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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十三章 選王領&オリジン編
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閑話55 降臨する新たなる神と亜神

 『地球』での六道聖は、人類を優秀かそうでないかで二つに分けた時、優秀な方に分けられる人間だった。

 成績優秀でスポーツもでき、友人も多く学級委員長として頼りにされていた。しかし、『特別優秀』ではない。『普通の中では優秀』という程度だと六道聖は自己を評価していた。


 幼い頃は一番になろうとした。勉強でもスポーツでも図画工作でも、何でもだ。そして、実際に一番になる事ができた。

 しかし、それは狭い社会……小学校の一学年の中だけの一番でしかない事に、次第に気がついた。


 自分より頭の良い人間は幾らでもいるし、自分より野球やサッカーが得意な人間は沢山いる。芸術でも、何でもそうだ。

 高校に入学する頃には、それを自覚しすっかり受け入れていた。人生とは自分が特別でない事を自覚し、『普通』の中でより優秀な人間になる事を目指す事なのだろうとすら、考えていた。


 勿論、『普通』の枠から外れる方法がある事も彼は分かっていた。普通の人はならない、もしくはなれない職業に就けばいい。

 スポーツ選手やアーティスト、医師、警察官や自衛官、政治家。そうした職業につき、それぞれの世界でトップになれば特別に違いない。


 そうした職業に就いている人間は、自分達では「私も普通の人間と何も変わらない」等と口では語るかもしれない。しかし、そうではないと六道は考えている。何故なら、それらの業界でトップに立つ人間の合計は人類全体の何パーセントなのか。アーティストは? 医者は? 警察や自衛官(軍人)、政治家は? 普通というからには、それらの職業に就く人の合計は数十パーセントを超えるべきだろう。普通……つまり珍しくもなんともない人だと言うなら、街は有名選手や世界的なアーティストや医師、警視総監や幕僚長、大臣経験者で溢れているはずだ。


 だが、六道にはそれらの職業を目指す気にはなれなかった。何故なら、自分にそれ程の才覚があるとは考えられなかったし、環境もそこまで恵まれていなかったからだ。

 目指したところで、目標を達成できる可能性は低い。彼は特別になりたいのであって、人生の落伍者になりたい訳ではない。


 だから諦めて普通に甘んじた六道だったが、彼の人生は修学旅行中に乗ったフェリーがテロリストによって占拠、爆破され沈没した事で思わぬ終わりを迎えてしまった。

 そして、ロドコルテによって新たな人生が始まった。


 魔術が存在し、第二次世界大戦が起こらず歴史に差異がある以外は『地球』に似た世界、『オリジン』。その世界で彼は【学習速度上昇】と【成長制限無効】というチート能力を得て生まれ変わった。

 二つのチート能力は、客観的にはっきりと視認する事は出来ない。しかし、六道が学べば学ぶほど大量の知識は貯め込まれ、身体能力は上がり続けた。


 これならどんな分野でも特別になれると、六道聖は歓喜した。だが、すぐに自分と同じ転生者が九十九人いる事を思い出した。この世界の人間ならともかく、彼と同じチート能力を持つ転生者の上に立つのは難しいのではないか。


 ロドコルテが語っていた【運命】とやらのせいで、前世の友人や知人と再会していくなか、そんな考えが過ぎった。だが、彼は雨宮寛人が【ブレイバーズ】の結成を言いだした時に率先して協力した。

 他の転生者を纏め、その能力を知れば【成長制限無効】の力を持つ自分なら越えられるかもしれない。それに、組織を牛耳る立場になれば超人達を指揮する特別な人間になれるはずだ。そう考えたからだ。


 そして組織を結成させ全ての転生者を所属させたが、前者の試みは不可能だと分かった。何故なら転生者達が与えられたチート能力には、彼が考えていたよりも派手な超能力らしい能力が多かったからだ。

 身体能力やセンスを磨いて模倣できるものではなく、魔術の研鑽を積んでも再現は難しい。そんな特別な力ばかりだったのだ。


 努力は欠かさなかったが、それでもなれたのは【ブレイバーズ】でもトップクラスの魔術師という称号だけだ。だが、転生者全員が一流の魔術師になれる素質を持っている。雨宮寛人はその筆頭だ。

 そのため、幾ら魔術の腕が優れていても一般受けしない。優れた技巧を、一般人は見ただけでは理解できない。出来るのは、やはり一定以上の技術を持つ者だけだ。


 そのため六道は、【ブレイバーズ】を牛耳る方向にシフトした。ロドコルテの元に戻って他のチート能力を貰う事が出来ない以上、そうするしかない。そう考えるのは『オリジン』で死んでも他の異世界に転生する事を知らない彼にとって、自然な流れだった。


 そう、牛耳る事が目的だった。裏切る事が目的ではなく、組織の影響力を増すために功績を重ね実績を積む事を考えていた。

 だが、彼は知ってしまった。死属性魔術の存在を。


 世界でたった一人、後に転生者だった事が判明する『アンデッド』しか使えない魔術。それを使えるようになれば、自分は特別になれる。そう六道は確信した。

 そして、仲間に隠れて研究を進めるうちに自分の確信が正しい事が証明された。死属性魔術を使いこなせれば、自分は特別な人間ではなく神に至る事すら可能だと。


 そこからは、【ブレイバーズ】は六道にとって自身が属する組織ではなく、自分が特別になるために利用する踏み台でしかなくなった。裏切る際に手駒として利用できる者を集め、利用するのが難しい者や障害となる者を排除していった。

 それらは非常に上手くいった。誰かに企みを嗅ぎつけられる事もなく、雨宮達に怪しまれる事もなかった。


 【監察官】や【オラクル】、【ウルズ】や【ゲイザー】、【千里眼】を潰し、排除する事に成功した事も大きかった。しょせん雨宮は特殊な能力を与えられただけの普通の人間でしかないという事だろう。

 自分のような、神に至るべき人間とは格が違うのだ。

 そう六道が考える程、全てが上手く進んだ。それがいけなかったのだろう。神の領域へいよいよ手を伸ばした段階になって、彼は窮地に陥る事になった。


 予期せぬトラブルや計算外の事態が起きる事を、考えなかった訳ではない。特に、『ブラックマリア』のコードネームを与えた実験体、【メタモル】は影武者として使っている時に一度変調を起こしている。

 だから二重三重の策を練り、万全を期して作戦を始動させた。


 だが、待っていたのは雨宮邸で出現した正体不明の化け物が世界中を駆け巡り、彼の作戦を潰して回るという悪夢だった。

 そう、悪夢だ。そうとしか言い表しようがない理不尽さで、六道の策は次々に失敗した。警察の中に息のかかった者を忍ばせ、航空機や船舶等の移動手段を監視する等の事前の策は、全くの無駄に終わった。


 そして化け物は【ブレイバーズ】と合流し、彼が裏切った同類達は仮装にしか見えない格好で攻め込んできた。報告を受けた時は、自分の頭と目が狂ったのかと愕然とした程の衝撃を受けた。

 しかし、雨宮達が身に付けているのは六道が知る最新技術を上回る超技術で創られたパワードスーツである事が分かり、彼はますます追い詰められる事になる。


 そんな超技術の結晶を装備した転生者達と、化け物。これに同時に攻められては、勝てない事が理解出来てしまったからだ。

 そうである以上、六道にとれる行動は一つしかなかった。それは撤退でも降伏でも自害でもない。


 六道自身は、成功する可能性が高いと信じている。自分以外では……【メタモル】は成功した。彼女に実験した時に得たデータを利用し、より完成度を高めている。

 だが、成功したとしてもそれで完全な死属性魔術師になれるかは分からない。しかし、実行せずに諦める事は出来なかった。


 引き金を引き、衝撃を感じたと思った時には意識は遠くなり……そして覚醒した。

(これは……成功したのか!)

 瞼を開き、培養液とカプセル越しに自分だった肉の塊が頭部から血を流して倒れているのが見えた。


 同時に、先程まで自分を構成していたものが欠けてしまった事を自覚する。だが、喪失感は覚えなかった。逆に、背筋が震えるほどの達成感に陶酔すら覚えた。

 まるで余計な筋肉や脂肪、雑念を削ぎ落とし、より洗練された自分に生まれ変わったかのような感覚……いや、確信があった。


 今この瞬間、六道聖は完成したのだと。

『……ふっ、フハハハハハハハ! 私は、遂に死を、この世界を支配する力を手に入れたぞ!』

 言葉と共に魔力を発し、カプセルを内側から砕いて六道は自ら三度目の誕生を果たした。


 彼の魂を掴み損ねたロドコルテは、今頃痛恨の極みだろうが……来世も異世界転生する事に決まっていたとは夢にも思わない六道には、それを知る由もない。


「成功だ! コードネーム『アークアバロン』から……新しい六道さんから、死属性の凄まじい魔力反応がある!」

「これは一千万、二千万……八千万! 八千万に到達したぞ!」

「『アンデッド』の一億は超えなかったが、十分だ。新たな神の誕生だ!」


 六道の実験を見守っていた転生者や技術者が、歓声をあげる。

 【メタモル】に施した実験では、彼女を殺して輪廻転生させるプロセスを踏まず、ただ属性の素質を消去する事で死属性魔術を習得させた。


 しかし、六道は自分自身を殺し『アークアバロン』と名付けた新たな肉体に魂を宿らせた。彼は、自らの技術で輪廻転生を……輪廻転生システムを創りだしたのだ。

 その結果、属性の素質を失ったことでヴァンダルーと同じように『空き枠』が生じ、そこに膨大な魔力を蓄えるに至った。


 これはヴァンダルーが死者の魂を魔力で操り新たな肉体に宿らせたのと同じだが、システムとしての完成度が違う。

 例えるなら、ヴァンダルーが行っているのは手工業。自分の手で糸を紡ぎ、布を織るようなものだ。だが、六道が行ったのは工業。作業機械を作り、自分から独立した動力によって作動する機械によって糸を紡いで布を織り、服を仕立てたのだ。


 ロドコルテが司る複数の世界の輪廻転生を運行するためのシステムと比べれば規模は極小であり、精密さも粗雑と言うしかない。だが、同じものである。

 六道聖はこの瞬間、輪廻転生についてはたしかに『アンデッド』……ヴァンダルーを越え、神の御業に至ったのである。


『み、ミスター六道、なのか?』

 モニター越しに、合衆国大統領が六道へ声をかけてくる。『アークアバロン』は六道の遺伝子をベースに培養した肉体であるため、顔立ちは同じだ。しかし、死属性の魔力との親和性を上昇させるため様々な調整を行った結果、身長は三メートル近くにまで巨大化し、全身の毛根が死滅した結果スキンヘッドとなっている。


 彼らが六道と『アークアバロン』が同一人物だとすぐに理解できなくても、仕方がない。それに気がついて、六道は微笑みかけた。

「ええ、私ですよ、プレジデント。あなたたちの見ている前で死に、そして生まれ変わった。真の死属性魔術師……いえ、神としてね」


 口調は柔らかいまま、傲然と六道は言い放った。その態度にモニターの向こうの協力者の内何人かが顔を小さく顰めるが、不快感を表出す様子はなかった。

 オリジンでは一流の魔術師の基準の一つが、機械で魔力量を測定した時の数字が一万あるか否かだ。それを基準に考えれば、八千万の魔力を持つ今の六道は神と評してもおかしくないからだ。


「全身に力が漲っているのを感じる……私のバイタルはどうかな?」

「は、はいっ! 体温は約二十度、心拍数及び脳波は……計測不能!? い、生きている人間とは思えません!」

 研究員が驚くべき数値を報告するが、六道は「ほう」と短く言うだけで特に何の反応も示さなかった。


 バイタルの数字だけ見れば、脳死して心停止する寸前か直後のようだ。しかし新たな肉体に生まれ変わった彼の感覚は澄み渡り、意識は明瞭だった。寧ろ、以前よりも具合が良いとすら感じる。

 今なら、【バロール】のように戦車と格闘戦も出来るかもしれない。いや、確実に出来る。そんな万能感のまま、六道は誰もいない方向に向かって手を伸ばした。


「炎よ、力となって我が手より飛び発て、【火球】」

 だが、六道の手から球体状の炎が放たれる事はなかった。

「フッ、実験通り他の属性の素質は消えているようだ。以前なら児戯に等しい簡単な魔術も、今は全く使える気がしない。だが……たしか、【鬼火】だったかな」


 六道が短く呪文を唱えると、今度は彼の手に青白い炎が灯った。それが死属性の炎である事を知っている技術者や転生者達は、感嘆の声をあげる。


『ミスター六道! 実験の成功には惜しみない賞賛を贈ろう! しかし、今はそれを悠長に祝っている時間も、検証している余裕もないはずだ!』

 合衆国大統領の言葉に、六道は視線をモニターに戻す。彼等はこの本拠地の置かれた正確な状況を知らないはずだが、六道が危険な賭けに出た事から相当追い詰められていると推測したようだ。


「ああ、そうでした。失敬、つい忘れていましたよ」

『随分な余裕だが、問題はないのかね?』

 そして、中華共和国と北欧連邦の代表が焦りを声と顔に滲ませて尋ねる。彼等はここを警備する部下から直接報告を受ける事が出来るため、自分達が窮地に居る事を正確に知る事が出来てしまった。


 当人達にとって六道は、最後の希望だ。そんな彼らに、六道は力強く頷いて答えた。

「ええ、問題はありません。私が直接対処しましょう。ですが、その前に――」

 六道は死属性の魔術を、空間属性魔術と同じ要領で使った。


「こ、これはっ!?」

「【転移】か!? 馬鹿な、【転移】は空間属性の高等魔術のはず! それを近距離とはいえ、これ程の大人数を一度に……!?」


 次の瞬間、六道は自身の周りに居た転生者や技術者と共に、モニターに映っていた会議室……大統領の前に【転移】していた。

「これは、『第八の導き』の一人と同じ死属性魔術か!?」


「その通りです。もっとも、あの失敗作よりも高度な魔術ですが。何れ死ぬ運命の存在、つまりあなた方の元に【転移】したのです」

「し、死ぬだと!?」

「何れ、ですよ。皆さんは、まだ不老不死ではないただの人間なのですから、当然いつか死ぬ運命にあるのは自覚しているでしょう?」


 その六道の言葉の意味を理解できた者達は、ぞっと背筋に寒気が走った。六道は、死ぬ運命の存在……つまり全人類の近くに、生まれたばかりの赤ん坊の真横にさえ【転移】する事が可能だと語ったのだから。

 危険度は、『第八の導き』のジャックの比ではない。世界中の安全保障が意味をなさなくなる。

 だが、そんな危機感は続く六道の言葉で彼らの頭の中からすぐに消えてしまった。


「では、皆さんを不老不死にしましょう」

「な、何だって!? それは本当か!」

 ここにいるのは中華共和国と北欧連邦の代表以外、不老不死欲しさに国も売った者達だ。夢にまで見た不老不死を与えると言われれば、飛び付かない訳がない。


「勿論。我々としても皆さんが不老不死になれば、警護対象を減らす事が出来る。緊急時の正しい対応ですよ」

「だが、そんな簡単に我々を不老不死に出来るのか? 儀式の必要はないのかね?」

 科学以外にも魔術が存在する『オリジン』では、外科的な手術だけではなく魔術的な儀式が行われている。大統領達は、不老不死になるには大掛かりな儀式が必要に違いないと思い込んでいた。


「いいえ。ただ、こうするだけでいい」

 六道は自分に聞き返してきたアフリカのある国の大統領に向かって、黒い魔力を放った。魔力は驚く大統領を包むと、彼に吸い込まれるようにして消える。


「お、おおっ!? これは……うおおおおおおっ!?」

 その途端アフリカの大統領は苦しむように胸をかきむしり、かと思ったら右目を押さえて仰け反った。

「これはどういう事だ!?」

 彼のSPも兼ねていたアフリカのある国の将軍が、咄嗟に銃を抜いて六道に向ける。だが、大統領は次の瞬間歓声をあげて立ち上がった。


「おお! 見える、失明した右目が見えるぞ……義眼ではなく、本物の目が再生した! 手術で埋め込んだペースメーカーも、もう必要ないという事か!」

 彼の掌には身体から排出された義眼とペースメーカーがあり、右の眼窩には再生した眼球が収まっていた。


 それを見た他の国の大統領や軍事関係者、世界的な大企業の社長や裏社会の大物達が不老不死を手に入れようと六道へ殺到する。

 彼はそれらに、分け隔てなく不老不死の力を与えた。


「言っておきますが、皆さんは不死身の超人になった訳ではありません。身体能力は、健康体に等しくなり、脳のリミッターが外れた事で今は上がったように感じているかもしれませんが――」

 六道は野望の実現に歓声をあげる協力者達に、微笑みながら説明を続けた。彼は覚えたての死属性魔術で、協力者達の身体から老いを司る遺伝子の働きと自然治癒力を制限する部分を止め、細胞が癌細胞化しないようにしただけなので、たいした手間でも労力でもない。


 自分の目標のために、彼等自身の欲望を叶えるためとはいえ尽力してくれた彼等にそれぐらいしてやるのは、当然の事だと思った。彼らの協力がなければ、今日という日を迎える事は出来なかった。感謝するのは当然の事だ。

「所詮は人間の範疇に納まるものです。無理は――私の話を無視するのかね、下等生物の分際で」

「ガッ!?」


 当然の事で、それが正しい事は分かっている。間違っても、六道を賞賛する大手新聞社の社長の首を掴んで、握り潰そうとしてはいけない。

「ぐげぇっ!?」

 だが、六道が気づいた時には周りの人間が止める間もなく大手新聞社の社長の首を圧し折っていた。


「ミスターっ!? な、何のつもりだ!?」

「六道さん!?」

 ある者は怯えたように下がり、ある者は持ちこんだ銃や魔術媒体を構える協力者達。守屋達は、何事かと狼狽えつつも六道の指示を待っている。


 そんな彼らの視線を一身に浴びる六道は、耳元で飛び回る羽虫を叩き潰した後のような爽快感と共に、大手新聞社の社長だった男をその場に捨てた。そして、穏やかな口調で答えた。

「何のつもりか、か。当初の予定では、お前達にはこのまま私を頂点とした新世界で各地を統治して貰うはずだった。数の多い人類を治めるには、それが最も効率がいいからね。

 不老不死欲しさに国を売るような元為政者だったとしても」


 六道が神を名乗っても、人類の多くは認めない。彼等が信じる宗教の聖典には、六道聖が神であるとは書かれていない。それに、六道自身も各宗教の神らしい事は何もしていない。寧ろ、不老不死を餌に人を惑わす悪魔の類だろう。

 だから、協力者達の存在は計画成功の後も重要だった。雨宮達を無事抹殺し、死属性魔術を手に入れたとしても世界を敵に回したら勝ち目は薄いと以前は考えていたからだ。


「だが、事情が変わった。始末に失敗したせいで雨宮達は仮装のようなパワードスーツを着て押し寄せて来るし、正体不明の化け物に【コピー】まで殺されるし、合衆国ではクーデターが成功しセルゲイ将軍が大統領に就任した。他の国の内幾つかでも、同じような事が起きている」


「クーデターだと!? そんな馬鹿な……!」

 合衆国大統領……元合衆国大統領が膝から崩れ落ちる。そんな彼を慰めるように、六道は手を向けた。

「そして何より、今の私には不老不死になった君達が醜いムシケラにしか見えない。嫌悪感のあまりつい、叩き潰してしまいたくなる」


 そして、手から魔力の塊を放ち、元大統領の頭部を熟した果物のように叩き潰した。これでは、幾ら自然治癒力の制限を無くしたといっても、どうしようもない。

「そ、そんな! 我々は君に尽くして来たじゃないか! そうだろう!?」

「その通りだ。だから、悪いと思うべきなのだろうね」

 そう返事をしながら放った冷気が、麻薬組織のボスを氷像へ変える。


「しかし、折角こうして不老不死にした君達を殺して生体エネルギーを奪っても、蚊を叩き潰した時と同じような感慨しか湧かない。ふむ、何故だろうか? 新しい身体に転生した事で、精神に変調が出たのか?」

「生体エネルギーを奪うだとっ!? 貴様、最初からそのつもりで……おのれぇ!」

 何処かの国の将軍だかなんだかが、六道に向かって炎の刃を放つ。他の元協力者達も、銃の引き金を引き、魔術を放って六道に攻撃を加えた。


「勘違いしないでくれ。生体エネルギーを奪っているのは、あくまでもついでだ。そのために君達を殺している訳じゃない」

 しかし、それらは六道が張った結界によって防がれてしまった。


「ただ、君達が目障りで仕方ないから駆除しているだけなのだよ」

 そして、結界をそのまま衝撃波のような形で放ち、元協力者達を吹き飛ばす。老いを克服したはずの彼等は、次々にその力を与えた男によって命を奪われていった。


 今の六道は一気に膨れ上がった死属性の魔力に、精神が飲み込まれてしまっている。彼は六道聖という名の、死の化身と化してしまったのだ。だから、死から遠くなってしまった大統領達が目障りで仕方がないのだ。伝説の中で吸血鬼や悪魔が十字架や聖書を嫌うのと同じように。


 同時に、六道は酔っていた。圧倒的な力をふるう万能感に。自身の能力と似た能力の持ち主である【ケイローン】のデリックを遠ざけていた過去の自分が馬鹿らしく思える。


「何ということだっ! 貴様は悪魔だ、神ではなく悪魔になったのだ!」

 そう叫ぶ欧州連合の代表も、次の瞬間には断末魔の叫びと共にバラバラにされた。彼らは気がつかなかったが、神と悪魔は同じような存在なのだ。自分たちに理解できる悪魔を神と呼ぶか、理解できない神を悪魔と呼ぶかの違いだ。


「貴様、こんなことをして我が国がただで済ますと思っているのか!?」

 中華共和国の代表が、顔に飛び散った欧州連合の代表の破片を拭いながらそう叫ぶと、懐からリモコンを取り出した。見ると、北欧連邦の代表も万年筆のような短杖を取り出していた。彼らは合衆国大統領のように国を裏切ったのではなく、六道に協力することを選んだ国から派遣されている。祖国と六道のパイプ役であると同時に、監視者でもある。


 中華共和国と北欧連邦は、不老不死となった人間がそうでない人間を支配する新世界において自分達が主導的な立場になるため秘密裏に準備をしていた。

 だがもし六道が使い物にならない、もしくは裏切るようなことになれば、この本拠地の土地や防衛戦力を提供している二大大国は緊急手段に訴えることを躊躇わない。


「我が国に栄光あれ!」

 北欧連邦の代表者がキーワードを唱え、中華共和国の代表がリモコンのボタンを押す。その五秒後に、この地下に建造された本拠地は爆破され崩壊するはずだった。


 建造から関わっていた両国だからこそ出来たのだが、建材に爆薬や爆発する魔術を仕込んだマジックアイテムを仕掛けていたのだ。

 この本拠地は崩落し、六道や自分たちだけではなく攻め込んでいる【ブレイバーズ】や化け物、そして研究記録や実験体も瓦礫に飲み込まれ闇に葬られる……はずだった。


「私が、君達の仕掛けた爆弾に気がついていないとでも思ったのかね?」

 だが、六道はそういうと【転移】し……そして再び現れた。彼の横には、黒い魔力に覆われたコンクリートや金属の塊がいくつも浮かんでいる。

 そして、五秒が過ぎても爆発が起こる様子はない。それから考えられる結論は一つだった。


「まさか、それは我々が仕掛けた……死属性魔術で死をもたらす爆弾の元へ【転移】し、この短時間で集めて戻ってきたのか!?」

「くっ、マジックアイテムが作動しない!? これも死属性魔術だというのか!?」


 狼狽し、繰り返しリモコンや短杖を操作する二人に六道は微笑んだまま告げた。

「元々裏切るつもりはなく、必ず結果を出せるという確信があったので放置していたのだが……雨宮やあの化け物を倒すのに横槍を入れられるのも面倒だ。

お引き取り願おうか」


 そして二人に手を向けると、呪文を唱えた。そして、二人の姿とそれぞれの国が仕掛けた爆弾が同時に消える。

「ろ、六道さん……?」

「たいした事はしていないよ、守屋。それぞれの国に返してやっただけだ。国の中枢にね。さすがに、ここまで爆音は届かないか」


 発展途上国ならともかく、大国の中枢ともなれば空間属性魔術で【転移】されないように様々な仕掛けが施されているのが常識だ。六道はそれを無視して、代表者と爆弾を送りつけたといったのだ。

「さすが六道さんだ。ほかの属性魔術は使えなくなっても、既に死属性魔術を極めつつある!」

「ああ、素質は失っても記憶を失ったわけではないからね。技を死属性魔術に応用しているだけさ」


 属性魔術の使い方は、それぞれの属性毎に異なった部分もあるが、実は共通している部分も多い。特に【鬼火】は熱がないだけで形状は炎そのものだし、【転移】はほぼ空間属性魔術だ。

 そのため、六道の属性魔術の技と制御技術を応用すれば短い時間で習得する事ができる。


 今の行動は六道にとって自分で作ってしまった目障りな存在を駆除するためのものでもあったが、それを確かめるための腕慣らしでもあった。

 だが、殺戮は六道にさらなる力を与えていた。


「六道さんっ! 魔力計の数値がさらに上昇! 魔力が八千万を超えています!」

 六道の魔力は、消耗するどころか増大していたのだ。

「ほう、どうやら【成長制限無効】の能力はまだ有効のようだ。魔術を使えば使うほど、魔力が上昇していく……! 守屋、そして君たちはそれを知っても私についてくるつもりかね?」


 突然尋ねられた守屋たちは、ハッとした。六道は今目の前で協力者たちを虐殺したばかりだ。それも、裏切られたからではなく、彼のほうから裏切ったのだ。

 しかも、それによって六道の力は上昇している。守屋達に同じことをしないとは限らない。


「御冗談を、六道さん……いや、神よ。私達はあなたに命を賭けたんだ。不老不死は魅力だが、それだけが目的だったわけじゃない」

 守屋達はそれぞれ、理由があって【ブレイバーズ】を裏切り六道に付いた者達だ。雨宮に対する不満や、ただスリルを求めていただけの者もいるが、六道が支配する新世界の到来を望む者もいる。


「それに、今更あんたから逃げても、どうしようもない。とっくに梯子は外されているのに聞かれても困りますよ」

 そう守屋が言うと、同感だとほかの転生者も頷く。ただ居合わせただけの研究者達は迷っていたが、ほかに選択肢がない事はわかっていたので、結局後に続いた。


「いいだろう。君達には不老不死の力は与えられないが、私とともに最後まで戦ってもらおう。……だが、その前にお客さんのようだ」

 六道はここの上空に、死の気配……爆撃機が近づいている事を【危険感知:死】によって察知していた。どうやら北欧連邦か中華共和国の代表者が、死ぬ前にここを爆撃するよう最寄りの基地に連絡していたらしい。


 ずいぶんと用意周到なことだが、爆弾でここを崩落させようとするだけでは足りなかったらしい。

「もっとも、感じる死の気配は雨宮と化け物のものよりも小さいが……いいだろう。望み通り、ここを死の世界にしてやろう。ただし、私が君臨する死の世界に!」

 六道は死属性の魔力を衝撃波のように放射した。それは建造物を透過して、彼が目標から外した生命以外の全てに襲い掛かった。




「な、なんだ、これは!?」

 突然浴びせられた黒い魔力の波に驚愕したが、雨宮達は余裕で耐えていた。ダメージどころか、衝撃すらほとんど覚えない。

 しかし、先ほどまで彼らが戦っていた獣が次々に倒れていく。


「私にはわかる。これは死属性の魔力だ。だが、神でも聖女のものでもない」

「なんと悍ましい事か。生を啜るだけ啜って、安らぎを一切与えようとしない!」

 ユキジョロウとボコールがそう叫んだことで、雨宮達はこれが死属性の攻撃魔術であることを知った。


「まさか六道の仕業か!? くそっ、間に合わなかった!」

「だが、僕達はなぜ無事なんだ。防御魔術を張ってもいないのに……まさか、このスーツのおかげなのか」

 自分のマントの端をつかんでそういった雨宮の言葉通り、彼らが無事なのは変身装具の性能によるものだ。この世界の通常のパワードスーツは死属性魔術を受けることは考慮されていないが、変身装具の制作者はその死属性魔術師本人だ。


 当然、死属性魔術に対しても防御するよう作られている。……寧ろ、死属性魔術だけ防御しないように作る事は出来ない。そんな方法は知らないので。


「なら、冥と博は無事だな。先に進むぞ! もう一刻の猶予もない!」




 緊急事態を告げる連絡を受けて緊急発進した中華共和国の爆撃機のパイロットは、怒りと緊張が混じった顔つきで目標地点を目指していた。

 彼が怒りを覚えているのは、自国の首都が何者かの攻撃を受け、最高執行機関が崩壊したという情報が入っていたからだ。


 パイロットは自国が裏で何をしているのか知る立場になかったが、タイミング的に考えて爆撃目標が無関係とは思えなかった。

「なんだ!?」

 しかし、目標地点に到達する前に黒いドームのようなものが地上から急速に広がりつつあるのが見えた。それは見る見るうちに巨大化し、上空数千メートルを飛行する爆撃機に到達する。


「本部、何らかの攻撃を受け……うあああああああああああ!?」

 黒いドームのようなもの……六道が放った死属性の衝撃波を浴びたパイロットは、生命力を奪われ数秒でミイラのようになって死んでしまった。


 パイロットを失い墜落する爆撃機の周りでは同じように死んだ鳥達が墜落していた。




 死の衝撃波が放たれる数秒前、冥が「オジサン達が危ないって言ってる」と突然言い出した。博達は何のことか分からなかったが、バンダーはすぐさま動き出した。

『みんな、博以外は俺の近くに! ウルリカは【エコー】を発動してみてください』

『えぇ!?』

 驚く博達を無視して、バンダーは触手を伸ばし皮膜の翼を広げ、変身装具を装備していない実験体達を庇った。


「ぬるぬるして気持ち悪いよぉぉぉ!?」

「ママぁぁぁ!」

「神よっ! ああ神よっ! ついに私は神の贄となるのですね!」

「すべてを、すべてを捧げます!」

 夢でバンダー達に会っていない被害者と、会っている被害者が正反対の感情がこもった叫びをあげる。


「みんな心配しないで! バンダーはみんなを守っているだけだからねー! 贄にならないし、捧げられても困るからねー!」

 真理が被害者達をなだめるが、彼女の言うことを聞くのは彼女同様ヴァンダルーに導かれた被害者だけだ。だが、全体の半分近くが言うことを聞くので、残り半分もつられて幾分落ち着きを取り戻した。


「跳ね返せたが、手応えがない。これは死属性魔術なのか!? だとしたら、誰が?」

「六道だろうって、雨宮達が。こっちの無事を伝えたら、このまま先を急ぐって返事してきたわ」

 精神的に不安定で度々パニックに陥るため、【エンジェル】に悪影響が出るのが懸念されたため接続していないウルリカに、真理がそう教える。


『六道のおじさんが!? 悪い奴なのは分かってたけど、本当に悪い奴だったのか!』

「……分かってたのか分かっていなかったのか、どっちなんだ?」

『だってっ! ここに来るまでピンと来なかったんだからしょうがないだろ!』


 それまでバンダー達から言葉で六道や守屋が悪い人だと教わっていた博だが、これまではバンダーによって凄惨な光景が彼の目に映らないようにされていた。そのため、実感がわかなかった。

 だが、捕まっていた実験体達や、バンダーが凄惨な光景だと思わなかったアンデッド達の姿を見たことで、ようやく実感を覚えた直後にこの展開である。


 ようやく博の中で理解が追いついたようだ。

「なるほど、そうなのか」

 ガブリエルも真理も、そんな博を子供だと馬鹿にはしない。ガブリエル自身まだ未成年であることを自覚しているし、彼は最初から六道が首謀者だと身をもって知っていただけで見抜いたわけではないと分かっていた。

 真理にしても、影武者にされる前は六道を全く疑っていなかった。


『絶対許さないぞ!』

「気持ちは同じだけど、その格好で大きな声を出さないでくれ。私は平気だが、小さな子供が怖がる」

 今の博の姿は、バンダーが渡した変身装具によって体長約三メートル、筋骨隆々とした体形で頭部や肩、背中に複数の巨大な眼球があるモンスターである。


『うっ!? でも、なんでこんな怖い格好になるんだよ。父さん達のは格好よかったのに!』

『いや、あれは三分の一ぐらいは嫌がらせが入っているだけの、粗製装備ですから』

 【ブレイバーズ】の名前が描かれている雨宮寛人の変身装具は、この事件を起こしたのが【ブレイバーズ】の裏切り者だとしても、解決に尽力したのも【ブレイバーズ】であることを宣伝する目的もあった。だが、『アンデッド』の正体が天宮博人である事を暴露した彼に対する、嫌がらせも含まれていたのである。


『それに、それは防御力特化で魔術媒体としても通常の変身装具の数倍は優れている逸品ですよ。普通の装具に使う数百倍の金属を使っていますし』

 最も、死属性の魔導金属を多用した結果、着ると死属性と無属性魔術以外使えなくなるという大きな欠点があった。しかも、防御力も【魔王の欠片】を多用できるヴァンダルーは着ないほうが良い程度でしかない。


 ヴァンダルーが博を守るためにただひたすら防御力を高めた結果できた、着ぐるみ型変身装具である。


「カッコいいよ?」

『うーん、冥はそう言うけど……うわっ、また来た!』

 そう話していると、六道が再び死属性魔術の衝撃波を放った。どうやら今度は結界状に衝撃波を広げて、このあたり一帯を入っただけで生命力を奪われる空間にするつもりのようだ。


『想定していたより、六道の魔力が多い? 俺が考えていたよりも、彼の成長が早いということでしょうか? これは下手をするとこの施設の周りだけではなく、近くの町……いや、海の向こうまで届くかも』

 そう推測しつつも、バンダーは危機感を覚えなかった。六道のこの魔術の結果、数万人から数億人が死ぬだろうが、それは彼にとって他人だ。


(オリジンの神が六道を警戒するはずですね。六道の魔力が増え続ければ、この大陸と周辺の海は数日もかからずバクテリアも生存できない死の世界と化すかもしれない)

 そのうえ、彼はこの世界の人間の生命を守る責任はない。税金を払っているわけでもなく、法律で守られているわけでもなく、社会的立場もない。権利がないのだから、義務もない。


 そういうことは、事後の処理も含めて雨宮達に任せればいい。


「バンダー?」

『でもまあ、テレビや公園で一方的に知っている顔もいますし……プルートー達のファンもいますからね。仕方ない』




『少し、骨を折りましょうか』

 そんな声がどこからともなく響いた次の瞬間、虚空に亀裂が走り、その内側から名状しがたい何かが溢れ出した。


 無数の触手にでたらめに曲がりくねった手足、無数の眼球が詰まった眼窩、鱗や体毛に覆われた皮膚、枯れ木のごとく伸びた角や骨。

 それが六道の本拠地のある場所を中心に、ドーム状に広がって彼の死属性魔術を抑え込んだ。

どうにか日付が変わる前に投稿できました(汗


次話は5月6日に投稿する予定ですが、遅れたらすみません。

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― 新着の感想 ―
仕方ない
六道ウゼェんでさっさと死んでからねぇかな。 多い魔力とか死属性とか、ヴァンダルーと被ってるのすごい不快。
[一言] 死属性を10年以上使っている奴に使い始めて数時間のやつが勝てるわけないんだよなw
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