神は希望を好まない
6話目投稿です。
片腕の無い悠希、心が折れた弥羽、二人はどうなってしまうのか。
彼の心拍音と共に流れる赤い液体。
お気に入りだった服がどんどん染まって行く。
「ねえねえ、もう死んじゃった?」
風を切るような音の中に男の声が聞こえる。
前に立つ男の姿は、私には見えない。
私に見えるのは視界を染める深い黒と、彼、悠希の苦悶の表情だけだった。
「・・・なんだ、ほんとに死んだんだ。えいっ」
気の抜けた声とは裏腹に、男が放った蹴りは正確に悠希の鳩尾に入り、その身体を吹き飛ばす。
「アハハ、人間って軽ーい。どうして神様はこんなゴミみたいな奴らに力を与えたんだろう。」
彼は心底疑問と言った顔で首を傾げる。そのまま「うーん」と悩み、ポンッと手のひらに拳をのせる。
「解った!地球にはお前ら以上の上位生物がいないんだな。だから神様は仕方なく・・・あれ、じゃあなんで神様はこいつらに期待すんだろう。」
私には、彼が何故私を庇うのか分からない、男が話している事も分からない。私に分かるのは、今私に出来ることは無くて、このままだと私達は確実に殺される事だけだ。
でも、それもいいかもしれない。
あの人のもとに行けるならそれでも・・・
「弥・・・羽・・・」
「悠希さん・・・」
ズタボロになった悠希を見ている弥羽の目から、一筋の涙が流れる。
「あれ?なんで・・・」
死んでもいい、そう思ってたはずなのに・・・
手が、足が、震える。心が、死にたくないと叫んでる。
ゆっくりと、だが確実に悠希へ手を伸ばす。
「悠希さ「うるせえ」
私は鈍い痛みと、何かが折れる音と共に、中を舞った。離れて行く彼を見ながら···
「が···かはっ···」
痛い、痛い、痛い···でも、頭は冴えた。
私はもう、あの時のようにわならない!
私は男を強く睨み付ける。
「あれれ?何その顔?何か潰したくなるなぁ」
男の顔を見て、それが人間じゃないことを初めて知った。
「お···鬼···」
ダークブラウンの肌、細身だがか弱さを感じさせない体躯、黒く輝く角。直接見たことは無いが、角や肌は鬼の特徴と合っている。けど、私が聞いた鬼は人よりも3~4倍ほど大きい怪物だと言う話だ。人と同じ大きさどころか、人と同じ言葉を話すだなんて聞いた事も無い。
「あらあら、今頃気づいた?やっぱ下等生物は馬鹿だねぇ」
多分神が作り出した新種、それも強さは私よりも上。
私じゃあ時間稼ぎにもならない。
でも、やるしかない!
「下等生物は下等生物らしく地べたに這いつくばってろよ」
鬼が繰り出す蹴りを後ろに飛び上がって避ける
逃げたい、だけど私はもう誰も失いたく無い。彼を、悠希さんを失いたく無い!
「急にやる気出しやがってうぜーんだよ、オラッオラッオラッオラァ!!」
避けるのも間に合わず、腕を交差して防御する。だがそれでも、鬼の蹴りは私を吹き飛ばし、拳は骨を砕いてゆく。
最初に蹴られた肋骨は、もうその意味を為していない。
「それでもっ、私は、まだっ、倒れるわけにわいかない!」
痛い
痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い······
もう、何処が壊れて何処が壊れて無いのか分からない。私は今、腕を上げているのか、立っているのか、それすらも分からない。
ただ、鬼が私に注意を向けている事は分かる。
「はぁ、もうお前飽きたわ」
痛みが和らいでいく。
駄目だよ···まだ、駄目···だ···。
私は必死に鬼の服を掴む。
「···うぜぇ」
一瞬だった。その一発で私は死ぬと簡単に理解出来る、今までとは比べものに為らない正真正銘の本気の一発だった。
私は死ぬ、だから最後に
「死ね」
私は、あなたの事が···
「ダメですよ。」
私を殺すはずの一発は、真っ白な大盾に阻まれ、私がこの身体を散らすことは無かった。
やっぱり、バトルシーンは難しいです。ついつい今回も後回しになってしまいます。