魔物解説 ランク等
これは冒険者ギルドと魔術師ギルド、テイマーギルドが連名で発表している魔物の簡単な解説、およびランクにおける脅威度を記した資料であり、各ギルドの資料室で閲覧可能な情報である。
・注
この中で『一般人』と呼称される存在は、【農夫】や【鍛冶職人】等の生産系ジョブに就いている平均的な能力値の者を指し、引退した兵士や騎士、元特殊部隊所属の料理人等は含まれない。
・注２
ランクは魔物の戦闘力や脅威度を測る一つの目安でしかない事を、忘れてはならない。
貴方がランク７のアースドラゴンを殴り倒す重武装盾職だったとしても、空を自由に飛び回るランク５のワイバーンには敗北する事がある。
魔物を相手にした闘いとは、そういうものである。
・注３
ヴィダの新種族の内魔物にルーツを持つ種族の扱いは冒険者ギルドが存在する国、地域によって異なる。アミッド帝国の在るバーンガイア大陸西部なら等しく討伐対象だが、オルバウム選王国では友好的な部族には人権を認めているため、害すると懲罰(最悪死刑及び奴隷堕ち)の対象になるため、他国や他大陸へ行く場合は確認を怠ってはならない。
また、ヴィダの新種族のランクは種族ごとに定められているが、彼らは人間同様にジョブに就く事が出来る為、ランクだけで力を計るのは危険である。
・魔物にとっての人間
魔物とは魔王グドゥラニスとその配下の邪悪な神々が戦いのために作り出した存在である。そのため、魔物にとって人間は効率の良い経験値源であり、ご馳走である。そのため魔物は積極的に人間を害そうとする。
ただし支配者である魔王亡き今、例外が多々存在する。
１から２の低ランクの魔物は、ゴブリンの様な知能が低い場合を除いて人間の方が強い事を知っているため、自分達より数が多い場合や見るからに強そうな場合は、人間から逃げる事が多い。
ランク７以上の魔物は、並の人間では既に経験値源として物足りず、普段獲物にしている他の魔物の方が美味であるため、進んで一般人を襲う事は無い。
ただし、亜人型の魔物はランクが高くても経験値源や食料以外の理由で人間を襲い、攫う事がある。
逆に人間を直接捕食する機能を持たない魔物(エント等)の中には、人間に殆ど関心を持たず近づかなければ無害な種族も存在する。
また、得られる経験値は今まで得て来た経験値の総量に比例するため、一般人でも幾つものジョブを経験した伝説の職人等なら高ランクの魔物でも食指が動かされる可能性がある。しかし、魔物はそうした特殊な一般人を見分ける術が無い為、特定されて狙われる事はまず無い。
・魔物にとっての魔境＆ダンジョン
魔境やダンジョンには濃い魔力が漂っており、魔物にとって住み心地の良い環境が整っている。また、繁殖や成長の効率も、明らかに魔境やダンジョンの内部の方が良い。グール等は魔境以外では生殖活動が不可能と言われる程。
そのため、魔境やダンジョンに生息している魔物は望んでそこから出る事は無い。
魔境やダンジョンから出て来るのは、獲物が獲れないか縄張り争いに敗れた敗北者であり、ランク５以上の魔物は殆どそうはならない。
例外はやはり亜人タイプの魔物で、人間そのものや人間が持つ物品を目当てに魔境から出て来るケースが度々起こる。
また、数が増えすぎて魔境やダンジョンから魔物が溢れる『大暴走』や、キングが出現した場合等は例外である。
・テイムについて
魔物はテイムする事で、人間の味方にする事が出来る。これは芸術の神シザリオンに選ばれた勇者ナインロードが発明した、テイムスキルが始まりである。
テイムは魔術的な力や共感、信頼関係等で対象となる魔物と絆を結び、飼いならした状態の事を言う。
魔物を召喚する召喚魔術や、精霊魔術で協力して貰う精霊等も、広い意味ではテイムである。
そのため、テイムは個人の技量以外にも対象となる魔物との相性が難易度に関わってくる。人間に近い五感と生態を持つ亜人タイプの魔物、ゴブリンやコボルト、オーク、オーガ等は比較的テイムしやすいと言われる。
他にもエルフは精霊と親しく、ドワーフは大地の中に住む魔物と、獣人は自分に近い獣タイプの魔物と相性が良いとされる。
ただテイマーとあまりに異なる精神構造や価値観、生態の魔物のテイムは事実上不可能だと言われる。
虫タイプの魔物はその生態と精神構造故に、アンデッドは死者と生者を別つ溝が深い故に不可能なのだと言われている。
また、エントやモンスタープラント、ウォーキングマッシュ等の植物タイプの魔物は、テイムする事は不可能ではないものの、感覚器官が人間とは異なるためその難易度はランクに関係無く高い。
例外として、ヴィダの新種族の内魔物にルーツを持つ種族のテイムは、人間と近い五感、精神構造をしていても総じて難易度が高い。
・ランク１
脅威と言うより、農業や漁業といった庶民の営みの邪魔をする魔物。
強さと言うよりも弱さは、一般人でも鍬等を持っていれば殴り倒す事が出来る程度。多くはスキルや特殊能力を持たない存在で、余程の虚弱体質か殺されようと努力しない限り殺される事は無い。
ランク１の魔物は魔境では無い普通の森や草原、川や海でも日常的に出現する。
この程度の魔物が数匹出たくらいでは誰も冒険者ギルドに依頼を出さず、農村の若い衆が棒を持って追いかければ退治できるか、最悪でも追い払える。
ただしその分経済的に利用できる素材は殆ど取れない。例外は肉や毛皮が取れるホーンラビットが上等な部類である。
体内から魔石が取れる確率は百分の一ほどで、その幸運に恵まれても砂利粒のような魔石は子供の小遣い程度の値段にしかならない。
冒険者ギルドで得られる討伐報酬も、五匹退治してやっと木賃宿に素泊まりできる程度。
主な魔物は角の生えた兎のホーンラビット、家畜や作物を盗んだりするゴブリン。リビングデッド、リビングボーン。
このランクの魔物に苦戦するようなら、冒険者は辞めた方が身のためだ。
またテイムも技能さえあれば簡単にできる。苦戦するようなら修業をやり直すか、その魔物と余程相性が悪いかだ。
テイマーギルドではこのランクの魔物をテイムできなければ、見習いですらない。
・ランク２
危険な害獣、狼と同じ程度の脅威。
一匹だけなら武装した一般人や猟師が数人、並の兵士かＥ級冒険者が一人いれば退治できる。
魔境が近くに無い町や村の近くでランク２の魔物が出現する事はやや珍しく、一度に数匹以上出た場合は冒険者ギルドに依頼を出す事が多い。
ただ人里から歩いて数時間以上の街道では、それなりの頻度で出現する。
ランク２の魔物は基本的に魔術や武技を使う事は無いが、時折毒を持っている事があるので注意が必要。
ただ倒せば魔物の種類によっては錬金術や武具の素材が採れ、売ればそれなりの収入になる。魔石は五分の一程の確率で小指の爪よりやや小さい程度の大きさの物が手に入り、木賃宿で一泊素泊まりできる額で売れる。
魔石が取れなくても、冒険者ギルドの討伐報酬でそれぐらいは手に入る。
ただこのランクの魔物だけを狩って冒険者稼業を続けるのは難しい。
主な魔物はゴブリンソルジャー、コボルト、人間大の魚の胴体に手足が生えたサハギン、ひょこひょこと歩く茸のウォーキングマッシュ、ゾンビ、スケルトン、ボーンアニマル。
テイムの難易度は並で、それなりに【調教】や【テイム】技能のレベルがあればまず失敗しない。
このランクの魔物をテイム出来れば、テイマーギルドではやっと半人前。
・ランク３
出現が命の危機に直結する害獣。危険度は大体ヒグマに相当する。
一般人だとしっかりと完全武装した十数人以上で囲めば、追い払える可能性があるが犠牲が出る事は避けられない。
平均的な兵士が数人、騎士が一人、平均的なＥ級冒険者パーティーが一組、Ｄ級冒険者が一人いれば大体討伐可能。ただし、亜人タイプの魔物は手下を引き連れている事があるので注意が必要。
魔境が余程近くに無ければ、町や村でこのランクの魔物が出現する事は殆ど無い。魔物も、自分程度では単体で大勢の人間相手に無傷では済まないと分っているため。
ただし町から離れた野外では、魔境でなくとも稀に遭遇する。また、作戦を立てて村や町を襲撃し、素早く撤退する等の作戦を立てる頭の良い魔物も存在する。
街道では常にではないが稀に出現する。ただ護衛を雇う金や乗合馬車代を惜しんだ行商人や旅人が、このランクの魔物に襲われて命を落とす話は、よく聞く事が出来る。俗に言う、「稀によくある」である。
ランク３の魔物は特殊能力や魔術、武術系スキルのどれか一つか複数を持っている事が多い。危険度はランク２の魔物と比べて飛躍的に高くなる。
このランクの魔物を単独で倒す戦闘力を身に着けられるかが、冒険者稼業を続けられるか否かを分ける。
このランクの魔物からは三分の一の可能性で親指の先程度の魔石が採れ、一個で並の宿に二食付で数日泊まれる。
またこのランクの魔物は、ゴブリン以外は何かしら価値のある素材を持っており、それを売れば数日分の生活費になる。
ただオークやヒュージボアの肉など一頭分で百キログラムを超える為、それを運ぶのは一人では難しい事が多く、大抵は魔石と最も価値のある部位のみを回収し、売る事が多い。
このランクの主な魔物はオーク、ヒュージボア、インペイラーブル、ポイズンマッシュ、ゴースト、リビングアーマー、ゾンビソルジャー、スケルトンソルジャー、ボーンビースト。
このランクの魔物をテイム出来ると、テイマーギルドでは一人前と認められ一人で仕事を受ける事が出来る。
・ランク４
一般人だと百人居ても一方的に殺されるだけ。平均的な兵士が十数人いても三分の一以上の犠牲は避けられない。騎士でも一人では苦しい。Ｅ級冒険者でもパーティー一組だと全滅の可能性あり。Ｄ級冒険者なら昇級したばかりなら数人、ベテランなら一人で倒せる。
(地球で例えると、ティラノサウルス並の脅威)
人口百人から二百人までの小さな村なら壊滅的な被害が出る可能性が高い。
このランクの魔物が魔境やダンジョンでは無い通常の原野や町中に出現したら、まず大暴走の予兆か、召喚術士かテイマーが悪事に走ったのだと思ってよい。
街道で出現する事は珍しいが、無い訳ではない。
このランクの魔物は運が悪くない限り魔石を回収可能。又、複数価値のある素材に成る部位を持っている事が多い。討伐報酬を合わせて、一匹倒せばパーティー全員がその日の生活に困る事は無い。
ただ一人前のＤ級冒険者パーティーは、このランクの魔物を一日で複数匹狩る事を目安に行動している事が殆ど。
それで生活費と装備品などの必要経費を支払い、細やかな貯蓄に回す余裕がやっと出来る。魔物と戦うための装備品は、それほど高価なのだ。
このランクの主な魔物はマッドボア、オーガ、バレットタートル。
このランクの魔物をテイムできると、テイマーギルドでは腕利きと評価される。
・ランク５
このランク以上の魔物に対して一般人はただの餌か、潰して遊ぶ玩具、経験値源でしかない。
一般的な兵士だけでは多大な犠牲を出すだけで、平均的な騎士も複数いなければ立ち向かえない。冒険者だとベテランか昇級を狙うＤ級冒険者パーティーか、Ｃ級冒険者一人がいれば討伐可能。
このランクの魔物がもし人里に現れたら、人口五百人以上の大きな村でも壊滅的な被害が出る事は避けられず、人口千人や二千人の町でも被害が出る。
街道ではまず出現しないが、運悪く遭遇してしまったケースが一年に数件報告されている。
極小規模の魔境なら、このランクの魔物が頂点に君臨している事もある。
ランク５の魔物からは百％魔石を獲得できる。また、一匹倒して全ての素材を売れば一般人が村で一年暮らせるぐらいの収入になる。(家を所有している事が前提)
このランクの魔物を安定的に狩れる冒険者は、余程装備品や娯楽に金をかけなければ、基本的に生活に困る事は無い。
このランクで最も有名な魔物は、ワイバーンが存在する。
このランクの魔物をテイム出来れば、テイマーギルドでは一流の腕前と見なされ、幹部への道が開かれる。それを断っても、名誉会員や名前だけの幹部などになれる。
・ランク６
このランク以上の魔物に対して並の兵士は、ただの肉壁でしかない。騎士でも平均より上位の者でなければ歯が立たない。冒険者の場合はＣ級冒険者のパーティーか、Ｂ級が狙える個人が討伐に必要。
この魔物が開拓村の近くで発見されたら開拓事業の中止を真剣に検討すべきである。
小さな魔境だとこのランクの魔物は存在しない事が多い。中規模でも奥で生息しているため、見つけるのは難しい。
街道で遭遇する事はまず無い。もし遭遇したなら、絶望的に運が悪いと言える。
このランクの魔物を一匹討伐して魔石も素材もすべて売れば、討伐報酬も合わせて一般人が一家族、向こう一年生活に困らない額が手に入る。
このランクの魔物をテイム出来た場合、管理職としての能力があれば、ギルド支部のギルドマスターへの就任が打診される腕前。国家からも注目される。
・ランク７
Ｃ級冒険者パーティー一組以上か、Ｂ級冒険者が必要。居ない場合は、町一つ壊滅する事を覚悟しなくてはならない。
このランクから災害指定を受ける種族の割合が増える。
中規模な魔境に一体、大規模な魔境でも奥に行かなければ存在しない事が多い。
このランクの魔物を一人で倒せば英雄候補と見なされ、魔石や素材を全て売ればかなりの財産になる。町で新築の家を家具付きで買えるくらい。
ランク７の魔物で有名なのは、アースドラゴン。
このランクの魔物をテイム出来れば、超一流の腕前。貴族や大商人から食事に招かれ、その席で仕事のオファーを受ける場合がある。
・ランク８
Ｂ級冒険者パーティーが一組、若しくはＡ級が狙える超人が一人討伐には必要。いなければ、数千人規模の犠牲が出る事を覚悟しなければならない。小さな都市国家なら、国家存亡の危機。
このランクの魔物が魔境で発見される事は滅多になく、多くはダンジョンで発見される。
このランクの魔物を一人で倒せば英雄と見なされ、魔石や素材を全て売ればちょっとした屋敷が高級家具やマジックアイテム付で購入する事が出来る。
このランクで有名な魔物は、ロックドラゴン。
このランクの魔物をテイム出来れば、テイマーギルドの歴史に達人として名を残す事が出来る。国が何らかの形で繋がり(首輪)を持とうとし、何処からも自由なままであれば危険人物と見なされる。
・ランク９
優秀なＢ級冒険者パーティーが一組、若しくはＡ級冒険者が一人討伐に必要。いなければ絶望しかない。
小さな都市国家なら、滅亡しなければおかしい。
このランクの魔物が魔境で発見されるのは大規模な物でも稀で、存在が確認されればギルドから討伐依頼が出される。
ダンジョンではＢ級ダンジョン、バーンガイア大陸に二つしか確認されていないＡ級ダンジョンで発見される。
このランク以上の魔物の素材や魔石は基本的にその場では買い取られず、オークションにかけられる事になる。
そのため買い取り価格は安定しないが、大金である事に変わりは無い。
このランクの魔物をテイム出来たのは、歴史に残る英雄だけだ。
・ランク１０以上
討伐には英雄が必要。いなければ祈りつつ全力で逃げるしかない。
人里に出現すれば、大国でも対応を誤れば歴史的な被害。小国なら滅びなければ奇跡として歴史に残る。
このランクの魔物はＡ級ダンジョン、若しくはバーンガイア大陸南部と魔王の宮殿跡に存在すると言う伝説のＳ級ダンジョンにしか出現しない。
このランクの魔物を倒せば、少なくとも並の冒険者では想像もできない金額が報酬として支払われる。又は、英雄伝承歌でよくある、「姫との婚姻を認めよう」的な展開があり得る。
基本的に値段がついている物なら、まず買う事が可能。素材は上級や伝説級アイテムの材料になる。
このランクの魔物は、ストームドラゴン等竜種の中でも上位の存在や、アークデーモン、ナイトメアクラーケン、神々の使い等伝説に登場する存在。
このランクの魔物をテイム出来た存在は、勇者ナインロード以外記録に残っていない。
因みに、勇者ベルウッドはこのランクの魔物を当たり前のように倒していたらしい。
・ランク１３以上
討伐には英雄の中の英雄か、超人から見た超人が必要。もしも居ないなら、来世に希望を託してもそれを責める事は出来ない。
大国どころか大陸の命運がかかっている。
このランクの魔物は、Ａ級冒険者パーティーでも全滅の可能性がある。倒せば伝説どころか神話になりかねず、神の使いが舞い降りて、入信しませんか？ 死後に英霊になりませんか？ 場合によっては神の仲間入りもあり得ますよとスカウトが来るレベル。
個人で最近倒したのは、アミッド帝国のＳ級冒険者、【迅雷】のシュナイダーのみ。
このランクの魔物から取れる素材は伝説級や神話級のマジックアイテムの材料になる。作れるかは別の問題だが。取引には天文学的な金額が動き、無加工の素材の状態で国宝に認定されても当然とされる。
このランクの魔物は、邪神や悪神の最底辺、龍、真なる巨人、獣王、原種吸血鬼等、神話に登場する存在である。
勿論テイム出来た存在は歴史上存在しない。
ネット小説大賞に参加しました。宜しければ応援よろしくお願いします。
１月１４日に冒険者ギルド解説 １５日に４章６７話 １８日に閑話６を投稿する予定です。
