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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
441/515

三百五十二話 混沌の都に女神降臨

遅くなりなりました。

前回掲載していたクノッヘンとクワトロ号のステータスに誤りがあったので、改めて掲載しています。

 グドゥラニスの本能を目覚めさせてしまった六道が叫んだ魔物に対する命令は、その言葉の意味が聞き取れない距離にいるオルバウムの人々にも恐怖を覚えさせた。

 それは魔王グドゥラニスが現れてから十万年以上の長きにわたり、魔物の脅威に晒され続けた『ラムダ』の人々の本能的な恐怖に触れたからかもしれない。


『ひぃっ!?』

 だが、魔物と人間以外の存在も本能的な恐怖を覚えていた。

「ど、どうしました、ルヴェズ殿!?」

「まさか強敵がどこかに!? 先ほどの恐ろしい叫びの主ですか!?」


『な、何でもない! 気にするな、ラインハルト……君』

 思わず短い悲鳴をあげたのは、『暴邪龍神』にして『パウヴィナのペット』、ルヴェズフォルだった。彼は今、複数の神殿や冒険者やテイマーギルドがある大通りに、ラインハルト達パウヴィナのパーティーメンバーと共に避難誘導と避難所に着くまでの護衛をしていた。


(今の脳髄から凍り付くような怖気は、間違いない。グドゥラニスだ! しかも復活したのはただの欠片ではない……まさか魂の欠片か!?

 アルダかロドコルテか知らんが、なんて事を!)


 十万年以上前、龍でありながらラムダ世界を裏切り、グドゥラニスに下ったルヴェズフォルだったが、グドゥラニスに対して忠誠心を持ち合わせてはいなかった。それは、ごく少数の例外を除けば魔王軍の邪神悪神すら同じだった。


 実際、戦争を生き延びた魔王軍残党にも、グドゥラニスの復活を本気で望んでいる者はいなかった。

 【魔王の欠片】を集めたり、封印を解除して信者に寄生させたり、利用する者は多かった。信者達はグドゥラニス復活を唱えて真剣に取り組んでいる場合も少なくなかった。


 しかし、実際に魔王軍残党の邪神悪神達の中にグドゥラニスの復活を心から願う者は殆どいなかった。中には、ラヴォヴィファードやゼーゾレギンのように、グドゥラニスに代わって新たな魔王となりこの世界に君臨する野望を抱いていた神もいた。


 それはグドゥラニスの魂の欠片を封印しているのが『法命神』アルダ、そしてロドコルテであるため、肉体の欠片しか手に入れられないから復活させることが不可能だと考えていたからだ。

 アルダが管理している魂の欠片の封印は、困難だが手に入れられる可能性はゼロではない。万年単位の巧みな陰謀を巡らせ、それが成功すれば、というものだが。


 だが、ロドコルテが管理している欠片はどうしようもない。なにせ、ロドコルテの神域はラムダ世界の外にあるのだ。自力で異世界に転移する事ができない魔王軍残党の邪悪な神々は、手出しできない。

 奇跡的に陰謀を成功させ、アルダが管理している魂の欠片を全て奪い、世界に散らばっている肉体の欠片を集めたとしても、魔王グドゥラニスは完全復活できないのだ。魂が半端な状態でも異世界を渡る事ができればロドコルテの神域に攻め込む事も可能だが、それはやってみないと分からない。


 しかし、それだけなら魔王軍残党の邪悪な神々の中に魔王グドゥラニス復活を掲げる者はいたはずだ。そうならなかったのは、グドゥラニスの人徳の無さ。そして恐怖からだ。

 グドゥラニスは圧倒的な力と、それを配下にも躊躇なく振るう恐怖によって魔王軍を支配していた。そのため、苦労して復活させたとしてもその働きに報いてくれる存在だとは、考えられなかったのだ。


 それどころか、魂を砕くことができる……神々を完全に滅ぼす事ができる存在が復活してしまう事を、邪悪な神々も恐れていた。

 だから、魔王軍残党の多くの神々にとってグドゥラニスの肉体の欠片は、信者に与えるパワーアップアイテムか、かつてこき使われた憂さを晴らすために利用する道具でしかなかったのだ。


(だというのに、どういう事だ!? 何故、魂の欠片が復活している!? 転生者が関わっているという事は、ロドコルテか!? 奴はヴァンダルーごとこの世界を滅ぼすつもりなのか!?

 だが、ヴァンダルーに加えてグファドガーン達がいる。それに『五色の刃』も駆けつけたはず。なら、グドゥラニスが完全復活する前に倒せるはずだ。今はそれよりも……)


 そしてルヴェズフォルも、グドゥラニスの復活を歓迎していなかった。

『それより、あの叫びは魔物の本能に訴える。テイマーギルドの従魔共の様子はどうだ!?』

 今はそれよりもパウヴィナ、そしてヴァンダルーからの指令を果たす事が優先される。人間達の避難誘導と、その護衛を、グドゥラニスの咆哮にビビって失敗しましたなんて許されるはずがない。……そう彼は思い込んでいる。


 彼らがいるのは、テイマーギルドが所有する施設に作ったという事になっている、避難所用ダンジョンから多くの人々が集まっている中央広場に繋がる大通りだ。

 彼ら以外にも、ヴァンダルーが根回しをしたわけでもないのにテイマーギルドのテイマーが魔物と戦い、避難誘導を行っている。当然、従魔の数も多い。


 魔物の魂が輪廻転生するためのシステムを作ったグドゥラニスの叫びは、従魔になっていても魔物達の本能を揺さぶるのだ。


「えぇ!? じゃあ、ルヴェズフォルさんも拙いじゃないですか! パウヴィナ様を呼びますか!?」

『わ、我は知能が高いから平気だ! パウヴィナ様の邪魔をするな!』

 だが、本来は龍であるルヴェズフォルには効かない。それを知能が高いから、という理由でラインハルト達に納得させようとする。


『我以外の従魔がおかしな動きをしていないか注意しろ!』

「いや、お前の様子も十分おかしいと我は思うが?」

 そこに現れたのは、獅子の頭に四本の腕を持つ灰褐色の肌をした戦士の肉体を持つ大男。一見すると魔物だが、そうではない。


『ヴィガロ! お前は黙って魔物との戦いに集中してはいかがでしょうか!?』

「……その珍妙な口調に、急に怯えたと思ったら、数秒物思いに耽り、大声を出す。お前の様子がおかしいのは、事実だ」

 現れたヴィガロの言葉に、ラインハルト達が動揺して「た、たしかに!?」や「俺、パウヴィナ様を呼んできます!」と言い出す。


『止めろぉっ! 口調は元からだ! 我は正常だ!』

 ワイバーンの姿で子供の手伝いをしている今の自分が龍として、亜神の末席に座す者として正常と言えるのか? そんな考えが過ったが全力で意識の隅に追いやって、ルヴェズフォルはヴィガロや、周りにいるテイマーの従魔達に視線を飛ばした。


 テイマーの従魔達は動揺している個体が多いが、グドゥラニスの命令に応えている様子はない。そして、空に浮かんでいるクワトロ号やクノッヘンには、動揺した様子も見られない。

『門から出現する魔物以外には、問答無用で従わせる程の強制力はないのか。それとも導かれた存在は関係ないのか? こちらは助かるが』

 味方が急に敵になるなんて、この混乱した状況では悪夢でしかない。


『何より、ヴィダの新種族には影響はないようだ』

 動揺も何もしていない様子のヴィガロにそう答える。

「何の心配をしているか分からんが、お前達は大丈夫なのか?」

『何っ!? 我が裏切るとでも思っているのか!?』

 ヴィガロに言い返されたルヴェズフォルは、思わず悲鳴のような声をあげてラインハルト達にぶつからないように距離を取り、尻尾を地面に降ろした。そしてどうやって誤解を解くか、必死に考える。


「いや、ついさっきからだが急に魔物が凶暴になっただろう? それでお前達だけで大丈夫かと聞いただけだが?」

 そう言いながら、背中に生やした霊体の腕で背後に迫っていた蟹に似た魔物を叩き潰すヴィガロ。いくら凶暴になったとしても、彼ならランク6程度なら振り向かなくても倒す事ができる。ルヴェズフォルも、力を封印されていてもランクアップを重ねているため魔物相手にそうそう後れを取る事はないだろう。


 しかし、ラインハルト達は違う。彼等もヴァンダルーのスパルタ修行を受けた猛者で、同年代の少年少女よりも圧倒的に強い。しかし、彼らがほぼ確実に倒せるのはランク4の魔物までだ。全員でかかっても、ランク5の魔物がせいぜいである。


「だ、大丈夫です! 僕達では倒せない魔物はパウヴィナ様が倒してくれていますから。それに、ルヴェズフォルさんやレギオンさん達が助けてくれていますし」

 そう主張するラインハルトは今日まで何度もプライドと自分の中の常識をパウヴィナやヴァンダルーに砕かれ続けた少年だ。


 おかげでもうパウヴィナに向ける視線には信仰心すら宿っている。そのためか、言葉を話すワイバーンに、急に増えるヴァンダルーの従魔、そして今街を襲う緊急事態にも、驚きはするが混乱せずに行動できるようになっている。


 以前の彼ならグールにタメ口で話しかけられただけで不機嫌になっただろうが、今ではそんな事はない。

(この人は初めて会うが、見た目からして尋常なグールではない。さっき振りかえりもせず強力な魔物を一撃で仕留めていたのがその証拠だ。

 それに、パウヴィナ様の名前を呼ぶ時に声に親しみがある。きっと昔からの知り合いに違いない)

 という事も素早く読んでいる。パウヴィナとの出会いは、彼に処世術を学ぶ機会も与えたようだ。


「レギオンもこっちに来ているのか?」

『そう、我々も来ているのだ! ふははははっ!』

『大都市だって聞いていたけれど、想像していたより動きづらいわね。私達も亜空間を移動できるようになれたら楽なんだけど』

『それは難しそうだねぇ。ワルキューレ、ヨモツイクサ達の指揮を頼むよ』


 ヴィガロが尋ねた時に建物の壁を粉砕しながら現れたのは、直径二メートル半ば程の肉の球体。レギオンだった。

 その背後には瓦礫や自分達の肉を利用して作った担架に怪我人を乗せて運ぶヨモツイクサが続いている。

『はっはっは! 任せておけ! ヨモツイクサ達よ、我らの肉から生まれた勇猛なる子等よ! 今はその牙を抑え、生者を生け捕りにして運ぶのだ! 情けは無用っ! 抵抗する者も逃げる者も従う者も区別せず、無傷のまま生け捕りにして我らに続け!』


 レギオンの人格の一人、ワルキューレはそう指揮しながらヴィガロがいたのとは別の区画の一般人を保護してきたのだ。突然現れた喋る肉塊と、全身に皮膚がなく鋭い牙と鉤爪を生やした二足歩行の人型生命体に驚いたり怯えたりする人々を強制的に。


『今更だけど、従う人まで縛る事はなかったんじゃないかねぇ?』

『イザナミ、ヨモツイクサは私が手術しても知能が低いから、人を無差別に生け捕りにしろって命じるしかないのよ』

『はっはっはっ! そういう事だ! それに、ヨモツイクサに抵抗できる武勇の持ち主なら、自力で逃げられるはずだからな!』


 ちなみに、レギオンもグドゥラニスの影響は受けていないようだ。彼女達の生まれは特殊だが、魔物ではないので当然であるが。


「なるほど。しかし、妙に小さくなっていないか?」

 本来ならレギオンは、スキルを使って巨大化しなくても直径数十メートルはある肉の球体だ。それに、先ほどから話しているのはワルキューレとイザナミ、そしてイシスの三人だけ。その事を尋ねると、ワルキューレがはっきりと答えた。


『おお、ヴィガロか! うむ、現在我々は分体して任務を遂行中である!』

「分体?」

『うむ! 我々は救助チーム! そして――』


『ジャック達が緊急救助チームだよ』

 ワルキューレの言葉の途中で、新たな肉塊が現れた。


『ジャックが重傷者をダルシアさんの所に【転移】で運び続けたのよ』

『【転移】の連続で酔いそうな気がする……』

『ゴースト、私達には三半規管も脳も無いから気のせいよ』

『瞳ちゃんの言う通り、僕達には肉しかないものね』


 死に瀕している者や死属性の魔力を持つ者の傍に【転移】できるジャックの力を利用して、彼らは瓦礫の下敷きになっている人や、今まさに魔物に殺されそうになっている人を救助し、ダルシアの所に送り届けていた。

 ジャックと一緒にいる見沼瞳とゴーストは、対魔物用戦力である。


『ほかにも、バーバヤガー達やベルセルクの戦闘担当分体がいるよ!』

「プルートーはどうした?」

『ジャック達がダルシアさんの所に【転移】するための目印がわりになってる』

「なるほど」


「……パウヴィナ様のお母さまは凄いなぁ。肉塊がいっぱいだ」

 冒涜的なレギオン達の姿に、ラインハルト達の目から若干生気が失せている。そしてジャック達の背後から魔物の断末魔の叫びや、おそらく戦闘担当のレギオン達があげたのだろう怒声や咆哮が響いているので、彼らが受ける精神ダメージは、まだまだ降り積もる事だろう。


 まあ、そのパウヴィナの周囲はある意味もっとすごい事になっているのだが。

『話の最中だが、人間ど……人間達の避難を完了させた方がいいんじゃないのか?』

『避難はほぼ終わっている! 我々以外にもクノッヘンやクワトロ号とゲヘナビー、デーモン達等の人海戦術のお陰でな!』


 人口約五百万人の大都市であるオルバウム。六道はその全域を巻き込んだ。しかし、ヴァンダルー達は事後処理が面倒になる事も厭わず全力で対処する事を選択した。結果、人々の避難は通常では考えられない速度で行われ、人的被害は最小限に抑えられていた。


『命の危険がある怪我人は、今のところいないよ。でも、これから出るかもしれないから油断はしないけど』

『今、表にいるのは魔物と戦っている者と避難所の近くまで自力で移動できた者。そして街から自力で脱出した者などだ』

『あとは、神殿の周りに集まっている人々だな! ジャハン公爵の避難所から、気持ちは分かるが微妙にずれているから困ったものだ!』


 オルバウムの人々の避難は、一段落つきつつあった。魔物の出現ペースも、門の内部に突入した使い魔王達が暴れているため落ちつつあった。

 ただ、パニックに陥った人々がアルダやヴィダ等の神殿が集まっている通りに押し寄せたため、まだ完了していない。


 そして人々を追って魔物達も集まってくるので、神殿周辺は激戦地となっていた。魔物にとって。

『ギシャアアアアアアアアア!』

『キヒヒヒ! 逃げろ、逃げろ人間共!』

 角から稲光を発する巨大な百足が空を舞いながら飛行する魔物を食らい、ネジくれた角を生やした無数のデーモンが、人々を守りながら魔物と戦っている。


『さっさと逃げろ人間共ぉっ! 我らは見た目よりも弱いぞっ!』

『ぐああああっ、き、傷を治せ、ルチリアーノッ!』

「くっ、まだ倒れないでくれたまえよ、私の肉壁! アルダ神殿の方々も、少しは協力してもらえんかね!?」

 サイに似た魔物の突進を我が身を盾にして止めたデーモンに、ルチリアーノが治癒魔術をかけて回復させる。しかし、アルダ神殿の聖職者達にデーモン達を援護するつもりはなさそうだ。


「黙れっ! 我々の力は人々を助けるためにあるっ! 汚らわしいデーモンやアンデッドを助けるためではない!」

「あなた達の言う『避難所』が安全である確証が、何処にあるというの!? とても信じられない、人々を集めて何か良からぬことを企んでいるのではないでしょうね!?」


 アルダ神殿の神殿長や高司祭達は、当然反ヴィダ派である。しかも、神殿に務める聖職者の中には、アルダ勢力の神々に選ばれた英雄候補達がいる。そのため、かなり高い戦力が集まっておりこの状況でも魔物に自力で抵抗できるため、ヴァンダルー達の呼びかけに抵抗していた。


「邪悪なアンデッドだけではなく、不気味な肉塊に巨大な百足と毒蛾、それにグールや魔人族、そしてデーモンまで……ザッカート名誉伯爵家はオルバウムを魔境にするつもりか!? どういう事なのだ、ヴィダ神殿長!? オルロックギルドマスター!?」


 アルダ神殿長に怒鳴りつけられたヴィダ神殿長は、狼狽するばかりで意味のある言葉を出す事もできない。対してテイマーギルドのマスター、オルロックは忙しそうに動いていた。

「合格っ! 合格っ! 合格っ! ええいっ、儂の視界の中にいる、ザッカート名誉伯爵家に関係のある魔物とヴィダの新種族は全員合格! 正式な従魔として認める!」

 合格の雨あられ。求める者にはデーモンだろうが何だろうが首輪を渡していく。


「お、オルロック!? 気でも狂ったのか!?」

「気が狂わんとやってられるか! オルバウム存亡の危機だぞっ!? 今死に物狂いにならないでいつなるというのだ!?」

「て、テイマーギルドの矜持は!? 規則はどこに行った!?」


「超法規的措置というやつだ! ほい、合格!」

「サンキューでござる!」

「待てっ、そのカマキリっぽい魔物はなんだ!? いつ街に入ってきた!? 空間属性魔術などの非正規な手段で町に魔物を入れるのは、重大な犯罪行為だぞ!」


「ついさっき、門から入ってきたでござるよ」

「ボク達が来た時には、門番の人達が誰もいなかったから、素通りだけどね」

「衛兵達もこの非常時では、日常業務を続ける事はできなかったのだろう。彼等を許してやってくれ」

 エンプーサのミューゼ、スキュラのプリベル、アラクネのギザニアが話すたびに、アルダ神殿長の顔が怒りで赤くなっていく。


「貴様ら! さっきから偽りばかり……!!」

 街中に強力なものが現れ続ける非常時であるため、当然だがオルバウムの門では普段行われている街へ入るための審査が行われていなかった。

 だから、今は街の出入りは自由。ヴィダの新種族だろうがアンデッドだろうが何だろうが、出入りを咎められる事はない。


 しかし、門から入ってきたと述べる冒険者やグールやアンデッドやデーモンが次々に現れては、怪しむなというのが無理だ。

「落ち着いてくれっ! 今はそんな事を言っている場合じゃないだろう! ここにいる全員が一致団結して戦わないと、街は守れないぞ!」

 だが、そんな場合ではない声をあげる者がいた。


「一介の冒険者は黙っていてもらおうか!」

「うん、気持ちだけもらっておくから、君はあっちで魔物と戦っていてもらえるかね? ああ、残りの二人はこっちで力を貸してくれると助かる」

「えっ!?」

 冒険者のアサギは、ビルギット公爵領の関係者を避難所へ避難させた後も人々を守るために戦っていた。


 しかしオルバウムのアルダ神殿の神殿長にとっては一介の冒険者に過ぎない。そしてルチリアーノとしても、要注意人物なのは分かっているので、あまり関わり合いたくない。

「アサギ、気持ちは分かるけど、ただの冒険者の俺達が意見しても、ややこしくするだけだ」

「自分のできる事をしましょう。あたし達は、まだ避難してない人がいないか探すから、アサギはデーモンの救援に行って」

 そう言って、拒絶されて驚いて硬直しているアサギを、テンドウとショウコはデーモン達が戦っている方向に送り出す。


「ウゴオオオオオオ!」

 地響きを立てて石畳を踏み砕きながら、頭部に角を生やした巨大な猪型の魔物が人々に向かって突進を行う。

「たぁぁぁぁぁ!」

 それを迎え撃つのは、甲高い声を張りあげ石畳を踏み砕きながら棍棒と盾を構える身長三メートル程の少女、パウヴィナである。


「ウゴォ!?」

 両者が激突した瞬間、轟音と衝撃波は周囲の建物を打つ。だが、猪の突撃は止まっていた。

「えぇえいっ! 【シールドタックル】!」

 そしてパウヴィナが密着状態から猪型の魔物に対して逆に突撃を行う。盾に押し出され、猪の魔物が堪らず体勢を崩す。


「【爆砕轟棍】! 死んじゃえっ!」

 その猪の頭部に向かって、パウヴィナは情け容赦なく棍棒を振り下ろした。猪型の魔物の頭部に生えた角ごと頭蓋骨を砕き、トドメを刺した。地面には攻撃の余波でクレーターができ、周囲の建物が倒壊を始めている。


「さすがパウヴィナちゃん! だけど、このままだと街の建物が全て倒壊しちゃうかも」

『それは元からだと思うわ。というか、もうあきらめた方がいいと思うの』

 ヴィダ神殿の門に立ち、運ばれてくる怪我人や見える範囲の味方の治療を【再生の魔眼】で行っているダルシアに、横で待機しているレギオンのプルートーはそう言った。


 魔物との戦いでオルバウムの街の建物は大きな被害を受けていた。パウヴィナが踏み砕いた石畳や、衝撃波で傷つけた建物の被害など、誤差の範囲だ。

『それより、魔物の出現ペースが落ちてきた。それに、人々の避難もここに集まっている人たちが最後のようだ。

 そろそろだと思うよ』

 閻魔に促され、ダルシアは「そうね」と答えた。


「じゃあ、どうしても避難してくれない人たちを避難させましょうか。変身! 【女神降臨】!」

 ダルシアが変身装具を掲げ、女神の降臨を願う。すると、ダルシアの体から神々しい輝きが放たれ、生き残っていた魔物達は思わず恐れ慄き硬直し、人々は声もなく立ち尽くした。


「ダルシア女名誉伯爵……いや、あれは違う。あれは……ヴィダ?」

「ヴィダ様なのか?」

「『生命と愛の女神』が降臨した……!」


 そして、人々の前にジェーン・ドゥが創り出した、避難所へ続く【転移門】が現れる。


『愛する我が子等よ。我を奉じる者も、奉じない者も、今は等しく我に命を預けよ。この扉をくぐり、己が身を守ってほしい。

 我の前で、これ以上傷つくな』


 心に直接語り掛けてくる、慈母の如き声に人々は……アルダ神殿長でさえも逆らう事は出来ず、避難所へと導かれていった。

 こうして、オルバウムに六道が人質にとれる者はいなくなったのだった。





―――――――――――――――――――――――




・名前:ダルシア・ザッカート

・種族:カオスエルフソース

・年齢:2

・二つ名:【魔女】 【聖母】 【モンスターのペアレント】 【ヴィダの化身】 【皇太后】 【聖女】 【勝利の聖母】

・ジョブ:魔皇太后

・レベル:27

・ジョブ履歴:魔法少女 命帝魔術師 マジカルアイドル 魔杖装者 変化闘士 聖女 魔闘士 魔聖女 司祭 高司祭 マジカルハイプリエステス


・パッシブスキル

闇視

魔術耐性:10Lv

物理耐性:10Lv

状態異常耐性:10Lv

剛力:10Lv(UP!)

超速再生:7Lv(UP!)

生命力増大:10Lv

魔力増大:9Lv(UP!)

魔力自動回復:9Lv(UP!)

魔力回復速度上昇:10Lv(UP!)

自己極強化:ヴァンダルー:1Lv(自己超強化:ヴァンダルーから覚醒!)

自己超強化:導き:4Lv(自己強化:導きから覚醒!)

能力値強化:創造主:10Lv(UP!)

能力値強化:君臨:7Lv(UP!)

色香:9Lv(UP!)

弓装備時攻撃力増強:極大(UP!)

非金属鎧装備時防御力増強:大

眷属強化:4Lv(UP!)

能力値強化:変身:10Lv(UP!)

杖装備時魔術攻撃力増強:極大(杖装備時魔術攻撃力強化から覚醒!)


・アクティブスキル

料理:7Lv(UP!)

家事:5Lv

狩弓神術:5Lv(UP!)

竈流短剣術:4Lv(UP!)

千変闘術:6Lv(UP!)

無属性魔術:5Lv

魔術精密制御:4Lv(UP!)

命帝魔術:7Lv(UP!)

水命魔術:2Lv(水属性魔術から覚醒!)

風命魔術:1Lv(風属性魔術から覚醒!)

精霊魔術:10Lv(UP!)

解体:3Lv

霊体:5Lv(UP!)

限界突破:8Lv(UP!)

詠唱破棄:7Lv(UP!)

連携:10Lv(UP!)

女神降臨:4Lv(UP!)

聖職者:7Lv(UP!)

舞踏:6Lv(UP!)

歌唱:5Lv(UP!)

魔杖限界突破:5Lv(UP!)

杖術:8Lv(UP!)

魔闘術:4Lv(UP!)


・ユニークスキル

ヴィダの化身

生命属性の神々(ヴィダ派)の加護

カオスエルフの祖

ヴァンダルーの加護

神鉄骨格

再生の魔眼:8Lv(UP!)

混沌




・名前:クノッヘン

・二つ名:【万骨殿】 【コンサート会場】 【骨肉の巨人】

・ランク:16

・種族:ボーンデストピアドラギガース

・レベル:26


・パッシブスキル

闇視

超力:1Lv(剛力から覚醒!)

骨体精密操作:6Lv(UP!)

物理耐性:10Lv

吸収超回復(骨):3Lv(UP!)

大城塞形態:1Lv(城塞形態から覚醒!)

能力値増強:城塞形態:2Lv(UP!)

能力値増強:創造主:2Lv(UP!)

自己強化:導き:9Lv(UP!)

魔術耐性:5Lv(UP!)

自己強化:龍形態:1Lv(NEW!)


・アクティブスキル

忍び足:2Lv

ブレス【龍毒】:1Lv(ブレス【毒】から覚醒!)

高速飛行:9Lv(UP!)

射出:10Lv

建築:7Lv(UP!)

楽器演奏:4Lv

舞踏:5Lv

御使い降魔:3Lv(UP!)

解体:5Lv(UP!)

サイズ変更:3Lv(UP!)

連携:6Lv(UP!)

格闘術:3Lv(UP!)

龍形態:1Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

骨群操作:3Lv

群体:3Lv(UP!)

ヴィダの加護

ロージェフィフィの加護

魂魄体:1Lv(霊体から覚醒!)

群体思考:1Lv(並列思考から覚醒!)




・名前:クワトロ

・二つ名:【絶望の船】 【魔帝国軍旗艦】(NEW!)

・ランク:12

種族:デスエンペラーフラグシップ

レベル:88


・パッシブスキル

特殊五感

物理耐性:10Lv

精神汚染:7Lv

能力値強化:被操船:10Lv

能力値強化:創造主:10Lv(UP!)

自己強化:水上:9Lv(UP!)

自己強化:導き:8Lv(UP!)

衝撃耐性:8Lv(UP!)

怪力:9Lv(UP!)

空中航行:7Lv(UP!)

水中航行:5Lv(UP!)

高速再生:5Lv(UP!)

水属性耐性:6Lv(UP!)

自己強化:空中:4Lv(UP!)

空間拡張:2Lv(UP!)

快適維持:1Lv(NEW!)



・アクティブスキル

限界超越:5Lv(UP!)

高速航行:10Lv(UP!)

射出:10Lv

叫喚:9Lv(UP!)

恐怖のオーラ:10Lv

砲術:10Lv

忍び足:1Lv

御使い降魔:5Lv(UP!)

精密操船:2Lv(UP!)

連携:4Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴァンダルーの加護

ペリアの加護(NEW!)





●魔物解説:デスエンペラーフラグシップ ルチリアーノ著


 死の皇帝の旗艦。つまり、師匠の座乗船である事を示している。まあ、旗艦といってもヴィダル魔帝国には現在軍艦はクワトロ号ぐらいしかないのだが。

 ランクアップしたからか、それともサムに対するライバル心からかは不明だが、【快適維持】スキルを獲得し、船としての利便性が格段に上がっている。


 軍艦兼豪華客船兼高速輸送船として活躍する日も近いだろう。なお、当然だが人間社会では確認されていない魔物である。




●魔物解説:ボーンデストピアドラギガース ルチリアーノ著


 『骨牙の悪神』ロージェフィフィの加護を得て、ランク13を超え、マルドゥークの骨を吸収し、フィディルグを超えたクノッヘン。【霊体】や【並列思考】スキルを師匠と同じ【魂魄体】や【群体思考】スキルへ覚醒させるなど、規格外の成長を遂げている。

 全力で展開した時には城の規模を超え、城塞都市と評せる施設になる。彼さえいれば、どこでも移動城塞骨国家を建国できるだろう。


 また龍形態になる事で、戦闘能力を著しく上昇させることが可能になった。もはや、魔物というより亜神の一種と考えるべきだろう。ランクも16で、もはやA級冒険者を数十人あつめてもクノッヘンに勝つことは無理だろう。


次話はお休みを頂いて、来年の1月9日に投稿する予定です。皆様、良いお年を。

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― 新着の感想 ―
遂に満を持して、ダルシアの女神降臨が初の発動! くぅ〜…燃える展開で面白い!\(^o^)/
[一言] これは……信者大量ゲット間違いなし!! なんだかんだで神様本人が直に降臨できる器が存在するアドバンテージはでかいね やべー奴らはヴァンダルーが導いて、一般人はダルシアママンが導く なんて隙…
[気になる点] >【霊体】や【分体】スキルを師匠と同じ【魂魄体】や【群体】スキルへ覚醒させるなど、 ヴァンは【分体】や覚醒の【群体】スキルがない。【並列思考】や覚醒の【群体思考】の方では? あと、【…
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