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四度目は嫌な死属性魔術師  作者: デンスケ
第十三章 選王領&オリジン編
381/515

三百八話 増える勇者と思い悩む……

 『法命神』アルダは、自身が創りあげたダンジョンの最下層……誰もいなくなった階層に佇んでいた。

 この最下層は、眠りについたベルウッドを守るために創られた空間であるため、半ば神域と化している。そのため、神である彼も存在する事が出来た。


『……』

 いや、正確にはこの階層にはアルダ以外にも神が存在しており、アルダもただ佇んでいたのではない。

 彼は、憎々しげにその神を……ダンジョンの壁に封印された『罪鎖の悪神』ジャロディプスを睨みつけていたのだ。


『汚らわしき侵略者め……ベルウッドにいったい何を見せ、何を吹き込んだのだ?』

 自身が選んだ勇者であり、『英雄神』にまで至った、自らの勢力の最大戦力であり、象徴であり、誇りである存在。目覚めた彼と再会した時、アルダはボティンとペリアがヴィダ側についた時に覚えた失望を掻き消す程の喜びと希望に満ち溢れた。


 ベルウッドが神々を、ハインツが人間達を率い、力を結集して戦う事でヴィダ派との……ヴァンダルーとの戦いに勝つ事が出来る。多大な困難と大きな犠牲を払う事になるだろうが、それでも希望は潰えない。

 魔王グドゥラニスとその軍勢と、世界の滅亡を防ぐために戦った時のように。


 しかし、目覚めたベルウッドは以前の彼とは別人のようになっていた。

『あれだけ満ち溢れていた自信に、他者を引っ張る熱意、そしてどんな状況でも我々を奮い立たせてくれたカリスマ性……それがまるで無くなっていた。あれでは己が無力である事を悟りきり……いや、自暴自棄になった敗北者か、全てを諦めた世捨て人のようだ』


 目覚めたベルウッドは、アルダ達に自分が間違っていた事、そしてこれから自分はハインツの意思に従う、彼のただの力となる事を宣言した。

 たしかにハインツは優れた人間であり、敬虔な信者であり、間違いなく今世最大の英雄の一人だろう。五万年以上眠っていたベルウッドを目覚めさせたその偉業は、歴史に刻み永遠に称えるべきものだ。


 しかし、だからといって、ベルウッドが自身の意志を放棄して全ての判断をハインツに任せるとは、アルダには考えられなかった。

『ベルウッドは自信に満ち溢れ、自ら先頭に立つ事で皆を奮い立たせる事に優れていたが……思えば、どんな時でも自ら先頭に立ちたがることが、唯一の欠点だったのだから』


 まだこの世界に来たばかりの、未熟だった頃から、ベルウッドは皆の中心となり、周りを引っ張ろうとした。あの頃はアルダもベルウッドに苦言を呈した。だが、彼はすぐに主張に見合う実力を身に付けたため、アルダも自分が彼の実力を見誤ってしまったのだと思い、今まで忘れていた。


 だが、それが五万年前の『罪鎖の悪神』への敗北……真実が伝わった時、人々の動揺の大きさを考慮し、相打ちとして広めたが……に繋がったと考えられる。

 英雄神となったベルウッドは圧倒的な力を持っていたが、それでも英霊や、他の神々が随伴していれば、彼が『罪鎖の悪神』の神威を受ける事はなかったかもしれない。


 そう考えれば、ベルウッドの短所が一つ減ったと言えるのかもしれない。

『しかし、何故ヴィダの新種族を邪悪と断じたのか我らに語り、それは間違いだったと言うのは……いったい何故なのだ?』

 今でこそ、アルダ勢力ではステータスにランクを持たないヴィダの新種族の存続を認めているが、十万年前は全てを絶滅させる事が、この世界の秩序を守る、つまりこの世界のためだと考えていた。


 実際、今でもアルダは本音ではヴィダの新種族は例外なく、最終的には絶滅させるべきだと考えている。獣人種も吸血鬼も、巨人種も魔人族も、そして自身に祈りを捧げる者だったとしても、等しく根絶やしにしなければ、これまで犠牲になって来た者達が浮かばれない。


 順序や、その時期に対しては柔軟に対応する事もやぶさかではないが。例えば、ハインツが保護しているダンピールの少女は、寿命で死ぬのを待つとか。


 しかし、信者達はヴィダの新種族と様々な形で共存するようになってしまった。良き隣人として、都合のよい奴隷として、労働力や戦力として、国によっては為政者や戦力としてヴィダの新種族は必要とされている。


 だから、ナインロードの働きかけをきっかけに認め、ロドコルテに輪廻転生システムにランクを持たないヴィダの新種族を加えるよう、要求した。

 仕方のない事だった。ヴィダの新種族とは共存せず、戦い続けるよう人々を正しく教え、正義に導く事が出来なかった自分自身の責任だと、無力感を覚えずにはいられなかった。


 ベルウッドが最も嫌うはずの、理想への妥協をしてしまったと。

 だが、そのベルウッド本人がその事を知っても、何も言おうとしない。いや、反応すらしなかった。


『あれでは、主体性を失った、自失したまま動いているだけの状態ではないか。ジャロディプス! 貴様は、ベルウッドにいったい何をしたのだ!?』

 再び込み上げてきた怒りと苛立ちのままに怒鳴るが、ジャロディプスは当然答えない。完全に封印されているのだから、アルダがどれ程怒鳴りつけても、その声すら届かない。


 いや、封印されていなくてもジャロディプスがアルダの問いに、素直に答えたとは限らないが。

(【法の杭】を打つ度に、悲鳴ではなく高笑いをあげるような狂った神だ。苛立ちをぶつけても、虚しいだけか)

 実際には、ジャロディプスは狂っていた訳ではない。『ラムダ』世界の神々にしか効果がない【法の杭】を打たれる……つまり、アルダ自身の神威によって『ラムダ』の神の一員であると証明されている事が滑稽だから嗤っていたのだ。


 しかし、アルダはそれに思い至る事はなく、身を翻して、ジャロディプスが封じられた壁に背を向けた。

『ベルウッドは、まだ精神的な傷が癒えていないのだ。ハインツの身体に降り、新たな魔王であるヴァンダルーを倒す事によって、かつての自分を取り戻すに違いない。

 そのためにも、ハインツに何故我等がヴィダの新種族を認めなかったのか、説明しなければならないが……』


 今、ベルウッドが全ての判断を委ねているハインツを教え導く事こそが、ベルウッドが自分を取り戻す事へ繋がるはずだ。

 しかし、輪廻転生システムについてどう説明するかが難題だった。輪廻転生については、人間に教えてはならないと、アルダ自身が定めていたからだ。


 これは魔王グドゥラニスがこの世界に現れる前、全ての大神で決めた事だ。

 何故人間の知識を制限するのか。それは、知識を得た人間はその知識を活かして、人のまま神の業を使えるまでに至ってしまうからだ。

 それまでに何百年、何千年という膨大な時間が必要になったとしても、いつか達してしまう。


 もっとも、既に知識を与えられるまでもなく、ヴァンダルーがその段階に至ってしまっているのだが。

『さて……』

 ハインツにどう説明するか思案しながら、アルダは一旦神域に戻るためにダンジョンから姿を消した。

 ダンジョンには、ジャロディプスの影だけが残され、鎖の音がなくなった階層は沈黙に包まれた。




 魔王の大陸にヴァンダルーが創りあげた、まだ名前の無いS級ダンジョン。そこには、ヴィダル魔帝国が誇る精鋭が集まっていた。

 『剣王』ボークスに、『魔法少女』ザディリス、『癒しの聖女』ジーナ、『小さき天才』ザンディア、『巨人断ち』バスディア、骨人、『死斧王』ヴィガロ、『蝕帝の忠犬』エレオノーラ、『蝕帝の猟犬』アイラ。


 そして、最後尾にダンジョンの制作責任者のヴァンダルー。今回は、ダンジョンの難易度を確認するのが目的なので、非常事態以外では彼は戦闘に参加しない予定だ。


 総力を結集すれば、同じ数の亜神にすら勝ってみせる彼等の顔には、一様に緊張が浮かんでいた。

『ぢゅ、もしかしてこの中で二つ名が無いのは私だけ……?』

『まずは変身しとけ! 五階層の中ボスまで一気に駆け抜けるぞ!』

「うむ、時間との勝負じゃからな」


 ボークス達は変身装具を発動し、そのまま駆け出しダンジョンに入った。その途端、背後から重い音が響く。

「今のは?」

『このダンジョンは、合計十人以上入ると入り口が閉まっちまうんだ。勿論、外の魔物も込みで』

『閉まるって言っても、内側からは開くから閉じ込められた訳じゃないけど、普通なら援軍や救援を呼ぶのは無理ってこと』


 ヴァンダルーの質問に、ジーナとザンディアが答える。その間にも、一行はダンジョンの中を進んで行く。

 階層は、どれも造り自体はシンプルだった。草原、森、氷原、光が全くない闇夜。環境的な厳しさはあるが、それはB級以上のダンジョンでは珍しくもなんともない。それに、ダンジョンの外の魔王の大陸の自然の方が、余程過酷だ。


 それに、『ザッカートの試練』のような謎かけも設定されていない。

 出現する魔物はどれもランク10の大物ばかりだが、それぐらいならA級ダンジョンでも出現する。


 今のところは、S級ダンジョンとして考えるなら難易度は低すぎるぐらいだ。実際、ボークス達は特に苦戦する事もなく、一方的に魔物を倒して進んで行く。

 だが、そんな感想は五階層の中ボスが出現する部屋を見た瞬間、掻き消えた。


「グオオオオオオオオオオオ!」

 正面に、ランク14相当の魔物……炎と冷気、そして電撃と首毎に異なる属性の魔力を発しているドラゴン、仮名トリプルヘッドドラゴンキング。


『『ウオオオオオオオン!』』

 その左右には、ランク12相当のアダマンタイトのジャイアントゴーレムナイトや、魔素に汚染された魔力の塊である狂える精霊王、砦すら噛み砕く海の暴食王、ギガントフライングシャーク。


『…………!』

 それらの後衛には、女性の頭部に獅子の身体を持つ魔物、ランク13相当の仮名、スフィンクスウィザードエンプレスが呪文を唱えている。


 ちなみに、名前の前に仮名とついているのは、魔王の大陸で発見されたためまだ正式な名称が定められていない魔物だからである。


「……ここって、中ボスの部屋ですよね?」

「ああ、その通りなんだが……どうやら、侵入者を何らかの方法で感知したダンジョンボスや、もっと下の階層にいるはずの中ボスが、階段を上って集合して、パーティーを組むようだ」

『それを防ぐために、急いでたんだが……間に合わなかったみたいだな』


 ヴァンダルーの質問にヴィガロとボークスが、苦々しげに答える。それで、ヴァンダルーは自身が作ったダンジョンの感想が、「バグってる」だった意味が分かった。


「間に合わなかった以上、仕方がない! 母さん、ザンディア、援護を!」

「おう! 何としても、あの女帝気取りのスフィンクスを倒すのじゃ!」

『ザディリス、それはちょっと私怨入ってない?』


 バスディア達は雄々しく戦った。数では彼女達の方が上で、身体の大きさはともかく強さも互角以上。そして、ヴァンダルーは直接戦闘には加わらないが、近くにいるだけで【従群超強化】等のスキルが発動し、能力値が強化される。


 しかし、ダンジョンボス達も仲間同士上手く連携し、簡単にはやられない。本来なら同じ戦場にいれば、お互いに殺し合ってもおかしくない。知能は高くても仲間意識は存在せず、狂える精霊王に至っては小指の爪の先ほどの理性すらもたない。

 それなのに、高度なチームプレイで最後まで粘り強く戦い抜いた。


 致命傷を負うと、まだ傷の浅い仲間を守るために我が身を盾にしたり、かと思うと特攻を仕掛けてきてそのまま自爆したり、魔物とは思えない戦法を実行してきた。

 そうした激戦の後、ヴァンダルーは魔物の残骸から素材を回収するのを手伝いながら言った。


「なるほど、これは確かに難易度がバグってますね」

 中ボスの部屋に他の中ボスやダンジョンボスが集まり、待ち構えているのもそうだが、熟練のチームプレイ以上の連携に、我が身を厭わぬ自己犠牲まで発揮する戦法を取るのも異常だ。


 普通の冒険者パーティーなら、対応できずに負けてしまっていただろう。

「そうでしょう。それで、最初はヴァン様のダンジョンの魔物に、魔王の大陸の魔物の魂が勝手に入っておかしくなったんじゃないかって話していたのだけど、どう?」

 エレオノーラがゴーレムの残骸から魔石を発掘しながら、そう尋ねる。ヴァンダルーは、辺りを見回してから、彼女に向かって首を横に振った。


「いえ、あの魔物に魂は宿っていませんでした。……まあ、魔素に汚染された魔力の塊である狂った精霊や自然発生したゴーレムには、魂は無いのが普通ですけど」

 中ボスの部屋には、ヴァンダルーが連れて来た霊だけで新たに発生した魔物の霊の姿はなかった。


 霊達がヴァンダルーに気がつかれる前に、輪廻の輪に還ったと言う事はないだろう。死んだ瞬間は殆どの場合、無防備なのだから。

『なるほど。魂が無いなら、逆に納得できるわ』

 アイラがそう言いながら、ヴァンダルーの近くにやってくる。


『ダンジョンで精製されただけで、同じ群れでもなんでもない別種の魔物同士なのに、あれだけの連携と自己犠牲を発揮できるなんて、自我や本能があったらまず不可能よ』

「人形のような状態だからこそ、と言う事ね。でも、何故その人形にそんな事が出来るのかしら?」

 エレオノーラがアイラに同意しながら、彼女よりもヴァンダルーに近寄ろうとする。


 そんな二人に加わるように、ヴァンダルーの背後にグファドガーンが出現する。彼女は空間の歪みの中に潜む事で、ダンジョンの人数制限をすり抜ける事に成功したのだ。

「おそらく、ヴァンダルーがこのダンジョンを創造する際に込めた思念、『難易度の高いダンジョンであれ』という要求が、ダンジョンで発生する魔物達への不可逆な命令として機能しているのではないかと。

 魂を持たぬ人形に、発生した瞬間から絶対の命令に従わせるとは……さすが、偉大なるヴァンダルー」


 無表情のままなので分かり難いが、彼女をよく知るものには陶酔を瞳に浮かべている事が見て取れる。グファドガーンがそうしてヴァンダルーを称えていると、その彼から生えるようにして、銀髪で片目が蛇のように縦長の瞳をした女性執事が現れた。

「しかし、既にダンジョンボスを倒した今、このダンジョンは将のいない砦も同然なのでは?」

「確かに、今は他の中ボスやボス部屋はもぬけの空でしょうけど……それよりあなた、何処にいたの?」

『ヴァンダルー様の影の中にいたのか?』


「影の中に近いですが、正確には旦那様の【体内世界】の一つで待機しておりました」

 ヴァンダルーが【クリフォト】に就いた事で獲得した【体内世界】スキルの効果、それは文字通り体内に世界と評する程ではないが、特殊な十の空間を持つ事が出来るようになるというものだった。


 一つ一つの空間の広さはモークシーの町の数倍の広さがあり、空間内部では外と同じように活動する事が可能。内部の用途も、ヴァンダルーの意思で決定できる。

 もっとも、今のところは十の内三つしか使っていないが。


「一つは私達には立ち入り禁止となっているので分かりませんが……後は使い魔王をストックするための空間と私達が待機するための空間にしてくださいました。

 出入りは【装影群術】と同じように旦那様の影からとなるので、見た目は変わりませんが」


『俺は、空間属性魔術は使えませんからね。残りの七つの用途は、現在検討中ですが、一つはもしもの時の避難所にしようかなと思っています』

「随分変わったスキルを獲得したな。しかし、避難所と言う事は、もしもの時は国ごとヴァンの中に避難する事も出来るのか」


『なるほどね。国とは民なのだって、昔の賢い王様は言っていたらしいけど、陛下君の場合は国とは陛下君なのだって感じになるんだね』

『使い魔王がいっぱいいる空間! 興味あるなー、使い魔王って結構可愛いのが多いから』

 ザンディアはヴァンダルーの体内の、あらゆる物がヴァンダルー、つまり【魔王の欠片】で出来ている漆黒のヴァンダルー王国を思い浮かべたが、ジーナは多種多様な異形の使い魔王で埋め尽くされている空間を思い浮かべていた。


「たしかに……と頷くと、ルチリアーノに、その感性はうちでしか通じないとかなんとか言われるのじゃろうな」

『おーい、そろそろ先にいかねぇか? あと、坊主って、ちゃんとお前等の間にいるんだよな?』

「先程から、ヴァンダルーの肉声が全く聞こえないぞ」

 ワイワイと雑談に興じる女性陣に、残った右半分の顔を半眼にしたボークスと、ヴィガロが声をかけた。


 ちなみに、ヴァンダルーにもその声は聞こえていたが……女性陣の中央で圧迫されていたので声を出せず、念話で『呼吸は出来ているので、大丈夫です』と返事をしていた。


「そんなに急がなくても良いのでは? ダンジョンボスはもう倒してしまったのですから」

 ダンジョン内の魔物は、中ボスやボスも含めて倒されても再び発生する。しかし、それまでには時間がかかるのだ。再び発生するまでの時間は、弱い魔物程短く、強い魔物程長い。ダンジョンボスとなれば、E級ダンジョンのボスでもなければ、一度倒せば数日間は発生しない。


 S級ダンジョンなら、数か月以上そのままでもおかしくはない。

 だから、ベルモンドの意見も普通なら尤もなのだが……。


『ヂュオォ、いいえ、油断は出来ないのです』

『ああ、骨人の言う通りだ。このダンジョンはな、中ボスもダンジョンボスも半日くらいで復活しやがるんだ』

「魔王の大陸の魔素が濃すぎるからか、それともやはりヴァンダルーが込めた魔力が膨大だったからか、定かではないがこのダンジョンはやはり特別らしい」


 しかし、やはりこのバグっているダンジョンは例外だったようだ。

「しかも、それを他のダンジョンの魔物も分かっているのか、ボスが復活するまでの時間を稼ぐため、我達の足止めをするために立ちはだかるのだ」

『耐久力に優れた魔物が徒党を組んで壁となり、遠距離攻撃が得意な魔物は遠くから攻撃しては逃亡するヒット&アウェイを繰り返す……』


『ともかく、今の内に出来るだけ急いで奥まで行かなきゃならねぇ。中途半端に時間をかけると、復活したボスと中ボスが、上下の階層から殺到して挟み撃ちにされるからな』

 口々にそう語るヴィガロに骨人、ボークスの言葉を聞いて、ヴァンダルーは自分が創ったダンジョンが、『ザッカートの試練』とは方向性は異なるが、難易度が高すぎると思い知った。


 しかし――。

『じゃあ、今回はこれで帰りましょうか。ダンジョンボスまで倒せた事を考えれば、間引きは十分でしょう』

 ダンジョンの攻略ではなく、魔物の間引きという点で考えれば既に十分な成果が出ている。ボスの復活が早いので、ダンジョンが暴走するまでの時間も通常より短いだろうが……その分、魔王の大陸の魔素を消費しているはずだ。


 そう考えると、百階層近い階層を最下層まで進み、ダンジョンボスを倒す手間をかけなくて良い分、手軽なダンジョンなのかもしれない。……攻略者側に相応の実力と数がなければ、すぐに圧殺されてしまうが。


『まあ、そうするか。復活した中ボスに追われながら、ダンジョンを攻略するのもスリルがあって面白れぇが、総力戦も中々楽しめたしな』

 ボークスもそう同意したので、今回は五階で攻略を中断して帰還したのだった。




 まだ名無しのS級ダンジョンから帰ったヴァンダルーは、ヴィガロとバスディアから相談を受けていた。

「最近、ザディリスの様子がおかしい」

「このところ、ジョブチェンジ部屋の前で行ったり来たりを繰り返し、かと思えば何かを呟きながら座り込んだりする事が多くなった。おそらく、またジョブチェンジ可能なジョブ候補が、姫とつくものしか出ないからだと思うが……」


「そこまで分かっているのなら、もう解決するのではないでしょうか?」

 ジョブと種族が姫ばかりである事に悩み、現状を打破しようと足掻く、グールの最長老ザディリス、三百歳。

 ヴァンダルーとしては、別に姫でもいいのではないかと思うが、彼女にとっては重大かつ諦め難い問題であるらしい。


「まあ、俺も彼女の気持ちは分からない訳ではありません。きっと、マッチョになりたくてもなれなかった時の、俺と同じなのでしょう」

 どんなに筋トレをしても、全く太くならない腕。どれだけ食べても、肋骨が浮き出そうな胸部。背筋や腹筋を繰り返しても、角や節足は生えても、一向に筋肉が盛り上がったり割れたりしない肉体。


 これは努力や食生活でどうにかできる問題ではなく、生まれついての限界ではないか。そう、頭のどこかでは考えつつも、諦める事は出来なかった。【魔王の筋肉】を獲得するまでは。

「いや、それとはちょっと違うような気がする。解決方法も含めて」

「……そうですか」

 しかし、バスディアにあっさり否定されて、肩を落とすヴァンダルー。


「ともかく、新しいジョブを出すためだけに、変な事をし出す前に、諦めさせてジョブチェンジをさせたい」

 ジョブチェンジ可能なジョブは、常に新しいものが出続けるとは限らない。ジョブのレベルが百に到達しても、スキルのレベルが低いままで、新しいジョブが出現する条件を満たせなかった場合は、何も出ない事もある。


 そこで、新しい武術や魔術等のスキルの獲得を目指して、それまでとは異なるジョブを出そうと試みる者は多い。

 この世界では新しいジョブに就かないと、能力値の成長やスキル補正の面で不利になる。だから、当初の希望とは異なっても、とにかくジョブに就こうとするのだ。


 一説には、そうした試みの結果、魔術と剣や詩を同時に扱う【魔術騎士】や【吟遊魔術師】、【格闘術】に優れた【盗賊】の【闘賊】等のジョブが発見されたとされている。


「……まあ、変な事といっても、ザディリスなら大丈夫だと思いますが、ちょっと声をかけてきましょうか」

「ヴァァァァン!」

 ヴァンダルーが頷いて、今頃ザディリスが奇行を繰り返しているだろうジョブチェンジ部屋に向かおうとしたら、そこにカナコが駆け込んで来た。


「聞いてくださいよ、ヴァン! あたし、『勇者』になりました!」

「おー、それは凄いですねー」

 駆け込んで来た勢いそのままに、ヴァンダルーを持ち上げて、クルクル回るカナコ。余程、『勇者』の二つ名を獲得したのが、嬉しいらしい。


「カナコも『勇者』になったのか! 凄いな!」

「ああ、全くだ! 今度手合せしてくれ!」

 この世界の『勇者』とは、ザッカートやヒルウィロウのように異世界から来た存在で、相応しいものに与えられる二つ名だ。シュナイダーやランドルフ等、この世界で生まれた英雄がどれだけ望んでも手に入れる事は出来ない。


 だからこそ、ヴァンダルーと同じ転生者であり、導士にまで至り、最近ツチヤという彼女の名前繋がりか、【ボティンの加護】まで得たカナコが、『勇者』になる事を不思議とは思わない。その喜びようにも、バスディア達は驚かなかった。


「これで、ヴィダル魔帝国やガルトランドでの新しい話題が出来ました! ヴァン、あたしの変身装具のデザインの改良をお願いします! 勇者っぽく!

 あとヴィガロさん、手合せは遠慮します!」


 しかし、カナコは名誉とかそうしたことは、あまり感じていなかった。いや、正確には考えてはいるが……それを自身の芸能活動にどう活かすかの方が、彼女にとっては重要である。

「ですよねー」

 ヴァンダルーもそれは分かっているので、彼女の新コスチュームを考えている。


(カナコの事なので、性能はそのままでいいから、デザインを変えて欲しいと言うでしょうが……俺はデザイナーではないですからね。性能も上げなければ)

 見かけだけの改良では、『変身装具の守護聖人』の名に関わる。そのため、必ず性能は向上させようと考えていた。


 ……ディアナの変身装具も製作中なので、手が足りないかも知れない。いっそ、残り七つの【体内世界】の空間の内一つを、変身装具工房にしてしまおうか? そんな事を考えた。


「ところで、何か相談していたみたいですけど?」

「ええ。実は、ザディリスがジョブの事で思い悩んでいるようです」

「それはいつもの事のような気がしますが……そうですね、思い当たる事があります」


 そう言うと、カナコは数日前、ザディリスの様子が変だった事を語りだした。何か思いつめたような表情で、カナコに何らかの相談を持ちかけようとし、結局何も言わないまま立ち去ったらしい。


「ウザがられるまで引き止めて聞き出そうとしましたけど、話してくれなかったんですよねー」

「母さんがカナコに……ステージの事ではないだろうし、気になるな」

「思っていたよりも、深く思い悩んでいるようですね。では、話を聞きに行きましょうか」


 ザディリスが自分から打ち明けてくれるまで、待とう。そんな事は考えず、積極的に悩みを聞きに行く一同だった。




―――――――――――――――――――――――――




・名前:カナコ・ツチヤ

・種族:カオスエルフ

・年齢:3歳(外見年齢15歳程)

・二つ名:【転生者】 【魔法少女】 【伝道者】 【勇者】(NEW!)

・ジョブ:マジカルシンガー

・レベル:75

・ジョブ履歴:見習い盗賊、魔術師、弓術士、盗賊、土属性魔術師、花火師、魔法少女、マジカルアイドル、マジカルダンサー 芸導士



・パッシブスキル

闇視

精神汚染:2Lv

直感:8Lv(UP!)

死属性耐性:6Lv(UP!)

敏捷強化:6Lv(UP!)

気配感知:6Lv(UP!)

弓装備時攻撃力強化:大(UP!)

高速再生:4Lv(UP!)

怪力:3Lv(UP!)

魔術耐性:4Lv(UP!)

色香:5Lv(UP!)

自己強化:祖:7Lv(UP!)

自己強化:導き:6Lv(UP!)

自己強化:変身:5Lv(UP!)

導き:芸道:3Lv(UP!)

芸道誘引:3Lv(UP!)


・アクティブスキル

土属性魔術:10Lv(UP!)

水属性魔術:10Lv(UP!)

生命属性魔術:9Lv(UP!)

魔術制御:9Lv(UP!)

歌唱:10Lv(UP!)

舞踏:10Lv(UP!)

短剣術:5Lv

格闘術:5Lv

弓術:6Lv

忍び足:5Lv

鍵開け:3Lv

罠:3Lv

投擲術:3Lv

調合:3Lv

砲術:1Lv

花火作成:3Lv

限界突破:5Lv(UP!)

御使い降魔:4Lv(UP!)

歌詠唱:2Lv(NEW!)


・ユニークスキル

ヴィーナス:10Lv

混沌

ディアナの加護

ヴァンダルーの加護

ボティンの加護(NEW!)




●ジョブ解説:芸導士 ルチリアーノ著


 恐らく、芸術、若しくは芸能によって……特にカナコ君の場合は、音楽やダンスによって及ぼす影響によって他者を導くジョブであると思われる。

 歌いながら呪文を詠唱する【歌詠唱】というスキルを独自に獲得しているが、これはジョブによるものというより、彼女の高い歌唱能力と魔術の技量が合わさったものだろう。


 元々いた世界では役者志望だったヒルウィロウに近い導きかもしれないが……残っている記録によると、かの勇者は異世界の芸や文化について書き残していても、直接芸で人を導いてはいないらしい。やはり、魔王軍との激しい戦いの際中に、本格的な芸能活動を行う事は出来なかったのだろう。


 もしくは、ヒルウィロウが役者の卵でしかなかった事に対して、異世界でアイドルとして本格的な活動を行い、【ヴィーナス】という、他者の記憶をコピーする事が出来る能力によって、芸能関係の知識を多く吸収していたカナコ君は、この世界に異世界の芸能を持ちこむ事が可能だった。それが影響していたのかもしれない。


 まあ、師匠と違ってカナコ君は既存のジョブに就けない訳ではないし、この世界にも過去に同じ【芸導士】が出現していた可能性はあるが。ただ単に、忘れ去られているだけで。

次話は3月10日に投稿する予定です。


すみません、昼過ぎの投稿になりそうです。

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― 新着の感想 ―
前世で自称勇者(ブレイバー)に半強制的に仲間にされたあと裏切ったというか離脱した子が他者から認められて勇者になったのは皮肉が効いてていい
朕は国家(物理)なりwww
ザディリス、選択可能ジョブに遂に「アレ」が出ちゃったのね…www
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