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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十四章 冒険者学校編
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三百二十五話 魔王の周囲と魔王を狙う者達

 この一か月、先生の厳しい指導を受け続けた成果か、ついにレベルが1上がった。

「上がった……レベルが上がったぞ!」

 レベルが1上がった程度で何を大袈裟なと、そう思うかもしれない。しかし、それは彼……英雄予備校の教官であるエイサムにとっては大きな前進だった。


 エイサムは今まで、何度も成長の壁にぶつかってきた。しかし、その度に乗り越えてきた。地道な訓練と、自分の力量で無理せず倒せる程度の魔物との戦いを繰り返し続け、壁をよじ登り続けたのだ。

 しかし、最後にぶつかった壁は高すぎた。一年、二年、努力を続けても一向に超えられそうになかった。


 その時エイサムはC級冒険者だった。彼自身は二つ名を獲得していなかったが、人によっては『剛腕』や『氷剣』などの二つ名を獲得して地元で英雄視される段階に至っている。

 ギルドでもC級冒険者は、D級以下の冒険者よりも優遇されている。


 努力してもD級までで終わる冒険者が過半数である事を考えれば、C級にまで至ったエイサムを笑う者はいないだろう。寧ろ、称えられるべきだ。

 エイサムもそう満足して引退した。そして冒険者ギルドが彼の人格や今までの経歴を評価し、推薦状を書いてくれたため、英雄予備校に再就職する事ができた。


 そこでエイサムは自分が培った技術を生徒達に伝えようと、情熱的に指導した。だが、生徒達が成長し卒業していく度に満足感だけではなく、寂しさも覚えていた。

 そして気が付いた。自分はまだ、諦めたくなかったのだと。


 だが、それはエイサムにとって茨の道だった。確かに、諦めないで倒せる魔物を倒し続けていれば、いつかは成長の壁を超える事ができるかもしれない。しかし、それはいつになるか分からない。もう壁にぶつかってから十年近く過ぎた。


 蓄えは十分ある。朝に魔境やダンジョンに入り、九割以上勝てるとはいえ命の危険を冒して戦い、汗と魔物と自分の血で汚れた体で帰る。そんな毎日を繰り返す人生よりも、このまま教官を続けて安定した毎日を過ごし、所帯でも持って安楽な人生を生きる方が良いのではないか。


 そんな事を思い悩んでいたエイサムは、先生に叩きのめされた。地道な訓練と確かな経験に裏打ちされた【槍術】は全く通じず、子供のように軽く捻られた。

 本気のエイサムが怪我をしないよう、優しく手加減され、「筋は良い」なんて慰めまでもらって。彼のプライドは折られ……いや、ヤスリで粉にされた。


 しかし、そんな扱いをされても仕方がないほど、先生とエイサムの間には大きな実力の差があった。


 次の日からエイサムは先生に頼み込んで訓練をつけてもらった。先生の課す訓練は、模擬戦とその反省点を活かしたトレーニングを繰り返すだけで、毎日毎日エイサムは先生や他に先生に訓練をつけてもらっている同僚、そして生徒と模擬戦を繰り返した。


 そして、自分に足りない部分のトレーニングを行う。先生はまるでいくつもの目を持っているかのようにエイサム達をよく見ていて、その問題点や足りない部分を指摘してくれた。


 それを約一か月続けた結果、エイサムは成長の壁をついに乗り越えたのである。


「先生っ! 俺はっ、今期で卒業して、冒険者業に戻ります! ご指導、ありがとうございました!」

 そう涙を流しながら告げるエイサムの手を取って、ヴァンダルーは大きく頷いた。


「今までよくついてきてくれましたね。全ては、あなたの努力による成果です。俺もエイサム先生の事を誇りに思います。

 ……しかし、何度も言っていますし、もうほとんど諦めていますが、生徒は俺で先生はあなたです」


 確かに訓練もしたし、口や態度に出さない事から多分加護はまだ獲得していないと思うが、導いてはいるのだろう。だが、それで何故先生に卒業(転職)を告白され、更に礼を言われるのか。学校生活は充実しているのだが、何か違うのではないだろうか。

 そう思わずにはいられないヴァンダルーだった。




 デスクの上に三枚の書類を広げて、メオリリスは溜め息を吐いた。

「この程度で済んで良かったと言うべきか、それともまだまだ序の口なのか……いやまあ、個人的にはよくやったと思うし、エイサム達の再出発を祝福し、応援するつもりだが」


 ダンドリップこと『真なる』ランドルフは、校長とメオリリス個人の板挟みで笑みとも渋面ともとれる微妙な顔をしている彼女に、「まだよかったじゃないか」と言った。

「まだ四月の終わりだ。エイサム達が辞めるのは、今期の終わり……九月末まで五か月ある。それまでに新しい教官を探せばいい。

 俺が想定していた事態よりは、だいぶマシだ」


 生徒と一緒にヴァンダルーの訓練を受けるようになった教官五人のうち、エイサムを含む三人が退職を希望した。ただ、冒険者としてやり直したいという理由での退職なので悪い話ではない。……三人とも、ぶつかっていた成長の壁を越えられたそうであるし。


 ちなみに、ランドルフが想定していた最悪の事態は、教官もクラスメイトも心を折られて全員学校を去ってしまう事だった。


「模擬戦だけで元C級冒険者の教官がぶつかっていた成長の壁を越えさせたというのは、正直信じがたい。一人だけなら、成長の壁を越えかけていた時期に偶然ヴァンダルーが入学してきただけと考えられるが……三人だからな。ヴァンダルーは、他人の成長を促進する事ができるスキルを持っていると考えるべきだろう」


「そうか……しかし、上級生のアレックスとは違うタイプのようだな。彼は他人の眠っている才能を見抜いて、それを開花させた。だが、ヴァンダルーは眠っている才能など無いはずのベテラン教官まで成長させている。

 これは、もしや【導士】か?」


 【導士】ジョブについて、元A級冒険者であり百年以上生きている経験豊かなエルフであるメオリリスは、多少知識があった。

 実際に会った事はないが、【導士】本人やその仲間が書き残した文献から、人の身でありながら神々の加護のようなものを仲間に与える事ができる存在である事が分かっている。


「あり得るかもな。……むしろ、違ったら驚きだ」

 ランドルフも否定しなかった。彼はハインツに一度だけ会っているので、ヴァンダルー以外の【導士】と会っている。……それよりも長い間、カナコの指導を受け、同じステージに立っていた訳だが。


「母親も含めて、奴の周囲には猛者が多すぎる。奴が本当にアルクレム公爵領に仕えているなら、タッカードがその気になれば、オルバウム選王国をアルクレム王国に変えられるだろう。

 だから、奴が【導士】である事に俺は疑問を持たない。【導士】につきものの思想も、納得のいくものがあるからな」


「例の改革か……。それは私も納得できるのだが、エイサムがその改革に共感し、ヴァンダルーの仲間になったというのは納得できないのだが」

「その点は同意する」


 【導士】の力が及ぶのは、仲間だ。同じパーティーのメンバー同士よりも対象はずっと広いが、それでも範囲に制限がある。ただ武術の手ほどきを受けただけで、その範囲内に入れるとは思えない。

 文献の記述通りなら、エイサムはヴァンダルーに尊敬や信頼を向けるだけではなくアルクレム公爵が唱える改革の支持者になっていなければおかしい。


 退職理由も、冒険者になるのではなく「少しでもヴァンダルーの力になりたくて!」という類になるはずだ。実際には、そこまであからさまなものではないかもしれないが。


「まあ、【導士】だろうとそうでなかろうと構わんさ。教職員が退職するのは困るが、どうにかできる。だが、【導士】をどうにかするのは不可能だからな」


 【導士】の導きは、思想だ。だから導かれないようにするには、ヴァンダルーとコミュニケーションを取らなければいい。言葉を交わさず、目も合わせず、書いた物を読まない。それを徹底すれば、メオリリスの知識によれば導かれないはずだ。


 ……実際には、ヴァンダルーは夢からでも人を導くことができるので、そこまで徹底しても完全ではないが、一定の効果はあるだろう。


 しかし、ここが学校であってヴァンダルーが生徒である以上……最近、ヴァンダルーを生徒扱いしない教職員が増えているが、だからこそ徹底させることは不可能だ。

 そんな事をするなら最初から強引に受験を不合格にしていた方が、まだマシだ。


「最近では職員会議に混じっている事がある程、一部の教職員と打ち解けているからな。エイサム達に連れ込まれただけで、ヴァンダルー本人は困惑していたらしいが」

「ああ、しかもエイサムなんかはヴァンダルーがいる事に何の不自然さも感じないらしい。……あいつ、辞めて良かったんじゃないか?」


「そうだな。教職員としては問題のある態度だったな。私も、不自然過ぎてつい対応するのが遅れたが」

 今からでも強権を振るって、ヴァンダルーは教職員用の施設には基本出禁とし、彼を一生徒として扱うよう改めて徹底しよう。これは構わないはずだとメオリリスは思った。


「さて、とりあえず入学一か月目を乗り切った。これからヴァンダルーは宣言していた通り、エリザベスのパーティーに正式に加入するだろうが……大丈夫だと思うか?」


 英雄予備校では、入学後一か月が経つまで新入生は同じ教室の生徒同士でしかパーティーを組めない決まりになっている。

 そのため、ヴァンダルーは書類を提出し、明日から正式にエリザベスのパーティーに加入する事になる。


 ちなみに、これまでのヴァンダルーは勝手にエリザベスのパーティーに入る事を宣言していただけで、学校側に何の書類も提出していないソロ生徒、どのパーティーにも参加していないフリーな状態だった。

 そのため、ヴァンダルーもエリザベスも学校の規則に反してはいない。……普通ならヴァンダルーは一人で実習に耐えられるはずがないだろうと教官から説得され、エリザベスは青田買いがあからさま過ぎると非難される事になる。


 しかし、ヴァンダルーに手ほどきを受ける程度の実力しかない教官が「一人で実習に耐えられるはずがない」等と言えるはずがなく、エリザベスの方も非難されるどころか「あのザッカート名誉女伯爵の息子を引き入れた」と感心されたほどだった。


「トラブルは起きないだろう。これまでのヴァンダルーの言動を見る限り、奴は基本的に冷静だ。上級生に絡まれるようなことがあっても、無難に流すだろう。……馬鹿が母親の弁当を馬鹿にし、義理の妹のパウヴィナや従魔に手を出そうとしたとしても、狡猾な手口でトラブルに発展しないようにするだろう」


「後半は問題な気がするな。だが、まあその程度なら何とかなるだろう。我が校の行事は少ないし……これから奴を抑えるのはパーティーのリーダーであるエリザベスの役目だ」


 英雄予備校には『地球』の学校にあったような林間学校や文化祭、体育祭と言った学校行事は無い。魔境やダンジョンに泊りがけで行う実習や、実際に一週間ほど大人の冒険者と合同で商隊の護衛を行う実習などもあるが、あくまでも実習。必修ではないので、やるかどうかは本人達の意志に任せられている。


「できれば、優秀な成績を修めてとっとと卒業して欲しいものだ」




 その頃、アレックスは学校の寮の部屋で書き物をしていた。部屋は学生が住む寮とは思えない程広く、家具や調度品も上等だ。故郷の村にある家がすっぽり入る程ではないが、彼の感覚としては二人で住むには贅沢過ぎるように思える。


 だが、この寮には他の公爵領の貴族出身の生徒が入る事もあり、普通の冒険者学校の寮……ギシギシ軋む二段ベッドを二つ詰め込んだだけの木賃宿より多少マシ程度の部屋と同じようにすると、トラブルの種になるらしい。

 そのため、上等なベッドと専用の書き物机、収納スペースに照明用のマジックアイテムまで完備した部屋が用意されたらしい。


 これで家賃はタダなのだからありがたい。


「今月の収支も、黒字だな」

 アレックスが書いているのは、家計簿である。何故なら、学校が自身の家計簿をつける事を推奨しているからだ。

 冒険者はいつ死ぬか分からない危険な仕事だ。そのためか、昔は宵越しの銭は持たないと言わんばかりに刹那的な生き方をする者も多かった。


 しかし、それでは冒険者を引退しなければならなくなった時に生きていけない。また、酒や博打で所持金を使い果たし、新しい武具を買い替える事ができずにそれが原因で死ぬ者もいた。


 そうした状況を変えるために、各冒険者学校では学生に家計簿をつける事を推奨するようになったそうだ。アレックスも先人に倣って、家計簿をつけている。


「だが……パウヴィナとヴァンダルーに対しての失点は大赤字だな」

 ルームメイトがすっかり寝入っている事を確認してから、そう言って重苦しい溜め息を吐いた。

 どうもあの一件以来、彼女達の中で自分は変質者の代名詞か何かになったのか、近づくだけでヴァンダルーの従魔や彼を先生と慕う生徒や教官に警戒されるのだ。


 とてもステータスを見るどころではない。……ヴァンダルーの従魔のステータスは見る事ができたが、やはりモザイクだらけで何も分からなかった。そのモザイクの量から、多数のスキルを獲得している事は分かったが。


 もちろん、仲間に誘うどころではない。彼女達はこの一か月、放課後になると街の外で実戦的な訓練をしているため、接触できないのだ。

 この分では彼らを仲間にするのは諦めた方が良いかもしれない。


 それに、前期まで興味がなかったエリザベス・サウロン達も気になる。

 ヴァンダルー達がしている特訓に興味を持ったアレックスは、その効果の参考にするためにエリザベス達のステータスを改めて【大鑑定の魔眼】で確認したのだ。


 すると、エリザベスはぶつかっていたはずの成長の壁を越えており、マヘリアやゾーナ達もレベルや能力値が上がっていたのだ。

 もちろん、アレックスも一か月前よりは成長しているが……彼女達の成長は明らかに異常なハイペースだ。

 噂では特訓の内容は、冒険者に追い立てさせた魔物と戦うというものらしいが、本当だろうか?


(それと同じことを毎日のようにしているはずの冒険者だって、そんなペースでレベルは上がらない。冒険者が追い立てて来るだけじゃなく、魔物を弱らせて止めを刺すだけで大量の経験値を得ている……という訳ではないのは、スキルのレベルも上がっているのを見ればわかる。

 彼女達が強くなれた秘密はいったい何なんだ? 何年か前から神々の加護を得る人が多くなったらしいけど、彼女達は得てはいないし……)


 【導士】の事を伝説でしか知らないアレックスは、エリザベス達が短期間で強くなったことに困惑していた。特に、【大鑑定の魔眼】でステータスを確認した時に成長の壁……それもかなり高そうな壁にぶつかっていたはずのエリザベスのレベルが上がっている事に、驚いていた。


 だがエリザベス達はまだ【ヴァンダルーの加護】を獲得していなかった。導かれているだけだったため、【大鑑定の魔眼】で確認できる原因は無かった。


(やはりヴァンダルーか? 彼が他者の成長を促進させるユニークスキルか何かを持っているのか? だとしたら……従魔はともかく、教官の邪魔が入らない実習中に彼のステータスを確認するしかないか。いや、でも……彼のステータスもモザイクだったら、無駄なんじゃないか?)




 オルバウムの城で、ウルゲン・テルカタニス宰相は賜った使命の進捗状況を報告していた。


「【魔王の欠片】は王宮の聖域に、既に十個集める事ができました。我がテルカタニス家が守ってきた【欠片】を含めて」

 彼が頭を垂れている先には、見慣れない聖印らしきものが刻印された紙が置かれている。どうやら、即席の祭壇のつもりらしい。


「すり替えるために必要な封印の偽物も既に揃っております。……あと五つ必要なのですか? それにはもう少しお時間を頂かねばなりません」


 しばらく前、テルカタニスは六道聖と名乗る神から神託を受け取り、神が求める【魔王の欠片】を集め始めた。

 元々アルダ神殿の神殿長から、【魔王の欠片】の管理を厳重にするようにと神託を受けたと聞いていたため、「王宮の聖域に安置し、管理する」と各神殿に触れを出せば、実行は容易かった。



 その王宮の聖域は、実は各神殿の聖域……神官や司祭が総出で儀式を行い、聖別して魔術による外部からの侵入や干渉が難しくなった空間……と、あまり違いはないのだが。


 オルバウム選王国が誇る『オルバウム六方陣』が守っている等、防衛力的な意味では王宮の方が上だが、それでも【魔王の欠片】を移送する際のリスクを考えれば、移動させる意味はないだろう。


「はっ、お任せください」

 どうにか神に猶予をもらったテルカタニスは立ち上がると、即席の祭壇に見立てた執務机から聖印を刻印した紙を手に取ると、懐にしまった。


「他の公爵領の神殿が守っている欠片を集めるには時間がかかる。情報が洩れる危険性も高い。やはり、王宮の宝物庫の奥に封印されている【魔王の欠片】を動かすしかないか? だが、それにはカギの一つである選王の王冠が必要だが、どうするか」


 テルカタニスは六道聖が神である事を疑っていなかった。魔術による通信を神託と偽られている可能性や、薬物による洗脳を受けていないか調べたが、六道聖の言葉は魔術や薬物によるものではなかった。……当然、彼の近くに誰かが隠れ潜んで囁いている訳でもない。


 そして六道聖は神以外では知りえない情報をテルカタニスに語った。ヴァンダルーの来歴とその正体。境界山脈の向こうで牙を剥くヴィダの新種族とアンデッドの国、そして『蒼炎剣』のハインツの敗北。


 一度は、対応を誤らなければオルバウム選王国の秩序を維持しつつアルクレム公爵が訴える改革や、ヴァンダルーの存在を乗り切れる。グールを人の一種だと認めること等、アルダ融和派の主張よりも広くヴィダの新種族の権利を認めなければならないが、逆に言えばそれで済むと考えていた。


 だが、真実は違った。アルクレム公爵はヴァンダルーが支配する国の走狗となり、オルバウム選王国を奴に売り渡そうとしていたのだ。

 その方が、選王国のヴィダの新種族やヴィダ信者にとっては幸せかもしれない。貧民共の何割かは、それで人生を変えるチャンスを得るかもしれない。


 だが、アルダ神殿と太いパイプを持つウルゲン・テルカタニスとその一族は、その地位と権力を失うだろう。財産や、命も危ない。

 冗談ではない。このオルバウム選王国を支え、秩序を守ってきたのは自分達だ。その自分達が無残な最期を迎えるなど、許される事ではない。


「少数の貧しい者達を救うために、大多数の国民とそれを治め導く我々が犠牲になるような不条理は防がねばならんのだ」

 既に一度敗退している若造に任せられん。神に選ばれた、この儂こそが救国のため力を振るうのだ。




 ロドコルテの神域に留まっている六道聖は、ウルゲン・テルカタニスの様子を満足げに眺めていた。

『ダー、お前の【倶生神】のお陰で彼を上手く操縦できた』


『恐縮です』

 転生者であり六道の配下の一人である【倶生神】のダーは、そう言って一礼した。テルカタニス宰相が神託だと思い込んでいたのは、魔術や薬物ではない。チート能力によるものだった。


 ダーの【倶生神】は対象の内部に憑りつかせることで、対象の状態を常に把握し、テレパシーによる意思疎通を可能とする能力だ。

 彼はテルカタニスを対象にしてその能力を使い、六道の意志を中継していたのである。


 だからテルカタニスは、通常の会話と同じように六道の声を聴くことができたのだ。それに気がつけと彼に要求するのは酷だろう。何しろ、彼は魔術や薬物、そしてスキルでもないチート能力の存在を知らないのだから。

 それに、テルカタニスは『ラムダ』世界の多くの人々同様に神託を受けた経験は無い。そのため、通常の神託と【倶生神】による六道との会話の違いが分からないのだ。


 勿論、書き残された過去の記録やパイプを持つアルダ神殿の長に聞くなどすれば分かっただろうが、六道が「神でなければ知りえない情報」を教えた事で、テルカタニスの疑心は無くなった。その情報元はロドコルテなのだが。


 名前についても、こことは異なる世界の神であり、降臨に【魔王の欠片】が必要であると告げる事で納得させている。

 この能力の発動には対象のすぐ近く、約一メートル以内にいなければならないのだが――。


『彼の能力を神域でも、そして対象と直接会わなくても発動できるよう強めたのは私なのだがね? ああ、感謝を求めているのではなく、君達が増長しないよう確認しているだけだが』

 チート能力を授けたロドコルテの助力によって、発動が可能になっていた。


『分かっている。お前の助力が必要不可欠なことは、忘れていない』

 ダーがそう答えるとロドコルテは満足したのか視線を別の方向に向けた。六道は彼に構わず、【魔王の欠片】が集まるのを今か今かと待っていた。


『亜神に至った私に相応しい、肉体を持つ神……グドゥラニスの肉体の欠片。十分な数が集まった時、私は復活し忌々しい『アンデッド』を倒し、真に神へと至るのだ』

 その胸にはクリスタルのような物が……グドゥラニスの魂の欠片が埋め込まれていた。


児嶋建洋先生の手によるコミックス版が8月24日更新予定です。コミックウォーカーか、ニコニコ静画でぜひご覧ください。


次話は7月25日に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
ハゲ道が(破滅のための)UPをはじめました!(失笑)
破滅が確定してるキャラがせっせと働く様は哀れ以外の何ものでもないな。
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