表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

0. プロローグ 遺跡にて

ここは俺たちが住む浮遊島ヴァリスから少し離れた無人島に存在するヴァルハラ遺跡。


今朝早くまだ暗いうちに、俺は親友であり幼馴染でもある少女ルナを連れてこの遺跡にやってきた。

お目当てはもちろん、この島にだけ生息しているグレート・コックス(通称 巨鳥)の卵。

町でもめったに見ることができないコイツを持ち帰って、絶対に大人たちを見返してやるんだ。俺はそう強く意気込んでいた。



「ねぇ、もう帰ろうってば。こんなことバレたら私たち怒られるだけじゃ済まないんだからね」


太陽の光も満足に差し込まない薄暗くジメジメとした遺跡の最奥。

片手に持ったランタンで、辺りを必死に照らしながら紅毛の少女は金切り声を上げた。


「大丈夫だって。大体ルナはいつも心配しすぎなんだよ」


少し逆立った金髪を揺らし、呑気に地面に積もった枯れ草をかき分けながら

うんざりした声で少年は答えた。


「この遺跡には大人たちと何度も調査に来てるんだし、危ない目に遭ったことだって

数えるくらいしかないだろ?」


「その”危ない目”に今まさにこの瞬間、進んで遭おうとしてるのはどこのどちらさんよ! 」


島の規則で、大人と同伴でなければ立ち入ってはならない遺跡で

自分たち二人っきりのこの状況に対し、

全く危機感を抱いていない少年に少女は苛立ち声を上げた。


「大体こんな朝っぱらから女の子呼び出して……」


「へいへい、だったら最初から付いてくんなっての」


少女に聞こえないようボソッと呟いた言葉もシンと静まりかえった遺跡の中では

聞き逃される訳もない。


「な・に・か?」ランタンを少年の頬っぺたギリギリまで近付けながら少女は

ドスの利いた声を上げた。


「ちょ、あっつ……熱っちいって!! 」


たまらず顔を背けた少年だったが、その時ちょうど枯れ草の下の固いモノに

手が触れた。


「んっ、おおっ!? ルナっ、ちょっとここ! ここをもっと照らしてくれないか」

先ほどまでのうんざりした様子とは打って変わって、嬉々とした声を上げた。


「えっ、ウソ?!もしかして本当に見つけたの」

先ほどの怒りはどこへやら。少年の手元へランタンを近付けると

彼女もまた嬉しげな様子でグイッと顔を少年に寄せた。


「ちょっと待ってろ……」少年が丁寧にかつ素早く周りの枯れ草や土を払いのけていくと

だんだんとソレは姿を現してきた。


大きさはおよそ60センチほどもあるだろうか。ランタンの光を浴びて淡い橙に

輝くソレは見た目こそ普段家畜小屋で目にするものと相違ないが、その大きさから

明らかに大型動物が産み落としたものであることが想像できる。


「見ろよ! グレート・コックスの卵だ。やっぱりここに巣があるって俺の考えは正しかったんだよ」

ペチペチと巨大な卵を叩きながら少年は満面の笑みをこぼした。


「そうね悔しいけどあなたの考えは当たってたみたい……くやしいけど」


悔しげにうつむき加減で、そう呟いた少女だったが、次の瞬間ハッと

した表情で顔を上げると少年に素早く言い放った。


「それじゃあもう帰りましょう」

「なぁルナ、これどうやって運ぼうか?」


同時。


「……………………」

「……………………」


沈黙。



「バカ言ってんじゃないわよあんた。こんなモノ私たちだけで運べるわけないでしょうが」

「持ってかなきゃここまで来た意味がないだろうが!それにコイツを島まで持って帰れば、

 大人たちも俺たちを一人前と認めてくれるんだぜ」


大声。



「はあ……あんたそんなくだらない理由のためにこんな所まで来たの?

 あ~くだらない。ホントくだらないわ」


「くだらないくだらないって、だからさっきから言ってるだろ!だったら最初から

 ついてこなくてもって……なんだよ急に青ざめた顔しやがって」


「あ…あっ……あ………」

少年と向き合って言い合いをしていた少女は、少年の頭越しのある一点を見つめたまま

目を見開き、ぴくりとも動かなくなった。



二人がこの場所に到着したとき、巣はもぬけの殻だった。だから二人ともあまり期待は

せずに卵の捜索をしていた。だが、今こうして卵が目の前にあるということは

もちろんその卵を産んだ”ご本人”も近くにいたというわけで……。


少年は、あまり物音を立てぬようにゆっくりと後方へ振り返り、そして視線を上へと向けた。


「っ!!!」


そこには金色の瞳を血走らせ、鼻息荒く唸り声を上げると、

今にも二人に襲いかからんとする巨鳥の姿があった。


※グレート・コックス(巨鳥類)

体長はゆうに5,6メートルを超える。飛行可能な巨鳥類の中ではかなりの大型である。

通常、コックスと呼ばれ家畜として飼育されているものが、

体長50センチほどであることを考えると、その名のとおり正にグレートなコックスといえよう。

強靭な羽と頑丈なカギ爪を持ち、興奮状態時には体中の羽毛と頭のトサカを逆立たせ、

まるで狂犬のような唸り声を上げることが特徴。

獲物の行動パターンを覚え複数で狩りを行うなど鳥類の中では利口な部類である。

しかし、普段は臆病な性格のため大人数で行動したり、積極的に接触を図ろうとしない限り

人間に危害を加えることは少ない。ただし、繁殖期は例外的に凶暴性が増すので注意が必要。



「あっ、はあ~~この子のお母さんでいらっしゃいましたか。その~僕たち別に

 危害を加えようとかそんなつもりは全くなくてですね、ハイ……」


少年の声は震え、額からは一気に汗が噴き出した。と同時に足もガクガクと震えだしたが

何とかこらえて、一歩、二歩と少女のいる場所まで後ずさりした。


「い、いいかルナ。俺が合図を出したら、一気に入口の方へ向かって走るんだ。

 絶対に後ろを振り返るなよ。全速力だ、全速力で駆け抜けるんだ」


少年が震える声で囁くも少女からの返事がない。


「おい、ちゃんと聞いて……」

「ダ……メ……」


「は? 」

「ダメなの……私、こ……腰が抜けて……は、はしれ……ない……」


見ると、少年の震え以上に少女の足もまたガクガクと震えていた。

二人とも今まで多少なりと危ない目に遭ったこともあるが、死に直結するような恐怖を

感じたことはなかったため当然と言えば当然の反応だった。


「……よし、じゃあしばらくの間、目を閉じて何か楽しいことでも考えてろ。

 あとは俺が何とかしてやる」


「えっ、なにそれどういう……」


言い終わると、少年は腰に付けたポーチから素早く緑色のボールを取り出し、

まさに飛びかかってきた巨鳥の足元めがけて力いっぱい投げつけた。


「これでもくらえええええっーーーーーーーー」


バアアアアアンッ。

ボールは地面に当たった瞬間、炸裂し周囲に毒々しい緑色の煙を一気にまき散らし始める。


「グギャアアアアアアアアアッ」巨鳥は獲物の突然の反撃に我を失った。

ブンブンと頭を振り、必死に羽をバタつかせて煙を払おうとする。


「今だ、少しの間でいいから息止めて目も閉じてろ! 」


少女は言われたとおりに目を閉じ、息を思いっきり吸い込むと両手を口に当てた。


少年は少女の背中と膝に腕を通し抱きかかえると、煙の中で混乱している巨鳥の横を

すり抜け、一目散に入口目指して駆け抜けた。

巨鳥の横をすり抜ける際、鋭い羽が一瞬頬をかすめ血が噴き出したが、かまっている余裕はなかった。


遺跡の入口に辿りつくまで、何度も内部にはびこっているツタや木の根に足を取られそうになったが

抱きかかえた少女を落とすまいと何とか踏ん張り、ただがむしゃらに走って走って走り抜いた。

右へ左へまた右へ。少年の意識が朦朧とし、両足ももう限界に近づいてきたところでようやく入口の光が

見えてきた。


と、その時ひと際大きな叫び声が鳴り響き思わず二人とも身をかがめた。


「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーッ」


それはまるで憎しみと悲しみが混ざったような悲痛なもので

いつまでも遺跡中にこだましていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ