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贖罪のブラックゴッド 〜神への反逆者〜  作者: 柊 春華
〜秘めたる想いは絆となりて〜 第四章:伸ばした手《アフェクション》
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第四章 伸ばした手④


 ティアノラに罵声を浴びせられながら、輝は鉱山付近の『退魔結界装置』で異常が発生したということを聞かされた。


 アルフェリカの捜索が優先ではあるが、都市を外部の魔獣から守るための機械の破損を捨て置くこともできない。


 そのため二つの事態へ同時に対処することにした。


 装置の確認には技師としてティアノラ、護衛として輝、レイ、イリスの三人。


 アルフェリカの捜索には頭数が必要な『鋼の戦乙女』(アイゼンリッター)と転生体の混成部隊が向かうことになった。


 そのアルフェリカ捜索に夕姫も参加を申し出た。こちらとしては客人である『ティル・ナ・ノーグ』をこれ以上、巻き込むわけにはいかない。


 今度こそ輝は断ろうとしたが、夕姫が頑として退かなかった。


 理由を問えば、夕姫は涙ながらに語った。


 魔獣と対峙している状況で、暗い坑道で唯一の光源であるランタンを後ろから割った。アルフェリカが魔獣に襲われるように仕向けたという。


 その行為は紛れもなくアルフェリカの命を脅かすものにほかならない。


 夕姫のことを知っているシールたち『ティル・ナ・ノーグ』の面々は、はじめはその話を信じられなかった。


 だが泣き崩れる夕姫の様子が、真実だと否応無く全員に告げていた。


 本来ならば責められるべきことだ。場合によっては『ファブロス・エウケー』と『ティル・ナ・ノーグ』の外交問題にすら発展し得る。


 ならば彼女を糾弾し、『ティル・ナ・ノーグ』に抗議し、然るべき処分を下さなければならない。


 必要ない。


 それが輝が下した結論だった。


 夕姫を凶行に走らせた元凶は自分だ。彼女の信頼を裏切り続けさえしなければ、きっとこんなことにならなかった。


 責められるべきは自分であって夕姫ではない。


 だからと言っても夕姫はアルフェリカを探すと言って聞かなかった。


 彼女は自身の行いに罪の意識を感じている。いくら周囲が彼女のことを責めず、許したとしても、彼女自身が自分を許せない。


 その気持ちはよくわかる。


 故に輝は正式に『ティル・ナ・ノーグ』へアルフェリカ捜索の協力を要請した。


 シールはそれを承諾。アルフェリカの捜索に夕姫、ゼロス、シェアが加わることになった。


 三人には三隊に分割した混成部隊についてもらい、部隊の護衛を依頼することにした。


 守護者がついてくれるとなれば、これほど心強いことはない。


 部隊の編成が完了後、すぐに出立。


 輝たち四人は異常を検知した装置がある場所を目指してバギーを走らせた。


 都市全体を覆うぼんやりとした陽光の膜。やがてぽっかりと開けられた穴が目視で確認できた。


 ティアノラは工具箱を手に装置が設置されている場所に駆け出す。



「こりゃひどいね……手持ちの工具じゃ無理そうだ」



 ティアノラは装置を見た瞬間にそう口にした。


 ドラム缶サイズの『退魔結界装置』は無数の針で串刺しにでもしたかのように穴だらけだった。ブスブスと煙を上げている。


 一体なにをどうすればこうなるのか。


 輝、レイ、イリスも一見しただけ修理は不可能だろうと予想がつく。



「一応、見てみるか。あんたらは周囲の警戒を頼むよ」



 ティアノラは工具箱から道具を取り出して破損状況の確認をし始めた。


 『アイゼン鉱脈』が天然の要害となってくれるため、ある程度は魔獣の侵入を阻めている。しかし『妖犬』(コボルト)のように鉱山内で繁殖される可能性を考えると、暫定的にでも直せるのならそれに越したことはない。


 輝たちはティアノラを囲んで魔獣の出現に備えつつ、彼女の作業が終わるのを待った。



「ん?」


「どうしました博士?」


「いや、なんか変なもんが……すまんレイ、ちょっと外装を支えててくれるかい」



 そう言ってティアノラは装置の隙間に腕を差し込んで何かを取り出す。


 それは掌よりも一回りほど大きい長方形の金属板だった。



「ん? こんなパーツは使っていなかったはずだが」



 金属板をマジマジと観察しながらティアノラは首を傾げる。


 開発者の彼女がそう言うのならそうなのだろう。



「これは術式兵装っぽいな。どれどれ…………文字を記録する術式か。危険はなさそうだね」



 金属板の正体に当たりをつけたティアノラは金属板に魔力を通した。すると金属板の上に光の文字が浮かび上がる。



「なんて書いてあるんです?」



 周囲の警戒をしながらイリスが尋ねた。輝も肩越しにティアノラを見遣って回答を待つが、彼女は黙ったままだった。


 しかしティアノラの隣で金属板を見ていたレイが目を見開きながら口元を押さえている。


 嫌な予感がした。



「落ち着いて聞け。アルフェリカが『魔導連合』に攫われた」


「なにっ!?」



 どういうことだ。



「こいつを鵜呑みにするなら、だけどね。ほれ」



 ティアノラに金属板を投げ渡されて、浮かび上がっている文字に目を通した。



〈〝断罪の女神〟の転生体アルフェリカ=オリュンシアの身柄を拝借する。『魔導連合』では彼女は『神葬霊具』(しんそうれいぐ)で葬られた神が転生した貴重なサンプルと認識している。神々の転生システムを暴くために、『魔導連合』本部の地下実験G区画にて日夜研究が行われている。おそらく彼女もそこで実験の日々を送ることになるでしょう。人類の安寧のため、どうか邪魔をされぬよう乞い願う。〝兵装製造〟(ファクトリー)


「なんだよ、これ……」



 アルフェリカは魔術機関『魔導連合』で実験体として囚われていた過去を持つ。そこでつけられた傷は今も彼女を苛んでいる。


 そんな場所に再び連れ去られてしまったという。


 怒りと後悔が同時に押し寄せてきた。


 アーガムと出会ったとき『魔導連合』ということもあって、受けた印象は決して良くはなかった。そう感じていたにも関わらず、これといった対策は行わなかった。


 それがそもそもの間違いだったのだ。


 その結果がこれだ。


 苦しみから解放されたはずのアルフェリカに再び魔の手が伸びることになった。


 守ると約束しておきながら、なんてザマだ。



「くそっ!」



 輝は口汚い言葉と共に金属板を地面に叩きつけた。


 やはり『魔導連合』の魔術師など信じてはいけなかった。アルフェリカを苦しめた組織の人間の提案に損得勘定を始めた時点で、判断を間違っていたのだ。徹底して排除しなくてはならなかった。負ってはならないリスクを負った。



「輝さん」



 悔やみ項垂れる輝の背にレイの手が添えられる。


 こうしている場合ではない。一刻も早くアルフェリカを助けにいかなければならない。


 でなければ、彼女がまた傷つくことになってしまう。



「『ソーサラーガーデン』に行くぞ」


「輝様! それはっ……」



 イリスが何かを言おうとして口を噤んだ。


 言わんとすることはわかる。王である自分が『ソーサラーガーデン』に行くということは、二つの都市の間で事を構えることを意味する。


 それがこの都市にどのような影響を与えることになるか。下手をすると抗争に発展するかもしれない。



「輝、あんたは王だ。この都市の王だ。あんたの肩には『ファブロス・エウケー』の住民の命と生活がかかってる。それを理解した上で決めろ」



 アルフェリカを助けるか否か。ティアノラの忠告はただひたすらに重い。個人の感情で動くなと、そう告げている。


 悪態をつきたくなる。立場というのはなんと面倒なものなのだろうか。少女一人を助けるために、いちいち何かを天秤にかけなくてはならない。


 このしがらみが、ひどく煩わしい。


 足元の金属板を睨みつける。どういう選択が正解なのか。



「輝さん、これって」



 輝の視線を追って目を落としたレイが何かに気がついて金属板を拾い上げた。



「裏面にも文字が浮かんでいます」



 レイに差し出された金属板を見れば、確かに裏にも文字が浮かんでいた。



〈P.S.黒神殿との契約を私はまだ履行していない。私の研究成果の全てを提供したいため『ソーサラーガーデン』の八番区画、紅の花咲く樹木の場所までご足労頂きたい〉


 これは『ソーサラーガーデン』まで来いと言っているのか。


 どういう意図で?


 いや、それを考えるなら、そもそもアーガムはなぜこのようなものを残した。何も言わずに雲隠れをすればいいだけの話だ。それだけでずっと時間を稼げる。


 罠? しかし意味がない。何よりこの金属板があるだけで、『魔導連合』がアルフェリカを誘拐したことを示唆する重要な物証になる。


 この金属板が手元にあるだけで『ファブロス・エウケー』は大義名分を得る。


 これではまるで、アルフェリカを救い出すためにお膳立てしているようなものだ。


 意図は測りかねる。しかし――



「アルフェリカを助けに行く」



 天秤を傾けるには十分だ。



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