神は英雄を好まない
ついにぶつかった鬼と白騎士
勝つのはどちらか?!
「女の子は愛でるものであって、傷つけるものではありませんよ。」
彼は突然現れた。
噂にたがわぬ真っ白な鎧と真っ白な大盾、私はこの人が誰であるか一瞬で分かった。
「・・・ですが、私は貴方にお礼が言いたい。」
私はこの人が好きだ。
シミ一つ無い鎧も、釈然と構える大盾も、それらを引き立たせる黒髪も、片腕しか無い胴も・・・あれ?
腕が・・・無い・・・
私は、後ろを振り返った。
そこには悠希さんの切られた腕がある、いや腕しかない。
悠希さんの双剣も、悠希さんすらいない、ただ腕だけがあった。
「誰、お前?」
鬼は自分の一撃を防がれ、額に筋を浮かべる。
「うーん、誰?ですか。・・・長、死神、悪魔・・・最近は白騎士なんて呼ばれてましたね。」
彼はそう言って笑った。
「白・・・騎士?ああ、そういえば俺、神様にお前を殺せって言われたんだった。」
鬼が出す殺気が、倍以上に膨れ上がる。
まるで、今までが遊びだったと言うように。
「まあまあ、そんなに焦らなくても良いじゃないですか。まずは、彼女の手当てをしなければ。」
そう言って彼は、私に小さな瓶の中に入った液体を飲ませた。
美味しい、だけど何だか悲しい味だ。
「失敗の蘇生薬『フヘェイリヤリウ"ァイブ』この薬は、死以外の全ての異常を治します。」
傷がどんどん治っていく。剥がれた爪も千切れかけた指も逆に曲がった肘も感覚の無い足も潰れた目も青く変色したお腹も、全てが治り元通りになっていく。
「あ、ありがとうございます、悠希さん」
「···私は悠希とは違う。私達は確かに同じ個体だが同時に全く別の個体でもある。」
どうゆう事か、詳しくは分からない。ただ、それが真実である事は理解出来た。
確かにこの人は、悠希とは違う。
なんと言うか、彼らは本質的な部分から違いがあり、全く違っていて、どこか似ている。
「さて、これでもう大丈夫ですね。」
「いやっ、でもまだ腕が···」
私の傷は治った、だがまだ彼の腕が治っていない。
「···?ああ、私は良いんですよ。自分で治しますから。」
彼はそう言うと、切られた右腕の切り口に手を添える。
「意味亡き全治の欠片『フィルコンプリメント』」
それはまさに魔法だった。
私が使うものとは比べものに魔法。
光が傷口を包み、ゆっくりと先へ伸びて腕の形を創る。まるで空間に色を付けるように腕が幻想から現実のものへと変わる。
「これで体制が取りやすくなった。」
彼は右腕の感覚を確かめるように数回拳を握る。
「さあ、戦いを、惨殺を、餞を」
そうして、鬼と英雄はその牙を突き立てた。
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鬼の鞭が縦横無尽に襲いかかる、白騎士は微笑を浮かべながらそれを大盾で的確に弾いていく。
どうやら鬼の方には余り余裕はなさそうだ。
白騎士は鞭の隙間をありえないスピードで駆け抜け、鬼の懐に入り大盾を引き締める。
「『スマッシュ』」
その瞬間、大盾は巨大な砲弾へと変わる。
圧倒的なスピードと圧倒的な質量が合わさり、鬼の身体を潰し吹き飛ばす。
「ぐあぁっ」
整っていた鬼の顔は右側が潰れ、鬼は正に鬼らしいと呼べる様な形相になる。
「先ほどのお返しです。」
白騎士は微笑を崩さない。
鬼は鞭を捨て、腰を落とし姿勢を低くする。
「殺す‼」
武器を捨て、理性を捨て、知性を捨て、鬼は本能で襲いかかる。
「グガアァァァァ」
先の白騎士を追い越す速さで地を駆け、本来の武器である爪をその首筋へ振り下ろす。
だがそれでも、白騎士の防御を突破出来ない。
「その程度の憎しみでは、私を殺すことは出来ませんよ。」
「グアァァァァァァァァァァァ」
「だから、その程度では駄目ですよ。せめて、このくらい無いと・・・・・・」
白騎士はうつむき、右手で顔を覆う。
「う"う"う"う"あああああぁぁぁぁぁぁ!!」
白騎士の雰囲気が変わる。
「ふはっあははっあはははははははははは・・・死ね」
白騎士の姿が消える。
その時にはもう白騎士は後ろに大盾を持った腕を引き伸ばした構えをとっていた。
「『ブレイク・デス・プレス』」
大盾は音速を超える。
白騎士は彼女を思い出すように、鬼の身体を潰した。
七話目投稿です。
今回はとても書きにくい展開でした。これからは日曜日に投稿するのでこれからも読んで頂ければ幸いです。