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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十三章 選王領&オリジン編
390/515

閑話50 ぶつかり合う転生者達

 【バロール】のジョニー・ヤマオカの脳から情報を手に入れたバンダーは、白目をむいて痙攣している彼の首を圧し折り、念のために心臓も鉤爪で貫いて放り捨てた。そして雨宮邸の玄関だった瓦礫やゴーレムの残骸を使って、死体を手早く埋めてしまう。

 他にも、目に見える範囲に死体が転がっていないか確認し、【消臭】の魔術を使って血と硝煙の臭いを消してから懐を開いた。


「ぷはぁっ! びっくりした……うわあああ! 家が滅茶苦茶になってるぅ!」

「はひぃ、はひぃ、嫌だぁ、出たくないぃぃ……」

 最初に出てきた博が自宅の惨状に悲鳴をあげた。ウルリカはバンダーの胴体に縋りついたまますすり泣いている。どうやら、激しい銃声が彼女のトラウマを刺激したらしい。


「よしよし、大丈夫だよ。安心してね」

 そして、冥がウルリカを宥めている。

『無理をさせてしまいましたね。ありがとう、ウルリカ。博、君の部屋は無事な筈ですから、持っていきたい物があったら持って行きましょう』

 そう言いながら、バンダーは左手の鉤爪を取り外し、右手でどこかへ投擲する。それを何度も繰り返した。


「え、いいの? こういう時って普通、必要のないものは置いて行くんじゃないの?」

『そんな事は言いません。ゲームでもプラモデルでもぬいぐるみでも、お気に入りの服も全部持って行きましょう』

「分かった! すぐ持ってくる……ところで、さっきから何してんだ? 敵はもういないんだろ?」

『ええ、いなくなりました』


 鉤爪を投擲した先でこちらを狙っていたスナイパーや、近所の住人を拉致監禁していた敵の生命反応が消えたのを確認したバンダーは、博の言葉に頷いた。

 そして博が荷造りをしている間、ウルリカにジョニーが持っていた情報を話して今後の打ち合わせを行う。


「まず、もう隠れるのは無理だ」

 冷静さを取り戻したウルリカが、そう言いながら携帯端末の画面を見る。そこには、ジョニー・ヤマオカを猟奇的に惨殺するバンダーの動画が投稿サイトに投稿されていた。


 物音に気がついた通りがかりや、ジョニー達に身柄を押さえられなかった近隣住人が撮影したらしい。

 そう言えば、遠くからサイレンの音が響いてきている気がする。

「バンダーが姿を消しても私達は警察に『保護』と言う名目で身柄を抑えられる。この国の政府にも、六道の協力者がいるだろう。私は冥と博から引き離され、その間に奴らは二人を拉致しようとするはずだ。

 ここまで派手な行動に出た以上、六道も焦っているはずだ。時間をかけようとはしないだろう」


『それに、他の転生者の身に危険が迫っていますからね。大人しくめー君のパパが六道を倒すのを待っていたら、犠牲が増えそうですし』

 ジョニー・ヤマオカから得られた情報には、六道の死属性魔術の研究をしているのかといった彼にとって致命的な情報はなかった。ただ、この作戦と同時に雨宮寛人やジョゼフ、他の【ブレイバーズ】の幹部や六道にとって都合の悪い人物を始末する予定である事が分かった。


『だから助けに行こうと思いますが……真理とジョゼフは大丈夫でしょう』

「雨宮は……?」

『あいつはどうせ死なないだろうから、俺が助ける必要はありません』


 オリジンの神の人格を現在統率している『プルートー』から、六道聖を止めるために雨宮寛人に加護を与える事をバンダーは知っていた。なら、罠ぐらい対処できるだろう。

 それに、雨宮と一緒にいる転生者達はジョゼフやウルリカと違う、ただ『地球』でクラスや学校が同じだったというだけの人達だ。

 積極的に助けなければならない理由も、助けに行きたい理由もない。


 心配なのは、彼等が真理とぶつかって彼女に危害を加える可能性がある事だが……彼女達なら上手くやるだろう。

「では、やはりジョゼフ達を助けに向かいますか?」

『いえ、ジョゼフ達も大丈夫です。一番危ういのは、めー君のママ達なので、そこに行きましょう』

「ママのところ、いくー!」

「分かりました! しかし、どうやって……ここからアフリカに行くには、旅客機では時間がかかり過ぎる。戦闘機でもジャックしなければ間に合わない……」


『ウルリカ、人間には二本の脚があります。そしてここにはジョニー達が乗って来た黒塗りの車があり、俺には……翼があります』

 黒い毛皮のマント……皮膜が広がり、大きな翼に変形した。この時、実は高所恐怖症でもあったウルリカは思わず涙目になり、冥は初めての空中飛行の予感にキャッキャと歓声をあげ、家から冥や両親の分の服もトラベルバックに適当に詰め込んできた博は目を丸くした。


 そして、周囲で隠れたまま撮影を続けていた一般人は、バンダーの事を地獄から来た悪魔か何かだと思い込んだ。

 そして警察が雨宮邸に来た時には、バンダー達の姿と車一台がなくなっていた。




 【ブレイバーズ】のリーダー、雨宮寛人が仲間と共に向かったのは紛争で廃墟となった中東のある町だった。

 当初の目的は潜伏しているテロリストグループの確保だったが、テロリストが学校を襲い十数人の生徒を拉致している事が移動中に判明。

 急遽、拉致された生徒の救出に任務の目的を変更した。


 そのテロリストグループは使い捨ての傭兵が半分。残りの半分は高度な訓練を受けた精鋭と、研究の過程で生まれた『第八の導き』と同じ限定的な死属性魔術が使える被検体。そして人質である本物の学生の中には、【メタモル】……『ブラックマリア』と新たなコードネームを割り振られた獅方院真理が配置されている。


 さらに、派遣された転生者の中に六道側に付いた者を潜り込ませてある。

 正に鉄壁の布陣だ。如何に雨宮寛人が【ブレイバーズ】最強でも、生き残る事は出来ないはず。もし奇跡が起きたとしても、無傷では済まないはずだ。


 雨宮邸に潜む正体不明の何かと接触したと思われる【ドルイド】のジョゼフ・スミスは、犯罪組織の幹部の護送のために飛行機で南米に向かっている。彼と同様に接触したと思われる【ブレイバーズ】の内数名が一緒だ。

 そして、その飛行機ごと爆散する事故にあってもらう予定だ。六道側の転生者が操縦する戦闘機から発射されたミサイルによって。


 【エンジェル】の雨宮成美は、アフリカで起きた地震の救助活動。この地震は六道が仕組んだものではないただの自然災害だが……うまく利用する事が出来た。彼女達以外の救助隊や護衛の地元政府の軍は、息のかかっている傭兵を現地の武装勢力に偽装させて襲撃。そしてタイミングを見計らって、実験体やこちら側の転生者に始末させる予定だ。


「完璧だな。六道さんの長年の信頼と実績が、こうして実を結んだわけだ」

 【シャーマン】の守屋はそう言いながら、六道の本拠地の司令部で悦に入っていた。


 各国の政財界や犯罪組織の大物まで協力者として取り込んだ六道には、「後に判明しても構わない」という前提がつくが、出来ない事はない。

 情報を操作してテロリストグループの学校襲撃と生徒の拉致を演出したり、戦闘機を飛ばしてミサイルを護送のための飛行機に向けて撃ったり、各地で破壊工作をする事くらい簡単だ。


 雨宮達は去年に影武者だった【メタモル】が見せた狂態を見ても、仕事の量を減らして回復したという事にした六道を積極的に疑う事はないはずだ。【ブレイバーズ】や各国の情報部は六道だけで運営されている訳ではないのだから。

 ただ、六道とその協力者たちが牛耳っているというだけで。


 【オラクル】の円藤硬弥や【ラプラスの魔】の町田亜乱、【監察官】の島田泉や【ウルズ】のケイ・マッケンジー、【ヴィーナス】の土屋加奈子等、情報戦に強い転生者を亡きものに出来たのも大きい。これも、六道が先を見据えていたからだと守屋は考えている。


 勿論、後になってこの事が判明すれば六道も協力者達もただでは済まない。国家反逆罪等の重罪で逮捕される事は免れないだろう。

 ……世界が、これまでと同じ秩序を保っていられるのなら。


「世界は生まれ変わる。永遠の命を手に入れ神となった六道さんを頂点に、新人類となった俺達が旧人類を支配する世界に!」

 六道は死属性の魔力を手に入れ、永遠の命を手に入れ神となる。そして、自分達と協力を約束した者達は新たな人類に進化するのだ。


 死属性魔術は家畜や農作物の品種改良にも応用されていた。そして、『アンデッド』を収容していた研究所では、その応用を人間に使い、無敵の兵士を創り出す研究も行われていた。行われていたが、結局成果は出せなかったようだが。


 しかし、六道なら出せるはずだ。『第八の導き』と同じ限定的な死属性魔術師も創りだせなかった連中と、六道とはレベルが違うのだ。

 だが悦に入る守屋にオペレーターの報告が水を差した。


「ゴーレムが一機、機能停止しました!」

「何? どこの部隊のゴーレムだ?」

 ほぼロボットにしか見えない最新の軍用ゴーレムは、複数の作戦で利用されていた。守屋が特に警戒していた、上記の三人を始末するための部隊以外にも、他の六道側ではない【ブレイバーズ】のメンバーの動きを封じるための部隊が幾つもある。


 現時点で自分達の味方ではないが、【ブレイバーズ】で主導的な立場ではなく、能力も特別脅威ではない転生者については殺害までは狙わず、世界各地に散らした後妨害工作を行って事が済むまで連絡が取れないようにするだけの予定だ。


 これは雨宮達を始末した後、自分達の下につくよう勧誘できるかもしれないと言う理由もある。しかし、主な理由は手が回らないからだった。


 六道は【ブレイバーズ】を裏切らせた【クロノス】の村上淳平を通して、『第八の導き』の情報を得ていた。それで分かった事だが、自分達転生者は神から与えられた幸運に守られており通常の手段では中々死なない。だが殺そうとする側に同じ転生者がいる場合はお互いの幸運が打ち消し合い、驚くほどあっさり死んでしまう。


 そのため雨宮達を始末するための部隊には、六道配下の転生者が含まれている。しかし、幸運が打ち消されてしまうのは六道配下の転生者も同じだ。そのため、作戦が成功するよう十分な人員とバックアップが付けられている。

 そのため、有象無象の転生者まで始末するのは六道としても現実的ではなかった。だから、僻地に派遣した後移動や連絡の手段を破壊する妨害工作に留めたのだ。


 そんな部隊の一つでゴーレムが破壊されたのだろうと守屋は考え、まだ冷静だった。

「ゴーレムが破壊されたのは、雨宮邸にいる雨宮冥の拉致に向かった【バロール】の部隊です」

「何っ!?」

 だが、予想が外れ守屋は焦りを覚えた。【バロール】のジョニー・ヤマオカの部隊の担当は、転生者の抹殺ではなく雨宮冥の拉致だったからだ。


 六道の研究の完成に必要な少女の身柄を手に入れるため、やはり十分な戦力が割り振られていた。場所が高級住宅街であるため警察の目が厳しくても、無理をして軍用ゴーレムや重武装の傭兵を配置した。

 そして指揮官に任命された【バロール】は、転生者達の中でも戦闘に特化した男だ。能力は寧ろ汎用的だが、軍人一家に生まれつき、幼い頃から軍人になる事を求められ本人もそれを望んでいた彼は高度な訓練を受けている。


 一年に満たない期間しか訓練を受けていない他の【ブレイバーズ】とは、重火器の扱いや格闘術の技量が違う。チート能力を使わないという条件でなら、【ブレイバーズ】でも最強の一人だ。

 彼を前にしたテロリストは、それだけで気力を奪われ投降するという。伝説のバロールの魔眼を目にしたように。


「ヤマオカから連絡は!?」

「いえ、ありません。機能を停止したゴーレムは、【エコー】の狙撃に失敗したようです」

「【エコー】か……狙撃に気がつくとは、やるな。それとも奴の仕業か?」


 雨宮邸に潜む正体不明の何かを指して、守屋は「奴」と呼称していた。「奴」の事は、護衛の【エコー】以上に六道は警戒していた。

 しかし、その上で六道達は【バロール】の敵ではないと分析していた。


 「奴」が妨害したと思われる、雨宮冥の拉致作戦で警察が押収したトラックと実行犯達の死体を分析した結果、魔術ではなく強力な物理的な力で殺害及び破壊されている事が分かった。

 そのため「奴」は『第八の導き』のゴーストのように存在を隠す事が可能な、何らかのマジックアイテムか改造手術で身体能力を強化している存在だと六道は推測した。


 その程度なら、存在する事が事前に分かっているならジョニーの敵ではない。

 【エコー】についても、ここ一年で劇的に回復したが戦闘が発生しうる任務から離れて何年も経つ。それに、交代の仲間が来たと油断している状態で狙撃すれば、能力で反射する事もできずに殺せるだろう。そう予想していたのだが……。


「【エコー】を助けたのなら、予想より『奴』とジョゼフ達の関係は強固なようだな。村上と組んだ時のように、お互い利用しあっているだけの関係かと思ったが」

 守屋もそうだが、六道には想像も出来なかった。「奴」……バンダーが、遺恨のあるはずのジョゼフ達を治療したのが利用するためではなく、ただの偶然出会った結果の親切心からだった事。その結果、仲間として打ち解け信頼関係を構築する事が出来たなんて事も、夢にも思わなかった。


 だから、次のオペレーターの反応に驚愕することになる。

「っ!? 【バロール】隊の全てのゴーレムの機能停止を確認! 傭兵達の生命反応も全て消えました!」

「何だと!? そんな馬鹿な!」

「ボディカメラの映像、出ます!」


 司令部の画面に、【バロール】のボディカメラの映像が映し出されえる。そこに映っていたのは……守屋が警戒していた奴の姿だった。

「な、何だ、この醜い化け物は!? 【エコー】は、雨宮冥はどこに行った!? まさか、あの化け物の中にいるのか!?」


 初めて目視したバンダーの姿に、守屋だけではなくオペレーター達も驚愕の声を漏らす。そして、その化け物は恐ろしい速さで【バロール】に迫り……魔術で身体能力を強化したはずの彼の腕を易々と切断し、続けて攻撃を叩きこむ。

 そして牙の生えた口を開き……ボディカメラが壊れ、映像が途切れた。


「や、奴は何なんだ? 『第八の導き』の残党なんかじゃない。あれは……六道さんに連絡しろ! 緊急事態だ!」

 呆然としていた守屋だったが、我に返ると自分と同じように呆然としていたオペレーターに命じて、研究棟で準備を進めている六道に報告を急いだ。




 守屋から報告を受け記録された映像を見た六道が、「そんな馬鹿な」と彼と同じ事を言っている。

『アサルトライフルやゴーレムの重機関銃、炎や電撃を受けても傷つくどころか内部に匿った人間まで無事なんて……どんな合金でも不可能だ! それなのに魔術を唱えた形跡もない。それに、速すぎる! 【バロール】が一方的に負けた以上、一対一では誰もこの化け物には勝てない!』

 そう青くなった顔で、ロドコルテ達には分かりきった事を叫んだ。


『だから手を出すなと、何度も神託を出したと言うのに』

 ロドコルテは頭を抱えていた。彼としては珍しい事に、六道達に正しい警告を何度も辛抱強く発していたのだ。【バロール】には、雨宮邸を銃撃する五秒前にも思いとどまるよう忠告していた。


 そもそも、死属性魔術の研究自体ロドコルテとしては止めたかったのだ。最初はどうせ失敗するだろうと放置していたが、六道がある程度の研究成果を出すようになった事に気がついて慌てて止めようとした。


 しかし、ロドコルテの神託は全く届かなかった。何故なら、六道とその配下達にはロドコルテを敬い信仰する心が全くないからだ。【バロール】達は六道こそ神になる男として忠誠を……信仰を向けていた。六道も、自身こそが真に神に相応しい存在だと心から考えている。

 そのため、ロドコルテの神託が届く事はなかった。


 神の声とは、忠実で熱心な信徒には届く。逆にそうでない者、信心を持たない者や大きく間違えている者には届かないのだ。


 御使いとなった町田亜乱や島田泉、円藤硬弥達が忠告していたとしても同様だっただろう。間接的に自分達が死に追いやった元仲間へ彼等が向ける感情に、碌なものはない。


『やはり、『第八の導き』の残党でしょうか?』

『そんなはずはない。これ程の化け物がいたなら、村上達に隠していたとしても最終決戦の時にまで温存する意味がない。この化け物なら、雨宮寛人でも殺せた可能性がある。そうでなくても、もっと大勢の【ブレイバーズ】を殺せたはずだ』


『では、奴はその後何者かによって創られた事に? しかし、こんな化け物をいったい誰が……?』

『六道さん、それにお前達も、今はこの化け物の正体を探るのは後にするべきです! この化け物をどうするか、雨宮冥を手に入れるのは諦めるか、新しい策を講じなければ手遅れになります!』


 映像の前で狼狽える六道に、守屋がそう決断を促す。これまで全ては掌の上だと思っていた六道だが、あまりにも想定外な事態に、思考回路が止まってしまったようだ。

『そうだ! 今からでも手出しを止めろ! そうすれば、魂を砕かれる可能性はなくなる!』

 ロドコルテはバンダーに魂を砕く、もしくは喰う事が出来る危険性を考えてそう叫ぶが、勿論その声は届かない。


『いや、あいつにとっては六道以外の魂を砕く必要もないんじゃないか?』

 そう言う亜乱の視線の先には、先程来たばかりの【バロール】のジョニーがいた。


『いやだ、もう嫌だ、奴の本体がいる場所に転生なんてしたくない。記憶もなにもいらない、俺を消してくれ、消してくれぇ……』

 そこには無口だが自信に溢れた戦闘のプロの姿はなく、頭を抱えて幼子のように恐怖に震える男の姿があった。


 ジョニーの耳の穴から脳に舌を侵入させたバンダーは、舌から神経細胞を伸ばして彼の脳をハッキングした。そして情報を取り出したのだが、その間中ずっと彼の精神を侵食し蝕んでいたのだ。

 ジョゼフやウルリカを治療したのと逆の事を彼にしたのだ。その狙いは、バンダー以外に殺された転生者……雨宮と六道のぶつかり合いの結果死んだ転生者達に、自分の恐ろしさを知らしめるためだろう。


 ジョニーのこの様子を見れば、ムラカミのようにロドコルテの言葉に乗せられる者は……。

『いえ、六道ならどうなるかわからないわね』

『たしかに……私は彼の事を冷静で頭の良い人物だと思っていたが、違ったようだ』


 本当に頭の良い人間は、歴史に名が残るような大きなことはしない。出来ないのではなく、しないのだ。

 何故なら、頭の良い人間にはそこに至るまでの困難さや危険性が分かるから。そして、それを成し遂げたとしても苦労に釣り合うものを手に入れられるかどうか分からない事も。


 取れるかも、そしてもし取ったとしても後でどうなるかも分からないのに世界を取ろうとした武将。成功するか分からない革命を唱える革命家。存在するという動かぬ証拠もないのに新大陸を目指した船長。

 六道聖もそうした人間達の一人として歴史に記されるだろう。歴史が存続すればの話だが。


『【メタモル】……『ブラックマリア』のコントロールを失いました! 制御不能です! 同じく、『ユキジョロウ』、『ボコール』、『ガブリエル』も制御不能!』

『馬鹿なっ!? 現場の【アルテミス】と【倶生神】はどうした!?』


『連絡が途絶しました!』

『くっ! やるじゃないか、雨宮。奴の近くに潜り込ませておいた【アレス】はどうした? 彼もやられたのか?』

『いえ、それが……【アレス】の反応は【アルテミス】達の反応が途切れた地点からまだ数十キロ以上離れています。雨宮達はまだ着いていません!』


『な、何だって!? では、いったい誰が……地元政府の軍の将軍はこちらの手駒だ。他の国の軍が勝手に行動を起こす事はない。

 まさか、あの化け物の仲間が他にもいるのか!?』


 そう狼狽する六道を見ながら、意外とあっさり事態は収束するかもしれないと円藤硬弥は思った。

 そんな彼の背後に、魂だけになった【アルテミス】と【倶生神】が現れた。彼は二人に色々な説明をするため、映像に向いていた意識を無理矢理引きはがした。




 雨宮寛人が【アレス】の杉浦七夜達数人のメンバーと共に、テロリストが潜んでいるという廃墟に着いた時には、全てが終わっていた。

「久しぶり」

 そう言って彼等を出迎えたのは、死んだはずの仲間……【メタモル】の獅方院真理だった。彼女は腰の後ろで腕を組み、三人の見覚えのない男女を引き連れていた。


「真、真理? 馬鹿な、君は死んだはずだ!」

「岩尾、僕も今までそう思っていたが……死体は発見されていない。目の前の彼女が幻ではない以上、本物だろう。言い表せないが、感覚で分かる。同類だと」


 驚く【タイタン】の岩尾を宥め、雨宮がそう言って真理を見据える。

 彼の言う感覚とは、ヴァンダルー以外の転生者全員がロドコルテから与えられている幸運の事だ。向かい合うと、それが打ち消し合うのが感覚的に理解できるように彼はなっていた。


「そう、信じてもらえると説明が早くて助かるわ。ちなみに、さっき久しぶりと言ったけど皆とは去年会っているのよ。ほら、ママのお祝いで」

 安堵したように微笑むと、薄汚れた軍服に使い古された様子の銃やナイフを下げている彼女はそう続けた。だが、その言葉の意味を雨宮達は咄嗟に理解できなかった。


 そして、彼女が『ブラックマリア』というコードネームを与えられた六道の実験体で、引き連れている三人の少年少女は雨宮達を殺すために配置された失敗作だと知っている【アレス】の杉浦七夜は表面上冷静さを保っていたが、内心は酷く混乱していた。


(何故こいつ等が表に、それも堂々と立っている!? 人質のガキどもに混じって、隙を突いて雨宮達を殺す手はずだったはず! 監視役のダーや切り札のはずのキャサリンはどうした!? 作戦が変更になったのか!?)


 ダー・ロンは【倶生神】のチート能力を持つ転生者だ。人の一生を見守り、閻魔大王にその功罪を報告するという倶生神。そのコードネームが表すように、彼は監視用の使い魔を対象の身体の中に宿らせ、その対象が見聞きした事や精神と肉体の状態を監視する事が出来る。

 そして六道達以外には黙っていたが、使い魔を宿らせた対象とテレパシーで意思疎通が可能で、さらに距離が近ければ肉体を操る事が出来る。


 使い魔が宿っている事を察知する事はどんな魔術師にも不可能で、また対象から分離させる事も出来ない。本体であるダーを殺すか、意識を奪うしかない。


 キャサリン・ミラーは、【アルテミス】……【必中】のチート能力を持ったこの世界で最強の狙撃者だ。彼女が投げた物、放った物は目視して狙った対象に必ず命中する。射線が通ってなかろうが、対象が撃った方向とは反対に居ようが、構わず当たる。


 ただ必ず当たるだけなので、雨宮の【防御力無視】のように当たった物が必ずダメージを与えるとは限らない。投げた物の速さや鋭さ、重さが変わる訳ではない。

 だが、スナイパーライフルで頭を狙えば雨宮相手でも必ず殺せるはずだ。


 ダーは真理達の監視と制御、そしてキャサリンは雨宮を殺すための切り札として配置されているはずだ。その二人の姿がなく……いや、作戦上姿がないのは構わないのだが、テロリスト役の傭兵達ではなく、真理達四人が姿を現し友好的に話しかけてくるのはどういう事なのか?

 作戦が変更されたのか? なら、何故連絡の一つもないのだ!?


 杉浦七夜がそう混乱している間、雨宮達も混乱していた。


「ママのお祝いって、君の母親はずっと前に……」

「そうよ。母さんはあのクズ野郎のせいで……私が言っているのは、お母さんじゃなくてママの事よ。まあ、あの時は六道の姿をしていたから分からなかったと思うけど」


「っ!? 六道の!?」

「ええ、六道の。あなた達が私の事を死んだと思い込んだ爆発事故? 殺人? まあ、細かい事は知らないけど、その後私は六道の影武者をさせられてたの。薬とマインドコントロールで。

 あの時の私、変だったでしょ? あれは、ママとバンダーのお蔭で正気を取り戻しかけていたからなの」


「君は何を言って……バンダーって、もしかしてあのバンダーの事か? あれは冥にしか見えない想像上の友達のはずだ」


「ええ、そうよ。こうして話せるのも、バンダーとママのお蔭よ。魂だけで考えて魔術を使うコツを教えてもらって、身体に埋め込まれた制御装置を死属性魔術で無効化したの。【倶生神】の使い魔もね。魔力を吸う結界を体内に張ったら、それで使い魔を消す事が出来たの。

 それで、【倶生神】を殺して、そのまま力技で強引に【アルテミス】を殺したの。あの女、私の頭に幾つ風穴を開けたと思う? 十三個よ。死んだらどうするのって感じよね」


「え、な、何でダーやキャサリンの名前が出てくるんだ?」

「それは勿論二人も六道の仲間で、あなた達を【アレス】以外皆殺しにする作戦だったからよ。それで、これから六道が死属性魔術の研究をしていた南米の――」


「【火炎砲弾】!」

 その時、真理の言葉を遮って【アレス】の杉浦が攻撃魔術を放ち、それはあっさりと命中し彼女の頭部を砕いて撒き散らした。


「杉浦!?」

「な、何をしてる!?」

 元々真理の理解させる気があるのかどうか不明な説明で混乱していた雨宮達は、咄嗟に動く事ができず杉浦の暴挙を止める事が出来なかった。今も、彼を取り囲みつつも、真理が引き連れていた正体不明の三人を無視する事もできず迷っている。


「クソっ!」

 一方、杉浦も混乱の極致にいた。自分でも今のが悪手である事は理解しているが、自分達にとって致命的な情報を知っており、それを話そうとしていた真理を止めずにはいられなかったのだ。

 そして悪手をとってしまったという自覚がさらに彼を追い詰め、自暴自棄にさせてしまう。


「こ、こうなったら俺がやるしかない!」

 雨宮と真理達が手を組んで袋叩きにされるよりは、彼等が混乱から立ち直るより前に一人でも多く殺すしかない。彼のチート能力、【威力倍増】は彼自身が放った魔術や銃火器を含めた武器の威力を倍にするという強力な能力だ。戦闘機やヘリから放つミサイルのように、彼自身が直接操作して放つ武器ではなく間に複雑な機械が入る物は能力の対象外だが、今は関係ない。


 彼が装備しているアサルトライフルやグレネード、そして習得した元々威力の高い火属性の攻撃魔術なら何とかなるはずだ。

 しかし、自棄になった頭が出したその計算結果はすぐに破綻した。


「これで彼が裏切り者だって、信じてくれたでしょう?」

 首から上がなくなったはずの真理の身体から声がしたからだ。彼女は後ろに回した手の上に乗せていた、予備の頭を首の断面に乗せ、くっつけている。


「ば、馬鹿な!?」

「これは【死亡遅延】の魔術を使っている間に、私の【メタモル】で身体の一部を変化させて代わりの頭部を作ったの。【アルテミス】を殺した時と、同じ方法よ。

 だから不死じゃないし、アンデッドでもないわ。あなた達と同じ、特別な能力を持っているだけのただの人間よ」


 言葉をなくして驚愕している杉浦と、何度目かの驚きで硬直している雨宮にそう説明する。


「ク……クソッタレがぁ!」

 今度こそ自棄になった杉浦が、【アレス】を全開にしてアサルトライフルと攻撃魔術を乱射しようとする。

 さすがに雨宮達も咄嗟に動こうとしたが、それよりも先に真理が連れて来た三人が動いた。


「その熱は許さない」

 白い髪と肌の少女、『ユキジョロウ』の限定的死属性魔術が、銃弾の火薬の爆発や火属性魔術が発する熱を零にしてしまう。

 その余波で、恐ろしい冷気が杉浦の体温を奪う。


「受胎を告知します」

 中性的で少年か少女か見た目では不明な人物、『ガブリエル』がアサルトライフルを取り落した杉浦に告知を行う。


「あなたの中で育つ生命に祝福を」

 そして、ラテン系の顔立ちをした十代後半の少年、『ボコール』が祝福を行う。それは雨宮達にとっては意味不明な行動だったが、杉浦にとっては死の宣告だった。


「うっ、や、止めろっ、俺はお前達には何もしてないじゃ……いぎぎぎがががががぎゃびゅべぇっ!?」

 突然苦しみ出した杉浦の身体を内側から食い破って、正体不明の蟲やスライム状の生物が出現する。


「これは、『アンデッド』の死属性魔術!?」

「そう。この私、『ガブリエル』が告知する事で対象の体内の微生物を異常進化させ……」

「この僕、『ボコール』がそれを促進させる成分を対象の体内で創らせる。結果はこの通り。まだ生きているけどね」


 驚愕する雨宮に、『ガブリエル』と『ボコール』が限定的死属性魔術を説明する。

 そして異常進化した大腸菌等に生きたまま喰われつつある杉浦を無視して、真理は改めて口を開いた。

「じゃあ、後何か聞きたい事はある? もしかして、もう一度説明した方が良い?」


「すまないが、頼む。君が死んだと見せかけられた時から、つまり最初から順序立てて、できるだけ分かり易くしてくれると助かる」

 雨宮の言葉に、真理は顔を顰めて答えた。


「キャサリンやダーを始末するより難しそうだけれど、努力はしてみるわ。努力は大事だってバンダーも言っていたし、ママに褒めて欲しいから」

拙作の書籍版5巻が発売しました! 書店で見かけた際には、手にとっていただけたら幸いです。




次話は四月十五日に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
真理さん、流石に3歳女児をママ呼びは犯罪臭がするでぇw
[一言] 「ママ」か… オリジンにいるからステータスシステムの適用外なだけで、既に導士の素質を開花させてそうだね、めー君
[気になる点] ママってめーくん?
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