加護を受け取るが良い!
隠れ家として案内されたのは普通の民家だった。
庭も綺麗で、カーテンは全て閉まっているものの、真夜中であるし何も不思議ではない。
なるほど暗殺者というのは意外と普通の場所に身を潜めているのだな。
「で、聞きたいんだが」
彼はくたびれたソファにどっかりと腰を下ろすと、小生を見やった。
「まずさぁ、お前の体どうなってんの?」
奴は私を担いでここまで運んだ。よって小生が概念として息を吸って吐いていることも暖かいことも知っていた。
「しょ、私、ううむ、小生、にもよく分からんのだよそれが。まぁ九十九神であるからして、元々この体を攻撃されてどうにかなるというのもおかしな話だったのだが」
小生も随分と心を乱されていたらしい。現代標準語がかなり崩れていたことに気付くが、今更こやつの前で直すのも癪であるしまぁ良いかと気を改める。
「まーた神かよ。じゃあ言語が通じてるのは?」
「小生は九十九神だ、バベルの塔は関係ない。しいていえば高次元言語とやらの所為だろうな」
彼はその意味を咀嚼すると、顔をゆがめた。
「また神、ね。確かに神だっていうならどんな人種とも喋れるだろうが…」
「そうだと言うておろう」
「100歩譲ってお前の主張を認めるとして、だ。異界から神を召喚して?しかも能力が微妙だから殺す依頼が出るのおかしくないか?異界の神は随分としょぼいんだな」
「ぬ、お主…全く信じてないな?ちと待っていろ」
再び鼻で笑う彼に少し腹が立ったので、どうにか信じさせてやることにした。
ぐぐぐ、と力をこめて彼を見詰める。
「おい、待て何をする気だ」
警戒してナイフを向けるも、殺すことができないため脅しが効かないことに思いあたったのか、彼は舌打ちをして武器を下げた。
できた。加護が付与されたはずだ。
ステータス画面を開くように促せば、今まで鼻につくような顔ばかりしていた彼の顔が驚きに変わった。
「こ、コトの神ソンワの加護?音にまつわる行動に補整+1%…!」
「どうだ、すごかろ」
「いや、俺は音魔法に適正がないので特に意味がないが…まぁ、お前が神というのは認めてやる。しかもかなりしょぼい」
「このやろう」
ぐぐぐ、と力を込める。信仰というか小生を信じるものが増えた以上、頑張ればもう1%くらいはあげられるのではないか?
「お、2%になった…まぁ、とにかくこれがお前によるものだということは分かったからもう良い。」
手をけだる気に振る彼が癪にさわるが、まぁ認めさせたから良しとしよう。
小生が木っ端の木っ端な神であることは事実であるし。
「んで?神様って言っても殺せるもんじゃないの?」
「こちらの宗教がどのようなものかは知らぬが…神をも恐れぬとはまさにお主のような者を言うのだろうな…」
小生が死なない仕組みについては、ステータスの数値を見ればすぐに分かった。
___(顕現)
Lv.1
HP _
MP 1070
ATK 7
DEF 15
DEX 47
AGI 12
INT 54
LUK 3
「どうやら今の体にHPはないらしい」
「HPが無いとか殺しようがねぇじゃねぇか。」
ぶすくれる彼はHPさえあれば本気で神を殺せると思っていそうだ。
「って、今の体?」
「おお、そこに気付くとは。やはりお主は手だれよのう。」
「どういうことか説明しろ」
口を割らせる行動が意味を成さないのがもどかしいのか、彼はナイフの腹で自身の手をコツコツと叩いた。
「お主、何でもかんでも聞かずに少しは自分で考えたらどうなのだ…小生は九十九神である、と言うておろう。」
「物を…、ああ、もしかしてこっちを傷つけない限り死なないのか、便利な体してるなぁオイ」
「そういうことよ。」
胸を張って言えば、フンと鼻を鳴らされた。
「今回の任務、お前の件も含めて上には報告する、人為的にお前みたいなのを作れたらかなり有用だからな。」