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風嘉の白龍 〜花鳥風月奇譚・2〜  作者: 緋影 あきら
2/12

ー璉瀏帝の側近達ー

鴻夏(コウカ)風嘉(フウカ)の後宮に入って一ヶ月。

さすがにこれだけ()つと、後宮に居る者達の顔と名前が結構一致するようになってくる。

もちろん忍達のように、常に入れ替わりで各国に(おもむ)いているような者達の中には、未だに出会った事がない者も居るのだが、常時 後宮内に居るような女官や侍女(じじょ)、騎士達の事は大方(おおかた)わかるようになってきていた。

それと共に、彼等の子供や親などの家族関係の方も何となく覚えてくる。

だがそういった事はわかっても、この国の官僚(かんりょう)達の事となると、正直顔も名前もさっぱりわからない。

鴻夏(コウカ)がわかるのは、(レン)の側近でほぼ毎日のように後宮で寝泊まりしている、宰相 () 黎鵞(レイガ)や内政官 (コウ) 牽蓮(ヒレン)ぐらいであった。

もちろん他にも将軍 (ハク) 須嬰(シュエイ)や財務長官 (タイ) 樓爛(ロウラン)なども知っているが、彼等は結婚式の後、それぞれが本来居るべき東方領と西方領へと戻ってしまい、中央には残っていなかった。

正直 会ったばかりの樓爛(ロウラン)はともかく、須嬰(シュエイ)については結構お世話になったという自覚があるので、東方領に戻ってしまった事をとても残念に思っていたのだが、その日の夜、夕食の席での話題でふいに(レン)がこう言ったのだ。


「…やはりそろそろ須嬰(シュエイ)には、中央に戻ってもらおうかと思うんですよね…」

須嬰(シュエイ)を中央に…でございますか?」

確認するかのように黎鵞(レイガ)がそう尋ねると、(レン)は淡々とこう続ける。

「東方領は花胤(カイン)との国境の要所(ようしょ)ですが、私が鴻夏(コウカ)(めと)った事で、しばらくは安泰だと思うんですよ。同じく南方領も月鷲(ゲッシュウ)鴎悧(オウリ)帝が立ってくれたお(かげ)で、今のところ友好関係が(きず)けています。また西方領は元々が海に面した場所ですので、あまり他国の影響がありません。むしろ今 一番きな臭いのが…」

「…北方領。鳥漣(チョウレン)との国境ですね」

冷静にそう答える黎鵞(レイガ)(レン)が無言で頷く。

そして穏やかにこう付け加えた。

「ここの所、鳥漣(チョウレン)からの不法侵入(ふほうしんにゅう)頻繁化(ひんぱんか)しています。表向きは盗賊(とうぞく)などを(よそお)っていますが、裏で国が関与している可能性が高い…。(かく)たる証拠がないので、()えてこちらから仕掛(しか)ける気はありませんが、このまま放置もしておけないでしょう」

そう言って(レン)が言葉を区切ると、続けて黎鵞(レイガ)が考え込みながらこう呟く。

「それに…近々あちらの方から仕掛(しか)けてくる、という可能性もあり得ますね…。そうなると確かに色々な事態に備えて、須嬰(シュエイ)には中央に居てもらった方が良いかもしれません」


無事に黎鵞(レイガ)賛同(さんどう)も得られたところで、今度は別の問題で(レン)が溜め息をつく。

「…しかしそうなると、問題は誰に東方領を任せるか…なんですよねぇ…」

「確かに…。東方領もあれでなかなか難しい場所ですし、そもそも須嬰(シュエイ)の代理を派遣したところで、受け入れてもらえるかどうか…」

そう言って黎鵞(レイガ)も深い溜め息をつく。

そして牽蓮(ヒレン)がトドメとなる一言を呟いた。

「…まぁ、誰が行っても大変ですよね。ついに西方領以外は、すべて無法(むほう)地帯(ちたい)ですか…」

その意味深(いみしん)()ぎる牽蓮(ヒレン)台詞(せりふ)に、ついに我慢(がまん)がしきれなくなった鴻夏(コウカ)が、手を挙げて質問をする。

「…あのぅ…よくわからないのだけれど、西方領以外が無法(むほう)地帯(ちたい)って…?」

そう聞かれた(レン)黎鵞(レイガ)が、思わず顔を見合わせ困ったように苦笑する。

そして(レン)がおもむろに、その口を開いた。

「…実は北方領と南方領は、随分前から長官が不在なんですよ。今まで何度も新しい長官を派遣(はけん)しましたが、なかなかあちら側に受け入れて貰えず、結局そのまま追い返され続けているんですよね…」

「え、じゃあ今、北方領と南方領ってどうなってるの⁉︎」

そう鴻夏(コウカ)()いつくと、(レン)が苦笑しつつこう答える。

「…まぁ一応北方領の方は、つい最近 (タイ)が長官の座に()く事で、何とか代理の長官を受け入れてもらいました。そうは言っても(タイ)はまだ幼いので、基本名義上だけの長官になりますが…。ただ南方領の方はまだ折り合いがつかなくて、未だに代理の長官すら居ない状態なんです…」


「え、それって…大丈夫なの?もし南方領で何かあったら、一体誰が判断をするの?」

思わず素朴(そぼく)な疑問を口にした鴻夏(コウカ)だったが、それに対し、牽蓮(ヒレン)が丁寧に回答をする。

「…小事(しょうじ)に関しては、駐屯(ちゅうとん)している南方軍の上層部の方で判断する事になりますね。ただ大事(だいじ)となると、やはり中央に知らせてそこから判断を(あお)ぐ事になると思います」

「中央の…誰に判断してもらうの?」

「長官不在の代理ですから、その上となると私か黎鵞(レイガ)が判断する事になりますね」

あっさりそう答えた(レン)に対し、鴻夏(コウカ)が思わず目を丸くする。

「えっ⁉︎いきなりそこまで上に飛ぶの⁉︎」

そう()いついた鴻夏(コウカ)に対し、今度は黎鵞(レイガ)が説明をする。

「飛びますね…。というか、東西南北の長官は、文官の最上位である宰相と武官の最上位である将軍の次に重要な職なんです。何しろそれぞれの領には駐屯兵(ちゅうとんへい)が居るので、長官は個人的に動かせる大軍を持つ事になります。また基本領内で起こった事は、すべて長官の采配(さいはい)で処理されるので、それなりの政治力も持つ事になります。だから中央に残っている大臣達より、実質的(じっしつてき)権威(けんい)があるんですよ」

淡々と説明され続ける内容に、なるほどとひたすら感心しながら聞いていた鴻夏(コウカ)だったが、その時ふと新たな疑問に気付き、ポツリとこう呟く。

「あれ?じゃあ北方領と南方領の最後の長官って、誰なの…?」

その何気ない呟きに、突然 (レン)黎鵞(レイガ)が気まずそうな顔をする。

一瞬聞いてはいけない内容だったのかと思ったが、その答えは実に意外なものだった。


「…北方領の最後の長官は、ここに居る黎鵞(レイガ)です。でも彼にはどうしても、宰相になってもらわなければならなかったので、無理を言って中央に戻ってもらいました。でも北方領の者達は、(いま)だに黎鵞(レイガ)の事を崇拝(すうはい)していて、黎鵞(レイガ)以外の長官は認めないと断固拒否(だんこきょひ)しているんです」

そう言われた途端、なるほど…と鴻夏(コウカ)はあっさりと納得する。

確かに一度こんな人間離れした美形の長官を迎えてしまったら、目が()えてしまって、到底(とうてい)並の者では満足出来なくなるだろう。

しかも黎鵞(レイガ)は美しいだけでなく、この風嘉(フウカ)一の知恵者でもある。

おそらく北方領の者達にとっては、これ以上ないほど自慢(じまん)の長官だったに違いない。

それを横取(よこど)りされ、他の者を寄越(よこ)されたところで納得できないのは当たり前の事だった。

だから長年に渡って北方領は長官不在の状態が続き、最終的には皇太子である(タイ)が長官に()かざるを得なかったのであろう。

しかしそうなると、南方領の元長官とは一体どんな人物だったのか…?

(レン)の側近中の側近である、黎鵞(レイガ)須嬰(シュエイ)樓爛(ロウラン)と肩を並べても遜色(そんしょく)がないほどの人物なんて、まったく想像もつかなかった。

そこで鴻夏(コウカ)は重ねてこう尋ねてみる。


「…それじゃ南方領の最後の長官は?」

そう尋ねた途端に、更にバツが悪そうに(レン)が思わず黙り込む。

それに対し不思議そうな顔をしていると、代わりに黎鵞(レイガ)が遠回しに教えてくれた。

「南方領の最後の長官は、今 鴻夏(コウカ)様の目の前にいらっしゃいますよ」

「目の前…?え、もしかして(レン)っ⁉︎」

思わず鴻夏(コウカ)がそう叫ぶと、(レン)が観念したかのように小声でこう答える。

「…まぁそうなります…。でも長く務めたというだけで、特に何も…」

「何をおっしゃっているのやら…。昔から南方領は荒っぽい連中が多い上に、貴方以外の言う事は聞かない事で有名じゃないですか。先帝の時代だって、それが原因で最後は独立(どくりつ)国家化(こっかか)してましたしね」

そう黎鵞(レイガ)に言われ、(レン)が困ったように黙り込むと、相変わらず空気を読まない牽蓮(ヒレン)が、余計な事を口にする。

「え、でも北方領だって、似たような状況ですよね?あの手この手で次々と新長官をいびり倒して、最終的に『黎鵞(レイガ)様より(おと)る者など認めない』って追い返して…。お陰で再起不能(さいきふのう)になる官僚(かんりょう)続出で、今じゃ誰も()きたがらない職の一つですよ」

そう言われ、今度は黎鵞(レイガ)も黙り込む。

チラッと話を聞いただけでも、これはどちらも筋金(すじがね)()りの親衛隊(しんえいたい)状態だなと鴻夏(コウカ)は思ったが、とりあえず口にしたのは、自分なりにまとめた内容のみであった。

「要するに前任者の(レン)黎鵞(レイガ)()えるような人物が居ないから、北方領と南方領はずっと長官が不在なのね?」

「…まぁそういう事になりますかね…」

かなり気まずそうに(レン)がそう答えたところで、ふと鴻夏(コウカ)は重大な事に気付く。


「あれ…?でもさっき北方領の今の長官は、(タイ)だって言ったわよね?(タイ)は北方領の人達に認められたの⁉︎」

「まぁ一応は…。(タイ)は先帝の遺児(いじ)で、現皇太子でもあります。そのため身分的には文句の付けようがありません。また彼自身が優秀だというのも風嘉(フウカ)では有名な話ですので、その将来性を買われてというところもあると思います。でも一番の勝因(しょういん)はあの容姿ですね…」

そう言って(レン)が苦笑する。

その意図(いと)するところがわからず、キョトンとしていると、(レン)鴻夏(コウカ)のために補足説明をしてくれた。

「…(タイ)は髪と瞳の色こそ違えど、『鳥漣(チョウレン)金晶(きんしょう)姫』と呼ばれた先の皇后、紫翠(シスイ)妃の容姿を色濃く受け継いでいます。まだ幼いため気付きにくいかもしれませんが、将来的にはこの黎鵞(レイガ)にも匹敵する容姿になる可能性が高いと思いませんか…?」

「あ…っ、そういう事…!」

そう言われ、ようやく事の子細(しさい)が理解出来た鴻夏(コウカ)が、小さく叫ぶ。

確かに黙って座っていると、(タイ)は人形のように美しかった先の皇后そっくりの美少年だ。

美しさの種類は違えど、確かに黎鵞(レイガ)に匹敵するだけの容姿になる可能性を持っている。

けれど鴻夏(コウカ)は、更にもう一つの気になる点について口にした。

「でも…(タイ)はいずれ皇帝になるんでしょう?そうなると、また北方領の長官が不在になっちゃうんじゃ…?」

そう言われ、(レン)が苦笑しつつもこう答える。

「…そうなんです。だから北方領の問題も、当座(とうざ)暫定策(ざんていさく)が取れたというだけで、根本的な解決はまだなんですよ」

…これはなかなか頭の痛い問題だなと、政治に(うと)鴻夏(コウカ)でもそう思った。




そして夕飯の後、お互い風呂を済ませて自室に戻った(レン)鴻夏(コウカ)は、再び鴻夏(コウカ)の部屋でゆったりとお茶をしながら、語り合っていた。

実は(レン)の自室と鴻夏(コウカ)の自室は、扉一枚で(つな)がっているため、最近はこうして寝る前に二人っきりで過ごす時間が増えている。

最初こそこのまま(レン)(いただ)かれてしまうのではないかと、無駄に緊張していた鴻夏(コウカ)だったが、訪ねては来るものの特に何もされない日々が続くにつれ、鴻夏(コウカ)の方もだんだんと警戒(けいかい)をしなくなっていった。

それというのも、最近になって気付いたのだが、この(レン)という男はやたらと経験豊富な割に、実はあまり性欲がない。

もちろん仕事上、相手に望まれれば誰の相手でもするとは聞いているが、自分の方から何かを仕掛けるという事はないようだった。

だからこうして毎晩二人で居ても、意外な事に鴻夏(コウカ)はまったく何もされていなかった。

手を出されたのはあの月見をした夜だけで、その後は毎晩普通にお茶をして、会話をしたりゲームをしたりしているだけなのである。

正直有り難くはあるのだが、逆に自分があまりにも子供過ぎて、魅力不足なのかもしれないとも思わないでもなかった。

そしてその事をわかっているのかいないのか、相変わらず読めない雰囲気のまま、(レン)鴻夏(コウカ)にゆったりと語りかける。


「そろそろ年に一度の南方領への視察(しさつ)の時期なんですよね…」

「南方領って、確か(レン)が最後に長官をしていたっていう…?」

つい先程 聞いたばかりの話を思い出し、鴻夏(コウカ)がそう尋ねると(レン)が穏やかに頷く。

「そう…少々難しい土地柄のため、毎年私が直接視察に出向いているのですが、今年は鳥漣(チョウレン)側に不穏な動きがあるので、実は行くのを迷っているんですよね…。私が留守にする事で、黎鵞(レイガ)だけでは手に余る事態が起こる可能性があるので、出来ればその前に中央に須嬰(シュエイ)を呼び戻しておきたいんですよ」

淡々とそう語りながら、(レン)が少し考え込む。

もう寝るだけだからか、いつもは軽く一つにまとめている髪も自然に下ろしたままで、夜着(やぎ)の上に軽く上着を羽織(はお)っただけの姿の(レン)は、何故か妙に色っぽい。

ここのところ毎晩見ている姿とは言え、こればっかりはどうにも慣れず、何となく目のやり場に困りながら、鴻夏(コウカ)は視線をあらぬ方へと彷徨(さまよ)わせつつ、密かに溜め息をついた。

するとそれに気付いた(レン)が、ふいに鴻夏(コウカ)の頰に手を伸ばし、こう尋ねてくる。

「…どうしました、鴻夏(コウカ)?」

急にお互いの体温を感じられるほど近くに(レン)が近付き、一瞬で鴻夏(コウカ)の息が止まる。

かろうじて声こそ出さなかったものの、鴻夏(コウカ)は心の中で混乱しながら叫んでいた。


『ちょっとちょっとー⁉︎近い、近いってば!な、何でこんな時に限って、急に触ってくるのよ〜⁉︎ただでさえ妙に色っぽくて、こっちは目のやり場に困ってるってのに、こ…こんな近くに寄って来られたら、避けようがないじゃないっ!』

無言で赤くなったり青くなったりしながら、鴻夏(コウカ)が無意識に後退(あとずさ)ると、(レン)鴻夏(コウカ)の左腕を(とら)え、強引に自らの方へと引き寄せる。

予想外の出来事に、そのまま思いっきり倒れ込んだ鴻夏(コウカ)の身体を軽々と抱き止めると、(レン)鴻夏(コウカ)の額にそっと自らの手を重ねた。

「特に熱はなさそうですけど、先程から妙に赤くなったり青くなったりしてますよね…。大丈夫ですか…?」

そう言いながら(レン)間近(まぢか)から(のぞ)き込まれ、鴻夏(コウカ)の顔がゆでダコのように真っ赤になる。

吸い込まれそうなくらい綺麗な(みどり)の瞳に、自らの姿が映っているのを感じながら、鴻夏(コウカ)は思わず思いっきり叫んでいた。

「だ、大丈夫なわけないでしょー⁉︎こ…これだから天然タラシ男は…っ!こっちは男慣れしてないってのに、次から次へと仕掛けて来ないでくれるっ⁉︎心臓がもたないわっ!」


動揺のあまり本音だだ漏れで叫んだ鴻夏(コウカ)に対し、(レン)がキョトンとした顔をする。

そして少し考えた後、(レン)鴻夏(コウカ)の顔色を伺いつつ、こう尋ねてきた。

「えっと…私、何かしました?多分まだ手は出してないと思うんですけど…」

心底わかってない(レン)に対し、プチンと鴻夏(コウカ)の理性の糸が切れる。

そしてその勢いのまま、鴻夏(コウカ)(レン)の襟元を締め上げつつ声を荒げていた。

「手を出さなきゃいいってもんじゃないでしょー⁉︎さっきから、いちいち心臓に悪い事ばっかり…っ!こ、こっちはその度に心臓破裂しそうなくらい動揺してるんだからね⁉︎その辺わかってるのっ⁉︎」

ほぼ説明になっていない、意味不明の事を叫びつつ、鴻夏(コウカ)が逆ギレ状態で摑みかかる。

するとそれに少し驚きつつも、(レン)はとりあえず冷静にこう返した。

「…あ、はい。すみません…?」

「違〜うっ!そうじゃなく…て…?」

それ以上は喋れなかった。

一瞬自分に何が起こっているのか、鴻夏(コウカ)はまったく理解が出来なかった。

目の前には、これ以上近付けないほどの至近距離で(レン)の顔があり、彼の下ろしっぱなしの髪がまるで帷帳(とばり)のように、鴻夏(コウカ)の周囲を包んでいる。

背中から腰にまで回された(レン)の左腕が、しっかりと鴻夏(コウカ)の身体を支え、右手が軽く(あご)を支えていた。

そこまで理解したところで、ゆっくりと(レン)鴻夏(コウカ)から離れる。


「…ダメですよ、こんな夜遅くに騒いだら。この後宮には小さい子も居るんですから、もう少し静かにね…?」

何だかすごく常識的な事を言う璉に、鴻夏(コウカ)が自らの口元を押さえつつ声もなく固まる。

『ちょっと待って?今…この人、私に何をした?ものすご〜く普通に、軽いノリで口を塞いでくれなかった…?』

そう思った途端、カーッと顔に血が上る。

そして今更ながらに、あの月夜以来の三回目の口付けをされたのだと理解し、鴻夏(コウカ)はひどく動揺した。

しかし相手の方はというと、相変わらず何でもない事のように平然としていて、おそらく鴻夏(コウカ)がようやく静かになったな程度にしか思ってないに違いない。

そう思うと何だか無性に腹が立ってきて、鴻夏(コウカ)は一人真っ赤な顔で憤慨(ふんがい)した。

『ちょっと待ってよ、どういう事?もしかしてこの人、単に私がうるさかったからって理由だけで口付けてない⁉︎え、そんなノリでしちゃっていい事なの⁉︎』

チラリと相手を見上げると、目があった途端に(レン)は軽く微笑んでくれる。

その悪気のない笑顔を見て、鴻夏(コウカ)は一人密かに確信した。

『…間違いないわ、この人。ホントにそれだけの理由で私に口付けてる!そしてこの人にとってあれは挨拶(あいさつ)程度のもので、多分深い意味なんてないんだわ…』

どこまでも厄介な夫に、鴻夏(コウカ)は怒り半分、諦め半分で深い深い溜め息をついたのだった。




翌朝、昨夜の怒りをまだ引きずっていた鴻夏(コウカ)は、朝一番に自らの『影』である暁鴉(ギョウア)の自室を訪ねると、そのまま聞いてくれと言わんばかりに昨夜のあらましを語っていた。

実は暁鴉(ギョウア)の部屋も鴻夏(コウカ)の自室のすぐ隣にあり、いざという時のために、(レン)の自室と同じように扉一枚で(つな)がっている。

さすがに朝一番から何を怒って現れたのかと驚いた暁鴉(ギョウア)だったが、話を聞くにつれ、すぐに昨夜の状況を正確に理解した。

そして少々困った顔で、こう呟く。

「あー…まぁ大体状況はわかった。そんで鴻夏(コウカ)様が何に対して怒ってるかのもよくわかったんだけど…相手が(あるじ)なだけに、それは仕方ない事なんじゃないかとあたしは思うよ…」

(レン)の性格を熟知(じゅくち)しているだけに、暁鴉(ギョウア)は冷たいくらいにあっさりとそう答える。

そしてポツリと聞き逃しそうなほど小さい声で、こう付け加えた。

「うちの(あるじ)はさ…どっちかっていうと、あたしら側の人間だから、そういう当たり前の事に(うと)いのは仕方ないと思うよ」

「…(レン)暁鴉(ギョウア)達と同じって…?それってどういう意味?」

その呟きを聞き逃さなかった鴻夏(コウカ)がそう尋ねると、暁鴉(ギョウア)は困った顔でこう答える。

「そのまんまの意味さ。(あるじ)がまだ話してない事を、あたしが勝手に言うわけにはいかないからこれ以上は話せないけど…でも主に悪気がなかった事だけは、わかってやってくれないかな…?」


どこか(かげ)を帯びたその言葉に、鴻夏(コウカ)は毒気を抜かれたようにこう呟く。

「それは…わかってるわ。だからこそ腹がたつんじゃない…」

その素直な言葉に暁鴉(ギョウア)は微笑むと、クシャクシャと鴻夏(コウカ)の頭を()でながらこう答えた。

「…ホントにあんたは良い子だね。どうかその真っ直ぐな心で、主を()やしてやっておくれよ?あの人には…あんたみたいなのが必要なんだ」

そう言った暁鴉(ギョウア)の様子がひどく哀しげで、言われた鴻夏(コウカ)の方はその意味がよくわからず、けれどそれ以上は何も聞けなかった。

おそらく(レン)や皆にはまだまだ自分の知らない何かがあって、それが原因で時々哀しい顔を見せるのだろう。

だからこんな自分が彼等にとって()やしだというのならば、自分はこのまま変わらずに居るべきなのだろうと鴻夏(コウカ)は思った。

そしてそんな鴻夏(コウカ)の耳に、気持ちを切り替えたように明るい暁鴉(ギョウア)の声が響く。

「さぁ、とりあえず鴻夏(コウカ)様はちゃんと着替えて来なよ。そろそろ朝飯に行かないと、食いっぱぐれちゃうよ?」

「あ、そうね…。ねぇ、暁鴉(ギョウア)待っててくれる?一緒に朝食に行きましょう」

そう鴻夏(コウカ)が誘うと、暁鴉(ギョウア)が笑顔で軽く頷く。

それを確認すると、鴻夏(コウカ)も笑顔で慌てて着替えに戻って行った。



手早く着替えを済ませ、暁鴉(ギョウア)と二人食堂代わりの大広間に入ると、中にはすでにたくさんの人々が集まって居て、まるで朝の市場のように活気に満ち溢れていた。

そして鴻夏(コウカ)が入って来たのに気付くと、途端にあちこちからたくさんの声がかかる。

「おはようございます、鴻夏(コウカ)様」

「おはようございます、先に頂いてますよ」

笑顔で次々と挨拶され、鴻夏(コウカ)も嬉しそうに笑顔を見せながら皆に挨拶を返す。

その様子を離れた場所から見つめながら、總糜(ソウヒ)が楽しそうに隣に座る男に声を掛けた。

「ほ〜っ、結構な人気者じゃん。モテる嫁さん持って心配にならない、(あるじ)?」

そう朝から意地悪く話を振られた(レン)は、特に気にした風もなく、笑顔でこう(かわ)す。

「そうですねぇ。まぁ私は總糜(ソウヒ)ほど嫉妬(しっと)(ぶか)くはないので、そこまで気にはなりませんね」

「…(あるじ)、なんか性格悪いっすよ?」

「おや、そうですか?でも事実ですよね」

ニコッと悪びれもせず(レン)がそう答えると、突然ピシャリと横から黎鵞(レイガ)(たしな)める。

「…總糜(ソウヒ)、口の聞き方に気をつけなさい。(レン)もいちいち相手をしないように。貴方達はもう少し、主従(しゅじゅう)関係について考えるべきです」

そう黎鵞(レイガ)()(くく)ると、(レン)總糜(ソウヒ)も慣れた様子でこう答える。

「まぁまぁ別にいいじゃないですか。私は特に気にしてませんし…」

「そうそう、今更っしょ?」

そう(ゆる)く返すと、ギロッと(にら)みつけられる。

なまじ人間離れした容姿なだけに、黎鵞(レイガ)(にら)まれると妙に迫力があるのだが、そこは慣れた二人の事、平然としながらこう返す。

「あらら…ご立腹(りっぷく)…」

「まぁまぁ黎鵞(レイガ)、そう怒らなくても…」

「…貴方達が怒らせてるんですっ!」

そう黎鵞(レイガ)が強く言い放ったところで、ひょこっと鴻夏(コウカ)が顔を出した。


「おはよう、皆。…なんか朝から珍しく黎鵞(レイガ)が怒ってる…?」

そう鴻夏(コウカ)が声をかけると、焦って黎鵞(レイガ)が席を立ちながら、慌てて()びの言葉を述べる。

鴻夏(コウカ)様…っ!これは失礼を…」

「お、ナイスタイミング〜♪」

總糜(ソウヒ)が軽いノリでそう答えると、すかさずベシッと横の黎鵞(レイガ)に殴られた。

それを横目に見ながら、(レン)(さわ)やかな笑顔で声をかけてくる。

「おはようございます、鴻夏(コウカ)。気持ちの良い朝ですね。体調はいかがですか?」

「…おはようございます、(レン)。べ、別に悪くはないわよ?それより私と暁鴉(ギョウア)も同席させていただいてもいいかしら?」

そう尋ねると、『どうぞ』と彼等は快く了承してくれる。

それを確認し席に着くと、ふと鴻夏(コウカ)は珍しく牽蓮(ヒレン)がこの場に居ない事に気がついた。

「あら…?珍しく牽蓮(ヒレン)が居ないのね?」

「ええ、昨日彼に視察の仕事を頼みまして、今朝は早くから城外に出ています。多分夕方までには戻ってくると思うので、夕食の時には会えますよ」

そう(レン)が答えると、ちょうどそれを見計らったように、次々と鴻夏(コウカ)暁鴉(ギョウア)の前に朝食の品が並べられる。

給仕当番の女官に、にこやかにお礼を述べると、鴻夏(コウカ)は丁寧に手を合わせ、その後に幸せそうに食事を始めた。

それを穏やかに見つめながら、ふいに(レン)黎鵞(レイガ)に話しかける。


「さて今日は牽蓮(ヒレン)が居ないので、複雑な案件の処理は無理ですね…。何か緊急を要するようなものはありましたか?」

「いえ…牽蓮(ヒレン)抜きでも、無理に進めなければならない案件はなかったと思います。それも()まえて、本日の視察の日程を組ませていただきましたので、今日はもっぱら雑事(ざつじ)の処理が中心ですね」

そう黎鵞(レイガ)が答えたところで、それを聞き留めた鴻夏(コウカ)がポツリとこう呟く。

「…牽蓮(ヒレン)ってそんなに優秀なの?」

その問いに、その場に居た者全員が思わず苦笑し、その後に(レン)が代表してこう答える。

牽蓮(ヒレン)はああいう性格なんで、誤解されがちですが、実は数学・物理学の天才学者です。ここに居る黎鵞(レイガ)も、もちろん人並み外れて優秀ですが、それでも牽蓮(ヒレン)には敵いません。確か花胤(カイン)風嘉(フウカ)の皇立学院の最年少首席卒業の記録は、牽蓮(ヒレン)が持っていたと思いますよ」

「え…っ、嘘⁉︎黎鵞(レイガ)より上なのっ⁉︎」

あまりにも意外すぎる答えに、思わず鴻夏(コウカ)()いつくと、黎鵞(レイガ)がにこやかに頷きながら、こう説明してくれる。

「はい。例えば新しく橋を()けるとします。その場合、まず橋を作る予算をどこから捻出(ねんしゅつ)するのか、資材・人手をどこからどう調達すると一番効率がいいのか、またその作りたい場所の地形・環境などから、どの程度の規模のどんな機能を持った橋を設計すべきかなど、決めるべき事はたくさんあります」

そこで一旦言葉を区切った黎鵞(レイガ)は、鴻夏(コウカ)を真っ直ぐに見つめると、続けてこう言った。

「そのため実際の工事を始める前に、普通は専門知識を持った大勢の官僚(かんりょう)が、何ヶ月もかけて調査・計画を行うものなのですが、これを牽蓮(ヒレン)は一人で数時間でやってのけます」


突然さらりと、とんでもない事を言ってのけた黎鵞(レイガ)に、鴻夏(コウカ)は凍りつく。

そして更にそれを補足するように、(レン)がこう付け足した。

「まぁ数時間かかると言っても、その大半は彼の頭の中の内容を正式に文書化するための時間です。答え自体は一瞬で出てますね」

「え…っと、それって普通の人には出来ない…わよね?」

あまりにも信じられない内容に、思わず間抜けな質問を返してしまった鴻夏(コウカ)だったが、それに対し(レン)が丁寧に回答する。

「出来ませんね…。だから天才なんですよ」

「…性格はどうしようもないヘタレなんですがね…。才能自体は本物です。だから今日みたいに牽蓮(ヒレン)が居ない日は、業務が(とどこお)って普段の半分も処理出来ないんですよ」

溜め息混じりに黎鵞(レイガ)もそう答え、鴻夏(コウカ)はこの日初めて、一番普通っぽく感じていた牽蓮(ヒレン)が、実はとんでもない化け物だった事に気が付いたのだった。



その頃 (レン)勅命(ちょくめい)を受けた牽蓮(ヒレン)は、西方領との境にあたる川の橋の上で、財務長官 兼 西方領の長官である(タイ) 樓爛(ロウラン)対峙(たいじ)していた。

今回の彼の視察の目的は、この橋が経年劣化(けいねんれっか)により()け替えが必要になったため、川のどの場所にどの程度の規模の橋を()けるかを決めるためであった。

そしてこの橋は、皇都(おうと)と西方領とを結ぶ重要な行路(こうろ)(かなめ)であるため、当然の事ながら西方領の長官を務める樓爛(ロウラン)も、自らここまで出張(でば)ってきたというわけである。

そして今、二人は橋を()け直す場所とその規模について、真っ向から対立していた。

「だ〜か〜ら〜っ!いくら樓爛(ロウラン)様の頼みでも、無理なものは無理です。その案は採用出来ませんっ!」

「でも西方領の利益を維持するには、必要な事なんだよね〜。こっちも損はしたくないわけだからさぁ、その辺を君のお得意の計算力で何とか出来ないの、牽蓮(ヒレン)君…?」

相変わらずお金が(から)む事になると、(がん)として譲らない樓爛(ロウラン)牽蓮(ヒレン)(ごう)を煮やす。

ギリギリまで今の橋を使いつつ、新しい橋を()け直すとなると、基本同じ場所に()けるというのは無理がある話なのだが、街道整備の仕直しなど西方領側に余計な経費がかかるからと、樓爛(ロウラン)は今と同じ場所に今より更に大きい橋を()け直して欲しいと我儘(わがまま)を言うのだ。

工期や予算、人足(にんそく)達の手間などを考えると、面倒な事この上ないのだが、いつまでも平行線では(らち)があかない。

仕方なく牽蓮(ヒレン)は自らの頭の中で、お互いの主張の折衷案(せっちゅうあん)を計算し直す事にした。

もちろんこれは、数学・物理学の天才である牽蓮(ヒレン)ならではの芸当(げいとう)である。


牽蓮(ヒレン)(しば)し無言で考え込んでいたが、ふいに橋の上で大きめの白紙を広げると、ペンでサラサラと器用に絵を描き始めた。

それを横から無言で見つめる樓爛(ロウラン)の前で、牽蓮(ヒレン)はあっという間に一枚の設計図を描き上げると、それをズイッと樓爛(ロウラン)に突き付ける。

「…予定より大幅に予算が増えますけど、こういった橋ではいかがです?これなら今ある橋を()かしつつ、同じ場所に更に大きな橋を()け直す事が出来ます」

そう言って牽蓮(ヒレン)が見せたのは、今ある橋の横にまず一本の新しい橋を()け、それが出来た後に、今度は古い橋の場所にもう一本の新しい橋を()け直し、最終的に二本の橋を合体させ、今の場所に倍の大きさの大きな橋を()け直す計画書だった。

それを見て、樓爛(ロウラン)が目に輝かせてこう叫ぶ。

「そうそう、こういうの!こういう感じのが欲しかったんだよね〜。さ〜すが牽蓮(ヒレン)君!これがいいよ、うん!」

それをチラリと眺めつつ、牽蓮(ヒレン)もしっかりと釘を差す。

「でも樓爛(ロウラン)様、この工法だと当然の事ながら工期も倍かかるので、その分 建築費もかなり上がるんですよね…。ご存知の通りうちもかなり財政は厳しいので、余計にかかった分は橋に通行料を設けて回収させて頂きたいんですけど、よろしいですよね…?」

そう言われ、さすがの樓爛(ロウラン)もそこは仕方なく妥協(だきょう)する。

「あー…、まぁ仕方ないね。でもちゃんと橋の建築費を回収し終わったら、通行料も撤廃(てっぱい)してよ?」

「そこはお任せください。大丈夫、利用者の皆さんに負担がかかり過ぎない程度の額にして、十年ほどで回収できるようにしますよ」

ニッコリ笑いながら牽蓮(ヒレン)がそれを保証すると、渋々 樓爛(ロウラン)の方も了承し、ようやく二人は合意に達する。


「…ではこれで樓爛(ロウラン)様から、正式に建設の許可も頂きましたので、来月にも着工(ちゃっこう)出来るよう手配に入らせて頂きます」

「うん、頼むね〜。この橋がなくなると西方領の皆が困るし、それに何とな〜くだけど北方領がきな臭い気がするんだよねぇ…。まぁ私が気付くくらいなんだから、(レン)ならとっくに気付いてなんか考えてるとは思うけどさ?いざという時のために、こういう事は早めに対処しとかないとね…」

ふいに樓爛(ロウラン)が、蛇ような目でさらりと抜け目ない事を言ってのける。

さすがは(レン)の側近と言うべきか、この男も大概(たいがい)ただ者ではないようだった。

それに対し牽蓮(ヒレン)が感心したようにこう呟く。

「ホント樓爛(ロウラン)様って、そういうとこ妙に鋭いですよね?(レン)がただの商人にしとくのが惜しいって、わざわざ声かけるわけだ…」

そう言われた樓爛(ロウラン)が、実に()えない様子でこう切り返す。

「…これでも元は、西方一の武装商人だったんだからね?商売も戦争も、どっちも情報と読みが肝心(かんじん)さ。だって勝機(しょうき)を逃したら、相手に()われるだけだからね」

フフッと不敵に笑うと、樓爛(ロウラン)は『それじゃあよろしくね』とだけ言い残し、ヒラヒラと後ろ手に手を振りつつ、のんびりと西方領へと戻って行った。

その後ろ姿を見送った後、牽蓮(ヒレン)(きびす)を返し、中央の皇都へと帰還を始める。

普段はどちらもそう見えないが、やはり(レン)の側近を勤めるだけあって、どちらもただ者ではない男達であった。



その夜、無事に樓爛(ロウラン)との交渉を済ませた牽蓮(ヒレン)は、予定通り皇都に戻ってきていた。

そして仕方なく新しく描き直す事になった橋の設計図と、それによって増えた建築費の回収方法について(レン)黎鵞(レイガ)に報告すると、(レン)は特に怒るでもなくこう答える。

「…まぁ樓爛(ロウラン)の事だから、多分ゴネるだろうなとは思ってました。それで増えた建築費の回収は、本当に橋の通行料だけで何とか出来そうなんですか?」

そう(レン)が確認すると、牽蓮(ヒレン)がそれに対しあっさりとこう答える。

「ああ、その点は問題ありません。樓爛(ロウラン)様から通行料を取っていいとの確約を貰いましたからね。きっちりしっかり回収させていただく事にします」

ニッコリと妙に人の悪そうな笑みを浮かべる牽蓮(ヒレン)に、(レン)か何かを感じ取る。

そして重ねてこう尋ねてみた。

「…何かからくりがある感じですね?」

「ええ、まぁ。樓爛(ロウラン)様は多分、橋の通行料は新しい橋が出来てからだと思ってると思いますが、橋の通行料をいつから取るかについては、僕の判断次第ですからね…。今からきっちりと取らせていただく事にします」

牽蓮(ヒレン)が澄ました顔でそう答えると、(レン)黎鵞(レイガ)は無言で顔を見合わせ思わず苦笑する。

「…やはり牽蓮(ヒレン)に行っていただいて正解でしたね。助かりました」

そう(レン)が告げると、牽蓮(ヒレン)はいつも通り『どういたしまして』とにこやかに答える。

ついこの雰囲気に(だま)されてしまいがちだが、やはり牽蓮(ヒレン)(レン)の側近。

どうやらあの百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の商人も、牽蓮(ヒレン)には一杯(いっぱい)()わされてしまったようだと(レン)黎鵞(レイガ)は思ったのだった。


続く

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