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10. 追走

俺は何度も瞬きをし、もう一度紅い巨鳥に追われている一台のバイクを凝視した。


必死にバイクを駆る男の後ろに、これまた必死にしがみついている紅毛の少女。

これだけ距離が離れているとはいえ長年の付き合いである彼女を見間違うはずはなかった。


「間違いない、あれはルナだ。なんでだよ……何でお前まで一緒に乗ってるんだ! 」


「え~あれルナ先輩ですか? 運転してるのは……セカッチさんみたいですね」


眼鏡くん、セカッチのことは先輩とは呼ばないんだな。分かる、分かるぞぉ。


「よし、とにかくフルスピードでまずはあの鳥に追いつく。

 その後は……眼鏡君、例のアレ頼めるか? 」


「アレですね! お安い御用です。さっき鳥たちに囲まれていた時は詠唱するタイミング

 すらありませんでしたが、今ならバッチリいけます! 」


そう言って眼鏡君は自分の腰に差している祭礼用の剣を引き抜いた。


「よっしゃーっ、じゃあいっちょヤッてやろうぜ! 」

「了解ですっ! 」


ブルオオオオオオオオーーーーーーーン


スロットルを握る手に力を込めると、これ以上回らないという限界まで一気に回転させた。

エンジンが荒々しい唸り声を上げ、スピードメーターは徐々にマックスの数値まで上がっていき、

遂には振りきれる。


「いけ、いけ、いけーーーーーッ」


頭上に広がる星空や眼下の街並みが次々と後ろへ流れていった。

空中で呑気に羽ばたいていた巨鳥たちの横をビューンと一瞬で通り過ぎる。


こんなにスピードを出したのは、隣町のテッドとシェリーちゃんの限定S席チケットを掛けて

勝負した時以来だ。

ちなみにシェリーちゃんとは、浮遊島の中でも最大であるレムリア島で現在、

人気沸騰中のスーパーアイドルだ。

シェリーちゃんの話題をルナの前で出すと、何故かものすごく不機嫌になるのでもっぱら

学校の男友達と語り合っている。


前を行く巨鳥との距離はどんどん縮まり、遂にはその大きな体の真横に並んだ。


「眼鏡君ッ! 」


眼鏡君は俺からの合図があると、剣を巨鳥に向け詠唱を開始する。


「古の炎神よ、我、汝の力を欲す。盟約により神の焔を以って敵を凶撃せよ!

 バーストバレット! 」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ…………


詠唱が終わるや否や、彼が持つ剣の先がまばゆく光り、大人の頭ほどもある炎の塊が

巨鳥めがけて何十発と発射された。



※魔法(天上式)

古より受け継がれし血脈により神々の力を使うことが許された者のみが使用できる特別な力。

そのため天上においても扱うことのできる者はごく僅かであり、高位の魔法になればなるほど

その数は加速度的に減少していく。

その強大な力ゆえ有事の際以外には使用することが禁じられており、もし破れば厳罰は免れない。

ただし、義務教育課程において詠唱を必要としない簡便な魔法(魔法もどき)を学ぶ機会が

設けられている。

そのため天上に住まう人々の中には普段の生活が少々便利になる程度の力を持つ者は多い。



「ギィアアアアアアアーーーーーーーーッ」


眼鏡君の魔法攻撃をまともに喰らった巨鳥は断末魔のごとき叫び声を上げると、

全身を炎に包まれながら地上へ向かって真っ逆さまに落ちていった。


「やったなぁ眼鏡君。やっぱお前の魔法はいつ見てもサイコーだぜ」


「ちょっと先輩、その言い方だと僕がいつも魔法使ってるみたいじゃないですか。

 今日だけですからね、今日だけ特別なんですからね! 」


「分かってる、分かってるって」


巨鳥たちのリーダーである真紅の女王( ブラッド・クイーン)を倒したことにより、他の巨鳥たちも統制が取れなくなり

混乱し始めるだろう。そうなったら後はこの島から追い出すだけだ。


そうなると残るは地上人(アンダー )どもをどうするか……。


俺は取り敢えずルナ達と合流しようと彼女とセカッチが乗っていたバイクを探した。

だが、ついさっきまで前方を飛んでいたはずの二人の姿が忽然と消えていた。

まさかガス欠かトラブルで地上へ落下してしまったのだろうか。

そう思い、段々と高度を下げながら地上へも目を向けた。

ここら辺は島の東側にあたり、森や平野が広がっていて手つかずの自然が多く残っている場所だ。


空をゆっくり旋回しながら二人が着陸していそうな場所を探す。

……いた! 案の定、二人は地上に降り立っていた。森から少し離れた小高い丘の上だ。


ん? さらに二人から数メートル離れた場所に何か黒い塊があり、プスプスと白煙を上げている。


「おいおいおい、あいつら一体何する気だ」


二人のいる地上へ急ぐため、スロットルを一気に緩め急降下に近い形で高度を下げた。

後ろで眼鏡君のヒィーッという悲鳴が聞こえた気がしたが、目の前で起きようとしていることの方が

気がかりで振り返っている余裕はなかった。


「ルナーーーーーーッ」

もう少しで地上に付くと言うところで俺は彼女の名前を思いっきり叫んだ。


「レオ~ン! 」

彼女はこちらへ気づくと、笑顔で振り返りそう呼び返してくれた。


地面スレスレのところで少しだけエンジンを吹かし、フワリと着地する。


着地するや否や眼鏡君は「うっ……」という声だけ残しフラフラと茂みの中へ姿を消してしまった。

俺はそんな彼に心の中で謝ると、ルナ達がいる場所まで小走りで駆け寄った。


「よかった無事だったんだな」

「レオンの方こそ、鳥たちに食べられたって聞いてたからもうダメなのかと思ったのよ」

「俺が鳥に食べられただって!? どこのどいつだ、そんなこと言ったのは……」


二人とも、ほぼ同時にセカッチの方に顔を向けた。


「チッ……」

奴は苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨み返した。


というか何でこいつがルナと一緒にいるんだよ? ルナを助けてくれた?

いや、まさかそんな訳ないか。


「レオン、ちょっと頼みがあるんだけど……」

再び俺の方に向き直ると、彼女は真剣な表情でそう言った。

彼女がこの顔になる時は昔から決まって”本気(マジ )”な時だ。


「本日二回目のお願いか……残念だけど一日一回しか願い事は聞けないなぁ」


「冗談言ってないでちゃんと聞いて!

 私はこれからあることをするわ。でもあなたは何も手出ししないで、

 黙ってここで成り行きを見守っていてほしいの」


「何もするなって? おい、ルナお前いったい何を……」


「お願い……」


それだけ言うと彼女はクルリと体の向きを変え、少し離れた所に今も白煙を上げ続ける

黒い塊に向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと待てって! 」


「おい、ルナ君が待てと言ったんだ。だったらおとなしくそこで待っていろ」


何だよ、何でお前に言われなきゃいけないんだよ。

ルナ……おまえ何をするつもりなんだ。




一歩、二歩と黒い塊に近付けば近付くほど、動物の肉が焼け焦げる強烈な匂いが漂ってきた。

炎はすでに消えていたが、それでもまだ十分な熱を感じる。


羽は全て焼け落ち、全身真っ黒に炭化した巨大な体。

遥か上空から落下した際の衝撃か、翼や足だけでなく体中の骨という骨が不自然に折れ曲がっている。

それでも必死に生きようとしているのか、ヒューヒューという、か細い呼吸音だけが空しく響く。


かつて真紅の女王と呼ばれたものの面影は今やそこには存在しなかった。


間近まで歩み寄ると女王(かのじょ )は、残る力を振り絞るように何とか首をもたげ、

「ピィ~~ッ」と弱々しく鳴き声を上げた。


そんな彼女のそばにそっと膝をつくと、か弱いヒナ鳥を慈しむように優しく頭に手を置き、

静かに目を閉じた。


あなたは今日、私から大切な人を奪いました。

ですが、私もあなたから大切な子供の命を奪ってしまった。


人と動物、種族に違いはあれど悲しむ心は同じです。

悲しみは悲しみの、争いは争いの連鎖しか生み出さない。

どこかで誰かが止めないといつまでもどこまでも続いてしまう。


私たちはこれからあなた達と平和に暮らせる道を探します。

だから、どうかあなた達にも分かってほしい。

私たちはこの世界に生きる同じ生命(いのち )だということを。



「古の女神セレネよ、我、汝の加護を欲す。契約により月の加護を以って彼の者を死の淵から救い給へ」

 

神々の福音(エヴァンゲイル )! 」


詠唱が終わると周囲は淡くピンクがかった暖かな光に包まれた。

それはまるで母に抱かれているような心地のよい清らかな光。

周囲に生えている草花、そして虫たちまでもが喜びに震えているようだ。


その光を受け、痛々しかった巨鳥の体は見る見る間に回復していった。

骨は元通りの位置に戻り、黒焦げた皮膚も奇麗なピンク色に戻っていく。

次いで足の方から美しい真紅の羽が生え始め、顔全体まで生え揃うと完全に元通りとなった。

そして女王(かのじょ )は、自分の体を確かめるようにゆっくりゆっくりと立ちあがると、

目の前にいる私を静かに見下ろした。


「先輩、レオンと一緒にアレをここに持ってきてください」

言ってからしばらくして、先輩とレオンは二人で重そうに巨大な卵を私たちの元まで運んできた。


「そこに置いて。びっくりさせないように、そっと、そーっとね」


黙って佇む女王の正面に卵を置くと、私たちは邪魔にならない位置まで後ずさりし様子を見守った。


「これで本当に大丈夫なのか……」

「シーッ、ちょっと黙って」


パキ、ピキ、パキッ……


すると卵は小刻みに震えだし、表面に少しずつヒビが入り始めた。

もう少し、もう少しよ。思わず握りしめた拳が汗ばむ。


その後、何度か卵は大きく震えヒビが深くなると、遂にはバキッという大きな音と共に

殻が割れ、紅い体を持った元気なヒナ鳥がその姿を現した。


「ピュイ~~~~ッ」


可愛らしくも生気に満ち満ちた大きな声を精一杯張り上げている。


「やったぁ産まれた、産まれたわ! 」

「ああ、元気いっぱいだ」

「フンッ……」


母親となった女王はその大きな顔を我が子に近付けると、慈しむように優しく頭をこすり付けた後、

残りの殻を丁寧に剥がしていった。


「さあ、後はどうなるか……だな」

「大丈夫、思いはちゃんと伝わったはず……」


殻を全て外し終えた彼女はこちらを一瞥すると、首を大きく持ち上げ、息を思い切り吸い込んだ。

そして島中に響き渡るほどの大音量で高らかに鳴いた。


「ピュオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーンッ」


それは今日、何度も聞いた憎しみのこもった咆哮とは違い、何とも美しく清らかな響きだった。

鳴き終えると顔をこちらへ戻し、もう一度私たちとしばらくの間見つめ合った。

そして小さな我が子を咥え、巨大な翼を広げると大きく大きく羽ばたかせ、天高く舞い上がっていった。

その後を追うように他の巨鳥たちも島中から一斉に飛び立ってゆく。

彼らは島からだんだんと遠ざかり、やがて完全に見えなくなった。


「はあ……」

「ふぅ……」


まず一つの問題が無事片付いて、二人とも同時に安堵のため息をついた。


「一時はどうなるかと思ったけど、ルナのおかげで何とか命拾いしたな」


「私だけじゃないわ、私を助けてくれた皆のおかげ。それにあの鳥さんが私の気持ちを

 ちゃんと理解してくれたこと、そして一番は卵の中で必死に生きようと頑張ってたあの子の

 おかげね」


「そうだな。けど元はといえばあの卵はセカッチが盗み出した物なんだぜ。

 アイツ今まで地上人( アンダー)だってことを隠してたんだ。

 他の地上の奴らと一緒に早くとっ捕まえないと……」


「うん……そうだね。あの人にも色々事情はありそうだけど……」


ルナが話し終えるのを待たずに俺はセカッチを捕まえようと振り返った。

しかし、ついさっきまで立っていたはずの場所にはすでに奴の姿はなかった。


ブオオオーーーーーン


スカイバイクのエンジン音? くそッ、あいつ……。

バイクを止めておいた所まで走ると、まさにセカッチがそれにまたがり飛び立とうと

しているところだった。


「これはこれはそんなに急いでどうしたんだ? レオン=バルディア」


「お前、よくも抜け抜けと……」


「ああ、そうだ。馬鹿な鳥どもを追い払ってくれて礼を言うよ。元々あいつらは

 用が済んだら、皆殺しにするか島の外へおびき出す予定だったんだが、余計な手間が

 省けた。クククッ……」


「くっ、やっぱりお前はそういう奴なんだな。ルナを助けてくれたのかと思ってた俺が

 バカだった」


「ハンッ、助けただと……あれは成り行き上そうなっただけだ。それに彼女もあの鳥どもを

 おびき寄せる”餌”の一つだったしな。

 さて、そろそろ仲間たちの所へ戻らないと。これからは忙しくなりそうだ。ハッハッハッ」


「このっ……」


奴がスロットルを回し、発進しようと腕に力を込めたその時だった。


「ピンポンパンポ~~~ン……」


島全体へのお知らせに使う島内放送のアナウンスが鳴り渡った。


「え~、ワシ……いや、わたくしは町長、副町長、議長、副議長、第一区長、第二区長、だいさん……」


「ちょっと、ノアさんそんな細かいこといいですから、早く本題を! 」


「あ、そう。……とにかく多くの亡くなられた方々の代理として話しております、

 ノア=バルディアという者です」

 

じいちゃん……なにやってんだ……


「早く本題をとのことなので単刀直入に申します。地上の襲撃者達は代表と思しき者も含め、

 すでに大分部分を我々が捕縛いたしました。

 つきましては、この放送を聞いている地上人、もしくは彼らを目撃された方は直ちに

 メイン会場近くの本部施設までお知らせください。

 あ~それと最後に私用の発言で申し訳ないが……レオ~ン、お前ちゃんと生きとるかぁ?

 まあ、お前みたいなのがそう簡単にくたばるわけ……ブチッ」


そこで唐突に放送が切れた。というより切られたという方が正しいだろう。


「…………」

「…………」


さっきまで緊迫した空気だったのにブチ壊しじゃねーか、何やってんだあのジジイは……。


「そん……な……兄さんまで奴らに捕まっただと……あり得ない、そんなの絶対にあり得ないっ! 」


兄さんまで? まさかコイツの兄貴がその地上側の代表とやらだったのか?


「一気に形勢が逆転したみたいだな。もう地上側の人間はお前一人しか残ってないんじゃないか」


セカッチは額に汗を浮かべ、明らかに動揺した様子でブツブツと何かを繰り返し呟き始めた。


「おとなしく投降しろ、そうすればもう争わなくて済む。格納庫でも言っただろ。

 もう一度、天上側と地上側の話し合いの機会を設けようって。

 たとえすぐには無理でも時間を掛ければ……」


ブイィィィーーーーン……


そこまで言ったところで、町の方から一台のスカイバイクがこちらへ向かってきた。

俺たちの頭上でクルクルと旋回したのち、ゆっくりと降りてくる。


今の放送を聞いた後ということもあり、てっきり町の警備兵の誰かかと思った俺は、

大きく両手を振り「オーイ、オーイ」とそのバイクをこちらへ誘導した。


だが、高度を下げ、段々とその人物の姿や身なりが見えてくるに従い、

俺はそれが間違いであったことに気づいた。


フィィーーーーーーンッ……


バイクが俺達から少し離れた場所に着陸するなり、俺は腰に下げていた剣に手を掛け、

その地上人の身なりをした人物に向かって大声で質問した。


「そこで止まれ! お前のその格好……地上側の人間だな。

 何だ、コイツを助けに来たのか? 」


所々破れて薄汚れてはいるものの白いローブを身につけ、顔を大きな仮面で隠したソイツは

質問に対し何も答えないまま、こちらへ歩み寄ってこようとした。


「おい、止まれって言ってるだろ。聞こえないのか! 」


なおも立ち止まろうとしないその不気味な奴に、俺はたまらず鞘から剣を引き抜こうと手に力を込めた。


「待ってレオン! その人は敵じゃないの」


小走りで駆け寄りながらルナはそう叫んだ。


「敵じゃないって……コイツは地上人(アンダー )じゃないのか? 」


「いや、それはそうなんだけどこの人は他の人たちとは違うっていうか、その~」


「あ~もう、よく分かんないなぁ」


カチャッ…………


ルナとの言い合いをしているうちに、目の前の地上人はローブの下から拳銃を引き抜き

こちらに向けて構えた。


「くっ、やっぱり敵じゃねえか」


改めて剣を引き抜こうとしたが、よく見ると奴の銃口は俺たちを通り越し、

セカッチの方に向けられていることに気づいた。


そして、その白ローブは俺とルナの横を通り過ぎると、そのままセカッチの方まで歩いていき、

3メートル程離れた場所でピタリと立ち止まった。


セカッチはそれまでずっと虚ろな目をして何かブツブツと呟いていたが、白ローブの人物が

近づいてきたことでハッと我に返ったようで、顔を上げ、一瞬だけ笑顔を覗かせたが、すぐに

苦いコーヒーを無理やり飲まされたような表情に変わった。


「なんだ誰かと思ったら貴様か……。地上人の大部分はもう捕まったらしいな。

 貴様も一緒に捕まってしまえばよかったものを」


「…………」


「つくづく無口な奴め。それとも僕とは口もききたくないということか」


すると、白ローブは銃を構えたままセカッチのすぐ側までゆっくり歩み寄り、耳元で何かを囁いた。

それを聞いたセカッチは目を丸くすると、改めて白ローブの顔を仮面越しにではあるが、まじまじと

見つめた。


「ははっ……ハハハハハ思い出した、思い出したぞ! 貴様、あの時の糞ガキか。

 クククッ……11年も経てば流石にでかくもなるはずだ。

 それで、確か仇を取りに来たんだったな。偉大なる神にも選ばれぬ愚かな兄の……」


バンッ!


「ぐあっ……あっ……」


セカッチは左足を撃ち抜かれ、その痛みに悶絶した。

白ローブは痛みに苦しむセカッチの額にすかさず銃口を突き付けると、

最期の止めをを刺そうと引き金を引く指に力を込めた。


「ダメーーーーッ!」

「おい、ルナよせ近づくな」


制止しようとした俺を振り切り、ルナはセカッチ達の元まで走り寄ると

二人の間に強引に割って入った。


「お願いですからこの人を許してあげてください。

 確かにこの人は悪いことをたくさんしてきたかもしれません。

 町を混乱させ、地上側、天上側、それに鳥たちにも多くの犠牲を出しました。

 それに11年前、あなたのお兄さんもその手に掛けたのでしょう。

 ですが、それはすべて神様に騙されていたからなんです。

 太陽神ホグルスのお告げだか何だか知らないけど、そんなものを信じてしまったがばっかりに

 こんなことをしてしまったんです。

 だから、どうかどうか彼の命だけは助けてあげてください」


「…………」


ルナの説得を聞いて、白ローブは相変わらず黙って銃を構えたままではあったが

少しだけ肩の力を抜いたように見えた。


しかし、ルナの言葉を聞いたセカッチの様子がどうにもおかしい。肩をワナワナと震わせ、

また何事かブツブツと呟き始めた。


「僕は騙されていない、騙されていない、騙されていない、騙されていない、

 神は絶対、神は絶対、神は絶対、神は絶対、神は絶対、

 この女は異常、この女は異常、この女は異常、この女は異常、

 神は偉大、神は偉大、神は偉大、神は……」


ザッ!


セカッチは急に纏っていたローブを翻し、腰に差していた剣を引き抜くと

背後からルナの喉元に突きつけ、彼女の身体を自分の方に引き寄せた。


「来いっ、女ぁ! 」

「えっ……う、ぐっ……」


「やめろおおおおおおーーーーっ」

何か嫌な予感がしていた俺は絶叫と共に駆け出した。


「よせ! 近づくな! それ以上近づけば、この女が死ぬぞ」


「くっ……」


「そこのお前もさっさと銃を捨てろ」


「……………………」


言われた後も銃を捨てようとしないのを見て、セカッチはさらに刃をルナの喉元へと喰い込ませた。

白い首筋の皮が切れ、刃にうっすらと血がにじんでいく。


「痛っ……!」

彼女は苦悶の表情を浮かべ、小さな悲鳴を上げた。


「頼む、頼むから……奴の言うとおりに……してくれ……」

白ローブに向かって俺は涙声でそう訴えた。


すると、白ローブも渋々といった感じで足元に銃をボトッと落とした。


「ククククッ、アーーハッハッハッハ、やはり全ては僕の思い通りに進む。

 全ては神の思し召しなんだ。ハハハハハ、ハーハッハッハッハッハ。

 今日、上手くいかなかったのは11年も神から離れてしまったせいだ。

 ただちに地上へと戻り、再び神のお導きを受けなければ……。

 ルナ君せっかくの機会だ、君も一緒にご招待しよう。

 そして聞くがいい、我らが神ホグルスの天啓を! 」


言い終わると奴は持っていた剣をブンッとこちらめがけて投げつけてきた。


「おわっ……」

「ムッ……」


勢いよく回転しながら飛んできた剣を俺たちは、すんでのところで右と左に飛び退き回避した。


その隙をついてセカッチはルナを左腕に抱えたまま、スカイバイクを急浮上させた。


「いや、いやあああああ、レオン、レオーーーーンッ」


「ルナアアアアーーーーーーーーッ」


そして、そのまま島の東端へ向かって瞬く間に飛び去ってしまった。

白ローブが足元の銃を拾い上げ、二人を乗せたバイクに向けて発砲しようとしたが、

「やめろ! ルナに当たったらどうするんだ」とそれをやめさせた。


直後、自分が乗ってきたバイクへと踵を返し、すぐにエンジンを始動させる。

と、そこへすっきりした顔をした眼鏡君が戻ってきた。


「あれ~先輩、どうしたんですか? そんなに慌てて。もしかして僕がいない間に

 全部終わっちゃった感じですか? 」


俺はバイクをゆっくりと浮上させながら、眼鏡君に声を掛けた。

「悪いな眼鏡君、残念だけどまだ終わっちゃいないんだ。

 町に帰ったら、じいちゃんに伝えてくれ。俺とルナは無事だから安心して待ってろって」


「えっ、どういうことですか。ルナ先輩がどうかしたんですか? 」


本当はもっと詳しく説明しておくべきだが、今は一刻も早く二人を追わなければならない。

すまんな眼鏡君。


「じゃあ後は頼んだぞ、みんなにもよろしくな」

「ちょ、何なんですか? 何があったんですか? 」


必死に叫ぶ彼を残し、俺は再びバイクを急発進させ二人が向かった方角へと

夜の闇を疾走していった。




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