三百七十五話 山が文字通り動く時
ヴァンダルーはサウロン公爵領に対する対応を、いくつか想定して用意していた。しかし、それを決める要因はエリザベスがサウロン公爵領を望むか、望まないかである。
望むとは、サウロン公爵領を守りたいとか、無事でいてほしいとか、そうした事をエリザベスが願っている事を意味する。望まないとは、「どうなっても構わない」と無関心だった場合だ。
仮に望まない場合だったとしても、ヴァンダルー達はサウロン公爵領を積極的に滅ぼすような事や、破滅するよう誘導する事はしない。当然だ。ヴァンダルーは愛を是とするヴィダ信者なのだから、罪もない人々を故意に追い詰め踏みにじるようなことはしない。
旧スキュラ自治区を完全に隔離した後は、他の公爵領と同様にカナコ達のライブ活動やダルシアの訪問、ヴァンダルー自身も徘徊して人々を導くだけだっただろう。他の公爵領と違い、サウロン公爵領は敵国であるアミッド神聖国の属国、ミルグ盾国と国境を接しているという事情を無視して。
その後、ミルグ盾国からアミッド神聖国の軍勢が攻め込んで来て戦争になっても、普通の対応しかしない。オルバウム選王国から援助を要請されれば同盟国として動く。普通の同盟国と同じ程度には物資を援助しよう、冒険者ギルドを通して援軍も手配しよう。しかし、それだけだ。
クノッヘンを移動要塞として派遣したり、ボークスやヴィガロが前線で暴れまわったり、サムが物資輸送で活躍する事はない。
もちろん、導いた人々を助けるために手を尽くすし、アミッド神聖国に占領された領土を奪還するのにも力を貸す。だが、その時にはサウロン公爵領政府は壊滅しているはずだ。
『解放の姫騎士』のイリス達レジスタンスを切り捨てたルデル・サウロン達に、ヴァンダルーは価値を感じていない。【転移門】を開くことができるグファドガーンや、空を往くクワトロ号やサムを従えている彼にとって、アミッド神聖国……『法命神』アルダとその英雄であるハインツと殺しあうのに、サウロン公爵領は必要ではないのだ。
仲間の中にはカシム達サウロン公爵領出身の者もいるが、彼らの故郷である村はアミッド帝国が攻め込んできたときに滅ぼされていて残っていない。
イリスやレジスタンスの面々の帰るべき故郷も、サウロン公爵領には残っていない。
それでもルデル・サウロン達を今まで殺さなかったのは、殺す価値を感じなかったから。そして殺す理由も思いつかなかったからである。
それにイリスやエリザベスがルデル達の死を望んでいないのに自分が必要もなく彼を殺すのは、何か違う気がした。
アミッド神聖国側としても、サウロン公爵領を攻め落としたとしても境界山脈で隔たれたヴィダル魔帝国に攻め込めるわけではないので放置される可能性もある。ただ、ヴィダ信者が多いのでヴァンダルー達が救援のため戦力を分断するかもしれないと、結局攻め込まれていたかもしれないが。
この考えに、ダルシア達は誰一人反対しなかった。それはアミッド神聖国の兵が一般人に対する虐殺を始めれば結局止めるだろうというヴァンダルーに対する信頼と、アミッド神聖国がどれほどの戦力をサウロン公爵領侵攻に割くとしても、ヴァンダルーとアルダとの戦いに決着が付けば戦争はすぐに終わるはずだという予想があるからだ。
それと同時に、一般人が虐殺されずに多少の血が流れる程度なら、そして戦争になっても短期間なら構わないと思っていることを意味する。
こうした考えがある事を、ヴァンダルーはエリザベスにギリギリまで教えなかった。それは、エリザベスの下す判断が彼女にとって重要であるが故に、その判断に余人からの無用な影響を与えるのを避けるためだった。
ヴァンダルーとしては、エリザベスに宿命があるとは思っていない。彼女が公爵になるべきだとも感じていない。ただただ安穏に生きるのが一番だとも、考えていない。
エリザベス自身が望むように生きる事を、ただただ望んでいる。それはマヘリアも、ゾーナも、マクトやユーゼフやトーラスに対しても同様だ。
しかし、エリザベスは実に彼女らしく公爵になる事を選んだ。卒業式が終わっても「卒業したくない」と弱音を吐いていたが、本心ではサウロン公爵になる事を選んでいたはずである。
その証拠に、「公爵になりたくない」とは言わなかった。言えば、ヴァンダルーがどうにかしてしまえる事を……それこそルデルを洗脳して操り人形にすることや、ヴィーダルを傀儡にする事も可能である事を知っているというのに。
なので、ヴァンダルーは、彼女の後押しをするためにあの場で打ち明けたのだ。
そしてヴァンダルーは今、サウロン公爵領の城にいた。「重要な話があるので、この時刻には居ろ」という友好国の為政者にあるまじきアポイントメントを取り、数名の部下を連れて城の会議室を占拠してルデルやその側近を逃げないよう拘束したのである。
「アミッド神聖国やその属国に潜り込ませている密偵がいたら、至急呼び戻してください」
「と、突然何を!?」
「待ってくれっ! 話が見えない!」
両手は自由だが足環を嵌められ逃げる事が出来ないルデル達は、要求を突き付けられ困惑し恐怖した。
「そもそも私は、公爵位から降りたはずだ!」
「これからは文官としてエリザベス様を支えてください。生死は問いませんが、どうします?」
「生きたまま仕えさせていただきます!」
「私も生きたままで!」
「儂も是非生きたままで!」
断ったらアンデッドにされる。そう直感したルデル達は、我先にと文官に再就職して仕える意思を示した。なお、エリザベスには当然彼らとは別に裏切らないアンデッドの文官を派遣する予定である。今では顔を完全に変えた、生前宰相を務めていたアンデッド等を。
「たしかに密偵は派遣していますが、全員を帰還させると……彼らが構築した偽の身分や情報網に影響が出ます。それによって工作員である事がばれ、命が危険になる可能性も……」
ルデルの元側近で諜報担当の貴族がそう言って渋るが、副将軍のクルトが彼の声を遮った。
「それだが、陛下がサウロン公爵領とアミッド神聖国の国境を完全封鎖するから、今のうちに帰還させたいらしい」
「……は?」
国境の封鎖。それはこの世界の環境と、人類が持ちえる技術では現実的ではない。
一口に国境と言っても広い。平原ばかりではなく川や森、山の中に引かれた国境線もあるし、何より危険な魔物の巣窟である魔境も存在する。
砦や街道に置かれた関所を封鎖する事はできる。しかし、国境全体を隔てる壁を建設し監視の兵を配置するのは現実的ではない。
だからルデルと元諜報組織担当の貴族は自分が聞き間違えたのだと思った。
「いや、国境の警備をより厳重にして封鎖した程度なら、密偵や工作員達だけが知っている抜け道があります。問題にはならないはずです」
「違法に密貿易を行っている連中ならともかく、我が公爵領の諜報組織に属する者達は国境の警備が厳しい時期でも出入りできるよう、訓練と準備を欠かしていませんので」
そう言ったのは諜報組織の長と彼に近しい貴族だったが、事は彼らの想定を大きく超えていた。
「だから、境界山脈の形を変えて国境を完全封鎖するそうだ。A級以上の冒険者なら行き来できるかもしれないが、そこまで腕の立つ密偵や工作員はいないだろう?」
国境の完全封鎖とは、文字通りの意味だった。
「時間がかかる場合は、私が【転移門】を開く。現在位置と連絡を取るための合言葉や符丁を教えてもらおう」
そしてグファドガーンがいる事から分かるように、ヴァンダルーは長い時間をかけるつもりはなかった。
大地が震え、唸り声をあげているのを眺めて、『接吻』の二つ名で知られる吸血鬼であり現在では飢狼警備会社の社長であるマイルズ・ルージュは、かつて自分が言っていた言葉を思い出していた。
ボスなら、境界山脈も動かせるようになる。彼は確信をもってそう言った。
「あの時も別に冗談を言っているつもりはなかったし、それどころか本気だったけど……実際に山脈を動かしているところを見ると背筋がゾクゾクするわね」
マイルズの視線の先では、境界山脈の一部が動いていた。まるで巨大な蛇のように蠢き、ゆっくりとだが南から北へと進んでいく。
その標高は数千メートル。離れているため全体像を見る事ができるが、もし近くだったら感慨に耽る余裕もなく逃げ出さなければならなかっただろう。
実際、山脈の上空では何かが飛び回っている。距離があるため確証はないが、おそらくワイバーンやハリケーンドラゴンだろう。
境界山脈は魔境で埋め尽くされている。それは山脈に隔てられた土地だけではなく、山脈そのものも当てはまる。その山脈が急に動きだした事に魔物達は驚き、狂乱しているはずだ。並みの冒険者や騎士が巻き込まれたら、ひとたまりもないだろう。
しかし、バクナワとピート、そしてサムに乗ったヴァンダルーがいるので、迂闊に飛び回っている魔物は次々に食われていく。
ちなみに、空中ではなく地上へ逃げ散ろうとする魔物達に対してはサウロン公爵領へライブに来ていたミリアム達が率いるカシムやヘンドリクセン達の戦力が国境線沿いの各地へ配置済みだ。大量のデーモンやアンデッド、さらにはプリベル達スキュラも加わっているので、魔境から飛び出した魔物は人里に近づく前に狩りつくされるだろう。
もうすぐ山脈で完全に隔てられるミルグ盾国側は……自国でどうにかするだろう。自慢の砦もあるのだし。
少なくとも、敵国であるオルバウム選王国側から、そしてヴィダル魔帝国側から心配する事ではない。
「それにしても、ここから見ても魔境から飛び出す魔物が多いわね。やっぱり、自分の足元が動いて移動し続けているからかしら? それとも……」
……もしかしたら、魔物達は山脈が動いているから狂乱しているのではなく、バクナワやピート、そして莫大な魔力を使い続けているヴァンダルーを恐れるあまりパニックに陥り、狂乱しているのかもしれない。
「だとすると魔物も哀れね。あなた達はどう思う? って、言うかさっきからしゃべっているのがワタシだけなんだけど?」
「マイルズ、エリザベス様達はその……目を見開いたまま気絶しているようだ」
『無理もない……』
ここ……サウロン公爵領とミルグ盾国の国境が見える高台にいるのは、マイルズだけではなかった。イリスとその剣に宿る実の父親のネメシスジョージ。そして、エリザベス達もいた。
しかし、エリザベス達は山脈が動いている光景を前に硬直したまま、ピクリとも動かない。もしかしたら、本当に気絶しているのかもしれない。
「私は魔物より、巻き込まれた人がいないのかが気になるな。陛下の事だから、そのあたりの事は確認してからやっていると思うが」
「山脈の方には、人はいないはずよ。そもそも、境界山脈を登ろうって命知らずはそうそういないし……あれは旧スキュラ自治区の奥にあった山脈だもの。冒険者は『首狩り魔』から逃げ切りでもしないと、山脈にたどり着けないはずよ」
「なるほど。なら、巻き込まれる可能性があるのは国境付近にいる者か」
『それも、少なくともサウロン側にはないはずだ、イリス』
「しっかり通知を出していたし……山脈の先頭にはボスがいるから、万が一逃げ遅れていたとしても大丈夫でしょ」
今山脈が横切っている地域は、サウロン公爵領の砦とミルグ盾国の砦の間だった。国境といっても敵国同士。約五百年の歴史では幾度か休戦条約を結んだ事はあるが、停戦条約は一度も結んでいない。つまり、「今は戦争するのを休みましょう」と約束した事はあっても、「もう争いは終わりだ」とはっきり約束した事は一度もない関係だ。
そんな国同士が関所や砦が隣接していては、四六時中小競り合いが発生してしまい消耗が激しくなるし、小競り合いから事態が大きくなって予期せぬ戦争に発展しかねない。
そのため、両国が地図に引いている国境線の間には、どちらの国の領土かはっきり明記されていない緩衝地帯が設けられている。
山脈が通っているのは、その緩衝地帯だ。そこに居るのは素材の収集を行っている冒険者か、違法な密貿易に従事している犯罪者ぐらいだろう。
前者の方には冒険者ギルドを通じて、緩衝地帯に近づかないようにと通達を出させている。
もちろん、通達を見る前に出発してそのまま緩衝地帯で活動し続けている冒険者がいる可能性もある。それに、可能性は低いが狩人や薬師が獲物や薬草を得るために、緩衝地帯に侵入している可能性がある。
そうした者達が動く山脈に巻き込まれないよう、ヴァンダルー達が山脈の先頭で確認をしているため、心配はいらないだろう。
なお、密貿易をしている商人に関しては、最初から心配していない。
「それにしても、やはり圧巻だな。私自身も地形を変える事ができる力が身についたと思っていたが、陛下のそれはスケールの次元が違う」
「そりゃそうよ」
周囲の地形を変える程の力。この世界にそれを持つ人間はそれなりに多い。周囲に存在する木々や岩、建物を破壊するだけでいいなら、B級冒険者やランク7以上の魔物なら可能だ。標高数百メートル程の小山を割る程度でいいなら、A級冒険者ならできる。
今のイリスなら、全力を振り絞ってネメシスジョージを振るえば標高千メートルを超える山を割る事が可能だろう。大地を深く穿ち、直径数百メートルのクレーターを造る事が可能だろう。それはこの場にいるマイルズも同じだ。
そしてS級冒険者の『真なる』ランドルフや、『迅雷』のシュナイダー、そしてS級冒険者に相当する『剣王』ボークスや『轟炎殺し』の骨人、『元魔人王』ゴドウィン達、そして神であるルヴェズフォルやフィディルグならそれ以上の規模で地形を変える事ができる。
だが、それらは全て破壊による地形の変化だ。標高数千メートルの山が連なる山脈の形を変え、伸ばして長大な壁にするような、変化によって地形を変えられるのはヴァンダルーぐらいだろうとイリスやマイルズは思っていた。
実際、優れた魔術師ならある程度地形を変える事は可能だが、これほどの規模は不可能だ。
「ちょ、ちょっと待って! こんなことして大丈夫なの!?」
「境界山脈には結界が張られていると、以前教えてもらいましたが動かしていいのでしょうか!?」
「それに地盤とか地下水脈がえらい事になると思うんだけど!?」
すると、我に返ったらしいエリザベス達がマイルズとイリスに早口で捲し立てた。
「いい質問ね」
そう応えながら、問いかけてこなかったマクト達にマイルズが視線を向けると、彼らは慌てた様子でお互い顔を見合わせて相談した後、ユーゼフが口を開いた。
「あれほど高い山脈が動くと、気候も変化すると思うのですが問題は起きないのでしょうか?」
やはり良い質問だとマイルズは思った。地形は地表からは見えない地下や遥か高い空の天候にも影響を与えている。それらは、この世界では専門的な学者や魔術師しか知らない高度な知識とされており、一般人はもちろん学者や魔術師でも他の分野を研究しているなら知らない者が多い。
マイルズ自身もヴァンダルーの部下になってから、彼から雑談として聞き、境界山脈内に残された生産系勇者達の知識を纏めた文献を読んで身に着けた知識だ。
「じゃあ、答えるけど問題ないわ。まず結界だけど、動かしているのは結界が張られていない部分だそうだから」
アルダ勢力の神々とロドコルテの目を防ぐためにヴィダ派の神々が張った結界。それは境界山脈を構成する全ての山に張られているわけではない。
結界は、張る範囲を狭くした方が必要な力を少なくすることができる。そのため、ヴィダ派の神々は最も内側の山々から結界を張っている。
そのため、それ以外の山々を動かしても結界には影響しない。
「そして地盤の問題だけど、ボスはただ山脈をゴーレム化して形を変えて伸ばしている訳じゃないのよ。同時に、これから山脈を乗せる地面に【ゴーレム創世】で山を支える岩盤を創りながら進んでいるの」
山脈を動かした後、山を支えきれずに大きな地盤沈下が起きて山の標高が下がって超えやすくなってしまったら、意味がない。地下水脈を圧迫して、サウロン公爵領の村や都市で使っている井戸が枯れるのも困る。
そのためヴァンダルーは、山々が沈まないよう岩盤を創りだすなどして工夫しながら山脈を動かしているのだ。細かい事は説明しなかったが、ただ岩盤を地面に敷いているだけではなく、地下水脈を避けて岩盤の柱のようなものを作っているらしい。
「なるほど。さすが陛下だ。よく分からないがきっと大丈夫だな」
なお、イリスは良くわからなかったらしい。
「イリスちゃん、あなたって……」
『違う、全てはゴドウィンが悪い』
イリスはこんな残念な子だったかしらと内心首をかしげるマイルズと、娘は魔人国の女王としてのデスクワークに時間を取られているだけで、不勉強なわけではないのだと弁護するネメシスジョージ。
「天候に関しても、まあ何とかするでしょうから大丈夫よ。雨が減りすぎたり増えすぎたりして、災害が増える事はないようにしてくれるはずだから。
なんたってあなたの領土になるんだし」
アミッド神聖国の属国であるミルグ盾国とオルバウム選王国が地続きである事が面倒で、山脈で隔てたいだけならヴァンダルーはここまで凝らない。
マイルズやイリスは知っているが、ヴァンダルーは名前も顔も知らない人々も余裕があれば助けようとする。しかし、そのために名前も顔も知っている親しい者を犠牲にする事はない。
全ては、ここがエリザベスの治める領土になる土地だからしている事だ。
「そ、それは感謝してるし嬉しいけど……私が聞きたいのはもう一つあるのよ」
嬉しそうに頬を赤くしたエリザベスに、マイルズはまだあるのと思いつつ先を促した。
「こんな事をしたら余計に人間扱いされなくなりそうだけど、それはどうするつもりなのかって思って。ほら、ヴァンダルーって神様扱いされるのを嫌がるでしょう?」
それを聞いたマイルズは思わずハッとして、ゆっくり動き続ける山脈に改めて視線を向けた。
おおよそ人間には不可能な偉業が現在進行形で、それも誰の目から見ても明らかな環境で行われている。
しかも、それによって後々起きたかもしれない不都合は実行者が前もって防いでいる。
まさに神の御業。そう思っても無理は……いや、普通ならそう思うだろう。マイルズ自身も、ヴァンダルーに出会う前なら何らかの神の力が働いていると思い込んだだろう。
「き、きっと色々考えているはずよ」
バクナワやピートを連れているのは、飛び出してきた魔物の駆除だけではなく人々にその姿を見せ、神聖視される対象を彼らにすり替えるつもりだとか。
そんな事を考えているマイルズに、イリスはきっぱり答えた。
「マイルズ、賭けてもいい。陛下は、何も考えていない」
その瞳には、ヴァンダルーに対する強固な信頼と絆の輝きがあった。
「あ、やっぱり」
「でも、今はまだ伝えるべきではないかと」
「そうだよねー。いまヴァンがショックで制御をミスったら、山脈の形が変わりそうだし」
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名前:ピート
ランク:15
種族:神鋼轟雷百足冥獣王
レベル:1
・パッシブスキル
飢餓耐性:3Lv
自己超強化:従属:3Lv(UP!)
猛毒分泌(神経毒):顎角:7Lv(UP!)
風属性無効
肉体超強化:外骨格、角:7Lv(UP!)
剛力:8Lv(UP!)
自己強化:導き:10Lv(UP!)
高速治癒:10Lv(UP!)
能力値強化:捕食:10Lv(UP!)
暗視
眷属強化:5Lv(NEW!)
・アクティブスキル
忍び足:1Lv
猛突撃:7Lv(UP!)
限界超越:5Lv(UP!)
百甲術:1Lv(鎧術から覚醒!)
轟雷:8Lv(UP!)
連携:8Lv
高速走行:3Lv(UP!)
御使い降魔:4Lv(UP)
縮小化:6Lv(UP!)
・ユニークスキル
龍神喰い:2Lv(UP!)
ザナルパドナの加護
ヴァンダルーの加護
●魔物解説:神鋼轟雷百足冥獣王 ルチリアーノ著
ランク15にランクアップした事で、獣王の一員に加わったピートの種族。
魔物が獣王になるなど前代未聞であり、自分で確認しなければ私も「机上の空論とはいえ妄想が過ぎる」と評していただろう。
何故なら獣王とはヴィダやアルダと同時に誕生した大神、『獣神』ガンパプリオの子供達であり、鳥や獣、魚等の王達である事を意味するからだ。魔物とは、全く関係のない存在である。
猪の獣王のように、後世に魔王軍へ寝返り、魔物の祖となった獣王も存在するが。
しかし、魔物がランクアップして獣王になった例などない。いや、そもそもランク15の魔物の資料なんて、真偽不明の伝説や神話の中にしかないのだが。グファドガーンによるとランク14以上の魔物は、旧魔王であるグドゥラニスが魔王軍を率いていた当時は殆ど存在しなかったらしい。
当時の魔物は魔王軍の邪悪な神々にとって雑兵のような扱いで、ダンジョン等の魔物を大量発生させ育てるための施設を創ってはいたが、使い捨てが利く戦力としか見られていなかった。そして、ベルウッド達が召喚されてからは次々に倒されたことで、魔物が創造主である邪悪な神々に匹敵するランク13を超えるのは難しかったようだ。
最初から目的をもって作られた個体や、主人である邪悪な神々の趣味で育てられた場合もあるが、全体から見ればごく小規模だったらしい。
魔物にとっても、創造者である主人達の支配者であった旧魔王が封印された後の方が生きやすいとは、中々の皮肉である。
ピートの獣王化は、新しい魔王である師匠とその支配下の魔物の新しい存在の仕方を示しているのかもしれない。
ちなみに、獣王に加わったが獣王であると同時に魔物でもあるので今まで同様に地上で活動することが可能なようだ。
次話は6月21日に投稿する予定です。




