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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第四章 ハートナー公爵領編
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六十七話 初めてのお使い グッドアフタヌーン、キング

 書類。

 言うまでも無く、筆記用具が無ければ存在しない物である。木の皮や板、動物の皮も筆記用具として使えるが、ヴァンダルーの前にあるのは彼が生産体制を整えたゴーレム工場で作られた紙の書類だった。

 これを見ると、何故自分は藁半紙を作ってしまったのかと後悔の念を覚える。


「でもまあ、デスクワークも必要ですよね」

 今の内に慣れておくと、きっと将来楽だろう。テキパキと仕事をする出来る男として、人望と尊敬が得られるはずだ。……ラムダでは、全体的に魔物を狩れる強い男の方が人気のようだが。


 とりあえず書類を処理する。ざっと目を通してチェック、問題が無ければこの前作った判子を押して決済。

「「「ふう、終わった終わった」」」

『……陛下、一度私に書類仕事のやり方を伝授して頂けませんか?』

 頭や腕を増やしたり分裂したりして仕事をしていたヴァンダルーは、何故か自分よりずっとデスクワーク歴が長いはずのチェザーレに教えを請われた。


「教えても良いですけど、チェザーレの場合は物理的に腕や頭を増やした方が早いですよ。今日の内に手術しましょうか?」

『いえ、またの機会にお願いします』

 ゾンビになっても人体(死体)改造には抵抗があるらしい。


「それで、新しい書類ですか?」

『いえ、そろそろ通貨の件をお考えいただきたく……』

「それですかー」


 現在、タロスヘイムではチェザーレによって様々な制度が出来つつある。

 別にヴァンダルーが命じた訳でも誰かに頼まれた訳でも無いのに、チェザーレが率先して国家体制を整えましょうと進言して来るのだ。


 そのため国旗が日蝕をモチーフにした白と黒の二重丸になったり、各種書類の書式が何時の間にか決まっていたりした。

 因みに、法律については旧タロスヘイムの物と交易していた当時のハートナー公爵領の物を参考にしている。今は使い所がほぼ無いが。


 そんなチェザーレが通貨の導入を訴えるのは当然の流れだった。

『陛下。確かに今までは物々交換で問題無かったかもしれません。しかし、我が国の発展には通貨の導入が必要不可欠! 陛下が望まれる選王国との交易が将来成ったとしても――』

「あのー、選王国との交易は選王国の通貨を導入すれば良いんじゃないでしょうか? 俺、タロスヘイムを独立国にするつもりはあまり無いのですが」


『なんと、陛下は国を売るのですか!?』

「選王国に外交権の無い自治国にしてもらう事を目指そうと思ってますけど」

『陛下っ、自ら属国に成り下がるなど正気ではありませんぞ! 是非お考え直し下さい!』

「……はぁ」


 チェザーレはそう言うが、ヴァンダルーは元々オルバウム選王国の名誉貴族を目指していた。その後、タロスヘイムがどうなるかは、アンデッドやグールの人権を認めさせられるか否か、原種吸血鬼を始末できたかどうかにかかっているが、上手く行った場合は選王国の自治領にしてもらうつもりだった。


 実現の可能性はかなり低いだろうが、実現したら最も利益が大きいと思うからだ。

 勿論ダメだったら独立国として、選王国の多分優秀だろう外交官と取引しながら国家運営をする事になるだろうが……老練な政治家のアンデッドが何十体必要になるのだろうか?


「まあ、それは将来の話なので今は横に置いて……通貨の事ですよね。今日中にはハートナー公爵領に出発するつもりなので、それから考えませんか?」

 ヴァンダルーは既に七歳になり、季節はもう夏。予定ではもう公爵領に向かっているはずだった。


 その目的は、ギルド登録である。


 未成年者は本格的に冒険者として活動するには、冒険者学校に入学して卒業資格を得なければならない。だが、登録するだけなら入学しなくても可能だ。

 冒険者ギルドに登録したばかりのG級では、町の中の日雇い労働ぐらいしか仕事を受けられないので、学校で学ぶ必要が無いのだ。学校に入学するのは、F級以上へ上がり本格的な冒険者になるつもりがある者だけだ。……少なくとも、二百年前の選王国の冒険者ギルドでは。


 将来的にはヴァンダルーもF級以上の冒険者になって、手柄を上げて名誉貴族に成るつもりだ。だが今は登録してギルドカードを手に入れたら、学校に入学せずにそのままタロスヘイムに帰ってくる予定だ。

 何故なら――。


「これ以上衝撃的なステータスにならない内に、登録しておきたい」


 この一言に尽きる。


 ギルドに登録すると登録証、通称ギルドカードと呼ばれている物を発行して貰えるが、その時全てのステータスがカードを発行する職員に表示されてしまう。

 つまり、ヴァンダルーの【グールキング】や【蝕王】、【忌み名】と言った二つ名や、【アンデッドテイマー】や【魂滅士】等の未発見ジョブ、【死属性魔術】等未知のスキル、【神殺し】と言う衝撃的な固有スキル、更にロドコルテの呪いまで全て表示されてしまうのだ。


 今の時点でかなり不味いが、これから更に増えないとも限らない。なので、これ以上悪化しない内に登録だけして、騒がれる前にダッシュでタロスヘイムに戻ってくる作戦なのである。


 勿論他にも、二百年前ハートナー公爵領に逃げ延びたタロスヘイムの第一王女レビアやボークスの娘達避難民の様子を調べると言う目的もあった。


 巨人種の寿命はグールと同じ約三百年なので、多分町で巨人種に聞けば分かるだろう。

 元気だと嬉しいが、元気すぎてタロスヘイム復興を掲げて活動中だとちょっと困るかもしれない。アンデッドに理解ある人達だと良いのだが。


「その時にオルバウム選王国の硬貨を持って帰ってきますから、それを調べて考えましょう」

 アミッド帝国の通貨は全て帝国で発行される統一通貨だが、オルバウム選王国の通貨は各公爵領と王都で発行されている。つまり、何と十四種類もあるのだ。


 選王国すべてで使える統一通貨バウムに、各公爵領で発行される通貨が、混ざり合って流通している。お蔭で一応同じ国なのに、公爵領同士の境界の町には両替所が設置されていて、複数の公爵領で活動する行商人は通貨の交換レートを常に気にかけなければならないらしい。


 上記に加え、更に歴史上何度か古い硬貨と新しい硬貨を交換しているらしい。コインに刻まれた王の顔を変えただけでは無く、金属の比率まで変えるので価値が変わってしまう。


 なので、もしかしたらこの二百年の間にまた新しい硬貨に替わっているかもしれない。


「六年前の戦争で公爵領が実質一つ減りましたけど、ややこしい事に変わりないから、独自の通貨を作るなら慎重にしないと」

 後々、タロスヘイムで使用している金属の比率の違いが原因で硬貨の流出等が起きたら面倒だ。日本では昔、同じ事が起こったと授業で習ったのを覚えている。


 そう言うとチェザーレは何故か驚いた顔をした。

『なんと、まだハートナー公爵領に行くつもりなのですか!?』

「……いや、まだってなんですか? 当たり前でしょう」

『しかし、既に七日も出発を延期しておりますし』


「色々あるんです。色々」

 そう言いながらも、旅立ちの日を七日も延期し続けている事は否定できないヴァンダルーだった。




 ハートナー公爵領に向かうのは、まず自分。そしてズランとブラガのニンジャ部隊、潜入工作員として優秀なエレオノーラだけのつもりだった。

 それでハートナー公爵領の町までヴァンダルーが行き、町の様子を確認して【危険感知:死】に反応する存在が無いか調べてから、ニンジャ部隊とエレオノーラを呼ぶ予定だった。

 それは何か月も前から皆に話していたのだが――。


 一日目。

「ヤダヤダ一緒に行くーっ!」

「い゛ぐぅ!」

「や、だやだ、い、一緒に、行きた……やっぱり無理じゃぁぁぁっ!」


「パウヴィナ、行って帰って来るだけだから早ければ十日もかかりません。ラピが人里に近づくと大騒ぎになるからダメ。そしてザディリス、照れるならやらなきゃいいのに」

 パウヴィナとラピエサージュ、後何故かザディリスの三人に引き止められる。パウヴィナとラピエサージュはすぐ宥められたが、「年甲斐も無く、儂は何をやっているんじゃろう」と落ち込んでいるザディリスを励ましていたら、日が暮れていた。


 その日は出発を諦めて、ヴァービやジャダル達年少組と戯れて過ごす。


 二日目。

 今日こそはと外に出かけてみると。俄かに空が暗くなり、気がつくと空に拉致されていた。

『おおぉぉぉぉん』

 どうやら、ユニオンボーンのクノッヘンに背後から拉致されたらしい。


「あのー、今日は出発するつもりなんですけど」

『おおぉぉぉぉん? おぉん』

「いや、一緒に行くのはちょっと」


 まだタロスへイムの誰もユニオンボーンが災害指定種である事を知らないが、それでも無数の骨の塊が町に近づけば大騒ぎになるだろう事は想像に難くない。


「俺がギルドで登録したら、従魔の証明書も貰ってきますから」

『おおおおおん!』

 空を旋回するクノッヘンの体内で遊覧飛行しながら説得していると、日が暮れていた。


 三日目。

 今日こそはと外に出ると、大量の羽音が響き俄かに空が暗くなったと思ったら、空に拉致されていた。

 ヴヴヴヴヴヴヴ。


「デジャブかなと思ったら、セメタリービーか」

 数十匹のセメタリービーは、ヴァンダルーを掴んで飛び上がるとそのまま王城の一部のように造られている巣に運ばれた。

 そして、何故か蜂蜜と虫を振る舞われた。恐らく、これを食べていいから行かないでと言いたかったのではないだろうか?


「いや、ちゃんと戻ってきますから」

 キチチキチチキチキ

「うん、本当に。だから芋虫の団子を食べさせようとするのはストップしてください。せめて煮るか焼くかさせて」

 焼き芋虫団子の蜂蜜和えは、外はカリッと中はとろっとして美味だった。蜂蜜を甘辛いタレに変えれば、おかずや酒の肴にいいかもしれない。


 四日目。

『本当に大丈夫? もう少しレベルが上がってからの方が……だって、最近レベルが上がらないって言っていたじゃない』

 その日は朝から起きていたダルシアが不安がって、ヴァンダルーを引き止めた。


「大丈夫だよ、母さん。ちょっと早めに壁にぶつかっているだけで、別に弱くなった訳じゃないから」

 ダルシアの言う通り、現在ヴァンダルーは俗に『壁』と呼ばれる、突然レベルが上がり難くなる成長の停滞期に入っていた。

 伸び悩んでいる状態ではあるが、別に突然弱くなった訳ではなく昨日まで出来ていた事が、今日から不可能になる訳でもない。


 それにこれからずっと成長が停滞する訳ではない。『壁』は超えられる事が知られている。実際、それに悩んでいたカチアは現在壁を越え、以前のようにレベルを上げ続けている。


 『壁』はぶつかるタイミングも厚さも様々で、「これが俺の限界だ」と諦める人もいるが、壁を乗り越えて更なる成長を遂げる人も多い。その後、二度目の壁にぶつかると、諦める冒険者の比率は高くなるが。

 『壁』は、冒険者の間ではD級に成る頃には一度はぶつかるそうだ。『壁』をすぐ超えられた者は才能があるとC級昇格に臨み、カチアのようにすぐ超えられなかった者が長いスランプを経験するらしい。


 因みに、元A級冒険者のボークスは三回『壁』を越えていて、四回目を越えている途中でミハエルに負けたらしい。


「なので、逆に言えば俺は今D級冒険者並に強いと言う事で、ちょっと街に行って帰って来るだけなら楽勝だと思うのですよ」

 世のD級冒険者が聞いたら、全力で否定するだろう事を言うヴァンダルー。そしてダルシアも納得しなかった。

『いやっ! あなたと離れ離れになるなんて! 今迄みたいに母さんも連れて行って!』


「俺も連れて行きたいんですけど、ちょっと危険ですから」

 町に入る時、門番に荷物を厳しく改められるかもしれない。そしてダルシアの骨片が見つかり、彼女の霊が憑いている事が万が一見抜かれたら厄介な事になる。

 門番が人を呼んだり、ダルシアの霊を浄化させようとしたりしたら、最悪の場合門番を殺してでも逃げなくてはならなくなるからだ。


「ほら、俺が【魔力弾】を乱射したら大変でしょう?」

 そう、大変だ。そんな事を町の門の前でやったら、門番の生死どころではない。門と周囲の城壁が瓦礫の山に……瓦礫が残るかすら怪しい。

『うぅ……分かったわ。でも、ちゃんと帰って来るのよ』

「うん、もちろんだよ母さん」


 そしてこの日も日が暮れた。


 五日目。

「あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇ」

 平坦な悲鳴らしい声を上げながら、ヴァンダルーはイモータルエントに拉致された。ぐったりとしたその様子からは、諦観しか感じ取れない。


 六日目

『坊主、向こうで娘に合ったら渡して欲しいって頼んだ手紙だがよ、もし娘が苦労しているならこれも渡してやってくれ』

「御子よ、レビア様に会う事が在ったら是非これを」

『これも頼むぜ、陛下!』


「……既に荷物が俺の三倍くらい大きいのですが」


 荷物の調整に時間がかかり、やはり一日延期。


 そして今日が七日目である。

「既に皆に納得してもらったし、味噌も醤油も鰹節も燻製もマヨネーズもケチャップも、工場は俺がいなくても百年は動く。

 準備は万全。後はこの足で歩いて行くのみ」


「あの、ヴァンダルー様、ちょっと問題が……」

 ヴァンダルーが意気込んでいると、現れたエレオノーラが言い淀みながら話しかけてきた。

「問題?」

「ブラガ達が昨日、ダンジョンに向かってしまったの。帰って来るのは、数日先かも」


 どうやら、連日の延期に耐えられなかったブラガ達ニンジャ部隊は、ダンジョンに訓練をしに出かけてしまったようだ。

「仕方ない、先に出ましょう。通信用アンデッドを置いて行けば、後で合流できるだろうし」

 使い魔を応用した通信用アンデッドは、携帯電話代わりに使える。通話できる距離は短く、声もアンデッドの耳と舌を通すのでそのまま聞こえる事は無いが、このラムダでは画期的なアンデッドである。


 外見はゴブリンの干し首なので、デザイン性は最悪だが。……人の生首を使った方が機能性は向上するのだが、見つかったら流石に捕まるので断念した。


「じゃあ、行きましょうか」

「はいっ、ヴァンダルー様っ。ああ、二人きりで旅になんて……♪」

「いや、エレオノーラは一度トンネルの出口で待機ですよ?」

 多分無いと思うが、町の門で対吸血鬼用の防衛策が施されていたら面倒だからだ。


 それ以外にもエレオノーラの場合は【悦命の邪神】ヒヒリュシュカカを奉じる原種吸血鬼達の情報網や、血液の主の居場所を探るマジックアイテム等にも、本来なら注意しなければならない。

 しかし、今回は心配ないだろうと言う結論に至っている。


 吸血鬼達の情報網がどれくらいか知れないが、彼らはヴァンダルーがトンネルを再開通させられるとは思っていないはず。それに、あらゆる町や村に草の者が居ると言う程巨大で綿密な組織でも無いらしい。

 主だった町なら情報提供者が何人か居るが、そうでない町や村には特殊な訳でも無ければ居ないそうだ。少なくとも、エレオノーラが知る帝国や盾国の情報網はその程度らしい。


 そしてマジックアイテムの方は、現物を以前の防衛戦で鹵獲している。同じ物があったとしても、アイテムを使うのに必要なエレオノーラの血が、そろそろ尽きているはずだ。


 それにもし原種吸血鬼の手の者に見つかっても、大抵は始末できる自信がある。


「そういう訳で行ってきます」

「行ってらっしゃいませ、ヴァン様。必ず私の元に帰って来てくださいましね」

「タレア、ヴァンは私達の元に戻って来るんだ」

『坊ちゃん、次は是非このサムも足にお使いください』


 そして国を挙げての見送りを受けて、ヴァンダルーはエレオノーラを連れてタロスヘイムからハートナー公爵領へ旅立ったのだった。


 三日、時々プテラノドンや鳥タイプの魔物に襲撃されつつ空を飛び、既にゴーレム化させて再建済みのトンネルをやはり三日かけて進み、出口を塞いでいたゴーレムに退いてもらい、ヴァンダルーはやっと念願のオルバウム選王国に到着したのだった。


 トンネルの出口は道の痕が残っているだけの、木がまばらに生えた草原だったが。


 タロスヘイムと交易していた二百年前は立派な街道があったらしいが、今はその名残が残っているだけだ。

「ここを東に三時間も進めば、目標の町があるそうだけど……まだあるのかしら?」

「人口数千人の街らしいですから、多分? 少なくとも、ハートナー公爵領は滅んでないはずですから、近くに人里は在るでしょう。

 じゃあ、エレオノーラはこの辺りで待機していて。連絡は通信用アンデッドで」


「分かったわ。でも……一人で大丈夫?」

「大丈夫、一人で出来ます」

 語尾を「もん」にするべきだったろうか? そんな馬鹿な事を考えつつ、心配顔のエレオノーラを残し、ヴァンダルーは道の痕跡を辿って歩き出した。


 実際には数多くの霊を引きつれているので、本当は一人じゃないのだが。


 尚、トンネルの出口はゴーレムが塞いで偽装しており、合言葉を言えばすぐに開く仕組みになっていた。

 合言葉は、「反復横跳びする脳髄」である。絶対、間違っても偶然口にする言葉ではない。

 そしてトンネルの内部には簡易的な宿泊施設が壁際に作られている。エレオノーラはそこで待機しながら後続のニンジャ部隊を待つ予定なのだ。




「そろそろですね」

 自分よりも高く伸びている草を踏み越えるのが面倒に成ったので、ヴァンダルーは草の上を音も無く【飛行】で飛びながら移動していた。

 背中に背負っている荷物が無ければ、亡霊と勘違いされそうだ。


 だからという訳ではないだろうが、時々ゴブリンや翼を広げると一メートル半ば程になる大鴉等が襲い掛かって来る。そしてすぐにヴァンダルーに撃退されていた。

 ランク1や2の魔物程度なら、特に工夫しなくても屠れる。勿論呪いのせいで経験値は入らないが、微々たるものなので全く気にならない。


「げぎぎゃー!」

「げぎぎゃぁ」

 奇声を上げながら木の棒を振り回すゴブリンに、とりあえずやる気のない奇声を返しながら、ブラガ達ニンジャ部隊と一緒に訓練した結果獲得した、【投擲術】スキルで石を投げて始末する。


「ランク2の大鴉なら、五回に一回は魔石が手に入るんですけどね。手に入れば、通行税の代わりぐらいには成るのに」

 バーンガイア大陸では、町や村に入るのに通行税を要求されるのが普通だ。ヴァンダルーはオルバウム選王国の通貨であるバウムを持っていないので、代わりに使えそうな塩を荷物に入れて来ていた。


 高ランクの魔物の魔石や素材だと「何故こんな子供が?」と騒ぎになるかもしれないので諦め、ハートナー公爵領は海や岩塩が採れる場所が無いため高価な塩を持ちこんだのだ。

「二百年の間に岩塩鉱山が発見されていて、塩が値下がりしていたら魔物を狩るしかないか」

 それとも、久しぶりに魔物では無い野兎でも探そうか。


「そう言えば、母さんがくれた野兎の生き血は美味しかったな」

 思い出に浸りつつ、また襲いかかって来た別のゴブリンを殴り殺して、進む。

 すると、遠くに石で出来た壁が見えて来た。


「やっと見えて来た。でも、随分と苔や蔦で荒れているな。ボークス達からは、結構栄えている町だって聞いていたのに」

 タロスヘイムとハートナー公爵領を繋ぐ交易都市で、交易が始まってから急ピッチで造られたので歴史は浅いが、その分活気のある町だと聞いていたのだが。


 やはりタロスヘイムが滅ぼされたせいで交易が無くなり、町が衰退したのかもしれない。実際、町の近くなのにゴブリンや大鴉等の魔物が多すぎる……気がする。普通の町の近くに来たのは、エブベジア以来なので確かな事は言えないが。


「まさか、廃墟になっていたりは……」

 不安に駆られたヴァンダルーは、【生命感知】の術を広範囲に使用した。すると、町を中心に千以上の生命反応を感知できた。

 どうやら、衰退はしているが廃墟にはなっていないようだ。


 生命反応の中に、一般人にしては強い反応が幾つもあるが、多分駐留している兵士や冒険者の物だろう。

「ああ、良かった」

 安堵の息をつきながら、ヴァンダルーは地面に降りると町の門に向かって歩き出した。


 すると、こちらに気がついた門番が「ゲギャゲギャ」と騒いでいる。驚かさない様に【飛行】を解いたのだが、無駄だったようだ。

 暗緑色の肌をして、長い鼻と耳と吊りあがった目つきが醜悪な門番――


「うん、現実を見つめよう。あれはゴブリンだ」

 しかも、槍を構える仕草から見るとランク2のゴブリンソルジャーらしい。扉が無い門の向こうには、やはり数え切れない程のゴブリンがこちらを指差して騒ぎ、武器を持って走って来るのが見える。


「ゲギイィィィィィ!」

 そして大人の胸ほどしかないはずのゴブリンの中で、一匹だけ大人と同じくらい大きなゴブリンが叫び声を上げていた。

 他のゴブリンの武装が粗末なのに比べて、しっかりとした作りの鎧と盾、そしてハルバードで武装している。


 どうやら、ゴブリンキングらしい。


「わぁー、自分以外で初めてキングに会ったぞー」

 平坦な声で言いながら、ヴァンダルーはとりあえず【死弾】を撃った。

 ここに【グールキング】と【ゴブリンキング】、二人の王の戦いの幕が切って落とされた!




・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:7歳

・二つ名:【グールキング】 【蝕王】 【忌み名】

・ジョブ:毒手使い

・レベル:20

・ジョブ履歴:死属性魔術師、ゴーレム錬成士、アンデッドテイマー、魂滅士

・能力値

生命力:184

魔力 :328,120,344

力  :128

敏捷 :130

体力 :119

知力 :761



・パッシブスキル

怪力:2Lv

高速治癒:4Lv(UP!)

死属性魔術:6Lv(UP!)

状態異常耐性:7Lv

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv

死属性魅了:6Lv

詠唱破棄:4Lv

眷属強化:8Lv

魔力自動回復:4Lv(UP!)

従属強化:4Lv

毒分泌(爪牙舌):2Lv(UP!)

敏捷強化:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

吸血:6Lv

限界突破:5Lv

ゴーレム錬成:6Lv

無属性魔術:5Lv(UP!)

魔術制御:4Lv

霊体:6Lv

大工:4Lv

土木:3Lv

料理:4Lv

錬金術:4Lv(UP!)

格闘術:4Lv

魂砕き:5Lv

同時発動:5Lv(UP!)

遠隔操作:6Lv(UP!)

手術:2Lv(UP!)

並列思考:5Lv(UP!)

実体化:4Lv(UP!)

連携:3Lv(UP!)

高速思考:3Lv(UP!)

指揮:1Lv

農業:3Lv(UP!)

服飾:2Lv(UP!)

投擲術:3Lv(NEW!)


・ユニークスキル

神殺し:2Lv


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能

ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援をお願いします。


1月18日に閑話6 1月19日に68話、1月22日に69話を投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
学園ものが苦手は自分としては、訓練学校はやだなぁって。 ギルド登録も情報を無闇に晒すだけじゃんって考えちゃう…
[一言] ハイ、陛下!! もう手遅れだと思います\(^o^)/
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