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不快な表現あり
私は歩いていた。白い壁と薄い色の木目が綺麗なフローリング。横には西洋風のオシャレな家具が置かれている長い廊下を私はひたすら歩いていた。
あれ、私トラックにぶつかって意識を失ったはずじゃあ………ダメだなにも思い出せない。
ふと下に目を向けてみると高そうなネグリジェと足にはモコモコのスリッパ。ひえっなんだこの服は…あと私、なにか違和感が……。
あ、身体がいうことをきかない…
その言葉も口に出せなかった。
私………いや、この子はただまっすぐと歩き続けていた。止まろうとしても止まれずまだ先にある扉へと足を進める。近づくことで話し声が聞こえてくるようになってきた。男女の声のようだ。
「わたしがなんーーーーーで面倒をーーーーばならないのよ!もーーーさん!!私の子供はーーーだけよ!!!」
「俺と再ーーーーーだから俺の子ーーーーーーーーよ!!しおんーーーー言っーーーーう!?母様はーーーーー見えてないーーー!!俺とーーーーーーーーー務めは果たしてくれ!!!」
徐々に聞こえてくる怒声。辛うじて名前が聞こえたしおんちゃんに対してのものだろう。広い廊下によく響く。窓がなく、朝か夜かも分からない。近所迷惑ではないのだろうか。
とりあえずこの子の両親なのかは分からないが話を聞いてみよう。この子のこともわかるかもしれない。
しかし、何故かこの子は進む足取りが重く、震えながら1歩を刻んでいた。ゆっくりとだが近づくことで内容もはっきりと聞こえるようになる。
「しおんはーーーだろ!笑顔ーーーーーーーきづかーーできる…明るい子だ!お前を受け入れてくれたじゃないか!優しい子ってことはお前も知ってるだろ!!」
「でも私の子じゃない!あのこの声を聞いてて腹が立つの!!ニコニコと誰にでも媚売って同情させて…おかげで私が前の女比べられるの!」
「あんな子、しんじゃえばいいのよ!!!」
ガチャ
目に入るのは向かい合い、まるで動物か威嚇し合っているかのような男女。開けた扉の音に気づきこちらに顔を向けると目を見開き、こちらを凝視する。
「し、しおん…………」
男の方が私と目を合わせ、零すようにその名前を呟いた。あぁ、しおんはこの子の名前だったのか。
この子は私と同じなのか。
『あの家族も面倒なものを残していったな』
『あの子も一緒にしんじゃえばよかったのに』
あの時、身を隠してこっそりと聞いた陰口。両親と私を悪く扱うあいつらだけは許さなかった。だから、私は心を閉ざし、勉強だけに励んだ。
「そっか。愛されないんだ。」
やっと声が出せた。震えてもなお、はっきりと聞こえる澄んだ声。怒声が止まったこの部屋によく響いた。
そして、気づいてしまった。両親の奥にある姿見に映る私の姿。
私を嘲笑った女の子。
酷く悲しげな顔をしてそこに立っていた。
それと同時に私の頭にたくさんの情報が流れ込む。この子の過去だ。楽しい思い出や悲しい思い出、辛い思い出。一気に流れ込んできた。受け止めきれない。
私はその情報量に耐えきれず、また意識を落とした。
かなりひどいお話になり申し訳ありません。
しおんちゃんが幸せになれますように!