11. 雲壁を越えて
ボボンッ……ボボボボボボ……ボフ……
今日だけで何度も無理な急発進や急加速、急降下を繰り返したスカイバイクは、
今や車体の耐久限度を超えつつあり、エンジンやマフラーからは時折、白煙が上がっていた。
「くそっ、頼む、頼むからもう少しだけもってくれ……」
こんなことなら白いローブの奴が乗ってきたバイクの方を借りてくればよかったと少し後悔していた。
だが、今さらそんなことを考えていても仕方がない。今はこいつがもってくれるのを信じて
ルナ達に少しでも早く追いつけるよう祈るしかない。
島の東端はもうすぐそこに見えている。あそこを下へ曲がれば先を行く二人が見えるはずだ。
はやる気持ちを押さえ、バイクに負荷を掛けないようできるだけ慎重にスピードを上げていく。
正面の空には勇壮な一角獣の姿をしたタルタス座が見え、ふと上を見上げれば、
まるで天から降り注ぐ雨のような流れ星が次々と現れては消えていった。
タルタス座にレミュラ流星群……か。そういえばルナと約束してたんだよな一緒に見に行くって……。
その時、ひと際大きな流れ星が横切ったので、俺は心の中で願った。
どうか、どうかルナを無事助け出せますように!
島の東端は式典会場とは正反対の位置にあり、町からも少し距離があることから
地上人や巨鳥たちの襲撃を受けず、今夜起きていた騒動がまるで嘘であったかのように
とても静かで穏やかな時が流れていた。
しかし、俺がそこへ到着したときには何人かの警備員たちが島の端にある転落防止用の柵から
身を乗り出し、「おーい、やめろー」、「行くんじゃねえ」、「戻ってこーい」などと
口々にに叫んでいた。
高度を徐々に落としながら、空中で一旦バイクを停止させ、その中の見知った顔に声を掛けた。
「ゲイル先生、もしかして今ここをセカッチが通り過ぎていきませんでしたか」
「おっ! 誰かと思えば今度はレオン君か。ああ、そうだ。君の言う通りつい先ほど
一台のバイクが物凄いスピードでこちらへ向かってきたと思ったら、我々の制止も聞かず、
そのまま島の下方へ向かって真っ逆さまに降りて行ってしまったんだ。
一瞬しか見えなかったが、あれは確かにセカッチ君と……それにルナさんもいたように見えたね」
アゴ髭を生やしたその男性は俺たちが通っている学校で教鞭をとっているゲイル先生だった。
職員室でフワリ先生と楽しそうに談笑しているのを何度か目にしたことがある。
この人の授業は合間合間に楽しい小ネタを入れてくれたりと難しい話が苦手な俺でも
興味を持って受けられるので、先生たちの中では好きなほうだ。
やっぱりセカッチはもうここを通り過ぎて行ったのか。でも、先生の口ぶりからすると
まだそれほど時間が経っていないように思えた。
「ありがとうございます、先生。それだけ分かれば十分です」
再びバイクを発進させようとすると、先生は「ちょっと待て」と呼びとめた。
「どういうつもりかは知らないが、もうすぐ黒点が閉じる時間だ。
黒点が閉じる瞬間には風の流れが急速に変化して、穴の中心に向かって巨大な渦ができる。
それに巻き込まれたら……戻ってこられなくなるぞ」
「……分かったよ、先生。必ずそれまでには戻ってくる。だから俺もう行かなきゃ。
ルナが待ってるんだ」
そう言うと俺の強い意志を感じてくれたのか、先生は「はあっ」と溜息をつき
「行ってこい」とだけ言った。
俺も「はい」とだけ返事をし、バイクを再び発進させた。
柵の向こう側から下を見下ろすと、風がビュウビュウと渦巻き、先生の言ったとおり
黒点と呼ばれる大穴の形が最初より崩れてきていた。
あの穴が完全に閉じてしまうまで、もうあまり時間がなさそうだ。
バイクの頭をグイッと穴の中心へ向けると、そのまま急加速し、ある程度勢いがついたところで
スロットルを戻し、後は流れに任せた。
中心にできつつある渦に引き寄せられる力と重力によりバイクは何もしなくても
どんどん加速していく。
もし、眼鏡君を連れてきていたら気を失ってしまうかもしれないな。そんなことを思いながらも
穴の中心へと目を凝らす。だが、二人の姿はもう入口付近には見当たらなかった。
もうあの中へ入ってしまったのか……。穴の中は闇が広がり、時折稲光がパッと走るだけで、
それ以外は何も見えない。加えて先ほどからさらに強くなっている風の音によって
バイクのエンジン音すら簡単にかき消されてしまう。
頼りにできるのは、このボロバイクから伸びている微かなライトの明かりと自分の両目だけだ。
正直なところ、あの中に一度でも入ってしまったら無事に戻ってこられる自信がなかった。
というか全くない。
でも、待ってる奴がいるんだ。行くしかねえだろ、やるしかねえだろ、突っ込むっきゃねえだろ!
「男は度胸だああああああーーーーーーっ」
自分を奮い立たせるため雄叫びを上げると、一直線に真っ暗な巨穴へと突っ込んでいった。
穴の中に入ると、途端に自分が今どっちを向いて飛んでいるのか分からなくなった。
そこで、何度か後ろを振り返り、入口の場所を確認しながら下っていく。
その間にもゴーッという下向きに渦巻く風の力はますます強くなり、
稲光がすぐ脇で見える度、まるで爆発でも起きたかのような雷鳴はひっきりなしに続いた。
ガクガクガクガクと動き回ろうとするハンドルをしっかりと握りしめ、時折エンジンを
吹かしてはバイクの具合を確認する。
車体からは風に煽られる度、ギシギシ、ミシミシと嫌な音が鳴った。
この時、思い出さなくていいのに眼鏡君が言っていた言葉をふと思い出してしまった。
防壁用として作られた雲ですからね。中は雷と乱気流の嵐で並の飛行機械では5分と持ちませんよ(笑)
笑いながら話していたかどうかは定かではない、ただ、眼鏡君の言っていたことが正しいとするならば、
この穴が徐々に狭まり、雲の中に閉じ込められたとする。すると激しい乱気流によって
バイクは即、木端微塵。乗っている俺は何とか無事だったとしても雷撃によって黒焦げ、
最悪骨すら残らないということに……。
考えただけで股間が縮みあがった。
ルナ~~~っ、どこだ~どこにいるんだ~、早く見つかってくれ~。
上下左右、頭が動く範囲を隅々まで見渡す。ほんの少しでいい、何か、何か手掛かりに
なるものはないだろうか。
「ん? 今、なにか……」
見間違いではないか、もう一度目をこすってから遥か下方に目を凝らした。
ほんの微かだが、小さな明かりがユラユラと動いている。あれは明らかに稲光ではない。
二人が乗るバイクに違いないと確信した俺は、スロットルを再び引き絞りエンジンを一気に吹かす。
ボボッ……ブオオオオオーーーーーーン
それに答えるように、やや咳き込みながらもバイクは低く唸り声を上げた。
頬に当たる風や顔に何度も飛び込んでくる水滴に私は意識を取り戻し、うっすらと目を開けた。
「チッ、雨か。急がないと穴が完全に閉じてしまう」
レオン? いや……この声は違う。あれ? 私、何でこんな所にいるんだっけ。
「おや、ようやくお目覚めかい? あんまり泣き喚くものだから少し気絶してもらったんだが……
って大丈夫かい? ルナ君」
ルナ君? そうだ、私は先輩に……連れ……さられ……て。そこで一気に目が醒めた私は大声で叫んだ。
「いや、いやあああああ、離して、離してください。私はあなたとなんて行きたくない。
お願いだから、元の場所へ戻ってください」
「くっ、おい! 暴れるんじゃない、暴れると二人とも落ちてしまうぞ」
そう言われ、自分の体をよく確認した。今、私は先輩に抱きかかえられるように
バイクに座らされており、ちょうど腰のあたりで先輩とヒモで繋がれていた。
卵を乱暴に括りつけていたあのヒモだ。
「いつまでも片腕で抱え続けるのはしんどいのでね。窮屈かも知れんが、
なあに地上に着くまでの辛抱さ」
「いや、嫌です。地上なんて行きたくない。お願いだから島に戻って……」涙声でそう訴えた。
「そう毛嫌いすることないだろう。仮にも僕の故郷なんだよ。そりゃ暗くて汚い所も多いが、
案外気に入るところもあるかもしれない。
それに雲の上からの客人なんて何十年振りだろうからね。みんなきっと大喜びだよ」
久々の故郷に帰れるということで上機嫌に話す先輩だったが、私の耳にはもはや何も届かず、
ただただ泣き続けて少しでも抵抗することしかできなかった。
しかし、そんな私の耳に風雨や雷の音に混じり、微かに誰かが何かを叫んでいるような声が
聞こえてきた。
最初は空耳かと思ったが、すぐに違うことに気づく。そうだ、彼は昔からそうだった。
山で迷子になった時も、暴れ牛に追いまわされた時も、私がいじめられた時も、
いつも一番に助けに来てくれた。
そして、その後決まって不機嫌な顔で言うの「お前を助けるのはこれが最後だからな」って。
「ルナを……返しやがれええええーーーーーっ」
後方から急接近してきたレオンは、私たちを追い越すとそのまま前に出て、こちらに向かって
そう叫んだ。
「くっ、貴様、こんなところまで追ってきたのか 」
先輩はそう叫び返すと、スピードを上げ、レオンのバイクに体当たりし、そのまま強引に突破した。
「ぐっ……、悪かったなぁ、しつこくてよ」
レオンは態勢を立て直すと再度スピードを上げ、こちらのバイクの間横に並ぶ。
「ルナ、思い切ってこっちへ飛べ! 俺が受け止めてやる」
「だめ、ダメなの。この人とヒモで結びつけてあって……」
「なにっ! そんなもん外しちまえ」
「うん、やってみる」
きつく結わえつけてあるヒモを外そうとしたが、先輩に邪魔をされて思うように力が入らない。
「離して……離してよーーーっ」
「そんなことは許さんさ。君には絶対に地上まで来てもらうんだ! 」
揉み合う私たちを見て、レオンは遂に剣を抜いた。
先輩は先ほどレオンたちに向けて剣を投げつけてしまったので今や丸腰だ。
今だったら、たとえ祭礼用の剣でも気絶くらいはさせられるはず。
私は先輩の両腕を押さえ込むとレオンに目で合図した。
それを理解したレオンは、先輩にその剣を叩きつけるため私たちのすぐ側まで車体を寄せた。
「うおおおおーーーーっ」
しかし、その時彼のバイクはすでに限界を超えつつあったようで、車体全体が急にガガガガッと
震えだしたと思ったら、エンジンやマフラーから激しい炎が噴き出し、
「あっ」という間もなくバラバラに崩壊してしまった。
「うっ……うわああああああーーーーーーーっ」
「レオン、レオン、レオーーーーーーーーーーンッ! 」
気づいた時には何もない暗闇に放り出されていた。熱くも寒くもない。痛くも痒くもない。
ただただ、グルグルグルグルと回転しながら上か下か右か左かも分からない真っ暗な空間を
為す術なく漂うしかなかった。
ああ、俺はこのまま死ぬのかな……ここで一人寂しく誰にも看取られることなく。
「レオン、レオーーーーン」
誰かが遠くで俺の名前を呼んでる……あの声は……ルナか。
彼女には謝らないと。絶対助けてやるって意気込んでこんな所まで追ってきたのに結局このざまだ。
偉そうなことばっか言って結局何もできない、何かをする力もない。
俺は……ただの……間抜けな大馬鹿野郎だ。
「……ガ……ヨ……我…………ヨ」
その時、次第に薄れゆく意識の中で、俺は目の前に広がる闇の向こうに何かの気配を感じた。
はっきりと見えるわけではない。だが、そこに何かがいることだけははっきりと分かる。
人間ではない、動物でもない。今日、出会ったグレート・コックスですら比較にならない程
もっともっと馬鹿でかい……。
「聖浄たる空の王よ……」
何だ……言葉が勝手に……。
「我が命に従いて、其の力を解放せよ」
俺は……何を言っている……。
「契約のもと、天涯の雷を以って……」
やめろ、おい、やめっ……
「敵を滅せよ」
刹那、闇に一筋の光が走ったかと思うと、辺りは昼間かと疑うほどの閃光に包まれ、
雷鳴が可愛らしく思えるほどの轟音が鳴り響いた。
ドゴオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーン
なにが……起きたんだ。おい……俺は今……いったい何をしたんだ?
クルリと体の向きを変え、今の光が向かった先を見た。
「おいっ、よせよ……冗談だよなぁ、おい……」
そこに見えたのは真っ赤な炎に包まれて落下していく塊だった。
元が何であったのか判別すらできない、ただの火の塊だった。
「あっ……あ……あっ……あああああああーーーーーーーーーーーーーーーっ」
気づけば喉が裂け血が吹き出るのではないかと思うほど腹の底から絶叫していた。
俺は……俺は何てことを……。
ウソだ……こんなの嘘に決まってる。そうだ夢だ。全部夢なんだよ。
よく考えたら今日起きたことはどれも現実離れし過ぎてる。
地上人が侵略してきた? グレート・コックスが島に襲来した? 島の人が大勢死んだ?
どれもこれも非現実すぎるんだよ。まったくもって現実味がない。
早く島に帰ってルナと一緒に星を見に行かないと。黒点式の夜のおまじないが解けちまうぜ。
なあ、ルナ返事をしてくれよ、なあ……。
両目に大粒の涙が溢れてくる。頬にあたる風に流されても、流されても、決して乾くことなく
次から次へと溢れてきた。
「ちくしょおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーっ」
「おい、あきらめるのはまだ早いぞ」
「えっ……」
不意打ちのように声を掛けられ、一瞬戸惑うもすぐに声がした方を振り返った。
そこにいたのは、あの白いローブの地上人だった。
だが、スカイバイクにも何も乗ってない。今の俺と同じ自由落下状態だ。
「どういう意味だよ、それ」
「見ろ」
そう言われ、奴が指差した先を見る。
炎に包まれた塊のさらにその先に何かぼんやりとした光が見えた。
それは淡くピンクがかった暖かな光。触れるものすべてを癒す清浄なる光。
その光の中心に彼女は一人優しく包まれていた。
「いき……てた。よかっ……た、ほんとうに……」
「おいおい、嬉しいのは分かるが泣いてる場合じゃないぞ」
「そうだ、早くルナを助けないと」
ルナの元へ行くため体の向きを彼女の方へ向けようとしたが、急に肩を掴まれた。
「あんたバカか。今さら彼女の所へ行ったってどうしようもない。
地上はもうすぐそこなんだぞ」
「なっ…… 」
見ると、確かに延々と続いていた暗闇の先にポツン、ポツンと明かりが見え始めた。
あれは……地上の光か。
しまった。ルナを助けるのに夢中だったが、もうこんな所まで来ていたのか。
今さら、雲の上まで戻ることは不可能だろう。そもそもスカイバイクが壊れてしまったから
土台無理な話なのだが……。
このままいけば、あの真っ黒な地上の大地に激突してお陀仏だ。
何とかルナだけでも助けるにはどうしたらいい……どうしたら。
「彼女のことなら心配しなくとも大丈夫だろう。彼女には月の女神の加護がついてる」
「月の女神の加護……だって? 」
そういえば以前、ルナに聞いたことがある。彼女たちの一族は月の女神から
特別な洗礼を受けているらしく、生命の危機に瀕した際には特殊な防御魔法が発動すると。
だが、なぜそれをコイツが知っているんだ。
「ああ、だが問題は私たちだな。あんた見た所何も持ってなさそうだし。
はあ~、ふつう簡易落下傘くらい持ってくるだろうに……」
「ああんっ!? 悪かったな、そんな暇なかったんだよ」
何だコイツ。島では無口だったくせに、急にペラペラペラペラと。
「生きたいか? 」
「あっ? 」
「生き延びたいのかと聞いている」
「んなの当たり前だろ! こんな所で死んでたまるかっての」
「ならば私の手を取れ」
そう言って奴は右手を差し出した。
「訳分かんねえよ。それでホントに助かるのか? 」
「グダグダ言うな。私を信じろっ! 」
その時とうとう穴を抜けた。延々と続くかと思われた暗闇の連鎖は終わりを告げ、
目の前には広大な暗黒の大地が迫ってきた。
周囲を見渡すと、ルナを包んだピンク色の光は俺たちからだいぶ離れたところをフワフワと漂っていた。
「ええい、分かった。信じてやるよ! 」
差し出された右手をがっしりと掴んだが、その手はグローブ越しにも分かるほど
意外に小さなものに感じられた。
「よし、絶対に離すなよ。じゃあ、いくぞ! 反重力装置 起動、出力最大! 」
奴がそう叫んだ途端、ガクンとまるで誰かに体を支えられているように落下する速度が落ちた。
だが、それでも勢いは完全に止まらず、黒い大地が見る見る間に近付いてくる。
「ぶつかるーっ! 」思わず目をつむり、歯を食いしばった。
ドオオオオーーーン…………
結局、空中で止まることはできず、そのまま二人とも荒れ果てた大地に墜落した。
衝突の際の衝撃で周辺には砂利や砂ぼこりが舞いあがった。
「ごほっ、ごほっ……痛ってええええ」
衝突した際、背中をぶつけたようで、仰向けになったまま思わず咳き込んだ。
体中痛え、けど……何とか無事みたいだ。あいつも……大丈夫かな。
立ち上がろうとすると体が痛んだので頭だけ動かして周囲を見たが、あいつの姿は近くにはなかった。
砂ぼこりがはれてくるに従い、正面に空が見えてきた。
やはりというか見渡す限りどこまでも続く灰色の空だった。
期待していた満天の星空や天から降り注ぐような流星群はもうそこにはない。
雲にぽっかりと開いた黒穴も今や完全に閉じようとしていた。
「ああ……ここ、地上なんだな……」
そう自覚した途端、なぜか無性に心細くなった。
どんな場所かもわからない、どんな奴らが住んでるのかも分からない、もちろん知り合いもいない。
いや、知り合い……。
そうだ、ルナだ……ルナはどこへ行ってしまったのだろう。
早く彼女を探さないと。そして一緒に雲の上へ……俺たちの世界へ帰るんだ。
痛みが少し治まってきたので、地面に両手をつき、ゆっくり上半身を起こした。
「痛っつ、痛てて……」
そこへ背後から声を掛けられた。
「ふ~ん、無事だったんだ。あんた意外に丈夫なんだねぇ。頑丈な体に産んでくれた
お母さんにお礼を言わないと」
この絶妙に嫌味を含んだ物言い。セカッチもそうだったが、地上人というのはみんなそうなのか?
「ふんっ、俺は昔から爺ちゃんに鍛えられてるからな」
「そう」
そっけなく一言だけ返すと、奴は俺の正面に回り込んできた。
そして、おもむろに身に着けていた物を脱ぎ始める。
「あんた地上はもちろん初めてなんだろ? 」
まず、両手のグローブを取ると、白く透き通った腕が現れた。
「私も雲の上へ行ったのは今日が初めてさ。話には聞いてたけど、雲一つない空に輝く
お星様ってのがあんなに綺麗だなんて思わなかったよ」
次にボロボロになった白いローブをゆっくりと脱いでいく。
体にピタリとフィットする黒のアンダースーツ。程良く筋肉がついたしなやかな体。
腰はきゅっとくびれ、胸元には控えめなふくらみがあった。
「お……お前……」
最後にパチッ、パチッとロックを外すと顔を覆っていた仮面を外す。
暗闇の中でもキラキラと輝く優美な銀髪を風にたなびかせ、口元に軽く微笑を浮かべると彼女は言った。
「歓迎するわ。ようこそ穢れた大地へ」