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人魚の話  作者: ひるこ
3/8

そのさん

 葦を編んでつくった鞄をかける。中にはおやつの真珠をいれて、海の中をゆったりとおよげば水が頬を撫でて気持ちがいい。海底には色とりどりの珊瑚が敷き詰められている。通り過ぎる魚たちに手を振ればキスをしたり、ヒレで撫でたりして挨拶してくれる。くすぐったくて心地よい。


「ねぇ、わたしの小さな友達さん。どこかで珍しいのもの見なかった?」


『みた?』

『みた?』

『みたかも。』

『みてない。』


 珊瑚のまわりで遊ぶ魚たちに聞いてみれば口々に相談し始める。


『あれは?』

『あれ?』

『どれ?』

『それ?』


 1匹が思いついたらしく『あれ』について説明する。


『うかんでた。ぷかぷか。』


 他の魚たちも思い出したらしい、騒ぎ出した。


『それしってる。』

『ひれない。』

『うろこない。』

『なにそれ?』


「それは、どこにあるの?」


『あっち。』

『そっち。』

『こっち。』

『どっち?』


 魚たちが一斉にひとつの方角をみる。一匹だけわからなかったらしい、みんなを見て慌てて同じ方向を向いた。


「ありがとう。」


 お礼に魚たちの額にキスをする。


『やった。』

『うれしい。』

『わーい。』

『えへへ。』


 慌てていた魚の額を指でつつけば、よろめいて混乱していた。


 『おおきなとも、ひどい。』


 その様がおかしくてクスクスと笑う。ごめんね、と言ってキスをすれば嬉しそうにくるりと回った。魚たちのなんてかわいいことだろう。手を振って別れを告げる。


『『『『ばいばーい。』』』』







 魚たちは小さな子供みたいだ。

 いつかわたしたちにも子供ができるのだろうか?


 岩海苔とわたしの間に子供はできない。人魚には単一の性しかないのだから。人間の精を胎に入れなければ子はできない。それでもわたしたちはお互いに恋をする。番が子を身籠れば、2人で子育てをするのだ。たまに人間に恋してしまう人魚もいるけれど。そういう人魚をまっているのは悲恋、悲劇、破滅だ。だいたいろくなものじゃない。


 岩海苔の子供は綺麗だろうな。深い色の髪の毛も、やわらかい笑顔も岩海苔に似ていたらいい。2人で育てたらどんなに楽しいだろう。三人で手をつないで、こんな風に散歩したりして、海底の貝に真珠をもらったり、魚たちに挨拶して。宝探しも、三人でするようになるのかも。


 岩海苔が他の人に触れられるのはいやだけど、それはきっと素敵な日々に違いない。


 そんなことを思いながらわたしは魚たちの指した方へ泳ぐ。


「なにあれ。」


 水面にぷかぷか浮かぶそれは、初めて見るそれだった。


 鱗の全くないからだ。

 ひれのない皮膚。

 二つに分かれた尾。

 私たちによく似た上半身。


 いや、知っている。知っているけど。見たのは初めてだ。


「人間だ。」

 

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