表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第四章 ハートナー公爵領編
80/514

六十八話 ハートナー公爵領は衰退しました

《【格闘術】、【毒分泌(舌牙爪)】、【吸血】スキルのレベルが上がりました!》




「なるほど。既に町はゴブリンキングの根城になっていたと」

『しかし、やるもんだな。一人で災害指定種を相手にするとは』

「俺も見たかったぞ、キングの大暴れ」

「いやー、それほどでも」


 その日の夜、ヴァンダルーはエレオノーラや合流したニンジャ部隊のブラガやズランと一緒に鍋をつついていた。


 あの後、ヴァンダルーは只管ゴブリンと戦った。【幽体離脱】や【霊体化】で分裂し、【実体化】スキルで実体化して、【死弾】を撃ちまくったり、鉤爪で屠ったりしながら、延々ゴブリンを走り回りながら一方的に虐殺したのだった。

 【ゴーレム錬成】で町の壁からストーンゴーレムを作って味方を増やしたので、ゴブリンは一匹残らず物言わぬ骸と化したのだった。


 尚、ゴブリンの雌をブラガ達の相手にする事は最初から考慮されていない。まずブラガ達はゴブリンの言葉が分からないし、ブラックゴブリンはゴブリンよりもずっと人間に近い見た目をしているため、美醜の感覚が合わないからだ。


「大した事ありませんよ。ゴブリンが千匹くらい」

『普通は大した事だぜ。C級冒険者だって一人じゃ逃げ出す数だぞ』

「ほら、俺って普通じゃないですし」

「うん、キング凄いぞ」


 ゴブリンキングに率いられた千匹のゴブリン。まだキングが君臨する群にしては小規模だが、普通の冒険者なら単独で、数人のパーティーを組んでいたとしても挑みはしない。

 レベルはまだ低いだろうが【眷属強化】スキルの影響で通常よりも強化されているだろうし、キングが君臨するだけで臆病なゴブリンは命を惜しまぬ蛮勇な兵と化す。


 しかし、ヴァンダルーにとっては一人で相手をして、一方的に勝てる相手だ。

 彼は一点突破で自身が張る【停撃の結界】や【吸魔の結界】を破れる力のある相手に弱いが、逆に何をしても結界を破れない相手に対しては無敵に等しい。


 結界の中で本体である肉体と魂を守り、外で戦うのを【実体化】した霊体の分身に任せる。すると、錆の浮いた武器しかないゴブリンソルジャーやジェネラルは、彼に致命傷を与える事が出来ない。

 ゴブリンキングやメイジが頑張って分身を倒しても、ヴァンダルーからしてみれば我慢できる程度の痛みでしか無く、またすぐ分身を作ればそれで済む。


 更に町の周囲に残っている石の壁をストーンゴーレムにして味方を増やせば、逃げ出す事すら難しい。


 結果、ゴブリンキング達はヴァンダルーの魔力を一千万程削っただけで壊滅したのだった。その削った一千万も、【魔力自動回復】スキルと、ゴブリンキングの血を【吸血】した事で大分回復しつつあるが。


「でもヴァンダルー様、病気を使えばもっと早く倒せたのではないの?」

 去年ミルグ盾国軍との防衛戦で使用した病は、ヴァンダルーがその気になればすぐに病原菌を作成可能だ。それを使えば、ブラックでは無い通常のゴブリン達は一気に行動不能になる。すぐに死ぬ訳ではないが、まるで作業のように倒れているゴブリンに止めを刺すだけになるので、戦いにすらならない。


 しかしその手段には欠点があった。

「そうですけど、もしゴブリンに捕まっている人がいたら大変ですから。まあ、居ませんでしたけど」

 ゴブリンはオーク同様に時折女を攫い、子を産む道具にする。その可能性を考慮したヴァンダルーだったが、幸いこの群に今掴まっている女は居ないようだった。一応、それらしい生命反応は在ったのだが、ただの雌ゴブリンだった。


「居るかどうかも分からない女の事を考えるなんて、思慮深いのね」

「普通の配慮だと思いますよ。でも褒めるのは止めないで」

 美味しい食事と人からの賞賛は、人生の潤いである。スキンシップがつけば尚良し。

『おう、偉いぞ』

「エライ、キング」


 三人に撫でられて初めての人里訪問が失敗した落胆から立ち直ったヴァンダルーは、殺したゴブリン本人をゾンビ化して死体の処理をしつつ、皆で野営の準備を始めた。

 ゴブリンが使っていた住処を使う気にはなれなかったので、適当な木材や石材で懐かしい竪穴式住居を【ゴーレム錬成】で建築する。


 夏だからこれを十棟も建てれば十分だろう。

 因みに、両手足を砕いて虫の息にしたゴブリンキングはブラガに止めを刺してもらった。経験値は多少入ったが、キングでも所詮ランクは4。レベルが上がる程では無かった。


『しかし惜しいな。ゴブリンキングを倒したのが冒険者になった後なら、一気に等級が上がったろうに』

「そんなに凄いんですか? ゴブリンキング」

『そりゃあな。もし登録したての新人が一人で倒したってなれば、G級から一気にE級に昇級して、D級への昇級試験もすぐ受けられると思うぜ』

「おー、見た目より凄いな。流石キングと同じだけある」


「……うわ、凄い損をした気がしてきた」

 感心するブラガの横で、ヴァンダルーは地味に肩を落とした。

 登録したばかりの新人が、ゴブリンキングを単独で討伐。凄いビッグニュースだし、冒険者では無い人々の記憶にも残る偉業だ。


 ヴァンダルーが地球でみたサブカルチャー作品でも、主人公がいきなり大偉業を成し遂げて鮮烈なデビューを飾る展開があったが、まさにそれが可能だったわけだ。

 冒険者登録をした後なら。


『いや、そもそも今回はすぐ町を出る予定だったんだろ? どの道昇格試験を受ける時間なんて無いだろ』

「そうよ。それに登録する前にこんな大物を倒したのだもの、ヴァンダルー様ならすぐ同じような功績を上げられるわっ」

 そう慰められたヴァンダルーは、「それもそうですね」とすぐに気を取り直した。


「でも、町が寂れるどころかゴブリンの住処になっているのは何故でしょう? ハートナー公爵領は今も存在しているんですよね?」

「ええ、それは間違いないわ。私もオルバウム選王国に来たのは初めてだけど、流石に公爵領が一つ滅んだら大陸西部でも情報は伝わるでしょうし。

 それに、この廃墟の様子を見ると町が無くなったのはずっと前よ」


『俺もこの町に来たのは二回だけだが……やっぱり俺達との交易が無くなったからか? それでも北にここより大きな町が、南には鉱山がある。中継地としてやっていけると思うんだがなぁ?』

「じゃあ、魔物の暴走で町を維持できなくなったとか」


「ああ、それが原因かもしれませんね。ミルグ盾国側でも同じ事があったそうですし」

 タロスヘイムがミルグ盾国軍に滅ぼされた後、巨人種の冒険者による魔物の間引きが行われなくなったせいで、魔物が境界山脈を越えてミルグ盾国に害を成すようになったと、元ミルグ盾国の冒険者のカチアから聞いた事がある。


 それと同じ事がハートナー公爵領でも起こったのだろう。そしてブラガの言うように、公爵は町が維持できなくなり放棄したのではないだろうか。

『そうか、道理で町の周りが準魔境化していると思ったぜ。魔物の間引きが出来てねぇのか』


 因みに、魔境と準魔境の違いはその土地を汚染している魔力の度合いだ。

 通常の動植物が生息しているだけで魔力に汚染されて魔物化し、自然に魔物が発生する程魔力の汚染が深刻な土地を魔境と呼ぶ。コボルの実等魔境由来の採取物が生息するのも魔境である条件だ。

 魔境を魔物が発生しない普通の土地にするには、森なら木を切り開き沼なら埋め立て、魔力が宿りやすい物を除去してから、神殿の聖職者に浄化して貰わなければならない。


 対して準魔境とは、他の魔境から何らかの理由で出て来た複数の魔物が棲み付いているだけの土地。その土地を利用する者にとっては魔境と同じだが、魔物を狩り尽くせばそれ以上魔物は発生しなくなる。普通の森や沼地として使う事が出来る。


 この理屈だと、作物がモンスタープラント化するタロスヘイムの町と周辺は立派な魔境なのだが、誰も気にしていない。


「それで、これからどうするの? タロスヘイムに帰る?」

「いや、北にある町まで行ってみましょう」

『南の鉱山よりは望みがありそうだな。二百年も経てば、鉱脈が枯れて閉山になってるかもしれねえ』

「え? この世界の鉱脈って枯れるんですか?」


「キング、枯れない鉱脈はダンジョンの鉱脈だけ」

 どうやら、タロスヘイムは本当に恵まれた立地に存在したようだ。




 翌日、ヴァンダルーは町をエレオノーラ達が待機する拠点にするため井戸の水をアクアゴーレム(見た目はスライムっぽい)にして入れ替え、後はブラックゴブリン達に掃除して貰う。そして壁や見張り櫓、あと罠を幾つか【ゴーレム錬成】で手早く設置すると、ゴブリンの霊から場所を聞き出した街道に向かって歩き出した。

 途中、歩くのが面倒に成ったがこれも体力作りのためだと昨日とは違い、四足走行に切り替えて鉤爪で地面を掴みながら走る。


「ぎるどーとうろくしーて、ぼうけんしゃーになったらー」

 そんな音程の無い歌を歌いながら両手足で走る事三十分程。やっと道を発見する。普通の馬車で移動したら上下に揺れそうな粗末な道だが、明らかに人の手が入っている道だ。


 これがオルバウム選王国の街道かと暫し見つめ、街道に足を踏み入れ記念すべき一歩に両手を上げて万歳。そのまま硬直し……呟く。

「一人旅って、虚しい」

 歌を歌ってみたり無意味に盛り上がってみたりしたが、間が持たない。気分が持続しないのだ。


 前世と前々世では孤独だったヴァンダルーだったが、ラムダでは常に自分以外の誰かが存在していた。そのため、彼はすっかり孤独感への耐性を喪っていたのだ。

 尤も、今も千を超える霊がヴァンダルーの周囲に存在しているのだが。ただの霊の状態では人格が徐々に崩れていく。なのでヴァンダルーが周囲に引きつれている霊は昨日自分で殺したゴブリンも含め、仲間と言うよりも【ゴーレム錬成】等に使うただの道具に過ぎない。


「早く町に辿りつかないと、話し相手にするためだけにアンデッドを作りそうだ。それで北は……こっちか」

 太陽から大体の方角を判断して、ヴァンダルーは走り出した。

 そのまま暫く走り続けていくと、ふと食欲の湧く香りが風に混じっているのに気がついた。


「これは血の香り。この臭みはゴブリン……いや、人の血も混じっている?」

 どうやら、この先でゴブリンと人が争っているらしい。

「よし、助けに行こう」

 【飛行】でふわりと宙に浮くと、そのまま猛スピードで飛んでいく。


 戦っている冒険者や兵士が苦戦しているかどうかは不明だが、たとえ優勢でも助けに入れば友好的に接してくれるのではないだろうか? そうヴァンダルーは考えた。

 彼は相変わらず【死属性魅了】が効かない相手とのコミュニケーションに自信が無かったのだった。




 棍棒を受け止めた盾を、カシムはそのまま棍棒の主に叩きつけた。

「くらえ! シールドバッシュ!」

「げべぇ!?」

 顔面を盾で殴られたゴブリンソルジャーが、後ろに吹っ飛ぶ。しかし、すぐに他のゴブリンソルジャーが開いた位置を埋めてしまう。


「おい、カシム! お前何時の間に【シールドバッシュ】が使える様になったんだ!?」

「いや、口で言っただけで武技が使える訳じゃない」

「だと思ったよ!」


 盾職志望のカシムと剣士志望のフェスター、斥候職志望のゼノの三人の冒険者パーティーは、最近村から鉱山までの街道にゴブリンが頻繁に出現するようになったため、間引くためにゴブリン狩りを行っていた。

 三人とも冒険者学校を卒業しE級冒険者になったばかりだが、それでもゴブリンの数匹、ゴブリンソルジャーも三~四匹なら一度に出て来ても、退治できる自信があった。


 しかし魔境でも何でもない街道で、ゴブリンソルジャーが一度に十匹以上出て来るとは思わなかった。

「ギギェギギャ」

 その上、厄介なゴブリンが指揮を執っていた。あれは冒険者学校で習った新人キラーの一種、ランク3のゴブリンバーバリアンだ。


「何だってゴブリンバーバリアンがこんな所に出るんだよ! 聞いてないぞ、そんな話!」

「皆ゴブリンと見間違えたんだ。だから新人キラーなんだよ」

 ゴブリンバーバリアンは、近くで見れば首回りや四肢の筋肉が他のゴブリンよりも明らかに発達しているのが分かるが、遠目には若干横に太いだけのゴブリンに見える。そして多くの場合武器は、他のゴブリンの物より大きいだけの、木の枝をそのまま使った棍棒だ。


 そのため、多くの新人がランク1の通常のゴブリンだと勘違いして近付き、その怪力で撲殺されてきた。


「同じ新人キラーのゴブリンメイジよりもマシだろ」

 ゴブリンバーバリアンの頭の中は、通常のゴブリンと変わりない。そのため、指揮を執っている今も「逃げるな」と「戦え」以外の指示は出していなさそうだ。

「ゼノ、それはそうだけど厄介は厄介だぞ。何と言っても、逃げてくれっ、ない!」


 フェスターが剣でゴブリンソルジャーを一体やっと斬り伏せるが、やはりすぐ次のゴブリンソルジャーが前に出て来る。

 既に斬り伏せた数は三匹。ゴブリンソルジャーくらい頭が良ければ勝ち目が薄い、若しくは勝っても割に合わないと思えば逃げる。


 だがゴブリンバーバリアンの頭の中は戦う事以外入っていない。そしてソルジャーはカシム達よりもバーバリアンが怖いので逃げられずにいるのだ。


「おいっ、魔力は残ってるか? 俺は【挑発】と、【石壁】か【石体】を使ったら無くなる」

「俺は、武技を三回使える。フェスター、お前は?」

「……【一閃】二回分だけだ」

 E級冒険者の、それも魔術師以外の魔力は潤沢とは言い難い。残りの魔力と自力でこの急場を凌ぐのは、難しいとカシムは覚悟した。


 せめてもの幸いは、自分達が男ばかりである事か。どんなに悪くても、この場で殺されるだけで済む。……その後食料にされるだろうが、死んだ後なら痛くはない。

「ゼノ、フェスター、俺が【挑発】でゴブリンの注意を引く。その間にお前らは逃げろ」

「カシムっ、お前何を――」


「街道にバーバリアンが出て来ているんだぞ、近くにゴブリンの大きな集落があるに違いない。それを村の皆に知らせろ!」

 そう言いながら盾を構え、攻めあぐねているが逃げられないゴブリンソルジャー達に【盾術】の武技、【挑発】を使おうとした瞬間だった。


 ゴブリンバーバリアンのずっと後ろに、大きな荷物を背負った子供が浮かんでいた。

「えっ?」

 そしてその子供は音も無く、しかし風の様に速く近づいてくる。


「――【鉄裂】」

 そして、鉤爪を横薙ぎに振って簡単にゴブリンバーバリアンの首を刎ねた。


「えぇ?」

「ゲ?」

「な、何?」

「ギャゲ?」


 断末魔の叫びも無く首を刎ね飛ばされたゴブリンバーバリアンの首無し死体から、血が噴水のように吹き上がる。

 カシムとゴブリンソルジャー達は、その血の噴水の向こうで現実感の欠片も漂わせず宙に浮かんでいる白髪の子供を、ぽかんと見ていた。


「あのー、ゴブリン達に攻撃するなら今の内だと思いますよ」

 数秒後、子供……ヴァンダルーはまだぽかんとしているカシム達に忠告した。

「ゲギュ?」

「え? お、おう」

「げぎゃぁ!?」


 とりあえず、カシム達は手に持っていたメイスや剣やナイフで呆然としていたゴブリンソルジャーを殴り倒した。我に返って逃亡を試みたゴブリンも居たが、ヴァンダルーが無造作に振るう鉤爪の前に倒され、ゴブリンは無事全滅したのだった。


「申し遅れました。俺はヴァンダルーと申します」

「あ、ああ。お蔭で助かったよ」

 礼儀正しく挨拶するヴァンダルー相手に、カシム達E級冒険者はまだ困惑していた。


 白髪に蠟を固めたような白い肌、人形のように整った顔立ちに澄んだ声。そのどれもが人形染みた存在感の無さ……まるで、触れようとすれば消えてしまう幻のような雰囲気を纏っている。

 唯一生々しいのが、血で汚れた細い指から生えているナイフのような鉤爪だが、カシム達にとってはそれが最も信じ難かった。


 筋肉で覆われた太いゴブリンバーバリアンの首を、ヴァンダルーはあの爪で刎ねたのだ。ランク3、冒険者学校で新人キラーと恐れられる、自分達よりも確実に強い魔物の首を。

(こいつは何者だ?)

 そんな疑問で頭が占領されても無理は無いだろう。


「ええっと、ヴァンダルーさんは――」

「呼び捨てで良いですよ。カシムさん達は大人じゃありませんか」

 このラムダ世界では人種はほぼ全ての地域で十五歳に成ると成人として扱われる。そしてカシム達三人は、十代半過ぎのようにヴァンダルーには見えた。


 実際三人は冒険者学校を卒業した、今年十五になった少年達である。


「そ、そうか? じゃあヴァンダルー、貴方は、いや、お前は、何なんだ?」

「カシム、それじゃ何を聞いているのか分からないだろ!」

「つまり、君は何処の誰で、人なのかって事を聞きたいんだ」

「フェスターっ、お前も失礼だろっ、命の恩人に対して!」


 三人が何故狼狽えているのかヴァンダルーには分からなかったが、とりあえず彼は聞かれた事に答える事にした。


「俺はダンピールで、母と人里離れた森の中で暮らしていました。吸血鬼の父が何処に居るのか、生きているのかも分かりません。最近母が病死したので、遺言に従って冒険者になるために冒険者ギルドのある町に向かっています」

 流石に自分の身の上を正直に話すつもりは無かったので、事前に考えてあった嘘の設定を話す。


「ダンピール!?」

「あ、本当だ、瞳の色が左右で違うし、鉤爪が生えてる。初めて見た」

「な、なあ? 牙も生えてるのか?」

 そして、その説明でカシム達はヴァンダルーの奇妙さに納得したようだ。


 オルバウム選王国ではダンピールの人権が認められているが、吸血鬼との混血児がそう頻繁に産まれる訳がないし、国が認めても吸血鬼達がダンピールの存在を認めるかは別の問題だ。

 なので、多くの人は実際にダンピールを見た事が無い。


 町の冒険者学校に通ったカシム達でも、オッドアイや鉤爪、牙等種族的な特徴を知っているだけだった。

 そのため、他の奇妙な点も「ダンピールだからか」で納得したのだった。


(もしかして、選王国でのダンピールの扱いって珍獣?)


「あー、牙は生えてますけど……それよりいいんですか? ゴブリンの耳とか切り取らなくて」

「「「そうだった!」」」

 カシム達ははっと我に返ると、ゼノ以外はゴブリンソルジャー達から急いで討伐証明の耳を切り落とし、魔石が発生していないか胸部を裂いて確かめる。


 更にゴブリンソルジャーが持っていた槍の柄や、バーバリアンの棍棒まで燃料になると持って行く。ヴァンダルーも驚く貪欲さだが、新米E級冒険者ならこれぐらい普通である。

 カシム達の装備は一見歴戦の冒険者らしい物だが、それは単純に先輩冒険者のお下がりであり、中古品だ。


 カシムの盾は青銅だが、メイスは石製で鎧は厚手の皮で出来たヘビーレザーアーマーと呼ばれるものだ。

 ゼノのナイフやフェスターの剣は型に金属を流し込んだ鋳造の安物で、着ているのもやはり安物のライトレザーアーマーだった。

 これで身なりが不潔で登録証が無ければ、食い詰めた山賊と間違えられても無理は無い。そんな様子だ。


 対してヴァンダルーの格好は目立たないよう、去年トンネルの出入り口にあったミルグ盾国の砦から盗んできた一般兵の服から苦労して作った服の上下に、彼の体重より重そうな大荷物を背負っている。一見して価値のありそうなものは、荷物の中身に期待するしかなさそうだ。

 しかし、実は履いているサンダルだけは高級品だ。


 鉤爪を使うのに不自由しないようタレアが作った逸品で、靴底はオーガとアースドラゴンの皮を縫い合わせ、ロックドラゴンの腱から作った紐で作った物だ。

 このサンダルを売れば、カシム達の装備品を全て新品で揃える事が出来る。


「ええっと、ゴブリンバーバリアンの魔石と討伐証明は、君が――」

「いえ、俺はまだ冒険者じゃないので皆さんでどうぞ」

「いや、そんな訳にはいかない。ランク3の魔石は百バウムもするし、討伐証明は三百バウムもするんだぞ!」

「……あれってゴブリンバーバリアンっていうんですか」


 ようやく自分が首を刎ねたゴブリンがただのゴブリンではなかったと知った、ヴァンダルーだった。

 しかし、金額の事を言われてもピンとこない。


「では、村か町まで案内してもらえませんか? 後、人里の事や冒険者ギルドの事を教えてもらえると助かります。何分、世間知らずなもので」

 そう言うとカシム達もある程度納得したらしい。


「分かった。俺達が拠点にしている村まで案内しよう」

 こうしてヴァンダルーは初めての人里に入る足掛かりを得たのだった。




・名前:カシム

・種族:人種

・年齢:15

・二つ名:無し

・ジョブ:見習い戦士

・レベル:72

・ジョブ履歴:無し



・パッシブスキル

無し


・アクティブスキル

農業:1Lv

棍術:1Lv

盾術:1Lv

鎧術:1Lv




・名前:ゼノ

・種族:人種

・年齢:15

・二つ名:無し

・ジョブ:見習い盗賊

・レベル:65

・ジョブ履歴:無し



・パッシブスキル

気配感知:1Lv


・アクティブスキル

短剣術:1Lv

弓術:2Lv

罠:1Lv




・名前:フェスター

・種族:人種

・年齢:15

・二つ名:無し

・ジョブ:見習い戦士

・レベル:71

・ジョブ履歴:無し



・パッシブスキル

筋力強化:1Lv


・アクティブスキル

漁業:1Lv

剣術:2Lv

解体:1Lv

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援よろしくお願いします。


1月22に69話、26日に70話、27日に71話を投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ