そのご
久しぶりに続きを。読んでいただければ嬉しいです。
岩海苔が居そうな岸へ向かえば、流れが早いなか人間を引きずらなくてはならずわたしはへとへとだった。人間を運ぶために水面を泳げば太陽に肌を焼かれ、度々潜って肌を冷やしていた。そうこうするうちに、岩場を探していた岩海苔がわたしに気づいて側へ泳いで来てくれた。私たちは潜りあって、海の中で会話する。私たちの海を震わせて会話するけれど、海の上ではただの空気の音になるだけだった。
「海珊瑚がここまで来るなんて珍しいわね。」
「岩海苔にはやく見せたくて。」
へへへと笑いながら言うと岩海苔は不思議そうな顔をした。
「見て見て、人間見つけたよ。」
誇らしげに私が言えば、岩海苔が驚いたように人間をまじまじとみた。
「わあ、ほんとに人間?あつっ。」
人間に触れてやけどした指を食んで冷やしながら、岩海苔はほほを上気させて人間の周りをくるくる泳いだ。ほほを桜貝色に染めてはしゃぐ岩海苔に私もうれしくなる。
「太陽の肌はほんとにあついのね…。それに変な形の尾びれ!」
きゃっきゃと笑いながら私たちは人間の観察して遊んだ。
「ん、んう。」
人間が奇妙なうめき声をあげ、眉間にしわを寄せ始める。私たちは慌てて、人間を岸において、逃げることにした。
帰り道も私たちは笑いながら追いかけっこをして帰った。岩海苔の髪の毛についた空気の泡が、泳ぐたびに外れて水面に向かっていく。きれいな緑の尾びれが力強く水を蹴って、私は岩海苔に離されていく。
「海珊瑚、はやく。」
先を泳ぐ岩海苔がゆっくりとスピードを落として私を振り返る。ふわりと岩海苔の髪が広がって、水面から入った光が、岩海苔の周りで踊っているように見える。
ああ、今近くに行けば、岩海苔の髪の毛が光に照らされて、きれいだろうな。
遠くから見ると黒にも見えるその髪が、光が当たると柔らかく深い緑色に見えるようになることを私は知っていた。
「ちょっと待ってよ。」
岩海苔が遠くから私を茶化すのだけれど、私がどんなに頑張っても、泳ぎで岩海苔に勝てたことはなかった。結局いつも通りかけっこは私の負けで終わった。
岩海苔は真珠が好きだった。
岩海苔といつもの珊瑚の椅子に腰かける。私は葦で編んだ鞄から小さな真珠を2つ取り出して岩海苔に1つ手渡す。
「ありがとう。海珊瑚。」
岩海苔が嬉しそうに微笑んで、小さく柔らかな唇で真珠を食んだ。なんだかそれを見ていると私は恥ずかしいような気持ちになって、私は岩海苔にばれないように急いで真珠を口に入れてコロコロと口の中で転がした。
「宝探し、負けちゃった。」
岩海苔は嬉しそうに真珠を口の中で遊びながら水面から入ってくる光に目を細めた。
「うん、今回は私の勝ちだよ。」
私も同じように真珠を転がしながら、パタパタと尾びれを揺らした。細かい砂がほんの少しだけ足元で舞い上がった。
「太陽の肌はやっぱり暑かったね。陸の生き物は太陽の肌を持ってるって本当だったんだ。」
なんとなく私が言うと、
「私たちには暑すぎるわ。」
と岩海苔がつぶやいた。
「やっぱり太陽にたくさん当たってるから、あんなに熱くなるのかな。」
海藻がゆれて、小魚たちが珊瑚で遊んでいる。
「さあ、そうかも。」
私の手にゆっくりと岩海苔の手が重なる。ひやりとした感触に胸が高鳴った。ゆっくりとお互い手をつなぎながら、私の顔は真っ赤になっていただろう。岩海苔もほほを染めていた。私たちは目を合わせるわけでなく、ただ前を見ながらお互いの手を握っていた。私は熱いような、どうしようもなく泣きたくなるような心地になって、コロコロとお互いに口の中で真珠を転がしながら、私たちはなんでもない話をした。
読んでいただきありがとうございました。