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四百十一話 『ラムダ』世界の宇宙、異世界も青かった。

 『ラムダ』世界に侵攻した魔王軍の邪悪な神々が存在するのに必要なものとは何か? それは自身を奉じる存在だ。信者の祈りや畏怖が、その強大な異形の生命を維持する糧となる。

 そのためには信者となる魔物を支配して数を維持し、殺戮と破壊によって人間達を慄かせ自らの名を刻みつけるのが十万年前の常道であった。


 生贄等の儀式も捧げられる生贄そのものではなく、儀式を行う信者達の祈りとそれ以外の人間から集める畏怖の方が彼らにとっての糧となるのだ。

 故に、魔王軍残党の邪悪な神々の多くは自らに従う魔物や人間に加護を与え、己の代理として悪事を行わせ、力で他者を支配させるのだ。


 もちろん、ただ存在を維持するためではなく快楽を得るためという意味もある。生きるのに最低限のエネルギー……食料で我慢するより、満腹になりたいと思うのは邪悪な神々も生物も一緒だ。


『あ~、どうしようか悩んでいる間に終わったかな~』

 しかし、何事にも例外はある。特に、個体ごとに価値観も生態も異なる邪悪な神々はそうだ。中には、食事よりも平穏をとる邪悪な神もいる。


 便宜上、彼と呼ぶが……ルゴルノークもそんな邪神の一柱だった。

『まあ、いいか。どうせ私が介入したところで何が出来るという訳でもない。このままここで、何者にも脅かされず、何事も起きない空虚な日々を続けられればそれが一番』


 終わったらしい戦いの結果、どちらが勝ったとしてもここに目を向ける事は無いだろう。攻撃は届かないだろうし、ここに踏み込んでくることもあるまい。

 ルゴルノークはそう高をくくっていた。


 自分の悩みは退屈をどう紛らわせるかと、何時地上に星を落とすかだと思い込んでいた。

『ん? んん? 何かが近づいてくる? げ! この気配は何だっ!?』

 この十万年一度も覚えていなかった寒気が背筋(に相当する部分)に走り、ルゴルノークは驚いて目を覚ました。


『いったい何故ここを目指している? まさか私を……!? そ、そんな、ただの偶然だ。そうに決まっている。そうであってくれ』

 ルゴルノークはそう祈りながら目を閉じた。




《【真空耐性】スキルを獲得しました!》

《【真空耐性】スキルが【状態異常無効】に統合されました!》




 脳内アナウンスを聞きながら、ヴァンダルーは宇宙空間を漂っていた。

 『地球』や『オリジン』ではなく、『ラムダ』世界の宇宙空間を。

『だいたい分かってはいましたが、『ラムダ』世界も丸い事がはっきりしましたね』

『くおおおん』

『異世界だから、四角い平面だったとしてもおかしくないと思っていたけどね』


 ヴァンダルーがクノッヘンやレギオンと一緒に宇宙遊泳を行っているのは、ただの好奇心や遊興のためだけではない。ちゃんとした調査目的である。

 ……別に、ヴィダル魔帝国のヴァンダルー神殿が観光名所になり、各地のヴァンダルーを祭る施設が続々と完成しつつあることから逃避するためではない。


 人工衛星や宇宙ステーション等が存在する『地球』や『オリジン』はともかく、『ラムダ』世界の宇宙がどうなっているか知られてはいなかった。

 正確には、リクレントやズルワーンなどの神々は知っていたが、いちいち疑問を聞きに行くよりは、自分の目で確かめたい。


 もちろん、宇宙に行く前から分かっている事はある。空を飛ぶ幽霊船クワトロ号やサムに乗って飛び回った経験から、『ラムダ』世界も丸い……つまり惑星である事はだいたい分かっている。

 世界は平面で、世界の端から海水が虚空に向かって落ちている訳でも、巨人や巨大な亀に支えられている訳でもない。


 また、宇宙『人』も存在しない。判明したのはロドコルテの輪廻転生システムを各世界に分割したからだ。亜乱達から聞いたが、システムによると宇宙に転生する生物は人間も含めて存在しなかったからだ。ヴィダ式輪廻転生システムを管理するヴィダにも同様の質問をしたが、答えは同じだった。


 しかし、魔王式輪廻転生システムを調べてみると宇宙に転生している魂が少数だが存在するようなので、宇宙魔物は存在するらしい。

 その宇宙魔物がどんな存在なのか、確かめたい。


 他にも理由はある。

 『ラムダ』世界にはまだ人が住める土地が多く、資源も十分。また、通信や気象のための人工衛星を飛ばす必要も薄い。通信は魔術、もしくはヴァンダルーの使い魔王がいる。気象は、『地球』や『オリジン』とは物理法則が異なるうえに、各地に魔境や魔空が点在しているせいで『地球』や『オリジン』の気象学が参考にならないため、衛星を浮かべる以前の状態だ。


 しかし、聖戦が終わってから約一年。手も空いて来たので、そろそろ緊急性の薄い分野にも手を出してもいい時期だろうと思ったヴァンダルーは、余暇を利用して宇宙に行く事にした。

 尚、行く方法は砲弾型使い魔王を応用し、ロケット型使い魔王を造り、自分を打ち上げた。


 事故が起きても、ヴァンダルーなら全身が燃え尽きても本体を他の肉体に移せば死なないので、気軽なものだ。

 そして、一度目は空中で爆発して失敗。二度目は成功……したかと思ったが、成層圏を抜ける事が出来ず、失敗。三度目の正直でこうして宇宙遊泳をしている。


『ここまで来るのに一日かかってしまいましたね』

 真空状態なので、ヴァンダルーは念話でそう評した。ちなみに、宇宙服の代わりに全身を【魔王の欠片】で覆って宇宙服の代わりにしている。魔王グドゥラニスは宇宙空間にも適応していたようだ。

 また、酸素は自身の【体内世界】から供給している。


『ところで、今更ですがプルートー達は大丈夫ですか? 寒くありません?』

 真空状態は思いのほか寒い。プルートー達レギオンは全身が肉の塊なので、肺は最初から存在しない。呼吸は声を出すためだけに行っている。


 しかし、肉が剥き出しであるため宇宙空間では凍り付くのではないか。そう思ったヴァンダルーが声をかけると……レギオンは凍っていた。


『大丈夫さぁ。表面で凍っているのは、私が作ったヨモツイクサやヨモツシコメだからね』

『その内側では小刻みに肉を振るわせて熱を生み出し続けているのだ!』

『でも、次に来る機会があったら、もっと上手い方法を考えよう』


 どうやら、イザナミが己の肉片から創った使い魔で表面を覆って冷気を防ぎ、内部では筋肉を振るわせて熱を生み出し続けているらしい。

『俺の中に入りますか?』

『大丈夫よ。それに、宇宙遊泳なんて滅多に出来るものじゃないから、もう少し楽しませて』


 凍ったヨモツイクサの層の下から届く思念は、とても楽しそうだった。ヴァンダルーと違い、『オリジンの神』の一部となっているプルートーと彼女達は繋がっている訳ではないので、宇宙から世界を見たのは今回が初めてなのだ。


『きれいね、ジャック』

『うん。でも瞳ちゃんの方がきれいだよ』

 『ゲイザー』の見沼瞳と、ジャックがさっそくイチャイチャしている。


『くおおおおん』

 そして、クノッヘンは骨の集合体のアンデッドであるため、宇宙空間でも平気だ。

 なお、他にも『太陽の巨人』タロスや『月の巨人』ディアナ、そしてバクナワが宇宙について行きたがったが、安全に行く方法が分からなかったので今回は留守番となっている。


 バクナワがぽつりとつぶやいた、『月って美味しそうだよね』という言葉に危機感を覚えたわけではない。

 なお、彼の名前の由来となった『地球』の神話に記されているバクナワは、元々は複数あった月を残り一つになるまで食べている。


『分かりました。では、調査を済ませましょう』

 気を取り直したヴァンダルーは、巨大な眼球型使い魔王を創って『ラムダ』の惑星としての動きや、太陽や他の惑星の観察を始める。


 さすがのヴァンダルーも天文学の知識はあまりなかったが、そこは【完全記録術】スキルで補える。『オリジン』で見て来た図鑑や、『ラムダ』の地上で見上げた夜空に浮かぶ星の位置や星に関する神話や伝説を思い浮かべ、今見ている光景と照らし合わせる。


『やはり『オリジン』、そして『地球』とは全く違いますね』

 結果、『ラムダ』の宇宙はヴァンダルーが知る宇宙とは大きく異なっている事が分かった。


 『オリジン』は魔術が存在する事以外は『地球』とよく似た世界だ。全く同じではないが、いわゆる太陽系の星々は同じである。

 しかし、『ラムダ』はそこから異なっていた。


 まず、星系の中心に存在するのは太陽ではなく、『ラムダ』だ。太陽は『ラムダ』の周りを月や他の星と一緒に回っている。

 なんと、『ラムダ』は地動説ではなく天動説の世界だったのである。


(まあ、世界創成の神話を考えれば十分あり得る事だとは思いますが)

 『ラムダ』世界の創世神話では、最初世界には何も存在せず、ただ『黒き巨神』ディアクメルと『白き巨神』アラザンが争っていたとされている。永劫に続くかに見えた二柱の神の戦いが相打ちで終わり、二柱の神が残したものから世界と大神達が誕生したとされる。


 つまり、この『ラムダ』世界の中心は、大神達がいる惑星『ラムダ』なのである。周りの太陽も、月も、星々も全て惑星『ラムダ』よりも後に大神達が創ったものなのだ。

(細かい過程は違うかもしれませんけど、だいたいそうなんだろうとは思います)

『ここから観察したところ、衛星の中で一番『ラムダ』に近いのが月、次が太陽。後はその他って感じですね』


 『ラムダ』よりずいぶん小さな月は、ぼんやりと発光しながら『ラムダ』の一番近い軌道で回っている。『地球』のそれと比べると圧倒的に小さな太陽は、月よりだいぶ外側を東から西へ回っていた。

 この位置関係なら日蝕も起こるのだろう。


 他の星は……『地球』にある火星や水星、木星に相当する星がどれなのか、ヴァンダルーには分からなかった。この『ラムダ』の宇宙の中心は惑星『ラムダ』なので、あらゆる星が『ラムダ』の衛星だからだ。大きさも『ラムダ』より小さな星しかない。


 なるほど、確かにこれでは宇宙人は存在しないだろう。そして、宇宙魔物が存在するのは、月であるらしい。

『十万年以上放置されていたら、ランク13以上の強力な魔物の群れが存在していてもおかしくないと思いますが……そんな様子もないですね』

『僕としては、月が自力で発光しているのが奇妙に思えて仕方ないんだけど』


 『地球』や『オリジン』では太陽の光を反射して光る月だが、『ラムダ』の月は淡くだが自力で輝いている。それは特殊な鉱物が含まれているからではなく、実は月が魔境と化しているからだった。

 元魔王軍のグファドガーンやフィディルグによると、異世界からこの世界に侵入した魔王グドゥラニスは、最初宇宙空間から『ラムダ』を見下ろし、近くにあった月に本拠地を置こうとした。


 しかし、すぐに取りやめて『ラムダ』に邪悪な神々を率いて降り立ち、そこを本拠地にした。何故なら……月の環境が存在の糧となる信者兼雑兵となる魔物を増やすのに、全く向いていなかったからだ。

 ドポペゼパルオのような邪神が存在した事からも想像できる通り、魔王と邪悪な神々が元々いた世界の環境は非常に過酷だ。しかし、その世界に存在した魔物ですら宇宙空間で生息するのは容易い事ではなかったのだ。


 それに、グドゥラニスが思っていたより月と惑星ラムダとの行き来が難しかった。敵から攻められにくいのは良いが、自分達も攻め込みにくいのはいけない。

 空間属性の配下に【転移門】を開かせれば解決するが、それでは空間属性の配下を討ち取られたら動きが取れなくなってしまう。


 そのため、グドゥラニス率いる魔王軍が月に滞在したのは一日に満たない間だった。しかし、その短い時間で魔素は月に定着し、月は魔素に汚染され続けていたらしい。……ラムダでは誰も、あのベルウッドですら注意を向けなかったようだが。


 ちなみに、『ラムダ』には『太陽の巨人』タロスや『月の巨人』ディアナ等、太陽や月に関係する神や亜神が存在する。しかし、彼らは太陽や月そのものが神格を得た存在ではない。あくまでも太陽や月に関係が深い神や亜神なのだ。


 そうこうしている内に、月に到着した。

『さて、これで俺達は人類で初めて月に降り立った人間になりますね』

『ヴァンダルー、あなた、神になったって認めたんじゃなかったっけ?』

『……そうでした。人類で初めて月に到達した人間はプルートー達ですね』


 【完全記録術】スキルを持っているのに、時々自分が神である事を忘れる神、ヴァンダルー。内心では、まだ神になってから一年過ぎたばかりだから、セーフではないだろうか? と考えている。多分、また忘れるだろう。


『おおん?』

『クノッヘンは月に到達した初アンデッドです』

 ヴァンダルーのリクエストで形状をスペースシャトルそっくりに変形したクノッヘンから月に降り立つと、そこは美しくも幻想的でややグロテスクな光景が広がっていた。


 彼方に見える青い惑星ラムダと、その反対側で輝く太陽。一面に広がる砂漠の砂と石は淡く輝き、ぽつりぽつりと異形の何かが生えていて蠢いている。


 それらの大きさはヴァンダルーと同じくらいで、形状は様々。上半身だけの人間、頭の無い獣、触手が生えた円柱等、まとまりがない。

『あれが月の魔物ですね』

『おおん』

 クノッヘンは月の魔物に無関心なようだが、ヴァンダルーは試しに適当な一匹を選んで近づいてみた。


『…………』

 そして、近くで見て分かったが、月の魔物は全身が砂と石で出来ていた。生物のような姿をしているが、月で最も多い月の鉱物で出来たゴーレムだったのである。

 骨も何もないので、クノッヘンが興味を覚えないのも当然だ。


『とりあえず、普通のサンドゴーレムと区別するためにムーンサンドゴーレムと仮称しましょう』

『………』

 そして、無防備に近づいて来たヴァンダルーに向かって、仮称:ムーンサンドゴーレムは殴りかかった。


『あまり強そうではありませんね』

 その動きは緩慢で、まさに「拳に蠅が止まりそうなパンチ」だった。当たっても、砂が付くぐらいで痛くもかゆくもない。むしろ、殴ったムーンサンドゴーレムの腕の方がちょっと崩れている。


『元々が砂だからね。石で出来たゴーレムなら、少しはマシかも』

 プルートーが言うように、ゴーレムの強さは体を構成する鉱物と体の大きさによる。それは月の砂でも例外ではない。


『しかし、ゴーレムなら月に居ても不思議はないな!』

『酸素も食べ物も必要としないからね。しかし、形が人型じゃないのは何故だろう?』

『多分、重力が弱くて二足歩行だと安定しないからじゃないかしら。砂だと、転倒するだけで崩れてしまいそうだし。ほら』


 そう話していたレギオンの人格の内、イシスが(おそらく)指した先では、丁度バランスを崩したゴーレムが転倒して崩れ、ただの砂になるところだった。


 ちなみに、弱いゴーレムしか存在しないのは、月にゴーレムしか存在しないためだ。通常の魔境なら人間がいなくても魔物同士の生存競争によって殺し合うため経験値が入ってレベルが上がり、生き残った魔物は自然とランクアップしていく。


 しかし、存在を維持するのに食料を必要としないゴーレムしかいないため、生存競争が起こらない。また、ゴーレムは基本的に知能が低く、感情も持ち合わせていないため、無意味な同士討ちも起こらない。

 そのため、月のゴーレム達にはレベルアップする機会が無いのだ。


『この様子なら、放っておいても脅威になる事はないな』

『そうですね。魔境の環境が変異する事も無いでしょうし』

 魔境は最初魔物が発生する以外は普通の土地だが、汚染された魔力が増え続けるとダンジョンが発生したり、環境が大きく変わったりと、変異する。


 猛毒が湧く死の泉や、無数の岩が空に浮いている荒野、葉の代わりに炎を枝につける火炎樹の森等の魔境も、元々はただの泉や荒野、森だったのだ。

 月も例外ではなく、元々は太陽の光を反射して光るただの衛星だったのが、淡くだが自力で光を放つ衛星になっている。


 しかし、これ以上変化する事はないだろうとヴァンダルー達は思っていた。簡単に自然消滅するゴーレムしか魔物が存在しないのなら、汚染が悪化しようがないからだ。

『もしかしたら、十万年後にはもっと強い魔物が発生するようになっているかもしれませんが……『ラムダ』にある魔境の方がずっと脅威ですからね』


 何より、月は『ラムダ』から離れている。ランク1のゴーレムが何かの奇跡でランク5や6になったとしても、遠く離れた『ラムダ』に害を及ぼす事はまず不可能だろう。そもそも、ゴーレムの知能では『ラムダ』に人がいる事が分からないはずだ。


『じゃあ、お土産に月の砂や砂利を持って帰りましょうか。月から持ち帰っても光り続けるかは分かりませんが、ルチリアーノに頼まれましたし』

『おおぉ~ん?』

 いい暇潰しになったが、そろそろ帰ろう。そう思って足元の砂や砂利を集めるヴァンダルーに、それまでゴーレムに対して無関心だったクノッヘンが不意に声を上げた。


『月の裏側ですか?』

 クノッヘンは、月の裏側を確かめなくていいのかと気にしているようだった。確かに、『ラムダ』から宇宙に出てそのまま月に向かって降り立ったヴァンダルー達は、月の裏側を見ていない。


 裏側に何かがある……という確証も予感も無い。しかし、確かめずに脅威は無いとして帰るのはどうかと思う。と考えたのだろう。


『たしかに。言われてみれば裏側も見ていくべきですね』

 ヴァンダルーもその通りだと考え直した。『ラムダ』から夜空を見上げれば見る事が出来、望遠鏡を開発すれば観測できる表側と違い、裏側はこうして宇宙に来ていなければ調べる事は出来ない。


 この月が『地球』のそれと同じように自転している場合、この月も惑星『ラムダ』から裏側を観測する事は出来ない。なら、それを確かめるより先に、このまま裏側まで確認しに行く方が手間はかからないように思えた。


 レギオンも特に異議がなかったので、そのまま月の裏側に向かった。

 月の裏側は太陽の光が届かないため、薄暗かった。月自体が淡く輝いていなければ、暗黒に包まれていただろう。

『ふむ……』

『……』


 裏側と言っても、月は月。薄暗いためゴーレム達がより不気味に見えるが、変化はそれだけに見えた。

 月、そのものの変化は。


『月の後ろに、こんな星があったのね』

 そう、表側からは見えなかったが、月の裏側から見るとすぐ近くに星が浮かんでいた。

『いや、ただの星ではないでしょう』

 その星の直径は百メートル程。『地球』の基準では、小惑星と評するべきだろう程度。そして表面は赤黒くて艶やかな光沢があり、真ん中に巨大な紫色の唇があった。


 そう、紫色の唇である。端が星の直径いっぱいにある、巨大な唇。

『……うう、ついに見つかってしまったか』

 そして、唇が僅かに開いたと思ったら、観念したような声が響いた。そして、そのまま唇が大きく開かれている。そこに現れたのは、巨大な目だ。


 口の内側から巨大な目が一つ現れ、ヴァンダルー達を見つめている。

『私の名は『夢死の邪神』ルゴルノーク。見つかったからには……降参します』

 そして、素直に降参した。


ギリギリ月二話投稿達成しました(汗

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― 新着の感想 ―
惑星の定義は恒星を周回する天体なので天動説ならラムダは惑星とは呼べない?
挨拶と同時に降参とは…なかなかやりおる(笑)
[一言] 月とその裏側かぁ 盲点だった!
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