第二話
あ、あんな娘学校であろうが、街中だろうが、取り敢えず見たことがない、というのが彼のおつむが弾き出した率直且つ実状に即した解答だった…
彼はその場で立ち止まり、彼女を見つめた。彼女は誰かを待っているのだろうか、それとも、なにかを探しているのだろうか。その大きく美しい瞳をしきりにパチクリさせている。そして、その度に揺れ動く彼女の髪も彼女の瞳と同様に美しい焦茶色をしている。風になびくワインレッドのカーディガンとスカートは彼女の性格的な柔和さをたたえているようにも思われた。
それに…なんだろう、とてもいい匂いがする、どう表現したらよいかは分からない、花に例えると強すぎる、しかし、「おひさまの匂い」に代表される表現では儚すぎると思い、彼はその匂いを敢えて形容しようとはしなかった。
普段の彼なら、街中で素敵な娘を見かけたとしても、このように深く観察せずに済ませてしまうのだが、そうでなかったと言うことがことの異常さを示していたのは確かだ。
「好きだ!」
突然彼の中で沸き上がった幾筋もの感情はこの一言に収束し、最早とどめられるものではなく、熱いマグマのように噴出しようとしていた。俗に「一目惚れ」と言われるこの衝動的な恋、留めようのないこの思いを処理する方法はたったひとつ、その冴えたやり方しかない、奏志が彼女に声をかけてしまおうと口を開いた、まさにその瞬間のことだった
「ドカァァァァァアン」
轟くような爆発音が二人の間にいきなり割って入った。(音に意志があるかどうかは読者の想像にお任せするとして、この爆発音は実に失礼だった)
黒煙を引きながら墜落する一機のAF(アサルト・ファイター この時代の機動兵器の総称)奏志が呆気にとられている間に、特有の耳障りな音をたてながら国連軍のAFが15機程、編隊を組んで二人の頭上を飛び去って行った。
何が起こってるんだーーー目を凝らすと国連軍は黒い塊、生物に見える不気味な物体を追っていた。物体はかなりの速度で飛行しており、AFを引き離さんとする勢いで飛んでいる。AFの方はAFの方で市街地上空では発砲の許可が下りないらしく、ただ追いかけているのみである。あり得ない「太陽系に人間以外の生命体はいない」というのは半世紀に及ぶ調査によって実証されているというのに…注意深く眺めていると、塊は急降下を始め、数秒の後に二人の二百メートル程前方に地響きをあげながら着地したーーー