神は児戯を好まない
覚醒した神、死に近づく白騎士、立ち向かう弥羽。
彼らに未来はあるのかっ!?
「はぁっ···はぁっ···」
もういつくの剣を捌いたのか分からない。だがそれは今のままでは確実に終わらないと言う事は分かる。
一本の剣が弥羽をかわし、動かない悠希を襲う。
それを弥羽は強引に身体を捻って叩き折り、そのせいでいなし損ねた剣が弥羽の頬を切り裂く。
紅い血が一つ、また一つと石造りの床を染める。
「···助けて···悠希さん···」
希望は、絶望に代わろうとしていた。
「おい、呼ばれてるぞ。」
際限無く広がる暗黒の中、強さは立っていた。
いや、そこにいた、と言った方がいいかもしれない。
そこは、悠希の心の最下
そこには左右も上下も無く、ただ無限に広がる世界と、その世界を分ける壮大な境界線が、強さの前に立たずんでいた。
「どうやら負けたみたいだな。」
強さは空中に座り、視線の先にいる彼に呼び掛けた。
「・・・煩い」
向こうから声が聞こえた。それは電波の悪いラジオのような、掠れた声で、今にも消えそうだった。
強さはその声の主を知っていた。
ここに生まれた時から一緒におり、互いに互いを憎み、怨み、嫌い、騙し、脅し、蔑んできた真逆にして一身の存在。
強さはそれを、『優しさ』と呼んだ。
「まぁ、仕方ねぇか。相手は神だもんな。」
「···」
優しさは踞り、何かを呟いている。
本来であればここには強ささえ破れない壁があり、二つを分け隔てていた。だが優しさが強さを喰らい、同化することで境界が曖昧になっていた。
「行かないのか?」
本体の身体は、動かそうと思えば動かす事は出来る。
まぁ、確実に残り少ない命を削ることになるだろうが。
「···て···だ···」
「ん?」
「何が出来るって言うんだっ!
神は覚醒し、自身は瀕死、身体を動かせても倒す手段が無いっ!今立ち上がっても、死を早めるだけだ···」
久しぶりの、優しさとの会話。
本来であれば、喜ぶべきものなのかもしれない。
だが、
強さは言わずにはいられなかった。
怒らずにはいられなかった。
「落ちぶれたもんだなぁ、優しさ。」
「何だと···」
たとえ己が己で無くなろうとも、絶対に無くしてはいけないものを、優しさは無くした。
強さはその鋭い眼力を、優しさにぶつける。
もはやこいつは、自身の矜持すら忘れたのか。
対極であるが故に、同質であるが故に、強さは優しさを許せなかった。
「···いつから、自身の行動に打算などつけるようになったんだ。」
あの日、父から受け継いだ強さに全てを捧げて来たのが自分であるとするなら、母から受け継いだ優しさを捧げて来たのは奴だ。
そこに打算など無く、目の前の全てをそれのみで考え、行動する。
それが、俺達だったはずだ。
少なくとも俺はそうだった、奴もそうだと思っていた。
だが、奴は違った。
いや、変わってしまった、と言うべきか。
強さは拳を握り、境界線の手前まで来る。
「···そこを越える気か?はは、無理だ。ここは優しさの領域、強さが全てのお前には越えることは出来ない。」
確かにそうだ。今の俺ではここは越えられない。強さは優しさには為れない。
強さは俯く。
「ああ、その通りだよ。俺は優しさには為れない、だけどな···
優しさを、認めることは出来る。
お前を、理解することは出来るっ!」
大地が割れんばかりに踏み込み、拳を振りかぶり、全力で優しさを殴った。
「がっ!?」
優しさは倒れ混み、強さは拳の鈍い痛みに懐かしさを覚える。
強さは所詮、強さでしかない。
「どうだ、目が覚めたか。」
優しさからの返事は無い、だがその目は猛獣の様に鋭く、奴が強さの大部分を取り込んだ事を如実に表している。
優しさは立ち上がり、強さの数倍の速度、強さで強さを殴り返した。
だが、強さはよろめきながらも、倒れる事は無い。
「···何でも知った風な口を聞かないでくれ。強さすら失ったお前に出来る事なんて一つも無いんだ。今のお前は、もう強さですら無いんだから。」
···ああそうだよ。
強さは、強さだったものは、よろめきながらも懸命に優しさを見据える。
俺はもう、強さ何て大層なものは持っちゃいない。
だが、それでも···
「それでも、お前程弱くも為っちゃいねぇよ。」
強さは何処からか取り出した双剣を振りかぶり、優しさは大盾を構えた。
「君には感心したよ。」
神からの永遠にも思えた攻撃を、弥羽は耐えきった。
「ここまでの格差が在りながら決して諦めず、ひた向きに瀕死の彼を守る姿勢。やっぱり人間は良いね。」
だが、無事では無かった。
身体中の骨と言う骨が折れ、全身から流れる出血量は危険値を既に過ぎていた。
それでも、弥羽は戦い続ける、守り続ける。
純白の粒子を全身に纏い、粒子で動かない身体を強引に動かす。
「もう立ち上がらない方がいい。君のその心意気は感心するが、それだけだ。」
神が手を肩口まで挙げると、何処からかともなく現れた幾千もの黄金の剣が一斉に刀身の先を弥羽に向ける。
もう···無理だ···耐えきれない。
彩は弥羽に逃げるよう指示する。
だが弥羽がそれを聞くはずがない。
「サヨウナラ、意外と楽しかったよ。」
「はあああああっ!」
叫びと共に鈍い金属音が響く。
「ぐっ···」
強さは圧倒的質量と速さで襲いかかってくる大盾をまともに受け、身体中から嫌な音がする。
もう立っているのも奇跡的だった。
「がぁぁぁぁっ!!」
それでも歯を食い縛り、双剣を振り回す。
だが強さの大部分を取り込んだ優しさに当たるはずもなく、全てが避けられる。
「止めろ、もう立っているのだってやっとな筈だ。」
「うるせぇっ!」
強さと優しさの実力差は歴然だった。
それでも、それが分かっていても、強さは剣を振るう。
「···所詮は戦う事しか出来ない残り香か。」
優しさは全身に力を込める。
「もういい、終わりにしよう。」
いやー、色々あってかなり投稿が遅れました。
正直に言います、ゴメンナサイっ!!!




