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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十三章 選王領&オリジン編
398/514

閑話58 三度目の終わりと、終わらない問題と

すみません、更新日を過ぎてしまいました。申し訳ありません。

 輪廻転生をつかさどる神、ロドコルテは嘆き悲しめばいいのか、それとも感心するべきか、または激怒するべきか分からず、結局ただうめき声を垂れ流し続けることしかできなかった。

 六道聖に彼の神託が届くことはなく、ついにことを起こしてしまった。その後、【バロール】や【アルテミス】、【倶生神】達が次々に死んだ。


 それはいい。元々転生者同士の戦いなのだから、転生者が死ぬのは予想通りだ。『ラムダ』を発展させるために知識や技術、経験を身につけさせるために『オリジン』へ転生させた当初であれば、この同士討ちは嘆かわしいものだった。所詮は人間かと、落胆しただろう。


 だが、今はヴァンダルーを抹殺して彼が治めている国を滅ぼし、ロドコルテについて認知している人間の数を減らすという至上の目的がある。

 そのためなら『ラムダ』世界の発展も、『オリジン』世界の存続も、どうでもいい。極論を言えば、今回の戦いの結果『オリジン』世界の全生命体が滅んでも構わなかった。


 元々、ロドコルテ自身を認知した者共がいる『ラムダ』のついでに『地球』共々輪廻転生システムから切り離そうと、つまり捨てようとした世界だ。死滅しようが滅びようが、一向に構わない。


 ただヴァンダルーが魂を砕くかどうかは、心配だった。捨てて構わない世界とはいえ、今はまだロドコルテの輪廻転生システムと繋がっているため、魂を砕かれた場合その影響を受けるからだ。

 そして何より、ヴァンダルー抹殺のための戦力となる転生者の魂を砕かれたくなかった。


 だが、事態は彼の予想を大きく超えた。

 まず【バロール】達の魂は無事だったが、心が折られていた。今も恐怖のあまりすすり泣いている。これではヴァンダルーと戦わせることはできない。

 直接ヴァンダルーに殺されていない【スレイプニール】や【アルテミス】、【アレス】そして特にあっさりと殺された【倶生神】は無事だが、【バロール】の様子を見て怖気づいている。


 そして【コピー】は……魂を砕かれてはいないが傷だらけで廃人寸前という状態だ。とても役には立たないだろう。

 まあ、それらは記憶や人格を消して、『ラムダ』に転生させればいいだけだが、最初の問題は雨宮寛人だ。


 ロドコルテとしては雨宮に、【メイジマッシャー】のアサギのように死属性を否定する事を期待していた。だが、実際には和解というほど和やかな雰囲気はないが、敵対する事はない。そんな協力体制を作られてしまった。あの様子では、六道の一件が終わった後でも雨宮はヴァンダルーと戦うことはないだろう。


 ロドコルテも神の端くれである故に、人間がもつ宗教的な価値観を重くとらえていた。そうした忌避感から、雨宮寛人は死属性を否定しているのだと。

 しかし、実際には雨宮寛人が死属性を忌避するのは研究や術者を生み出すために大勢の犠牲者を出すという、宗教的な忌避感とは関係のない、倫理観からくる否定だった。


 そのため、既に死属性の適性を持っているヴァンダルーや自身の娘、そして研究の犠牲者を害そうとは思わなかった。それにロドコルテは気がつかなかった。

 彼は、雨宮寛人が見聞きしたことやその時考えている事を知ることができても、彼の人格や思想を理解しているわけではないからだ。


 そして、次に六道聖が自力で転生して死属性の力を手に入れてしまった。

『六道聖が自力で輪廻転生システムを構築し、神に至るとは。これではもう、私が与えた加護や幸運が機能しているかどうか……』

 六道は自身が「神になった」と思っているが、それは真実だった。彼はそれまで『オリジン』世界に存在しなかった肉体を持つ神、亜神となったのだ。


 魔力の量や強さでは、ヴァンダルーはもちろん真なる巨人や龍にも及ばない。しかし、そもそも神の本質は戦闘能力ではない。それはロドコルテが神である時点で、明らかだろう。

 六道聖は、輪廻転生という神の御業を手に入れて、神となったのだ。


 そうなってしまったからには、同じ神であるロドコルテからの加護や幸運が機能しているかは怪しい。与えたチート能力は機能しているらしいから、完全に失われたわけではないだろうが。

『一応聞くが、六道ってこの場合どうなるんだ?』

 ロドコルテの様子を窺っていた御使いとなった転生者、亜乱が尋ねてくる。


『分からん』

 しかし、ロドコルテはその問いに対する答えを持っていなかった。

 元々人間に加護や幸運を与える事のなかった彼は、加護を与えた人間が神の領域に至った場合どうなるのか知らないのだ。


 それに、『オリジン』にはステータスシステムが存在しない。そのため、六道にロドコルテが与えた加護や幸運が機能しているか、確認することはできなかった。

『今のところは機能しているようだ。ヴァンダルーの分身から脱出できたのは、明らかに『幸運』によるものだ。しかし、この後も機能するかどうかは……。

 何より、六道が死んだとして私は魂を回収できるのか?』


 六道は神となっただけではなく、自分自身が属する新しい輪廻転生システムを完成させてしまった。そのため、システムが有効なうちはロドコルテも手を出せないのだ。

 しかし、システムの管理者である六道が死ねばシステムは消滅し、ロドコルテが手を出せるようになるかもしれない。


 つまり、やってみなければわからないという事だ。

『なぜどいつもこいつも、私の予想外の結果を出すのだ!』

 苛立ちに任せて喚きながらも、ここまで強くなった六道をふいにするのも惜しいので諦める事ができない。


 そして、ついに死ぬ瞬間が来た。ロドコルテはその時の状況を見て魂を回収するべく手を伸ばすか考え……結局、本拠地をドーム状に【具現化】して包むヴァンダルーの魂に触れるのを恐れ、手を伸ばすのを断念した。

 彼に何か魂胆がありそうだから、その様子を見るためだと自分に言い訳をして。




 まさか己の四肢を引きちぎるとは思わなかったバンダーは、六道を追うのが数瞬遅れた。慌てて鉤爪に刺さったままの六道の手足を投げ捨て、舌や触手を伸ばして再び捕まえようとした。

「弾けろ!」

 だが、血を操って距離を取ろうとする六道がそう叫んだ瞬間、バンダーは彼を捕まえるのを中断した。なぜなら、六道の手足の温度が急激に上昇したからだ。


 六道がバーバヤガーの発火と同じことを、自身の手足を着火剤代わりにして行おうとしている。それに気が付いたバンダーは爆発の被害を抑えるために、それが彼の狙いだと分かっていても手足を抱え込み皮膜で包むしかなかった。


 鈍い爆発音が響き、バンダーのマントのように生えた皮膜の隙間から煙が噴き出す。

 雨宮はバンダーの代わりに六道を追おうとしたが、六道から迸った血液が急速に蒸発し、毒霧となって彼の行く手を阻む。


「く、【強風】!」

 文字通り強い風を起こすだけの魔術で、毒煙を吹き散らす。だが、六道はその時には逆転のための一手を打っていた。


「これで死ね!」

 そう叫びながら、死の衝撃波を放ったのだ。バンダーは即座に冥と真理のもとに戻って彼女達の守りを固め、雨宮達も反射的に身を固くした。


 しかし、何故今更衝撃波を放ったのか、疑問を覚えた。この場にいる誰にも効果がないことは、六道も知っているはずなのに。

「がはっ!」

「ぐっ……!」

 だが、衝撃波を浴びて断末魔の悲鳴をあげる者達がいた。


「六道……さ……」

 【シャーマン】の守屋幸助や、【ナイト】の鍋島、【一寸法師】の矢崎だ。敵である彼らは変身装具を身に着けておらず、今までは六道が衝撃波の対象から外していただけだった。

 そして六道は、今回は彼らを意図的に対象に含めて衝撃波を放った。


「あいつ、用済みになった部下を粛清したのか!?」

『いえ、違います。……殺す順番を間違えた』

 驚く岩尾に、バンダーが節足の鉤爪で床を削りながら答えた。


 彼には、死んだ守屋達の霊がどこへ行くのか見えていたからだ。

「はははははははは! 私は完全だ! 私も、私に従う霊を手に入れたぞ!」

 四肢のないままそう哄笑をあげ、ふわりと空中に浮かび上がった六道の周囲に、霊となった守屋達の姿があった。


 彼らは六道の死属性の魔力を浴び、ゴーストと化して笑っていた。生前から六道に対して信仰ともいえる忠誠を捧げていた彼らの心は、死んでも変わらなかった。


「どうだ!? これでも私は不完全か!? 貴様と私の違いは、もう魔力の大きさだけだ!」

 狂気のままに瞳をぎらつかせる六道がそうバンダーに問いかけるが、バンダーには六道に苛立ちと嫌悪しか覚えなかった。


 自分と六道が同じだとは欠片も考えていないが、それを説明しても彼は理解しようとしないだろうと分かっているからだ。むしろ、最初に守屋達を殺してその霊を確保しておかなかったせいで冥と博の情操教育に悪いものを見せてしまったという自責の念が大きい。


「今の君を見れば、以前君自身が言った言葉の正しさが実感できるよ」

 しかし、六道と長い付き合いの雨宮には思うところがあったようだ。


「死属性の研究を禁止するべきだと言い続けてきた僕に、君は『死属性も他の属性魔術と同じだ。要は、使い手の問題だ』と諭した。

 君の言葉は正しい。僕の目には、君とバンダーは魔力の量だけではなく根本的に異なっている存在にしか見えない」


 衣のようにゴーストを纏った四肢のない六道の姿は、バンダーと比べても劣らない禍々しさを放っている。だが、その言動は正反対だった。

 自身が生き残るため、そして特別な存在になるためなら自分を崇拝する部下達を犠牲にする六道。自分の仇の娘を守るために分身を遣わし、さらに自分を崇拝する者達を守るために異世界から魂だけ【具現化】させたヴァンダルー。


 雨宮から見て正邪がどちらなのかは明らかであり、今の六道は彼が嫌悪した死属性の使い手の象徴に等しかった。


『黙れ、与えられた能力の数だけに支えられただけの凡人風情が!』

『六道さんが支えなければ……傀儡に選ばなければ、お前はリーダーであり続けることはできなかったよ!』

『戦闘能力に秀でているだけのお飾りめ!』


 その雨宮に対して、ゴーストと化した守屋達が罵詈雑言を浴びせかける。

「お前ら、そんな姿になってまで六道を!?」

『何を驚く、デリック? 我々は六道さんの力の一部になれた! 肉の体から解き放たれ、神の使いへと昇華されたのだ!』


 守屋達の中に六道に対する恨みはなかった。彼らが言った事が、本心だった。彼らの六道へ向ける忠誠……信仰は本物だったのである。

「おしゃべりはここまでにしよう」

 そして六道はそういうと、守屋達に自身の魔力を与え、力を振るい始めた。その様子は皮肉なことに、ヴァンダルーの【死霊魔術】に似ていた。


 守屋達はレビア王女達とは違い、ただのゴーストだ。六道が彼らに与える魔力の量も、ヴァンダルーと比べれば僅かな量だ。だからその効果は、ヴァンダルーの【神霊魔術】はもちろん、【死霊魔術】よりも低い。

 だが、守屋達にはレビア王女達にはないチート能力があった。


 六道の肩や脚の断面から紫色の氷が生じて、失った手足の代わりに彼を支えた。さらに、死属性の魔力が黒い鎧となって彼の身を守る。

「さあ、第二ラウンドを始めよう!」

 そして、そう叫びながら三度死の衝撃波を放つ。これが雨宮達に効かないのは六道も理解している。しかし、彼は使うたびにバンダーが苛立っていたのを見逃さなかった。


 死の衝撃波を放つと彼にとって、こちらの攻撃が通用しない化け物にとって何かが都合が悪いのなら、六道が放つ意味は十分にある。


「気圧されるな! ただの悪あがきだ!」

『一発逆転の奥の手を出したような態度ですが、そうなった経緯を忘れていませんか?』

 それに対して雨宮が【命輝】を弾丸状にして六道に放ち、バンダーも【魔王の角】を射出する。


 それらは結界の類を無効化できる攻撃だった。特に、雨宮の【命輝】の弾丸は結界だけではなくどんな防御も無効にしてしまう。

 【吸魔の結界】でも、死属性の魔力を【命輝】が消してしまうため魔力を奪って消すことはできない。


「君達こそ忘れているようだな! ユミール! そして【一寸法師】!」

 その無敵の攻撃に対して、六道は守屋の霊に命じて作りあげた紫色の氷の人工精霊を、矢崎の【一寸法師】で巨大化させて突撃させる。


 守屋と矢崎の霊を使うことで作りあげた、死属性だけではなく水属性の魔力も含んだ氷の大巨人の体当たりによって、【魔王の欠片】の軌道が六道から逸れ、【命輝】の弾丸は水属性の魔力とぶつかり合って相殺してしまった。


「っ!? 守屋達のゴーストを従えたことで、六道の死属性魔術に応用力が付いたのか!」

「バンダーは同じ事、できる?」

『俺はちょっと無理ですね。でも、別の方法でめー君のパパと力を合わせましょう』


 雨宮の後ろに回ったバンダーが、何かを始める。それを眺めながら、六道は高笑いをあげ、呪文を唱える。

「たしかに、お前たちは私を追い詰めた! 神となった私に、死を覚悟させた! それは否定できない。だが、お前達が力の限りを尽くしても、私を殺しきれなかったのも事実だ!」

 そして、作り出した猛毒の液体を【一寸法師】で巨大化させ、雨宮達に向かって投げ放つ。



「詭弁を垂れるなぁ!」

「祝福をっ! 粗悪な神に挑む草木に祝福を!」

「くそっ、霊って眠るのか!?」


 ジョゼフが守屋達の死体を土の代わりにして芽吹かせた植物を、ボコールが増殖させる。それは六道の猛毒液から雨宮達を守り、そのまま逆に六道へ迫った。

 さらに、陽堂が霊となった守屋達を鎮静化させようと力を振るう。


「詭弁? 果たしてそうかな!?」

 自身に迫る鋭い棘の生えた枝は、生命力を奪って枯らして防ぐ。陽堂の【ザントマン】は彼と守屋達に魔力を与えている六道とでは、魔力の量があまりに差があるため効果を及ぼさない。


「凍れっ!」

『【魔力弾】も、くら……あれっ!?』

 ユキジョロウが冷気を放ち、博が六道を吹き飛ばした時以上の【魔力弾】を放とうとして、黒い光線を放った。


「博、もう私は君を甘く見ては……うおぉっ!?」

 ユキジョロウの放った冷気は守屋に創らせた人工精霊の青白い炎で軽く防いだ六道だったが、博が魔力を振り絞って凝縮した結果偶然放った【虚砲】に対しては、慌てて身をよじった。

 しかし完全に回避することはできず、鍋島の【ナイト】で作った死属性の魔力の鎧に【虚砲】が掠め、一部が砕け散った。


「くっ、父親以上に厄介だな!」

「ああ、自慢の子供達だ!」

「っ!?」


 博に鎧の一部を砕かれたことに六道が動揺し、注意が逸れた隙をついて雨宮は再び飛び込んだ。その手には再び【命輝剣】が握られている。

「君のそれはもう見飽きたな!」

 六道は既に作りなれた毒を魔術で作り出し、雨宮へ投じる。【命輝剣】は、守屋達のゴーストを従えた今でも変わらず当たれば致命的だから、接近戦は避けたいのだ。


「なに!?」

 しかし、雨宮は毒を避ける素振りもなく距離を詰め、六道の首や心臓を狙って剣を振るった。

 六道は驚愕し、とっさに盾にした左腕の鎧を切り飛ばされてしまった。その時、翻った雨宮のマントの柄が変わっているのに気が付いた。


「貴様っ! 自分の仇にそこまで力を貸すのか!?」

 マントに描かれた柄が魔術陣となっており、それによって毒を消す死属性魔術が雨宮の変身装具に付与された。それをなしたのがバンダーだと気が付いた六道が叫ぶが、バンダーは彼に向かって粘液を吐いた。


『ぺっ、ぺっ、ぺっ、【焼死】。……どいつもこいつも余計なことばかり言う』

 可燃性の粘液を吐きかけられた六道が再び罵声をあげるが、バンダーはそれを無視して博のもとへ向かう。

「パパ、バンダーのお絵かきで頑張れる?」

『ええ、唯一の弱点がなくなりましたからね。魔力もそれなりに譲渡しましたし。

 それで博、さっきの魔術はお見事でした』


『うん、俺もびっくりしたけど……も、もう無理かも』

 着ぐるみのように分厚い変身装具を纏っているため顔は見えないが、博の声からは濃い疲労が感じられた。


 変身装具の魔術媒体としての機能が優れていても、元となる術者の魔力は必要だ。それで特大の【魔力弾】や、魔力を大量に使ったことで偶然発現した【虚砲】を放てたのだが、博の魔力量は【ブレイバーズ】のメンバーよりずっと少ない。

 そのため、魔力が底をつきかけているのだ。


『とりあえず、魔力を譲渡しますね。それで、もう一度さっきの黒い光線を撃てますか?』

『うわっ!? 急に体が軽くなったみたいだ! え、さっきのを!? わ、わかんない。でも、撃ったとき腕がビリビリしたし、今撃つと父さんに当たっちゃうかもしれない』

『ふむ、めー君のママの【エンジェル】経由で連携しても、誤射の可能性がありますね。では、変身装具の目を使いましょう』


 先ほど、バンダーが雨宮のマントに魔術陣を描く時間をジョゼフ達が稼ぐ連携は、冥と一緒にバンダーの皮膜の中に抱えられている真理を通して成美の【エンジェル】で意思を伝えた事で可能となったものだった。

 同じように【エンジェル】で博と雨宮をつなげばいけるかと思ったが、博がいくら才能豊かな少年でも【虚砲】の精密制御は難しかったようだ。


『ごめん、俺……』

『気にすることはありません。俺は博と同じものを撃つたびに腕や指の骨を折っていましたから。博の方がよほど上手いですよ』

『……あれ、すごく危ない魔術なんだな。でも、このままで父さんは勝てるの!?』


『んー……』

 雨宮は成美の【エンジェル】で精神を繋げた【ブレイバーズ】のメンバーの援護を受けて、六道と互角以上に戦っていた。


 唯一変身装具で防げなかった毒を克服した彼を相手に、六道は接近戦を強いられている。おかげで大きな魔術を使うための呪文を唱える暇がない。

 そのため【死霊魔術】の要領で、守屋や矢崎に死属性の魔力を渡して能力を行使させているが、まだ使い慣れないため決定打には至っていない。


『五分五分ですね』

 しかし、雨宮側も六道を攻めきれていない。六道が恐ろしい速さで死属性魔術を学習し、独自の術を開発しているからだ。


 また、雨宮達の魔力も無限ではない。特に雨宮はバンダーが一度【魔力譲渡】で回復させたが、【命輝剣】は燃費が悪い術だ。

 魔力が尽きる前に、そして六道が十分な経験を積む前に倒せるか否か。それが勝負の分かれ目になる。


『いっそ、もう一回俺が殺しに行こうかとも思いますが……あいつ、不意を突かないと絶対にめー君を狙うでしょうからね』

 しかしバンダーが本格的に参戦すれば、六道に必ず勝てる。守屋達のゴーストを従えたことで数段厄介になったが、それでもバンダーの力は圧倒的だからだ。


 しかし、数段厄介になったので瞬殺はできない。真理と入れ替わる作戦は警戒されているからもう使えないだろう。

 それでも勝てるのなら、世界を救えるのなら、ヒーローは仲間を信じて冥達を託して六道と戦うことを選ぶだろう。


 しかし、バンダーにとっては世界よりも圧倒的に冥達の命の方が大切だ。バンダーは、冥達のついでに世界を守っているに過ぎない。降臨したヴァンダルーの魂にしても、冥達と引き換えにしてまで世界を守るつもりはない。

 ただ、「骨が折れる」程度の苦労で済むから、まだ現実ではあっていない夢で導いた人々や、『第八の導き』の信者、そしてバンダーを通して見た雨宮家の周りの人々やベビーシッターやボディーガードを守っているだけだ。


 後は、オリジンの神への義理ぐらいだろうか。あまり意識はしていなかったが。


『本体の魂は六道が時折死の衝撃波を放つので呼べないし、外も大変ですからね』

「お外?」

「あんまり聞きたくないけど、どうなってるの?」

『爆撃機が羽虫のようにたかってきて、うざったいです。しかも、焼夷弾を周りに落として火の海にしようとしてきます』


 外では、ミサイルは撃ち返されると学習した北欧連邦と中華共和国が、それなら自力で飛ぶことができない兵器ならいいだろうとでも考えたのか、ヴァンダルーの魂に向けて焼夷弾や爆弾を投下していた。

 【具現化】した魂である彼に高熱の炎で酸素が燃焼されても、何の効果もないのだが気が散って仕方がない。


『とりあえず、大統領達の霊を爆撃機に憑りつかせ、呪われた爆撃機にして帰ってもらいましたから、今は静かですが』

「……じゃあ、北欧と中華の空軍基地は今頃火の海ね」

 真理が思わず遠い目をするが、すぐに「ま、いっか」とつぶやいて気分を切り替える。


『こうなったらいっそ、肉体の方も来てもらうしかないでしょうか。あまりやりたくないのですが……』

 魂だけでも物理法則が異なる異世界の影響を受けるのに、物理的に存在する肉体まで来たらどれほどの影響を受けるか分からない。


 その影響がヴァンダルーの方に向かうならまだいいが、この世界の物理法則に影響が出たらそれこそどうなるか分からなくなる。

 しかし多少の天変地異が起きる程度なら許容して六道を倒し、彼の魂をここで滅ぼしておくべきだろう。


 そうバンダーが思って本格的に世界の垣根を越えようとした時、ヴァンダルーは自身が広がったのを感じた。




 『オリジンの神』は、雨宮に加護を与えて六道を倒す方向で纏まっていた。

 その方針は、ヴァンダルーの魂が降臨しても変わらなかった。……個々の神格で見れば、「もう世界は終わった方が良い! 人類よ、終末の時が来たのだ!」と騒ぐものもいれば、「あれが悪魔の姿だ! 神は死んだ!」と歓声をあげる者もいたが。


 神格たちはオリジンの人々がそれぞれ信仰する神であるため、価値観がそれぞれ異なっている。そして人々が信じる宗教の神がもとになっているため、世界の終末すら受け入れる神も少なくなかった。

 ただ、その多くは「反ロドコルテ」で固まっている。いずれ滅ぶことを是とする神々も、自身の宗教が認める終末ならともかく、横槍を入れられた結果滅びるのは気に入らないのだ。


 だから、自分たちがロドコルテの邪魔をした結果、この世界の輪廻転生が行われなくなって人類が滅びても、それはそれでかまわない。なぜなら、神の判断で人類が滅びに瀕するのを、彼らを信じる人間たちが許容しているからだ。


 災厄を人間たちが「神の試練だ」と受け入れるのなら、神々も「これは我々が与える試練だ」と受け入れる。それが全体としての『オリジンの神』である。

『いよいよ、ヴァンダルー本体の肉体が降臨するのかしら』

 そして『オリジン』の人々の信仰によって生まれた『プルートー』の神格は、その時を待ちわびていた。


 彼女は『第八の導き』信者たちが信じるプルートーであり、オリジンに転生したプルートー本人ではない。しかし、『プルートーは『アンデッド』を慕っている』という人々の思いはそのまま彼女の中で生きている。

 だから、ヴァンダルーがこの世界に本格的に介入するのは彼女にとって望むところだった。


『……俺は苦悩しているようですね』

『っ!?』

 しかし、彼女も予想していなかった事が起こった。いつの間にか、『オリジンの神』の中にそれが現れていたのだ。


 既存の宗教から生まれた神々が揺らぎ、その代わりに無数の眼球や口の生えたドーム状の存在が大きく広がりつつある。

『あなたは……!』

『ええ、プルートー。俺です。今の合衆国大統領のせいで生じた俺は、俺から直接分かれたのではないので、俺の分身ではありません』


 いくつもある口から平坦な口調の、中性的な声が発せられる。


『しかし、人々が俺であると信じ、俺として祈りをささげる存在である俺が、俺でない道理はありません。故に『オリジンの神』に生じたこの俺は、俺自身であり俺の一部であると宣言します。

では、『オリジンの神』として俺に言ったように俺が雨宮に加護を与えましょう。一時的ですが、今の数倍ほど』


 『オリジンの神』の神格の一つとして生じ、そのままヴァンダルーの一部となったヴァンダルーは、雨宮に加護を与えた。もし加護に物理的な質量があったら、撲殺しかねない勢いで。




 突然雨宮寛人の全身から輝きが迸った。

「これは……力が……漲る!」

 その瞬間、雨宮の全身に力が漲り、消費していた魔力は限界を超えて回復した。そして彼の輝きを浴びた【ブレイバーズ】のメンバーの傷や魔力は瞬く間に回復し、逆に六道が作らせた人工精霊は溶けるように消え去った。


「馬鹿なっ!? まだ何か隠していたとでもいうのか!? それとも、まさか奇跡だとでもいうつもりか!?」

 六道は死属性の魔力を振り絞り、剣の形に凝縮する。

「奇跡かは分からないが……喝を入れられた気分だよ!」

 だが、雨宮の【命輝剣】は太陽のような輝きを放って六道の剣とぶつかり合う。


「馬鹿な……何故だ! 何故貴様が、貴様だけが特別になれるのだ!? 私の方が、圧倒的に優れているのに!」

 六道は自身が振るう漆黒の剣に食い込み、そのまま自身へ迫る雨宮の輝く剣を睨みつけながら、そう叫んだ。

「それは――」

 雨宮は親友だと信じていた男だった存在の怨嗟を受けて、何か言い返そうとした。


 仲間を駒としか扱わず、平気で切り捨ててきたことを責めようとしたのか、それはお前が力に溺れたからだと諭そうとしたのか。

「――僕には何も言う資格はない。後で、彼に聞いてくれ」

 だが、彼は小さく息を吐くと自身の思いは告げないまま黒い剣を切断し、そのまま六道を頭頂から股間まで一刀両断にした。


 六道の断末魔の絶叫があがる。だが、まだ彼はしぶとくこの世に残っていた。

『まだだ! まだ終わらん! このまま怨霊となり、貴様らを――!』

「そうしようとすると思ったよ」

 ゴーストとなりかけていた六道の霊を、雨宮は【命輝剣】で再び両断した。


 二度目の斬撃を受け、さすがに力を失った六道の霊と肉体が空気に溶けるように消えていく。

『まだです。お前は危険すぎます。魂も残してはおけない』

 自身のパワーアップやバンダーへの嫌がらせのために、気軽に世界規模の無差別殺戮をしようと試みる危険人物は、消すしかない。


 ヴァンダルーの魂の一部が触手状に高速で伸び、六道の魂を食おうと試みた。

 しかし、ここがヴァンダルーにとって異世界であることと、死の衝撃波を抑えながらだったために、勝手が違った。

『っ! これは……』

 六道の魂をかみ砕いたと思った瞬間、自分以外の何者かが素早く魂を回収していったのに気が付く。


「どうしたの?」

『……鍋島と矢崎にしてやられました。まさか、六道の身代わりになるとは』

 ヴァンダルーが砕いたのは、六道ではなく彼を庇った鍋島と矢崎の魂だった。『ラムダ』にいるヴァンダルーの肉体が、【ナイト】と【一寸法師】を獲得し、それらが他のスキルに統合された旨を知らせる脳内アナウンスを聞いている。


 そして、残った六道と守屋の魂を回収した存在はロドコルテだろう。

 この分では、『ラムダ』で再会することになるかもしれない。


『ですが、何はともあれ……『オリジン』での事件は終わりましたね。

 では、今後の事を話し合いましょうか。とりあえず、真理を含めて六道の実験体にされていた人達とめー君、博はうちで保護しますね。

 ジョゼフ達はどうします?』


 六道を倒したと、緊張の糸が切れて安堵している【ブレイバーズ】の面々、特に雨宮夫妻にバンダーは特大の爆弾を落とした。

次話の更新は、申し訳ありませんが5月21日の予定です。すっかり四日ごとの更新が崩れてしまいましたね(汗

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― 新着の感想 ―
たっと思うわ、キャラ再利用エコーですね。
こうやってヘイト集めるキャラクターが生き残る展開嫌いだわ。 胸糞悪い。死ねよここで。
[良い点] 誘拐宣言? 死んだ後子供に会えますよってか?
感想一覧
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