神はバットエンドを好まない
勝つのは悠希か、それとも神か。
今、真実が明かされる。
ぐっ···
身体中が軋み、強烈な痛みが悠希を襲う。
···流石に、限界が近いみたいだな。
『存在否定』は諸刃の剣、刃に触れた全ての存在を消し去ることが出来ますが、その代償は大きい。
それでも、悠希は目の前の敵を見据える。
「辛そうだね。君、もしかして限界が近いんじないかい?」
全ての元凶にして最後の敵。
数億の人間が崇めたてる完全たる存在、『神』
こいつを倒せば、全てが終わる。
悠希はゆっくりと刀を上段に構え、腰を下ろし、切っ先を神に向ける。
「これで終わり、だっ!」
神はニヤリと笑う。
「それは嫌だねっ!」
「奥義、存在否定」
「神撃、神器の輪舞曲」
その刀は光よりも速く、降り下ろした斬撃は触れた空間の存在を否定する。
その剣は星よりも多く、渦のように回転しながら研ぎ澄まされた剣は、圧倒的な力を見せつける。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
神の腕から血が弾け、悠希からは腕の骨が折れていく。
互いが自身の限界を超えた力のぶつかり合い、その余波で神殿に亀裂が走り、それすら余波で吹き飛ばしていく。
「···くっ···そ···」
だがそんな莫大な力を使っても、足りない。
あと少し、一瞬の推進力さえあれば届くはずなのに···
無限にも等しい黄金剣と拮抗し、刀は前へ進まない。
「うああああああああっ!!!」
···あと···少し、なのに···
徐々に、刀はその拮抗を崩され、押され始める。
やっぱり、彩が、誠がいないと俺は···
「負けないでっ!」
その声と共に悠希は純白の粒子に包まれる。
そして、白騎士のものとは違う、純白の鎧が現れた。
「こっ、これはっ」
弥羽は己の力を全て悠希に預け、悠希に『勇気』をくれる。
俺に立ち上がれる、『力』をくれる。
悠希は刀を握り締め、最後の最後まで力を振り絞る。
「ハアアアアアアアアアッ!」
「なっ···何で···」
刀は黄金の中を突き破り、一筋の光となって突き進む。
「ぐっ······がああああああああっ」
いくつもの剣が悠希に襲いかかるが、止まらない。
「これで、終わりだあぁぁぁぁぁぁっ」
刀は神に突き刺さり、そのまま勢い止まらず壁に激突した。
···やっと終わった。
神を見ると、笑っていた。
「あーあ、負けちゃったな」
残念そうでもそうで無いようでも思える口調。
その声は心なしか明るかった。
悠希は、このデスゲームが始まった当初から心の内にあった思いを口にした。
「なあ、何でこんなことしたんだ。···お前は、『神』なんだろ。
こんな迷宮を一瞬で作り出し、剣の振り方も解らなかった一般人を何十もの怪物を倒せるように出来る、神なんだろ」
神はゆっくりと欠けていく体で悠希を見据える。
「神だからだよ、悠希」
「神、だから?」
意味が分からない。
「僕はもう、疲れたんだ、神に。
この世界にとって神は別に全能の存在なんかじゃない。
神って言うのはこの世界の防衛システムの事を言うんだよ、世界が自身の中に生まれては滅びる害虫に滅ぼされないように造り出した強大な力を持った人形」
無意識に神は拳を握り締める。
「ただ危険分子を排除する人形。
この世界が滅びるまで永遠に誰かを殺して、死ぬ事も朽ち果てる事も出来ない呪い。
···それが君の言う『神』の本当の姿さ」
殺す為に産み出された神、現実にあり得ない状況、突如始まったデスゲーム···
「じゃあ、俺達は、俺達の家は···」
神はニヤリと笑う。
「大丈夫、君の星はまだあるよ」
その言葉に安堵する。
彼女を帰せなくなるところだった。
「でもまぁ、そう楽観視もしてられないんだけどね」
そう言って肩をくすめる。
「君達『人間』は、危険分子予備軍に指定されたのさ。」
「危険分子予備軍···」
「ああ。だからこうやって人間を何人か連れ出して、本当に危険な存在が試すんだ。
もっとも、今回は僕の私情を挟んだから変則的な試練になったかもだけどね」
神の下半身は消え、もはや動く事さえ出来なくなる。
「君達をずっと見続けて、思ったんだよ。
君達は他とは違うなって。
自分では何の力も無くて、一人じゃ生きられない。誰かに支えられてないと自分から死を選ぶようなか弱い存在の癖に、何故か他の生物を絶滅に追いやる位の力を持っているし、繋がりも何もないような相手を助けたり、信じたりする。
まったく、可笑しいったらありゃしない。」
神の目から、涙がこぼれ落ちる。
「僕は神だって言うのに、君達をここに送り込んだのは僕だって言うのに、彼は何も分からない状態で僕を助けた。僕にとってはそんなの、かすり傷一つ付かないのに、彼は僕を庇ってミノタウロスの餌食になった。
どんなに怖くても、足が震えても、彼は決して僕を見捨てなかった。
最後の最後まで僕を庇い続けて、死にたくないとか、助けてなんて叫んでた癖に僕を見捨てようとはしなかった。それどころか声を聞き付けてやって来た足音を聴いて、僕に笑ったんだ。
もう、大丈夫だ、って。
くだらないよね、人間って」
その間も、涙はポロポロと溢れでる。
「下らない、本当に下らない。」
「僕なんかを助けようとしたって···仕方がないのに。
···僕なんか、死んだ方がいいのに···」
「そんなことないっ!」
弥羽は彼の手を握り、涙を流す。
「死んだ方がいい人なんて、何処にもいないんだよっ。
その人だって、貴方だって、簡単に死んじゃ駄目なんだよ。
だから、死んだ方がいいなんて、言わないで···」
神は少し驚いたように目を見開いて、泣きながら笑う。
「何なんだよ、君達は···。
僕なんかを助けたって···助けたって···。
もうすぐ死んでしまうのに···やっと、死ねるのに···なんでこんな悔しい気持ちにさせるんだよ···」
神だって、人なのだ。
「ああ、僕も、人間に生りたかった···」
神の身体はどんどん透けていく。
「なれるよ、貴方なら。絶対になれる」
「そうかな···」
神は少し困ったような顔をする。
「今までずっと一人だった僕が、『人』に生れるかな」
「なれる。不安なら、私達が待ってるから。ずっと、待ってるから」
弥羽がそう言うと、神は安心したようにゆっくりと目を閉じて、小さく何かを呟きながら息を引き取った。
「ありがとう」
「おーい、悠希。こっちの整理終わったわよー」
二階に上がる階段からひょっこりと顔を出す雪姉。
「ありがとう、雪姉」
「もー、店長にばっかり仕事させて自分は暢気に景色を堪能しないでくれないかしら」
棚からインスタントコーヒーを出しながら同時に湯を沸かす。
「ごめん、ごめん。でも、つい見とれちゃってさ」
「そう?景色ならもっと良い場所に建てられるのに···」
「いや、ここが良いんだ」
あいつが好きそうだからな。
そうだよね。
「ふうん、まあいいわ。あたしもここ気に入ってるし、ウチみたいな喫茶店の雰囲気に合ってるものね」
「そうでしょ」
だから、はやく生まれて来いよな。コーヒーの入れ方も、上手くなるから。
「今戻りました。あっ、店長、はい、頼まれてたもの」
「おー、ありがと」
俺達はずっと、待ってるから。
「お帰り、弥羽」
「あれ?こんな所に喫茶店なんてあったっけ?」
いやー、終わりました、終わりました。
元々10話で完結するハズだったのに早26話···
これは···なんと言いますか······テツのせいですね。うん、テツが悪い。
と言う事で、ここまでのご清読、ありがとうございました。




