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三百九十四話 真魔王、オルバウムに君臨す

《【魔王の性欲】、【魔王の嫉妬】を獲得しました!》

《【魔王の性欲】と【魔王の嫉妬】が、【真魔王】に統合されました!》




『ぬおお? 我はいったい……? あれだけ猛っていた熱い何かが急に消えたように……? それでいながら憑き物が落ちたような清々しさ……まるで賢者にでもなったかのような気分だ』

『うう、あれほど妬ましかったヴァフォヴァルドが、今は全く妬ましくない? 何故?』


「アルダが埋め込んだグドゥラニスの魂の欠片を、俺が食べたからです」

 嫌な欠片を食べてしまったと思いながら、ヴァンダルーは全身から力が抜けたようにぐったりと地面に座り込む『魔象の邪獣王』ヴァフォヴァルドと、『海象の獣王』トゥースオルドを眺めた。


 ヴァフォヴァルドに埋め込まれた欠片が【性欲】だったのは、予想通りと言えば予想通りだった。だが、てっきり同じような欠片を埋め込まれたのだろうと思っていたトゥースオルドが【嫉妬】だったのは意外だった。

 我を失っている間の言動は、【性欲】の影響を受けたヴァフォヴァルドに、トゥースオルドが【嫉妬】した結果だったのだと考えれば、納得できるが。


『な、なにっ!? グドゥラニスの魂の欠片を食べた!? 何故そんなものが我らに取りついていたのかはともかく、吐け! 今すぐ吐くのだ!』

『いかん、ヴァフォヴァルド、もう手遅れだ! 見ろ、この少年の体は無惨にも変形してしまっている!』

『な、なんという事だ! 我らを救うために……PAOOOOOON! 許してくれ、少年よ!』


「いや、あなた方が離れてくれれば引っ込めますけどね。それに、これは魂の欠片を食べる前からです。覚えていませんか?」

 ヴァンダルーは、上半身をヴァフォヴァルドの鼻に摘ままれたまま「この神(人)達、根は良い人(神)なんだな」と、彼らが我を失っている間の言動を忘れる事にした。


 ダルシアに迫っていたのは【性欲】や【嫉妬】に狂っただけで、本来の彼らの性格によるものではなかったのだ。罪を憎んで人を憎まず。全てはアルダが悪い。


「二柱とも、この坊やは大丈夫じゃから心配は無用じゃ。これまでもグドゥラニスの魂と肉体どちらの欠片も数えきれない程喰らっているが、何の悪影響も受けておらん。……だから、坊やを放してくれんかな?」

 ザディリスがそう説明して落ち着かせている間に、ダルシアとバスディア対ビャゼクビョクトの戦いの決着もついたようだ。


『GIIIIIIII!!』

 途中から逃げに転じたビャゼクビョクトにそれを許さず、ダルシアとバスディアは彼を構成する球体を全て斬り裂いた。

 それでも光線を乱射しながら逃げようとしたビャゼクビョクトだったが、ヴィダを降ろしたダルシアには通用せず、絶叫を轟かせながら封印されてしまった。


「ふう、終わった。ヴァンダルー、二柱は正気に戻ったの?」

「はい、グドゥラニスの魂の欠片は吸収しました。精神的な影響も、多分大丈夫だと思います」

 ビャゼクビョクトを封印したオリハルコンの容器を手にしたダルシアが、【女神降臨】を解いてヴァンダルーの上に降り立った。


 それを見たヴァフォヴァルドとトゥースオルドは息をのんだ。

『おお、まさか大神であるヴィダ様をその身に降ろす人間が現れるとは……なるほど、それで我はヴィダ様と見間違えていたのか』

『降臨していたとはいえ、他の異性と間違えて求婚するとは無礼の極み。申し訳なかった』

『面目次第もない』


 そう言って頭を下げるヴァフォヴァルドとトゥースオルド。

「気になさらないで。グドゥラニスの魂の欠片のせいで、我を失っている間の事だもの。私とヴィダが別の存在だって分かってくれたのなら構わないわ」

「もう俺にお義父さんと呼ばれようとは思っていませんね?」


『滅相もない』

『堪忍してくれ』

 体中に生えた眼球を炯々と光らせる、黒い手足の集合体にヴァフォヴァルドとトゥースオルドは揃って頭を下げた。


『ヴィダ様に応えて新たな獣人種の祖となる決意はあるが、汝の義父になるのは今の我の鼻ではとてもとても……』

『我程度の突進力では、相応しくない』

「正気を失った時の事を、意外と覚えていますね」

 そうヴァンダルーに言われる二柱だが、ヴァンダルーが義父に、つまりダルシアの再婚相手に求める強さがグドゥラニスを遥かに超えるものだと、短い時間で悟っていた。


((話は、ダルシア殿に降臨していない時のヴィダ様としよう))

 ついさっきまで争っていた二柱の心は、共通する脅威を前に一つになったのだった。


「ダルシアが将来再婚する事に成ったら……いや、どうなるか分かり切った事じゃったな」

 ザディリスはダルシアが再婚する事に成ったらヴァンダルーはどうするだろうかと考え、すぐに答えを悟った。

 先ほどのように力を含めた諸々を試し、結果が満足できなければ満足できる結果を出せるようにするのだ。そう、あらゆる手段を使って。


「それでヴァン、今すぐ食べるか? とれたてだぞ」

 ダルシアに続いてヴァンダルーの魔王の欠片で作った巨体の上に降り立ったバスディアが、ビャゼクビョクトの前に倒した邪悪な神が封印された容器を懐から出して尋ねる。


「いえ、今は止めておきましょう。グドゥラニスの魂の食べ過ぎで、若干もたれているので」

「大丈夫、ヴァンダルー? また皆で組み替える?」

「今のところは大丈夫です。ちょっと魂の形が歪になっているだけで」


 ヴァンダルーは、ハインツと違い不完全復活したグドゥラニスの世迷言を真に受けるつもりはない。あれから精神や体に不自然な不調は覚えていない。

 だが、グドゥラニスの魂の欠片を短期間に連続して喰らう事で、ややもたれているのも事実だ。


(……【性欲】やら【嫉妬】やら【復讐心】やら【狂気】やら、碌な欠片がないし。元々グドゥラニスの魂だったのだから、当然かもしれませんが)

 異世界から世界を侵略しに現れた異形の魔王の魂なのだから、道徳心や勇気や愛等の清そうな欠片が無くて当然かもしれない。ヴァンダルーはそう思い直した。


「それに、ザンタークやボティンやペリア、グファドガーンのお陰で余裕ができましたから。魔力の回復アイテムとして取っておきましょう」

「そうね、ヴィダから聞いたわ。リクレントやズルワーンもそれぞれ動いているみたい」


 アルダが行った凶行に、ザンターク以外の大神達も激怒していた。

 神々にグドゥラニスの魂の欠片を埋め込み、ヴァンダルーと縁のある地や彼の仲間がいる場所に放つ。それにヴィダ派の神々を使った事が感情的に、そして『呪毒の邪神』や『殺狂の悪神』など魔王軍大幹部を使った事は世界を維持管理する神として許せるものではなかった。


 この凶行によって世界は人間が生存する事ができない状態に陥っていたかもしれないのだ。

 許せるものではない。

『なんと、そこまでの事態が起きていたとは……だというのに我々は……』

「あなた達が責任を感じることはないわっ! ヴィダも再会できた事は嬉しそうだったから!」

 事態の大きさを知って責任を感じて唸るヴァフォヴァルド達を、そう宥めるダルシア。ヴァンダルーはその間、各地の状況を確認して、次に行く場所を決めようとしていた。


『もし、そこの方。ヴァフォヴァルドやトゥースオルドの様子から見て、ヴィダ様を支持する神とその信者とお見受けする。我は『隠の神』ワイズワーンと申します』

 そこに空からワイズワーンが現れた。その奇妙な姿からバスディアとザディリスはヴィダ派に転向した元魔王軍の神かと身構えた。


「坊や、お代わりじゃ!」

「自暴自棄にならず、少しの間じっとしていてくれ! その間にグドゥラニスの魂の欠片をこのヴァンが食べるから!」

『え゛? グドゥラニスの魂を喰う?』


「二人とも、彼からはグドゥラニスの気配は感じませんから大丈夫だと思いますよ」

『おお! 汝は『隠の神』! 彼はズルワーン様の従属神だ!』

『我らと同じくアルダ勢力に捕まり封印されたはずだが……我ら同様に復活したようだな』

 グドゥラニスの魂を喰うという、十万年前では考えられなかった言葉に驚き、自己紹介を忘れて目を見開くワイズワーン。ヴァフォヴァルド達が彼の事を知っていたために、バスディア達もすぐに素性を知る事ができた。


『ん? という事は、グドゥラニスの魂の欠片が我にも? しかし、今はそんな様子はない……ないのですな?』

「ええ、ありません。でも、念のために確かめていいですか?」

『こちらからお頼みする。もし我の魂の奥底に潜んでいるようなら、いっそ一思いに』

「多分、その必要はないと思いますよ。実績がありますし」


 ヴァンダルーはワイズワーンの魂に触れるとグドゥラニスの魂の欠片が寄生していないか急いで、だが見落としなく調べた。その結果、寄生されていないことがはっきりすると、彼は深く安堵の息を吐いた。

「では、案内を付けるので、ボルガドンの聖域までついて行ってください。彼と、そこにいるファーマウンはヴィダ派に転向しているので大丈夫です」


『なんと! 彼がヴィダ派に……我が思っているよりも長い時間が過ぎていたようだ。では、また後程』

 そして、神であるワイズワーンが消耗しきる前に落ち着ける場所としてアルクレム公爵領にあるボルガドンの聖域を紹介する。そこには十万年前にはアルダ勢力の中核戦力の一人だったファーマウンがいるが、使い魔王を付け『鳥の獣王』ラファズもいるので大丈夫だろう。


 それよりも、由々しき事態が進行している事が明らかになった。

「どうやら、不完全復活したグドゥラニスが、自分の一部を集めているようです」




《【神格:殺神】、【神格:気象神】を獲得しました!》

《【神格:殺神】と【神格:気象神】が【亜神】に統合されました!》




 人は諦めず前に進み続ければ、進むことができる。当たり前の事だ。

 だから、諦めず挑戦し続ければ、幽霊屋敷は空を飛ぶ事ができる。

『我々はやり遂げました。創造主への忠誠と、今まで培ってきた怨念と憎悪、そして結束の力で!』

 そう、シルキー・ザッカート・マンションは空を飛んでいた。自分でもよく分からない原理だが、オルバウムの空を自在に飛行している。


『オオオオっ!』

『我々ハ、ヤリ遂ゲタ!』

 屋敷の使用人……アンデッド達も沸き立っている。


 見事、ヴァンダルーの期待に応える事に成功したのだから無理もない。

『ですが、これは通過点に過ぎません。いつの日か必ず、クワトロ号やサム殿に追い付いてみせる! そのためにも、目の前の敵を討つべし!』

『オオオオオオオ!!』

 シルキーの人格が宿った分身である三十代程の女性が号令をかけると、アンデッド達がその怪力で歯車を回し、それを動力に屋敷や庭が悲鳴のような音を立てて軋みながら変形する。


 そして幽霊屋敷に似合わない大砲やバリスタ、投石器が現れる。それらもシルキーの体の一部であり、操作するのは彼女自身。

『運ベ! ゴ主人様ヲ装填シロ!』

『どうも、どうも』

 そして、弾は使い魔王である。


『放ちます!』

 砲弾型使い魔王や大ボルト型使い魔王が、『行ってきますー』と打ち出されていく。


『ギャアアアアッ!?』

 矢弾の使い魔王達は【魔王の欠片】でできているため、標的である魔物達が迎撃や防御のために発動した魔術ごと、魔物を砕き、貫く。


『こらこら、待ちなさい』

 そして回避されても追尾していく。それでも追い付けず、地上のオルバウムの街に落下しそうになると自力で飛んでシルキーの敷地内に戻っていく。


「さすがは偉大なるヴァンダルー。戦場になった街の事も考慮した素晴らしい行動だ」

 そして、命中した場合の破片はグファドガーンが魔術で回収する。味方に流れ弾が当たる事もない、完璧な遠距離攻撃である。


『ふざけるな!!』

 だが、『魔城の悪神』ギュピャレスラには不満だらけだったようだ。


「異論があるのか?」

『当たり前だ! 我が創り出す魔物共が次々にやられていく、それは構わん! 魔物共が貴様らより弱いだけの話だ!』


 ギュピャレスラにとって、こう話している間にも彼の巻貝状の殻の突起から新たに生まれて這い出てくる魔物が、シルキーが放つ使い魔王の矢弾やデーモンの自警団員達、そしてヘンドリクセン達冒険者に次々に倒されている事には怒りはなかった。

 魔物は足止めや時間稼ぎのために創った、即席の戦力。その魔物を倒すのに多くの戦力が割かれている現状は、ギュピャレスラの狙い通りともいえる。


『グドゥラニス様の肉体を使って、貴様らは何をしている!?』

 彼にとって不快だったのは、使い魔王の存在そのものである。

「偉大なるヴァンダルーが、有効に活用している」


『それが不遜だと何故理解できない!? そのヴァンダルーなる存在が神や亜神かは関係ない! グドゥラニス様の肉体をグドゥラニス様以外が操る事があり得ていい訳がないのだ!!』

 使い魔王に気が付いた瞬間、吐き気を覚えた。彼には使い魔王が、グドゥラニスの醜悪な劣化品としか思えなかったのだ。


「ギュピャレスラ、貴様がそこまでグドゥラニスに入れ込んでいたとは知らなかった。魔王軍の側近は、多かれ少なかれそうした存在だとは認識していたが」

 グファドガーンが知る限り、魔王軍の側近はグドゥラニスにそれぞれの形で心酔していた。その圧倒的な力に従っていた存在、自らを滅ぼすことができる存在に支配される悦びに魅了された存在、毒も呪も効かない生命体としての完璧さに惚れ込んだ存在、いつか殺してみたいという欲求から従っていた存在……そのほとんどが人間には理解しがたい感性によるものだ。


 忠誠を超えた依存や信仰から従った存在はいないとグファドガーンは考えていたが、そうではなかったようだ。

 ヴァンダルーに依存し、神の如く信仰し全ての価値観の中心に彼を置くグファドガーンは、敵である事を理解しつつもギュピャレスラに僅かながら共感を覚えた。


『あいつ、俺の事をナチュラルに人外の存在だと思ってません?』

 しかし、使い魔王達が囁いた言葉を聞いて覚えた怒りが僅かな共感を消し飛ばした。

「偉大なるヴァンダルーを不快にさせた罪を、贖うがいい!」

 空間が歪み、【転移門】が乱立し、雷や炎、氷、水流、竜巻、砲弾型使い魔王がグファドガーンとギュピャレスラの間を行き交う。


 空間属性の魔術の攻防は激しくなるばかりだ。そのあまりの複雑さから、ヘンドリクセンやデーモン自警団達は参戦する事もできずにいる。

『貴様が奉じるヴァンダルーなど、グドゥラニスに……この我に比べれば取るに足らぬ存在だ!』

 そうギュピャレスラが怒鳴った瞬間、巻貝の一部が内側から砕け黒い触手が生えた。


「愚かな。グドゥラニスに乗っ取られたか」

 歪められた空間が戻ろうとする反作用を利用した衝撃波を、グファドガーンが放つ。

『乗っ取られた? 違う! 捧げ、一体となったのだ! 貴様は見抜けなかったようだがな!』

 衝撃波をギュピャレスラが空間を砕いて散らし、空間ごとグファドガーンを切断しようとする。


「……貴様、グドゥラニスの魂の欠片を埋め込まれている事に」

「気が付いていたのか」

 斬撃を受け 縦に真っ二つになったグファドガーンは、しかしダメージを受けた様子もなく左右に体を開く。

「なるほど、マリスジャファーと同じか」

 そして、開いた切断面から蜘蛛の脚を思わせる節足を何十本と伸ばし、攻撃を試みる。


『カハハハ! 愚神にしてはいい働きだと、アルダを褒めてやってもいい! この我と我を解放したのだからな!』

 そう答えるギュピャレスラの人格は、既に己とグドゥラニスの魂の欠片が混ざり合い、彼自身もどちらなのか分からなくなっていた。


 他の魔王軍やヴィダ派の神々は植え付けられたグドゥラニスの魂の欠片に抵抗したが、ギュピャレスラは抵抗しなかった。逆に、進んで一体化しようと試みた。それを悟られないよう、表面上は何も知らずに暴れているように演じて。


 自身の中に存在する異物感と、それが己の意識をかき乱す強烈な不快感。それが徐々に大きくなっていく恐怖と焦燥。それらを意に介さず、異物の正体を直感的にグドゥラニスだと気づき、己の全てを躊躇なく捧げようとする忠誠心。

 もはや狂信と呼ぶしかない感情だ。


『ははははっ! 今更気が付いたところで全てが遅い! 全ての欠片を取り戻し、この世界に我が君臨する! そこに貴様が奉じるヴァンダルーと、愚かなアルダ! そしてそれらを奉じる下等で下劣な生物に存在する場所はない!』

 巻貝のヒビは大きくなり、内側から生える黒い触手は大きくなるばかり。そして、生み出される魔物のランクも急激に高くなっていく。


『貴様らは滅びを甘受するしかないのだ!』

『いや、もう遅いのは貴様だ』

 ギュピャレスラ……いや、不完全復活したグドゥラニスが叫ぶと同時に、彼の周りの空間の時が止まった。


(な、なんだと!?)

 精神以外の全て、光すら止まっている特殊な空間に囚われたグドゥラニスは、グファドガーンが伸ばした節足の根本……彼女の内部に彼女以外の何かがいる事に気が付いた。


(貴様……リクレント!)

『久しぶりと言うべきか、悩むところだな。グドゥラニスよ』

 なんと、『時と術の魔神』リクレントは、グファドガーンの依り代の内部に広がるダンジョンの中にいたのだ。


『もっとも、それはどうでもいい事だ』

『貴様との永遠の別れは、すぐそこに迫っている』

『では、さらばだ』


 そんな事はさせるものかと、時の止まった空間から抜け出そうとするグドゥラニスだが、空間を思うように操る事ができない。


『グドゥラニスよ、貴様の力は死属性。ギュピャレスラと一体化した事で、奴の空間属性の力と死属性の力が反発し合っているのだ』

『使いこなせるようになれば、強敵となっただろう。だが、使いこなせないままでは力を半減させただけだ』


 不完全復活したグドゥラニスだが、彼に【記憶】や【本能】はない。ただの【征服欲】だ。数ある魂の欠片の一つでしかない。

 ギュピャレスラと一体化しても、その巧みな魔術の腕を活かすことはできなかった。


 怒りのあまり空間を震わせるグドゥラニスが囚われた空間を包むように、正七面体や正十一面体といったあり得ないはずの形状をした色ガラスを、クモともサソリとも判断できない蟲の形に組み上げたような姿の邪神が現れる。そう、グファドガーンの本体である。力の化身は人型だったが、これが彼女本来の姿なのだ。


『さあ、我に囚われ眠るがいい。次に気が付いた時、貴様は偉大な存在の一部となっているだろう』

 そして、脚で包むようにグドゥラニスを抱えようとする。

(貴様、まさか本体ごと我を封印するつもりか!? そんな事をすれば、その依り代も行動不能になるぞ!)


 グドゥラニスが叫んでいる通り、グファドガーンは自身の本体を使って彼を封印しようとしていた。しかし、依り代の彼女の顔には何の変化も現れていない。


「偉大なるヴァンダルーの御業をなぞる栄誉に、私の胸は悦び打ち震えているのだ。やれ、私よ」

(や、やめろおおおおっ! もう我を喰う事は許さん! 許さんぞおぉぉぉぉぉ!)

『おお、偉大なるヴァンダルーよ。この捧げものを受け取り給え!』

 グドゥラニスの叫びは途切れ、グファドガーンの祈りだけがオルバウムに響いた。


 オルバウムの人々は畏怖し、グファドガーン……そしてヴァンダルーを称えたのだった。

『……微妙にうれしくない』

 周囲の空間が歪んで近づく事も声をかける事もできなかったので、見守る事しかできなかった使い魔王達は、死んだ目でその様子を眺めたのだった。




――――――――――――――――――――――――




・名前:シルキー・ザッカート・マンション

・二つ名:【魔皇帝の別荘】 【空中別荘】(NEW!)

・ランク:11

・種族:ダークナイトスペクターマンション

・レベル:20


・パッシブスキル

特殊知覚

剛力:8Lv(UP!)

精神汚染:5Lv

腐食耐性:8Lv(UP!)

色香:7Lv(UP!)

能力値強化:被居住:8Lv(UP!)

能力値強化:創造主:8Lv(UP!)

自己強化:導き:9Lv(UP!)

物理耐性:4Lv(UP!)

飛行:3Lv(NEW!)

魔力増大:3Lv(NEW!)

快適維持:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

霊体:10Lv(UP!)

実体化:10Lv(UP!)

分身:4Lv(UP!)

家事:6Lv

礼儀作法:4Lv

料理:3Lv(UP!)

服飾:4Lv(UP!)

枕事:5Lv

鍵開け:2Lv(UP!)

スリ:1Lv

鞭術:7Lv

指揮:5Lv(UP!)

連携:8Lv(UP!)

並列思考:4Lv

恐怖のオーラ:10Lv

高速思考:1Lv(NEW!)

射出:3LV(NEW!)

砲術:4LV(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

ヴィダの加護


次の話は10月28日に投降する予定です。


また、明日の10月24日にニコニコ静画、コミックウォーカーで児嶋建洋先生による拙作のコミカライズ版が更新予定です。よろしければご覧ください。

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― 新着の感想 ―
「勇気」の欠片なら何処からか出てきそうな気が。 なにせ、グドゥラニスはかつてあの基地導師ベルウッドと相対し続けたのだし。
[良い点] ヴァフォヴァルドさん、初の草食系獣王なのに決断はめっちゃ肉食系!(笑) それだけ当時追いつめられてたのか、融合で魔象の邪獣王になったからなのか…… 象より早く決断したのであろうケンタウロス…
[良い点] ・回復アイテム追加 シュレディンガーの本体と組み合わせるとハインツ相手でもほぼ不死身になりましたね [気になる点] ・弦の神ヒルシェムとその英雄候補エディリアの現状 ヒルシェムが軟禁状…
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