そのに
嵐が過ぎ去れば海は静かになる。いつも通りに凪いだ海は、魚たちが元気に泳いでいる。巣に招いた魚たちはどうやらもう出て行ったらしい。キラキラと太陽の光が差し込んで嵐があったなんて嘘みたいだ。
洞窟を抜け出して、わたしたちは海を探検する。岩海苔の少し後をわたしは泳いだ。
少し前を見れば岩海苔の柔らかな尾びれが水を蹴るのが見える。淡い緑の尾びれは光で透き通った影を落として、緑の鱗は動きに合わせてキラキラと光を弾いた。長い髪が波と遊んで、白い背中がチラチラとみえる。岩海苔の泳ぐ姿は綺麗だ。他のどんな人魚より輝いている。未だにわたしは、岩海苔より早く泳ぐ人魚を知らないし、岩海苔より美しく泳ぐ人魚を見たことがなかった。
「ねぇ、海珊瑚。」
岩海苔が止まってわたしを振り返る。深い緑の髪がふわりと広がった。
「なに?」
ドキリとして答える。岩海苔が悪戯を思いついたように笑った。その表情にまた胸が高鳴る。
大人っぽい岩海苔が見せる子供のような表情はきっとわたしだけしか知らないはずだ。
「どちらがたくさんの宝物を見つけるか、勝負しましょ。」
嵐に運ばれてくる珍しいものや綺麗なものを、わたしたちは宝物と呼んだ。宝物と呼ぶだけでもっと素敵なものに思えたから。
「宝探しだね。」
「そう、宝探し。」
わくわくした。わたしたちはくすくすと笑って、真剣な顔をつくった。
「それはとても素敵な提案だと思う。」
かしこまった口調でわたしが言えば、
「そうでしょうとも。」
と、岩海苔が真剣な顔で言った。
「やってあげてもいいよ。」
と、わたしがすまして言えば、
「そうでしょうとも。」
と、岩海苔が言って、耐えきれなくなって二人で笑った。
嵐が過ぎればいつも2人で宝探しをした。いつも提案するのは岩海苔で、こうやってふざけるのがわたしたちはすきだった。
「じゃあわたしはあっちを探すわ。」
そう言って岩海苔は岸の方をさした。
「じゃあわたしはあっち。」
わたしは沖をさした。
探す場所もいつもと変わらない。泳ぐのが得意な岩海苔は流れの強い岩場や人間に見つかるかもしれない岸を、わたしはゆったりと沖を探す。
岩海苔は宝物を探すのが得意で、わたしはいつも負けていた。わたしは、ぽつりと海底の岩に引っかかったりした宝物などしか見つけられなかったし、それすら見つけられない事もあった。うまく沈没船などを見つけられたらわたしの勝ちがあるかもしれないがそんなことは滅多になかったし、それに沈没船には死んだ人間がよく中に入っている。みんな総じてぶよぶよしていて、人間というのは見ていて気持ちよくないのだ。わたしという小心者は沈没船を見つけてもあまり長居はできなかった。