大陸の事、世界のこれから
2人は夜中に会話をしていたのだが一度疲れを取るため眠ることにした。
そして翌朝一信が目を覚ますとイーシャは既に起きていた。
「イーシャ、おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「ん。おはよう」
それからとりとめのない会話をしながら朝食の準備をする。
ちなみに一信の両親は多忙であまり家に帰ってこない。
「さぁ。まずは朝ごはんにしようか。」
一信が用意した朝食はスクランブルエッグとウィンナーに食パンといった洋風の朝食であった。
イーシャは訝しそうに朝食を見ていた。
「これがパン? 柔らかい......」
どうやらパンの柔らかさに驚いたらしかった。
向こうの食料事情など少し気になりながら食事を続ける。
その後、一信は気になるいくつかのことをイーシャに聞いてみることにした。
「なぁイーシャ」
「ん? 何?」
イーシャは朝食を頬張りながら返事をする。
「えーと。昨日言っていた事は本当なんだよな?」
「私が大陸から来たこと?」
「そうだな。その辺全般だ」
「うん。本当」
一信は心のどこかで夢じゃなかったのかという思いも捨てられなかった。
一晩経って改めてイーシャに聞くことで本当の事だと思い知らされた。
「それで言葉が通じる理由なんだけど......」
「ん。簡単な事。意思疎通の魔法を使ってる」
唐突に、今までで一番驚く単語が出てきた。
「魔法だとっ!?」
一信は勢いよく立ち上がるとイーシャに掴み掛らんばかりの勢いで詰め寄った。
「ち、近い......」
「ごめん......」
2人は思いの他近づいた顔を逸らせる。
一信は一度イーシャから距離を取り、深呼吸をしてから再び口を開く。
「で、魔法が存在すると言うのか?」
「ん。常識。むしろここには魔法無いの?」
「ないよっ! 空想上の物語にしかでてこないよ!」
「そう。私達は日常でも戦いでも魔法は必須」
あまりなファンタジーな話に興奮が抑えられない。
「それは誰もが使えるのか!?」
「ん.......。人によって使える人と使えないない人がいる」
「そうか......。俺でも魔法使えるのかな?」
一信にとって、いや、この世界に生きる人間にとって魔法を使うのは夢であろう。
「ん。わからない。修行あるのみ」
それもそうである。
いきなり魔法が使えるなんて虫の良い話はない。
世の中そんなに甘くないのである。
「ところで、こう目に見えて使える魔法とかはないのか?」
「ある。見たい?」
イーシャは少しドヤ顔を向けて聞いてくる。
「お願いします!!」
「ん。簡単な火の魔法やる」
そういうとイーシャは右手を突き出し、人差し指をたてる。
「見てて」
そう言うと目を瞑り、集中したのが一信にも伝わる。
ボウッ!!
すると突然イーシャの人差し指の先から青白い炎が生じた。
「おお!! 本当に火が出てる!! すげぇえ!!」
「ふふ。」
イーシャは少し胸を張る。
一信も興奮が冷めやらぬのか目をキラキラさせながらイーシャをほめていた。
その後朝食の片付けをしながら一信はもう1つ気になることを聞いてみることにした。
「ところでイーシャは何であんな所で倒れていたの?」
そう、それは二人が出会った場所の事であった。
「ん。大陸の外の調査をしていた。そして途中で魔力が無くなって流された」
「そ、そうか......」
「途中で体力を回復させる為に休める場所を見つけられなった。無念.......」
そう言うとイーシャは悔しそうな顔をした。
そんな彼女の姿を一信は少しおかしく感じて笑う。
「ハハハッ。イーシャは意外とドジ?」
「む。そんなことない」
そういうイーシャは頬少し膨らまし、怒ったようなそぶりを見せた。
意外とかわいいその仕草に一信は少しドキッとした。
そんな時であった。
テレビから緊急速報の警報とともにニュース番組に切り替わった。
『只今より世界各国の首脳陣から全世界に向けての演説があります』
そう言うと映し出された画面には世界中の国々の首脳陣が一斉に集まって壇上に立っていた。
そこで代表であろうアメリカの大統領が一歩前に出て話し出す。
『世界中のみなさん。今我々は大きな危機に面しています。
突如現れた謎の大陸フロンティアという障害が我らの前に立ちふさがっているのです。
我々の一部であるハワイを飲み込み、未だに多くの民の行方が分かりません。
然るに、このまま放置しておくことはできなのです!
そこで我ら連合は特別措置として同盟を組み二か月後にフロンティアに侵攻する!
今、我らの地球に大陸が現れた謎を解き明かすべく、世界中の国々が手を組み次なる一歩を踏み出すのだ!』
そう言うと画面の中で演説を聞いていたオーディエンスから割れんばかりの喝采が鳴り響いていた。
その後のニュースが伝える内容を聞くと、何度か大陸内部とコンタクトを取ろうとしたものの全て失敗したとのことだ。
そうして、実力行使をするしかないという状況に陥ったのである。
なによりも世界各国が手を組むのは珍しいことである。
今のままではアメリカがハワイを口実に一国でフロンティアに侵攻する可能性があった。
そうなればフロンティアに眠るであろう未知なる資源がアメリカの手に渡ってしまうと考えた各国は何とか無理やり同盟と言う形で軍事同盟を結ぶことになったのではないかというコメンテーターの予想がテレビから聞こえてきた。
一信はイーシャに目をやった。
彼女はしばし考え込んていたようであった。
「一信......。この世界の戦闘力ってどのくらい?」
「戦闘力とはよくわからない。だけど、世界各国が手を組んだとなるとかなりの兵力であると思う......」
そう言うと一信はこの世界の兵器や軍隊の事をイーシャに教える。
すると彼女は俯き、しばし考えてから口を開く。
「一信。ありがとう。世話になった。私はすぐさま大陸に戻らなければならない」
「そんな急に!? イーシャ一人でどうにかなるのか?」
「ん......。とりあえず知り合いには伝えたい......」
「そうだな......」
一信はイーシャの顔を見ると悲しそうに俯いた姿が痛々しく思えた。
それを見ると、一信は自分に気合を入れるかのように大きく深呼吸をする。
「よし! じゃあ大陸に戻るまでの間の食料や着替えがいるな!」
「でも......。これ以上迷惑は......」
そう言うとイーシャはまた俯く。
「迷惑? 何言ってんだ? 俺があの大陸に行く為の準備だよ!」
「ん!?」
その言葉にイーシャは大きく目を見開き一信の顔を見る。
「本気......?」
「本気も本気よ。俺の将来の夢は考古学者で冒険家だぞ!
そんな俺の目の前に謎の大陸があるんだ。ワクワクが止まらないぜ!」
そう言うと胸をドンッと叩き、いたずら少年のような笑顔をイーシャに向けていた。
「......わかった。でも大陸には危険もある」
「冒険に危険は付き物だ!」
そこでイーシャは妥協したのか、一度頷く。
「ん。あなたの事は私が守る。助けられたお礼」
「いや......。そこまでしてもらうのは.......」
「ん。つべこべ言わない」
その言葉に一信は黙るしかなかった。
「とりあえず今日は準備して明日出発と言うことでいい?」
「ん。了解」
一信はその日の内に数日分の食料と着替え、そして使えそうな物ををしっかりと鞄に詰めて準備をした。
そうして2人は出発の朝を迎えるのである。