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短編小説シリーズ

黒ずきんちゃんとは。

作者: ex.MONSU

ここはファンタジーな世界。

そんな世界のとある森の中に平凡な黒いずきんを被った少女が1人。

少女の名前は(くろ)。やっぱり黒いずきんのせいで森の仲間達からは"黒ずきんちゃん"と呼ばれるのだ。

昔はどうやら黒い服装ではあったが、黒いずきんは被っていなかったようだ。

その頃は暗くも明るくも無く、平凡な日常を過ごしていた。

森を何もせず散歩したり、川をただ見つめたりとどちらかというとミステリアスだったのだ。

そんな彼女が何故黒ずきんを被りだしたのかは、数日前に遡る必要がある。

数日前、いつものように黒が森をただただ散歩していた時にみた光景が原因なのである。


「今日も森は平穏に穏やかで、何もないわ」

そう言いながら黒は歩いていました。毎日そんな事の繰り返しです。友人も殆どいないので1人です。とは言え、森の動物達は友達なので寂しくはないようですが、友"人"が欲しいとも思っていました。


そんな時です。遠くから大きな音が聞こえたのです。ひとりの女の子の悲鳴でした。

「きゃぁーーー!狼さんだったの!?私を食べないで!?」

大きな声です!黒は急いで声のする方まで走っていきます。そこには木の小屋がありました。小窓から中を覗くと、そこに見えたものは、今まさに狼に丸呑みにされかかっている赤いずきんの少女がいました。

既に足先しか見えていません。黒は慌ててその場を離れて知り合いの猟師を呼びにいき、状況を打破しようと試みます。

「間に合わないかもしれないけれど、私も食べられたら厄介だし、今の内にやっつけてもらわないと!」

黒は走ります。4、5分走って漸く知り合いの猟師の家に着きます。

「猟師さん!猟師さん!」

黒は一生懸命ドアを叩きます。寧ろ叩きすぎて穴が空きそうなほど凹んでいきます。

「おい!煩いぞ!……ってなんだ?黒か?そんなに慌てて、一体……って!なんだよ!?引っ張るなって!それに、オレの銃!いつの間に!」

猟師は黒の手に引っ張られ一緒に走り出します。黒が自分の猟銃を持って泣きそうな顔で引っ張るものだから怒るに怒れないようです。

「詳しい事は走りながらでお願い!時間がないと思うから!」

そう言い、黒は止まらずに猟師に説明をする。赤いずきんの少女が食べられて、果ては丸呑みだからまだ生きてるんじゃないかとか。

「とりあえず赤いずきんの女の子を助けて欲しいと?そういうわけだな!?」

情報の共有が済んだところで、木の小屋の前に着く。


2人がまず、行動したのは窓の方に慎重に回ることだった。赤いずきんの少女がいた時とは違って、狼の注意を引くものが無い為、なるべく音を鳴らさないように接近して行く。

どうにか接近に成功した時、中には赤いずきんの少女を一飲みした為に満腹になったであろう狼が眠っていた。

黒と猟師は顔を見合わせ、小声で話す。

「ね?猟師さん!今狼さんを殺してしまったらいいんじゃない!?寝てるしさ!」

「何言ってんだ黒!そんなことしたらお腹の中から赤いずきんの女の子を助けられないだろ?」

そう言って、2人は悩んでしまいます。1分も経たないうちに黒がある事を思いつきます。そして、2人はその思いつきのまま行動します。


まず、黒が小屋の戸を物音を極力立てずに開けます。猟師が中に入り、近くにあった料理用のナイフを手に持ち、猟銃で狼を撃ちます。ただし麻酔銃のようです。殺しはしない約束でしたし、普段からその玉であることもありました。


猟師が狼の眠りを確認した後、黒も中に入ります。

特に何かをする訳ではないのですが、見守りたいという思いがあったのです。


猟師が狼のお腹にナイフを刺し、手術のメスのように切り開いていきます。胸のあたりからヘソ下辺りまで大きく開くと、中から赤いずきんの少女とお婆さんが出てきたのです。

どうやらお婆さんも食べられていたようなのです。狼が似ている服を着ていることから、この家の持ち主だろうと猟師と黒は想像する。


「よし、黒!この子と婆さんを引っ張り出すから手伝ってくれないか!まだ生きてる!」

「え!いきてる!?わかった!せーのっ!」

黒と猟師は2人の体を急いで救出して、暖かい毛布に絡んで近くのソファに寝かせ、猟師は狼の方を見る。


「で、本当にやるんだな?……お?」

猟師が黒に先程思いついたことを本当にやるのかと確認をしようと振り向くと、お婆さんと少女が起きていたのです。

「2人とも大丈夫!?狼さんに食べられていたんだよ!」

黒が口に人差し指を当てながら言います。お婆さんと少女は目を合わせて、クスっと笑いながら大丈夫と答える。

「で、2人は無事だった訳だが、どうする?というか黒?お前石用意してないんじゃないか?」

「石?石なんてどうするんじゃ?」

お婆さんが会話に混ざる。思いつき作戦の事を知らないからだ。

「あのね!お婆さん!お婆さん達を食べちゃった狼さんのお腹に石をいーーっぱい!詰め込んで縫合して懲らしめようって話なの!……でも石持ってくるの忘れちゃって」

と黒が言うと、またまたお婆さんと赤いずきんの少女は目を合わせる。

「赤ずきんや、庭にある石をたらふく集めてもっておいで?狼のお腹に詰めてあげるの。もう2度と人間を食べないように戒めるの」

「ちょっと可愛そうだけど、ワタシの友達とか食べられたくないから、わかった!取ってくる!そこの……えーっと」

「黒」

「私は赤ずきん!黒ちゃんも手伝って!私達2人なら早くできるよ!」

黒は大喜びで赤ずきんと一緒に小屋を出て石を集めてきました。その数は大量でした。お腹に詰めきれないほどです。よっぽど友人が増えたのが嬉しかったのでしょう。


「さぁーて?猟師さんやぁ」

「どした婆さん」

「あんた縫合は得意かのぉ?」

「婆さんほどではないと思うな」

「では、任せて貰っても良いかな?」

そう言ってお婆さんは近くの裁縫箱から針と糸を取り出してくる。律儀に消毒液まで出している。自分を食べた狼に対しても配慮はするようです。石を詰める時点で配慮もヘッタクレもありませんが。

「これで、いいかね。ぱっぱと石を入れておくれ。縫っちまうからのぉ」

残りの3人は石をぱっぱと詰めていく。1つ、また1つと詰め、終いには50個もの小石が詰められていました。

婆さんは、傷口に消毒液をかけ、慎重に針と糸を動かし、縫合に成功します。

「後は近くの湖に行くだけ!そこで待ってよう!」

黒は言います。この小屋から少しだけ離れた所にある大きな湖に行くように言います。

「どうして湖なんだ。そこに何があるってんだ……あ」

猟師は疑問に思います。あそこは森に住む者達の水飲み場でしか無いぞと。思ったときには気づいたようです。それを赤ずきんが代弁するように、

「もしかして、食べたりお腹開かれたりで狼さんの喉が渇いているだろうから、そこで待ってたら飲みに来るってこと?」と納得した顔で言う。

「それで、狼はお腹が重くて湖に落ちてしまうってことじゃな」

お婆さんが冷静に考えに補足する。


4人は顔を見合わせ、笑いをこらえながら小屋を出て湖のほとりへ行き、草むらの中に隠れます。

数時間後、起きてきた狼が池を覗き込んで水を飲もうとした時、お腹の中の大量の石がお腹を重くし、前のめりに狼は湖に落ちて行き、二度と上がってきませんでした。


「ほ。これで一件落着だ!黒。オレはお婆さんを家まで送り届けて帰るから、オメェは赤ずきんと遊んで来いよ。オメェの所のお母さんには言っておいてやるから」

猟師が黒に告げる。それに言葉の代わりに笑顔で黒は返し、赤ずきんと共に森で遊び始める。


「ねぇ!赤ずきんちゃん!何して遊ぶ?」

「んーとね!眠ってる狼探し!」

その会話を後ろ手に聞きながら去って行く猟師とお婆さんは2人の将来に不安しかありませんでした。


家に帰ったお婆さんの家から針と糸が少し減っていたのは言うまでもない。




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