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三百八十七話 アミッド神聖国聖戦軍VSヴィダル魔帝国軍

 豪雨のような血飛沫が降り注ぐ戦場で、強大な力のぶつかり合いが続いていた。

「【真・暗夜剣】!」

『ブゴオオオオッ!』

 ブダリオンが振るう魔剣を回避しようとした『猪の悪獣王』ボドドだが、体の側面に大きな傷を負ってしまう。


『馬鹿なっ! 何故我から生み出されたオークの子孫の武器が、我の体に届く!?』

 ボドドは自らが生み出したオークという存在について、知り尽くしていた。その特性も、限界も。

 それによれば、いくらランクアップしても、自らに匹敵する事はないはずだった。自身のアダマンタイトに匹敵する強度の毛皮や、その下の分厚い脂肪を切り裂き刃を肉に届かせるなんて、あり得ないはずだった。


『貴様は本当にオークなのか!? 頭部に金色の体毛を生やした変異種か!?』

「オークの上位種、ノーブルオークである! 貴様が封印される前には、まだ存在していなかったようだな!」

『何!? 上位種だと!? 創造主であるこの我に無断で進化するとは、不遜にもほどがある!』

「勝手な事を!」


 ボドドからすれば、魔王グドゥラニスに与えられた力を使い、彼への忠誠の印として雑兵の足しにと創ったのがオークだ。当然我が子としては見ていない。ボドドはそれを隠そうとも思わなかった。

「ブダリオン王! ここで我らが種族の汚点を刈り取りましょう!」

「切り倒し、戦勝記念の宴に食材として供してくれる!」

 その言動はノーブルオーク達を怒らせ、ボドドを追い詰めていく。


(馬鹿な! 上位種だとしても、これほど強くなるのはあり得ない! 所詮オークなど、知能の低い力と生命力と繁殖力だけの下等な魔物に過ぎないはず! その上位種だったとしてもだ!)

 ボドドは混乱する頭でそう考えたが、それは正しい。実際、ブダリオンがただのノーブルオークだったら、彼自身に才能がどんなにあったとしても、ボドドに命の危機を覚えさせることはなかっただろう。


 だが、彼はムブブジェンゲ、そしてヴィダの加護を受けた特別なノーブルオークであり……。

『ブダリオン、冷静になりましょう。ノーブルオークを指揮しないと』

 ヴァンダルーの友人として加護を受け、彼の分身を体に降ろすことができる存在なのだから。


 複数の神の加護を受けている者は、【御使い降臨】スキルで複数の神の御使いから自分に降ろす御使いを選ぶことができる。その選択肢の中に、ヴァンダルーの分身も含まれている。【御使い降臨】も【御使い降魔】も、効果はほぼ同じスキルなのだ。


「安心してくれ、君達を見習って我がノーブルオーク王国では後方指揮官を置いている」

『では安心して俺のように前に出られますね』

 今も、ヴァンダルーの分身を体に降ろして情報を共有している。


『リュゼマゼラは助けられましたが、他にも行かなければならない場所があるので、ここに来るにはまだかかりそうです。大丈夫ですか?』

「少なくとも、我々は問題ない。聖戦軍はジグラットが壊滅させてしまうかもしれないが……開戦前に離反した者達も危ないが、保護するべきか?」


『大丈夫でしょう。彼らが掲げているのはボティンやペリアの聖印ですから』

 聖戦から離脱したボティン達の信者達は若干混乱した様子だが、ジグラットに翻弄されている聖戦軍とは十分距離を取っている。

『……まあ、放置しておくとこっちに来ちゃうかもしれませんが』


 彼らはアミッド神聖国が掲げる聖戦に加わる気はないが、グドゥラニスの魂の欠片を埋め込まれた亜神を前にしてただ逃げるだけでいいものかと躊躇っている様子で、これ以上距離を取ろうとしない。

 だが今更聖戦軍と協力してジグラットと戦うのは気が進まないし、ボドドの方は主に戦っているのがノーブルオークなので援軍だと言って話が通じるのか不安なので動けないという状態だ。


 そもそも、彼らは聖戦軍から離反した無数の中小グループの集まりなので、全体を指揮するリーダーがいない。そのため、想定外の事態を前にして迅速に動くのは不可能なのだ。しかし、時間があれば何かしらの判断を下して動き出すだろう。


『ブルオワアアアア! よくも、よくもこの我を! 我を助けるならヴィダに従ってやってもいいと思っていたが、最早貴様らもアルダも敵だ!』

 その時、激痛のあまり激高したのか、それとも彼に寄生しているグドゥラニスの魂の欠片の影響か、ボドドが怒声を上げながら体の一部を不自然に膨張させた。同時に、地面に飛び散った彼の血肉がボコボコと泡立つように蠢き始める。


「ブギィィィ!」

「ブギャギャギャ!」

 そして、なんとボドドの体の表面に生じた巨大な膿胞が内側から破れると、気味の悪い粘液を纏ったオーク達がずるずると這い出てきた。


 青黒い肌に頭部には角を生やし、筋肉質な肉体をしていて、通常のオークとの共通点は鼻の形と鳴き声ぐらい。変異種だと一目でわかる。


「ブギィィイ!」

 そして、飛び散ったボドドの血肉は猪の魔物に姿を変えた。ノーブルオーク達にとってはザコにもならないランク3のヒュージボアもいるが、中にはヴァンダルーも見た事がないランク7から9ぐらいの猪の魔物もいる。


『我はグドゥラニスから、オークや猪の魔物を創る力と権限を与えられている。どれもこれも強力な魔物ばかりだ。そしてこいつらは我を傷つければ傷つけるほど増えていくぞ! どうだ、恐ろしかろう!』

『「いや、あまり」』

 思わず声を揃えて応えるブダリオンとヴァンダルーの分身(分身の声はボドドには届かないが)。


『な、なんだとっ!?』

 おそらく、グドゥラニスの魂の欠片に乗っ取られつつある事で、魔王式輪廻転生システムに直接干渉できるようになり、自身の血肉を材料に眷属を創れるようになったのだろう。

 それは普通なら恐ろしい力だ。傷つける度に強力な敵が増えるなんて、絶望感を覚えたとしても仕方がない。


 しかし、ブダリオン率いるノーブルオーク達は最低でもランク8までなら一人で倒せる、A級冒険者に匹敵する猛者ばかり。ボドドが増やした眷属は、彼らにとって『強力』と評するほどではない。

 そうである以上、ボドドが眷属を増やすことができると知っても、たいして驚く事はできない。


 ……既にヴァンダルーがボドドと同じような事をしている。いや、生み出しているのが分身ではなく別個の魔物である事を考えれば、レギオンのイザナミがヨモツシコメやヨモツイクサを創るのに近いだろう。


『おのれ! 何処まで我を愚弄すれば気が済むのだ! 我から生まれ、我の一部を利用しておきながら!』

 ボドドはそう叫びながら、ブダリオンに向かって突進を試みた。地面を蹄で抉って地響きを轟かせ、生まれる途中の眷属を体からふるい落としながら迫る姿は、山が動いているかのようだった。


「……自らとグドゥラニスを混同するとは、自我まで乗っ取られつつあるようだな」

 【魔王の欠片】製の武具を身に着けたブダリオンは、真正面で受けて立つ……かのように見せて、ボドドと衝突する刹那、紙一重で躱しながら剣を振るった。


「【無明斬り】!」

 ボドドの右側面が深々と、ブダリオンが見る事もできない程の高速で放った剣で斬られ、大量の血が飛び散った。戦場に『猪の悪獣王』の絶叫があがる。

『ィィィィイキヒヒヒヒヒ!』

 だが、それは途中から耳障りな哄笑へ変わった。


『キヒヒヒ! 我を傷つけても無駄だぁ! 我を傷つければ傷つけるほど、我に忠実な真の眷属が増えていく! 創造主を裏切った出来損ないの貴様らに、勝利はない!』

 そうボドドが宣言するが、どうやら彼はブダリオンが言ったように、自我までグドゥラニスに乗っ取られつつあるようだ。彼の血から生まれる眷属のオークや猪の魔物も、角や翼が生えた通常のオークや猪の魔物とは異なる種ばかり生まれるようになってきている。


 しかし、ボドドの背後でそれらの眷属はノーブルオーク軍の戦士達によって押さえられていた。

「陛下! 露払いは我々にお任せください!」

「この程度の出来損ないども、いくらいても我らの敵ではありません!」

 雄々しく槍や斧を振るうノーブルオーク達によって、デーモンの特徴を持つオークや猪……デモニックオークやデモニックボアが狩られていく。


 自らが出来損ないと呼んだノーブルオーク達の強さと、生み出したばかりの『真の眷属』達の断末魔に気が付かず笑い続けるボドドの姿に、ブダリオンは憐れみすら覚えた。

「……君が来る前にあれを倒してしまうかもしれないが、その場合はどうすればいい?」

『その時は封印するから大丈夫だそうです』


「可能なのか?」

『ええ、らしいです。でも、魂の欠片が一つの場合だけだそうなので、ジグラットの欠片と合体させないように気を付けてください』


「そうか。なら安心だ!」

 ブダリオンは剣を構え、小山のようなボドドの巨体に比べれば小さな三メートル強の肉体で風のように疾駆した。


 一方、ボークス達アンデッドやヴィガロ率いるグール達はやや苦戦していた。

『グールよっ! アンデッドから離れろ! 危険だぞ!』

「ここに居るアンデッドは味方だと何度言えば分かる!?」

『そうだ、味方だって言ってんだろ、ブチ殺すぞ!』


 それはジグラットが上空に留まっており、グールは攻撃しないがアンデッドであるボークスをアルダ勢力の神々の信者達と同様に攻撃しているからだ。

「うおおおおっ! 神罰を受けろ!」

 そして、この状況でもアミッド神聖国の聖戦軍はヴィダル魔帝国軍との戦いを止めようとしなかったのだ。


「やかましい!」

『現在進行形で、テメェ等が受けてるじゃねえか!』

「黙れ! あれは魔王の手先であって神じゃな――ぐはっ!?」

 聖戦軍はその狂信によって高い士気を誇るが、ヴィダル魔帝国軍のアンデッドやグールは、全員B級冒険者相当の精鋭だ。彼らにとって聖戦軍の兵士は、油断できない相手だ。しかし、油断しなければ倒すのは難しくない程度の相手なのだ。


「ぎゃあああああ!?」

『ぐおっ! やりやがったな、あの龍め!』

 しかし、聖戦軍にばかり注意を向けていると、ジグラットが降らせる雷やその余波を回避するのが遅れる。


『邪魔だ、グール達よ! アルダに従う者共とアンデッドは我が駆逐する! おお、ヴィダに栄光あれ!』

 そう叫びながら、ジグラットは更に雷を降らせる。その攻撃は正確で、グールやノーブルオークを避けて聖戦軍とアンデッドのみを狙っている。


 しかし、ジグラットの耳と頭は機能障害に陥っているらしい。

『あの野郎、なんで『猪の悪獣王』とその眷属を無視してこっちばかり攻撃してくるんだ? テメェ自身もだが、明らかにアルダ信者より放置したらヤバイだろうが』


 ジグラットはアルダとその信者達への憎悪とヴィダを讃える言葉を叫んでいるが、自分と同時に出現したボドドには全く反応していなかった。不自然なほど無視している。

 それに、ヴィガロが何度叫んでもアンデッドを攻撃するのを止めようとしない。声が聞こえないにしても、あれほど正確に目標を選別する目を持つなら、何か様子がおかしい事に気がついてもおかしくないだろうに。


『ジグラットも、グドゥラニスの魂の欠片に寄生されているという事でしょう。自分同士で争いたくないから、それ以外の敵にジグラットの意識を誘導し、俺達の言葉を聞かないようにしているのでしょう』

 ボークスの問いに、使い魔王が答えた。彼らは負傷したアンデッドに、アンデッド専用の治癒魔術である【治屍】をかけて回っていたのだ。


「それでは説得は無駄か。なら、身軽で実績のある奴らに制圧してきて欲しいところだが……」

 そうヴィガロが視線を向けた先では、『暴虐の嵐』のメンバーが聖戦軍に混じっていた『邪砕十五剣』のメンバーたちと激しい戦闘を繰り広げていた。


 とてもジグラットを取り押さえに行く余裕があるようには思えない。

『仕方ねぇ! ジーナ、ザンディア、あとヴィガロ! 俺達であのクソ龍を殺さない程度にぶっ殺すぞ!』

 それを見たボークスは、チャンス到来とばかりにパーティーメンバーとヴィガロに声をかけた。


『ボークス、ぶっ殺したらまずいんだよ!?』

『いいねっ、やってやろう!』

『ちょ、ジーナ!?』

 『小さき天才』ザンディアはボークスを宥めようとしたが、『癒しの聖女』ジーナは好戦的に笑いながら頷いた。

 どうやら、二人ともジグラットの電撃が当たってしまったらしい。


「むぅ、確かにこのままでは拙い。ビルデ、カチア、皆を任せるぞ!」

「「無理っ!」」

 早急にジグラットを取り押さえる必要があると判断したヴィガロが、指揮を任せようとした二人は即座にそう叫んで首を横に振った。


「無理? 何故だ?」

「なんで聞き返すの!? あたし、指揮なんて執った事ないよ!?」

「そうよ、あたしだってそんな経験もスキルもないんだよ!? ザディリスかバスディアを連れてきてよ!」

 そう二人はもっともな事を言うが、今は非常時である。


「二人とも他の場所で戦っている。お前達は、【御使い降魔】を使ってヴァンダルーの言う通り指揮をすれば、それでいい」

「あ、それなら」

「まあ、出来るかな。でも、【指揮】スキルの効果はつかないんじゃない?」


「スキルの問題ではない。信頼できる指揮官がいるだけで、違う……らしいぞ」

 それなら指揮官はヴァンダルーの分身である使い魔王でもいいのだが、実はヴァンダルーは後方指揮官に向いていない。最前線で戦う兵士よりも前に出て戦いたがるからだ。


 だが、【御使い降魔】ならヴァンダルーの分身は宿るだけで、主体はビルデやカチアだ。彼女達が前に出ない限り、ヴァンダルーの分身も前に出ない。


 そして、シュナイダー達は『邪砕十五剣』の面々、主に『四剣』、『斬影』のレオナルドと斬り結んでいた。

「どうした、動きが良くなってるじゃねぇか! アルダのご利益か!?」

「そんなところだ。そう言う貴様らこそ、短い間に腕を上げたな。おかげで、またメンバーが減っちまった」


 『十五剣』の『蟲軍』べベケット、『十一剣』の『王殺し』のスレイガー、『三剣』の『光速剣』のリッケルト、そして『五剣』の『五頭蛇』のエルヴィーン。彼らはヴァンダルーに倒されたため、『邪砕十五剣』は長らくメンバーが欠けていた。


 それを何とか今回の聖戦のためにメンバーを補充したのだが、『暴虐の嵐』との戦いでまた欠けてしまった。

 プロパガンダ用の大衆に顔を見せている『一剣』から『三剣』は、ここではなく教皇であるエイリークの護衛として彼の周りにいるが……少し前にジグラットの雷で一人倒されたので、結局数は元に戻ってしまった。


「はっ、随分人材が乏しいじゃねぇか! 教皇様の人望の無さの表れじゃねえのか!?」

 補充メンバーたちを瞬く間に倒したドルトンが言うと、禿頭の老人が怒りで茹でタコのように顔を赤くして魔術を乱打する。


「貴様っ! アルダの化身たる教皇様に何たる無礼を! 【水流波】!」

『許さぬっ! 【轟雷】!』

『死をもってその罪を贖え! 【疾風連斬】!』


「口数がマジで多い爺だな! そろそろ永遠に黙れ!」

 自分自身の口と、自らの意思通りに動く特殊なマジックアイテムの口が二つ、合計三つの口を操って魔術を同時に唱える事ができる『十四剣』の『一人魔術師団』ビョルソン。彼に集中しようとするドルトンに、『八剣』の頭からつま先まで漆黒のボディースーツに身を包んだ格闘士、『形無し』のノトルスが無言のまま殴りかかる。


「……」

 その攻撃は骨格の限界を無視して放たれるため、まさに変幻自在。ゴム人間と言うより、人型のゴムを相手にしているようだった。


「【熱線】!」

 そのノトルスに対して、光線状の熱を放つ魔術を放つドルトン。だが、ノトルスはなんと頭をへこませてそれを回避した。


「嘘だろ!? 脳が入ってねぇのか!?」

 驚愕のあまりそう叫ぶドルトンだったが、次の瞬間横幅が三分の一ほどになっていたノトルスの頭が形を変え、自分に向かって伸びてくると素早く飛びのいた。


 なんと、ノトルスは五体を一つずつ横にずらしていた。胴体の形を変え、左手と左足を両脚に、右足を右腕に、そして右腕を頭部に、頭部を左腕に擬態させていたのだ。

「お前本当に人間か!? ヴァンダルーでもそんな事しないぞ!」

 そう叫ぶドルトンだが、ノトルスは気にした様子もなく攻撃を続ける。


 だが、互角と言えるのはここまでで、残りの『七剣』と『九剣』、『十剣』、『十二剣』、『十三剣』でどうにかゾルコドリオとメルディン、リサーナを抑えようと奮闘している状態だ。


「……疲れるけど仕方ないか。全力を出すから、メルディンは私の前に出ないようにね!」

 だが、その脆い拮抗状態も終わりを迎えた。

「ええっ!? あれやるの!?」

 そう叫ぶメルディンが慌てて後ろに下がるのに合わせて、リサーナは自らを解放した。


 白い肌がピンク色の鱗に覆われ、先端の割れた舌が伸びる。そして、口から洩れる吐息は毒々しい色をしながら甘い香りを漂わせていた。

 ヴィダ派に転向した元魔王軍、『堕酔の邪神』ヂュリザーナピペとしての彼女の姿だ。


「また邪悪な神が現れたぞ!」

「魔王め、どこまでも狡猾な手を!」

「おの……れ……?」

 聖戦軍の騎士達が騒ぐが、リサーナが吐息を吹きかけるとそれだけで意識を失いバタバタと倒れていく。


 彼らも病毒対策には力を入れていたが、神が放つ毒には力不足だったようだ。


「どうする? これで形勢逆転だぜ」

 シュナイダーが言うように、それまで『邪砕十五剣』の内五人が守りに徹する事で何とか足止めできていたが、リサーナが邪神としての力を振るえば難しくなる。


「そうだな」

 レオナルドはそれを悔しそうな様子も見せず認めた。そして、ニヤリと口角を上げた。

「なら、俺も本気を出すしかないよなぁ。さあ、俺の最期だ! 付き合ってもらうぞ、『迅雷』のシュナイダー!」

 そう叫ぶ彼の顔に、不自然なほど盛り上がった血管が赤黒い線となって現れる。シュナイダーはそれを見て悟った。


「テメェもグドゥラニスの【欠片】を体に入れられたのか!」

「入れられた? 違うな、俺は自分の意思で【欠片】を入れたのさ!」

 そう叫ぶレオナルドの動きは、先ほどよりもさらに早く、そして力強くなっていた。


 その戦場に、一陣の風が吹いた。だが、それぞれ激しい攻防を繰り広げているため、聖戦軍はもちろんヴィダル魔帝国軍の面々も、その風が不自然だとは気が付かなかった。




 ナインロードの力で風に包まれて一気に境界山脈に出来た谷を抜け、『五色の刃』の面々はヴィダル魔帝国の領土に足を踏み入れた。

「ここが、境界山脈の内部か」

「思っていたよりも、普通の森ね」


 とはいえ、ここはタロスヘイムや他の都市国家からも離れた森の中だ。平時なら魔物退治や素材の採集を行っている探索者も、今は戦時であるため戦場か街にいる。魔物も、山脈が地響きをさせて動いたばかりであるため、異変を感じて逃げ去っている。


 だから、ハインツ達の周りは普通の森以上に静かになっていた。

『しばらくは私の風で包まれたままでいられます。今のうちに、奥まで進んでください』

 そこに、ナインロードの声が響いた。彼女は地上に降臨して『五色の刃』達の潜入に尽力し、今はデライザが装備している盾に宿っている。


「分かった。だが、遠く離れた戦場の音がここまで響いてきている。アルダが何をしたのか知らないか?」

 そうハインツが歩きだしながら質問した。彼はアルダが封印していた魔王軍残党の邪悪な神やヴィダ派の神々にグドゥラニスの魂の欠片を寄生させ、地上に放った事を知らなかった。


『僕は何も知らされていない』

『私もです』

 そしてアルダは、ベルウッドはもちろんナインロード、そして自らの従属神を含めた誰にも、この暴挙を事前に告げていなかったのだ。

 今頃アルダ勢力の神々は愕然としている事だろう。


『だが、何が起きたのかは推測する事ができる。聞きたいのなら、それを話すが……』

「教えてくれ、ベルウッド」

『アルダは、封印されていた邪悪な神を解き放ったのだと思う。多分、グドゥラニスの欠片を寄生させて暴走させ、その場から逃げず暴れるようにして』


 実際には邪悪な神どころか、『再生の女神』リュゼマゼラのようにヴィダ派の神々も利用しているし、寄生させたのはただの【魔王の欠片】ではなく、魂の欠片だった。だが、さすがにアルダがそこまでやるとはベルウッドも考えなかったらしい。


『それでどうしますか? 踵を返し、邪悪な神々と戦いますか?』

 ハインツはデライザの盾から発せられるナインロードの問いに対してしばし沈黙したが、再び歩き出した。

「このまま彼の本拠地へ向かおう。そこか、その途中で彼は現れるはずだ」




――――――――――――――――――――




〇魔物解説:デモニックオーク、デモニックボア ルチリアーノ著


 魔王グドゥラニスの魂の欠片を埋め込まれた事で、『猪の悪獣王』ボドドが作り出すことが出来るようになった魔物。それぞれデーモンではなく、デーモンの特徴を持つオークと猪系の魔物である。


 基本的にはノーブルオークより身体的にも魔力的にも強く、【高速再生】や【状態異常耐性】等のスキルを持ち、更に知能も高く好戦的。デーモンを思わせる角が生えていたり、青黒い肌をしている。

 ランクは最低でも8と強力だが、生まれたばかりだったので武術や魔術のスキルレベルが低かったため、ノーブルオーク軍の精鋭にとって強敵と言う程ではなかったようだ。


 肉は柔らかく、煮込み料理に向く。また、内臓は臭みが強く刺身には向かないが、味付け次第で独特の風味に変化し、人によってはクセになる味わいになる。


次話は9月18日に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルダのベルウッドへの異常な執着に対してこの人にも神にも関心の無さよ。 これアルダさんもしかしなくてもベルウッドに狂うほど恋してるんじゃないですかね・・・。
[良い点] 冷静なって考えたけど 世界管理している神(ナインロード)を 魂食える敵がいる戦場、しかも盾職の盾に宿らせるとか…狂ってね? ある意味人質戦法だよね 世界の管理をおろそかにされなければ魂食い…
[気になる点] >今も、ヴァンダルーの分身を体に降ろして情報を共有している。 降魔中の御使いダルーは降魔を解除しないとヴァンダルー本体と記憶の共有が出来ない(=降魔を解除しないと他の御使いダルーや使…
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