三百四十三話 不実の神々と、悪夢になりかけたご近所
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ヴァンダルーが、多大なストレスと引き換えに『五色の刃』一行に六道聖の情報を伝えた事で『法命神』アルダもその存在を知る事ができた。
事態を知ったアルダは、当然激怒した。
それまで、アルダはハインツ達と同じように、ウルゲン・テルカタニスの背後にいるのはヴァンダルーだと誤解していた。自身の信者であるはずのテルカタニスを気がつけば見る事ができなくなっていて、彼が【魔王の欠片】からとった素材から作った武器を軍に採用するという、前代未聞の提案をしたのは、ヴァンダルーに導かれて指示を受けたからだと考えていたのだ。
だが、それが自身に黙ってロドコルテが転生させた、六道聖という転生者による陰謀だったというのだ。黙っていられるはずがない。
すぐさまロドコルテに使者を出し、説明を求めた。
『いったい何のことやら、私には全く分からないな』
しかし、返ってきたのはこの太々しい言葉と態度だった。
『白を切るつもりか?』
『白を切るもなにも、まさかヴァンダルーの言葉を信用するつもりか?』
『……ヴァンダルーがわざわざ嘘をつく必要はないはずだ。それに、実際『オリジン』では六道聖という転生者が死んでいるはずだ』
『我々を仲たがいさせるために、偽情報を流す可能性があるだろう。それと、たしかに六道聖という転生者は『オリジン』で死んだ。だが、それを私が転生させた証拠がどこにある?』
『そこまで言うのなら、その六道聖の魂を見せて潔白を証明できるはずだ。転生させていないのなら、貴様の神域にまだ魂があるはずだ!』
新たに転生する転生者を対ヴァンダルーのための戦力として利用……活用する事をロドコルテは約束している。そのため、転生者を転生させる場合はアルダに連絡する必要があった。
だが、ロドコルテは六道を転生させたことをアルダ達に一切話していなかった。当然だろう、『異世界で亜神になって死属性魔術を習得した転生者を、【魔王の欠片】を肉体代わりにして転生させた』などと連絡したら、その瞬間アルダとの協力関係が破綻してしまう。
ロドコルテはアルダをまだ利用したいので、それはできるだけ先送りにしたい。できれば、ヴァンダルーを確実に倒せると確信できるまで。
さらに言えば、ヴァンダルーによって『ラムダ』世界の神々として彼の国の民に認知されているロドコルテは、以前と違いアルダの神威である『法の杭』が有効になってしまっている。
神々に罰を与えるアルダの神威は厄介極まりなく、神の力の総量としてはアルダを上回るロドコルテだが、効果対象として有効になってしまった以上、強引に解除できるとは限らない。
強大な力を持つ輪廻転生の神と、それよりも数段下の力しか持たない法秩序の神。ただ戦うだけなら輪廻転生の神が勝つ。しかし、法によって裁かれる場合は法秩序の神に輪廻転生の神は逆らえないのだ。
それが神の権能というものである。
なら、大人しく……六道聖のような劇物には手を出さず、ハインツ達と英雄候補が育つのを待てばいいだろうにと思うかもしれないが、ロドコルテには別の意見があった。
ロドコルテの目から見て、英雄候補の成長速度は遅い。ヴァンダルー本人どころか、その取り巻きを相手にするのがやっとにしか見えない。そのヴァンダルーの取り巻きは、短期間で恐ろしいほど腕を上げているというのに。
そしてハインツ達『五色の刃』は、ヴァンダルーに対して戦う気があまりないようだ。これまでロドコルテは半信半疑だったが、つい先ほど起きたヴァンダルー……使い魔王との遭遇と会談の様子を見ると、どうやら本当らしい。
ハインツの言動がヴァンダルーにとって気に食わなかろうが、偽善に過ぎなかろうが、ロドコルテにとってはどうでもいい。問題なのは、最大戦力のはずのハインツにヴァンダルーを殺す気がない事だ。
ヴァンダルーを殺してその魂を回収し封印するか、それが無理ならロドコルテが輪廻転生を管理していない遥か遠くの世界に放り捨てるかしなければならない。そして、ヴァンダルーが治める国を殲滅出来なければ困るのだ。
億が一にも和解するとか、ハインツが戦わずに殺されては困るのだ。
ロドコルテもハインツには、あのベルウッド……ヴィダの新種族殺しでは世界一の実績がある英雄神を復活させたから期待していたのだが……。
『潔白を証明しろ、か。それを私に要求するのならアルダよ、君はハインツが本当にヴァンダルーを倒すつもりがあるのか、まずそれを私に証明するべきではないか?』
『唐突に何を言う!?』
『先ほどの使い魔を通してのヴァンダルーとの会談、結局は和解の気配もなさそうだったが、『五色の刃』には奴と戦う気があるようには見えなかったが?』
『……それは、現れたのがヴァンダルー本人ではなく、使い魔だったからだ。戦って倒したところで使い魔では、ヴァンダルーには痛くも痒くもない。それどころか、ハインツ達の情報を与えるだけだ。
戦いを避けようとするのは当然だろう』
そうロドコルテに返答したアルダだが、彼はハインツがヴァンダルーに条件付きで自身の首を差し出すつもりである事を、ロドコルテには伝えないようにしていた。
それをロドコルテが知れば、どんな極端な手段に出るか分からなかったからだ。それを知られる前に、アルダはハインツを説得して翻意させるつもりだった。
ハインツの仲間達も彼を説得しようとしていたから、可能だと考えていた。
アルダにとって最も恐ろしいのは、ロドコルテがこの世界に見切りをつけ、輪廻転生の管理から手を引く事だ。それをされると、この世界に残るのは魔王式輪廻転生システムと、ヴィダ式輪廻転生システムのみ。そうなれば人間も動物も植物すらも息絶え、魔物とヴィダの新種族だけが存在する未来しか残らない。
アルダが目指す理想の世界は、過去にしか存在しなくなってしまう。
実際には、ロドコルテは既に一度『地球』や『オリジン』ごと、『ラムダ』から手を引こうと試みて、失敗しているのだが。アルダが倒そうとしているヴァンダルーと、彼が治める国でロドコルテが認知されているのが原因で。
このようにアルダとロドコルテの間に信頼や、お互いに助け合うチームワークは存在しなかった。
だからアルダはハインツについてロドコルテに報告も相談もしないし、ロドコルテも陰謀を進めるのだ。
『……だが、君の言う通りたしかに六道聖という転生者は既に転生している』
しかし、知らぬ存ぜぬで押し通すのは難しいとロドコルテは考え、そうアルダに告白した。
『やはりか! 死属性魔術の使い手を増やす事が、世界にどれほどの悪影響を与えるのか理解していない訳ではあるまい! ヴァンダルーを倒すためとはいえ、何を考えている!?』
『勘違いしないでもらおう、たしかに転生させたがそれは普通の意味での転生だ』
だが、真実を告白するつもりはなかった。ロドコルテがするのは、アルダを騙すために一部だけ真実を含ませた虚偽の告白だ。
『なんだと?』
『六道聖は、通常の輪廻転生と同じように前世の記憶や人格を消し、チート能力を回収して転生させた。それも、『ラムダ』ではなく『オリジン』に。
今頃はまだ母親の腹の中だろう』
六道は【魔王の欠片】で作った肉体に転生しているので、ロドコルテの神域にはいない。だからアルダに魂を見せる事はできないので、既に異世界に普通の人間と同じように転生した事にする。
『……本当か?』
アルダはすぐには信じない。今までのロドコルテの言動が言動だから、当然だ。
『まさか、証拠を見せろとでも? 見せても構わないが……輪廻転生に関する権能をもたない君が輪廻転生システムを見ても、理解できるとは思えないが』
だが、六道聖を異世界に転生させた証拠をアルダは確認する事ができない。ロドコルテが組み上げた輪廻転生システムは、輪廻転生システムを模倣した事がある神か、ロドコルテと同じく輪廻転生を司る神でなければ、見ただけで理解するのは至難の業だ。
アルダの従属神の中には該当する神は存在しないし、システムを模倣した存在は『生命と愛の女神』ヴィダと魔王グドゥラニスだけだ。
それに、転生先を『ラムダ』ではなく『オリジン』としたのも、『ラムダ』の神であるアルダが確認できないようにするためだ。
アルダには、赤子を見ただけでその前世を見抜くような力はないはずだが、念のためである。……もしアルダが『では、六道がどこの誰の胎にいるのか教えろ』と要求されたら、面倒だからというのが主な理由だが。
『……『オリジンの神』は了解しているのか?』
『わざわざ了解を取る必要はない。通常の輪廻転生と同じなのだからな。記憶も人格も、そして能力も失った六道聖の魂は、他の魂と何の違いもない。もっとも、再び属性魔術の適性は与えたが。
それを与えなければ、再び死属性魔術を習得してしまう可能性があるから、当然の処置だ』
『そうか……だが、六道聖は『オリジン』で神に至ったそうだが、神に至った人間の魂を貴様のシステムで転生させられるのか?』
アルダに痛いところを突かれたロドコルテは、内心で舌打ちをした。
『私もそれは危惧していたが、通常よりも時間をかけて調整し、与えたチート能力を回収した結果問題なく転生させることができた。おそらく、チート能力を剥奪した事で六道の魂はただの人間の魂に戻ったのだろう。
もっとも、他の転生者が神になった場合も同じことができるとは限らない。元々、転生者が生きたまま神に至る事を想定していなかったので、たしかな事は言えない』
ただ、ロドコルテとしてはそう出まかせを言うしかない。アルダも若干だが早口になったロドコルテの態度を怪しく思ったが、本当かどうか確認できないのでそれ以上問いただす事はできなかった。
『……では、六道聖に協力していた転生者達はどうなっている?』
『彼らも六道聖同様だ。ヴァンダルーを倒すための戦力として使えないかと、私も説得を試みたが六道聖同様、私の指示に従う気はないようだった』
『……いいだろう。では、ウルゲン・テルカタニスの背後にいるのは六道聖ではなく、ヴァンダルーなのだな?』
『もちろんだ。その人間はヴァンダルーに導かれたのか、私も既に情報を得る事はできない。
ヴァンダルーが六道聖の名を出したのは、我々の協力関係にヒビを入れるため、もしくはただ偽情報を流して時間を稼ぐことが目的だろう』
そのロドコルテの言葉を反芻しながら考えを巡らせたアルダは、(ロドコルテは怪しいが、ヴァンダルーの流した偽情報というのも、ありえる)と考えた。
それだけ【魔王の欠片】を利用するのはヴァンダルーであるという認識が、アルダにも強く根付いていたのだ。
さらに言えば、ロドコルテの行動を知っている存在……彼の御使いである亜乱や泉、硬弥を問いただそうという発想もなかった。アルダにとって御使いとは、主である神の信者が死後にその魂を昇華されてなるものなので、ロドコルテに忠実な存在だと思い込んでいたからだ。
実際に問いただせば、「ロドコルテに不都合な事を話せない」状態の亜乱達と会話する事で、その不自然な言動から事態を把握できたかもしれないが……。
(だが、ロドコルテを信じるのも危険だ。やはり、英雄候補達をオルバウムに引き続き留めるべきだろう)
今回、アルダは自身の勢力に属する神々が育てている英雄候補の若者たちを、ヴァンダルーが活動しているオルバウムから退避させていなかった。
これまでの行動から、ヴァンダルーが英雄候補達を割り出して殺そうとすることはないと判断したからだ。
もっとも、ヴァンダルーとその関係者とできるだけ関わらないように神託で伝えるよう、神々には指示を出したが。
オルバウム選王国の首都であるオルバウムは広大な都市であるため、そうした事も可能だった。
『分かった。では、ハインツにはこれまで通りヴァンダルーに対して警戒し、奴が宰相を操って何を企んでいるか探らせ、備えさせよう』
『理解が得られてよかった』
そう言って、自身の神域へ戻るロドコルテを見送りながら、アルダはハインツには言葉通りヴァンダルーを警戒させるが、英雄候補達はいるかもしれない六道に備えさせようと考えていた。
ヴァンダルーに『オリジン』で負けた六道に対してなら、死属性魔術師とはいえ英雄候補達で倒す事もできるはずだ。
アルダはそう考えていた。
精神的ストレスから一時間ほどで復活したヴァンダルーは、直後にまた倒れるかと思った。何故なら、アサギやハインツ達の近くに残してきた情報収集用の使い魔王から、彼らが引き返さずオルバウムに向かい続けている事を知ったからである。
「……なんで来るんでしょうね? アサギの方はまだしもハインツ達の方まで。強く警告したつもりだったのですが。
でも、さすがに、もう一度警告しに行く気にはなりません」
もぐもぐと、エレオノーラに金粉を散らしたステーキを食べさせてもらいながら、ヴァンダルーはオルバウムに近づいてくるハインツやアサギに、どう対応するか悩んでいた。
悩みつつも、視線はエリザベス達のステージに固定されている。目覚めるまでの一時間の間にパレードの演目が移り変わり、今はエリザベス、マヘリア、ゾーナの新人三人が量産型変身装具を着て歌っている。
「そうね。もう一度会いに行ったら、今度は丸一日寝込んじゃうかもしれないから行かない方が良いと思うわ。今度は、私達が使い魔を作ってそれに手紙を持たせるのはどうかしら?」
「いっそ、街で適当な者を雇ってそれに手紙を運ばせるのはどうでしょう?」
ダルシア達もヴァンダルーが再び、特に『五色の刃』と接触するのは反対だった。これまでの事から推測すると、手紙を渡すだけでも穏便に終わるはずがないからだ。元々殺し合う関係なのだから、当然と言えば当然だが……気がついたヴァンダルーからハインツ達と話している時何が起こったのか聞いてみれば、不自然な記憶の空白がある。おそらく、精神的なショックで記憶が抜け落ちたのだろう。
ヴァンダルーは【状態異常無効】スキルを持っているので、何らかの攻撃を受けるなど外的要因が原因ではない。内的要因……ヴァンダルー自身の精神や感情が原因で記憶が飛んだのだ。おそらく、許容量を超える怒りやストレスのせいで。
短期間に同じことを繰り返したら、いくらヴァンダルーでもどうにかなるかもしれないし、六道聖に関する手掛かりがない状態で、長時間意識不明になるのは避けたい。
「ヴィダル魔帝国や魔大陸、ガルトランドの方はどうにかなったようじゃ。まさか、他の使い魔王にまで影響が出るとは驚きじゃな」
「はい、倒されても痛くも痒くもないから使い魔王を送ったのに、まさかこんなことになるとは思いませんでした」
ザディリスは通信機でヴィダル魔帝国と連絡を取っていた。何故なら、ヴァンダルーが倒れた時、ヴィダル魔帝国等で活動している使い魔王に、影響が出たからだ。
その影響は、宿っているヴァンダルーの分身との接続が数秒から数分の間切れるというものだった。ただ、使い魔王達はヴァンダルーの分身との接続が切れても、単純作業はできるように作られている。
もっとも危険な探索者(人間社会での冒険者に相当する)達に貸し出される戦闘補助用使い魔王も、戦闘中に接続が切れても問題なく動けるようにしてある。
……接続が切れた事で戦況に大きな影響が出るほど厳しい戦いというのもあるだろうが、そもそもそれほどの強敵とは戦わず、撤退するよう探索者達に提案するようにしている。
探索者の仕事は生死をかけたギリギリの戦いを潜り抜ける事ではなく、生きて成果を持ち帰る事だから当然だ。
ただ、数秒から数分だったから影響が出なかっただけで、それを何度も繰り返す事はもちろんだが、接続が切れる時間が数時間や数日になったら、その限りではない。
「『五色の刃』の方には、もう直接かかわらない方が良いんじゃないですか? 元々敵同士なんですし、一度言ってダメなら、何度言ってもダメでしょう」
カナコは、ダルシア達の意見よりもさらに進んだ意見を提案した。
「多分、『五色の刃』の人達は六道との戦いにヴァン、つまりあたし達が負けた場合の事を考えてこっちに向かっていると思うんですよ。ヴァンがもし負けたら、自分がこの世界を六道から守らなきゃならないって」
「なるほど。俺も六道に絶対勝つとまでは言い切りませんでしたからね。ハインツ達の印象では、六道はかなり強大な存在になっているのかもしれません」
「しれません、じゃなくてなっていますよ。ヴァンが倒すために苦労している相手で、三つ巴になると嫌だ……つまり、簡単には倒せない相手だって解釈して」
カナコの説明に、ヴァンダルー達はなるほどと頷いた。六道聖に関する詳しい情報を持っていないハインツ達には、六道は『ヴァンダルーに勝てなかったものの、魂を砕かれずに逃げおおせ、この世界で再び何かを企んでいる強敵』と考えたのだろう。
実際に戦ったのはヴァンダルーではなく、その魂の欠片を使って作られた分身であるバンダーと【ブレイバーズ】達だ。そのため、当時はヴァンダルーにとってはそこまで強敵ではなかった。
だが、ハインツ達はヴァンダルーにとって真の意味での強敵だと解釈している可能性が高い。
『坊ちゃんが負けた場合を想定するとは、我々にとっては不愉快ですが……まあ、敵ですからね』
これが味方同士なら、「ヴァンダルーの勝利を信じて、自分は警告に従う」という選択肢もあるが、サムの言うように『五色の刃』とは敵同士だ。ヴァンダルーを信じる、という事自体難しい判断である。
「なら警告を無視して向かってくるのも、無理はないのじゃろうなぁ。奴ら、アルダの英雄なのじゃし、S級冒険者じゃし。儂らにとって都合は悪いが」
そしてザディリスが言うように、ハインツ達は『英雄』である。ランク13以上の邪悪な神々や亜神、地上に降臨した神と戦う事ができるS級冒険者だ。
国家存亡どころか世界の行く末が左右される危機に対応するために、必要とされて当然の存在である。
だから、ハインツが『ヴァンダルーが負けた時は、自分が六道聖を倒さなければならない』と使命感に燃えるのは、世間一般にとっては歓迎するべき事なのである。……特に、もう一人のS級冒険者である『真なる』ランドルフが世間的には引退しているオルバウム選王国では。
「俺も、『五色の刃』の立場だったら、警告を無視して向かうでしょうね。……『五色の刃』が世界の危機をどうにかできると信じられませんし、信じた結果知り合いが死んだり傷ついたりしたら許せませんし、戦いで消耗した『五色の刃』を暗殺する機会ですし。
何より放置した結果、世界が六道にどうにかされたら嫌ですし」
そうヴァンダルーは頷きながら、『五色の刃』が警告を無視した事に納得し、再び警告するのを無駄だと諦めた。
「仕方ない、三つ巴になる事を覚悟して、想定して備えましょう。皆、多分俺はできないと思いますが、三つ巴になったらハインツではなく六道を倒す事を優先してください。ただ、油断せず隙を見せるようなことは極力さけるように。
それとカナコ、よくハインツ達の考えている事が分かりましたね」
感心してそう言うヴァンダルーに、カナコは苦笑いを浮かべて答えた。
「いやぁ、たいした事じゃないんですけどね。ただ……だいたい雨宮と似たような性格なんだろうなーって。社会的な立場も、共通点がありますし」
「なるほど」
どうやら、ハインツと雨宮の性格は似通っているらしい。違うのは育った世界(国)の常識と価値観か。
「苦労していたんですね……。ダグとメリッサとジークとサルアも、今度労っておきましょう。ケイティさんにも、次に会ったらもう少し優しく接するよう心がけましょう」
「ええ、まあ、裏切るぐらいには。
それで、『五色の刃』はいいとして、アサギ達はどうします? あいつの方は、何を考えているのかあたしも分かりませんよ」
「分かりませんか?」
「無理です。本人に会ったら、直接脳に聞いてみてください。もっとも、危険人物扱いされるのは無理もないと思っていますけどね」
カナコは前世、『オリジン』でアサギ達【ブレイバーズ】を裏切っている。その時見せた言動は彼らからすれば同情する余地があるとは思えないだろうし、カナコ自身恨まれても仕方ないと思っている。……アサギ達を前世で殺したのはカナコではなく、レギオン達の前世である『第八の導き』のメンバーなのだが。
「それで活動に難癖をつけられるのは面白くありませんが……構う必要はないでしょう。このまま無視していいと思います」
『抗議しなくていいんですか? 坊ちゃんがジャハン公爵にちょっと言えば、締め上げる勢いで抗議してくれますよ、きっと』
『今、ジャハン公爵は初めての友達が出来て、ハイになっていますからね。エリザベス様に憑いたばかりの坊ちゃんと同じです』
「リタ、サリア、ハドロスに無茶をさせてジャハン公爵家とビルギット公爵家の不和になるような事を提案しちゃいけません」
「あははは。確かに動いてくれそうですけど、下手に関わらない方がいいと思うんですよ。アサギの流す風評は、普通の人には根拠が説明できないものですから」
アサギがカナコを危険人物、要注意人物だと警告しても、その理由を話せるのは『五色の刃』のように転生者について知っている、ごく限られた人物に対してだけだ。何も知らない大多数の人々に、「前世で裏切られた」と説明するわけにはいかないからだ。
そのため、アサギがカナコの危険性を訴え続けても、効果は殆どないだろう。というのがカナコの推測である。
「アサギがいてもいなくても、アンチは何処にでもいるものですからね。あたし達は、ステージで最高のパフォーマンスを見せるだけです」
『『カナコさん……っ!』』
カナコの言葉に、サリアとリタが感動したように息を飲む。ザディリスも、それでこそじゃと誇らしげな様子で頷いている。
「あ、でもジャハン公爵にも協力してもらって、屋敷の中ではなくどこかの劇場で公演できるよう手を回してもらうのは悪くありませんね。やっぱり、良くない噂を吹き飛ばすには私達のステージを実際に見てもらうのが一番ですし」
しかし、矜持だけでは世の中を渡っていくことはできないと、しっかり権力も利用するつもりのカナコに、感動はすぐに吹き飛んだようだ。
「そうですね。人を纏めて収容できる施設は避難の助けにもなるので、劇場を貸し切る件については話を進めましょう。
あと、アサギ達は……『五色の刃』と合流したとしても、それほど脅威にはなりません。しかし、【魔王の欠片】の封印に関する研究が進んでいるなら、六道聖に対して何らかの形で有効かもしれませんね。
それまでは、できるだけ関わらないようにしましょう」
「ちょっと待ちなさい!」
そう声をあげたのは、ステージを終えたエリザベスだ。もうヴァンダルーが我に返ったのなら、歌を止めてもいいのではないかと言ったのだが、ザディリスに「レッスンじゃと思って、最後までやってみるのじゃ」と言われたため、今まで歌っていたのである。
「エリザベス様、まだ始めたばかりなのになかなかの歌と踊りでした。しかし、少し照れが見えます。特にサビの時に」
「あら、ありがとうっ! でも私が言いたいのは感想の催促じゃないの!」
そう言うと、エリザベスはある方向に伸ばした。
「ファゾン公爵家とビルギット公爵家の別邸が、あっちにあるわ。屋敷の敷地が広いから距離は離れているけど……『五色の刃』やそのアサギって人達が別邸に滞在するなら、顔を合わせないようにするのに苦労するかもしれないわね」
シルキー・ザッカート・マンションは、元々ジャハン公爵家が所有する屋敷であり、他の公爵家の別邸がある上級貴族街にある。
そしてファゾン公爵家と関係の深い『五色の刃』や、ビルギット公爵家に雇われているアサギ達が、それぞれの公爵家の別邸に滞在する可能性は十分ある。
「……宿でも取りましょうか」
『と、飛びますっ! たとえ屋敷が端から崩れても、飛んで見せますから捨てないでください!』
「いえ、捨てませんよ、シルキーも一緒にお泊りしましょう。どんな宿にしましょうか……」
「ヴァンダルー、シルキーが他の宿に泊まるのは無理だと思うわ。その、面積的に」
いつも以上に表情が死んだヴァンダルーはそう言うが、ダルシアの言う通り屋敷が本体であるシルキーが外の宿に泊まるのは無理があった。
だが、ハインツやアサギ達もヴァンダルーの近くで寝泊まりできるほど無謀ではなかったらしく、それぞれと縁の深い公爵家の別邸ではなく、別に宿を取る事を選んだので、ヴァンダルーの精神はひとまず救われたのだった。
次話は11月14日に投稿する予定です。




