第九話
油断したーーー機体は完全に触手に絡めとられてしまった。機体のコントロールを取り戻そうとしてブースターを吹かすも、すぐに地面に叩きつけられてしまう。触手に抗おうとして四肢のアクチュエータに力を入れるとすぐに過負荷になってしまう。
万事休すか…塊に引きずられて二五式は地表をゴリゴリと削り、赤い地表に線を引いて行く、気が付くと奴の頭が目の前まで来ている、歯並びまでぴったりと分かる位だ。
「畜生!」叫びながら辛うじて動く右腕でライフルの引き金を引く、しかし弾丸は虚しく空に向かって閃光を散らすのみだ。さらに触手の締め付ける力が強くなり、各部のアクチュエータ、及び装甲板が軋む。
結局…何も出来なかった…やっぱり、ショボい奴にはこういった最期が待っているのだ…でも…「生きること」を諦めたくない…だって…まだ…
「君の名前も聞いてないんだ!」思わず思考が口からほとばしってしまう、その声に反応するように中央のディスプレイに「eject」の文字が浮かぶ、二五式に脱出装置はついていないはずだ、しかし…諦めたくない!その思いでアイコンを押す。
「ボクン!パンパンガシャァン!」突如、二五式の装甲が爆砕ボルトによって強制的に排除され、機体が触手から解放される。同時に排除された装甲板が奴の体を吹き飛ばし、奴は今、岩盤にめり込んでばぁばぁ言っている。良かった…スラスターを吹かすとやけに機体の動きが速い、どうやら排除されたのは装甲板だけではないらしい…ディスプレイにに目を落とすと表示が変わっていて、AF-2Hだった機体はいつの間にかAX-38になっており、機体のラインは、細く、それでいて力強いフォルムを示していた。なんだこれは…AX…?試作機じゃないか!
まぁいい、なんにせよ一度は助かった命だ…だから…ここで死ぬわけにはいかない…!
奏志の心臓が早鐘を打つ、刹那ーーー思考が冴え渡り、機体と一体となったような感覚に陥る。彼は腰のサイドアーマーから高振動ナイフを取り出し、展開する。奴が起き上がるのを見て走り出し、そのまま迫り来る触手を切りつけ、機体を急加速させて奴の懐に飛び込み、奴の心臓があるであろう部位にナイフを突き立てたーーー