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星霜の彼方へ  作者: 新藤康誠
第一章~すぐそこにある「邂逅」~
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第三話

 嘘だろ…あり得ない…太陽系には人間以外の生命体はいないってのが通説なのに…おまけに…なんであんなのを市街地に下ろしちまったんだよ!国連軍の守備隊はやられちまったのか…?そりゃそうだよな、平和ボケした今の軍隊に出来ることなんてのはたかが知れている。

 ところで…奴は何をするつもりなんだ…?暫くの間沈黙を続けていた黒い塊はこちらに気づいたのか、鎌首をもたげ、人間のような歯の並んだ薄気味悪い口を開き、数歩こちらに近づくと何かを口から吐き出した。数十メートル先の街路樹がジュッと音をたててドロドロと溶け落ち、地面に大きな黒い染みを作った。

 こちらに少しずつ近づいて来る奴の姿はよくあるおとぎ話に出てくる龍のようにも見えたが、そんなに格好いいもんじゃない、大きさはAFと比較しておよそ20メートル、不気味な黒い皮膚は表面がただれたようになっている、首は長く、目のない頭に生え揃ったばかりの乳歯のような歯がびっしりと並んだ口、手であろう部位には粘着質な触手がうねっている。足は間接が人間のものとは逆に折れ曲がっていて(十分不気味で不自然だが)今までの部位に比べると多分にまともであった。

 退屈な日常には愛想を尽かしていたし、辟易していたのは確かだが、それ以上にこういったことに巻き込まれるのはもっと嫌いだ。でも今日はスゴく素敵な女の子に会ったじゃないかぁ…今ここで死んでも損はないーーーいや、ある!多分にある!そんな思考を巡らせている間に早くも例の塊はこちらとの距離を計り、二射目に入ろうとしている。まずい、このままだとやられる…!

 奴が口を開き、あの液体を吐き出す、まさにその瞬間、彼は同じように化け物を眺めていた女の子の手を引っ張って真横に飛び退き、間一髪の所で液体をかわした。さっきまで立っていた部分の路面には大きな穴が空いている。なんて奴だ…彼は驚嘆し、吐息を漏らした。同時に「死んだな」そう確信した。

 しかし、黒い塊は予想に反して彼らをもう一度襲うことはしようとせずら獲物を仕留め損なって地団駄を踏むような仕草を見せたあと、ばぁ~ばぁ~と不気味な声を数度あげると、ぼろきれのような翼を広げて火星の空に舞い上がっていった。

 危ないところだったーーーふぅ、と小さな溜め息が彼の口から漏れる。張り裂けそうな程に鼓動を早めていた心臓が落ち着きを取り戻したところで深呼吸をするーーー 

 ふと気づくとこのような事態はあちらこちらで起こっているらしく、街にはAFの駆動音と奴らのたてる不快な音、それに加えて防災無線の緊急事態を告げるサイレンの音がこだましていた。早く避難しないとーーーそう考えたところで

 「あの…助けて下さってありがとうございます」

いきなり声をかけられて彼はひどく狼狽し、それと同時に彼女の腕を掴んだままであったことを思い出した。急いで彼女の腕を放すとやけにうわずった声でこう返した。

 「ど、どういたしまして…」顔面が紅潮するのを感じる、やはり自分は女の子が苦手だ、興味は人一倍あるのに…彼女はそんな彼の様子を見て微笑んだ。奏志もそれに釣られて微笑む。なんか…やっぱりいいなぁ!そう思ったところでハッと我にかえる、まったく…こんなこと考えている場合じゃないよってに…どうも人類は(彼自身も含めて)平和ボケし過ぎている、爆発事故が起ころうが、化学物質が流失しようが、死人さえ出なければ大した騒ぎにならない。宇宙に人間が住むようになってから百五十年余り、そんな中で培われてきた習慣なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが…

 それにしても…やはり素敵だーーー改めて彼女の顔をまじまじと眺める。とても美しい、彼はそれを言葉にしようとしたが、その声は近くのビルにAFが打ち付けられ、黒い塊の触手に引きづられてゆく酷く不愉快な音にかき消されてしまった。暫くの間、思考を停止していた奏志だったが、ここでまごついているのは危険だと判断し何も言わずに彼女の手を今度は硬く、強く、離れないように、しっかりと握ると未だ混乱の中にある街の中へと勢いよく走り出しーーー

 

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