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三百七十六話 閉ざされたサウロン公爵領の未来

 山を消し飛ばすのはそう難しくないが、山を動かすのは……それも動かした後で様々な問題が起きないようにするのはやや難しい。

 それが単一の山ではなく、山脈ならその難易度も跳ね上がる。


「しっかり準備してきてよかった。俺だけだったら、途中で孤独と疲労感で辛い作業になっていたでしょう」

 杖を片手にしみじみとそう言ったヴァンダルーに、彼を荷台に乗せているサムは言い返した。

『たしかに砦の兵士や冒険者等に国境沿いに通達するよう、冒険者ギルドやサウロン公爵領の軍に話を通して三日ほど待ちましたが、坊ちゃんがした準備は一時間ほどで終わったような気がしますが?』


「しっかりとした準備が一時間でできただけですよ。それにサム、こうして乗っている事も含めて『俺だけだったら途中でばてていた』という事です」

 ヴァンダルーの魔力は、無尽蔵に果てしなく近い。しかも、魔力を使う瞬間でも【魔力常時超回復】スキルの効果によって、大量に回復し続けている。


 しかし、本当に無限ではない。一人でゴーレム化させた山脈を動かし、広範囲の地面に強固で分厚い岩盤を創り、さらには地下水脈まで調整するとなると至難の業だ。

 さらに自力で【飛行】し、山脈やその上空から飛び出してくる魔物が逃げ散らないよう駆除するなんて、考えたくもない。


 ……もしかしたら可能かもしれないが、そんな孤独で辛い作業に挑戦するつもりはヴァンダルーにはなかった。

『はっはっは、そう言っていただけると光栄ですな! しかし、この光景を何も知らない者が見たら誤解する事間違いなしですぞ』

 ヴァンダルーの周りには、タレアとカチア、プリベルにギザニア、ミューゼ、そしてユーマがどこか気怠そうな様子で侍っていた。


 たしかに事情を何も知らない者が見たら、情事の後か美女を侍らせているように見えるだろう。彼女達が揃って肩が見える服装をしている事もその印象を強めている。

「サムさんの荷台の中を、事情を知らない人が見るなんてことはないから、私達を好きなだけ侍らせて大丈夫よ。ねえ、ヴァン」


「然り。偉大なるヴァンダルーが気にする事は何もない」

 そして、【メタモル】にして【ブラックマリア】のマリと『迷宮の邪神』グファドガーンもヴァンダルーの後ろに控えていた。


「いかがわしい事は本当にしていないのですが」

「そうですわ、ヴァン様」

 タレアが抱き着きながら、そうヴァンダルーの耳元で甘く囁く。


「だから……私の事をもっと吸って、私に食べさせてくださいませ」

「タレア……これ以上血を吸うと貧血で倒れますよ? 後、いくら俺の一部を食べても体力と血が回復するまでには多少の時間がかかります」

 ヴァンダルーは本当に如何わしい事はしていない。ただ魔力を回復させて能力値を強化する【統血】スキルを使うために、タレア達の血を飲んだだけ。そして、タレアたちが早く回復するよう自分の一部を食べさせているだけだ。


 食べさせているのは、ヴァンダルーの血から創られるブラッドポーションを改良したものだ。彼が【装魔界術】に変化した【装植術】で生やした薬草やキノコと【魔王の骨髄】で作った高濃度の【魔王の血】を合わせ、【魔王の卵管】から卵の形にした物で、仮にブラッドエッグと名付けている。


 見た目はゼリー状の物質に包まれた赤黒い球体……巨大なカエルの卵で、味はブラッドポーションを煮詰めたような濃厚さで慣れないとややきつい。……あと、導かれていない者が口にすると肉体に急激な変異が起きる可能性が高いという劇物である。


 しかし、既に導かれている者が口にする分には効き目の強い栄養剤と回復薬でしかない。しかし、単に傷を治すだけではなく造血を促して失った分の血を取り戻すには、若干の時間が必要だ。

 なお、ヴァンダルー自身もブラッドエッグと使い魔王の欠片を摘まんでいる。【能力値増強:共食い】と、【自己再生:共食い】のスキルの発動条件を満たすためだが、これがいわゆるオートファジー、自食というものかもしれない。


「なら、ボクの血を吸ってよ! この中じゃ体積は一、二を争うぐらいあるから、血もまだまだあるはずだよ!」

「た、体積なら拙者も負けてはいないぞ! それに生命力にも自信がある!」

 タレアに代わって前に出たのは、プリベルとギザニアだった。スキュラオリジンであるプリベルの下半身は先端がドラゴンの頭になっているタコの触手で、ギザニアの下半身は蜘蛛である。上半身は女性のものだが、下半身を含めればたしかに平均的な女性数人分の体積がありそうだ。


「最初にその体積を参考に失っても問題ない血の量を計って吸ったので、ダメです。体積が多いという事は、必要な血の量も多いという事を自覚してください」

 しかし、ヴァンダルーはそのあたりも計算して血を吸ったらしい。もちろん、実際には不測の事態を避けるために必要最低限な量からかなり余裕を持たせている。


 限界ギリギリまで吸っているように偽っているのは、彼女らの健康を気遣った結果である。

「そうでござるな。某はまだ倦怠感が抜けないのでゆっくり休ませていただくでござるよ」

「うんうん、まだちょっと怠いから仕方ないわよね」

 そう言いながらミューゼとカチアが、タレアとは逆側からヴァンダルーにもたれかかった。


「そんなにきついなら、ベルモンド達と交代する? ねえ、グファドガーン」

「偉大なるヴァンダルーのため、すぐにでも【転移門】を開こう」

「「いやいや、大丈夫だからお気遣いなく!」」

 しかし、マリとグファドガーンがそう言うと二人とも急に元気になって首を横に振った。


 彼女達がここに居るのはもちろんヴァンダルーが血を吸うためだが、それなら【供物】のユニークスキルを持つベルモンドや、元々再生能力が高いエレオノーラ、そしてヴィダの化身であるダルシアが適任だ。そして当初は、彼女達がサムの荷台に乗り込むはずだった。


 しかし、それにタレアが異議を唱えたのだ。

 ベルモンド達だけズルい、たまには自分達の血も飲んでほしい。それに、ダルシア達には地上でカナコ達と一緒にやる事があるはずだと。


 その主張にダルシアが「それもそうね。じゃあ、ヴァンダルーをお願いね」とあっさり譲った事で、タレア達がここに居るのである。

「俺としてはうれしいですが、タレアはグールの皆を纏めなくていいのですか? プリベルもスキュラの人達を指揮するとかあるのでは?」

 だが、タレアは元々グールの長の一人で、プリベルはスキュラ族の長老の娘。ギザニアやユーマも、それぞれの種族の国の姫だ。


「良いのですわ、ヴァン様」

 しかし、ヴァンダルーの傍で侍っていて問題ないようだ。

「人間社会では私の事を知る者はほとんどいませんもの。それにザディリスさんやバスディアがいれば、グールの代表としては十分ですわ」


 変身装具等のアーティファクトを創る手伝いなど、タレアは普段から重要な役割を果たしている。それだけに人間社会で存在をアピールするのは危険なので、タレアはカナコのステージに人間社会ではほとんど立っていない。

 そのため、彼女とは逆に人間社会でも存在を知られたザディリスとバスディアがいればヴィダの新種族としてのグールの象徴や纏め役は十分だと考えたのだろう。


「私も同じ理由。そもそも私はそんな大した立場じゃないし、ヴァンにキスしてもらいたかったし」

「カチア、たしかに口をつけていますがキスではなく吸血です。強くは否定できませんが。

 プリベルはどうですか?」


「ボクも問題ないよ。皆の纏め役は母さんがしてくれてるし……その母さんが、ヴァン君の近くにいる方が重要だからって」

 そしてプリベルは、サウロン公爵領では母親であるペリベールが現役の長である事と、その母がこちらの方が重要だと判断したためここに居るらしい。


 実際、山脈を動かしているヴァンダルーの補助の方が重要と言えばその通りではあるが。


「私……俺の国は今回参加していないから、ここに居ていいだろ?」

「拙者も同じく」

「某もでござる。それに一説によると、忍びとは目立ってはいけないらしいでござるし。あと、某は姫ではないでござるし」


 そして鬼人国の王の一人娘であるユーマに、ザナルパドナの姫であるギザニアと、姫ではないが今ではエンプーサの中で最も腕利きとなったミューゼがそう口々に言う。


「それはもちろんですが、血が回復するまでは吸血しません」

 そう言って、使い魔王の残骸の一部である節足の欠片を口に入れて噛み砕く。口の中に広がる自分の肉の味。……やはり美味いとは思えない。


(やはり何故皆が食べたがるのか分からない。ポーションやクリームとしての効果があるならともかく、これは本当にただの残骸ですし。

 もっとも、自分自身の一部だからそう感じるだけだと思いますが)


 自分の血を吸って過ごしている吸血鬼がいるという話は聞かないので、そういう事だろうとヴァンダルーは納得した。

「ところでヴァン、追加の使い魔王を作らなくていいの?」

 そうマリに問われて、ヴァンダルーは思考を切り替えた。


『今のところは十分だと思いますよ』

 そうマリに応えたのはヴァンダルー本人ではない。彼の分身である使い魔王……節足の一本もついていない、巨大な脳だけの使い魔王である。


 これは魔術の制御を補助するためにヴァンダルーが創った、脳型使い魔王である。なお、大脳の内部に存在を維持するための内臓や魔力を発生させる宝珠等が詰め込まれている。

 普通なら魔物でも高さ二メートル強の脳なんて自重で自壊しそうだが、【魔王の脳】なので豆腐よりもずっと硬く強靭である。

 しかし、乗っているのが安定性抜群のサムでなければ硬い殻に包むなどして、魔力を余計に消費していただろう。


 その脳型使い魔王とヴァンダルー本体を接続する事で、処理能力を上げているのである。機械の代わりに脳を繋いだスーパーコンピューターと言える。


 そして、使い魔王は他にも作っている。サムの周りを何十匹と飛んでいる、直径一メートルほどの眼球に翼や羽だけが生えた視覚補助用の使い魔王だ。

 これで魔物が逃げていないか、山脈に崩れた個所はないか、地面に陥没している場所や逆に隆起している場所はないか確かめているのだ。


 これはサムの周り以外にも、旧スキュラ自治区から山脈を設置する場所の予定地、そして最終的に山脈をくっつけるバーンガイア大陸の北を海から隔てている岩山地帯の上空に、数え切れない程飛んでいる。

『パパ、食べていい?』

 そして、バクナワのおやつ用の使い魔王だ。これは必要な使い魔王をバクナワに食べられるのを防ぐために、必要不可欠な使い魔王である。


 ちなみに、バクナワが好きな使い魔王は、眼球と脳が大きな使い魔王である。眼球は口の中で弾けるのが、脳は舌の上で蕩けるクリーミーさが好きなのだという。


『おやつ用の使い魔王なら食べていいですよ』

『さあ、そっちの俺ではなくこっちの俺を食べなさい』

『でも、魔物も食べてくれると助かります』


『うん、でもここの魔物、そんなに強くなくて味が薄くて歯ごたえがないよ』

 どうやら魔大陸や魔王の大陸の魔物と違い、境界山脈の魔物は口に合わないようだ。魔大陸などにもランクの低い……とは言っても並みの冒険者では倒すのもやっとだが……魔物はいるので、おそらく魔境を汚染した魔素の濃度が関係しているのだろう。


 なお、バクナワが魔物を食べない間は、ピートが頑張って魔物を喰い殺している。元々ランクの高い魔物は少ないため、大物は【龍神喰い】スキルを持つピートがいれば十分だった。

 ではなぜバクナワがここに居るのかというと、それはバクナワ自身が『お姉ちゃんの手伝いがしたい』と言い出したからだ。


 子供は親や年上の兄弟の手伝いをしたがるものだ。バクナワが早くもその成長過程に進んだのだと思ったヴァンダルーに、躊躇いはなかった。……バクナワを見る事になるだろう、サウロン公爵領の国境沿いの砦に詰めている将兵達の精神がどうなるか一瞬気になったが。しかし、「遠目に見るだけなら、きっと大丈夫なはず」と思い直すことにした。


 それにバクナワは人間にはともかく、アルダ勢力の神々にはボティンを解放する時の戦いで姿と力を見られている事と、バクナワ自身も強く自衛が可能であるのも大きな判断材料だった。

 なお、アルダ勢力に存在を知られておらずまだ戦えないアラディアは母であるディアナと留守番である。


『ギシャアアアアア!』

 そして、バクナワが食欲の矛先を魔物から使い魔王へ変えても、ピートがその分食べている。

 ランクアップして神鋼轟雷百足冥獣王になったピートの全長は百メートルを優に超える巨体になり、神々しい……もしくは禍々しい雰囲気を放っている。


 ピートが神鋼轟雷百足冥獣王になった時、ピート本人以外は大いに驚いた。獣王とは亜神であり、本来は『獣神』ガンパプリオが生み出した獣の王達の事を意味する。その獣王に魔物がランクアップによって至るとは、ルチリアーノやグファドガーン、そして『水と知識の女神』ペリアも考えた事もない新事実だった。


 種族名に獣王とあるだけで、実際に獣王になった訳ではないのではないかとも考えられたが、習得した【眷属強化】スキルの対象に魔物ではない普通の百足も入っているようなので、本当に『百足の獣王』になっていると思われた。


 そして魔大陸にいる『鳥の獣王』ラファズに、魔物が獣王になる事があり得るのか尋ねてみたら、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。どうやら、聞いたこともなければ考えた事もなかったらしい。

 ラファズによれば、新しい獣王が誕生する事はあり得る。しかしそれは、先代の獣王が何らかの要因で死んだ後、その獣王の子が引き継ぐ形で獣王となるそうだ。


 だから元々存在しなかった蟲の獣王が、しかも魔物から誕生するとは夢にも思わなかったそうだ。ただ魔大陸に籠っていた自分が知らないだけで、この世界のどこかでは魔物から獣王や真なる巨人、龍になる場合もあったのかもしれない。


 ラファズはヴァンダルーを見つめながら、そう述べた。……ダンピールが生きたまま神に至ったうえに【魔王の欠片】を吸収してグドゥラニスから奪うなんて事も起きたのだから、魔物が獣王になるくらい十分あり得ると考えたのかもしれない。


「どうしましたの、ヴァン様?」

「いえ、これからピートのようにランクアップして獣王や龍になる仲間も出てくるのかなと思っただけです。どんな理由で魔物から獣王になれるのか、まだわかりませんが」

 タレアにそう答えると、誰も否定しなかった。


「異世界から転生した偉大なるヴァンダルーがこの世界の地に足をつけ、偉業を為している。なら、偉大なるヴァンダルーに仕える者がそれに続くのは当然かと」

 むしろ、グファドガーンはヴァンダルー自身にはよく分からない理由で積極的に同意した。


「ピートって、獣王じゃなくて冥獣王っていう獣王に似た何かになっているだけだったりして。ヴァンダルーの血を繰り返し飲んだ人も、冥系人種に変化するし」

「……あり得ますね」

 カチアの意見に思わず目が遠くなるヴァンダルーだったが、反論が全く思いつかなかった。


「タダノがネズミの獣王になるのか?」

「それならマロル達の方が先だと思うよ。ボクとしては、同じ触腕仲間のタマとギョクを応援したいね」

「ヤマタとラピエサージュも何かになりそうでござるな」

 ユーマ達は口々に新獣王候補をあげた。


『主!』

 そこに頭蓋骨だけの骨人が飛んで来た。

『おや、どうしました? 地上で何かトラブルでも?』

『ヂュウ! 山脈から溢れ出てくる魔物の数は思いのほか少ないため、順調に進んでいます。……国境沿いの砦や城塞都市の兵士や住民が奇行に走り、それを落ち着かせるためにダルシア様達が飛び回っていますが』


 どうやら地上はあふれ出た魔物ではなく、動く山脈やバクナワとピートを目にした人々によってやや大変なことになっているようだ。

「骨人、奇行とは?」

『はっ! 泣き叫びながら神に慈悲を求めていたようです!』

 どうやらこの世の終わりか何かのように思われたようだ。

 これはまずいかもしれない。一旦作業を止めるべきだろうか? そう考えたヴァンダルーだったが、既に人々はパニックから立ち直っているようだ。


『しかし、ヴィダやボティン、ペリアが神託を発したようで、ダルシア様達が行く前に混乱が鎮まった都市や砦もあり、既に解決したかと』

 複雑な内容を正確に伝えるには優秀な才能を持つ限られた聖職者が必要になるが、『落ち着け』と伝えるだけなら必要な条件はそう難しくはない。


 後は、神託を受けた各地の聖職者が普段から培った人望をフル活用して人々を落ち着かせてくれる。

「なんだか悪い事をしたような気がしますが、これでアミッド神聖国との戦争で矢面に立たなくて済むようになるので、それで許してもらえるといいな?と思います」


「なんで疑問形? 戦争は起きない方がいいんじゃないの?」

「カチア、戦争がなくなると軍縮……軍に配分される予算が下がるので、国境沿いの砦や城塞都市には良い事とは言えないのです」


 国境が敵国と接していたからこそ、国境近くに砦をいくつも構え、その砦に勤める将兵の家族が暮らし、砦に必要な物資を届けるための中継地点として城塞都市が築かれ、維持されてきたのだ。

 その敵国と高い山脈で隔てられるようになったら、ただの金食い虫に成り下がりかねない。


「しばらくは山脈の魔境から魔物が暴走しないよう魔物を間引く冒険者の拠点や、魔物が万が一暴走した時の防衛拠点として残ると思いますけど」

「そういえば、ここって他の公爵領から『対アミッド帝国の最前線だから』って言う理由で援助してもらってたけど、それも無くなるんじゃない?」


「プリベル、その分はうちの国との貿易で利益を出してもらえば大丈夫です。大丈夫じゃなくなった場合は、俺がポケットマネーを出して大丈夫なようにします」

「……もういっそ併合したほうがいいのでは?」


 プリベルがサウロン公爵領の将来の暗さを指摘するが、ヴァンダルーという強力な後ろ盾に憑かれたエリザベスが治める限り、強制的に明るくされるようだ。……そう、エリザベスは後ろ盾を得たのではない。憑かれているのである。

 憑かれているので、エリザベスの意志でやめてもらう事はできないのだ。


『それで主よ、報告したい事が二つ。まず一つ、私がランクアップしてランク15の冥帝神の骸骨騎士となりました!』

 そして骨人の報告は、先ほどのヴァンダルーの予想を裏付けるものだった。

 冥帝神の骸骨騎士。今までの骨人の種族と比べると、かなり異なる名称だ。亜神とは違うが、全く異なるとは思えない。


「種族名から考えると、冥帝神に仕える騎士という事なのでしょうが、その冥帝神とは………………きっと多分おそらくは、俺の事を指しているのでしょうね」

 冥帝神が何者なのか、ヴァンダルーはできれば自分だとは認めたくなかった。しかし、「その冥帝神とは誰なのでしょうね」と言いかけた瞬間、骨人が『ぢゅおおおお! 主よ、私が主以外に仕えるとお思いか!?』と泣きわめきだす未来が予想された。


 ので、かなり渋々だが認める事にした。

『おおっ、ありがとうございます、主よ! もし自分は冥帝神ではないと言われたらどうしようかと、不安で不安で!』

 どうやら予想は当たっていたらしい。


「あのヴァン様が自分から認めるなんて……成長しましたのね。あまり姿が変わらないので、つい昔のままかと思っていましたけど」

「タレア、身長が伸びないのは種族的な問題です。これから百年から二百年ぐらいかけて、二メートル強まで伸びる予定なのです」


 なお、二メートル強というのはヴァンダルーの理想の自己身長であるだけで、特に何の根拠もない。


「それで、報告したいもう一つの事とは?」

『ぢゅっ! 国境沿いの砦や城塞都市、村では人々が主を神として崇めています』

「え、何故?」

 ヴァンダルーは骨人の報告に、思わず聞き返していた。何故なら、本気で心当たりがなかったからだ。


「まあ……そうなりますわよね」

「むしろ、そうならないとおかしいっていうか……」

「もしかしたら、ヴァンは気が付いていないのではないかと思っていたが、やはりか」

「拙者はてっきり、最初から覚悟の上だったのかと」

 しかし、タレア達は最初からこうなる事を予想していたようだ。


「タレア、皆、もしや未来を予知していたと?」

「いや、そうではないでござる。自分のしている事を顧みるでござるよ」

「俺がしている事を? ミューゼ、俺は山脈の形を変えてサウロン公爵領とミルグ盾国の国境を隔てているだけですよ」


「主にそれが理由だと思う」

 マリの言葉に、ヴァンダルーは思わず周囲を見回すが、首を何周させてもマリに同意する者ばかりだった。

 ヴァンダルーとしては、山脈を動かすのは大事業ではあっても自分が魔力を振り絞れば可能な事でしかなかった。かつて、タレアやカチア、ザディリス達グールと共に境界山脈を越える時に崖の形を変えて登りやすくした。そしてハートナー公爵領に潜入した時は、崩落していた山脈内部を通るトンネルを直した。

 山脈を動かすのは、その延長線上にある行為としか思っていなかったのだ。


 こうしてみんなの協力を得ているし、それなりに凄い事だとは思っていた。だが、まさか尊敬を通り越して神として信仰されるほどの大偉業だとは本当に思っていなかったのだ。


(このままでは山脈を動かした神として、国境沿いだけでなくサウロン公爵領全土から信仰されてしまう。助けてください、ボルガドン)

 ヴァンダルーは咄嗟に、サウロン公爵領の隣で信仰されている『山の神』ボルガドンに救いを求めた。しかし、何故か脳裏に『え、無理無理、今からじゃとても辻褄を合わせられない』と首を横に振るボルガドンの姿がよぎったので、諦める事にする。


 急遽開かれた脳内会議で、多くの人が姿を見ているはずのバクナワの功績にするという案が出るが、それをすると山脈を動かしたことで何かトラブルが発生した場合、矛先が彼に向かってしまう。それに、幼い我が子を身代わりにするなど、人として最低の行為であるので却下。


 結果……功績を分散させることで人々の信仰が自分以外にも向くことを期待する事にした。

「とりあえず、新しくできた山脈の部分は、『アーク山脈』と名付けましょう。そして、リクレント神殿とズルワーン神殿、あとボティン神殿を建立。湧き水か温泉を発生させ、そこにペリア神殿を中心とした温泉街『ソルダ』を造る政策を、エリザベス様に頼み込みましょう」


 こうして、サウロン公爵領の経済復興策が始動したのだった。


「ヴァン、そういえば、血とその他諸々を分けた姉妹を創っていい? 体が欲しいから協力してって言われているんだけど」

「マリが信頼できると思った人ならいいですよ。……というか、そんなことできるんですか?」

「分からないから、まあ、やってみようかなって思って。大丈夫、とても信頼できる人だから」




 なお、その頃、ミルグ盾国側では、サウロン公爵領側の国境沿いよりも大きなパニックが起きていた。

 事態を前もって知っていた神はおらず、聖職者達も今すぐ逃げろと言うべきか落ち着かせるべきか分からず、人々はうめき声のような音を響かせて動く山脈と、上空を飛ぶ巨大な龍と百足の姿に恐れ戦いていた。


 そして、ミルグ盾国自慢の堅牢な砦は、境界山脈から『アーク山脈』と名を変えた山脈から溢れ出た魔物への対処に追われる事になった。

 準備を万端に整えた強力なグールやスキュラ、デーモンやアンデッドの軍勢にとっては少ない数でも、不意を突かれたミルグ盾国軍にとっては少ないとはとても言えない数だったのだ。


 そしてアルダ勢力側の神々は、ミルグ盾国の聖職者に『これが魔王の力の一端である』と神託を出した後は、事態の推移を見守るに留めた。

 アミッド神聖国の人々にとってはともかく、アルダ勢力の神々にとって倒すべきなのはオルバウム選王国ではなくヴァンダルーと彼が支配するヴィダル魔帝国だ。


 サウロン公爵領への道を山脈で遮られるのは、厄介ではある。しかし少なくとも、今から戦力をかき集めて決死の覚悟で防がなければならない局面ではない。

 なら、アミッド神聖国の敵が何者なのか知らしめるために利用するべきだとアルダ達は考えたのだ。


 結果、ヴァンダルーにアミッド神聖国の勢力下で暮らす人々の恐怖と畏怖が向けられることになるが、それでアミッド神聖国が纏まるのなら構わないとアルダは考えていた。

 アルダ達はヴァンダルーについて、魔王を吸収した異世界からの転生者で、彼が治める魔帝国やオルバウム選王国では神として信仰する者もいるようだが、実際に本当の神になった訳ではないと考えていたからだ。




《【魔力常時超回復】、【魔力回復速度超上昇】、【能力値増強:被信仰】、【杖装備時魔術力増強】、【統血】、【ゴーレム創世】、【能力値増強:共食い】、【自己再生:共食い】スキルのレベルが上がりました!》




――――――――――――――――――




・名前:骨人

・ランク:15

・種族:冥帝神の骸骨騎士

・レベル:55

・二つ名:【轟炎殺し】


・パッシブスキル

闇視

剛力:7Lv(UP!)

能力値増強:忠誠:8Lv(UP!)

霊体:10Lv

能力値強化:騎乗:8Lv

自己超強化:創造主:3Lv(自己強化:創造主から覚醒&UP!)

自己超強化:導き:2Lv(自己強化:導きから覚醒&UP!)

物理耐性:6Lv(UP!)

殺業回復:7Lv(UP!)

能力値強化:君臨:6Lv(UP!)

身体強化:骨:10Lv(UP!)

眷属強化:3Lv(NEW!)

能力値強化:主命:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

虚骨剣術:8Lv(UP!)

盾骨術:2Lv(UP!)

弓術:10Lv(UP!)

忍び足:4Lv

連携:10Lv

指揮:8Lv(UP!)

鎧骨術:3Lv(UP!)

騎乗:7Lv

遠隔操作:10Lv

恐怖のオーラ:9Lv(UP!)

並列思考:8Lv(UP!)

限界超越:2Lv(限界突破から覚醒&UP!)

御使い降魔:5Lv(UP!)

魔剣限界突破:5Lv(UP!)


・ユニークスキル

骨刃

ゼルクスの加護

ヴァンダルーの加護

ロージェフィフィの加護


次の話は6月26日に投稿する予定です。


6月22日に拙作のコミックス版4巻が発売予定です! また、6月24日にコミカライズ版ニコニコ静画とコミックウォーカーで次話が投稿される予定です。

よろしければご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ヴァンダルーの魔力は、無尽蔵に果てしなく近い。しかも、魔力を使う瞬間でも【魔力常時超回復】と【魔力回復速度超上昇】スキルの効果によって、大量に回復し続けている。 また1話から読み返…
[一言] ・姉妹予定 人違いでしたか、これはお恥ずかしい ひとまず大人しく正解発表を待ちまする それはそれとして 『影の神』ハムルは既に指摘されてますが、それと『闇夜の女神』ゼルゼリアも 忍者の守護…
[良い点] ステータス運営神達がとうとうヴァンダルーの外堀を埋める作業に着手し始めたようですね。 『ランクの神』は今までヴァンダルーのステータスに関与出来ませんでしたが、今後は今回の骨人のように、間接…
感想一覧
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