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贖罪のブラックゴッド 〜神への反逆者〜  作者: 柊 春華
~秘めたる想いは絆となりて~ 第二章:近くて遠い《アドレイション》
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第二章 近くて遠い⑤


 王城まで戻ってきた輝は広場の辺りで誰かが自分の名前を叫ぶ声を耳にした。


 何かトラブルかと思って急いで駆けつけてみれば、この都市では見かけない四人組の姿が目に入った。



「輝くんは誰よりも優しいの! 誰よりも優しい人なの! 輝くんに良いところが無いなんて! そんなことゆわないでよぉっ!」



 小さな女の子が泣いていた。泣きながら目一杯の声でそんなことを叫んでいた。


 ここ最近で一番嬉しいと感じた。住民に憎しみをぶつけられ、それを心配してくれる者も周りにはたくさんいるが、ここまで感情を剥き出しにして擁護(ようご)されたのは初めてだった。


 そんな子が泣いている。放っておくことなどできず、だからと言って何と声をかけたら良いものかわからず。



「すごい嬉しい言葉が聞こえたんだけど、流石に大声すぎやしないか?」



 口にできたのはあまりにも平凡な言葉。我ながらなんて気の利かない。


 そんな不出来な言葉でも彼女の気を引くことはできたらしい。


 輝の姿を認め、濡れた瞳を真ん丸にしてから、花咲くように笑った。



「輝くん!」



 彼女の笑顔に思わずこちらの相好(そうこう)も崩れる。


 視線が絡むと彼女は駆け出して、まっすぐこちらに向かって飛び込んできた。


 輝はそれを受け止めようとして――勢いに負けて彼女と一緒に吹き飛んだ。



「黒神さんっ!?」



 レイの驚声を置き去りに、数メートルも飛ばされて背中を強打。想定外の衝撃におかしな呻き声が漏れた。紫髪の少女が怪我しないように両腕で庇えたのは不幸中の幸いといえよう。



「あっ! ご、ごめんね、輝くん、大丈夫!?」



 紫の瞳が心配そうに見下ろしてくる。その目を見ていると胸の中がとても懐かしい感覚で満たされていく気がした。親しみが込められている呼び名が、ひどく心地良い。



「大丈夫だ。そっちこそ怪我はないか?」


「う、うん」


「なら良かった」



 身を起こしながら無意識に彼女の頭に手を置いた。彼女の顔がくしゃりと歪んで大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。


 どうしていいのかわからず、あやすように頭を撫でながら困っていると、紫髪の少女の連れとレイたちが駆け寄ってきた。



「お前たちは……」



 知っている。記憶の中に連れの三人の姿が残っている。


 では紫髪の少女(彼女)は?


 神楽夕姫。黒神輝にとって最も親密な友人。『アルカディア』で出会い、『アルカディア事件』を契機に別れることになった少女。


 懐かしいとは感じなかった。この再会に胸を打たれることもなかった。


 彼女と過ごした記憶が、どうしても自分のものだと思えないせいで。



「本当に輝、なのですね?」


「まさか『アルカディア事件』の主犯の顔を忘れたのか、シール?」



 輝の返しにシールは何か言おうとして、しかし声は発せられなかった。



「ならもちろん俺たちのこともわかるよな、輝?」


「わからないって言ったらただじゃおかないけどね」



 筋骨隆々の大男と青髪の乙女がそれぞれ剣呑な目つきで輝を見下ろしている。



〝皇地〟(こうち)のゼロス。〝水精〟(すいしょう)のシェア。『ティル・ナ・ノーグ』の守護者」



 多少なりともその回答に満足したのか、二人が纏う威圧的な空気が少しばかり緩んだ。



「なんだい、輝の知り合いかい?」


「ああ、ティアノラたちは初対面だな。シール、ゼロス、シェア、それと……夕姫。『ティル・ナ・ノーグ』の幹部と守護者だよ。少なくとも名前だけなら知ってるだろ?」


「そりゃまたなかなかのメンツだな。あたしゃティアノラ=クーラー。自他共に認める天才科学者さ。こいつらは――」



 ティアノラのリードで各々の自己紹介が始まった。


 『ティル・ナ・ノーグ』と『魔導連合』はあまり関係性が良くなく、アーガムの名が出たときは剣呑な雰囲気になってしまったが、ティアノラの仲裁で事なきを得た。



「それにしてもその夕姫って子はなかなか情熱的だねぇ。輝との再会に感極まったってところかい?」


「えっ、や、その……」



 しどろもどろになる夕姫を見てティアノラはからからと笑う。からかって楽しんでいるだけということは誰の目に見ても明らかだ。



「ティアノラ、突然の訪問とはいえ俺の客だ。あまり恥はかかせないでくれ」


「お前さんが体裁(ていさい)を気にするたまかい?」


「……言い換えよう。客人に失礼のないようにしてくれ」


「オーケーオーケー。従おうじゃないか王様」



 わかっているのか疑わしい態度だが言及しても不毛だろう。



「なあなあ、レイちゃんって言ったよな? 君めちゃくちゃ可愛いよな。俺、今日この都市に来たばかりで何もわからないんだ。一緒に回って都市を案内してくれない? お礼に夕食でもご馳走するからさ」



 少し目を離した隙にレイが鼻息荒いゼロスに言い寄られていた。ゼロスには完全に【魅了】がかかっている。



「ひっ!?」



 顔を引きつらせたレイの小さな悲鳴が聞こえた。あまりの気持ち悪さに最近は押し隠されていた男性恐怖症がひょっこり顔を出したらしい。


 肩を掴もうと伸ばされた両腕がレイに触れようとした瞬間、ゼロスの側頭部に尋常ならざる威力で薙刀の峰打ちが叩き込まれ、その巨体が石畳みを転がった。



「ゼロス! アンタいま何しようとしたっ!?」



 ゼロスを打ったシェアから本気の怒声が浴びせかけられる。肩を怒らせて顔を赤くした様子は、彼女の怒りがどれほどのものか物語っている。



「シェ、シェアちゃん落ち着いてっ。ゼロスさんのあれはいつものことなんでしょ?」


「いつもとは違うわ! いまアイツ本気で手を出そうとした!」



 シェアはヒステリックに叫ぶ。それほどまでに今のゼロスの行動は許せないものだったらしい。


 だがそれはゼロスにだけ非があるわけではない。



「シェア、落ち着いてくれ」


「落ち着けるわけじゃないでしょ。あたしの目の前で、アイツ、他の女に手を出そうとしたのよ!?」



 感情的になったシェアは輝の言葉に耳を貸そうとしない。それでも彼女の誤解を解くために構わず続けた。



「ゼロスはレイの【魅了】にかかっただけだ」


「はあっ!? だったらその女、人の男に手を出そうとしたってこと!?」



 説明不足な輝の言によって怒りの矛先がレイに変わってしまう。


 後ろにいたティアノラに「言葉が足りないんだよこのアホ」と背中を蹴られる。



「ち、違います!」



 殺意にも近いものを向けられたレイは怯えながらもはっきりと否定した。



「何が違うっていうのよ! アンタがゼロスを【魅了】したんでしょ!?」


「違う。レイの【魅了】は転生体としての力なんだ。常時発動していて自分じゃ制御することができない。そういう力があるのはお前も知ってるだろ?」


「それは知ってるけど……けど、それじゃ輝とアーガムが【魅了】されていないのはどういうわけよ! ゼロスだけ反応したってことはアイツに【魅了】を使ったってことじゃないの!」



 さてどう説明したものか。『黄金郷の惨劇』スカージ・オブ・オフィール以降、自分にはレイの【魅了】が効かなくなった。しかしそれを言ったところで彼女は納得できないだろう。



「シェア殿。私と黒神殿もしっかり【魅了】の影響は受けている。それが表面化していないのは単に【抵抗】(レジスト)しているからに過ぎないのだよ」



 アーガムの話を聞いてシェアの怒気がみるみる薄れた。輝とアーガムを交互に見て、何かを納得したシェアは吊り上げた目をゼロスに向ける。



「じゃあ結局アンタが【抵抗】(レジスト)しないのが悪いってことじゃないのよ!」


「ぐぼあぁっ!?」



 再び矛先がゼロスに戻り、横たわる彼の脇腹に薙刀が打ち下ろされた。


 ずっと起きてこなかったのは想定外にシェアの怒りを買ったので、落ち着くまでだんまりを決め込んでいたからか。とはいえ今の一撃には先程よりも威力はないように見えた。



「あー……一応弁護するのだが、〝第零階級魔術師〟(アインメイガス)の私も難儀するほどの【魅了】なのだ。【抵抗】(レジスト)するのは並大抵のことではないよ」


「転生体なら魔力量が多いんだから力技でねじ伏せられるわよっ」


「ふ、ふむ……多くの魔力を消費すれば可能であるのは認めるがしかし……」



 言いながらシェアはゼロスを滅多打ちにする。


 ぶたれる度に「ふぎゃっ、おぶっ、ぐぶっ、んぎゃっ、おぎょっ、へぶっ、ぶほぁっ」とのたうちまわるゼロスに同情しつつも、シェアの怒りも考えるとアーガムは止めるに止められなかった。


 他の者も同じだった。


 やがてゼロスをボコボコにして溜飲を下げたシェアはレイに深々と頭を下げた。



「ごめんなさい。カッとなってとても酷いことを言ったわ。頭を下げただけで許してもらえないかもしれないけど、本当にごめんなさい」


「い、いえ……その、そんな……」



 慣れていないやり取りにレイはどうしていいのかわからず視線で輝に助けを求める。


 許す許さないはレイが決めること。輝は頷くだけで何も言わなかった。


 輝に助け舟を出す気がないことがわかるとレイは少しだけ情けない顔になった。



「その……気にしないでください。それだけ貴女にとってその殿方のことが大切だということでしょうから」


「っ!? そんなこと……」



 否定しようとガバッと顔を上げたシェアは言葉に詰まり、屍のようなゼロスをチラっと見遣る。


 ほんのりと色の差した頬が答えだ。



「ないのですか?」


「…………見た目に似合わず意地悪なのね、アンタ」


「ちょっとくらい仕返しをしても許されると思いませんか?」



 小さく舌を出しておどけて見せるレイにシェアは苦笑と共に肩をすくめた。



「そうね。返す言葉もないわ。ごめんなさいね」


「はい」



 二人は互いに笑い合った。



「雨降って地固まると言ったところですかな」


「わからんぞアーガム? なんたって女は本音と建前を巧みに使い分ける生き物だ」


「女性のティアノラ殿に言われると冗談に聞こえぬのですが……」



 まったくだ、と輝はアーガムに同意した。きっとティアノラが捩くれているだけだ。


 見たまま感じたままでいいだろうに。



「さて、『ティル・ナ・ノーグ』の方々がいらっしゃったということは、こちらが届けた書簡はご覧頂けたということでよろしいのかな、シール様?」



 芝居がかった口調で輝が尋ねるとシールは同じく芝居がかった所作で恭しく応えた。



「ええ拝見させて頂きました。しかし本日、私共は私用でこの都市に足を運んだ次第です。本来は正式にアポイントを取るべきでしょうが、ここで拝顔の栄に浴せたのもご縁。もしお時間が許すようであれば、ご依頼について詳細を伺わせて頂ければと存じます、陛下」



 元はこちらが要請したこと。しかも『ティル・ナ・ノーグ』からすれば黒神輝は加害者以外の何物でもない。

 そんな人物への寛大な対応。ケチなどつけようはずもない。



「ありがとう。それじゃあついてきてくれ」



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