三百六十六話 神が遣わす魔王
突然心に響いた、厳かでありながら母のように慈しみと温かみのある女性の声。それをスミスはボティンの声であり、神から受けた神託だと信じて疑わなかった。
そして、ボティン神殿に仕える彼はすぐ上役の司祭に神託を受けた事を報告した。そして、その日のうちに彼は神殿長に呼び出されて神託について詳しい話をすることになった。
それはそうだろう。ここはオルバウム選王国のゼクトーア公爵領にあるボティン神殿の中でも大きい神殿だが、神託の内容はすぐには信じられないほど大きなものだったからだ。彼にも、『もしかしたら、神託を間違えて解釈してはいないか』という不安があった。
そのため経験豊かな聖職者である神殿長から話を聞きたいという呼び出しは、彼にとって渡りに船だった。
だが、その席で出された紅茶を飲んだ途端眠気に襲われ、気が付いたら何処かの地下室に閉じ込められていた。
「これはいったいどういう事です!? 話を聞いてください! 私は、私はこのような扱いを受けるいわれはありません!」
そう訴えたが、それを聞く者がいたのかも彼には分からなかった。
そして監禁生活はスミスにとって耐えられない程長く続いた。
「私が神託を受けた事が、神託の内容が、もしくは両方が気にくわなかったのですか!? だからといって神の言葉をないがしろにする事が、信仰の道に生きる者のする事ですか!?」
閉じ込められてから毎日、彼は扉の向こうにいるかもしれない相手に向かって訴え続けた。それは彼の自分に薬を盛って閉じ込めた神殿長に対する反抗や、神託を闇に葬ろうとする事をよしとする神殿上層部への義憤からだった。
しかし、スミス自身も気が付いていなかったが脱出できず監禁され続けている自分への無力感や、このまま死ぬまで閉じ込められるのではないかという不安と恐怖から目を逸らすためでもあった。
『ラムダ』世界で神殿に身を置く者は、非常時に……巡礼の旅の途中で魔物や山賊の襲撃を受けた時や、神殿のある町や村が魔物の群れに襲われた時に備えて、戦う訓練を受けている。
それはこのスミスも例外ではなく、また彼は魔術の素質にもそれなりに恵まれていたため魔術も習得していた。
適性があったのはボティンが司る土属性ではなく火属性の魔術だったが、土属性に適性がない者はボティン神殿に仕えてはならないという教義はない。アルダ神殿でも光属性に適性のない聖職者はいくらでもいる。……権威主義が蔓延っている神殿では、奉じる神と同じ属性の適性がなければ出世できないという悪習がまかり通っているらしいが。
しかし、そんな彼の火属性魔術も鍛えた武術の腕も扉には全く通じなかった。扉はただの鉄ではなく、黒曜鉄で作られていたからだ。
鉄に微量のミスリルやアダマンタイトを混ぜて作る合金で、ダマスカス鋼と並んで人が作り出せる魔導金属である黒曜鉄は、ミスリルやアダマンタイトの下位互換だ。しかし、平均的な神官の域を出ない彼を閉じ込めておくための扉としては十分すぎる。
扉ではなく壁を掘って脱出する事も考えた。しかし、扉に接している壁は黒曜鉄の裏側にレンガを張り付けたもので掘っても無駄だった。反対側なら掘れただろうが、地上に繋がるトンネルを掘り終わる前に気がつかれてしまうだろう。
それなら食事が提供される際、世話係を攻撃し、扉を開けさせるしかないと思ったが、それは彼を監禁している者達も分かっていたらしい。食事を供給していたのは、よく見ればストーンゴーレムだった。人の見張りは彼に食事を提供する際にゴーレムへ食事をトレイごと手渡して、受け取ったゴーレムがさらに扉のシャッターを開けて彼に食事を渡していたのだ。
まさか直接の見張りがゴーレムだったとは。おそらく、食事などを渡す事以外は大した行動はできないと思うが、これで彼が脱出する望みはなくなった。
地下牢と評するには、部屋は整えられていた。窓がない事を除けば、広さも十分で浴室とお湯を出すためのマジックアイテムがある分、二人で一室を使っていた宿舎の部屋よりもいいかもしれない。
食事も三食、普段と同じものが外側からしか開かない扉のシャッターから供給されている。
しかし、閉塞感は徐々に彼を追い詰めていった。
だが、そんな彼を女神は見捨てなかった。【ボティンの加護】を得たのだ。
「我が女神よ、感謝いたします! この恩寵に報いるためにも、一刻も早くここを出なくては」
そう決意を新たにするスミスだったが、残念なことにこの状況で加護を得ても何にもならなかった。
ボティンから加護を得た事を叫んでも、出された食事の一部をインク代わりにしてトレイに書いて伝えても、彼を監禁している者達からは何の反応もなかったからだ。
「くっ、神託を闇に葬ろうとする輩にとって、ボティンが私に加護を与えた事など些事だというのか……!」
神々から与えられる加護とは、簡単に言えば成長の伸び代の追加である。加護を与える神格によって、成長限界の壁が低くなり、レベルアップに必要な経験値が少なくなるだけだ。加護を与える神によって、特定の分野に関するスキルの習得やレベルアップがしやすくなる等の効果もあるが、主な効果はそれだ。
監禁されている状態で加護を得ても、レベルアップやジョブチェンジの機会がないので意味がない。しかし、加護を与えた女神の事を思えば自暴自棄になり自ら命を絶つような真似はできなかった。
今は忍耐の時。諦めず機会を待ち、いつか必ず神の言葉を伝えるのだ。彼はそう自分に言い聞かせ、監禁生活に耐える日々を過ごしていた。
そんなスミスは知らなかったが、ボティンから加護を得た事を、自分を監禁している者達へ伝えた事は現状を維持させる役に立っていた。
彼が属するボティン神殿の神殿長は、一見敬虔な聖職者に見えるが実際はアルダ神殿や権力者と繋がって私腹を肥やす背信者だった。政治を商売にする者を政治屋と揶揄するのに倣うなら、聖職屋と呼ばれるのがふさわしい人物だ。
そんな男だから、口先だけならともかく心からボティンを信仰している訳ではない。当然神託を受ける事なんて絶対に不可能。ボティン本人からすれば、「自分の信者を名乗ってはいるが、自分の信者ではない輩」である。
信仰に純粋で政治を知らず、「神の意志を蔑ろにするのか!?」と喚くだけの若者なんて怖くもなんともない。
だが、信仰心はなくても神を恐れる心はある。ボティンがスミスに加護を与えた事で、ボティンが彼を見守っていると理解した神殿長は彼に手出しする事で自分の身に神罰が下るのではないかと恐れた。
実際には、今の時代の神は過ちを犯した信者ならまだしも、神殿長のような根っからの背信者、もしくは偽信者を罰する手段をほぼ持っていない。
加護を与え、御使いをその身に降ろす事ができる敬虔な信者が道を踏み外し堕落したのなら、加護の剥奪や求められても御使いを派遣しないなどの罰を下すことができる。神託で直接語り掛ける事も、人によっては可能だ。
しかし、神殿長のように元から加護も【御使い降臨】スキルも持っていない者には、どれも実行できない。彼のような背信者を罰するには、直接神が地上に降臨して手を下す必要がある。
ただの背信者を罰する度に莫大な力を消費していては、いかに大神とはいえやっていけない。それこそ邪悪な神と契約を交わして人類絶滅のための計画を練っているとか、それぐらいでなければ神々が直接罰する事はない。……最近で言えばウルゲン・テルカタニスがそれだが、あれはアルダが気づく前にヴァンダルーが動いていた。
ではこうした背信者が出た時神々はどうするのかというと、直接手を出すことはない。自身の信者の自浄能力を信じつつ、自身の教えから正しいと見込んだ信者を応援し見守るのだ。
だから、通常なら神殿長は恐れからスミスの殺害ができず、そしてスミスはその信仰心と使命感から神殿長に屈する事や自害を選ばず、事態が膠着したまま時間が流れていたはずだ。
そんな悠長で良いのかとか、時間がかかっている間に犠牲になる人々の事はどうでも良いのかという意見もあるかもしれないが……どうしようもないのだから、どうしようもない。
毎日世界のどこかで、いずれかの神の信者である人間が財産や愛する者を奪われたり、犯されたり、殺されたりしているのと同じだ。
しかし、今のオルバウム選王国には神々の住まいである神域へ行き来し、不自由な神託とは比べ物にならない程自由に大量の情報や意見を交換できる、今までの歴史上類を見ない存在が滞在している。
食事が終わり、運動不足とやる事がない虚しさを解消するために腕立て伏せを始めた神官の前に、その存在は前触れもなく現れた。
「突然失礼します。あなたを助けるよう神から遣わされた者で、ヴァンダルーと申します」
「えっ? はっ? か、神の?」
「はい、神です。この場合はボティンから」
「い、いったいどこからどうやって!? それにこの部屋は空間属性魔術で入ってこられないよう、結界が張り巡らされているはずでは!?」
「オルバウムの自宅から、友人の空間属性魔術で【転移】してきました。なお、【転移】する場所を割り出すのを手伝ってくれたのは、このタダノさんです」
「チュー」
最近部屋の隅や換気口で見かけたネズミが、ヴァンダルーの髪の中から顔を出した。
「結界については、『この程度の障害を越えること等、赤子の手を捻るより簡単です』という事らしいです」
人であるボティン神殿長が準備した【転移】対策は、空間属性の邪神であるグファドガーンにとって藁で作った家に等しかったようだ。
そう説明されても理解が追い付かない様子のスミスだったが、驚きから立ち直りつつあった。
「あなたが、ヴァンダルーなのか? ボティンを封じていた魔王の封印を解いた、救世主の!?」
「ええ、そのヴァンダルーです。確認しますが、あなたはスミス・ウィローさんですね?」
自身の名を呼ばれたスミス・ウィロー……スミスは、感極まった様子で天を仰いだ。
「おお、やはり神は私を見放してはいなかった!」
実際、ボティンは加護まで与えたスミスの事を他の加護を与えた信者達と同様に気にかけていた。しかし、同時に助ける事を躊躇ってもいた。
神代の時代のように、ちょっと手を伸ばしてひょいと助けられるような気軽に解決できる問題ではない。それに、神である己が軽々しく動き、人間達自身に解決させる努力をさせなくていいのかとも悩んでいた。
そこでヴァンダルーが「じゃあ、人間である俺が動けば問題解決では?」と尋ね、ボティンが「ソウダッタネ、アンタハ人間ダッタネ」と、スミス達の救出を依頼したのだ。
ちなみに、ならついでにとペリアからも同様の依頼を受けている。
「では、さっそくここを出ましょう」
「待ってください、私には神託を人々に伝える義務があります!」
そうスミスは瞳に情熱の炎を燃やして主張した。
「その意思は尊重しますが、別にこの神殿から伝えなくてもいいのでは? いったん脱出して、安全な場所から伝えた方がいいのではないでしょうか?
それに、ここの神殿でボティンの神託を公表するには、神殿長やそれに与する人達をどうにかする必要があるでしょうし」
しかし、ヴァンダルーにそう諭されると、「たしかにその通りです」と言って肩を落とした。
「それに、今のところ神殿長は公に手配されているわけではないので叩きのめす事は憚られます。証拠を揃えて説得材料を確保して、他の神殿関係者や公爵を説得すればどうにでもなる気がしますが」
「それは……たしかに。私も、己の修行ばかり気にして周囲の人々と繋がる努力を……味方を増やす努力を怠ったつけが回ってきたのでしょう」
ヴァンダルーに諭され、スミスは自分の失敗に気が付いた。上役である司祭や神殿長を純粋に信じていたという理由もあるが、純粋に信じた結果薬を盛られて監禁されている。
もしスミスが本当に信頼に値する同僚や、神殿内で力のある司祭や高司祭、神殿外で頼れる知人友人を作っていれば、もっと他の選択肢があったはずだ。
「それは結果論ですし、あなたのように若い方に完璧である事を要求するのは厳しいと思いますから、そう自分を責めずにいきましょう」
「……私よりも若い未成年の少年に言われると、立場がないのですが」
「俺は皇帝ですがスミスさんは神官。こう言っては悪いですが、立場の違いですよ」
なお、多くの神殿でのいわゆる「神官」の地位とは神殿に住み込み、もしくは家から通って仕える者達がなる最初の立場、つまり平社員である。
神に仕える聖職者である事から社会的立場や信用は高く「神官様」と呼ばれるが、神殿という組織内では下の立場なのだ。
その上は神殿ごとに異なるが、神官の下に神官見習いという見習い期間を設けている場合や、侍祭が主任や係長、司祭が課長から部長、高司祭が専務や支社長に相当する。枢機卿は、アミッド帝国のアルダ大神殿のように複数の神殿を束ねる大神殿に存在する役職で、地球の企業で言えば大企業の重役に相当する。
ちなみに、冒険者や神殿に属さず辺境を巡回する「神官」は、便宜上呼ばれているだけで特定の神殿に勤務していない者達である。冒険者や巡回の神官達は社会的信用や、ある程度の神殿の援助を得る事が出来る。そして神殿は援助と引き換えに、魔物との戦いや村々の巡回で同じ神を奉じる者達が上げた功績にあやかる事ができる。
そんな持ちつ持たれつの関係なのだ。
そうした立場から考えれば、若い平社員でしかないスミスが幅広く多彩で緊急事態に頼れるコネクションを構築していない事を責めるのは、酷としか言えないだろう。
「あなたが受けた神託の内容を俺が保証すると言っても、疑ってかかる人には逆効果でしょうし、母さんがヴィダの名を出して保証すると言っても……やりすぎると揉める事になるでしょうし」
ヴィダの化身であるダルシアの発言力と信用は、オルバウム選王国では絶大だ。同じ大神であるヴィダがボティンの意志を伝えれば、公に否定できる者はいないだろう。
ただ、その場合ボティン信者達の顔を潰す事になるのであまりやりたくはないが。
「そういう訳で、とりあえず脱出しましょう。さ、手を」
「はい」
これから【転移】して脱出するのだろうと思ってヴァンダルーの手を握ったスミスは、次の瞬間草原に立っていた。
「っ!?」
それまで監禁されていた地下室では望めなかった解放感だが、驚愕に目を見開くスミスはそれに気が付く余裕もなかった。
「ここは俺のユニークスキルで作られた、特殊な空間です。ここでしばらく待っていてください」
手を握ったままのヴァンダルーがそう言って視線を巡らせると、そちらには城のような巨木があり、周りにはテーブルや椅子が用意されている。その椅子に腰かけたり、何故か巨木を拝んでいたりと、思い思いの事をして過ごしている数人の人影が見えた。
「あの人達は……?」
「信仰する神はそれぞれ異なりますが、あなたと同じような目に遭っていた人達です」
神託を闇に葬るために監禁や幽閉をされていたのは、自分だけではなかったのかとスミスは驚きと神殿に対する義憤を改めて覚える。
そして自分達を救出したヴァンダルーに対して、ボティンが味方するよう神託で指示するのにふさわしい人物だと確信した。
「用意してある軽食をとりながら、彼らと話してみてください。彼らもスミスさんと話したがるでしょうから」
「あなたはこれからどうするのですか?」
「あなたと同じような目に遭っている人達を助けに行きます。警備が厳しくて穏便に救出できないところは、皆に任せていますから。俺の担当はあと七人です」
同時刻、空間属性のゴーストであるジェーン・ドゥによって【転移】を繰り返しながら、覆面を被ったヴァンダルーの仲間達がファゾン公爵領以外の各神殿やその関連施設にスミスと同じ理由で監禁されている者達を助けて回っていた。
その手口は押し込み強盗よりも強引で、事情を知らない者にとっては「不殺の信念を持った人型の災害が神殿を破壊しながら突っ込んできた」と評するほかなかったという。
立ちはだかる者を問答無用で気絶させたり拘束して行動不能にし、立ちはだかる壁や床を拳や魔術で破壊して、追いすがる者をやはり蹴散らして去っていく。
同時多発的に複数の公爵領の神殿が襲われる事になるが、今のところ犯人につながる有力な手掛かりは得られていないそうだ。
その催しについて、最初ジャハン公爵領の人々は歓迎しなかった。
「奴らは聖歌を見世物か何かと勘違いしているようだ」
「ダークエルフやグールの歌と踊りなど、誰が見たがるものか。公爵様は、いったいどうしてしまったのだ」
「きっと長年の激務で心労が溜まったのだろう。お労しい事だ」
散々な言われようだった。彼らのほとんどはアルダ信者か、アルダが神々の長である事を前提にしたボティン信者であり、次いでナインロードやファーマウンなどの信者なので、批判だけで済んでいるだけまだマシと言える。
「ふん、面白い。未開の蛮族同然の連中の音楽がどんなものか、試してやろうじゃないの」
「ダークエルフやグールは初めて見るからな。噂じゃ、スキュラやアラクネもいるらしいぜ!」
「今夜は出てこないらしいぞ。鬼人と吸血鬼は出て来るらしいけど」
そして催し物を見に行く者も、楽しみにしているというよりは見定めに行く音楽家や吟遊詩人、そして物見遊山気分の一部の若者たちだった。
だが、それで彼女たちは構わなかった。最初から歓迎されるとは誰も思っていなかったからだ。そして、一度ステージの幕が開けば状況は変わると確信していたからだ。
「今までにない変化に富んだリズム、見た事もない新しい楽器の新しい演奏法……あの音楽なら、私が表現したかったものを形にできる!」
「俺、ヴィダに改宗するよ。父さんと母さんを説得して、絶対に」
「可愛い。とにかく可愛いんだ。ほかに何も言う事はない」
「あの太鼓のリズムと深い独特な歌声が、胸に響いたの。素敵……」
「あれから毎晩あのステージの夢を見るんだ。ステージの上で光っていた……ミラーボールっていうらしいんだが、それが夢の中でキラキラって……なんだか、見られている気がする。こうしている、今も」
一度催し物を見た者達は、まるで手のひらを返したかのように夢中になった。そうなると噂を聞いて興味を持った者や、怖いもの見たさで人々は催し物に足を運ぶ。不審に思い、何か怪しげな事をしているのではないかと調べるために来た者も加わる。
一方、何度ステージを見ても変化がない者も一定数いるが、何の意味もない。何故なら彼女たちはただステージの上で音楽と歌と踊りを披露しているだけだ。
怪しげな魔術や気化した薬、デーモンやアンデッドによるすり替わりなどは行われておらず。何の法にも反していない。
まさか「大人気だから禁止するべきだ!」という暴論が通るはずもない。そしてステージの幕は今日も上がる。
「終わりました……私の人生……もう軌道修正は無理です」
そして幕が下りた後、出演者達がシャワーを浴びて一息ついている楽屋の端で、ミリアムが突っ伏していた。
「いや、別に終わった訳じゃないと思いますけど」
「うむ、そう悲観的になるな。人生はこれからじゃ。今からならどうにでもなるものじゃぞ?」
その左右からカナコとザディリスがそう慰め、ミラーボール……照明用使い魔王も心配そうに見つめている。しかし、ミリアムは落ち込んだまま立ち直る様子を見せない。
「私だって、これが大事な仕事だってことはわかっていますよ。だから色々悩みましたけど【英導士】のジョブにも就いて、頑張りました。でも、その結果が『英雄姫』ですよ!? いったいなんでそうなるんですか!?」
ジャハン公爵領の世論をヴィダ寄りにするための、観客を絶対に導くアイドルライブ作戦。それに全力で協力した結果、多くの……特に高名な騎士や上級冒険者、魔術師ギルドの重鎮や歴戦の傭兵等のファンを獲得し、オルバウムでの評判も合わさって『英雄姫』という二つ名を獲得していたのだ。
「ザディリスさんっ、これもきっとあなたの呪いのおかげです! どうしてくれるんですかありがとうございます!」
「いや、あれは口先だけのものじゃし、ミリアム自身の頑張りによるものじゃから責められたり礼を言われたりしても、困る」
催し物が終わった後も、楽屋は賑やかだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
・名前:ミリアム
・種族:人種
・年齢:16歳
・二つ名:【魔王の友人】 【軍団長】 【英雄姫】(NEW!)
・ジョブ:英導士
・レベル:28
・ジョブ履歴:見習い盗賊 盗賊 弓術士 魔弓使い 暗弓士 魔弓士 聖弓士 魔聖弓士 弓姫 魔弓姫 指揮官
・パッシブスキル
気配感知:6Lv
弓装備時命中力増強:極大
非金属鎧装備時敏捷増強:極大(UP!)
精神耐性:8Lv(UP!)
暗視
能力値強化:導き:7Lv(UP!)
病毒耐性:3Lv(UP!)
自己強化:変身:3Lv(UP!)
導き:英道:2Lv(NEW!)
英道誘引:1Lv(NEW!)
能力値強化:指揮:1Lv(NEW!)
全能力値強化:小:(NEW!)
・アクティブスキル
農業:1Lv
家事:1Lv
短剣術:5Lv(UP!)
弓姫術:1Lv
鍵開け:6Lv
罠:5Lv
限界超越:1Lv(限界突破から覚醒!)
鎧術:8Lv(UP!)
魔弓限界突破:9Lv(UP!)
暗殺術:5Lv
御使い降魔:5Lv(UP!)
連携:7Lv(UP!)
指揮:7Lv(UP!)
舞踏:4Lv(UP!)
歌唱:4Lv(UP!)
料理:1Lv
楽器演奏:1Lv(NEW!)
・ユニークスキル
ヴァンダルーの加護
バシャスの加護
ゼルゼリアの加護
ハムルの加護
ヴィダの加護
●ジョブ解説:英導士 ルチリアーノ著
英雄を導く導士。……導士に導かれた仲間達がいずれ英雄となる、というのが英雄伝記によくある普通のパターンだが、このジョブは既に英雄になっている者や、英雄になれる資質を持つ者、そして英雄になる事を目指している者を対象としているようだ。
ミリアム本人は、自分はこんなジョブに就ける人間ではないと何度も口にしているが……今までの実績を考えれば十分あり得る事だと私でも思う。
●二つ名解説:英雄姫 ルチリアーノ著
【英導士】である事からつけられた二つ名……ではなく、ステージで歌って踊っている内にいつの間にかついていた二つ名のようだ。
おそらく、彼女のファンに上級冒険者や有名な騎士が多いからだろう。
次の話は4月29日に投稿する予定です。
本日児嶋建洋先生による拙作のコミカライズ版17話がコミックウォーカー、ニコニコ静画に投稿されましたので、閲覧していただければ幸いです。




