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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第三章 蝕王軍行進曲編
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五十五話 秋以降だけど、虫が火に入りに来るようです

 【緑風槍】のライリーは、その才能以外は何処にでもいる普通の冒険者だった。

 平民の出で、冒険者に成ったのは腕に自信があったから。目的は「金を稼ぎたい」から。そして口には出さなかったが、子供の頃聞いた英雄譚の主人公に成れるかもしれないという夢と希望を持っていた。


 そしてまだ彼が駆け出しの頃に、偶然ハインツが冒険者登録した瞬間に立ち会った。この年下の少年と気が合ったライリーは、彼とパーティーを組む事にした。

 そしてパーティーにはドワーフの女盾職、インテリぶった斥候職の青年弓使い、精霊魔術のエルフの美女が仲間に加わり、【五色の刃】と名乗る様になった。


 まるで英雄伝承歌のようにライリー以外の四人も才能豊かで、【五色の刃】はゴブリン退治の依頼に苦労していた一年後には、D級冒険者パーティーとしてベテラン達と肩を並べる様になった。


 そして次の一年で並の冒険者から頭一つ出たC級に昇級。三年目で未発見のダンジョンの初攻略を果たし、価値のあるマジックアイテムと名誉を手に入れ、パーティーリーダーのハインツはB級に昇級。その時手に入れた魔剣から、【蒼炎剣】の二つ名が付けられた。


 その頃からライリーは気が付くと鬱屈した感情をハインツに対して持つようになっていた。

 自分にも才能がある、顔だって実力だって負けてない。パーティーリーダーはハインツだが、それを考えても何故俺があいつのおまけみたいな扱いを受けるんだ?


 ダンジョン攻略でB級に昇格したのはハインツ一人。ライリーも緑色の宝玉が嵌められた、風を操るミスリルの魔槍を手に入れたが、二つ名はつかなかった。

 貴族や商人は十代でB級冒険者に昇級した才能豊かなハインツとコネを作りたがり、士官や専属契約の話は幾らでも、それ以上に良い女が寄って来た。冒険者ギルドの受付嬢も、奴を見ると瞳を潤ませる。


 対して自分は『ハインツの仲間の』ライリーとしか見られていない。自分の顔に『ハインツの仲間』と看板でも下がっているかのようだ。


 そしてライリーが思い知ったのは、英雄伝承歌の主人公は自分ではなくハインツだったという事だった。


 人生最大の挫折と屈辱。しかしライリーはそれだけなら【五色の刃】から抜けなかっただろう。「そんなもんだよな」と他の多くの冒険者と同じように妥協して、ハインツの仲間であり続けたかもしれない。

 だが決定的な罅がある依頼で入った。


 内容は、吸血鬼とその誘惑に屈してダンピールを産んだダークエルフの魔女を捕まえるという物だった。珍しい依頼だが、実際やってみるとあっさりと成功した。

 魔女は魔術でも弓でも自分達の敵ではなく、吸血鬼も姿を現さなかった。ハインツが鞘に入ったままの魔剣で腹に一発入れて、それで終わりだ。


 後は報酬を貰ってその町を後にした。

 しかしハインツはあの依頼から考え込む事が多くなり、ライリーには理解できない事を言うようになった。

 嫌な予感を覚えたが、冒険者になったばかりの頃身籠っていたゴブリンの雌を斬った時も彼が暫く思いつめていた事を思い出して、その内乗り越えるだろうと、無理矢理思い込んだ。


 それが間違いだと分かったのは、ハインツがある大物貴族が主催するパーティーの招待を蹴った時だった。

「今宵はアルダの祝祭でもあります。是非邪悪な魔女を討伐し浄化した武勇伝を聞きたいものです」

 そう言った大物貴族の使いに、ハインツは否と答えたのだ。


 その大物貴族は彼等が居たミルグ盾国の中でも代表的な存在の一人で、特に冒険者ギルドに影響力のある人物だった。

「何故そんな相手からの誘いを断るんだ、ランクが上がるって事は面倒でも社交界とは無縁じゃいられないと、何度も言っただろっ!」


 そう言うライリーにハインツは答えた。

「俺には、彼女が魔女だったとは思えない。この国が……アルダが正しいのか、分からなくなった」

 それを聞いた瞬間、ライリーは(ああ、もうダメだ。とてもこいつには付いていけない)と、そう思った。


 自分達は冒険者だ。依頼を受けて、魔物と戦って、金を稼ぐ。昇級して名誉名声を手に入れ、出世して年を取ったら引退して悠々自適な生活をする。

 理想を持つな夢を追うなとは言わない。ライリーだって英雄伝承歌の主人公を夢見た頃がある。だから他人のそれまで構おうとは思わない。


 だから、ハインツが理想やら夢やら正義感やらを持つのは別に良い。だが、何でそのために俺が損をしなけりゃならない?


 ああ、そうさ。お前は天才だ。きっと将来吟遊詩人は、お前が主人公の英雄伝承歌をこぞって歌うように成る。

 大物貴族の誘いを断っても、きっと平気だろうさ。この国の価値観や国教に疑問を持っても、それでダンピールを人間の一員だと認めるオルバウム選王国に行っても、きっと信じる力だとか絆だとかで諸問題を乗り越えるんだろうさ。


 その上A級、S級と駆け上がり、名誉も金も地位も女も次から次に寄ってくるんだろうよ。


 でも俺はきっと違う。何百年も争ってきた敵国に行って、「冒険者に国は関係無い」なんて不文律が守られるなんて思えない。苦労して乗り越えて何とか付いて行っても、それでも俺は「ハインツの仲間」のライリーでしかないんだろ?


 ふざけんな!


 【五色の刃】から抜けたライリーは、件の大物貴族パルパペック伯爵と専属契約を結んだ。

 それからはB級にも昇格し、【緑風槍】のライリーという二つ名も付いた。全ては、パルパペック伯爵の影響力があってこそだが。ライリーは気にしなかった。元々自分にはそれくらいの実力があり、それが認められなかったのはハインツが目立っていたからだ。彼の中ではそれが真実になっていた。


 しかし、ハインツより運に恵まれないのかライリーの元には頼りになる仲間が集まらなかった。

 優秀なのは生意気で、言う事を聞かない。言う事を聞く奴は、使えない。

 仕方なく、名を上げれば仲間にしてくださいって連中が集まって来るだろうと考えソロか、臨時パーティーで活動した。


 その途中で以前魔女がらみの依頼をしてきた高司祭と、その時討ち漏らしたダンピールとその手下のグールの討伐に出かけて徒労に終わったが、そんなのは小さな事だった。

 再びライリーにケチが付いたのは、その後だ。


 仲間が一向に集まらない事に業を煮やしたライリーは、奴隷を購入して冒険者として育て上げる事を思いついた。

 伝説の勇者ベルウッドが当時の犯罪奴隷を更生させ、その奴隷は頼りになる仲間として成長し常に戦場で彼の身を守ったというエピソードがあると聞いたからだ。


 ライリーはそれまで貯めた金で戦闘用の奴隷を買って、冒険者として育て始めた。奴隷達はこれまでの冒険者と違い彼に対して従順で、それなりに使えた。しかし、やはり仮にもB級冒険者のライリーに生半可な腕で付いて行く事は出来なかった。

 【奴隷使い】にジョブチェンジして【奴隷強化】スキルを獲得しても、多少マシに成る程度だった。


 それに、アミッド帝国の属国であるミルグ盾国では帝国と同じく奴隷にも人権が認められている。あまり無茶な使い方をすれば罪に問われる事があるし、しても問題に成らないヴィダの新種族の奴隷は大陸の西側ではそもそも数が少ない。


 そしてライリーが行きついたのは犯罪奴隷だった。その結果雇い主のパルパペック伯爵から疎まれたのだが、本人はその事に気が付いていない。

 彼の認識では伯爵にカードとして切られたのではなく、自分から伯爵を切った事に成っているからだ。


「パルパペック伯爵も馬鹿だよなぁ! 遠征で手柄を上げれば軍務卿に戻れるかもしれないってのに亀みたいに屋敷に籠もってよ。

 別に腑抜けるのはいいが、俺が名を上げる機会まで取らないでほしいもんだぜ」


「でもぉ、そのお蔭でレッグストン軍務卿からマウビット将軍を紹介して貰えたんじゃない。やっぱり、ライリー様は属国の伯爵のお抱えで終わる器じゃないわぁ」

 色気過剰の女魔術師、メッサーラ。彼女は若くして魔術師ギルドの導師にまでなったが、その若さと美貌を保つために禁書庫に封印されていた邪術に手を出し、分かっているだけでも十人以上の子供を村から誘拐して殺害。その生き血を全身に浴びたという連続猟奇殺人犯だ。


「へへ、全くですぜ。その上今や兄貴は悲劇の英雄を継ぐ者として国中で期待されてます、上手く行けばアーティファクトの魔槍だって手に入るんでしょう? こりゃあ、A級昇格に続いてS級昇格も夢じゃありやせんぜ」

 小男の斥候職、元C級冒険者のゲニー。彼はソロで活動する優秀な冒険者だったが、その裏で他の冒険者を罠に嵌めて功績や財産を命と一緒に奪い、新人の冒険者を騙して裏の奴隷商に叩き売る等の悪事を重ね、冒険者ギルドに捕えられた外道だ。


「…………」

 盾職の男、フラークは前の二人よりは一見真面に見える。だが犯罪奴隷である事に変わりは無い。所属していた傭兵団が平時は山賊で稼ぐ集団で、彼はそこの副団長だった。直接殺した人数なら、二人よりも多い。


 そんな犯罪奴隷ばかりでパーティーを組むライリーの評価は、依頼達成に関わらず悪くなった。

 だからA級に昇級できないと思い込み、今回の遠征で手柄を上げて一発逆転を狙っていたら専属契約をしているパルパペック伯爵は遠征に不参加、しかもライリーが個人で参加しても援助はしないときたもんだ。


 どうにかして手柄を上げる手段は無いかと探していると、今の軍務卿であるレッグストン伯爵が遠征に加わる腕の良い冒険者を探しているという話を小耳にはさんだ。その話に乗ると、まるで冗談のように上手く事が進んだ。

 冒険者ギルドではA級に昇級、パルパペック伯爵から専属契約を打ち切られたお蔭で莫大な違約金を払わずに済み、レッグストン軍務卿との面会に成功。


 そのまま今回の遠征の指揮官、マウビット将軍に雇われる事に成った。そして、その将軍の背後に居る存在とも……。

「しかし良いのかい? 俺は【氷神槍】のミハエルの再来、【緑風槍】のライリーだぜ。俺と取引してあんたの上司は怒らないのか?」

 問われた吸血鬼は苦笑いを浮かべた。


「気にはしないさ。我々はこの遠征では目的を同じくする仲間だ。そうだろう?」

 原種吸血鬼テーネシアの配下の吸血鬼達は、ライリーの功名心に付け込み、取引を持ちかけた。「英雄に成りたくはないか?」と。

 そしてライリーは誘いに乗った。


「ああ、違いねぇ」

 ライリーが欲しいのは、金もそうだがまず手柄だ。だから手付として、この境界山脈トンネルの初攻略の名誉を。

 そして遠征では邪悪なダンピールと、吸血鬼達にとって裏切り者である貴種吸血鬼二匹を討伐する手柄。

 上手く事が運べば、ライリーはマウビット伯爵家と専属契約を結び、引退する頃には爵位を貰って煌びやかにアミッド帝国で暮らす事が出来る。


 この遠征の結果、母国が苦しむ事に成っても気にもしない。


 吸血鬼側が手に入れるのは、遠征での有力人物が味方に成る事で手に入る都合の良さと、ターゲットであるダンピールを誘き寄せる餌、そして戦力だ。

「それとも、不老不死が欲しいかしら?」

 吸血鬼の一人の言葉に、メッサーラは物欲しそうな顔をしたがライリーは苦笑いをして首を横に振った。


「止めとくぜ、俺は俗世での栄誉が好きなんでね」

 誰が吸血鬼に何てなるか。何百年生きても顎で使われる立場なんて御免だぜ。そう内心で考えながら吸血鬼を見る。


「それは残念」

 そんなライリーの本音を大体見透かしながら、吸血鬼はあっさり引き下がった。彼らとしても、今回の遠征の間でだけ使えれば十分といった程度なので、固執する理由が無いからだ。


「兄貴、そろそろ出口ですぜ!」

 ゲニーが指差した先では、トンネルが無数の岩で塞がっていた。しかし、彼の鼻は岩の隙間から新鮮な空気が入り込んでいる事を見逃さなかった。


 メッサーラが探査魔術で岩の向こう側を探る。すると、小さな反応があった。

「アンデッドが何匹かいるわね」

「強いか?」

「いいえ。高くてもランクは2が精々よ」

「なら問題無いな。お前ら下がってろ、俺とこの風の魔槍ゼファーの出番だ」


 ライリーは自慢の魔槍ゼファーを構え、精神を集中する。トンネルの中に風が吹き――。

「【百裂螺旋突き】!」

風属性の魔力が込められた魔槍ゼファーの機能で貫通力を強化した、回転を加えた突きを高速で繰り出す上級武技を繰り出す。


 ガガガガガガガガガガガガガ!!


 何十トンとあるだろう硬い岩の壁が、ライリーが槍を繰り出す度に容易く砕かれ吹っ飛んでいく。

 そして出来た穴に、フラークが飛び込み安全を確保する。

「…………」

「何だ、アンデッドなんざいないぜ」


 しかし、岩の向こうにはやや荒廃した様子の原野や森が広がるばかりで、アンデッドらしい姿は何処にも無かった。

「あ、あら? おかしいわね……きっとあなたが吹き飛ばした岩に当たったんじゃないかしら?」

 辺りにはライリーが砕いた岩の欠片が飛び散っている。欠片と言っても大きい物は人の頭程もあり、当たればランク2程度なら倒せるかもしれない。


「それもそうか。……ふぅ、これが人類未踏の地の空気か。中々いい風だが、自伝にはなんて書くかね」

「その自伝には、我々の事は書かない様に頼むよ」

 ニヤニヤと哂うライリーの横を、吸血鬼達が通り過ぎて行く。彼らは懐から羅針盤に似た形状のマジックアイテムを出すと、それに紅い液体をかけて何かを計り始めた。


「吸血鬼の旦那方、そりゃあなんですかい?」

「吸血鬼の居場所を探るためのマジックアイテムだ。これで裏切り者の居場所が分かる」

 吸血鬼達もダンピールや裏切り者の正確な居場所を掴んでいる訳ではなかった。なので、これから遠征の目的地を探るのだ。


 パルパペック伯爵がこの事を知ったら、そんな事も前もって調べられないとは何て拙速な作戦だと嗤い、それを止められない自分に落胆する事だろう。


「セルクレントの血は反応無し。殺されたか? それとも範囲外に居るのか」

「ここからならオルバウム選王国まで探査範囲が及ぶのよ。殺されたとみるべきね」

「エレオノーラの方はどうだ?」

「待て、今計測する」


 新たに保管されていたエレオノーラの血をマジックアイテムにかけ、反応を見る。

「あったぞ。ここから北東……記録ではタロスヘイムがある辺りだな」

「何と、ではダンピールやグールもあの廃墟に?」

「へぇ! そいつは都合が良いぜ!」

 吸血鬼達の会話を聞いたライリーは上機嫌で唇を歪めた。


「ミルグ盾国と二百年前の英雄ミハエルの失敗を、現代の英雄の俺が取り戻す! 国宝のアーティファクト共々な!

 望み通りの展開だっ! 運命の女神は俺に微笑んでいるぜ!」




 イモータルエント化した敗戦花の種子から油を取ったヴァンダルーは、それで手作りマヨネーズに挑戦していた。

 ギーガ鳥の卵に果物酢、そして油。材料は揃った。揃っていないのは調理器具だが、これも作った。

 鉄のボウルに、ハンドミキサー……型ゴーレム(鉄製)と、とても重量級だが【怪力】スキルと高い能力値のお蔭で苦にならない。


 そしてそれを延々混ぜる。油を徐々に流し込みながら、延々混ぜる。途中で熱を奪う青白い炎、【鬼火】の術で冷やして、やはり混ぜる。

『ヴァンダルー、大丈夫?』

「ん? はい勿論」


 何故ダルシアに心配されているのか分からない様子のヴァンダルーだったが、無表情で無言のまま青く燃える炎に照らされる彼の姿は、控えめに言っても不健康不健全に見える。心配されるのも当然だ。

『ねぇ、それも調味料なんでしょう? だったら敗戦花油や海苔や昆布みたいにゴーレムに作ってもらう事は出来ないの?』

 敗戦花油の製造も、ヴァンダルーは早々にゴーレムとマジックアイテムで工業化していた。それと同じように出来ないかと言うダルシアに、「将来的にはそのつもりです」と彼は答えた。


「マヨネーズを作るには油を一度に加えるのではなく、こうやってゆっくり加えないと出来ない。だからいきなりゴーレムにやらせてもマヨネーズに成らない」

 ヴァンダルーが作るゴーレムは通常の錬金術で作られるゴーレムよりも応用が効くが、流石に万能ではない。

 油を具体的にどれくらいのペースで入れれば良いのか、それをヴァンダルーが指示しなければ分からないのだ。


 ハンドミキサーや扇風機、マッサージ機なら簡単なのだが。可動部を限定し、動かしながらもう少し早くとか遅くとか、力の強弱を指示してやればそれでいい。

 しかし、調理となるとまずヴァンダルーが具体的な指示を出さなければならない。


「地球や前世でマヨネーズを手作りしていれば良かったんだけどね」

 地球で自炊の経験はあるが、流石にマヨネーズから手作りした事は無かったのだった。

「まあ、コツが分かったらゴーレムで工業化するから今だけだよ」

 その前に試食会を開いて皆に感想を聞くつもりだが、味噌や魚醤、昆布や鰹節の時の事を考えると、大歓迎される未来しか見えない。


 特にグールと巨人種アンデッドは濃い味付けの物を好む傾向が強い。ブラックゴブリンとアヌビス、オーカスもだ。将来高血圧でどうにかなりそうな気がするが、そもそも生態が地球の人間とは異なるので大丈夫だろう。

 だからマヨネーズも皆気に入るだろうが……またジャンキーを作ってしまうかもしれない。いや、確実に作ってしまうだろう。

 しかしヴァンダルーはそれでもマヨネーズを使った料理を食べたかったのだ。


(それに、交換所のお姉さんも新商品を作って欲しいと言われたし、まあ良いよね)

『そう? 疲れたら休むのよ?』

「はーい」

 ウィ~。そして再び、ハンドミキサーゴーレムの回転音のみが響く。


「ヴァンダルー様、何か御用かしら?」

 そこにエレオノーラがやって来た。マヨネーズが完成した時の味見役としてヴァンダルーが呼んでいたのだ。

「それは……もしかして今研究中の病気の元?」

「いや、新しい調味料です」

 確かにこの世界の人から見ると調理風景には見えないだろうが、その勘違いは酷過ぎないだろうか? 実際病気の研究もしているが。


 この世界の住人の多くは病原菌に関する具体的な知識は無い。それどころか肉眼で見えない微生物の存在を知らない者が大多数だ。例外は余程の知識人か、酒造りに関わる者とパン職人ぐらいだ。

 だからエレオノーラも誤解したのだろうが――。

「ごめんなさい、てっきり吸血鬼に効くかどうか実験するために私が呼ばれたのかと……」

 どうやら元々人体実験されるつもりで来たらしい。


「違います、このマヨネーズの味見を頼もうと思って来てもらったんです」

「そうだったの。ああ、でも私ったらそれを病気の元だなんて……どんな罰でも受けるわ。だから――」

「じゃあ、罰として味見してください」

 既に仲間に成って一年以上経っているのだが、エレオノーラは相変わらずだった。何故か何かにつけて罰をせがんでくる。


 最初は付き合うのに疲れたヴァンダルーの方が、今では慣れてしまっていた。基本的に罰と評して甘やかす事にしているのだが――。

「ヴァンダルー様、それは罰では……血を捧げろとか、一日家具の代わりに成れとか」

 こんな様子だ。今度「じゃあひざ掛けに成ってください」とでも言って膝枕してみようかと、ふと考える。


『あの、エレオノーラさん? そう言うのはヴァンダルーにはちょっと早いかしら』

「っ! い、いいえっ、そう言う意味ではなく……!」

 慌てて首を横に振っているから、単にそういう嗜好の持ち主と言う訳でもなさそうなのだが。

 それは兎も角、そろそろマヨネーズが出来上がりそうだ。


 酢は兎も角、地球にもオリジンにも存在しなかったギーガ鳥の卵に、イモータルエント化した敗戦花の実の油。マヨネーズにするにしても、材料が異なるため適切な材料の比率も異なるのか、今までの試作品では「これ、もっと美味く作れる気がする」という出来だったが、今度こそ完成品に成るかもしれない。


 とりあえず、まずは指で掬って舐めて、次に山菜のサラダで試してみよう。

「じゃあ、味見を――」

 っと、ヴァンダルーは言葉を不意に途切れさせた。


『ヴァンダルー?』

「母さん、吸血鬼の手先のミルグ盾国がここに攻めて来るようです」

『ああ、そうなの……』

「監視用のアンデッドに反応があったの? でも、すぐにここが分かるなんて」


 残念そうに視線を落とすダルシアと、驚くエレオノーラ。そしてヴァンダルーはマヨネーズの試作品を置いた。

「じゃあ、皆で話しあいましょうか。

 監視用アンデッドが見聞きした事を説明しますから。マヨネーズの味見をしながら聞いてください」


 きっと来るのは早くて秋か、冬か。遅くても来年の春。

 でも、虫が火に入りに飛んでくる。




・名前:ライリー

・種族:人種

・年齢:25

・二つ名:【緑風槍】 【悲劇の英雄の再来】

・ジョブ:奴隷使い

・レベル:47

・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、槍士、魔槍使い



・パッシブスキル

槍装備時能力値強化:中

敏捷強化:5Lv

非金属鎧装備時能力値強化:中

直感:3Lv

気配感知:2Lv

奴隷強化:2Lv


・アクティブスキル

槍術:8Lv

鎧術:5Lv

投擲術:5Lv

解体:2Lv

忍び足:2Lv

魔槍限界突破:4Lv

調教:1Lv

威圧:1Lv

五十六話は12月5に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今更だけど、槍に埋め込まれてた緑色の宝玉ってなんだろ? 属性石的なものは存在してなかったと思うんだけど……
[一言] マヨネーズ中毒者を作り出すから、病気の元でも間違いじゃないw
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