謎の大陸現る
その日の武田 一信はいつものように朝起きて、いつものように学校に登校をして、いつものように授業を受け、いつものように帰宅する、いつものようにゴロゴロして、いつものように寝る。
ただそれだけの一日になるはずであった。
彼は学校から帰宅した後、リビングでテレビを見ていた。
そのテレビはどこそこで殺人事件が起こったとか、本日の日経平均だとか一信には一切関係な話を延々と垂れ流していた。
そろそろテレビを消して自室に戻ってゲームでもするかと思いソファーから立ち上がった時であった。
テレビから緊急速報の音が流れ、テレビの画面が切り替ったのだ。
『速報です!! 只今太平洋海上に大陸が出現しました!!!』
アナウンサーの男性は興奮の余りテンションがおかしくなっている。
一信にはまったく理解できなった。
「は? 大陸が? 何だよそれ? ハハハッ」
乾いた笑いが口から零れ落ちた。
テレビが映し出す映像から目が離せなかった。
そこにはヘリから撮影された大陸と思われる大地と沿岸部であった。
木々が立ち並び、遠くには山脈の様なものまで見える。
『ご覧ください!! まだ全貌が明らかになっていませんが間違いなくここは太平洋海上です!!
果たしてどれだけの大きさなのかは検討が付きません!!』
ただただ見つめることができなかった。
少し時間が経ち、テレビ各局が特別番組を放送していた。
そこに出ている高名な学者達はこぞって『ありえない』と言い続けていた。
度が過ぎた学者やコメンテーターの中には『これは世界の終りを告げる合図だ』とか『宇宙軍が攻めてきた』という者がまでが現れ始めた。
しかしその突飛な発言に対して笑う者はいなかった。
いや、誰一人笑えなかった。
なぜならそれほどまでに未知なる現象であったからだ。
それから一カ月が経った。
当初は世界各国がパニックに陥っていた。
謎の大陸はハワイを丸ごと飲み込み、衛星で掴めた概要はアメリカ以上の大きさであった。
そしてその大陸の名前は『フロンティア』と呼称されるようになった。
最大の問題は大陸の中に消えたハワイと一切連絡が取れなくなったことであった。
住民はもちろん駐屯していた軍とも連絡が取れないらしかった。
それに対してアメリカは緊急事態宣言を発令した。
様々な機関が大陸内部の様子を衛星で捉えようとしてもジャミングが掛かったように一切見ることができないらしかった。
そこでアメリカは複数の部隊を導入し偵察に行かせたのだがそれら全ての部隊と連絡が取れなくなったそうだ。
実際はアメリカ以外の世界各国もそれぞれ軍の精鋭を用いて偵察を行ったが同じ結果に終わったとまことしやかに囁かれていた。
そんな中で世界各国の首脳陣が集まり、緊急会議を行っていた。
とある宗教団体は謎の大陸は神の大地であり、世界を導く土地であると言い、その地に向かって集団で失踪した。
とあるテレビ局は国の自粛要請を無視してその大陸に足を踏み入れたがそれもまた連絡が取れなくなったらしかった。
しかし、日が経つにつれ世界は落ち着きを取り戻していった。
それと同時にテレビやネットでは好き勝手言い合っていた。
一部の宗教団体は『あの大陸には楽園があり、皆戻ってこない』などと主張していた。
その中で一番多かったのはムー大陸が再び現れたというものであった。
一信は毎日そのニュースをテレビやネットで探していた。
そして時には家の近くの海岸から太平洋を望遠鏡で覗き、フロンティアが見えないかと眺めていた。
彼はムー大陸やアトランティス大陸と言った伝説上に近い大陸の存在を信じていた。
その存在を証明するために将来は考古学者兼冒険家になると胸に決めていた。
そんな少年は今回の出来事にとてつもなく胸をときめかせていたのだった。
そんなある日のことであった。
「どうにかフロンティア大陸見えないかなぁ......」
いつものように一信は大陸に思いを馳せて海岸沿いで望遠鏡を覗いていた。
それはまるで恋い焦がれる少年の初恋のようであった。
一時間ほど望遠鏡を覗いていた彼はそろそろ止めて家に帰ろうかと思い片づけを始めた。
するとふと違和感を感じ、海岸沿いの先に目をやるとそこには少女が倒れていた。
「おい! 大丈夫か!?」
一信は即座にその少女に駆け寄る。
「一応呼吸はしてるみたいだ」
口と鼻に耳を当てて確認をするとそう呟いた。
そこで安心したのか改めてその少女に目をやる。
明らかに日本人ではない肌と髪の毛をしていた。
真っ白な雪のような肌に燃え盛る炎のような真っ赤な髪であったのだ。
そのあまりにも幻想的な容姿に思わず息をのんだ。
「うーん。どうしたもんかな」
一信は数十分は起きないか待っていたのだが、起きる気配が全くなかった。
こんな場所に放置はできないとしばし悩んでからその少女を背中に背負って家へと連れ帰った。
「んっ......? ここは......?」
深夜も過ぎ去ろうかという時間に一信の寝室に声が響いた。
「ベッド.......? かなり上等......」
その少女はベッドの感触を確かめてから起き上がり部屋を見渡す。
「見たこと無い物ばかり......」
するとドアの隙間から光が漏れているに気付き、そっと顔を近づけて光が零れる先の様子を窺う。
そこにはソファーの上で気持ちよさそうに寝ている一信の姿があった。
少女は音をたてないようにそっとドアを開けて一信近付き顔を覗き込む。
「ん......。うわぁ!!!」
一信は怪しい気配を感じたのか目を開ける。
すると間近に少女の顔があり、驚き声を上げた。
数秒経つとその少女のことを思い出したのか平常心を取り戻す。
「えっと.....。体調はどう......?」
一信は言葉が通じるかどうかわからないが少女に話しかける。
「んーと。多分平気」
少女は綺麗な声で返事をした。
「それは良かった。というよりも言葉通じるんだね? 日本語話せるの?」
一信がそう言うと少女は首をかしげて話す。
「言葉通じる。常識。日本語? わからない.....」
「いや.....今話してるじゃん......」
「私は、『ムル大陸語』を話している」
どうして言葉が通じるのか意味が分からなかったがそれよりも気になることがある。
『ムル大陸』
聞いたことない大陸である。
それを聞いて一信は思い出す。
彼女が倒れていた場所や見たことのない容姿のことを。
「......まさかとは思うけど.....君はどこから来たの?」
ゴクリッと唾を飲み込んでから一息に少女に尋ねる。
「ムル大陸」
「そのムル大陸というの太平洋に突然現れた大陸のことか?」
一信の手は興奮からか強く握られていた。
「太平洋? わからない。でも私たちは大陸ごと突然別の世界に飛ばされた」
「別の世界っ!? まるで異世界が存在するみたいじゃないか!?」
一信は更に驚く。
「異世界が存在するのは当たり前」
「当たり前なのか.....」
あまりの衝撃にしばし言葉を失った。
その様子を見ていた少女が口を開く。
「あなたが助けてくれたの.......?」
「......あぁ。海で溺れてたようで浜辺に打ち上げられていたからな」
「そう。ありがとう」
少女はお礼の言葉を述べる。
「いや、まぁ俺は特に何もしてなけどな」
一信は恥ずかしそうに顔を赤くしてそむけながら答える。
「それでもありがとう......。あなたの名前を聞いてもいい?」
「あぁ俺の名前は武田一信だ。一信と呼んでくれ!」
「一信.....。ありがとう。私の名前はイーシャ」
「イーシャか。良い名前だな!」
そういうとイーシャは笑顔で答えた。
そうして二人は出会い、物語は始まる