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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第一章 ミルグ盾国編
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三話 生後半年にして引きこもり

ブクマ、評価、感想ありがとうございます。

 ヴァンダルーは今にも意識を失いそうになるのを耐えながら、母ダルシアの霊が宿る骨の欠片を握り、リビングボーンやリビングデッド達を連れて森の中の家に戻ってきた。

 空腹で死にそうだったが、幸いな事にダルシアが仕掛けておいた罠に狸がかかっていたので、その血を吸血して飲み干し、気絶するように眠りについた。



 そして目覚めた時は、既に昼間だった。


『おはよう、母さん。皆』


 目を覚ましたヴァンダルーは、静かだが仲間が増えた家を見回してそう言った。……実際には、「あうえう」と不明瞭な音を出しただけだが。


『それで、猟師達は来た?』


 ベッドの傍に佇む骨猿が、首を横に振る。どうやら、幸いな事にまだ来ていないようだ。


『まず、昨日手に入れた情報を纏めると――』


・今日からエブベジアを治めるベステロ準男爵の騎士と、法命神アルダを信仰するゴルダン高司祭と配下の神殿騎士が、ヴァンダルーを狩りだそうと森を捜索開始。


・しかし、猟師のオルビーがこの家の場所を教えなかったので、暫く見当違いの場所を探すだろう。


・だが猟師のオルビーとその仲間達は、珍しい赤子のダンピールを捕まえるために今もここに向かっている。


『対して、俺の戦力は……ただの猟師が三人程度なら勝てるかな』


 昨日、自分が作り出した数百体のアンデッド。ただし、その大半がネズミや虫等の小動物で、戦えそうなのは骨猿を含めて三十体ほど。しかし、基本的に弱い。

 骨猿も生前はきっとオランウータンのように人間の腕くらい軽く捥ぎ取れる怪力を持っていたのだろうが、今はそれほどではない。それどころか、試したところヴァンダルーよりも力が無かった。この場合は、骨猿よりもヴァンダルーの力の強さに驚くべきかもしれないが。


 敏捷さでも、普通の人間よりも劣る。耐久力も、骨や死肉だから弓矢やナイフには強いだろうが、鍬で何度か殴ればバラバラになる程度でしかない。

 止めに、何故か確認できたステータス画面を見ると、パッシブスキルもアクティブスキルも何も持っていなかった。


 今ヴァンダルーの手元に居るアンデッドは全てランク1。ラムダでは、一対一なら特に訓練を受けていない村人でも倒せる程度とされている魔物なのだから。


 しかし、三十体もいる。なら、一工夫すれば何とかなるはずだ。


『とりあえず、虫は索敵。骨猿達五体は家の中で俺の護衛。他は――』


 ヴァンダルーは、まずオルビー達猟師を返り討ちにする事にした。ダルシアから父の事を含めて色々と話を聞きたかったが、その隙に猟師たちが来たら面倒だから、先に捕まえて話を聞こうと。




 オルビーは昨日一緒に酒を飲んだ二人の猟師仲間を連れて、森を進んでいた。幾ら神殿騎士達が精鋭でも、この広い森の中でダークエルフが作った隠れ家をすぐに見つける事は出来ない。

 絶対に自分達の方が先に赤ん坊を捕まえる事が出来る。彼らはそう確信していた。


「おい、言っておくが――」


「分ってる。金持ちになる前に、熊や狼の腹に収まる気は無ぇよ」


 確信していたが、彼らはプロの猟師だ。この森は魔物が跋扈する魔境では無かったが、熊や狼と言った危険な獣が生息しているし、ゴブリン等の弱い魔物も少数だが存在している。

 それらを警戒しながら、彼らは進んでいた。


「妙だな。これ、大猿の足跡じゃないか? こっちにあるのは……熊?」


 その警戒が幸いして、彼らは昨日ヴァンダルーがエブベジアの町まで往復した時に付いた、アンデッドの足跡に気が付いた。


「そうか? 大猿や熊の足跡にしては、軽すぎないか?」


 しかし、オルビーの目にはその足跡は軽すぎるように思えた。地面に付いた足跡は、その主の体重が重ければ重い程、深く刻まれる。しかし、見たところその足跡はとても軽い物のように思えた。


「それに、形が変だぞ。若干小さいような気がするし、これは熊にしては指が少ない」


 そう見えるのは足跡の主が骨だけに成ったリビングボーンなので、体重が生前の半分以下で肉球などが無くなっており、更に幾つか指の骨が欠けていたりしたからだ。

 これが奇奇怪怪な魔物をメインに相手にする冒険者なら警戒しただろうが――。


「いくつかの獣の足跡が重なって、そう見えるだけだろ」


 オルビー達は、魔物は時たま小遣い稼ぎで狩る程度しか相手にしない猟師だったので深くは考えなかった。この森に魔物は殆どいないという認識も手伝って、彼らは足跡を『気のせい』として意識から外してしまったのだ。


「もうそろそろだ。小さな崖に洞窟を掘って、そこを隠れ家にしてた」


「よし、赤ん坊が死なない内に捕まえるぞ」


 そしてオルビー達はダルシアの家までたどり着いた。

 家の前は木がまばらになっていて、若干のスペースがある。煮炊きのために使っていた焚火の跡があり、生活の跡があった。


「ん? 随分物が散らばっているな」


「おい、まさか騎士様達に先を越されたんじゃないだろうな」


 オルビー達が見回すと、隠れ家前の地面には幾つも掘り返したような跡があり、その上に蔦や動物の骨が散乱していた。


「くそっ、中に入るぞっ」


 舌打ちして赤ん坊がまだいるか確認しようと、扉に近づこうとした。


『うぉぉぉぉぉぉんっ』


 その時、怨嗟の声のような呻き声を上げて地面が盛り上がった!


「な、何だ!? ゴーレムっ!?」


「あ、アースゴーレムだっ!」


 地面に倒れたままじっと待機していた、土の身体のアースゴーレムが起き上がったのだ。


「ひぃっ!? ゴーレムの下にアンデッドが居るぞっ!」


 しかも、その下には狼や熊のリビングボーンが隠れ潜んでいた。


「に、逃げろっ!」


「何処へだっ! 囲まれてるんだぞっ!」


 しかも扉に近づいていたオルビー達は、ゴーレムとリビングボーンの包囲網の中に居た。

 彼らの武器は弓矢と、短剣。ランクが最低でもゴーレムやアンデッドとは相性が悪い武器だ。


「うおわぁっ!?」


「へ、蛇だっ! いや、蔦だっ、蔦が動いてる!」


 そして、地面に散乱していたゴミであったはずの蔦が、蛇のように動きオルビー達に巻きついて行く。


「ち、畜生っ! 離せっ、離しやがれぇっ!」


 短剣を抜いて蔦を切ろうとしても、ゴーレムやアンデッド達が寄ってたかって押さえにかかり、鍋が宙を飛んで頭に向かって体当たりしてくる。

 とても逃げ出せるものではない。こうしてオルビー達は生け捕りにされたのだった。




『上手くいったか』


 アンデッド化した蔦に巻きつかれて、口も利けずに地面に転がるオルビー達を見てヴァンダルーはほっと息を吐いた。

 家の前の地面に霊を憑依させてアースゴーレムを作り、その下にリビングボーン達を仕込んだ。アンデッドもゴーレムも呼吸もしないし、臭いはこの森の何処にでもある土の臭いだけだから、じっとさせれば猟師でも気がつかない。

 蔦や鍋も同様だ。いちいちアンデッドかもしれないと、地面のゴミを警戒する事は無いだろうと思ったが、その通りだったらしい。


『さて、じゃあ話を聞かせてもらいたいところだけど――』


 オルビー達は、骨猿に背負われ自分達を見下ろすヴァンダルーの姿に、目を見開いて驚いていた。自分達が捕まえようとしていた赤子が、まさか既にアンデッドを使役するとは思ってもみなかったのだろう。

 この辺りが部下を叱責したゴルダン高司祭との差だろうか。


『でも、まずは会話を成立させないとな』


 まだ不鮮明に「あうあう」としか声を出せないヴァンダルーでは、オルビー達と会話が成立しない。

 そこで、ヴァンダルーは砂利や砂でサンドゴーレムを作った。


『もごもが~っ!』


 起き上がった人間大の砂と砂利のゴーレムに、オルビー達が騒ぎ出す。きっと、殺されるとでも思ったのだろう。

 しかし、サンドゴーレムはその重い拳を振り上げずに、彼らの前でザラザラと崩れると、砂利の粒で文字を作った。


【騒ぐな、静かにしろ。質問に答えろ】


『よし、出来た』


 昨夜の様に、エブベジアの外壁の一部をゴーレムにして形を変えて抜け穴を作る事が出来るなら、サンドゴーレムの形を変えて砂文字を作れるはずだと思って試してみたが、大成功だった。

 まあ、かなりの魔力をゴーレムに供給し続けないといけないし、それなりに精神力が削られるが。

 ただ、一番の問題は砂文字が――日本語がオルビー達に通じるかという点だったが。

 それを確認するためにも、静かに成ったオルビー達の口から蔦を離れさせる。


「……な、何が聞きたいんだ、何でも聞いてくれ。その代わり、命だけは」


「あ、ああ、知っている事は何でも話す」


「この場所だって、黙ってる。だから見逃してくれ」


 すると、口々に命乞いを始めた。どうやら、このラムダでは会話だけでは無く読み書きも日本語が通じるらしい。


『都合は良いけど、何でだ? そう言えばロドコルテの知識に、昔ラムダ世界に異世界から勇者を招いたとかあったな。そのせいかな?』


 まあ、それは後で余裕が出来た時に調べよう。

 ヴァンダルーは筆談で質問し、オルビー達から情報を聞き出す事にした。ただオルビー達も平仮名や片仮名は読めても、漢字は殆ど読めないらしいので(最初の命乞いは、こちらの雰囲気を読んでしたらしい)、サンドゴーレムに作らせる文字の数が増え、ヴァンダルーの魔力と精神力がゴリゴリ削られる事に成ったが。


 ただ、それで全ての質問に有益な答えが返ってくる訳でも無かった。

【ジョブとは何だ?】


「はぁ? 何だって、俺達のジョブを言えば良いのか? 勿論猟師だ」


【経験値とは?】


「えっ……? 経験値は、経験値だろ?」


【法命神アルダとは?】


「あ、ああ、神様だよ」


 このラムダ世界におけるジョブとは何なのか、経験値とは何なのか。そう言った基本的な事を聞いているのに、オルビー達の答えは、参考に成らない物だった。

 オルビー達からしてみれば、ヴァンダルーの質問が基本的過ぎるのだろう。地球で「空気って何?」、「水って何?」と聞くのと同じだ。それでも相手に教養と語彙があれば参考になる答えが期待できるが、オルビー達にそれを期待する事は出来ない事が分かった。


『この辺りの質問は、後で母さんに聞こう』


 ダルシアならヴァンダルーの質問が何でも分りやすく教えてくれるだろう。何せ、子育て中の母親なのだし。


【ベステロ準男爵と、その騎士団の事について話せ】


 ならオルビー達が知っていそうな事だけ聞くかと、頭を切り替えたヴァンダルーは彼ら以外の仇について質問した。


「領主さまは、十年ぐらい前に代替わりした人で、出世欲が強い人だよ。それ以外に特徴が無い、普通の御貴族様さ。他の貴族と比べて、特に何が優れてるって話も聞かないし」


「騎士は五人で、他は俺達領民の中から腕っぷしが強いのを兵士って事で雇ってる。一応、訓練もするみたいだけどよ」


「だ、だからそんなに強くないぜ。何なら、俺達が始末して来てやろうか。俺達とお前が組めば、簡単だぜっ」


 最後のは無視するとして、ベステロ準男爵の手駒は、数も練度もそれ程では無いらしい。きっと、領民にとってここは平和な領地なのだろう。

 領民にとっては。


【質問にだけ答えろ。

 ゴルダン高司祭と、神殿騎士団について知っている事を答えろ】


「高司祭様と神殿騎士様は、いつもは町にいない。あいつらがダンピールとそれを産んだ魔女が……貴方様とお母上がいらっしゃると、手配書を持って町に半月ぐらい前に、来まして……ええっと、吸血鬼殺しで有名な聖職者で、連れている神殿騎士も、精鋭ぞろいなんだとか」


「ええ、聖職者の癖に腕っぷしで高司祭まで上り詰めたっていう変わり種で、今までも何匹も吸血鬼やその手下を……吸血鬼様と部下の皆様を、退治してしまっているそうです。何百年も生きている吸血鬼様も退治した事があるとかで、冒険者ならB級に勝るとも劣らないと噂になっておりますぜ」


「だ、だけど土地勘のある俺達が味方に付けば、奴らの裏をかく事なんて簡単だぜ。な、だから俺達を手下にしてくれよ」



『なるほど。あの司祭は腕利きの吸血鬼ハンターなのか……じゃあ、次は五色の刃についてだけど、その前に……丁度良いから腹ごしらえをしよう』


 三人目の猟師の男を、リビングボーン達に頼んですぐ前まで連れて来てもらう。


「な、何だ? 俺を手下にしてくれるのか? 俺達は役立つぜっ、弓の腕ならエブベジアでも……ひぃっ! 本当に役立つんだっ、あんたのためなら何でもするっ、だから命だけはっ!」


 骨猿に頭を掴まれ、首筋が動かないように抑えられた男は、上ずった声で命乞いをするがヴァンダルーは全く聞いていなかった。


 ずぶりと、牙が男の首筋に突き刺さる。


「ぎやぁぁぁぁぁぁっ!」


「ヨハンーっ!」


 ヨハンという男とオルビー達の悲鳴のコーラスを聞き流しながら、ヴァンダルーは喉を鳴らして血を貪った。


『野兎よりも脂っこい気がするし、やや塩味が濃いような気がする』


 そして当然、ダルシアの胸に抱かれて飲む母乳の方が美味しい。しかし、目が覚めてから初めて口にする食事なので、贅沢は言わずにヨハンが悲鳴を上げるのを止めて、ぐったりとするまで血を飲み続けた。


『ふぅ……あ、骨猿、ちょっと軽く背中押して。そう、そこ……けぷっ』


 赤ん坊らしくゲップを手伝ってもらってから、土気色に成ったヨハンをオルビー達に見せつける。

 そして彼らに向けて、砂文字で告げる。


【質問にだけ答えろって、言ったじゃないか】


 オルビーともう一人の猟師は、全身の血液を吸われて死んだヨハンと彼を殺しても表情一つ変えないヴァンダルーを見て、首が千切れんばかりに頷いた。

 相手は赤ん坊だが子供らしい甘さや情けを持ち合わせておらず、少しでも逆らえば躊躇いも無く殺されるという事にやっと気が付いたのだろう。


【それで、五色の刃と蒼炎剣のハインツについて知っている事は?】


 そこからはとてもスムーズにオルビー達から話を聞く事が出来た。見せしめが余程恐ろしかったのだろう。

 五色の刃は五人組の冒険者パーティーで、ハインツはそのリーダーでありまだ十代なのにB級に成った二つ名もちの出世株らしい。

 他のメンバーもC級で、腕利きぞろいなのだそうだ。


『やっぱり、ゴルダン高司祭も含めて今の俺では絶対勝てない相手だな』


 次に聞いたのは、この辺りの地理について。ベステロ準男爵領の周りや、ゴルダン高司祭達が今探しているだろう場所の目星等。

 これは中々助かった。骨猿達に憑依させた動物霊にも実は聞いたのだが、要領を得なかったからだ。

 霊達は昨日よりも好意的に自分から進んでヴァンダルーに話をしてくれるのだが、何せ元が動物や虫だ。人間が基準に出来る具体的な方向と距離が分からないのである。

 あっちとかそっちとかその場で道案内をさせるのなら問題無いが、地図に起こそうとすると混乱は必至である。


『じゃあ、後は今の内に水と食料の確保だな』


 ゴルダン高司祭達は、今は見当はずれな場所を探している。しかし、この森は実はそんなに広くないらしい。十日もあれば虱潰しにされてしまう。

 かと言って、急いで逃げ出すのは悪手だ。


 ヴァンダルーはダンピールの特徴である片方が真紅の瞳になるオッドアイであるため、正体を隠せないから人里には入れない。だが、この洞窟の家のような安全地帯を確保しないまま野外で生活するのは危険すぎる。

 何故なら――。


『生後六か月の俺には、長い睡眠が必要だ。実際、今もかなり眠い』

 片親が吸血鬼だろうが、能力値が高かろうが、スキルを幾つも習得していようが、赤子である事に違いは無い。生後一か月の時よりだいぶマシだが、頻繁に眠くなるし夜更かしはきつい。

 状態異常耐性スキルで睡魔を抑える事も出来るが、それではこれからの成長に悪影響が出てしまう。それはダルシアも望まないだろう。


 よって、ゴルダン高司祭達が探索を諦めるまでこのまま隠れ潜む事をヴァンダルーは選んだ。まさか生後半年で引きこもり生活を余儀なくされるとは思わなかったが、これも生き延びるためだ。


「お、おいっ、どうしたんだ? もう聞く事は無いのかっ?」


「だったら離してくれっ!」


 オルビー達が騒ぎ始めるが、もう彼らの情報源としての役目は終わっている。再び蔦によって口まで縛られてしまった。


「ま、待ってくれっ! 頼むっ、見逃してくれ! 俺にはむぐぅぅ――」


 俺には、何なのだろうか? 婚約者? 妻? 幼い娘? 年老いた母? 幼い息子が居る母親を密告した癖に何を言うつもりなのだろうか。

 それに何がいたとしても彼らの役割は変わらない。

 ヴァンダルーはそれを砂文字で告げてやった。


【お前達は、食料だ】


 ぐぐもった絶叫が二つ、上がった。




 ずっと昔の時代。この世界には二柱の偉大な神だけが存在した。

 黒き巨神ディアクメル。

 白き巨神アラザン。


 二柱の神は、お互いに争っていた。どちらが善で、どちらが悪であったかは既に誰も知らない。ただ、彼ら以外に何も無かったから、争っていたのだ。

 無限に続くかと思われた神達の戦いは、ディアクメルとアラザンの相打ちという形で決着が付いた。

 黒と白の巨神が重なり合って倒れ、その骸から新たな神々が生まれた。


 生命と愛の女神ヴィダ

 光と法の神アルダ

 炎と破壊の戦神ザンターク

 水と知識の女神ペリア

 風と芸術の神シザリオン

 大地と匠の母神ボティン

 時と術の魔神リクレント

 空間と創造の神ズルワーン

 彼ら八柱の属性神に龍皇神マルドゥーク、巨人神ゼーノ、獣神ガンパプリオの三神を加えて、始祖の十一神と呼ぶ。


 十一神は、孤独からその力をお互いに争う事にしか使わなかった巨神達の様にはなるまいと、協力してこの世界、ラムダを創った。


 八柱の属性神は自分達を模して人間を創り、彼らを眷属として教え導いた。


 龍皇神マルドゥークは龍種を、巨人神ゼーノは巨人を自らの眷属として創りだした。


 そして彼らの食料として、獣神ガンパプリオは無数の鳥獣を生み出し、海に魚を放した。


 戦神ザンタークと母神ボティンからドワーフの始祖が、女神ペリアとシザリオンからエルフの始祖が生まれ、人間は知恵ある種族の総称となり、それまで人間と呼ばれていた者達は人種と呼び方を改められた。


 そうして出来上がった世界は、平和だった。人々は神々を信仰し、その頃の龍種や巨人種は賢く聡明で、野山には彼らが取り合わなくても十分食べていけるだけの鳥獣が群れ、海は豊かな恵みで満ちていた。


 だが、この平和は星々よりも遥か向こう、深淵の彼方より現れた魔王グドゥラニスによって終焉を迎えた。

 グドゥラニスはラムダに降臨すると、僕である悪神や邪神達を率いて世界を手に入れようと戦を起こした。

 魔王の穢れた魔力によってラムダには今まで存在しなかったゴブリンやオークと言った魔物が生まれ、魔王達はそれを僕にして神々と戦った。


 それまで武芸を磨き競い合い、生活の糧に鳥獣を狩る事はあっても本当の殺し合いを経験した事の無い人間達は混乱し、神々も劣勢に追い詰められた。戦神ザンターク、龍皇神マルドゥーク、巨人神ゼーノ達は眷属を率いて雄々しく戦い、魔神リクレントは人間達に魔術を授けて指揮したが、戦況を覆すには至らず、獣神ガンパプリオは善戦するも滅ぼされてしまった。


 だが魔王の軍勢に対抗するため、空間と創造の神ズルワーンが七人の勇者を異世界から召喚した。

 七人の勇者は人々に戦う術を教え、優れた武器を創る知恵を与え、自らが先頭に立って勇敢に戦った。

 そして激戦に次ぐ激戦を経て、遂に魔王グドゥラニスは滅ぼされ、肉片の一つも残さず封印された。配下の悪神や邪神も力を失い、ある者は滅ぼされ、ある者は死に等しい封印に囚われた。


 だが、残されたのは勝利とは言い難いものだった。

 戦神ザンタークは邪神の呪いを受けて闇に堕ち、ペリアは海に没し、シザリオンは風に還った。ボティンは地中深くに封じられ、リクレントとズルワーンも力を取り戻すための眠りについてしまった。

 マルドゥークは千々に引き裂かれ、ゼーノは心臓を砕かれた。彼らの眷属は力が衰え、龍種は数を減らし代わりに力に劣る竜種が増え、巨人族の多くが悪神や邪神を崇める魔物に成ってしまった。


 そして勇者は三人まで数を減らし、人間は最も数が多かった人種にエルフ、ドワーフを加えてもギリギリ一つの町を維持できるかどうかというところまで数を減らしてしまった。

 文明も文化も維持するには数が足りず、更に魔王は滅んでもラムダには魔王の軍勢との戦いで魔力に汚染され魔物が跳梁跋扈する土地、魔境がそこかしこに存在し、そこから生き延びた魔物達が止めどなく数を増やしている状態だった。


 力を残していた二柱の神の内アルダは、勇者達と共に生き残った人々を導く事を選んだ。しかし、女神ヴィダは新たな人間を、新しい種族を自ら生み出して生き残った人々と合流させる事が、ラムダが復興を遂げる近道だと考えた。


 ヴィダは生命と愛の女神。彼女の力は、闘いよりも新種族創造に向いていた。


 まず、魔物に成らず気高い精神と善性を保っていた太陽の巨人タロスと交わり、頑健で強靭な肉体を持ちながら人種の町でもギリギリ暮らせる大きさを保つ種族、巨人種を生み出した。


 次に、生き残っていたマルドゥークの眷属の中で最も力を持っていた龍、ティアマトとの間にドラゴンの力と角を持つ人間、竜人族を生み出した。


 更にガンパプリオの配下だった鳥獣の王達と交わって多種多様な獣人族を、ペリアの片腕だった海の神トリスタンとの間に人魚族を生み出した。

 そして当時自分に仕えていたエルフの青年と交わり、エルフと同等の魔力を持ち肉体的に優れたダークエルフを生み出した。


 その女神の行いをアルダは、ただでさえ荒廃したこの世界を更なる混沌に突き落とす行為だと咎めた。法の神でもあるアルダには、ヴィダが次々に新種族を生み出す事が我慢できなかったのだ。

 だがヴィダも自分の正しさを信じていたため、二人の神の話し合いは常に平行線だった。


 ヴィダは遂に魔物と交わりラミア、スキュラ、アラクネ、ケンタウロス、ハーピー、魔人族を生み出す。

 そして魔王との戦いで命を落とした勇者の一人、ザッカートの骸に生命属性の力を与えてアンデッドにして交わり、吸血鬼を作り出した。


 生まれた吸血鬼の真祖は、あらゆる面で神に匹敵する力を持っていた。そして、その力を人間に分け与える事が出来た。己の血を与える事で、その人間を吸血鬼にする事が可能だったのだ。


 だがヴィダが魔物と交わった事、そして吸血鬼を生み出した事にアルダは激怒した。

 世界の乱してはならない秩序に反した存在を生み出したとして、アルダは三人の勇者と共にヴィダと彼女が生み出した種族を滅ぼそうとしたのだ。

 当然ヴィダも我が子である新種族を守るために、蘇った勇者ザッカートと共にアルダ達と戦った。だが紙一重で敵わず深い傷を負い、堕神として神の位から堕ち、勇者ザッカートと共に魔境に歿した。


 勝ち残ったアルダだったが、生き残った吸血鬼を含めるヴィダの新種族達を駆逐する力は残っておらず、更に生命属性の神が居なくなってしまったため、消耗した身体でヴィダの代わりをしなくてはならなくなってしまった。


 アルダは光と法、そして生命神であると名乗り、信者たちは法命神と称えるが、ヴィダとの戦いの後十万年余り、未だ世界は混迷の中に在る。




『これがこのラムダの創世神話よ』


『ありがとう、母さん。とても参考に成ったよ』


 家に潜伏する準備を終えたヴァンダルーは、遺骨に宿ったダルシアの霊からこのラムダ世界の神話を聞いていた。


 家にはオルビー達を含めた、罠で生け捕りにした獣等の非常食をアンデッド達に運び込ませ、ストーンゴーレムに形を変えさせて作った壺を使って、水の備蓄もたっぷり確保した。

 その後洞窟の土や石でゴーレムを創りつづけ、『そのまま直立不動で待機』と命じて崩落防止の柱に、奥の土や石で出来たゴーレムを入口の方に移動させて洞窟を奥に拡張、そして入口でゴーレム化を解除して入口に蓋をした。

 魔力さえあればゴーレムの形をある程度自由に出来たので、きっと建築にも活かせると試してみたら大正解だった。


 入口に蓋をした時に壊した家具や壺の欠片を置いて、隠れ家にしていた洞窟が崩落したように見えるよう偽装しておいたが、ゴルダン高司祭が「ダンピールの死体を確認するまで洞窟を掘り起こせ!」とか言わない事を心から祈るばかりだ。


 既に五十メートル以上奥に入口の方を埋めながら拡張したので、余程大規模な土木工事をするか腕利きの土属性魔術師を雇わないと無理だろうが。

 空気は握り拳大の空気穴をこっそりあけてあるので、問題無い。照明は、闇視スキルのお蔭で要らない。


 ヴァンダルーの地下生活の準備はこのように整っている。

 そして出来た時間をダルシアから話を聞かせてもらって過ごしているのだ。


『それで、ここはバーンガイア大陸の北西部、アミッド帝国の属国の一つ、ミルグ盾国。そして帝国とその属国は国教として法命神アルダを信仰している。

 道理で危険なはずだ』


 アルダは吸血鬼等、ヴィダが生み出した新種族の存在が秩序を乱すと神同士で争うような神だ。当然吸血鬼との混血児は迫害の対象……どころか、討伐の対象らしい。

 アルダ教の影響力が強いアミッド帝国とその属国にある冒険者ギルドでは、討伐依頼が堂々と張り出されている。ちなみに、討伐を証明するための部位……討伐部位は真紅の眼球なのだそうだ。


 これは森に隠れ潜むのも納得である。


 更にダルシアのようなダークエルフや獣人、竜人等の、魔王との戦い以後にヴィダが魔物以外の相手と交わって生み出した新種族も迫害の対象であるらしい。

 アミッド帝国とその属国では、人種とエルフ、ドワーフのみが『人間』として認められ、それ以外の巨人種、ダークエルフや獣人、竜人は『亜人』と呼ばれ差別されている。その最たる例は、『人間』は犯罪奴隷以外認めないが、『亜人』は奴隷としての売り買い、所有、用途に制限が無い事だ。


 吸血鬼を含める、ヴィダが魔物と交わって生み出した種族は、当然ながらただの魔物として討伐の対象である。尤も、吸血鬼やラミアをアミッド帝国の冒険者や兵士が殺して討伐部位を死体から剥ぎ取った数と同数か、それ以上の数の冒険者や兵士が返り討ちに遭い、一般市民が被害に遭っているという現実もある。


 その問題に関しては、アルダの信者が「だから奴らは凶悪な魔物なのだ。我が神は正しかった!」と主張し、ヴィダの信者が「彼らが人に害をなす魔物染みた存在に成ったのは、女神の導きを失ったからだ! つまり、アルダのせいだ!」と怒鳴り返すという不毛なやり取りが、何万年も続いているらしい。


『じゃあ、次は父さんや吸血鬼、ダンピールについて教えてよ』


『良いよ。でも、そろそろお昼寝の時間だから、続きは起きてからね』


『はーい』




《【ゴーレム錬成】スキルを獲得しました!》




・名前:ヴァンダルー

・種族:ダンピール(ダークエルフ)

・年齢:半年

・二つ名:無し

・ジョブ:無し

・レベル:0

・ジョブ履歴:無し

・能力値

生命力:18

魔力 :100,000,600

力  :27

敏捷 :2

体力 :33

知力 :25


・パッシブスキル

怪力:1Lv

高速治癒:2Lv

死属性魔術:3Lv

状態異常耐性:2Lv

魔術耐性:1Lv

闇視

精神汚染:10Lv

死属性魅了:1Lv


・アクティブスキル

吸血:1Lv

限界突破:2Lv

ゴーレム錬成:1Lv(NEW!)


・呪い

 前世経験値持越し不能

 既存ジョブ不能

 経験値自力取得不能

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― 新着の感想 ―
[良い点] なろうでは珍しく、導入部がかなり丁寧に書かれていて、どんどん物語に引き込まれる。
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