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贖罪のブラックゴッド 〜神への反逆者〜  作者: 柊 春華
~果てなき誓いをこの胸に~ 第二章:遠く夢見たもの《アンビシャス》
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第二章 遠く夢見たもの⑧

 輝とアルフェリカを見送った後、シールは寝る間を惜しんでアルフェリカ受入手続きのための書類作成に取り掛かった。夜が明けるまでに担当部署に回しておけば、明日中には完了できるだろう。



「なんで明かりがついてるかと思えば、こんな時間まで何やってんだよ、シール」



 ドアが開く音と声に振り返れば、少し眠たそうな顔をしている男が入ってきた。



「神崎ですか。ただの書類作成ですよ。アルフェリカさんが『ティル・ナ・ノーグ』に加わることになったので」


「アルフェリカ? ……ああ、あの巨乳のねぇちゃんか」


「見損ないましたよ神崎。仮にも医者である貴方が患者を邪な目で見てたなんて」


「治療中にんなこと考えねぇよ。後になって、ああデケェなぁって思っただけだ」


「何が違うんですか!?」


「治療中と治療後に考えていることの違い」



 シールの非難などどこ吹く風といった様子で神崎は作成中の資料を覗き込んだ。



「おいおい、〝断罪の女神〟の転生体って……大丈夫なのか?」



 神崎の懸念はわかる。人類の天敵である神を宿す少女を近くに置いておくことは確かにリスクだ。


 だが――。



「当然でしょう。我々は転生体保護機関(ティル・ナ・ノーグ)なのですよ」


「そんな怖い顔すんなよ。別に反対してるわけじゃねぇ」



 手近な椅子を引っ張り出して腰を下ろし、神崎がなんてこともないように呟いた。



「今回は上手くいくといいな」



 書類を作成する手が止まる。



「今度は、上手くいくと思いますか?」



 色違いの瞳(オッドアイ)が不安に揺らぐ。それを感じ取った神崎はネクタイを緩めて自身の鎖骨にあるものを見せた。


 神名。だがそれには痛々しい裂傷の跡があった。長い時間が経ったと見てわかる古い傷跡。



「こんな致命傷を受けても生きている転生体がいる。救われる奴がいる。できるかできねぇかじゃねぇ。やるんだ。お前が持っている【飢える生命】(ファームスレーベン)は、そのためにあいつから借り受けた『神葬霊具』だろ」


「ですが、私は一度も転生体を救えたことがありません。神崎もご存知でしょう? 私が今まで何人の転生体を殺してしまったか。私は、転生体保護機関(ティル・ナ・ノーグ)の人間なのに……」



 押し寄せるのは無力感。


 転生体保護機関『ティル・ナ・ノーグ』は、その名の通り転生体を保護する機関。求められれば、あるいは求められずとも、転生体を保護して生きていける場所を与える。


 しかし転生体には友好性を持つ者と敵性を持つ者がいる。敵性を持つ者がいると災害級の被害が発生してしまう。

 では防ぐためにはどうするか。


 方法は一つしかない。



「敵性を持つ奴を排除しなきゃいけねぇのは仕方ねぇだろ。そうしなきゃもっと大勢が死ぬ。誰かがやらなきゃいけねぇことだ」


「わかっていても痛いんです。『神葬霊具』なら神だけを殺すことができるはずなのに、私はちゃんと使えていない。私は神崎が救われたときのように、敵性神だけを殺せたことが一度もないのですよ。今回も同じことになってしまうのではないかと、どうしても思ってしまう」


「しんどいなら代わるって何度も言ってんだろ。お前がやらなきゃいけねぇってことはないんだからよ」


「そういうことではないんですよ! もっと優しい言葉とかで慰めてくださいよぉ! 私よりもずっとずーっと年上のくせに!」


「慰めるほど落ち込んじゃいねぇだろ」


「もういいです、ふんっ」



 そっぽを向いて作業を再開。神崎はこっちを見ながら頬杖ついてやれやれとため息。


 わかっている。覚悟はとっくの昔に終わっているのだから。


 転生体は神名を傷つけられたら死ぬ。神を殺すための『神葬霊具』でもそれは同じ。


 だが『神葬霊具』で神名に傷をつけられた神崎は生きている。神崎に宿っていた神だけが死んだ。


 それは『神葬霊具』なら転生体を救えるという証明。


 その可能性を捨てることはできない。


 今まで何度も失敗を繰り返してきた。失敗の度にその代価を転生体に支払わせた。


 罪悪感がないわけがない。辛くないわけがない。初めてのときは悪夢にだって苛まれた。いまでも時折、夢に見る。


 それでも転生体を救うと覚悟して『神葬霊具』を借り受けた。


 いまさら誰かに代わってもらうなんて虫の良い話があっていいはずがない。



「『神葬霊具』本来の持ち主ですら成功したのは俺が知ってる限り一回だけ。もともと難しいことをやろうってんだ。だから失敗して当たり前、とはさすがに言えねぇが……お前なら転生体を救う方法を見つけられるだろうよ。そのためのサポートはなんでもしてやる」


「ありがとうございます神崎。それでは――」



 シールはにっこり笑って、プリントした書類をまとめたクリアファイルを差し出した。



「これ、朝一で人事に渡しておいてください。私はこれから睡眠を取りますので」


「……パシリかよ。確かになんでもとは言ったけどよ」



 苦笑しながら神崎はそれを受け取った。

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