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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
426/515

三百三十八話 新しい家族の味はどんな味?

投稿が遅れてすみません。

 騎士が見せた【魔王の装具】から作られたという黒い剣と盾に対して、コービット選王やドルマド軍務卿達中央の主だった貴族、そして各公爵領の代官達は嫌悪の視線を向けた。騎士の近くにいた代官など、思わず席を立って距離を取ったほどだ。


 それだけ彼らの中で【魔王の欠片】は恐ろしく、忌まわしい存在なのだ。人体に重大な影響を及ぼす有害物質でできた剣と盾だと思えば、彼らの反応を理解できるだろうか。

 アルクレム公爵領の代官やハドロス・ジャハン公爵も例外ではなかったのも、当然だ。たしかにVクリームも【魔王の欠片】を利用して作られているし、ヴァンダルーはその欠片を数えきれないほど吸収している。


 しかし、だからと言ってテルカタニス宰相が見せた武具が、安心安全という保証にはならない。安全だという実績のあるヴァンダルーと同じ材料を使っているからといって、それは根拠にならない。寧ろ、彼らは「ヴァンダルーと協力体制にあるわけでもないのに、【魔王の欠片】を素材として利用できるのか?」と疑問を持っていた。


「率直に尋ねるが宰相殿、それに触れて大丈夫なのか? 触れた途端寄生されるなんてことはないだろうな?」

「それはない。諸君も、【魔王の欠片】の封印を利用して作った、【魔王の装具】がある事は知っているはずだ」

「それと同じだとでも? 【魔王の装具】も暴走の危険があるではないか!」


 歴史上、【魔王の装具】を戦争に利用した国は幾つもある。【魔王の装具】は強力な武器であり、アーティファクトであるオリハルコン製の武具に匹敵する。それをA級冒険者相当の超人の中の超人が振るえば、小国の軍なら瞬く間に蹴散らす事ができる。


 だが、そうして戦争に勝った国の末路の多くは【魔王の装具】が損傷した事で暴走し、それによって滅びるというものだ。もっとも、歴史に語られている中には【魔王の装具】の危険性を訴えるための創作がいくつか混じっていると思われるが。


「暴走の危険はない」

 しかし、テルカタニス宰相はまったく動揺を見せずに断言した。

「何故ならこれは【魔王の欠片】から作られた武具であって、【魔王の欠片】そのものではないからだ。【魔王の欠片】について研究している、ビルギット公爵領の代官殿なら私の言っている事が分かるはずだが?」


「……我が公爵領で行っているのは、【魔王の欠片】を暴走させない事、より安全に封印を行う事を目的とした研究です」

 面長の狐の獣人である代官が、苦虫を噛みつぶしたような顔でテルカタニス宰相の言葉を訂正する。


「ですが、宰相の言いたいことは理解できます。暴走した【魔王の欠片】や【魔王の装具】が残した部位の内、生きていない物……抜け落ちた髪や欠けた爪、剥がれた外殻の一部と同じという事でしょう?」

 暴走した【魔王の欠片】は自身の一部を飛び道具として射出したり、外部からの攻撃によって破損した時に部位を残す。【魔王の針】や【魔王の棘】の針や棘、そして暴走した【魔王の欠片】の外殻や血、肉片がそれだ。


 血や肉片は蒸発したり、塵になったりして消える事が多いが、針や棘、骨や殻の欠片は残る事が多い。


 【魔王の装具】なら、封印から生えた触角や髭を鞭にしたり、外殻を盾や棍棒、角を槍として使うが、封印から生えた部分を切り落とされても、再び生やす事ができる。

 そして切り落とされた部分は、装具に使われている【欠片】の種類にもよるがその場に残り続ける。それは人間や魔物が触れても寄生することはなく、魔力を込めても再生することはない。


 つまり、生きていないのだ。


「そうした残骸は、これまでは多くの場合神殿に魔王の欠片同様に封印されるなど何らかの方法で処分されてきた。ただ、そうした残骸を素材にして武具を作成した例もあったと我々の手元にある古文書に記されていました。オリハルコンでできたアーティファクトを持たない者にとって、暴走した【魔王の欠片】に対抗できる貴重な武具だったでしょうから。

 テルカタニス宰相殿は、それと同じことを行おうとしているのでしょう」


「その通りだ。ただ、いくら言葉で説明しても皆の理解は得られないようだ」

 そう言うと、テルカタニス宰相は自ら黒い盾を手に取った。

「よって、私自ら実演して見せよう。誰か、魔術でも剣でもいい、私に攻撃してみてくれないか?」

 その言葉に多くの貴族達がどよめく。


「私でも構わないかね?」

「では、私も」

 そして二人がすぐ名乗り出た事に、さらにどよめきが大きくなる。


 名乗り出たのは、ハドロス・ジャハン公爵。そしてアルクレム公爵領の代官だった。

「武勇でも知られるジャハン公爵か。お手柔らかに頼もう。それと、言うまでもないと思うが……」

「分かっている、ちゃんと盾に当てるとも。それと【御使い降臨】は使わないので安心してくれ」

 ハドロスとアルクレム公爵領の代官が名乗り出たのは、もちろんテルカタニス宰相が用意した【魔王の欠片】製の武具の性能を確かめ、ヴァンダルーに知らせるためだった。


 テルカタニス宰相の武具が暴走して自身が危険な目に遭う可能性もあるが、それはほぼないと考えていた。そうなればテルカタニス宰相自身が死亡する可能性が最も高いからだ。

 ハドロスは護衛兼秘書官のルダリオから、鉄のガントレットを受け取り装着する。


「【御使い降臨】は使わないと言ったし、これは戦闘用のアダマンタイトではなく儀礼用の鉄製のガントレットだ。しかし、私の【格闘術】スキルのレベルは6。【槍斧術】程ではないが、かなりの腕前だと自負している。本当に大丈夫かね?」


 そう確認を取るハドロス。ちなみに、【御使い降臨】のスキルは使わないのではなく、発動するとアルダではなくヴィダの御使いが空から降臨するか、ヴァンダルーの分身がやってくるので、テルカタニス達の前で使いたくないだけだ。


「構わないとも。たとえこれで腕の骨が折れようが、儂が死ぬことになろうが、貴公の責任は問わないと約束しよう。書面に残すかね?」

「いや、結構。では……【重拳】!」


 ハドロスの拳が唸りをあげる。装備しているのが見栄え重視のただの鉄製のガントレットだとしても、巨人種に生まれついた事で手に入れた高い身体能力と、これまでの人生で培った技があれば、並みの騎士なら盾の上からでも撲殺する事ができるだろう。


 そんなガントレットに包まれた拳が黒い盾に命中し、貴族達が思わず慄く程の衝突音が響く。

「ぬぅっ!」

 だが、テルカタニス宰相は立っていた。黒い盾はハドロスの拳を受けて砕けるどころか、衝撃をも吸収したのだ。


「っ!」

「これは、予想以上だ」

 そればかりか、逆にハドロスのガントレットの方にヒビが入っていた。もし【御使い降臨】や【限界突破】等も使用して全力で殴っていたら、砕けていたのはハドロスの拳の方だったかもしれない。


「しかし、ガントレットを壊させてしまったのは申し訳がない。弁済しよう」

「いえ、構いませんとも。それよりもさすがの強度だ、【魔王の装具】から作ったというだけはある。ミスリルやアダマンタイトの盾でも、こうはいかなかったでしょう」

「だろうな。ミスリルやアダマンタイトなら、盾は無事でも儂がどうにかなっていた」


 ハドロスの感想に、テルカタニス宰相もどこか安堵している様子で息を吐く。二人が言うように、ミスリルやアダマンタイト製の盾でもハドロスの一撃に耐える事は出来ただろう。しかし、衝撃を吸収しきれずテルカタニス宰相は後ろに吹き飛ばされていたはずだ。


 ウルゲン・テルカタニスも侯爵家に生まれた者の嗜みとして、それなりに武術を嗜んでいる。だが、しょせんは嗜み程度。公爵でありながら武勇も知られるハドロスとは、地力に差があるのだ。


 その後、アルクレム公爵の代官が嗜んでいた魔術をいくつか唱え、テルカタニス宰相が構えた盾に向かって放ったが、やはり黒い盾は高熱も冷気も完全に防いで見せた。


「さて、盾でこの性能だ。同じ素材を用いて作られた剣がどれほどの物かは、想像に難くないだろう。さらに、儂を見れば分かるように【魔王の欠片】に寄生される事もない。

 これらの装備を量産し、将兵に装備させる。この事に異論のある者は意見を述べてほしい」


 宰相が公爵や代官の協力を得て、性能を実演して見せた【魔王の装具】製武具。その反応は大きかったが、やはり賛成多数とはいかなかった。

 どれほど高性能で安全だったとしても、【魔王の欠片】を利用しているためイメージが悪かったからだ。


 将兵に装備させれば、それだけで戦力が数段上がる。しかし、肝心の将兵や神殿の反発を予想すると、簡単には手を出せない。

 実際、ハドロスは「アルダ神殿の力が強いジャハン公爵領の為政者」として反対のポーズをとった。アルクレム公爵家の代官も同様だ。


 ……六道からアルクレム公爵領とハドロス・ジャハンがヴァンダルー側である事を知らされているテルカタニスは内心、彼らに対して「いい面の皮をしている」と吐き捨てたい気分だったが。

 ただ、「生産された武具の性能が優れているとしても、生産する過程を見なければ安全だと判断する事はできない」という意見は、もっともだと他の貴族達から同意を得ていた。


「採用するには、制作過程を確認する必要がある。武具の制作過程に危険な箇所があれば、【魔王の欠片】が暴走してしまう可能性は消えない」

「それに、万が一暴走した際に迅速な対応ができるのか検証が必要かと。宰相殿もご存じの通り、我が公爵領には専門の研究者もいる。良ければ、協力を提案いたしましょう」


 と、明らかにヴァンダルーに情報を伝えるための情報公開を迫るハドロス・ジャハン。そして、自領で行っている研究事業をここぞとばかりに売り込むビルギット公爵領の代官。


 一方、サウロン公爵領の代官は武具の採用に賛成した。アミッド帝国が荒れている今の内に旧スキュラ自治区を平定しようとして他の公爵領に借りを作ってまで組織した軍が敗走したため、彼らは軍事力の再編に躍起になっているのだ。


「先ほどの実演を見たところ、武具の性能はミスリルやアダマンタイトと同等かそれ以上と判断した。是非、我がサウロン公爵領の国境守備隊に供与していただきたい!」

「馬鹿なっ、そんな事をしてアミッド帝国を刺激したらどうする? 多少高性能な武具があったところで、大軍と精鋭に踏みつぶされるだけだぞ!」


「所詮は高性能な剣や盾。並みの騎士に持たせれば百人分の働きをするとしても、帝国の侵略軍は万単位だ。それに、こちらから打って出ようにもミルグ盾国の城塞は堅牢極まる」

「そうですな。境界山脈遠征で精鋭部隊六千を失ってからもう数年が経つ。再建が進みつつある精鋭部隊に無傷の守備隊が加われば、簡単には攻め落とせまい。そう、多少性能の良い剣や盾がいくつか加わった程度では」


 しかし、反対に限りなく近い慎重論を述べる他の貴族、特にドルマド軍務卿の意見の前にサウロン公爵の代官の声は埋没してしまう。


「テルカタニスよ、そもそも武具はどこでどのようにして作っている? まさか場所すら明かせないのか?」

「選王陛下、申し訳ありませんが陛下の命でもこの場では明らかにすることはできませぬ。どこからか情報が洩れ、過激な思想の持ち主が何か企てるようなことがあれば、それこそ大惨事ですので。

 ただ、私が囲い込んでいる職人や神官、錬金術師によって製作されているとだけ言っておきましょう」


 その後、この議題は結局継続……つまり結論が出なかったため、先延ばしにされた。


(さて、これでどれほど時間を稼ぐことができるか。アルクレム公爵家の代官とハドロス・ジャハンがヴァンダルーに情報を流すとして……)

 ヴァンダルーに情報が流れるのは想定内だ。寧ろ、流れてくれなければ困る。


 【魔王の欠片】製の武具を作っているという偽装情報に惑わされ、テルカタニスが【魔王の欠片】を集めていたのは武具を製作するためだと信じる……という事はあるまい。

(だが、主から目を逸らす事はできたはず。しばらくの間、奴らは存在しない武具の工房や職人達を探そうとするだろう)


 テルカタニスが用意した武具は、実は六道自身が作ったものだった。工房も、職人も、錬金術師も最初から存在しない。彼が演出した偽情報だ。

 ただ、曲者は彼だけではない。


「……こんな調子で良かったかな?」

 会議室を後にしながら、ハドロスが近くにいるルダリオにすら届かない、小さな声で呟く。

『もちろんです。ありがとうございます、ハドロス』

 だが、その呟きに応える者がいた。ハドロスの耳の中に潜んでいる、小型使い魔王である。


『宰相が出席する会議に潜入しないかと言われたときは驚きましたが、意外とどうにかなるものですね』

「私としても、まさか耳の中に潜まれるとは思わなかったが」

 ちなみに、アルクレム公爵領の代官の耳にも同じ使い魔王が潜んでいる。


『極限まで小さく作りましたからね。……そのせいで耳の中に潜んで外の様子を見聞きする事しかできませんが。稼働時間も短いですし。

 ただ、あなたの勘が正しかったようですね』


 ハドロスからテルカタニス宰相が【魔王の欠片】や【装具】を集めている事を知らされたヴァンダルーは、まずは情報を収集する事にした。今までもアルダ神殿が【魔王の欠片】の警備体制を厳重にするために一か所に集めようとしていたが、それとは何かが異なるとハドロスは感じていた。

 働いている思惑が神殿とは違うと、長年政治の世界に身を置き神殿とも取引してきた彼の勘が働いたのだ。そして、それは正しかった。


「テルカタニス家製の【魔王の欠片】の武具か。君はどう思う?」

『俺もそれなりに武具を見る目はありますが、それから見るとミスリルやアダマンタイトで作られた武具に匹敵する……つまり、良く言って駄作。悪く言えば、玩具にしか見えません』


 ヴァンダルーが下した評価に、ハドロスは小さく驚いた。ただ、ヴァンダルーから素材を受け取って変身装具や武具を作っているタレアやダタラが見たとしても同じ評価を下すだろう。

『ハドロス、落ち着いて考えてください。あれはオリハルコンでないと対抗できない【魔王の欠片】や【装具】からとった素材を利用した武具です。

 それでオリハルコンより脆い、ミスリルやアダマンタイトに匹敵する程度の武具しか作れないのでは困るでしょう』


「たしかに……鋼鉄を使って銅の盾と同じ硬さの盾を作るようなものか。しかし、【装具】に魔力を流すだけで素材を無限に手に入れられるなら、ミスリルやアダマンタイトで武具を作るよりも利便性は高いのでは?」

『それはそうですが、宰相が言っている程安価に作れるとは思えません。安価に大量生産できるのなら、そしてそれを採用させたいなら、今日の会議でそれをもっと強く主張して、その証拠として大量の盾や剣、槍や鎧等も用意したと思います』


 危険なダンジョンから持ち帰るか鉱山から採掘して精製するよりも、【魔王の装具】から素材を入手するのは楽だ。それを可能にし、さらに安全性を保つ体制を整え維持するのが通常はほぼ不可能だが。しかし、それさえ可能なら、素材をいくらでも取る事ができる。ヴァンダルーのように。


 だからこそ、テルカタニス宰相がそれを可能にしているのなら、見本として見せたのが剣と盾一つずつだけなのはおかしい。


『それに、盾と剣の作り自体が荒かったですからね。多少は誤魔化されていましたが、塊からそのまま削り出しただけのような、剣や盾の型に流し込んで固めただけのような、そんな感じです。剣の方は近くで見ていないので、あまり確信がありませんが』


「なるほど。そのあたりが、性能が落ちている理由なのかもしれないな。となると、盾の方だけ試させたのもそのためか。そうなると、宰相が言っていた職人や錬金術師は存在しないか、しても粗雑な腕しかない無名の者を使っているのかもしれないな」


 考えてみれば、宰相が囲い込んでいる程の職人や錬金術師が制作にかかわっているなら、いくら試作品でも装飾の一つも施すだろうし、硬く衝撃を吸収する以外の効果も付与するはずだ。

 何せ雇い主が、コービット選王やドルマド軍務卿達選王国を動かすトップや各公爵領から派遣された代官達の前でお披露目するのだ。自分達の仕事と人生を左右するのだから、気合を入れないはずがない。


 それに将兵に持たせるという事は、一兵卒だけでなく騎士やそれを指揮する将軍などにも持たせる予定があるという事だ。なら、当然機能だけではなく見栄えにも拘らなくてはならない。


「それが無いという事は、これは偽情報。それも、慌てて打った下手な手という事か。

 私も含めて、会議に出席している者は【魔王の欠片】が関係する装備と聞いて、その衝撃に飲まれて細かいところまで気がつかなかった。君に意見を聞けて助かったよ」


『いえいえ、こちらこそ助かりました。それでは後で会いましょう』

 そう声がしたかと思うと耳の中からモゾモゾと動く気配がして、ポロリと小さな甲虫のようなものが落ちてきた。

 ハドロスはそれを手の平で受け止め、ハンカチで丁寧に包む。


「閣下?」

「ああ、しばしの別れというやつだ。何を話したのかは、屋敷に戻るまでの間に話すよ」

 ここは危険地帯だ。ハドロスはそう考えている事を悟られないよう、穏やかな足取りのままサロンに向かい、そこで他の公爵領の代官達や中央領の貴族達、そしてコービット選王と話して意見と情報の交換……つまり政治的なやり取りを行い、それから王宮を出た。


「彼も運が悪いな。事が起こるのがもう少し後なら自領に籠っていられただろうに」

「コービット選王の事でしたらたしかにそうですが、事が事だけにバーンガイア大陸の何処にいても危険なのは変わらなかったかと」

「たしかに、その通りだな、ルダリオ」




《『巨人帝』の二つ名を獲得しました!》




 その頃、魔王の大陸では一組の親子が語らっていた。

「そういう訳で、お姉ちゃんとお義母さんが増えます。そして今さっき、何故か今更『巨人帝』なる二つ名を手に入れました」


『パパすごいぃ~、歯ごたえが堪らないぃ~』

 ボリボリと巨大な岩を齧りながら、バクナワが二つ名の増えたパパ、ヴァンダルーを称賛する。

『多分、新しく友人になったジャハン公爵が二つ名獲得の理由じゃろう。境界山脈内の巨人種だけではなく、外の巨人種にも認められる存在になったということじゃ』

 ティアマトはそう言いながらも、あまり『巨人帝』の二つ名については興味がないらしい。


『それよりも、妾の次に娶った娘と、そのやや子が気になるのぅ。いつの間に産ませたのじゃ?』

「いえ、エリザベス様は俺の義理の娘です」

『何故娘に様付なのじゃ?』

「義理の娘になる前から様付で呼んでいたので、変えるのも変かなと思いまして」


『……普通は様付で呼ぶような娘の義理の父親になる事自体が変じゃと思うが、まあ、それは言わんでおこう。人間の社会は複雑怪奇なようじゃし』

 ティアマトからするとバーンガイア大陸の人間社会は、そう見えるらしい。アルクレム公爵やジャハン公爵も同意見だから、無理もない。


『お姉ちゃん、どんな味かなぁ? パパみたいに美味しい?』

『これこれ坊や、食べてはダメじゃ。食べていいのは敵と妾達が食べていいと言った物と、パパだけじゃ』

『うん、舐めるだけにするぅ』

「……エリザベス様、大丈夫でしょうか? でも、バクナワに味と匂いを覚えてもらった方が、もしもの時に助かりますし」


 暴食の龍、バクナワの嗅覚は味覚に次いで鋭い。だが、その感覚器官は鼻ではなく舌の方が鋭い。そのため、舐める事でバクナワは対象の味だけではなく匂いも覚える事ができる。

 そして味と匂いを覚えると、万が一バクナワの口に入ってしまった時、飲み込む前に気がついて吐き出す事ができる。


「最近は俺無しのパーティーでもランク5の魔物を倒せるそうですし、舌に触れるだけなら大丈夫かもしれませんね」

『それより、やっとジョブチェンジしたのじゃろう? 何になったのじゃ?』


「はい。【デーモンルーラー】に……なった瞬間、まだ使い方を決めていなかった【体内世界】の一つがデーモン系の魔物で溢れてレベルがカンストしたので、【整霊師】になりました」


 これまで冒険者学校に入学した後、エリザベスや他の仲間のレベリングやアメリアの治療を優先したのと、テルカタニス宰相が何事か企んでいる事が分かるまでは、強敵らしい強敵が出なかった事もあり、ヴァンダルーのレベルの上昇は非常に緩やかになっていた。


 そしてやっと百レベルになったので、【デーモンルーラー】にジョブチェンジした。何故なら、デーモンに関係する事をすれば、レベルが速く上がりそうな名称のジョブだったからだ。

 結果、何故か【体内世界】の一つがデーモン系の魔物で溢れた。魔界が顕現したのかと思うほど、デーモンが出現し、その【体内世界】のヴァンダルーを王と呼び、忠誠を誓っている。


 そして、今気がついたがヴァンダルーの周囲を漂う魂がほんの少しだけ減っている。

「多分、【デーモンルーラー】はデーモンを作る事ができるようになるジョブだったのでしょう。脳内アナウンスで、【装悪術】や【悪魔錬成】のスキルを獲得したと流れましたし。もう他のスキルに統合されましたけど」


 魔力や自身の血肉でデーモンの肉体を創り、それに周囲に漂う魂を入れる。やっている事はゴーレム創成や擬似転生と同じ事だ。

 それが【クリフォト】に就き【体内世界】スキルが在った事で溢れ出し、体内世界一つに満ちるデーモンの大群を作りあげ、それによってレベルがカンストしてしまったのだろう。


『あ、あったぁ。美味しい骨の欠片ぁ』

 そう話していると、バクナワが舌の先についた白い欠片を近づけてくる。

『ふむ、ではヴァンダルーよ、血を――』

「だめです、二つ目はクノッヘンにあげる約束ですから、第二子はしばらくお預けにしてください」




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




・名前:ヴァンダルー・アーク・ヒルウィロウ・ソルダ・ザッカート

・種族:ダンピール(母:女神)

・年齢:12歳

・二つ名:【グールエンペラー】 【蝕帝】 【開拓地の守護者】 【ヴィダの御子】 【鱗帝】 【触帝】 【勇者】 【大魔王】 【鬼帝】 【試練の攻略者】 【侵犯者】 【黒血帝】 【龍帝】 【屋台王】 【天才テイマー】 【歓楽街の真の支配者】 【変身装具の守護聖人】 【女神の解放者】 【巨人帝】(NEW!)

・ジョブ: 整霊師

・レベル:3

・ジョブ履歴:死属性魔術師 ゴーレム錬成士 アンデッドテイマー 魂滅士 毒手使い 蟲使い 樹術士 魔導士 大敵 ゾンビメイカー ゴーレム創成師 屍鬼官 魔王使い 冥導士 迷宮創造者 創導士 冥医 病魔 魔砲士 霊闘士 付与片士 夢導士 魔王 デミウルゴス 鞭舌禍 神敵 死霊魔術師 弦術士 大魔王 怨狂士 滅導士 冥王魔術師 ペイルライダー  混導士 神導士 神滅者 虚王魔術師 神霊魔術師 ダンジョンマスター クリフォト デーモンルーラー



・能力値

・生命力:924,482+(55,468) (67,347UP!)

・魔力 :16,030,429,383+(16,030,429,383) (503,386,604UP!)

・力  :85,638+(856) (1232UP!)

・敏捷 :80,370+(803) (2131UP!)

・体力 :90,628+(906) (1778UP!)

・知力 :117,060+(1,170) (2,204UP!)




・パッシブスキル

超力:2Lv(UP!)

超速再生:8Lv

冥界神魔術:5Lv

状態異常無効

魔術耐性:10Lv

闇視

末那識誘引

詠唱破棄:10Lv

導き:末那識

魔力常時回復:9Lv(UP!)

従群超強化:9Lv(UP!)

猛毒分泌:牙爪舌:9Lv

身体無限伸縮:舌

無手時攻撃力増強:大

身体超強化(髪爪舌牙):2Lv(UP!)

魔糸精製:2Lv

魔力増大:10Lv

魔力回復速度上昇:10Lv

魔砲発動時攻撃力増強:大

生命力増強:6Lv

能力値増強:君臨:1Lv(能力値強化から覚醒!)

能力値強化:被信仰:10Lv(UP!)

能力値強化:ヴィダル魔帝国:5Lv

自己再生:共食い:4Lv

能力値増強:共食い:4Lv

魂纏時能力値増強:小

殺業回復:7Lv

自己強化:殺業:7Lv

杖装備時魔術力強化:大

全能力値強化:極大



・アクティブスキル

統血:5Lv(UP!)

限界超越:10Lv

ゴーレム創成:9Lv(【一寸法師】と悪魔錬成を統合!)

虚界神魔術:1Lv

魔術精密制御:5Lv

神霊理:1Lv

錬神術:3Lv

魂格滅闘術:8Lv(【ナイト】を統合!)

同時多発動:8Lv

手術:9Lv

具現化:6Lv

群隊:4Lv

超速思考:7Lv

将群:3Lv

操糸術:9Lv

怨投術:2Lv

叫喚:9Lv

神霊魔術:6Lv

魔王砲術:8Lv

装影群術:8Lv(装悪術を統合!)

欠片限界超越:4Lv

整霊:3Lv(UP!)

鞭術:4Lv

霊体変化:雷

杖術:4Lv

高速飛行:3Lv

楽器演奏:4Lv

舞踏:2Lv

筋術:4Lv

魔闘術:3Lv


・ユニークスキル

神喰らい:10Lv

異貌多重魂魄

精神侵食:9Lv

迷宮創造:7Lv

大魔王

根源

神敵

魂喰らい:10Lv

ヴィダの加護

地球の神の加護

群体思考:9Lv

ザンタークの加護

群体操作:9Lv

魂魄体:5Lv

魔王の魔眼

オリジンの神(オリジンの神の加護から変化!)

リクレントの加護

ズルワーンの加護

完全記録術

魂魄限界突破:5Lv

変異誘発

魔王の肉体

亜神

ボティンの加護

ペリアの加護

体内世界


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能




〇ジョブ解説:クリフォト


 体内に十の世界を作る事ができる【体内世界】スキルを獲得できるジョブ。【体内世界】の広さは所有者の魔力量による。

 このジョブを獲得するには、異なる世界へ複数回わたる事と、【装〇術】スキルを獲得している事等が条件に挙げられる。


〇ジョブ解説:デーモンルーラー


 悪魔の支配者、その創造すら支配する存在である事を表すジョブ。このジョブに就くと、デーモン系の魔物を使い魔と同じ感覚で創造する事ができる。ただし、自分より強いデーモンは創造できず、多くの場合は自分よりも数段以上弱い(最大でも、一対一で戦っても、油断しなければ確実に倒せる程度)で、また強いデーモンを創る程魔力を多く消費する。ヴァンダルーもその例外ではない。


 なお、ヴァンダルーが油断しなければ確実に勝てる程度のデーモンとは、並みのA級冒険者が死力を尽くして戦って何とか勝てる程度である。

 ちなみに、この「油断しなければ確実に倒せる程度」とは、逃亡や、隠れ潜んでやり過ごそうとする等、デーモンが戦闘を回避しようとした場合の事も含まれる。


次話も五日後の10月16日に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
貴族娘の様呼び嫌だなぁ。 いくら本人や周りが拘らないからと言っても… 俺は嫌だなぁってだけの話。
[一言] 魔王素材でデーモンが作れるならAランクが束にならないと敵わないんじゃ……。
[気になる点] 今更ですか,三百三十八話からのヴァンダルーの能力値に関して計算が間違えました。(主にヴァンダルーの体力か三百七话の結果を計算ていない) 詳しいのは誤字報告機能に確認してください(三百…
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