて、思わずぽろりと暁鴉(ギョウア)が正直に話してしまう。

すると更にゆらりと鴻夏(コウカ)の迫力が増した。

「そう…やっぱりいらしたの。なるほどね…」

「あ、あー…、でも鴻夏(コウカ)様?言っとくけど、付き合ってたとかじゃなくて、その場限りと言うか、ほら男性特有の生理現象でのお相手と言うか…」

「別にいいのよ?私と出逢(であ)う前のお話だし、あれだけモテる(レン)が、今まで一人だったはずはないですものね…」

ニッコリと微笑みながらも、かつてないほど迫力に満ちた鴻夏(コウカ)に、暁鴉(ギョウア)気圧(けお)される。

どう頑張っても、過去の事は今更どうしようもないのだが、それでも実際に居たと言われると腹が立ってしょうがない。

『わかってるわよ。(レン)は私よりずっと大人で、仕事とあれば男女問わず誰のお相手でもしてたって事も聞いてる。でも実際にそういう関係にあった人達と会うのは…嫌だ』

ドロドロとした何とも言えないドス黒い気持ちが、急激に鴻夏(コウカ)を支配していく。

自分で自分が嫌になりながら、鴻夏(コウカ)はそれっきり黙り込み、キツく目を閉じた。

…そして鴻夏(コウカ)は知らなかった。

生まれて初めて感じるその感情の正体を。

それが『嫉妬(しっと)』という感情だと鴻夏(コウカ)が知るのは、もっと後の事であった。




幾度(いくど)かの休憩(きゅうけい)を交えながら、余裕のある速度で砦へと向かっていた一行は、順調に旅程を終え、陽が傾き始める前に砦へと到着した。

噂には聞いていたものの、こうして実際に砦と国境の外壁とを目にした鴻夏(コウカ)は、その予想以上の壮大(そうだい)さに圧倒(あっとう)される。

特に草原を縦断するように(つら)なる石の外壁は、まるでそこだけが異質なもののように感じられ、その存在を否応(いやおう)なく主張していた。

「す…ごいのね…。これが(レン)が作ったという、月鷲(ゲッシュウ)との国境…」

茫然(ぼうぜん)としながらそう呟くと、隣の暁鴉(ギョウア)がこう付け加える。

「ああ、これが鴻夏(コウカ)様の旦那(だんな)偉業(いぎょう)の一つ。国境の外壁さ。これが出来るまでは、月鷲(ゲッシュウ)の奴等に好き放題に侵入されてたんだが、これが出来てからは大規模な侵入は一度もない。これもうちの(あるじ)が、先を見越してこの外壁を作ってくれたお陰だよ。大したもんだろ?」

「え、ええ…。本当にすごいわ」

改めて(レン)偉大(いだい)さに感動しつつ、鴻夏(コウカ)は空に(そび)え立つ頑強(がんきょう)な石壁を見つめる。

高さが数十メートルにも及ぶ外壁は、ただそこにあるだけで月鷲(ゲッシュウ)の騎馬隊の侵入を防ぎ、盗賊(とうぞく)等の行き来を制限する。

まさに攻守どちらの役割も担っているのだという事は、戦略に(うと)鴻夏(コウカ)にも理解出来た。

そしてそうなるのが分かっていながら、この厳しい条件を()まざるを得なかったという事は、それだけ(レン)の存在が月鷲(ゲッシュウ)側にとって脅威(きょうい)であったという事に他ならない。


知れば知るほど(すご)い人なのだと思うが、普段の(レン)はただひたすら穏やかで、とてもそんな偉業(いぎょう)を達成するような人物には見えない。

だが時折(ときおり)垣間(かいま)見せる、あの冷たくも美しい獣のような(レン)ならば、こういう事もするのだろうという事は容易(ようい)に想像出来た。

そして鴻夏(コウカ)はポツリとこう呟く。

「ねぇ、暁鴉(ギョウア)…。こんな偉大(いだい)な夫に、私はどうやって追いつけばいいのかしら…?(レン)の事を知れば知るほど、その隣に立つのが自分で良かったのか不安になるの。こんな役立たずの正妃で、本当にいいのかしら…?」

不安そうにそう呟く鴻夏(コウカ)に、暁鴉(ギョウア)はさらりと答える。

「…鴻夏(コウカ)様は役立たずじゃないよ。前にも言ったけど、あんたはあんたにしか出来ない事をちゃんとやってる。少なくとも(あるじ)の側近連中は、あたしも含めてあんたが(あるじ)の奥さんで良かったって思ってるよ」

暁鴉(ギョウア)…」

「…そもそも(あるじ)が優秀過ぎるんだよ。あれだけ嫌味なくらい、何でもこなせるのはそうは居ないよ。あと旦那(だんな)偉大(いだい)だからって、別にその奥さんまで偉大(いだい)である必要はないだろ?むしろ夫婦としてバランス取るには、鴻夏(コウカ)様はもっと抜けててもいいくらいさ」

ガシガシと頭を()きながらそう言われ、鴻夏(コウカ)は思わず吹き出してしまう。

でも暁鴉(ギョウア)のお陰で、重圧で(くじ)けそうになっていた気分が、楽になったような気がした。


「…ありがとう、暁鴉(ギョウア)。私も風嘉(フウカ)の皆が大好きよ。ここに嫁げて良かったわ」

晴れ晴れとした笑顔で暁鴉(ギョウア)にそう告げると、鴻夏(コウカ)は再度 外壁を見上げる。

この外壁のように、容易(ようい)に超えられない問題は、これからも沢山出て来るのだろう。

でも自分一人では無理でも、皆の助けさえあれば、それも容易(ようい)に超えられる気がした。

そうこうしているうちに陽が傾き始め、鴻夏(コウカ)侍女(じじょ)等に呼ばれその場を後にする。

そして皇都(おうと)を旅立って三日目、ついに鴻夏(コウカ)は南方領の砦に入ったのだった。




パチパチという松明(たいまつ)()ぜる音を聞きながら、薄暗い石畳(いしだだみ)の廊下を通り抜けると、ふいに広々とした大きな広間に到達した。

そこには老若男女(ろうにゃくなんにょ)を問わず、たくさんの人々が集まっていて、鴻夏(コウカ)を含めた視察団の一行を大歓声と共に迎え入れてくれる。

そして鴻夏(コウカ)は、その予想外の人の多さに圧倒され、しばし呆然(ぼうぜん)としてしまった。

ここは南方領の砦の中。

外観はどちらかというとこじんまりとした、石造りの素朴な建物であったが、その中には予想外にたくさんの人々が集っていた。

まるでここが一つの街であるかのように、老人から子供に至るまで、実に様々な年齢の人々が居て、さらにその間を()うように犬や猫、(にわとり)山羊(やぎ)などの動物も()け回っている。

まるでびっくり箱のように突然現れたたくさんの人々に、鴻夏(コウカ)唖然(あぜん)としていると、隣に立つ(レン)がくすくすと笑いながらこう言った。

「驚きましたか?思ったよりたくさんの人が居るでしょう?」

「え、ええ…。外観から想像してたより、ずっとたくさんの人が居るのね…」

素直にそう感想を述べると、穏やかな口調で(レン)が答える。

「…この辺りは、まだ月鷲(ゲッシュウ)からの侵入(しんにゅう)が絶えなくて、何かと物騒なんですよ。だから人々は安全のため、砦で暮らしているんです」

「つまりこの辺りに街や村はないって事?」

「そうなりますね。もっと国境から離れた場所にはありますが、この辺りの人々は放牧(ほうぼく)や畑仕事の時のみ外へ出て、寝起きはすべてこの砦でしているんです」


なるほど…だからこんなに人が居るのかと、鴻夏(コウカ)は妙に納得したが、それでもどこを見ても人、人、人で、まるでちょっとしたお祭りにでも来たような状態である。

こんなただでさえ人だらけなのに、自分達の泊まれる部屋はあるのかと思ったが、その考えを読んだかのように(レン)がこう言った。

「これだけ人が居るので、当然 部屋数は足りません。だから大半の人々は、砦の中庭などに天幕を張って暮らしています。でも私達は客なので、ちゃんと部屋が用意されていると思いますよ」

「そ、そうなのね…」

それでもすごい状態だわと思いつつ、鴻夏(コウカ)は改めて周りを見回す。

満面の笑みを浮かべた人々が、口々に隣に立つ(レン)に向かって『白龍(はくりゅう)』と叫んでいた。

後宮(こうきゅう)での人気振りも凄いが、ここではさらにその上を行く熱狂振りが(うかが)える。

それを確認し、チラリと隣に立つ(レン)に視線を送ると、(レン)はにこやかに彼等に向かって手を振り返していた。

その姿がいつもより多少 (くだ)けているように感じられて、そこはやはり古くからの付き合いがそうさせているのだろうと鴻夏(コウカ)は思う。

『覚悟はしていたけど、本当に凄い人気振りね…。やっぱりこの砦に居る間は、(レン)の隣には居られないかも…』

仕方ないと諦め気味にそう思った途端、グイッと鴻夏(コウカ)は隣の(レン)に肩を引かれる。


「え、ええっ⁉︎な、何…?」

驚いて隣に立つ(レン)にそう尋ねると、(レン)はさも当然のようにこう言った。

「ダメですよ、鴻夏(コウカ)。私の隣に居るんだったでしょう?」

「え…でもあの…南方領の皆さんが、(レン)を待ってるわけで、私が居たら邪魔なじゃ…?」

思わずそう言うと、(レン)がスッと鴻夏(コウカ)に近付きその耳元でこっそりこう(ささや)く。

「…関係ありません。私にとって、鴻夏(コウカ)以上に優先すべき事項はありませんからね。あと私が貴女を離したくないんです」

ニッコリと(つや)っぽく微笑まれ、鴻夏(コウカ)が一瞬で()でダコのように赤くなる。

相変わらず天然タラシのこの夫は、とんでもない時にとんでもない事を言ってくれる。

恥ずかしくて倒れそうになりながら、鴻夏(コウカ)が困っていると、突然誰かがクイクイッと鴻夏(コウカ)のドレスの(すそ)を引いた。

驚いてそちらに目を向けると、(ほお)を真っ赤にした可愛らしい五〜六歳くらいの女の子が、小さな花束を手に鴻夏(コウカ)の足元に立っている。

目が合うと、その少女は手にした花束を鴻夏(コウカ)に差し出しつつ、満面の笑顔でこう言った。

「これあげる、お姫様」

「あ、ありがとう。えっとお名前は?」

宝砂(ホウシャ)!」

「そう、宝砂(ホウシャ)と言うの。ありがとう、とても綺麗な花束ね、宝砂(ホウシャ)

鴻夏(コウカ)が少女と視線を合わせるため、笑顔でその場に(かが)み込むと、宝砂(ホウシャ)の方も実に嬉しそうにニコッと笑う。

そして宝砂(ホウシャ)はとても無邪気(むじゃき)な様子で、隣に立つ(レン)に向かってこう問いかけた。


「ねぇ、『白龍(はくりゅう)』。このお姫様が『白龍(はくりゅう)』のお嫁さん?」

「そうですよ、宝砂(ホウシャ)。この姫の名は鴻夏(コウカ)と言います。綺麗で優しいでしょう?」

「うん、すっごく綺麗!今まで見た人の中で一番綺麗!宝砂(ホウシャ)鴻夏(コウカ)様が大好き!『白龍(はくりゅう)』とお似合いだね」

「…それはどうも、宝砂(ホウシャ)。私もね、鴻夏(コウカ)の事が大好きなんですよ」

悪戯(いたずら)っぽくそう答えた(レン)は、いつの間にか宝砂(ホウシャ)に合わせてその場に片膝をついていた。

何となくほのぼのした雰囲気の中、宝砂(ホウシャ)の母とおぼしき女性が慌てて駆け寄ってくる。

「まぁ、宝砂(ホウシャ)!す…すみません、『白龍(はくりゅう)』、お妃様。うちの子がとんだご無礼を…!」

「いえ、宝砂(ホウシャ)鴻夏(コウカ)に花束を渡してくれただけです。何も悪い事はしていませんよ」

ニッコリ笑って(レン)はそう答えたが、宝砂(ホウシャ)の母は皇帝夫妻に膝をつかせてしまった事に恐縮し、ひたすら謝り続けている。

このままでは、この小さな少女が叱られてしまうと思った鴻夏(コウカ)は、恐る恐る母親に向かってこう声をかけた。

「あの…どうぞ、(おもて)を上げてください。宝砂(ホウシャ)は本当に何も悪い事はしていません」

「で…でも、『白龍(はくりゅう)』とお妃様に膝をつかせてしまうなど…恐れ多い…」

そう言って母親は石畳(いしだたみ)の上で土下座(どげざ)をしていたが、鴻夏(コウカ)はその手をスッと取ると、その場に居る者すべてに聞こえるようこう言った。


「いいえ…私が彼女に、ちゃんとお礼を言いたかっただけなんです。とても優しい素敵なお嬢さんですね」

そう言ってニコッと鴻夏(コウカ)が微笑むと、鴻夏(コウカ)に手を取られた母親は、相手のあまりの美しさに呆然として固まってしまう。

そしてそれを見た宝砂(ホウシャ)が、実に子供らしく素直にこう叫んだ。

「あ〜、お母さんだけズルい〜!お花あげたのは宝砂(ホウシャ)なのに、なんでお母さんだけ鴻夏(コウカ)様に手を握ってもらってんの?」

「こ、これ、宝砂(ホウシャ)!」

真っ赤になって母親がそう言うと、その場にドッと笑いが(あふ)れる。

それを見てもう大丈夫だろうと思い、鴻夏(コウカ)はそっと母親の手を離すと、今度は不平を()らす宝砂(ホウシャ)に向き直りこう言った。

「じゃあ綺麗なお花をくれた宝砂(ホウシャ)には、特別にギュッてしてあげる!おいで」

ニコッと鴻夏(コウカ)が両手を広げて呼ぶと、パアッと輝くような笑顔で宝砂(ホウシャ)が飛びついて来る。

それを優しく受け止めると、鴻夏(コウカ)は少女を抱き締めながら、優しくその頭を撫でた。

その姿を見ながら、広間のあちこちで鴻夏(コウカ)に対する感嘆(かんたん)の声が上がる。

「おぉ…何とお優しい…。さすが『白龍(はくりゅう)』の選んだお妃様だ」

「綺麗でお優しくて、まるで女神様みたいだねぇ…。あんな綺麗な方、初めて見たよ」

ワイワイとそう語り合いながら、砦の住人達がひたすら鴻夏(コウカ)に感心する。

そしてあっという間に住人達の心を(つか)んだ鴻夏(コウカ)に、(レン)も穏やかな眼差しを向けた。

そんな中、人混みのあちこちからいくつかの厳しい視線が鴻夏(コウカ)を射抜く。

それは先程、鴻夏(コウカ)も初めて抱いた『嫉妬(しっと)』と言う名のドス黒い感情だった。




(にぎ)やかな音楽が、草原の砦に流れていた。

様々な世代の人々が、全員実に楽しげに歌い騒ぎ踊っている。今この砦の住人達は、久し振りの『白龍(はくりゅう)』の帰還に喜びに()いていた。

その大騒ぎの中、鴻夏(コウカ)は周囲の熱気に圧倒されつつも、(レン)の隣で困り果てている。

それというのも、今日に限って(レン)がまったく鴻夏(コウカ)の事を解放してくれず、それを不満に思う砦の住人達から、殺されんばかりの嫉妬(しっと)の眼差しを受けていたからだ。

お陰で先程から鴻夏(コウカ)は、ひどく居心地(いごこち)の悪い思いをしながら、(レン)の隣に座り続けている。

そしてついにそれに耐え切れなくなった鴻夏(コウカ)は、周囲に聞かれないよう注意しつつ、そっと小声で(レン)に何度目かのお願いをした。

「れ…(レン)。その…そろそろ離してもらえないかしら?私ずっと(にら)まれてるんだけど…」

「…ダメです。鴻夏(コウカ)は私の妃なんですから、私の隣に居るのが普通でしょう」

さらりとそう言われ、確かにそうなんだけど…とは鴻夏(コウカ)も思う。

(レン)の言う通り、正式な場での正妃の席は皇帝の左隣と決まっており、妃は皇帝の許しなくして勝手に席を立つ事は許されない。

だからこの場合、鴻夏(コウカ)が席を離れるには(レン)の許可が必須なのだが、その(レン)が何度お願いしてもまったく許可をくれないのだ。

何で今日に限ってこうなのか、さっぱりその理由がわからない鴻夏(コウカ)は、それでもしつこく(レン)()い下がってみる。


「で…でも、ほら砦の皆さんが(レン)と会うのは一年振りなわけだし、私が(レン)(そば)に居たら、近寄り(がた)くて困ってるみたいじゃない…?」

やんわりとそう言ってお願いしてみたが、言われた(レン)の方は取り付く島もない。

冷たいくらいにあっさりと、こう言ってその願いを却下した。

「別に…気にしなければいいだけでしょう。私の方は特に気にしません」

「れ、(レン)…っ、私が気になるんだってばっ!さっきから私、(レン)信奉者(しんぽうしゃ達に殺されそうな勢いで(にら)まれてるだけど…?」

「そうですか。まぁ仕方ないですね」

「そうですかじゃなくてっ!」

一体今日に限ってどうした?と思いつつ叫んだ瞬間、急にふわりと鴻夏(コウカ)の身体が浮いた。

そして自分の身に何が起こったのか理解する前に、ストンと鴻夏(コウカ)はとんでもない場所に降ろされる。

「…周囲の視線が気になるなら、こうすればいいでしょう?これで解決ですね」

ニッコリ笑いながら意地悪(いじわるくそう言った(レン)に、鴻夏(コウカ)は驚きのあまりぽかんとする。

何と鴻夏(コウカ)()りに()って、(レン)の左隣から(レン)の膝の上へと移動させられていた。

そしてそれにやっと気付いた鴻夏(コウカ)が、真っ赤になってこう叫ぶ。


「ちょ…っ、ちょっと(レン)っ⁉︎な、何考えてんのっ!さっきより悪くなってるじゃない⁉︎」

そう叫ぶと同時に、周囲からも野次(やじ)が飛ぶ。

「お〜、さすが新婚だねぇ!月鷲(ゲッシュウ)から怖れられた『白龍(はくりゅう)』も、奥さんには形無(かたな)しかぁ!」

「あっつい、あっつい!何だよ、『白龍(はくりゅう)』。視察じゃなくて、奥さん見せびらかしに来たんじゃね〜のぉ?」

そう言われて、チラリとそちらに視線を向けた(レン)は、ニッコリ笑ってこう答える。

「そうですよ。鴻夏(コウカ)は私の自慢の妃なので、片時(かたとき)も離したくないんです」

その発言におお〜っ⁉︎と周囲は異常に盛り上がったが、鴻夏(コウカ)は恥ずかしいやら怖ろしいやらで生きた心地(ここち)がしなかった。

それなのに(レン)は、鴻夏(コウカ)を腕の中に閉じ込めたまま、まったく解放してくれない。

唯一の救いは、(レン)の膝に乗せられてしまった事で、(レン)以外の相手をまったく見る必要もなくなった事だろうか?

だがそれも緊張のあまり心臓がバクバクして、まったくもって落ち着かなかった。

だから鴻夏(コウカ)は気付かなかった。

一見 妃を熱愛する夫を演じながら、(レン)嘉魄(カハク)暁鴉(ギョウア)に密かに指示を送っていた事を。

誰にも(さと)られないよう、目線だけで行われた指示に二人はスッと(うなず)くと、誰にも気付かれないようその場から消える。

そして宴は誰にも(さと)られる事なく、最高潮に盛り上がったのだった。

続く

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