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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
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三百六十一話 不死者と悪魔、異形の存在に占拠された選王国首都

 会議会場として用意された部屋には、出席者の世話をするためのお付きの使用人……代わりのスケルトンが控えていた。彼等はお茶や飲み物を用意し、メモを取るための紙や筆記用具を渡してくれる。

 コービット選王はそのスケルトンが淹れた紅茶の香りを嗅ぐ事で、精神を落ち着かせた。


「まず今回の事件の顛末ですが……既に説明されている通りです。テルカタニス宰相が国を裏切り、異世界から現れた邪悪な神、ダークアバロンに魂を売り渡し、不正に集めた【魔王の欠片】を捧げ、魔王グドゥラニスが復活してしまった。それを、ヴィダル魔帝国皇帝ヴァンダルー・アーク・ヒルウィロウ・ソルダ・ザッカートが倒した。

 ここまでは構いませんね?」


 以前ならテルカタニス宰相が買って出ただろう会議の司会進行を、ジェターボ外務卿が引き受けて進めている。ちなみに、テルカタニス宰相は選王城の無事な部屋で気絶しているのが発見され、そのまま拘束された。今頃は城の牢獄に囚われているはずだ。……何とか原型は保っているが所々崩れている選王城ではなく、この骨の城の牢だが。


「異議あり!」

「そうだ! とても納得できぬ!」


「では、次にヴァンダルー魔皇帝陛下にお支払いする報酬ですが、陛下の望むものを全て差し出す。これに異議のある方はおりませんね?

 では、最後に我が国のヴィダル魔帝国に対する今後の外交政策について――」


「ジェターボ外務卿! 貴君の耳には何か詰まっているか、目を開いたまま眠ってでもいるのか!? 我々は異議があると言っているのだ!」

「そうだ! 先ほどから無視をするなど、無礼千万!」


 さらさらと話を進めようとしたジェターボ外務卿に食って掛かる、何人かの貴族達や神殿関係者。彼等に同調する者の中にヴィダ神殿長がいるのは、何かの冗談なのかとコービット選王は内心思った。

「バモン財務卿、モンベール伯爵、アルダ神殿長のアルベル殿、本当に異議があるのですか? それを口にして構わないのですか?」

「だからそう言っているだろう!」


 ジェターボ外務卿は、バモン財務卿達の言葉に渋面を浮かべてから「では、どうぞ」と発言を促した。


「言わせてもらうが、あのザッカート女名誉伯爵とその息子が語った事が真実だと何故信じられる!? そして何故奴らの要求に諾々と従おうとするのだ!?」


「たしかに都に魔物が溢れ、魔王は復活した! それを彼が倒した事も信じよう! ヴァンダルー・ザッカートは英雄だ、勲章と報奨金なら山ほど与えてやろう! 奴が事件を解決するのに犯した数々の不法行為にも目を瞑る! だが、奴が境界山脈の向こうに存在する帝国を治める皇帝であるなど、納得できん!」


「さらに! 報酬として貧民街の再開発事業やダンジョンの整備などを任せるとは、どういうことです!? しかも時期と程度を調節しながら我が国の英雄である『五色の刃』の評判を落とせとは……ヴィダの新種族だけならともかくアンデッドやデーモンを擁護し、権利を保障するための法整備を進めろとは、正気とは思えん!

 奴は国を割るつもりですぞ!」


 発言を促された途端、順番に鉄砲水のように意見を吐き出す三人。

 彼らが言ったように、コービット選王たちはヴァンダルーからヴィダル魔帝国の存在と自分がその支配者である事、そして今回の事件の顛末を知らされ、事件を解決した事による報酬として要求を受けた。


 それによると、ヴィダル魔帝国は約二百年前滅んだタロスヘイムに首都を置き、境界山脈の内側全て……つまりバーンガイア大陸の三分の一を支配しているだけではなく、さらに伝説の魔大陸と神話にのみ存在が記されている魔王の大陸を支配しているという。正確には、魔大陸と魔王の大陸で支配しているのは一部だけだったり、大陸の地下空間だけだったりするらしいが、それでも広大な領地を治めている事に変わりはない。


 今朝まで自国であるオルバウム選王国と、その敵国であるアミッド帝国とその属国が人類の中で一二を争う大国であると認識していたコービット選王達にとって、信じ難い事実だった。


 そしてヴァンダルーが要求した貧民街の再開発事業は、いくら救国……いや救世の英雄だったとしても、簡単には差し出せないものだ。

 街の再開発事業には利権が複雑に絡んでいるし、失敗すればオルバウムの将来に関わるので重大な責任が伴う仕事だ。いくら救世主だとしても、実績がない……それどころか経験や知識があるか分からない者に任せる訳にはいかない。


 さらに『五色の刃』の評判を落とすよう工作しろと要求された。

 ヴァンダルー達は、自分達が積極的に非難すれば人々の反感を生むと判断した事を、コービット選王やオルバウムの貴族……そして神殿関係者にさせようとしているのだ。

 しかし、要求された方としては堪ったものではない。特にアルベル神殿長を始めとした神殿関係者の受けた衝撃は、計り知れない。


 『五色の刃』のリーダー、ハインツがアルダの加護を、そして他のメンバーもそれぞれアルダ勢力の神々の加護を受けている事はオルバウムでは周知の事実である。しかも、ハインツが『英雄神』ベルウッドをその身に降ろすのを一部の冒険者が目撃している。


 その『五色の刃』の評判を落とすという事は、アルダ神殿……そしてアルダ融和派の評判を落とす事に繋がる。

 それに『五色の刃』のメンバーは名誉貴族でもあるので、彼らに勲章と共に名誉貴族位を与えたコービット選王自身の顔に泥を塗る事になる。

 それも、コービット選王達目線で『五色の刃』は現時点で問題のある行動や犯罪を侵した訳ではないのにだ。


 本来なら、このような要求に従う事は国辱に等しい。なので、バモン財務卿達も考え無しの感情論だけで反対しているわけではない。


「いくら救世主だからと言って何もかも求められるままに差し出すのでは、悪しき前例となる! 『生命と愛の女神』ヴィダの言葉はこのオルバウム中に響き渡り、私も含め聞き逃した者はだれ一人としていないだろう! しかし、ヴィダは『ヴァンダルーに全てを差し出し、彼の言葉に盲従せよ』等とは言っていない!

 事業を任せる前に、まず彼に貴族位と勲章を選王の名で与えた後に知識と実績のある人物を送り込み、各方面と事業内容を話し合ってから決めるべきだ!」


 バモン財務卿は、これを機会に貧民街の再開発を行うこと自体は賛成だった。都市全体を再生しなければならないのだから、いい機会だと考えている。しかし、ヴァンダルーに任せて成功すると期待できないので反対しているのだ。

 ……もちろん、ヴィダの新種族に対する差別意識や『他の公爵領に所属する名誉貴族の子息が、我々中央領の貴族を差し置いて重要な事業を牛耳るなど許さん!』というプライド、そして利権に噛んでおきたい思惑もある。


「ジェターボ外務卿! ヴィダル魔帝国が実在するのか確かめるのが先ではありませんか!? 私は時間の無駄だと思うが、奴と関係が深いアルクレム公爵や最近接触を繰り返しているジャハン公爵から情報を収集し、二百年前タロスヘイムと交易を行っていたハートナー公爵家にも協力を要請するべきでしょう」


 ジェターボ外務卿と同じ外務系の職を歴任してきたモンベール伯爵は、ヴィダル魔帝国の存在を完全に疑っているが、情報を収集するよう訴えた。そうすれば、信憑性のある情報や証拠が見つかるかもしれないと。真偽、どちらの確実性が増す情報や証拠なのかは、あえて口にしなかったが。


「評判を落とせとは、自分の手を汚さず我々に汚れ仕事をさせようとは言語道断! それに今も町にはデーモンやアンデッド、正体不明の魔物が……忌々しい!

 奴らを一刻も早くオルバウムから叩き出すべきであると主張いたします!」


 しかし、アルベル神殿長はほぼ感情論だけでヴァンダルー達を口撃していたようだが。だが、アルダを始めとした神々を信仰する神殿では、多くの場合アンデッドを不浄の存在として教えている。それにオルバウムの多くの国民が、アンデッドやデーモンに対して抵抗があるのは事実だ。

 神殿長だけの感情の問題ではない。


「……財務卿達の意見は以上のようですが、いかがしますか?」

「検討するに値しない。会議を進めよ」

「はい。では会議を進めます」

「「「何故そうなる!?」」」


 バモン財務卿達と彼らに同調する者達が苛立った様子で声を荒げるが、それ以外の者達はどこか白けた様子で彼らを眺めていた。中には憐れみの視線を向ける者や、ただただ顔を青ざめさせる者もいる。

 その態度に激高したのか、モンベール伯爵が拳を円卓に振り下ろした。


「いくら奴が『救世主』でも、配慮が過分だとは思わないのですか!? 功績は称えるべきだが、法や慣習を無視するべきではない!

 命を救われた恩や、ヴィダだったとしても大神から称えられた事を考慮しなければならないでしょう。しかし、奴が行った違法行為や越権行為、テイマーギルドとの癒着等を利用すれば如何ようにもできるはずだ!」


 モンベール伯爵が力説するのを見て、コービット選王の心が動いた。このまま彼等を放置しておくのは拙い。現実を教えてやらなければ彼らが何かしでかした場合、自分にも責任が及ぶ。

(今朝までの常識が通じなくなったと、何故理解できない? いや、理解したくないのか、ショックが多くて思考能力がマヒしているのかもしれんな)


「お前達が言いたいことは分かった。だが、我が国はそれどころではないのだ。我々がヴァンダルー皇帝陛下の全ての要求に従い、言われるままに報酬を差し出す理由はシンプルだ。

 命と国を救われた恩でもなければ大神に称えられた者に対する敬意でもなく、さらに言えば『魔王殺し』の英雄を称えるためでもない。……もちろん、それらの理由が全くない訳ではないが、最大の理由に比べれば小さい理由だ」


 淡々と語るコービット選王の言葉に、バモン財務卿はけげんな顔をした。彼の言う通りなら、何故ヴァンダルーに言われるがまま従おうとするのか。


「では何故、要求に従うのか。それはヴァンダルー皇帝陛下と、オルバウムに存在している彼の仲間や従魔達だけで、我がオルバウム選王国の総戦力を軽く上回るからだ」

 それは至極シンプルな理由だった。自分達より、ヴァンダルー達の方が圧倒的に強いから要求に従うしかない。


「そ、そんな馬鹿な! 本気で言っているのですか、選王陛下!?」

 そう説明されてもすぐに理解できなかったモンベール伯爵がそう聞き返すが、コービット選王も司会役のジェターボ外務卿も冗談を言っているつもりはなかった。


「信じられないか? では専門家の意見を確認してみよう。ファザリック・ドルマド軍務卿、説明せよ」

 それまで発言せず、青い顔をして小刻みに震えていたドルマド軍務卿はそう指名されても震えるのを止めなかった。


「陛下、私は軍務卿の職を辞そうと思っており――」

「儂も選王を辞め、公爵家の家督を息子に譲りたいのを耐えているのだ。お前だけ楽になるのは絶対に許さん。それに、ヴァンダルー皇帝陛下からの要求にも『色々面倒だから、辞職したい人は最低限街の再建が済むまで待て』とある」


 辞意を拒まれたドルマド軍務卿は、観念したように深く溜め息を吐き、モンベール伯爵達に説明を始めた。

「まず、冷静に思い出してほしいのは……ヴァンダルー皇帝陛下は復活した魔王グドゥラニスとほぼ一対一で戦い、勝利している。従魔であると主張しているヴィダの新種族やアンデッドやデーモンも戦闘に加わっているが、グドゥラニスも僕を戦力として使っていた。

 それに結局、直接刃を重ねていたのは主にヴァンダルー皇帝陛下だったと、『真なる』ランドルフから報告をうけている」


 貴族達の視線が、会議を行っている部屋の壁際で椅子に座っているランドルフに集まる。ヴァンダルー達と共に戦った彼の報告は、彼らにとって信頼に値するものだった。

「だが、そのランドルフや『五色の刃』達も戦いに加わったはずだ!」

 中にはこう反論する者もいたが――


「俺と『五色の刃』が主に戦ったのは、グドゥラニスが創った下僕だ。しかも、俺に至ってはその下僕一匹に苦戦を強いられた。ヴァンダルーとその仲間の援護を受けなければ、危なかっただろう。

 『五色の刃』はヴァンダルーと連携する事が出来ず、結果的にグドゥラニスの僕を五匹……いや、六匹倒したが、肝心のグドゥラニスやそれ以前のダークアバロンとの戦いでは足を引っ張るだけだったようだ」


 ランドルフ本人が反論を叩き潰した。もっとも、ヴァンダルーが六道聖ごとハインツ達を殺そうとしていた事に関しては「連携が出来なかった」と「足を引っ張っただけだった」と言い直した。


 ヴァンダルーと『五色の刃』は公には交流がない事になっている。それでいてヴィダ原理主義とアルダ融和派で、両者の掲げる主義主張がぶつかっているため、報告したのがランドルフである事も手伝ってそうなっても仕方がないと納得され否定する者はいなかった。


「たしかに、ヴァンダルー・ザッカートが規格外の戦力を保有しているという事は理解しました。だが、力に屈して法秩序を蔑ろにしては――」

「規格外、程度ではない。我々の常識の埒外、神話で語られるグドゥラニスの軍団と比べても遜色ないだろう。我が国とアミッド帝国が奇跡的に軍事同盟を結んで、全戦力を振り絞って戦ったとしても、どんな負け方をするかも選べず蹂躙されるだけである事を理解していただく」


「なっ!? 馬鹿な、いくら何でもそこまでではないだろう!?」

 バモン財務卿はドルマド軍務卿の言葉に目を剥いて驚くが、そのバモン財務卿の態度にこそ、ドルマド軍務卿は驚いた。軍事は専門外としても、何故そこまで理解できないのかと。


「まず、皇帝陛下自身の強さを分かりやすく説明すると……『真なる』ランドルフを敵に回すより恐ろしい。さすがにここまで言えばわかるだろう。

 そして強力な従魔の数々……君達は忘れているかもしれんが、今我々がいるこの建物も、その従魔の一体だ。あの空を飛んでいた骨の群れだよ」


「っ!?」

『おおん?』

 ドルマド軍務卿の言葉に、意識から逸らしていた事を指摘されたモンベール伯爵やアルベルアルダ神殿長が、小さく呻く。そして、自分の事が話題に出て気になったのか、クノッヘンが短く声を出した。……伯爵達が座っている椅子や、囲んでいる円卓すら、クノッヘンの一部である。


『ヂュ、私はクノッヘンではなく骨人と申します』

 そして骨人もここに混じっていた。


「くっ! だが、我々には『六方陣』やランドルフ、そして優秀な英雄達がいる!」

「期待を裏切って悪いが、俺は力にならないぞ」

「なっ、なんだと!?」

 ランドルフの言葉に、バモン財務卿の目が零れ落ちそうなほど見開かれた。


「どういうことだ!?」

「どういうことだも何も、言葉通りだ。俺は今メオリリスの依頼で雇われ講師をしている。なんで生徒と武力衝突しなけりゃならないんだ」


 今までバモン財務卿やドルマド軍務卿、そして公爵達の依頼を「あんた達の先祖には世話になったから」という理由で引き受けていたランドルフが、今回は拒絶するとは思っていなかったようだ。

「だ、だがその依頼が終われば――」

「悪いが、次の依頼はもう入っている。ステージで楽器の演奏をする予定だ」

 ランドルフのスケジュールは、既にカナコによって掌握されていたのだった。


「馬鹿な! そんな事が許されると思っているのか!?」

「許されないなら、どうする? 冒険者ギルドから資格を剥奪するか? それとも罰金か? 他の冒険者や自慢の『オルバウム六方陣』や『五色の刃』に俺を罰するよう依頼でもするのか?」


 言い返されたバモン財務卿は、愕然とした。冒険者を引退したがっているのを自分達が止めた経緯のあるランドルフにとって、冒険者ギルドからの資格剥奪は何の罰にもならない。罰金を科しても、S級冒険者としての腕は落ちていないので、すぐに稼いでくるだろう。そして腕利きの精鋭や同格以上の冒険者を刺客として雇うにしても、『五色の刃』はオルバウムから何故か去って行ってしまって不在。


 思わず『オルバウム六方陣』の方を見ると、彼らは黙ったまま首を横に振った。

「そんな……では、本当にどうしようもないのか……」

 強大な力を持つ超人を法秩序の中に留める方法が、今のランドルフには通じない。そしてそれはヴァンダルーも同じである事をバモン財務卿は理解し、燃え尽きたようにがっくりと肩を落とした。


「バモン財務卿、まだ方法はあるはずです!」

「そうです! 汚らわしいアンデッドやデーモンを操る奴を、民が支持するはずはありません!」

 そう力説するモンベール伯爵と、アルベル神殿長。しかし、彼らはまだ理解していない。


「民が支持するか否かも、我々にとっては些末な問題なのですよ。もし多くの民が皇帝陛下と従魔の方々を支持しなかったとしても、皇帝陛下は事業を実行するでしょう。その場合、旧貧民街は堅牢な骨の城壁で隔離され、オルバウムは物理的に二分される事になりかねない。

 ……もっとも、民がヴァンダルー皇帝陛下を支持しないとは考えられんが」


「だ、だが、奴らはアンデッドやデーモンを……」

「アンデッドやデーモンが何だというのかね? 皇帝陛下は以前から従魔としてアンデッドやヴィダの新種族を街に入れ、共に生活し、屋台を営業した。そして、今回の事件では混乱に際して多くの民を助けた。王侯貴族も貧民も、アルダ神殿の関係者でさえ、分け隔てなく。

 選王陛下や我々もそうでしょう? テルカタニス宰相に化けていたのは驚いたが」


「ドルマド軍務卿の言う通りだ。そして、ヴァンダルー皇帝陛下にはダルシア殿がいる。ヴィダの御使いどころか、ヴィダそのものを降ろす事ができる稀代の英雄だ。彼女の息子を支持しないヴィダ信者は、アルダ融和派と親しい者も含めてそういないだろう。ここに一人いるようだが」

 コービット選王がドルマド軍務卿の言葉に続けてそう言うと、アルベル神殿長に同調していたヴィダ神殿長が小刻みに震えながら押し黙り、視線を落とした。


「対して、我々はどうだ? 今回の事件の主犯は異世界から現れた謎の邪悪な神、ダークアバロン。その走狗に下り国を売ったのは、我らがテルカタニス宰相だ。そして、我々は民を守るどころか、自分達の身を守るのが精いっぱい。それでさえ、皇帝陛下が用意した避難所の世話になる始末だ。

 我々は民の信頼を失ったのだよ。今後、民がどちらを頼りにするか考えるまでもあるまい」


 テルカタニス宰相の件は、避難している人々はまだ知らない者が多い。だが、もみ消そうとしても、テルカタニス宰相本人の身柄はクノッヘンに抑えられている。自分達から発表するか、ヴァンダルー達が暴露するか、そのどちらかなら、前者の方がまだマシだろう。


 関与したのは宰相だけのようだが、歴史に残るスキャンダルが自分の任期中に起きた事を考えると、コービット選王は胃が痛くなる気がした。


「そして境界山脈の向こうや魔大陸、魔王の大陸に存在するらしい魔帝国だが……もし虚偽だったとしても今の段階で我々はヴァンダルー皇帝陛下をどうにもできないのだ。本当だったとしても、どうにもできないのは何も変わらん。

 『真なる』ランドルフには断られ、『五色の刃』はエドガーがグドゥラニスに殺され、残りは行方不明。『聖槍』のヘンドリクセン達若い英雄は……ヴァンダルー皇帝陛下の親友と弟子で構成された『ハート戦士団』と交流を深めていると聞いた。騎士団と『六方陣』だけでは、対抗するのは不可能だ」


 ヴィダル魔帝国については、真偽に関わらずオルバウム選王国が何をどうしても対抗できないのは変わらない。そして、もし本当だった場合は何が何でも友好国にならなければ国として終わる。

 もちろん、この決定でオルバウム選王国は割れるだろう。『五色の刃』を援助してきたファゾン公爵や、アルダ信仰の強い公爵領では揉めるはずだ。


 しかし、それでもコービット選王にはヴァンダルーを支持し、その言葉に従わなければならない訳がある。何故なら、彼が圧倒的強者だからだ。

「では、会議を続けよう」

 コービット選王がそう促した時、もう異議を述べる者はいなくなっていた。




 今回の事件では、ヴァンダルー達の活躍によって犠牲は最低限に抑えられた。しかし、六道が街中にダンジョンの入り口を出現させたために、最初は手が回らず死者を完全に抑える事は出来なかった。


『皆、死んじまったな』

『ああ、まさか全員死んじまうなんてな』

『誰か一人ぐらいは生き延びていると思ったんだけどなぁ』

 三つの人影が、瓦礫の山をぼんやりと眺めながら話し合っていた。彼等三人は貧民街のチンピラ仲間で、ケチな悪事を働くのも、捕まって強制労働をさせられるのも一緒だった。


『お前、今度屋台を始めるって言ってたじゃねぇか! 真っ当に生き直すんじゃなかったのかよ!』

『冒険者になるって、ガキみたいな事を言ってたじゃないか』

『お前は、好きな女に告白して所帯を持つんじゃなかったのかよ……なのに……』


 三人は捻じ曲がった角が生えた頭部を抱えて嘆いた。

『『『死んでデーモンに転生しちまうなんて!』』』

 なんと、死んだのは彼等自身であり、しかも彼らは【デーモンルーラー】になったヴァンダルーによってデーモンへと転生していたのだった。


『マジでどうするかなぁ。彼女、俺に角と翼が生えて目が白目の部分まで真っ赤になっていても身請けされてくれるかなぁ』

『まあ、ヤギ面になるよりはマシなんじゃねぇか? 俺の屋台は完全に駄目だよな。客商売だし』

「オルバウムで厳しかったら、アルクレム公爵領の街で営業してみてはどうでしょう? あそこならデーモンくらい大丈夫ですよ」


『マジですか!? 良かったな! ……それで、俺の冒険者として再出発する計画もどうにかなりませんかね?』

「冒険者は今のギルドの制度では厳しいですが、俺の国で探索者をするのはどうでしょう? もしくは、誰かにテイマー役を頼んで、従魔として活動するとか」


『従魔かぁ。美人のおねーさんの従魔ならそれも……』

「ところで、あなたの思い人らしい女性は無事に避難している事を確認しました。近いうちに会ってみてはどうですか?」

『あ、はい、ありがとうございます、ヴァンダルーの兄貴』


 三匹のデーモンと化した男達がぼやいているところに、通りがかったので声をかけていたヴァンダルーは「いえいえ」と応じた。

「でも、今日は作業に集中してくださいね。城壁の修復は終わったので、街の瓦礫の撤去や、無事な家財の回収をよろしくお願いします」


『『『はいっ! ヴァンダルーの兄貴!』』』

 グドゥラニスと戦っていた時はもっと無機質な様子だったデーモン達だが、転生して一段落すると生前の人格や記憶を思い出し、言動も変化した。


『ところで、再開発って事は名前も変わるってことですよね!? だったらヴァンダルー街って名前にしませんか!? 真ん中に兄貴の銅像をバーンッて建てて!』

『おいおい、センスがねぇな。こういう時は名前じゃなくて姓を使うんだよ。ザッカートストリートってのはどうです? 通りの左右には高い建物を建てて、一階は貸店舗、二階からは集合住宅にして、お洒落な街にしましょうぜ』

『何言ってんだ、まずはここに兄貴を奉る神殿を建てるに決まってんだろう!』


「……観光名所も必要でしょうけれど、俺の神殿はもってのほかです」

 ただ、ヴァンダルーを熱狂的に支持している事は変わらなかった。ただ忠実なのではなく、隙あらばヴァンダルーを奉ろうとするので、少々厄介である。


「とりあえず、貧民街に六道が創ったダンジョンの出入口を設置して、周囲にギルドの支部や解体施設、武具店や飲食店や宿泊施設、歓楽街を置く予定です」

『なるほど、ダンジョン目当てに集まる冒険者と、冒険者目当てに集まる商人から金をとる街ですね。さすが『歓楽街の真の支配者』だぜ』


『ダンジョンの周りには、屋台が集まる広場を作るんでしょう? 兄貴は『屋台王』だからな! このオルバウムでも『屋台王』の座を狙うはずだ!』

『ですけど兄貴、冒険者を集めるなら、ゲン担ぎのために神殿は必要なんじゃないですかね?』

 本当に隙あらば奉ろうとするので、厄介である。


『失礼します』

 その時、虚空からサムが現れた。

『坊ちゃん、クワトロ号と協力して希望者のジョブチェンジが終わりました! 坊ちゃんはどうします?』


 ジョブチェンジ部屋を搭載しているサムとクワトロ号は、激しい戦いを終えた冒険者や騎士達に部屋を解放していた。ギルドの建物もほぼ崩壊していたため、レベルが100になっていてもジョブチェンジできない者が大勢いたので、とても喜ばれた。


「サム、助かりました」

『あ、兄貴~』

 これ幸いと、ヴァンダルーはサムの荷台に上がる。これで銅像や神殿、地名の命名の話題から離れる事ができる。


『先ほどの話ですが、ステージは建てなくてよろしいので?』

「屋内ステージは、もう避難所と兼用の物が三つありますから十分かと思いまして。でもまあ……サムが言うならカナコと、この国の財務卿とでも話し合ってみましょう」


 クノッヘンの中に置いてある使い魔王からの情報では、心が折れている様子だから素直に話を聞いてくれるだろう。

 そしてジョブチェンジ部屋に入り、水晶球に触れた。


「む……っ!?」

 そして驚いて目を見開き、思わず水晶から手を離して後ろに下がる。

「今のはいったい……気のせい? もしくは過労のあまり瞬間的に寝て夢を見たのか……グドゥラニスの魂を吸収した副作用とも考えられますが……」


 そう口では言いながらも、ヴァンダルーは何が起こったのか理解していた。していたが、それを否定したくてたまらなかった。

「……どちらにしても、確かめた方がいいでしょう」

 現実を否定しても仕方がない。ジョブチェンジを先延ばしにするだけならともかく、永遠にしないわけにはいかないのだから、事実を認識するためにも何が起きているのか確認しなければならない。


「とう!」

 覚悟を決めたヴァンダルーは、掛け声を出して再び水晶球に触れた。脳内に、ジョブチェンジ可能なジョブが表示される。




《選択可能ジョブ 【堕武者】 【蟲忍】 【蝕呪士】 【創造主】 【タルタロス】 【荒御魂】 【冥群砲士】 【冥獣使い】 【虚影士】 【バロール】 【アポリオン】 【デモゴルゴン】 【魂喰士】 【神喰者】 【ネルガル】 【羅刹王】 【シャイターン】 【蚩尤】 【ウロボロス】 【ルドラ】 【血統者】 【魔電士】 【陰導士】 【ジャガーノート】 【狂筋術士】 【アポピス】 【アザトース】 【饕餮】 【導主】 【転導士】 【霊導士】 【虚界神魔術師】 【神霊理士】 【真魔王】(NEW!) 【ヴァンダルー】(NEW!)》




 ヴァンダルーがジョブチェンジ可能なジョブ、【ヴァンダルー】。

「何故、俺がジョブに?」

 ヴァンダルーの問いに答える者は、ジョブチェンジ部屋が防音仕様だったため誰もいなかった。


次話は2月24日に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
今話は…我々の腹筋に試練を与えに来てるに違いないwww ハライテエwwwww
ドマド軍務卿、かっこいいこと言うじゃない。あんたが法の神だよ
ステータス神たちの苦肉の策がオモロいw
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