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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
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三百三十九話 腰巾着卒業不可

 ヴァンダルーが退院した次の日、彼は普通に学校へ復帰した。メオリリスとランドルフも、手紙に書いてあった通り入院期間が七日間だけだったので、「やっぱりこうなったか」と息を吐いた。

「入院している間、何をしていたのか……間違っても聞くなよ」

「分かっている。昨日一日で、隠しきれない程オルバウム選王国の勢力バランスが変わったのだ。その裏で何が起きたのかなんて真相は、学校長でしかない私の手に余る」


 ヴァンダルーやエリザベスは何も言わないが、何も言わないからこそメオリリス達は様々な憶測をして頭を悩ませていた。

 エリザベスの後ろ盾だったはずのリームサンド伯爵家の代替わりと、先代当主の入院。そして伯爵家とは何の縁も無かったはずのジャハン公爵家が、新たな後ろ盾として彼女の後見人になった。


 そしてエリザベス本人はジャハン公爵家の屋敷ではなく、ザッカート名誉伯爵家の屋敷に母親とマヘリアを連れて転居。

「常識的に考えれば……常識では起きない事態なのは置いておくとしても、ジャハン公爵がザッカート名誉伯爵家を通じてアルクレム公爵家と通じ、サウロン公爵家に対して何か企んでいるという事になるだろう。エリザベスをサウロン公爵家の当主にして、ジャハンとアルクレム、両公爵家の権勢を増し、影響力を強くすることを狙っているというところだろうか」


 後、考えられるとすれば、アミッド帝国との戦争で帝国軍を押し返し、逆侵攻で手に入れた領地の配分で有利になろうとしている、という事ぐらいだろうか。


「しかし、私にはどう考えてもザッカート名誉伯爵家はアルクレム公爵家とジャハン公爵家の前ではなく、後ろにいるとしか思えない。もっと言えば、黒幕はヴァンダルーだ」

「同感だが、あまり深く考えるな。いや、考えるのはいいが口に出すな。深みにはまるぞ。俺達には関係のない事……」


 関係のない事だ。そう言い捨てようとして、ランドルフはそこで言葉を止めた。

 何故なら、無関係でいられるのか不安を覚えたからだ。


 これまではS級冒険者として、大物貴族とは依頼を通してだけの関係に留めてきた。政治にはできるだけ関わらないし、自分や自分の周りに火の粉が降らなければ関心を持たなかった。

 しかし、ここ数年の間に起きた出来事は無関心でいるには大きすぎるものばかりだ。


 実際、彼自身も依頼を受けた訳でもないのに吟遊詩人のルドルフとして、ヴァンダルーを調べるために潜入までしている。

「関係のない話だが、嵐に巻き込まれる心構えぐらいはするべきかもしれないな。伝手を辿って、調べるとしよう」

 現役時代の顔つきになって部屋から出ていこうとするランドルフを、メオリリスは「待て!」と引き留めた。


「心配ない。普段は依頼をされるだけの相手に、こっちから話しかけるだけだ。危険な事はない」

「誰が心配なんてするか。お前の腕の良さを誰よりも知っているのは、この私だ。そうじゃなくて……今日はお前が担当する講義が昼まで詰まっているから、いなくなられると困るのだが」


「……そうだったな」

 そういえば、今も教師として雇われているのだったと、ランドルフは自分の立場を思い出した。




 ヴァンダルーの行動に振り回されているのは、ランドルフ達だけではない。英雄予備校の生徒達も同様だ。ただ、多くの生徒達は、ヴァンダルーに振り回されているとは気がついていないが。


「聞いたか? ジャハン公爵家があのエリザベス様の後ろ盾になったって話」

「ああ、聞いた。昨日王宮で急に開かれた会議で、ジャハン公爵本人がサウロン公爵家の代官に直接言ったらしい」

「本当か? 代官ってたしかヴィーダル・サウロンだっけ? エリザベス様の腹違いの兄の」

「いいや、違う。代官は当主の腹心で、腹違いの兄とは別の方だよ」


 生徒達は冒険者志望の少年少女達だが、彼らの中には貴族の子弟が少なくない。そのため、オルバウムの貴族社会に飛び交った大ニュースを、彼らも知っている。……さすがに【魔王の欠片】に関係する事は、会議に出席した者達にかん口令が敷かれたので知らないが。


「どっちにしても、ジャハン公爵家が後ろ盾なんてもう滅多なことは言えないな」

「そうだな。最近はなんて言うか、雰囲気が変わったし」

「ああ、前みたいに取り巻きを引き連れて歩くことが少なくなったし、アレックスを勧誘するのもやめたし」

「いや、取り巻きを引き連れて歩いているだろ、顔触れが変わっただけで」

「えっ? あれって……取り巻きっていうのか?」


 以前のエリザベスは様付きで呼ばれても、慕われているというよりは、やや離れた位置から鑑賞されているか、媚を売られている人物だった。

 今は、色々な意味で話題の中心である。


 一方、彼女に関する話題の一部として名前が出たアレックスは、教室で頬杖をついていた。

「……」

 彼は別にヴァンダルーが現れる前と、何も変わっていない。【大鑑定の魔眼】の使用に制限もかけられなかった。ただヴァンダルー、そしてエリザベスやゾーナを含めた彼の仲間のステータスの情報を彼の仲間以外には話さない事を約束しただけだ。


 だからそれまで通り……あの実践調理の実習以外では、優秀な成績を修め続けている。学校では変わらず仲間と共に優等生だ。

 しかし、エリザベス達に追い上げられている事は否定できない。


「なんだろうな。……たしかにヴァンダルーに弱みは握られたけれど、それだけ。脅迫も何もされていないのに、何故か追い詰められたような気がするのは」

「多分、エリザベス達に追い上げられているからだと思う。実際、あいつら恐ろしい勢いで強くなってるし」

「そうね。もし仮に戦ったとしても、多分パーティー単位ではもう勝つのは難しいと思う。もちろん、話に聞いたヴァンダルー抜きでも」


 アレックスの言葉に、彼のパーティーメンバーの二槍流のロビンと魔術師のアナベルがそれぞれ意見を口にする。

 アレックス達はエリザベス達に追い上げられていた。まだ成績で抜かれていないが、それも長くは持たないだろうと、彼らは考えている。

 エリザベス達の成長がそれほど著しいからだ。


「『ハート戦士団』のコーチを受けながらの実戦訓練に……あれじゃあな」

 ロビンが言葉を濁したのは、ヴァンダルーとの約束のためだ。彼等はエリザベス達が【ヴァンダルーの加護】を受けている事を、アレックスから知らされていたが、それを学校で口にすることはできないのだ。


「ああ、急に成長しても納得だ。主席卒業は難しいかもな。勿論諦めるつもりはないけど」

 エリザベス達がこのままの勢いで成長し続ければ、アレックス達は追い抜かれてしまうだろう。それこそ、どこかの神がアレックス達に加護でも与えなければ、そしてエリザベス達がこれ以上加護を得たり、より厳しい特訓を受けたりしない限り。


 アレックスも卒業までに「C級冒険者に匹敵する」から「C級冒険者と同等以上」になる事を目指しているが、エリザベス達はこのままのペースならB級冒険者に匹敵するか、同等以上の強さを手に入れそうだ。

 そうなると、ダンジョンボスがランク5の魔物である実習用ダンジョンにしか潜れないアレックス達では、太刀打ちできない。


 もちろん、単純な戦闘力の強さだけで成績が決まる訳ではないが……その辺りもエリザベス達はみっちり『ハート戦士団』の先輩冒険者や、ヴァンダルーの従魔達に教えられている。

 アレックス達が今のリードを保ったまま逃げ切るのは、やはり難しい。


 ただ、諦めて二番手で満足する気はない。一番を目指さない者は、二番や三番にも成れないからだ。


「じゃあ、卒業後はもっと地道に、そしてじっくりと実績を積み上げていく方向に予定を変更しよう」

 そして、冒険者として大成する事を諦めるつもりもなかった。

「おー、ようやく吹っ切れたか」

「あれからずっと気が抜けたままだったものね。まあ、気持ちは分かるけど、トワちゃんをあまり心配させるんじゃないわよ」


「悪かったよ。これまで誰かを追い抜く事はあっても、誰かに追い抜かれそうになった事はなかったから、自分で思っていたよりショックを受けていたみたいだ」

 そうアレックスが立ち直った頃、エリザベスは勝手に会議室として使っている空き教室にいた。


 生気の無い瞳で、マヘリアと一緒に並んで座っている。その前には、ゾーナやマクト達パーティーメンバーが並んでいる。


 そして、ヴァンダルーは両者の間で一人正座していた。

「そういう訳で、俺がマクト先輩達の夢に出たり、加護を与えたりした張本人です。ただ、どんな夢を見せたのかは、意識してやった訳ではないので覚えていません」


「ヴァンダルー、君? でまだいいのかな? 加護はありがとう。でも夢はとても怖かった。巨大な君が、君を崇める沢山の人達から逃げるためにこっちに歩いてきて踏み潰された時は、私は本当に死んだかと思った」

「僕も、君の生首を拾い集めて首の無い君の体にくっつけて回る夢だったけど、気が変になったかと思った」

「僕はまあ平気だよ。どんな夢を見たのか覚えてないから。でも、多分怖い夢だったと思う」


 マクト、トーラス、ユーゼフが控えめに抗議する。

 本来の予定では、エリザベスが隠していた事情……母親が入院していた事や、経済的に無理をしていたことなどをゾーナやマクト達に告白し、結束を新たにするはずだった。そして、その後ヴァンダルーが色々隠していた事を話す予定だったのだが……何故か途中で怖い夢を見せてしまった事を謝る流れになっていた。


 無意識にやったことで、【加護】を与えるためにはある程度仕方ないとは言え、多感な年頃のマクト達に悪い事をしたと思わない訳ではないので、謝る事には特に抵抗を覚えない。

 ……かつて、夢でヴァンダルーの巨大な生首から逃げ回る事になった元魔人王のゴドウィンには、彼はまだ一言も謝っていないが。


「あたしは、まあ、うん、ぐっすり眠れたから良いんだけど……あの夢を見てもぐっすり快眠できる自分に違和感が拭えないんだよね。良いお医者さん、紹介してくれない?」

「心当たりはありますが、その先生は今体調不良で療養中です」

「ダメじゃん!?」


「俺に対する診察以外はとても優秀で熱心な先生ですが、色々ストレスが溜まっていたみたいで……あと、食べすぎで」

 自分に対してフーバー医師が下した診察は認めないが、彼の腕は認めているヴァンダルーだった。


「なので、気になるのなら俺が診ましょうか? 医院で経験と実績を積みましたから、気休め程度にはなりますよ」

「うーん、ヴァンダルー君に診てもらってもこの場合解決しない気がするから、今回はいいや」

「それよりも、これでヴァンダルーが普通じゃない事が、改めて分かったわね!?」

 エリザベスがそう言いながら強引に話の流れを修正する。


 瞳に生気と輝きを取り戻した彼女はゾーナ達に対して、熱弁を振るった。


「これまであなた達に私が置かれた状況を黙っていたことは謝るわ。それでも私とパーティーを組んでくれるなら、それは嬉しい。でも、ヴァンダルーと一生付き合う覚悟を決めてもらう事になる!

 だって、私のお母さまはヴァンダルーを夫だと思い込んでいるし、誰もそれを否定しないし、私はステータスに彼の娘って二つ名を獲得しちゃうし! もう一生離れられないと思う!

 それでもいいなら、私についてきて!」


「……あのー、別に毎晩夢に出るとか、そんな事はないのですが」

「ヴァンダルーさん、少し黙ってください。あなたと付き合っていくのは、中々覚悟のいる事なのです」

「はい」


 昨日、色々と真実を知らされたエリザベスとマヘリアが受けた衝撃は、彼女達に『自分の人生はヴァンダルーと出会う前とは大きく変化し、もう戻る事はない』と覚悟を固めさせるほど凄まじかった。

 もちろんエリザベスとマヘリアも、ヴァンダルーに感謝はしている。感謝はしているのだが、ヴァンダルーが実は魔皇帝で、文字通り山のように大きな息子がいて、当人は人間だと強固に主張しているが加護を与えたり分身を派遣したり、「それは神しかできない事なのでは?」という事をやってしまう人物だとは思わなかった。


(そりゃあ、私もヴァンダルーがただの名誉貴族の子弟だとは思っていなかったわ。明らかに実力を隠していたし、明らかに人間業じゃない事をしていたし、そもそもお母様を治療したり、あの医院を一週間で牛耳ったり、あの伯爵を洗脳したり、普通ならできるはずがない事は分かっていたわ。

 ……昨日、バクナワに遭った時、それまでの自分に『そんな甘いもんじゃないのよ!』って怒鳴りたくなったけど)


 外見からは想像もできないほど広かったサムの荷台でシルキー・ザッカート・マンションに移動したエリザベスは、妙にややこしい仕掛けに戸惑いながら荷物を運びこんだ。そして、夕食の後に姿を現したグファドガーンによって、どこかへ【転移】し、バクナワと面会したのである。……実際には、その場にティアマトもいたのだが、彼女の記憶には残っていない。すぐ気絶したから。


 正直、寝込まず学校に登校できた自分を褒めてやりたい。そう思うエリザベスとマヘリアだった。


「ヴァンダルーさん、お嬢様の義父となるあなたに対して、侍女の身で言ってよい事ではないかもしれませんが……心の準備ぐらいさせてください!」

「マヘリアさん、身分とか立場は気にしないでください。学校では同じ生徒で、パーティーメンバーですし、アメリアが娘も同然と思っているあなたは、俺にとっても家族同然です」

「この話の流れでは素直に感謝しづらいのですが、ありがとうございます!」


 ヴァンダルーと涙目のマヘリアとの会話を聞いているマクト達は、エリザベスの言葉にどう答えたものかと顔を見合わせ、しばらくしてから口を開いた。


「エリザベス様、それについてはなんて言えばいいのか……」

「その、覚悟以前の問題になっていまして……」

「はっきり言うと……僕達、もう手遅れっぽいです」


「手遅れって……もしかして、あなた達もう知ってたの!?」

「いえ、そうではなくて……私達もヴァンダルーさんは普通じゃないというか、尋常ではないというか、この世の物とは思えないというか、そんな感じなのは、薄々分かっていました」


「でも、はっきり知ったのはこの一週間の事で、多分エリザベス様と同じ頃だと思います」

「ただ……外堀を埋められたというか、もう親兄弟も僕達がアルクレム側、正確にはヴァンダルー側だとみなしているので、選択肢がない感じになっています」


 貴族の子弟であるマクト達の実家は、選王領の下級貴族で、リームサンド伯爵家から強い影響を受ける立場にあった。

 それがアルクレム公爵家の影響力や、ハートナー公爵家の長女ケイティとヴァンダルーの遭遇(表向きにはそれだけなのに)、そして先日のリームサンド伯爵家の突然の代替わりに、やはり突然関わってくるジャハン公爵家。


 さらに殺し屋や暗殺組織に金を払って依頼すると、その殺し屋や組織そのものと連絡がつかなくなる。それはまだいい方で、場合によっては雇ったはずの殺し屋や暗殺者が、雇い主に対して「これ以上関わるな」と警告したり、場合によっては逆に殺しに来ると、噂が流れた。

 実際、ここ一週間で行方不明になった貴族や商人、犯罪組織の関係者が何人もいる。


 そうした事に貴族であっても小物ばかりであるマクト達の親達は震えあがり、元々家族として色々とギリギリだったのに更に距離を取るようになった。自分達は巻き込まれたくないというように。


「ああ、アルクレム公爵家やジャハン公爵家の関係者が、気を利かせ過ぎたのかもしれませんね。ご迷惑をお掛けしました。良ければ誤解を解くために説明に伺いますが?」


「いや、気にしないでくれ。私達は元々家族仲がそれほど良くはないから」

「元々、跡取りの長男の予備の予備だからね。愛情が無い、とまでは思いたくないけれど」

「まあ、多分これから僕達が冒険者として大成すれば、実家の家族とも和解できると思うし。……僕達の感覚だと、一方的に距離を取られただけだしね」


 普通なら距離を取られたのではなく、切り捨てられたと感じ、恨みを覚えても仕方のない状況だ。

 しかし、マクト達は以前からヴァンダルーの特訓を受けた事で、冒険者としてもやっていけそうになった事で精神的な余裕を持てるようになっていた。そのため、家族から距離を取られた事で追い詰められる事はなかった。


「へぇ、中々言うようになったじゃん」

「ゾーナ、そういうお前の家はどうなんだ?」

「あたしは、距離を取られる前に逆に脅しておいたから大丈夫。あんまりうるさいと、ヴァンダルー君に言いつけちゃおうかなって」

「……たった今、脅しじゃなくなったぞ、それ」


「言いつけられましたが、どうにかしましょうか? そういえばご挨拶もまだでしたし、便宜上『お義父さん、娘さんをください』と言いに行くべきでしょうか?」

 言いつけられたヴァンダルーがそう尋ねると、ゾーナは笑いながら首を横に振った。


「実の父親の方はお互いに親子だと思ってないから気にしないで! 母さん達の方には、もう話してあるし」

「そうですか、それは良かった」

「それよりもエリザベス様が娘になるってどういう事? そっちの方が気になるんだけど?」

「実をいうと、私達も自分の進退よりそっちの方が気になるのだが……」


「ゾーナ、マクト、詳しい説明は後よ。それより、確認するけど、このまま私についてきてくれるのね?」

 そうエリザベスは重ねて問うた。彼等には他に選択肢が無いからではなく、自分の意志でついてきてほしかったからだ。


 重ねて問われたマクト達とゾーナは頷きあうと、エリザベスに向かって頭を下げた。

「エリザベス様、申し訳ありません。我々は、全員目的があってあなたに近づきました」

「薄々察しているとは思いますが、家族を通じて前リームサンド伯爵の指図に従っていました」

「あたしも、陥れようとかそう言うつもりはなかったし、実習で手を抜いたり、アレックス君の勧誘で失敗するよう誘導したりはしてないけど……」

「こんな僕達が言うのも厚かましいですが、これからもエリザベス様について行かせてください!」

「お願いします」


 そう言う五人に、エリザベスは躊躇わず頷いた。


「当たり前よ。あなた達は私が選んだパーティーメンバーなんだから!」

「ありがとうございます、エリザベス様っ!」

「これからは二心なく付いて行きます!」

「憑いて行きます」

 仲間としての絆をより強くするエリザベス達を見つめながら、マヘリアは姉妹同然に育ったお嬢様が短い期間に成長した事を確信して、思わず目頭が熱くなった。


「でも……あんたまで何でそっちに並ぶのよっ!?」

 エリザベスは五人目……いつの間にかユーゼフの隣に並んでいたヴァンダルーの両肩を掴んで揺さぶった。

「もちろん、これからもエリザベス様の腰巾着、もしくは取り巻きとして憑いていくからですが」

「お義父さま!? 娘の腰巾着や取り巻きは卒業してくださらないかしら!?」


「そう言われても……エリザベス様の腰巾着を辞めたら、俺はこの学校でどんなポジションにつけばいいのかわからなくなるのですが」

「なんでよっ!?」


 エリザベスにそう叫ばれても、ヴァンダルーは彼女の腰巾着でいる事を止めるつもりがなかった。何故なら、腰巾着である事をやめると学校で何をすればいいのか、パーティーメンバーのエリザベス達とどんな距離にいればいいのか、分からなくなるからである。


 最近では、自分に憑いているグファドガーンに親近感を覚えるようになったほどだ。


「まあまあ、エリザベス様、まだ彼の事をよく知らない者には、カモフラージュになりますし」

「後、そろそろ、お義父様とか娘とかの説明も聞かせてもらえると、あたし嬉しいなーって思うんだけど」

「お嬢様、諦めましょう。ヴァンダルーさんは話を聞いてくれる時と、聞いてくれない時があります。今は、聞いてくれない時です」


「くっ、仕方ないわね。今は諦めてあげるわ! それにゾーナ達にお母様の事を説明しないといけないし……次の講義の時間に間に合うかしら?」

「ああ、それといつになるか分かりませんが、オルバウム選王国の将来に関わる大事件が起きるので、覚悟してください」


「な、なんだって!?」

「どういうことなのですか、エリザベス様!?」

「私も知らないわっ! どどどどういうことなの!?」

「はぁ、まだどれほどの大事件になるかは分からないのですが……ウルゲン・テルカタニス宰相が良からぬ事を企んでいるようでして」


 オルバウム選王国の政治を動かす、実質的なナンバーワンが陰謀の首謀者。そう聞いたエリザベス達は、それはたしかに国の将来に関わる、最悪の場合国が二つ以上に割れる事になると、納得した。


「なお、選王国の英雄である『五色の刃』と俺は敵対しており、将来殺し合う事になりますが――」

「それは薄々気がついていたわよ。特訓で『五色の刃』の名前を出したら、アイゼンさんやザディリスさんが不機嫌になるから」

「融和派と積極的に距離を取っている事も、聞いていましたから」

「まあ、さすがに、直接殺し合う程とは思っていなかったけれど……」


「「「でも、それより、宰相の企みについてもっと詳しく!」」」

 どうやら、ハインツとの敵対関係についてエリザベス達は大体察していたらしい。彼女達が言っているように、ヴァンダルー達の日頃の言動や宗教的な活動を観察してれば、ハインツが属しているアルダ融和派と関係が悪い事は誰でも気がつくだろうけれど。


 それに、エリザベス達にとっては、遠くの英雄と将来ヴァンダルーが殺し合う事よりも、国をどうにかしかねない宰相の企みの方が身近な脅威であるため、強い関心を持ったようだ。

「今はまだ探っている途中で確かな根拠はないのですが、タイミング的にどう考えても俺達に無関係とは思えないのです」




 オルバウムの王宮の影に、音も無く黒装束を着た者達が潜んでいた。

 彼らは全員が元暗殺者……ヴァンダルーやその関係者を殺すか、誘拐しようとした者達だ。

 彼らは貴族や大商人に雇われるだけあって経験が豊富で、本来なら入り込めないはずの王宮に侵入するためのルートを知っていた。


 だが、彼らも王宮の全ての場所に出入りできる訳ではない。寧ろ、彼らが確実に侵入できるのは限られた一部だけで、その一部では特に異常は起きていなかった。

『申し訳ありません。我々では、これ以上の侵入は危険を犯さなければなりません』

「外の結界の一部を偽物に変え、気がつかれぬように破りましたが、王宮内部に二重三重に仕掛けられているようです」


 ヴァンダルー達に殺されアンデッドになった者や、生きたまま忠誠を誓った者が、口々に報告する。

「そうか、ご苦労」

 報告を受けた存在は、耳に心地の良い、しかしどこか不機嫌そうにも聞こえる平坦な声で彼らを労った。


「……命じてくだされば、必ずや成果を挙げて御覧にいれます」

『たとえ宰相の首でも……!』

 それを自分達の無能によるものだと解釈した暗殺者達は、己の忠誠を証明しようと口々に主張する。


「愚かな事を口にするな」

 しかし、彼らの主張を受けた存在はきっぱりと言い捨てた。

「お前達の価値は、偉大なるヴァンダルーによって既に定められている。お前達はここで捨てるには惜しい、それが偉大なるヴァンダルーの意志。

 偉大なるヴァンダルーの意志に従うのだ」


 グファドガーンは、ヴァンダルーの意志を伝えた。実際、暗殺者達の働きは十分なものだ。

 外側の結界の一部を破り、それによって空間属性の【転移】を含め一定以上の魔力を消費する魔術の発動や、霊やアンデッドやデーモン等の侵入を知らせる結界が張られた王宮へ、一部とはいえ潜入する事ができる。


 そして自分が内部に入る事で、【転移門】を開き味方の出入りを可能にする事ができる。十分な働きである。

 彼らがいなくてもアルクレム公爵やジャハン公爵が潜入工作に協力してくれれば、同じ事ができた。だが、彼らのお陰で両公爵がテルカタニス宰相やその一派以外の貴族に怪しまれる危険を犯すことなく、事を進める事ができる。


 ……グファドガーンが不機嫌だったのは、ヴァンダルー(本体)の背後から一時的とはいえ離れなければならなかったからだ。


「では、引継ぎを行う」

 そしてグファドガーンの、銀髪のエルフの美少女に見える体が真っ二つに裂けた。そしてその断面から、蜘蛛に似た蟲の脚が伸びる。


『あとは、任せろぉ』

「ニンジャの出番だ」

『フフフフ、今日は皆でお仕事よ』


 そしてグファドガーンの中から、『王殺し』、そして『首狩り魔』のスレイガー、ブラックゴブリンのニンジャのブラガ、そしてレギオンが姿を見せた。


次話も五日後の10月21日に投稿する予定です。


10月25日に一二三書房様から拙作の書籍版第6巻が発売予定です。サーガフォレスト公式ホームページには表紙もアップされていますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
エリザベスたちとのやり取り、ホントおもろいわwww
見れなかったのは「ステータスに大きな差がある」からで、「ヴァンダルー関連である」ことは直接の要因にはならないからやね。 あと、様呼びは学園を卒業したら辞めるって解釈でいい? 自分でもびっくりするくら…
[気になる点] ヴァンダルーの加護って、アレックスはモザイク掛かって見破れなかった筈なのに、何故知ってるんでしょう?
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