神は不平等を好まない
5話目です。
前作よりも読みやすいようにしているので、ご意見ご感想お待ちしています。
「それじゃあ、悠希さんは巻き込まれただけじゃないですか···」
弥羽は雪から悠希の過去、その一端を聞かされていた。
「そうだね。でも他の奴等からしたら、一類の希望を最後の望みを断たれたような気持ちなのさ、当たりたくもなるよ。」
「そんなの、ただの八つ当たりです。」
「そうなんだけどねぇ。」
弥羽はギリギリと拳を握る。
許せない。
悠希さんは悪くないのに、皆心のどこかで悠希さんを悪者にしてる。
そのまま、うやむやにしようとしてる。
「分かっては、いるんだけどね。ここじゃあ頭のいい奴でもスポーツ万能な奴でもケンカの強い奴でも、どんな奴だろうと簡単に死ぬ。昨日バカ騒ぎして帰って来た奴が今日は帰って来ないかも知れない、そんなのは当たり前。···て、理解はしてるんだけどねぇ、ここがなかなか分かってくれなくてさ。」
雪はトントンと人差し指で自分の胸を指す。
「···そんなことは、分かってますよ。」
私だって、まだ諦め切れていないから。
神にさえ会えれば、またあの人に···ネコの様な寝癖を付けたあの人に、会えると思っているから。
私はグッと立ち上がり、ステータスカードのストレージ欄から杖を取り出す。
「私、追ってきます。悠希さんは悪くないって、伝える為に。」
「そっか、じゃあこれ持って行きな」
雪さんはヒョイッと小さなメモ帳を投げる。
中にはダンジョンの地図になっており、開けた場所に赤字で丸がされている。
「そこにいるから、早く行ってやりな。」
「雪さんっ」
貰ったメモ帳をぎゅっと握りしめ、私は走りだした。
待ってて、悠希さん。
◆◆◆
「グルルルルッ」
悠希はすぐに見つかった。ただ、彼は百を超えるモンスターに囲まれていた。
「う”う”う”うぅぅぅ···」
「悠希さん!」
悠希さんが死んじゃうっ!
「う”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁー!!」
彼は、ただひたすらに叫び向かって来るモンスターを次々と殺していく。
降り下ろされる爪は踏み込んで相手の懐に入り腕を切り飛ばして喉を突き刺し、噛み砕こうとする奴は蹴り上げ瞬時に頭部を突き刺し、剣を振り回す奴は弾き開いた両手を胴から切り離して口から脊髄を串刺しにする。
刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して······
その光景は、私が知っている戦闘とはかけ離れていた。
「ダメだよ···そんなの···」
モンスターを避けるのももどかしく私は走った。
格上のモンスター達に傷つけられようが噛まれようが走り続けた。
自分を突き動かす気持ちが何なのか分からずに···。
「悠希さんっ!」
「···弥···羽···?」
私の叫びに、彼は気づいてくれた。ただそれだけの事なのに私は安堵した。
「あれれ?珍しい、はじめまして、そしてさようなら」
悠希さんの後ろからそんな声が聞こえた時、私は悠希さんに押し倒されていた。
「はぁ···はぁ······ぐっ」
鉄が床に刺さる様な高い嫌な音がして、それが悠希さんの剣が刺さった音だと気づく。
何でだろう?投げたにしては音が大きかった、双剣は軽さから来る手数の多さが特長なのに。
まるで、目にしたものから目を反らすように、私の頭はどうでもいい事を考える。
「逃げ···ろ···」
悠希さんと先輩の姿が重なる。まるで同じ事がまた起こっているかのように。
「あれれ?外しちゃった、いい動きしてるね。俺の『空斬』受けて一本で済むなんて、お前才能あるよ。」
かざん?一本?あの人は何を言っているの?
その意味は、突き刺さった剣から落ちた物を見て理解した。いや、自分を誤魔化せなくなったと言うべきか。
剣から落ちてきたのは一本の人の腕だった。
作風のお陰で色々な人が傷ついていますが、主人公だけそれがないなぁと思いました。やっぱり不平等はいけませんよね。