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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第二章 沈んだ太陽の都 タロスヘイム編
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四十九話 中ボス戦の勝利が虚しいけど、次はドラゴンゴーレムだ

 虫型の魔物は思考力が無く、本能のみで動く。

 そう聞くとテイマーを初めとする調教師ジョブの者達にとって扱いやすそうに思えるかもしれない。しかし、実際にはあまりにも本能が強すぎで、人間では操る事が出来ない。


 一応特殊な香草や香の匂いや、音である程度までなら言う事を聞かせられるように工夫した者も居たが、それらはテイムしたとはとても言えない不安定な代物で、一歩間違えれば自分自身が食い殺されてしまう様な危うい代物だった。


 そしていつしか『虫型魔物とアンデッドはテイムできない』と言う常識が、広まって行った。


「筈なんですか」

 ブブブブブブブブブブ。

『筈なんだよ』

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ。


 無数のセメタリービーに掴まれて運ばれているヴァンダルーは、「とても信じられない」とボークスからされた説明の感想を口にした。

 こんなに人懐っこいのに。


 このセメタリービー達は丁度巣の引っ越しをする時期で、その時偶然ヴァンダルーを見かけたらしい。そして、彼の【死属性魅了】に引っかかったのだ。

 以前もダンジョン内のアンデッドが友好的だった事があったが、その時はテイムできず外に連れ出す事は出来なかった。しかし、この蜂達は次の階層に降りても普通について来る。


 多分、あの時より【死属性魅了】のレベルが上がっているからだろう。

 若しくは、ヴァンダルーはセメタリービーとの相性が特に良いのかもしれない。


『グールや吸血鬼、それにセメタリービー。【死属性魅了】って、思っていたより対象が広いな』

 セメタリービーに関して言えば、元々魔王達がこの世界を手に入れるため人を戦わせるために作った魔物の一種だ。もしかしたら、この蜂を創ったのが死を司る邪神だったのかもしれない。


 何にしても、【死属性魅了】のレベルがこれ以上上がるようなら、アンデッド系の魔物が頻繁に出るダンジョンや魔境には入らない方が良いかもしれない。

 出入りする度に百鬼夜行よろしくアンデッドを引きつれて歩く事に成りかねない。即戦力が欲しいなら、有効かもしれないが。


「それで、あいつはどうする?」

 思考に沈んでいたヴァンダルーにヴィガロが指差したのは、このボークス亜竜草原二十階層の中ボスだ。


「ギャオオオオオン!」

 咆哮を上げながら翼と化した前足を大きく広げるのは、ランク6のヴェノムワイバーン。

 歳を経たワイバーンがランクアップした存在で、身体が一回り大きくなり鉤爪と尻尾の先端に生えた大きな棘から猛毒を分泌する様になった魔物だ。


 相変わらず頭は獣にしては良いと言った程度で、ブレスも吐かない。しかし、スピードと機動力はただのワイバーンだった時とは比べ物に成らない。

 空を飛ばずに肉弾戦だけでこの魔物を倒すのは、C級冒険者でも不可能だ。そう断言される魔物である。


「当初の予定通り、俺だけで戦ってみましょう」

 ヴァンダルーはボークス亜竜草原の、それもボスの前に出現する中ボスを自分の試金石にする予定だった。

 レベルが上がって能力値が上昇しても、実戦でそれを使いこなせなければ意味が無い。あのドラゴンゴーレム相手に即死しない実力が付いたとは言えない。


 それを試すためにこのヴェノムワイバーンと一対一で戦い、勝てるかを試すのだ。勿論【吸魔の結界】で翼に込められた魔力を吸収して、地面に落とすと言う手段は無しで。


 勿論、ヴェノムワイバーンに勝てたからと言ってあの壊れかけのドラゴンゴーレム相手に即死しないとは言い切れない。

 目の前でこれ見よがしに翼を羽ばたかせる下級竜より、圧倒的にあのドラゴンゴーレムの方が格上だからだ。


 まあ、ただの目安だ。別にこの中ボスに勝ったからと言って、何か特別な力を授かる訳でもなんでも無いのは分っている。勝ったらドラゴンゴーレムの前まで行って試して、それでダメそうなら何もせず戻ってまた修業すれば良いだけの話だ。


『死なない様に気を付けろよ』

「行って来い、坊や。儂らが見守っているのを忘れるで無いぞ」

 頼もしい応援を受け、ヴァンダルーはヴェノムワイバーンにただ一人挑んだのだった。




「そして今回もダメでした」

「まー、仕方ないわよ。C級冒険者って才能があるとか、普通よりも沢山の経験を積んで凄い努力したとか、そう言う人しか成れないって聞いたし」

「ヴァンダルーはその年の子にしては努力してるけど、流石に一対一じゃ……テイマーなんだから拘らなくて良いんじゃないの?」


 五回目の敗北を喫した後、タロスヘイムに戻ってきたヴァンダルーは休養を取りつつ武器の開発をしたり、鰹節作りをしたり、色々と動いていた。

 今は、ビルデ達子育て中のグール達が集まって、育児について意見交換をする母親会に死属性魔術の練習も兼ねて混ざっていた。


 本日の主なメニューは鰹出汁の山菜入り味噌汁、ドングリ粉うどん、デザートに蜂蜜漬けの寒天だ。

 鰹節は去年の今頃、初めての燻製、地球から数えて二十年以上振りの火を使う加工だった事で失敗作を量産していたが、最近やっと安定して作れるようになった。


『こんな事ならもっと鰹節や燻製に付いて調べて置けば良かった。けど、まさか異世界で鰹節を作るなんて思わなかったからなぁ』

 テレビやらなんやらで聞きかじった知識を適当に繋ぎ合わせて実行した結果量産された、数々の失敗作。確かあの番組では炭火の近くで燻していたような気がしたが、きっと記憶違いか特殊な作り方の紹介か何かだろう。


 うどんは小麦粉と比べてサラサラのドングリ粉を、ゴーバが捕まえてくれたギーガ鳥の卵を繋ぎにし、練って作った。本当はラーメンを作りたかったのだが、かん水が出来なかったのだ。

 かん水は炭酸ナトリウムか炭酸カリウムが主成分、つまり特殊な塩水なので、現在作れないか工夫している。ヴァンダルーがオリジンで話を聞いた和食通の研究者の霊も、流石にかん水までは手作りしていなかった。

 ただ工夫している最中なので、数年以内には出来るだろう。


 そしてヴァンダルーは驚き慣れたが、ラムダでは麺類が存在しなかった。うどんや蕎麦やラーメン、パスタすら無いのだ。だからうどんを初めて作った時の皆の反応は「随分と細長いパンだな。茹でて作るとは変わっている」と言う物だった。

 まあ、だから「うどんや蕎麦は音を立てて食べる物」と言う日本の習慣を広めるのも楽そうだ。


 うどんやパスタくらいは在りそうな物だが……燻製と言い、この世界の料理は料理法がシンプルな物しか存在しないのかもしれない。料理法を研究する余裕が無いとか、工夫しなくても美味い魔物の肉や魔境の産物が存在するとか、そう言う理由もあって。


 そしてデザートの寒天はヴァンダルーが天草から加工した物で、蜂蜜は勿論セメタリービーの蜂蜜である。ヴァンダルーがテイムした……テイムさせられたという方が正確かもしれないが、セメタリービーは現在タロスヘイムの王城に巨大な巣を建造している。

 冬だと言うのに魔境まで働き蜂を派遣して蜜を製造中だ。因みに、セメタリービーの主な食料は肉だ。だから蜜を貰ってもその分ゴブリン等の食用に適さない魔物の肉をやれば問題無い。


 セメタリービーの蜂蜜は香りが強く、濃厚な味がする。そんな蜂蜜をかけた寒天は大人気のスイーツに成っている。材料の天草や昆布等も加えて、タロスヘイムでは海藻の価値が大きく見直された。

 味噌や魚醤と比べて魔術でぽんと作れないので手間ではあるのだが。


「ヴァン、そう言えば子供に蜂蜜は拙いんじゃないのか?」

「これは身体に害がある物は完全に排除してある蜜だから大丈夫、問題無い」

 品質を守ったまま【殺菌】と【消毒】で身体に害に成る成分は完全に消した後だ。この蜜を口にしたとしても、倒れる事は絶対にない。……食べさせ過ぎて太るとか、そう言う害は消せないけど。


「ならもし口に入ってしまっても大丈夫か」

「う~」

「でもジャダル、離乳食にはまだ早いぞ」

 木皿の上の蜂蜜がたっぷりかかった果物に手を伸ばそうとした赤ん坊を、バスディアは抱き直して皿から遠ざけた。


 ジャダルは夏の終わり頃に産まれた、バスディアの娘だ。妊娠するまでで苦労を先取りしたのか、驚くほどの安産で誕生し、今日に至るまですくすくと育っている。

 灰褐色のぷくぷくした頬がとても可愛らしい。


「ジャダルちゃんも大きくなったわね。あ、ちゃんと鉤爪は削ってる?」

「いや、まだ爪は伸ばせないみたいだ。ヴァービは何時頃伸びる様になった?」

「うちのヴァービは一歳に成るちょっと前だったかな。でも早いと三か月で生えて来るから、ちゃんと手入れするのよ」

「子供の内は自分の鉤爪で自分を傷つけちゃうからねー、キングもそうだった?」


『うちのヴァンダルーも鉤爪が伸ばせるようになったのは三か月よ、でもその時から賢かったから』

「そうなのっ!? 三か月で賢いって凄いわね」

「あたし達の集落に来た時まだ一歳だったから、今更驚くのも何だけど」


 ニコニコとグールの母親達との会話に混じっているのは、ダルシアだ。これまで彼女はヴァンダルーやアンデッド以外には見えなかったが、ヴァンダルーが新開発した【可視化】の魔術でやや透き通ってはいるものの、バスディアやビルデ達にも見え、会話する事が出来るようになった。


 コミュニケーションが円滑に行えるようになれば、ダルシアのストレス軽減の役に立つだろうと開発したのだ。

 まあ、ダルシアの霊体に刻まれた鞭や火傷の痕も見える様になるので事情を知っているタロスヘイムの面々なら兎も角、人間社会では使い辛いけど。

 その前に是非とも彼女を復活させ、この魔術を無用の長物にしたい所だ。


 尚、ヴァンダルーはダルシア達が話している近くで、グールの幼児達と戯れていた。

「な゛ぉ~」

 グールの男の子は、産まれた時から頭部がライオンの物であるため、この頃はまるで子猫の様だ。肉球は無いが、とても可愛らしい。


 骨人は苦手らしいが。本当に猫を無暗に傷つけない様に言っておいて良かったと、ヴァンダルーはつくづく思った。

「パパー」

「パパじゃないよー」

 凄い懐いてくれているけど、パパじゃない。そこははっきりしておこう。


「にーにー」

「そうそう、にーにが正解」

 お兄ちゃんと言う意味ならその通り。俺の方が三つ年上だ。


「ねー……」

「ねーねダメ、にーに」

 でもお姉ちゃんじゃありません。


「キングって女の子っぽいもんね。頭の形とか」

「そうよね、肌の色が同じだったら女の子にしか見えないし」

 グールの男は獅子の頭部をしているので、ビルデ達から見るとヴァンダルーは女顔成らぬ女頭なのだった。ボークスやズランの様な逞しく巨大な肉体美を誇る巨人種アンデッド達なら、流石にそうは見えないらしいが。


「む……声変わりと第二次成長期を迎えればきっと俺も」

 そして大人になる頃には割れた顎、丸太の様な腕に厚い胸板、戦車のキャタピラの様な腹筋に女の腰より太い腿。某ハリウッドスター並のマッチョに成っているに違いない。

 筋力に補正がかかる【怪力】スキルを持っているのだから、間違いない。


 ……多分、きっと。


 将来の自分に微妙な不安を覚えているヴァンダルーの隣を、お馬さんごっこ中のパウヴィナが上機嫌で通り過ぎて行く。

 一歳を迎えた彼女はもう五、六歳に見えるほど大きくなっていて、他の子供を背中に載せて遊ぶのがマイブームなのだ。


 決して将来筋肉的に有望な自分の姿をヴァンダルーに見せつけている訳では無い。


「そう言えば、中ボスの攻略はどうなったんだ?」

「はい、この休暇が終わったら六度目の挑戦です」

 ボークス亜竜草原、二十階層に出現する中ボスとの勝負に、ヴァンダルーは負け続けていた。


 勿論毎度死にかけている訳ではない。殺し合いでは勝っている。単にルールの関係上、判定負けし続けているのである。


 中ボスに対して一対一で戦う。これには【ゴーレム錬成】で作ったゴーレムも含まれる。

 その際、【吸魔の結界】で中ボスの機動力を奪ってはいけない。

 制限時間は砂時計の砂が全て落ち切るまでの、約五分。


 このルールでヴァンダルーはヴェノムワイバーンと今まで五回戦っている。

 そしてヴェノムワイバーンに攻撃を当てられず、当てても有効打に成らず、その内に五分が過ぎてしまう。と言う事を繰り返していた。


 ヴェノムワイバーンの毒は【消毒】をかけてやれば体内の毒が消える為、再び毒が分泌されるまで注意を払わなくて良い。それに直接攻撃は、【停撃の結界】で十分止められる。


 だが逆にヴァンダルーの攻撃もヴェノムワイバーンに対して決定打にはならなかった。

 まず敵に合わせるために無属性魔術の【飛行】で飛んでみたが、全く追いつけなかった。速度だけなら、魔力を大目に使えばすぐに越える事が出来たのだが、小回りでは圧倒的にヴェノムワイバーンの方が優れていたのだ。


 元々無属性魔術の【飛行】は、自分の身体を【念動】で持ち上げて動かしているのだが、風属性の魔力を翼に込めて飛行するヴェノムワイバーンの巧みで複雑な飛行テクニックに、全く及ばなかったのだ。


 次に遠距離攻撃での討伐を試みた。無属性魔術の【魔力弾】で狙ってみたが、射程と弾速の問題でダメだった。

 如何なる属性も帯びていない無属性の魔力は、とにかく拡散しやすい。それを収束して出来るだけ拡散し難くしてから、撃つのが【魔力弾】と言う術だ。

 だが、拡散し難くしたと言っても限度がある。普通なら数十メートル程で、ヴァンダルーが一発に一万と言う大量の魔力を込めて放っても、百メートルと持たない。【同時発動】スキルで一度に複数撃っても、同じだ。


 それに弾速も地球の銃は勿論矢にも劣り、弾道も基本的に真っ直ぐにしか飛ばないためとても避けやすい。高速で飛び回るヴェノムワイバーンにとっては、遊びも同然だろう。

 弾の形を大きく歪めて弾道に変化を付ける等の工夫もヴァンダルーは行っていたが、全く通用しなかった。当たったら鱗どころか骨肉も臓腑も爆ぜさせる程の破壊力があるのだが。


 兎も角、接近戦も出来ず【魔力弾】が通じないとなると毒を盛るか病気に感染させるか、【魂砕き】で何とか魔力を奪いきるか、レムルースで攪乱して隙を作るかの搦め手と言う事に成る。

 しかし上手く【猛毒】で作った毒をヴェノムワイバーンの目や口に当てても、この飛竜は【毒耐性】スキルを持っているため上手く効かない。


 同じ要領で病気にした時は上手く行ったが、発病する前に五分過ぎてしまった。

 【魂砕き】は対象に物理攻撃でも魔術でも、攻撃が当たらないと効果を発揮できないし、当たっても与えた肉体的なダメージと同程度しか魔力を奪えないので、ヴェノムワイバーンの魔力を削りきれない。


 レムルースも格下のワイバーンには通用したが、ヴェノムワイバーンは突然発生した殺気に驚きはしても大きな隙は見せなかった。


 そしてセルクレントを相手にした時を参考に、ヴェノムワイバーンの攻撃に合わせて【停撃の結界】を拡大し、鉤爪や尻尾を結界でからめ捕り、初めて隙を作る事に成功した。

 しかし、ヴァンダルーが攻撃に移る前に長い首を曲げて、何と尻尾の先端と片足を食い千切って脱出したのだ。


 セルクレント以上の思い切りの良さだ。野生動物でも即座に出来る行動じゃない。ダンジョンの中ボスとして闘争本能が肥大化している事と、ヴァンダルーの【魔力弾】が胴体に直撃したら即死する事が解っていたからこそ出来た行動だろう。


 そしてその後、結局五分間逃げ切られてしまった。


 そして勝負の後はボークス達がちゃっちゃとヴェノムワイバーンを倒して、そのまま三十層のダンジョンボスも倒して、宝物庫から財宝を頂くのである。

 そのため経験値は溜まっているし、レベルも上がっている。


「次こそは勝算があります」

『ヴァンダルー、そんなに急がなくて良いのよ? お母さん、生き返るのは五年後でも十年後でも百年後でも構わないのよ』

「大丈夫、毎回同じ事を言っているけど、今度こそ大丈夫」


 ダルシアは不安そうだが、ヴァンダルーは今回本当に勝算があった。

 それは【魔力弾】を改造し、新たな死属性魔術を開発すると言うアイディアだ。

 これまで死属性魔術には敵に直接ダメージを与える術に乏しいと思っていたヴァンダルーだが、乏しければ作れば良いだけの事だったのだ。


 今までは自分で敵を倒すと経験値が入らないので新術の開発は後回しにしていたが、必要に成ったのなら打ち込めばいい。

 その結果死属性を帯びた、射程距離が長く弾速も早く、弾道も読まれにくい新術の開発に成功したのが昨日の事だ。


「次こそ勝ちます、七度目は無い」

 ヴァンダルーは力強く宣言した。




 ダンジョンに出現する中ボスやボスは、他の魔物と違って直接ダンジョンの核によって作り出された存在だ。

 だからこそ、何度ボスが倒されても一定の時間が経つと同程度の力を持つ魔物が同じ場所に出現するのだ。


「シャアアアア……」

「シュアアアア」

 人どころか牛を丸呑みに出来るだろう巨大な蛇の頭が七つ、とぐろを巻いていた。しかし、尻尾は一本しかない。


 竜種の魔物の一種、多頭蛇。卵から孵った時は頭が二つあるアオダイショウぐらいの大きさの蛇だが、成長するに従って頭の数が増え、身体の大きさと鱗の硬さ、再生能力や毒の強さが増して行く。

 そして成体になると七つの頭を持つ巨大な蛇と成り、ヒュドラと呼称される様になる。


 そのランクは6で、ワイバーンよりも竜種の中では格上だ。

 知能は通常の蛇と変わりない程度で、機動力やスピードではワイバーンに大きく劣る。

 しかしその巨体から生み出されるパワーは易々と人を薙ぎ払う事が可能だし、鱗は並の腕前では傷つける事も難しい。そしてその牙から分泌される猛毒は、専用のポーションでなければ解毒できない強力な物だ。


 それらに増してこの魔物の討伐を難しくしているのが首を全て落し更に首の根元にある心臓を破壊しなければ完全に死なない生命力、どちらか片方だけなら数日で完全再生する再生力だ。


 因みに、このヒュドラがさらに成長して頭が八つ以上に成るとオロチと呼称されるようになるらしい。名前の由来はやはり勇者の一人がそう呼んでいた事からだ。


 そしてヴァンダルーは六度目のボークス亜竜草原二十階層に中ボスとして現れたヒュドラを前に、思わずこう言っていた。

「やり直しを要求する」

『いや、無理だろ』

 即座にボークスに否定された。


「でも、折角ヴェノムワイバーンの機動力に対抗するための新術を開発して来たのに……」

 ヒュドラは知能と機動力と素早さで、ワイバーンに劣る。勿論、ワイバーンがランクアップした魔物であるヴェノムワイバーンとは比べるまでも無い。


『仕方ねぇだろ。元々、中ボスに同じ魔物が五回連続で出るのが珍しいんだからよ』

 通常、ダンジョンに出現するボスや中ボスは特定の種族が出る訳ではない。決まっているのは傾向と大体の強さの水準だけで、その中からランダムにダンジョンが産み出し配置する。


 ここなら、ランク6の竜種か恐竜型の魔物の中から中ボスが選ばれると言う訳だ。

 その中でも強い方だっただろうヴェノムワイバーンが五回連続で出たのは、ヴァンダルーの運の無さ故か。


『今更ヒュドラが引っ込む訳も無い。試してみろや。その新術を』

「はあ……【死弾】」

 ヴァンダルーが鎌首をもたげるヒュドラに向かって手を突き出すと、そこに黒い陽炎の様な物が出現する。


 ただならぬ雰囲気を感じ取り、逃げようとするヒュドラに【死弾】は撃たれた。

 生命エネルギーを奪う死属性の魔力を、【魔力弾】と同じ要領で収束して打ち出すのがこの【死弾】だ。

 まだ術に慣れていないため連射性は【魔力弾】より低いが、射程距離も弾速も段違いだ。更に、ある程度の追尾能力もある。


「「「シギャアアアアアアア!!」」」

 しかし、その弾速も追尾能力も発揮するまでも無くヒュドラに【死弾】が命中。生命力を奪われたヒュドラの首から悲鳴が上がり、蛇の頭部が次々に地面に垂れて行く。


 ヴァンダルーは更に【死弾】を何回か放ち、全ての首が地面に横たわったら、ヒュドラの心臓に止めの【死弾】を放った。

 後に残ったのは、外傷が一つも無いのに死んでいるヒュドラの死体だけだ。


『おお、スゲェな』

「一流の魔術師の全魔力百人分を使ったと考えれば、そうでもないです」

『そうかもしれねぇが……お前に取っちゃ百分の一以下だろ? それより喜べよ、中ボスを五分どころか一分もかからず倒したぞ』


「それはそうですけど……」

『別にヴェノムワイバーンに拘る事はねぇ。要は、あのドラゴンゴーレム相手に即死しない強さが手に入りゃいいんだ。そうだろ?』

 その通りだけど、いまいち納得できない。


 しかし、ボークスの言う通りヴェノムワイバーンが出るまでダンジョン攻略を繰り返すと言うのも目的から外れるので、とりあえずこれで良しとしよう。


 次はドラゴンゴーレムだ。



《【死属性魅了】、【眷属強化】、【無属性魔術】、【魔術制御】、【料理】、【格闘術】のレベルが上がりました!》

《【遠隔操作】スキルを獲得しました!》



・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:4歳

・二つ名:【グールキング】

・ジョブ:死属性魔術師

・レベル:100

・ジョブ履歴:無し

・能力値

生命力:90

魔力 :204,506,933

力  :67

敏捷 :46

体力 :71

知力 :233


・パッシブスキル

怪力:1Lv

高速治癒:3Lv

死属性魔術:5Lv

状態異常耐性:5Lv

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv

死属性魅了:5Lv(UP!)

詠唱破棄:3Lv

眷属強化:6Lv(UP!)

魔力自動回復:3Lv


・アクティブスキル

吸血:3Lv

限界突破:4Lv

ゴーレム錬成:4Lv

無属性魔術:4Lv(UP!)

魔術制御:4Lv(UP!)

霊体:2Lv

大工:4Lv

土木:3Lv

料理:2Lv(UP!)

錬金術:3Lv

格闘術:2Lv(UP!)

魂砕き:1Lv

同時発動:1Lv

遠隔操作:1Lv(NEW!)


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能

ドラゴンゴーレム戦が二話になり、その後閑話、更にその後五十一話時点でのキャラクター紹介を投稿します。


11月16日に五十話 17日に五十一話 18日に閑話 19日にキャラクター紹介の予定です。

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