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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第二章 沈んだ太陽の都 タロスヘイム編
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四十六話 死に物狂いの狂気の沙汰で防衛準備

「ではここにタロスヘイムの防衛体制を整えたいと思います」


 エレオノーラを仲間にしたその日の内から相談を纏め、ヴァンダルー達は動き出した。

 彼女から邪神派の吸血鬼達はミルグ盾国の軍務卿(現在は元だが)を初めとした重鎮や、オルバウム選王国にすら手の者が居ると教えられたからだ。


 原種吸血鬼達がヴァンダルーを殺すためにどれくらい力を入れるか分からないが、最悪吸血鬼が何人か紛れ込んだミルグ盾国の軍勢が差し向けられるかもしれない。


 今の堅牢なのは形だけのタロスヘイムでは、精強な数千から一万を超える軍隊に持ち堪える事は出来ず、その際紛れ込んでいる吸血鬼達が暗躍すれば逃げる事もままならないかも知れない。


 ヴァンダルーだけなら今の内に逃げるという選択肢もあるが、敵の手がオルバウム選王国にまで存在するとなると、確実に安全な場所などこの大陸には存在しない。

 尤も、タロスヘイムに居る巨人種アンデッドやグール達の安全のためにヴァンダルーが離れるという選択肢は存在する。


『手前の安全のためにお前を追い出したいなんて臆病者は、ここにはいねぇ!』

「その通りです御子よ。我々は文字通り肉と臓腑が落ち、骨が砕けても戦いましょう!」

「出遅れたが、我も同感だ。ヴァンダルー、お前が居ないと我達は困る」

「うむ、今あるマジックアイテムが壊れると、また少子化問題が再燃するからの。それを抜きに考えても、目先の安全のためにキングを追い出してどうする」


 っと、ボークス、ヌアザ、ヴィガロ、ザディリスからその選択肢は無いと宣言された。

 ヴァンダルーもタロスヘイムにある自分の居場所を守りたくない訳ではない。何時かはオルバウム選王国に行く予定だが、一年から数年に一度くらいは戻ってくるつもりだからだ。


 夢を見て上京するけど、帰る実家は存在していて欲しい。そんな感じである。


「ありがとう。では、万を超える軍と吸血鬼が一緒に攻めて来ても大丈夫な体制を作ります。春から初夏まで、遅くとも真夏の前に」

「『「「正気か!?」」』」

「いいえ、死にもの狂いの狂気の沙汰です」


 エレオノーラ達を派遣したビルカイン達も、連絡が途切れれば不審に思うだろうし、彼女達が失敗したと判断して次の手段を打つだろう。

 まあ、それでいきなりミルグ盾国を操って軍隊を派遣させるまでは行かないだろうが、こちらの情報をより詳細に集めようとするはずだ。


 それでタロスヘイムの状況が伝われば、「これは吸血鬼を少々差し向けたぐらいではどうにもならん」と本腰を入れて来る可能性が高い。

「しょの……その【ゴーレム錬成】だけど、ヴァンダルー様以外誰も使えないわ。魔力云々の問題以前にゴーレムを一瞬で作ったり、形を自由自在に変化させたりする事は、錬金術師じゃ不可能なのよ。

 アンデッドをテイムするのと同様にね」


 っと、エレオノーラから聞かされたからだ。

 これを原種吸血鬼達が知ったら、何としても殺しに来るだろうと。


「そこまで過剰反応しなくても。特にアンデッドは原種の三人もテイムできるんでしょう?」

 舌にピアスを嵌めたばかりでやや発音が不自由そうなエレオノーラにそう言うと、彼女は首を横に振った。

「ビルカイン達にはテイムは出来ないわ。主にアンデッドを使うのはテーネシアやグーバモンだけど、奴らは死体をアンデッドにして、支配する事は出来る。でも、既にアンデッド化している場合は支配できないのよ」


 どうやら原種吸血鬼が支配できるアンデッドは、自分で材料から作った存在だけで、既にアンデッド化している場合はランク1のリビングデッドであってもテイムする事は出来ないらしい。


「だからヴァンダルー様がアンデッドをテイム出来るって知ったら怒り狂うわよ、あいつら。特にグーバモンが」

「なるほど」

 【剣王】ボークスはグーバモンが欲しがっていた英雄の一人だったが、既にアンデッド化している。しかも、散らばっていた右腕の骨片すらヴァンダルーが回収して、【治屍】に使っているので骨の欠片すら回収できない。


 グーバモンがどんな性格をしているのかヴァンダルーは知らないが、ダンピール如きにコレクションしたかった対象を奪われたと知ったら確かに怒り狂いそうだ。

 小気味良いが、それで本気になられるのはかなり理不尽だ。


 そんな理不尽に負けないためにこちらから攻勢に出たいところだが、それは難しい。吸血鬼達と同様、ヴァンダルー達も境界山脈を越えるのは現状難しいからだ。それに邪神派の吸血鬼達は拠点を幾つも持っていて、エレオノーラも全てを知っている訳ではない。


 攻勢に出るのが現実的でないと結論が出た後、ヴァンダルーが手を付けたのは人数不足問題だ。

 このタロスヘイムは元々五千人の巨人種が暮らしていた城塞都市国家だ。そのため、当然町のサイズは五千人が余裕を持って収容可能なものだし、城壁もそれがすっぽり入る大きさだ。

 しかし、今巨人種アンデッドは千人しかいない。グールや新種達を入れても二千に届かない。


 それで万全なセキュリティ体制をと言っても、無理な話だ。疲労を感じず眠りも必要ないアンデッドであるから、寝ずの番も可能だがそれは頼みたくない。アンデッドにも日々の生活に潤いや娯楽が必要なのだ。

 なので、まずゴーレムを増やした。


「起きろ、進め」

 ガランの谷に行き、石材を次々に採掘する。方法は岩壁を直接ゴーレムにして、石材自身に歩いてタロスヘイムまで戻ってもらうという、魔力以外は楽な方法だ。


「凄いな、御子は」

『儂らの仕事、無くなるんじゃないか?』

「時間が無いですからね。とりあえず今日はここがガランの谷ではなく、ガランの窪地に成るまで採掘します」

「……本格的に無くなるわ、仕事」


「いいえ、寧ろ増えますよ」

『本当か?』

 石工の巨人種アンデッドに言った通り、彼らの仕事は激増した。

 ヴァンダルーが増やしたゴーレムの装飾を彼らに依頼したからだ。


「このゴーレムは城壁や石造りの建物の壁にくっつけて配置します。それで一見装飾に見える様に、細工を施して欲しいんですよ」

『随分と華美だな。別にいいが、それに何か意味があるのか? ゴーレムが強くなるとか』

「いいえ、強くはなりません。装飾に見えるようになるだけです」


 石工達は首を傾げていたが、実際に装飾済みゴーレムが設置されるとその効果は明らかになった。

 壁や建物の近くにただゴーレムを配置するだけでも、侵入者に対する威圧や警備能力は十分だ。しかし、ゴーレムを壁や建物の装飾にしか見えない様装飾を施し、分厚く変化させた壁に埋め込むとただのレリーフにしか見えない。


 その結果侵入者は見張りが居ないと思い込んで油断し、無防備に近づいてレリーフだと思っていたゴーレムに殴られるのだ。

 相手が軍なら、無防備な城壁に攻め寄せようとしたら城壁その物から敵が出て来るのだから意表を突く事が出来る。


「後、レリーフの演技を続けてもらって、敵が城壁に梯子をかけて登り始めたら壊してもらうとか、そんな事も出来ます」

『え、えげつねぇ……』

「御子よ、ゴーレムが動いた後の城塞や建造物は、脆くなりませんか?」


「ゴーレムを配置する時にその分石材を増やしますから大丈夫です。後、住宅や建物の二階以上に配置するゴーレムは、見張り専用の顔だけとか目だけの物にしますから」

「それなら倒壊する可能性はありませんね」


 これは地球でもやっている、警備員や監視カメラを目立たない様に配置する工夫から思いついた事だった。

(それに、普段は警備員や監視カメラ代わりのゴーレムを気にしないで済むので、精神的にも楽ですし)

 タロスヘイムの景観も良くなって、良い事尽くめだ。


 尚、ガランの谷の岩壁は、削り過ぎるとそれ以上石材が取れなくなる事が分かった。透明なバリアか、結界に隔てられたような、若しくは実際にはそこで行き止まりで、先がある様に見えるのは壁に書かれた絵の様なものなのかもしれない。

 ただ、数日で元の谷に戻るので石材が枯れる心配はない。




 ヴァンダルーと石工職人達が忙しくしている間、それ以外の者が暇だった訳ではない。

「ちょっと危険な事を頼みますね。皆には、この見張り用のゴーレムとアンデッドを今から言う場所に置いて来て欲しい」


 防御も固めるが、敵が何時来るのか分からないのは不安だし都合が悪い。そのため、敵が来るか見張るためのゴーレムの配置をヴァンダルーは頼んだ。


 現在考えられるルートは三つ。

「お任せください、ヴァンダルー様」

 まず一つ目は、エレオノーラが使った山脈越えのルート。このルートは比較的安全なだけで、途中でセルクレントの従属種が何人も倒れている。


 確実に越えられるのは貴種吸血鬼以上の者だろう。並の人間には絶対不可能だとエレオノーラは断言した。

 それを考えると、一人の脱落者も出さず六百人のグールと山脈を越えたヴァンダルーがどれ程規格外か分かるというものだ。


『ここも監視する必要があるのか?』

「ズラン、オルバウム選王国にも邪神派の吸血鬼が居る」

 二つ目は、オルバウム選王国のハートナー公爵領に繋がっていたトンネルだ。今は崩されているが、ハートナー公爵領側から再建工事が行われ、そこから吸血鬼の手先が送り込まれかねない。


 向こうにいる第一王女が存命だったとしても、彼女の故国への想いを吸血鬼達が利用しないとは限らないのだから。


 そして三つ目は一番難しい場所だ。

『そんで、俺らはミルグ盾国側に繋がるトンネル探しか。そんなものあるのか?』

「可能性は否定できません」


 ミルグ盾国側の境界山脈に、トンネルがあるという伝承の類は存在しない。しかし、反対側の山脈にオルバウム選王国に繋がるトンネルが発見されたのだから、まだ未発見なだけという可能性は高い。

 なんたって十万年以上前のトンネルだ。当時はアミッド帝国もオルバウム選王国も無く、もしかすると女神ヴィダによって吸血鬼が生み出される前に造られた可能性もある。


 そうなると、東西両方にトンネルを造ったと考える方が自然だと思える。誰が造ったのか知らないが。


 誰も魔物を間引いていない魔境だらけの土地を、何処にあるかも分からない遺跡を探すのだ。ボークスを始めヴィガロやザディリス、骨狼達も投入して万全の態勢で行う。


『構わねェが、味噌と魚醤、特に鰹節を多めにな。冒険者に仕事させるには報酬が必要だぜ』

「気に入ったんですか?」

『おう、煮込むと汁が美味くなって具にもなる。手間が掛からなくていいぜ』

 未完成の鰹節は干しただけで燻していないものだが、ボークスが言ったような方法で汁物の具に成る。


「鰹節も今年中に完成させたいですね」

『あれで未完成なのか!? そいつは完成が楽しみだぜ』

「それは兎も角、置いて来てもらうのはこの頭蓋骨だけのゴブリンスケルトン、石に偽装したロックゴーレム、枯れ枝に偽装したウッドゴーレムです」


 どれもこれも片手で持ち上げられる大きさだ。そして何処に転がっていてもおかしくない物ばかりである。

 流石に無属性魔術の【鑑定】を唱えて調べればばれるだろうが、地面に転がっている石や枯れ枝、ゴブリンの頭蓋骨をいちいち調べる事はないだろう。


 魔物の激しい生存競争が行われている場所なのだ。そんな余裕はあるまい。

 まあ、運悪く野良魔物にゴーレムやアンデッドが破壊されるかもしれないが、そのために一箇所に三つ配置するのだ。どれか一つ壊れたら、代わりを置きに行けばいい。


 因みに、二百年前ミルグ盾国軍が使ったルートは放置する事が決定した。エレオノーラによると、ハリケーンドラゴンの番が居座っているらしい。

 切り立った上に脆い崖が連なる足場で、ランク10以上の竜種二頭を同時に討伐するのはS級冒険者相当の英雄のパーティーを用意する必要があるとかで、現在のアミッド帝国が総力を結集しても難しいそうだ。


 吸血鬼達も同様だ。上位の貴種やビルカインの様な原種吸血鬼なら可能だとエレオノーラは言うが、同時にその激戦の様子はここからでも分かるだろうと教えてくれた。激しい閃光や爆音、山脈の一部が崩れる轟音等が響くだろうから。


 後、一応バーンガイア大陸の南部から境界山脈を迂回して北上するルートもあるにはあるが、そこを通るのは原種吸血鬼でも自殺するのと一緒らしい。

「山脈に生息している竜種よりも上位のドラゴンや巨人の住処に、デーモンの宮殿まであるらしいわ」

 他にもノーブルオークの帝国等、未知の魔境や魔物の大集団が無数にあるらしい。


 別にそれらはヴァンダルーの味方ではないが、防壁としてとても有効だ。

 まあ、そのお蔭でヴァンダルーも何処にいるとも分からないヴィダ派の吸血鬼を探しに出る事が出来ないのだが。


「では、お願いします」

 以上の試みの達成は、ミルグ盾国側に繋がるトンネルの発見以外は一月かからなかった。エレオノーラやズラン達はボークス達に合流し、引き続き十万年以上前に作られたトンネルの捜索を続けてもらう。


「じゃあ、その間俺達は第二城壁、第三城壁の建築。後、兵器の開発を行います」

『坊ちゃん、過労死するおつもりですか?』

「大丈夫です、休日はしっかり休みますから」


 この二百年でタロスヘイムを訪れたのはヴァンダルー達と、エレオノーラ達吸血鬼のみ。そしてエレオノーラ以外の吸血鬼は、皆殺しにしている。

 だから少々外見が変わったところで「城壁が増えている!」と気がつきはしないだろう。


 第二城壁は改造した第一城壁同様に堅牢に作り、ゴーレムも配置しアロースロットも仕込む。

 第三城壁は第二城壁と第一城壁を覆い隠すように高く、しかし一見今にも崩れそうに見える様に建てる。

「後は泥で汚したりアンデッド化した枯れ蔦を這わせたりすれば、それっぽく見えるかなと」


 そうしておけばもしミルグ盾国軍が来ても、過去の記録では開けたはずの穴は無いが目に見えてボロボロだからと、あまり警戒せず油断してくれるかもしれない。

 勿論、実際には崩れない様に全てゴーレムで組み上げ、そのまま維持する。


『いざという時は城壁そのものが兵士に成る訳ですな』

『だけど、貴種以上の吸血鬼は空を飛べるんですよね、エレオノーラさんみたいに』

「なので対空兵器を作ります。空を飛ぶアンデッドは作るのに時間がかかりますから」


 数体なら兎も角、数十数百と骨鳥のように骨から作るアンデッドで飛べるまで育てるのは時間がかかる。ワイバーンなどの飛行できる魔物の新鮮な死体をゾンビにする方法もあるが、やはり数を揃えるのに時間がかかるし、完全に破壊されたら、補充するのにやはり時間がかかる。


 虫や小鳥などの小動物のアンデッドを数百万作るという手も考えなくもなかったが……この世界ではアンデッド化すると強くなるとは限らない。羽虫や甲虫をアンデッドにしても、敵の皮膚を食い破れない可能性の方が高い。

 それに貴種吸血鬼は魔術にも優れているので、範囲攻撃でもされたら瞬く間に破壊されてしまう。


 そもそもそんな数の虫や小鳥を集めてアンデッドにしていたら、それこそ過労死しかねない。


「虫型の魔物の死体を使えばいいだろうけど、やっぱり数を揃えるまで時間が……まあ、体制を整えた後ゆっくり集めればいいか」

「それよりヴァン様、私達がお手伝いする新兵器というのは?」

『金属なら儂に任せろ』


「二人にはクロスボウを作ってもらう予定です」

 そう言うと、タレアと鍛冶師の巨人種アンデッドのダタラは微妙な顔つきになった。

「クロスボウ? ……ああ、あれですわね」

『あんなもん作ってどうすんだ?』


 このラムダ世界にもクロスボウは既に存在した。しかし、人気とニーズは底辺だった。

 クロスボウは命中力が高く、連射性こそ低いが弦を巻き上げてあれば力の弱い女や老人でも使える優れた武器だ。

 しかし、この世界ではスキルと武技が存在する。


 【弓術】スキルのレベルを上げれば弓の命中力も威力も上がるし、その頃にはレベルも上がっているので能力値も上昇しており、女の細腕でも大きな弓の弦を引き絞る事が出来る。

 更に武技を使えば素早く何度も連射したり、針の穴を射抜くような精密射撃を行ったり、超人的な事が実現可能だ。


 クロスボウでも【弓術】スキルで命中力に補正を得られるが、構造上【武技】が使えない。それに直接手で弦を引く訳ではないので、能力値が上がっても威力が変わらない。

 そのため、冒険者は勿論兵士からも需要が無い。


 使いやすいから一般人がもしもの時のために購入する場合もあるが、それも大体は普通の弓矢を購入する事が多い。弓矢の方が安価だからだ。


 そのためラムダではクロスボウは一部の変わり者が購入する武器という認識で、大きな町の武器屋でも置いていない事が多いらしい。

『クロスボウを配るより、良い弓矢を作って配った方がいいじゃろ』

「いえいえ、作ったクロスボウは皆に配るのではなく、クロスボウそのものをアンデッドにする予定なので」


 出来たクロスボウにはヴァンダルーが霊を憑依させ、カースウェポンにする。 カースウェポンは霊に憑りつかれて勝手に動き出す武器の魔物で、ランク2の弱い魔物だ。本来なら吸血鬼どころか、並の兵士を相手にしても心もとない存在である。


 しかし、クロスボウなら引き金が動けばそれで板金鎧も貫く威力の矢が発射される。命中力も高い。元々カースウェポンは武技を使えないので、欠点も無い。

 問題は矢の装填だが、矢の装填を担当する腕だけのゴーレムもセットで城壁や町の建物の屋上、王城に配置すれば問題無い。


 これが完成すれば、【気配感知】でも感知されず、夜目が利いて疲労もしない、矢が尽きるまで淡々と敵を射殺す射手が出来上がる。

 この内対吸血鬼用の城壁の上部や建物の屋上に設置するクロスボウの矢は、矢尻に銀メッキを施す予定である。

 メッキ加工も本来は技術が必要だが、【ゴーレム錬成】で銀の形を変えてくっ付ければ簡単に出来る。


「後バリスタと投石機を作りましょう」

「……本当に戦争するつもりですのね。腕が鳴りますわ!」

『だが、バリスタなら兎も角儂も投石機なんてもん、作れんぞ』

「はい、投石機は俺が担当します」


 勿論ヴァンダルーだって投石機を作った経験は無い。ただ、地球で投石機の作り方について取り上げたドキュメンタリーを見た事があった。

 確か、古代文明の兵器やらなんやらを現在の技術で再現し、検証するドキュメンタリーだった。


『見ても伯父が贅沢アレルギーの発作を起こさない番組だったからなー。よく覚えてる』

 あの番組でも流石に投石機作りの全ての行程を説明していた訳ではないが、大まかな形や構造は見せてくれた。後は、【ゴーレム錬成】で再現するだけだ。


 そして休暇はパウヴィナ達と遊んだり、バスディアの容態を検査したり、延び延びになっていたタレアの若化に取り組んだりしながら過ごした。


 そして、何時の間にかもう夏になっていた。




《【高速治癒】、【状態異常耐性】、【死属性魔術】、【詠唱破棄】、【魔力自動回復】、【限界突破】、【ゴーレム錬成】、【無属性魔術】、【魔術制御】、【大工】、【土木】、【錬金術】スキルのレベルが上がりました!》

《【同時発動】スキルを獲得しました!》

《ザディリス、ヌアザ、骨人、骨狼、骨猿、骨熊、骨鳥、ブラガ、ゼメド、メメディガ、リタ、サリアがランクアップしました!》




・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:4歳

・二つ名:【グールキング】

・ジョブ:死属性魔術師

・レベル:39

・ジョブ履歴:無し

・能力値

生命力:69

魔力 :144,596,652

力  :52

敏捷 :31

体力 :56

知力 :157


・パッシブスキル

怪力:1Lv

高速治癒:3Lv(UP!)

死属性魔術:5Lv(UP!)

状態異常耐性:5Lv(UP!)

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv

死属性魅了:4Lv

詠唱破棄:3Lv(UP!)

眷属強化:5Lv

魔力自動回復:3Lv(UP!)


・アクティブスキル

吸血:3Lv

限界突破:4Lv(UP!)

ゴーレム錬成:4Lv(UP!)

無属性魔術:3Lv(UP!)

魔術制御:3Lv(UP!)

霊体:2Lv

大工:4Lv(UP!)

土木:3Lv(UP!)

料理:2Lv

錬金術:3Lv(UP!)

格闘術:1Lv(NEW!)

魂砕き:1Lv(NEW!)

同時発動:1Lv(NEW!)


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




・魔物解説 吸血鬼


 女神ヴィダとアンデッド化した勇者ザッカートの間に生まれた種族であり、正確には魔物ではないのだが多くの国家、社会で魔物とされているため魔物として解説する。

 吸血鬼には現在【原種】、【貴種】、【従属種】の三種類が存在し、厳格な縦社会を築きコミュニティを運営している。


 この内冒険者が遭遇し、冒険者ギルドに報告が上がっている殆どが従属種であり、極稀に貴種との遭遇が報告される。

 吸血鬼は魔物であると同時に女神の血を引くため、ジョブに就く事が可能である。そのため、他の魔物よりも多彩なスキルを持つ。従属種といえど強敵であり、貴種であればそれは竜種と同じかそれを超える脅威となり得る。


 そのため発見した際は一人で対処しようとせず、ギルドに報告する事が推奨されている。


 吸血鬼は個体差が大きいが、冒険者ギルドでは従属種は最低でもランク3。貴種は最低ランク6としているが、吸血鬼は人間同様にジョブについているので、ランクのみで実力を測らないよう注意を促している。


 従属種は吸血鬼の能力の内肉体的な物のみを獲得し、ランクアップすると【獣化】や【分身】等のスキルを身に着け危険極まりない存在になる。

 ランクアップ後の名称は、ヴァンパイアスレイブ、ヴァンパイアライカン、ヴァンパイアリベリオン等が確認されている。


 貴種は魔術的な能力も併せ持ち、個体によっては特殊な魔眼を獲得する場合もある。性質的に魔術に重きを置き重点的に研鑽を積む場合が多いが、肉体的に従属種に劣る訳ではない。そのため上位の個体は、魔術と武術両方を使いこなし、素の能力値も高い悪夢のような存在と化す。


 因みに、一般には全ての貴種吸血鬼が魅了や麻痺、読心の魔眼を持っているように思われているが、実際には一握りの個体が持っている固有ユニークスキルである。

 これは魔眼を持たない貴種吸血鬼が似た効果の魔術を使ったのを目撃した者が、誤解したためだろう。


 ランクアップ後の名称の殆どは人間社会の貴族制度に倣っている。成り立てのランク6でただのヴァンパイアだが、7でリッター、8でバロンと昇爵していく。


 これらの吸血鬼には共通して太陽や銀、法命神アルダが司る光属性の攻撃魔術等が弱点である。氏族や奉じる神によって、招かれなければ入れない、ニンニク、流れる水等の弱点が加わる。


 原種吸血鬼の情報は殆ど無い。ただ分かるのはエンペラーにまで至った最上位の貴種吸血鬼ですら、原種吸血鬼の前には膝を突き、服従を誓うという事だけだ。


 尚、セルクレントは当時ランク7のヴァンパイアリッター。僅か数年でヴァンパイアバロンにまで至ったエレオノーラよりも明らかに才能で劣っていた。

次話は11月11日に投稿予定です。

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