表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
十六章 後日談
513/515

四百十四話 身を固めるヴァンダルー

 聖戦から約二年が過ぎ、『ラムダ』世界の各地は日常を取り戻しつつあった。

 といっても、以前と同じ日々に戻った訳ではない。アルダ勢力の神々に対する信仰の衰退と、それに代わって盛り上がったヴィダ派への信仰。それまで出入りが制限されていた、ヴィダの新種族の自治区の解放。

 新たにできたアーク山脈による大陸西部との断絶に、ヴィダル魔帝国という大国の出現。


 人間社会はあまりにも大きく変化していた。だが、人間が慣れる生き物である事は異世界でも変わらない。そして、変化した世界でもそれぞれの日常を過ごすようになる。

 ……アミッド神聖国があった大陸西部では、まだ元属国同士の争いが続いているので非日常の連続を過ごしている者も少なくないが、それだけの期間非日常が続けば、非日常が日常に入れ替わる。


 そうして日常が戻ってくると、王侯貴族達も以前から行っていた政治活動を活発化させるものだ。

 まず、ジャハン公爵領のハドロス・ジャハン公爵が婚約を発表した。相手はオルバウム選王国の貴族の令嬢……ではなく、なんと魔王の大陸の地下にあるガルトランドの氷雪系巨人種の族長ゾルクの娘だ。


 また、ビルギット公爵領のゲラルト・ビルギットも第四夫人を魔大陸のご令嬢から迎えようと水面下で調整中だ。

 二人だけではなく、多くの貴族がヴィダル魔帝国の王や有力な地位にある人物と縁を結ぼうと政略結婚を検討している。


 オルバウム選王国の保守的な考え方を持つ貴族達は、このニュースに大きな衝撃を受けた。オルバウム選王国では王侯貴族が人種以外の種族の妻や妾を迎える事を歓迎しない風潮が、今までは強かったからだ。


 エルフやドワーフですら寿命が長すぎ、当主が亡くなった後で実権を握って家を乗っ取る恐れがあるとして敬遠されてきた。それなのにヴィダの新種族から、それもハドロス・ジャハンの場合は正妃を迎えるというのだから騒がれないはずが無い。


 しかし、革新的な考えを持つ王侯貴族からすれば、友好的な同盟国であるヴィダル魔帝国と婚姻によって関係を強めようとするのは当然の事だ。

 もちろんヴィダル魔帝国の各有力者達も、オルバウム選王国の王侯貴族と積極的に縁を結ぼうと嫁や婿を迎えようと働きかけている。……ヴィダル魔帝国の場合は、人種は冥系人種、エルフはカオスエルフ、ドワーフはドヴェルグに遠からず変異してしまう事を国民が分かっているから、より抵抗が無いのだ。


 そしてヴァンダルーの身近な人物への打診も多い。とはいえ、ザディリスやバスディア、カナコやエレオノーラなど明らかにヴァンダルーが娶る予定の相手に話を持って行くような勇気ある命知らずはいなかった。

「ほう、母さんに縁談ですか」

 しかし、ダルシアに再婚話を持って行くような歴史に名を残しかねない蛮勇の持ち主が複数人いた。


 為政者の母で夫を亡くした未亡人への求婚は、オルバウム選王国の常識でも考えられない。他の貴族よりも先に強力なコネクションを得ようと焦ったか、他の貴族を出し抜く裏技だと思い違いをしたか、悪評でもいいから名前と顔を売ろうとしたのか……それとも本気でダルシアと結婚したいと思ったのか。


「では、まず最低限俺よりも強い事を証明してください。コロシアムで決闘をしましょう。もちろん、本当に命のやり取りをするわけではありませんが」

 そして、意外な事にヴァンダルーはその話を拒絶しなかった。話自体は認めたうえで、全力で迎え撃とうとしたので、より質が悪いかもしれない。


 最初求婚者達やその家臣達は、ヴァンダルーが真顔で冗談を言ったのだと思った。しかしその後に「まだ間に合う、撤回するべきだ」と忠告する者達が現れ、主君である公爵から「友好関係にしこりを残す事になるので、自重するように」という書状が届き、ヴィダル魔帝国で新しいコロシアムの建設工事が始まるという情報を入手して、彼が本気だとやっと理解した。そして、殆どの求婚者が慌てて撤回した。


 残りの数少ない求婚者も、ダルシアが一貫してヴァンダルーを諫めるどころか応援する立場を取り続けたため、心が折れたのか撤回したという。

 しかし、未亡人の母がダメなら他の親類縁者を狙おうという者もいる。というか、そちらの方が主流派だ。


 しかし、義理の妹であるパウヴィナやジャダル、ヴァービは、それぞれヴァンダルーに嫁入りが内定しているのは、当然。実の息子のバクナワに縁談を持って行くのは、サイズ的にも論外。第二子がいると聞いて、目を輝かしたら、『月の巨人』ディアナとの間に生まれた真なる巨人アラディアだと知って肩を落とす。


 こうなったら嫁に娶るのではなく嫁入りでも構わないと思い切ってみれば、元『魔人王』ゴドウィンや『剣王』ボークス、ノーブルオーク王ブダリオン等、人間社会のご令嬢が嫁ぐにはハードルの高い相手ばかり。

 なお、アーサーやカシム等英雄として活躍したが名誉貴族でもない平民は、オルバウム選王国の貴族達から政略結婚の対象とは見られなかったようだ。


 また、『迅雷』のシュナイダーを始めとした『暴虐の嵐』の面々も、対象から外されていた。

 本来ならS級冒険者は平民出身でも、下手な貴族よりも縁を結ぶ価値は大きい。しかし、長い間敵国だったアミッド帝国のS級冒険者として名を馳せていた事、そして本人がアミッド帝国の貴族を真昼間に殴り殺す事件を起こした経験があるため恐れられていた。


 もっとも、リサーナに言わせると「ゾッドやドルトンはともかく、シュナイダーは囲っている女が多いから敬遠されただけでしょ」と言う事らしいが。


 ではオルバウム選王国のS級冒険者である『真なる』ランドルフはどうかと言うと……事態をいち早く察知した元英雄予備校校長のメオリリスに促されて、彼女と偽装結婚していた。

 小規模ながら式を挙げ、しかもその立会人をヴァンダルーに頼むという徹底ぶり。これで貴族達は正妻をメオリリスから自分の娘に変えろとは、口が裂けても言えなくなった。


 現在の正妻より高い地位の家出身の妻を迎える場合、第二夫人ではなく既にいる正妻を第二夫人にして正妻として迎える事がある。後々家が荒れたり、後継者問題が起きたりするのであまり歓迎はされないが、慣例としては昔から存在する。


 しかし、友好国の皇帝であるヴァンダルーを立会人にしたためメオリリスがランドルフの正妻である事に異を唱える事は、ヴァンダルーに異を唱えると同じ事だと貴族達が考えるよう仕向けたのだ。

 そして第二夫人、第三夫人でも構わないと言い出す者達が現れる前に魔王の大陸の地下にあるガルトランドに高跳びしたのである。


 ……偽装なのかは怪しいところだが。

「うるさい貴族達から逃げるという目的もあるが……ランドルフ、私達は今までそうした関係に何度かなった事がある。しかし、お互いの関係をはっきりさせないままだった。お互い若くないんだ、今後の人生を考えるためにも五十年ぐらい正式な夫婦をしてみないか?」


「俺達が中途半端な関係を続けてきた主な原因は俺にある気がするというのに、お前の方から歩み寄られて俺がこれ以上逃げるのはドラマーとしてあまりに情けない。今度こそお前との関係に向かい合おう」

「……そこはドラマーじゃなくて冒険者とか、なんならシンプルに男として、でも構わないと思うぞ」


 と言う会話があったので、いつの間にか偽装ではなくなっているかもしれない。

「夫婦アイドルユニットと言うのも新しいかもしれませんね」

 そうカナコも言っていたので、二人の独立デビューする日も近いようだ。


 一方、そのヴァンダルー本人への見合い話は殆どなかった。既に十人を超える相手が内定しているのと、彼が人であると同時に神であるため遠慮されたようだ。


 ただ、世の中には「正式な妾でなく、非公式な愛人でもいいので」と娘や姉や妹を差し出そうとする者が居る。ヴァンダルーに対してもそう言った話があったが――。

『いやいや、貴方の人生にはもっと他に選択肢がありますよ。俺で良ければ相談に乗りましょう』


 ヴァンダルーはそう言いながら、差し出された手を握るように見合い相手の夢に出現し、人生相談に乗り、場合によってはヴィダル魔帝国の人々との縁談を纏めたり、婚姻を先送りするために冥系人種や吸血鬼などヴィダの新種族に変異して寿命を延ばす事を勧める等をしていた。


「ヴァンダルー、最近オルバウム選王国の貴族の間で、『人生に行き詰まったらヴァンダルー魔皇帝に求婚すれば解決する』って噂が流れているらしいのよ」

「ヴァン様の事だから、良かれと思って人生相談に乗っていたのでしょうけれど……直接ヴァン様が相談に乗るのではなく、間に誰か挟むべきかと」


「その通りです、旦那様。噂がこれ以上広まったら、女装した殿方から求婚されるかもしれませんよ」

「……既に昨日夢で見ました」

 また見合い話が来たので相手の夢に出たら、なんと相手は中性的な名前の青年だった。


 領地経営が厳しくて他の貴族に援助を求められる程のコネが無く、自暴自棄になって出した見合いの申し込みが偶々ノーチェックでヴァンダルーの元に届いてしまったらしい。

「とりあえず話を聞いて、しかし他国の貴族の財政問題に俺が公爵を飛び越えて直接干渉する訳にもいかないので、コネのある商会に融資してもらう事になりました」


「それは、結局借りたお金が返せなくなるだけじゃないかしら?」

「それが狙いです。借金の形に領地の統治権を他の貴族に売り、身軽な平民になって人生をやり直したいと」

「なるほど。旦那様がその貴族は平民になってもやっていけると思ったのなら、やっていけるのでしょう。それで、そのまま続けるおつもりですか?」


「……出来るだけ早期に噂を鎮静化させましょう」

 ヴァンダルーは別に男を助けたくない訳ではないが、見合いを申し込まれるのが相談に乗るきっかけというのは嬉しくない。


 ヴィダの教義では、同性愛については特段禁止されてはいない。生命属性の大神なので子供を産み育てる事を推奨してはいるが、子供が出来無い関係を殊更否定はしていない。

 ヴァンダルーもその方針に習おうと考えている。


「でもどうするの? 政略結婚は後何年かすれば沈静化すると思うけど」

 エレオノーラが言う通り、政略結婚はいくらオルバウム選王国側が過熱しても、数年内に事態は沈静化する。オルバウム選王国の貴族や豪商は多いが、彼らも無限に未婚女性を抱えている訳ではない。


 血の繋がった娘以外にも、孤児院などから政略結婚に使うために養女として迎える事があるが、その場合も一人前の淑女として教育するのに時間がかかる。半端な状態で送り込めば、両家の縁を結ぶどころか養家に泥を塗りかねないからだ。

 なので、新しい政略結婚要員は短い時間では補充されない。


 それに、今の政略結婚ブームはオルバウム選王国から見ると、前触れもなく出現したヴィダル魔帝国と縁を結ぼうと慌てているからだ。なので、縁談がある程度まとまれば自然と沈静化するだろう。

「ヴァン様に縋る者は減る事はあってもいなくなる事はないわよ」

「どんな国にも追い詰められている人は居るものね。さすがに貴族でもないとヴァンダルーに求婚は出来ないと思うけど」


「仕方ありません。遺憾ですが……もっと宗教活動に力を入れましょう。神殿を建立したり、常任の司祭を育てたり」

「巨大神像の建造計画を進めるだけで十分なのでは?」

「ベルモンド、俺も巨大像の建造が止められないと分かった時はそう思っていました。ですが……あれは宗教施設というより観光施設と化しています」


 元々、神は信者に寄り添うものだ。もっとも、殆どの場合は寄り添い見守るだけで神が直接実社会に影響を与える程の支援を行う事はない。代わりに悩める信者の相談に乗るのが神殿に勤める司祭や神官だ。

 神殿関係者は人々の医療や教育を施す以外にも、精神や社会的な問題解決のための役割も果たしてきた。


 各地に建造計画があるヴァンダルーの巨大神像は、集客力は見込めるがそうした役割を果たすには向いていない。オルバウム選王国にはまだ無いが……そうした向き不向きはヴィダル魔帝国とあまり変わらないだろう。

 そしてヴィダル魔帝国内では、ヴァンダルーに何か相談したい場合はその辺にいる使い魔王に話しかければいい。対して、オルバウム選王国に使い魔王がいるのは全体から見れば極一部の場所だけだ。


 そのため、普通のヴァンダルー神殿やヴァンダルー司祭が必要になるのだ。

「正直、あまり気が進みません。俺の神殿や聖職者が増えても巨大像建設は止まらないでしょうし」

「旦那様、先ほどご自分で役目が違うと言ったではありませんか」


「それにヴァンダルー、オルバウム選王国の貴方の像はヴィダル魔帝国に比べるとだいぶ大人しいじゃない。大きくても十数メートルぐらいだって」

 ダルシアが言うように、オルバウム選王国の各地で計画が進んでいるヴァンダルー神像は、ヴィダル魔帝国の各地にある像よりもだいぶ小さい。


 神とは言え友好国の為政者の像を、自国の城より大きく作る事は憚られたようだ。……単に建造技術や経済的な理由で百メートル強の巨大像を立てる事が難しいのかもしれない。


「母さん、十数メートルの像でも十分大きいです。それに……神殿と聖職者を増やす事も、色々根回しが必要になると思います。やりますけど」

 その後、ヴァンダルーがオルバウム選王国内に自身を奉じる神殿の建立と聖職者の育成と派遣に力を入れようとしている事を大使館経由で伝えると、やはりひと騒ぎ起こった。


 宗教の力でオルバウム選王国内での影響力を増大させ、内側から乗っ取るつもりではないかと疑う者達が一定数出たのだ。

 ただ、ヴァンダルーや将軍兼宰相であるチェザーレはそうした者達が出る事を予想して、丁寧に根回しを続けた。


 その甲斐あって、トラブルらしいトラブルは何も起こらず事態は進んだ。

 疑っている者の半数以上も、本気でヴァンダルーが宗教でオルバウム選王国を内側から乗っ取るつもりだと考えている訳ではない。……もうヴァンダルーの影響力は十分高くなっており、神殿やそこに赴任する聖職者の数を多少抑えたところで大差はないからだ。


 彼らが疑っているようなポーズをとったのは、ヴィダル魔帝国の神殿で育成される聖職者に、自公爵領出身の人間を参加させるのが目的だ。そうする事で手に入るヴィダル魔帝国の情報量を増やそうという目論見がある。

 また、反対意見を述べる事でヴィダル魔帝国の影響力が大きくなる事に反発を覚えている者達の不満を、少しでも和らげようという意図もあったようだ。


 なお、本気で疑っているどこかの『轟炎の騎士』ブラバティーユのような疑り深い貴族も、上司に当たる者達が説得した事で事件を起こすような事は無かった。




「坊や、そろそろ儂等を娶る時期じゃと思う」

「ヴァンも昔よりは大きくなったからな」

「……そう言えば、俺もそろそろ年頃でしたね」

 だがしかし、事件の芽はオルバウム選王国の貴族達だけではなく、ヴィダル魔帝国内部にこそあったのだ。ヴァンダルーがそれに気がついたのは、あまりにも遅かった。


 その結果、ヴァンダルーは王城の謁見の間に女性陣によって連れ込まれていた。

『それじゃあ、あっしらはしばらく散歩でもしてますんで~』

『気にせずお励み下され~』

 ゴーストのキンバリーやチプラスまで、気を遣って離れていった。


「そう言えば、今日は朝からサムやクノッヘン、骨人を見ていませんね」

 しかも、男性陣は朝から離れていた。


「それでヴァン様、夜の順番はどう決めますの? くじ引きでも何でも私達は構いませんわよ」

「いえ、まずは旦那様の希望をお伺いするべきではないかと」

「ベルモンド、普通はそうだと思うけどヴァンに任せていたら何時になるか分からないよ?」


 積極的にヴァンダルーと夜を供にしようとする女性陣。服装は普段と同じだから、選ばれたらすぐさまベッドへと言うつもりはなさそうだが、ヴァンダルーは彼女達の強い意志を感じた。

「普通、結婚式を挙げるのが先では?」


 普通は皇帝だろうが貴族だろうが、結婚する時は式を挙げ、盛大な宴を催す。それこそ相手が非公式の愛人でもない限り。

 そしてヴァンダルーの周りにいるのは、一族の長やその娘だったり、一国の姫だったりと、高い社会的地位にある女性が多い。普通なら肉体関係になる前に式を挙げるのが正しいだろう。


「まあ、貴方。何を言っていますの? 式ならもう何年も前に挙げたじゃありませんか」

「アメリア、落ち着いて下さい。瞳孔が開いています」

 しかし、普通でない事がヴァンダルーの周りでは多いのも事実だ。エリザベス・サウロンの母、アメリア・サウロンもその一人である。


 娘のエリザベスの父親を彼女より年下のヴァンダルーだと思い込み続けている彼女の狂気は、今日も絶好調だ。……なお、彼女は亡き前夫とも結婚式を挙げていない。


「お母さま、落ち着いて。ほら、前の時は色々あったでしょう? だから、今度は公式にって話なのよ」

「……そう、そうだったわね。前は正式な式を挙げる前にアミッド帝国が攻め込んできて、それどころではなくなってしまったのよね」


 娘のエリザベスに誤魔化されて、記憶を修正するアメリア。なお、彼女は娘もヴァンダルーに嫁ぐことに関して何も疑問に思っていないようだ。……その辺りの事が彼女の中でどう補完されているのか、エリザベスも確かめていない。


「まあ、アメリアはともかく、儂等はその辺りは無くて構わんぞ。儂等グールには元々結婚という制度自体が無かったからな」


 そして、ザディリス達グールには結婚という制度がない。しかし、それは魔境でグールだけの集落で暮らしていた時の話。

「おばあちゃん、あたしは結婚式やってみたい。ヴァービちゃんも」

「そうじゃな、ジャダルとヴァービは結婚式を挙げような」

「ううん、おばあちゃんとお母さんとヴァンの結婚式。ドレス姿のおばあちゃん、きっと可愛いと思う!」


 ザディリス達グールがタロスヘイムに移住してから産まれたジャダルやヴァービは、物心つくころには他の種族の文化や習慣に触れるのが当たり前の環境だったため、価値観も変わっている。


「わ、儂のドレス姿って、変身した時とそう変わらんじゃろう。なあ?」

「ザディリスさん、ウェディングドレスとステージ衣装は違いますよ」

「そうだぞ、母さん。カナコが言うように、防御力や付与されている効果が違うはずだ」

「そう言う事じゃないんですよ、バスディアさん!」


「二人ともヴァン様に出会ってから新しい文化や習慣に触れてきましたけど、長年続いた価値観からは中々抜けきれないようですわね」

 元人種のタレアがそう言ってため息を吐く。


「それよりも、ジャダルやヴァービはまだ早いんじゃない? ザディリス二号になっちゃう」

 グールの女性の外見年齢は、初めて妊娠するまで止まらない。逆に言うと、どんなに若くても妊娠すれば外見の成長が止まるので、その辺りは慎重にならなければならないのだ。その事を元人種の冒険者だったカチアが指摘するが、ビルデがすぐに答えた。


「心配しないで。二人はまだヴァンと結婚しないから。あと五年ぐらい先かな?」

「なら安心ね」


「そう言えば、人間社会風のウェディングドレスって具体的にどんな物なの? ボク、聞いたことはあるけど、見た事がないんだよね」

「確か、色は白で下半身を全て隠すんだったか?」


 スキュラのプリベルがアラクネの大型種のギザニアがそう言いだす。確かに、タコや蜘蛛の下半身を持つ彼女達が人間用のウェディングドレスを着ても、不格好になってしまうだろう。


「某やイリス殿は肩や背中の生地を無くせば、鎌腕や翼を出せそうでござるな」

「それはウェディングドレスとしては露出しすぎではないだろうか? それに、今の私は魔人族だ。魔人族には、結婚する際に祝う事は殆どないから……」 


 エンプーサのミューゼや魔人族のサキュバスに変異したイリスは、左右の肩から生えた先端が鎌になっている腕と、背中の翼をどうにかすれば着られるだろう。

 しかし、魔人族は享楽的な性格のものが多いため、結婚に拘らない者が多い。何時別れるか分からないし、別れた後数年から数百年後にまた同じ相手とくっつく事も珍しくないため、夫婦になる事より子供が生まれた事を祝う事が多い。


「その辺りは気にしないで良いそうよ。当人達が好きなように祝い、周りも好きなように祝福するのが魔人族の流儀だって聞いたわ」

 しかし、結婚する事を祝ってはいけない訳じゃないと、ダルシアはイリスを諭した。


「それに、ゴドウィンさんもジョージさんも、あなたの結婚式に出たがると思うわ」

「そうでしょうか? ……そうですね。やはり、私も式を挙げたいと思います」

 ダルシアの説得で、自分の気持ちを正直に口にするイリス。なお、この場にダルシアがいる事に誰も違和感を覚えていない。


『まあ、ドレスは個人ごとに合わせるしかないんじゃないでしょうか? 私達は複雑ですが』

『鎧だもんねぇ、私達。坊ちゃん、どう思います?』

 リビングアーマーのリタとサリアは、本体が鎧であるためドレスを着る事に複雑な思いを抱いていた。


「複雑と言う事は、嫌ではないんですね?」

『父さんが喜んでくれそうですから』

「じゃあ、ウェディングドレス風の装飾を付ける事にしましょう。

 ところで、話が結婚式を挙げる方向で進んでいますが、反対意見はありませんか?」


 女性陣がヴァンダルーをここに連れて来たのは、結婚式の相談が目的ではなかった。しかし、肉体関係を持つのはヴァンダルーの希望通り結婚式の後、と言う話の流れになっているので彼はそう尋ねた。

『特にないわよ。ヴァンダルーも私達の予想通りその気になってくれたし』

 レギオンのプルートーがそう答える。彼女達が一度に集まってヴァンダルーに迫ったのは、そうすれば彼も向き合うだろうという計算が有ったからだった。


『ゴーストや閻魔は異議ありっと言っているけどな! あと、私はドレスよりタキシードの方が好みだ!』

『ゴーストはともかく、閻魔は似合いそうなのにね』

『ワルキューレは多分、裾を踏んで転びたくないだけだと思う』

 複数の、しかも少数派だが男性の人格も含まれているレギオン達の精神では様々な意見があるようだ。


『それに、結婚式を挙げるって事は国家行事になるので陛下の意識も変わると思いまして』

『タロスヘイムの王様っぽくなったのも、戴冠式をしてからだって聞いたしね』

 レビア王女とオルビアがそう補足する。それはヴァンダルーにも自覚があった。


 形式や儀式は人の意識を変えるきっかけになる。約十年前にタロスヘイムの王に即位する戴冠式を行ってから、確かに一国の王としての自覚がヴァンダルーにも芽生えて……いたと思う。

(昔の事を思い出すと、つい『もっと上手くやれたのでは?』と思ってしまいますね)


「っと、言う事は、もしかして神様になった事を記念する式典をやれば、神様っぽくなるって事?」

「エリザベス様、それはタロスヘイムで何度もやっているはずですから、それは例外なのでは?」

「異世界でもやっているらしいし」


『それよりも気になる事があるんだけど、質問していい?』

 生前ヴィダ神殿長だったジーナが、真剣な顔をして訪ねて来た。

『ヴァンって、出来るの? 見た目は際どい歳に見えるけど』

 彼女が気にしているのは、ヴァンダルーに生殖能力が備わっているか否かだったようだ。彼女の言葉に対する反応は、確かにそれは重要だと頷く者と、頬を赤らめる者に分かれた。


「できますよ。もちろん、神話的な方法ではなく生物学的な方法の方も」

 質問されたヴァンダルーは前者だったので、真面目に答えた。結婚において子供を作る事だけが目的ではないが、重要事項である事には変わりない。


 ダンピールであるヴァンダルーは十代になってからしばらくすると、成長が極端に遅くなる。なので、人種なら成人となる十五歳になっても、ヴァンダルーの外見はそれ未満の子供と同じだ。しかし、彼は全ての【魔王の欠片】を吸収している。


 そのため、ヴァンダルーは既に生殖能力を獲得していた。

「それに、見た目だけなら大人になれますよ。ちょっと歪んでいたり、ねじれていたり、普通より数が多かったり少なかったりしますが」

「それは大人になれるのではなく、異形に変身できるだけよ」


「皆で頑張って協力して一度惜しいところまで行ったけど、どうしても違和感が残っちゃうのよね」

「多分、粘土細工とか特殊メイクが上手い人が手伝ってくれれば、顔だけは何とかなると思いますけど」

 元々異世界から現れた異形の生物の肉体なので、人間の形を保ったまま変化するのには【魔王の欠片】は向いていない。


「特定の誰かに似せる事よりも、自分の大人の姿を自然に再現するのが難しいとは思いませんでした。

 まあ、俺の外見はともかく……結婚式はどうしましょうか?」


「一度に挙げるのは人数が多いから、何人かずつにするのが良いと思うわ。会場も、タロスヘイムだけじゃなくて各地を巡る形にして」

「じゃあ、最初の式のメンバーだけど、まずダルシアママは決まりだよね」


「えっ? いや、私はヴァンダルーの母親なのだけど?」

「そうじゃな」

『異議なし』

「ちょっ、ちょっと待ってっ」


 ごく自然な流れで自分もヴァンダルーと結婚する流れになっている事に気が付いたダルシアは、焦って声を上げた。

「ダルシアママ、そんなに照れなくてもいいのに」

「パウヴィナちゃん、そうじゃなくてね、私とヴァンダルーは――」


「母さん、その問題について考えたのですが……厳密にいうと、今の母さんは俺と実の親子ではありません」

「ええっ!? そ、そんな、酷いわ、ヴァンダルーっ!」

 息子から飛び出した親子じゃない発言に、ダルシアは思わずよろめく程のショックを受けた。


「まさか、これが反抗期? ヴァンダルー、成長したのね」

「母さん、肉体的にはと言う話です」

「肉体?」

「そうです。今の母さんの肉体は、グファドガーンが保管していたザッカートの遺産と、俺が作った素材で出来ています」


 火炙りの刑で一度死んだダルシアは、ザッカートが作った『生命の根源』に、ヴァンダルーが作ったオリハルコンの骨格や集めて加工した魔物の内臓や【魔王の欠片】製の素材、そして女神の血を加えて創った肉体に転生している。


 そのため、厳密に言えばダルシアの肉体はヴァンダルーの母親のダークエルフのものではない。種族もカオスエルフソースになっている事からも、ステータスの神のお墨付きもある。


『肉体的には、むしろ私達の方がダルシアに近いんじゃないかしら?』

『あたし達のこの体は、元々ダルシアの体を再生しようとして失敗した肉塊だからね』

 と言うレギオン達。本人達も時々忘れるが、彼女達の魂が宿る巨大内肉塊は、元々ダルシアの肉体を再生しようとして出来た失敗作だったのだ。


「そう言われると、確かにそうだけど……魂は私のままだけどいいのかしら?」

「魂は俺と母さんが問題だと思わなければ、問題にならないかと」

 魂はヴァンダルーと親子のままだが、魂は魂だ。遺伝的には何の影響もない。


 それに、世の中に大勢存在する恋人や夫婦の前世や前々世は親子や兄弟姉妹ではなかったと証明する事は出来ない。


 ダルシアの場合は、人格と記憶をそのまま受け継いでいるという点が普通とは異なる。しかし、それが問題なら、この先ダルシアが何らかの原因で記憶喪失になって過去の記憶を失った場合、問題はなくなるのか? と言う疑問も発生する。


「もちろん、これは俺が考えた理屈で偏っています。なので、母さんが納得できない場合は他の手段を用意しています」

「……凄く嫌な予感がするけど、念のために聞くわね。どんな手段なの?」

「ヴィダに求婚します。多分、OKしてくれると思います」


「ええっ!? ヴィダって、ヴィダ様の事よね!?」

 『ヴィダの化身』のダルシアを落とすなら、まず『生命と愛の女神』ヴィダから。普通ならヴィダ神殿に出家するという意味になるだろうが、ヴァンダルーの場合はそのままの意味になる。


 何せ、ヴィダの神域には現在進行形でヴァンダルーの分身が輪廻転生システムの調整のために滞在している。全ての分身を本体に変える事が出来る彼にとって、今すぐヴィダの神域に行くのは容易い事だ。

 もちろん、行って女神に直接求婚できるのと、プロポーズを女神が受け入れるのは別の問題だ。


(でも、ヴィダ様なら多分受け入れちゃうわよね。誰も止めないだろうし)

 しかし、ヴィダならヴァンダルーの求婚を受け入れるという確信がダルシアにはあった。元々ヴィダは愛の女神であるだけに奔放で、複数の神や英雄と関係を持ったという神話は山ほどある。


 そして、十万年前にヴィダの新種族を生み出すために『山妃龍神』ティアマトや『太陽の巨人』タロス、元魔王軍の邪悪な神々……メレベベイルやザナルパドナ、そしてアンデッド化させた勇者ザッカートと契っている。


 自身の化身が生き返る前に産んだ息子が守備範囲外と言う事は無いだろうし、躊躇う事もないだろう。


「大神に求婚するとは、神話や伝説に残る神々や英雄と並ぶ偉業。それでこそ偉大なるヴァンダルー」

「あ、やっぱりいたのね、グファドガーンさん。それはともかく……ヴァンダルー、確かにその方法なら私が納得するかは関係なくなるけれど、プロポーズの言葉としては落第よ。

 お父さんの爪の垢を煎じて飲ませたいくらい」


「返す言葉もありません。では皆さん、改めて……俺と結婚してください」

「はいっ!」

「うむ」

「当然だ」

「もちろんですわ!」

「はーいっ!」

 重なった声の中に、否と答えるものは無いのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Fue simplemente un magistral final, llevo leyendo la novela desde que que casi inicio escribiéndola …
今読み返してて気付いたけど、流石愛と生命の女神と多産の龍神ですね。 女性同士で子供作ったのか。
ヴィダ様とでどんな種族が爆誕するのか見てみたい気もしなくもない 偶々コミック版を見かけてここまで追いましたがお疲れ様です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ